PandoraPartyProject

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竜宮のプリンセス

 ここは、ダガヌ海域と豊穣の境目。豊穣からは近くて遠い。そんな狭間の海。
 その海の底の底、加護の導きに従ってしか到達できない、深海の聖域。
 ネオンサインのような光と、キラキラと輝くコインが飛び交う、『深海で最も暖かい場所』。それが今の竜宮と呼ばれる、隠し里だった。
 竜宮の最奥に存在する、竜宮城。その玉座では、ウミウシのような謎生物、ニューディの頭を優しく撫でながら、愁いを帯びた顔を見せる少女――乙姫たるメーア・ディーネーの姿があった。
 姉が――マール・ディーネーが消えて数日が立つ。
 竜宮城は確かに危機的状況だった。一度は撃退したものの、深怪魔(ディープ・テラーズ)たちの襲撃を許し、神器たる『玉匣(たまくしげ)』に攻撃を受けるに至った。
 もちろん、玉匣がその程度で効力を失うわけではない。力の欠片は竜宮幣(ドラグチップ)となりてあたりに散らばった。それを集め直せば、再び力をとりも出すだろう。
 だが、問題はある。竜宮の民が、竜宮から外に出ることが非常に難しくなっていたことだ。それはもちろん、復活した深怪魔たちが付近の海をほぼ制圧してしまったことが理由である。
 竜宮を守る直掩の部隊を、外にやることはできない。が、外部に派遣するほどの兵力などは、竜宮には存在しない。
 個々に戦力となる人物は確かに存在するが、それを結集したとて、竜宮を守るのが精いっぱいだ。外に竜宮幣の探索に向けるだけの数は存在しない。
 よって――竜宮は事態の解決方法は知っていこそすれ、それを実行するだけの力を持ち合わせていなかったのである。
「なら、あたしがなんとかする!」
 そういって、止める間もなく飛び出していった姉の姿を思い出す。その後を追っていった、クリメニアのことも。そのどちらとも、連絡が取れない。深怪魔にやられてしまったのか。或いは、外を荒らしている海賊、海乱鬼衆(かいらぎしゅう)に捕らえられてしまったのか……。
 悲しい想像はいくつも浮かべど、それを表に出すわけにはいかなかった。メーアは、乙姫であり、竜宮のシンボルである。彼女の混乱は、すなわち竜宮の混乱に直結するのだ。
「お姉ちゃん……クリメニアも……」
 小さく呟く。或いはそれもまた、「姉に、そして同じ竜宮に住まう仲間に無事でいて欲しい」というささやかな欲望なのかもしれない。ニューディはそんな欲望を、すぅ、と吸い込んだ。心が落ち着く。考えなくてはならない。何をすべきか――自分は女王なのだから。
「竜宮幣が、一か所に集まってる感覚はあります。きっと、マールか、クリメニアがやってくれたはずです……」
 呟いてみれば、考えがまとまる。こうなっては、マールとクリメニアを信用するしかないのだ。彼女たちがどうにか、協力者に協力をこぎつけ、救援にやってくる……それは願望にも近いものであったが、しかし今考えうる最も現実的な未来予測でもあった。
「それなら、わたしがやるべきなのは、玉匣に竜宮幣のエネルギーを注ぐ儀式、ですね」
 方針は決まった。今からでも、それを準備しなければならない。
 ……だが、状況はより、残酷な方へと転がっていた。
「乙姫様!」
 だん、と扉が開く。メーアは冷静さを装って、答えた。
「どうしましたか?」
 入り口から入ってきたのは、おつきの竜宮嬢である。真剣な
表情は、最悪を予見させた。
「ふ、深き魔たちです! 深き魔たちが、再侵攻を……!」
 深き魔、とは、竜宮の民が深怪魔を指して言う言葉である。メーアは胸中で泣きそうな気持になった。どうやら、海の悪魔の封印がいっこうに解けないことに気づき、深怪魔たちは再侵攻を企てたのだろう……。
「落ち着いてください」
 それは、彼女に言うように、或いは自分を落ち着かせるように、言った言葉だった。
「いま、複数の竜宮幣が、竜宮へと近づいて生きている痕跡を感じます」
「じゃあ、マールとクリメニアが……!?」
「おそらくそうです。わたしがやるべきことは、玉匣の修復。マールたちが戻り次第、竜宮幣の力を利用し、竜宮周辺に再度結界を張り直します」
「そうすれば、しばらくは竜宮も落ち着きますね」
「ええ。その後改めて、残りの竜宮幣を集めて、海の悪魔を封印すればよいのです。
 わたしはこれから、神域の玉匣の修復にうつります。マールが戻り次第、案内させてください。
 それまで、街は戦えるもの達で、守ってください」
 冷静にそういうメーア。怖くてしょうがなかった。自分の命令で、誰かが死ぬかもしれないことも、自分の判断が間違っていて、最悪の事態を招くかもしれないことも。
 ニューディ、どうかわたしの弱気をたべて。欲望だけじゃなくて、そうしてくれたらいいのに。
 胸中で泣き言を言いながら、それでもメーアは、それを表に出さないように柔らかく笑った。
「大丈夫です、マールもクリメニアも、しっかりやってくれるはずです。
 もう少しだけ、耐えましょう」
 その言葉に、竜宮嬢は頷き、すぐに命令を伝達すべく立ち去っていった。
 もう少しだけ、耐えましょう。
 その言葉が、メーアの心に渦巻いていた。
 あとすこし。あとすこし。お勤めの間だけ。
 何度も聞いた言葉。言い聞かせた言葉。
 いつまでわたしは、乙姫で居ないといけないんだろう。
 答えの出ないその言葉を飲み込みながら、メーアは聖域へと向かう――。

※マール・ディーネーの導きにより、竜宮城へ向かいます!
※ですが、竜宮城は敵に襲撃されているようです……救援に向かってください!

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