PandoraPartyProject

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蒼薔薇を愛でる

「……全然、捕まりませんね」
 渋面のヨル・ケイオスは報告書を片手に小さな溜息を吐いてみせた。
 アーベントロート動乱――リーゼロッテ・アーベントロートの当主代行解任から始まった一連の事件は発生からそれなりの時間が経っていた。
 当主ヨアヒム・アーベントロートによる命は言わずと知れたリーゼロッテの確保である。
 そこに『Dead or Alive』の但し書きがついたのは如何にも『薔薇的』ではあるが、さて置いて。
 ヨルの言葉の通り、これまでアーベントロート本家はその目的を達成していない。
 幻想虎の子の諜報機関をフルに稼働してるにも関わらず、リーゼロッテは粘り強い逃走を続けていた。
「予定通りですか?」
「予定通りだとも」
 尋ねたヨルにヨアヒムは厭らしい笑みを見せた。
「あれは不出来なれど、我がアーベントロートの係累ぞ?
 幾ら薔薇十字が相手でも――そう簡単に捕まって貰っては『困る』。
 まぁ、以前のアレであらば……クリスチアンめも動けぬ今。
 もうそろそろ折れる頃合かと思っておったがな」
「……友情の力ってヤツなんですかねえ」
 ヨルの言葉をヨアヒムは「フッフッ!」と笑い飛ばした。
 兵からの報告では相変わらずリーゼロッテは南下を狙っているらしい。
 執拗に王都を目指すのはまさか父(ヨアヒム)の顔を見たいからではないだろう。
 諜報機関でなくともリーゼロッテの狙い等分からない筈はない。元より北部の勢力圏で彼女の味方をしよう等という奇特な――或いは勇気のある人間はクリスチアン位だったのだ。彼があてにならないとならば、彼女が縋れそうな実力者等、精々が政治的中立を気取るローレットの連中位しか居ないだろう。
「強攻は不要ですかね? 随分とお嬢様も『削った』と思うのですが」
 ヨアヒムはこれまで薔薇十字機関に執拗な『追跡』を命じていた。
 リーゼロッテを休ませず、長い逃避行の中でその余力をそぎ落とすように追い詰め続けている。
 仕上げに向かうならば、『お嬢様』が疲労困憊になったこの辺りというのがヨルの読みであった。
「戯けめ。何度も言わせよる。『あれは我がアーベントロートの係累』だと言ったであろうが」
「……と、申しますと」
「如何な手負いでも雑兵如きにどうにかなるものかよ。
 アレを仕留めるならば『主力』が必要である。だが、それを動かせば勘の良さで逃げられよう」
「……うーん、評価が低いんだか高いんだか」
「であらば、どうすればいいと思うね?」
「罠を張る、とか」
「妥当な結論であるな。
 弱らせたのは戦力を削る意味もあるが――どちらかと言えば判断を鈍らせる為のこと。
 希望を見せ、アレを釣り出し、『最大の絶望と共に仕留め切る』。
 筋書きとしてはこれ以上はないのではないかね?」
 満面の笑みを見せたヨアヒムはまるで娘を慈しむかのように言う。
(……嫌な父の愛だなあ……)
 ドン引いたヨルは「本当にこの人は分かっているのだろうか」と内心だけで苦笑した。
(私、お嬢様のことかなり好きなんですけどね――)
 そう考えてから思い直した。
 それはそうだ。分かっていてやるから、この人は性格が最悪なのだと。

※アーベントロートの政争の余波が幻想各所に広がっている模様です……


 ※アーカーシュ完全攻略のため、鋼の進撃(Stahl Eroberung)作戦が開始されました。
 ※突如、特務派の軍人達がイレギュラーズへ攻撃を始めました。
 ※特務派の軍人達も、状況に納得出来ていないようです……。

これまでの覇竜編深緑編シレンツィオ編

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