PandoraPartyProject

PandoraPartyProject

特務大佐の怒り

「いいかねユルグ君、この遺跡は魔王軍によって兵器として奪取された――アカシアに残る最後の枝だ」
 特務大佐パトリック・アネルが、部下の軍人に担ぎ上げられたユルグへ語りかける。
 ここは浮遊島アーカーシュの遺跡深部――『ショコラ・ドングリス遺跡』の中枢近くであった。
「魔王さえ手に入れようとした古代アーカーシュ人、最後の遺跡。都市であり兵器でもある」

 レリッカ村長アンフォフテーレ・パフを軍人に無理矢理復帰させ、地上勤務を命じて村から排除したパトリックは彼の家を家捜しさせていた。見つかったのは『レリックガイド』から入手したとされる遺跡中枢に関する古い資料だ。村長が『あまりに危険だから』と隠していたものである。
 その資料を片手に、パトリックはここへ踏み込んだという訳だ。
「ユルグ君、君はこれから新時代の『魔王』となる」
 目を見開いたユルグは、軍人に抱えられたまま涙をこぼし身体をよじるが、ダクトテープを巻かれ口に布を噛まされているから、身動きをとることも声を上げることも出来なかった。
「何を恐れているのか知らないが、私は君の味方だよ。君は祖先の呪い『メタロトン・キー』を引き継がされているね。その権限を帝国に譲り渡せば、君は安全に解放されるのだから安心したまえ」
「こんぶ……」
 一行は足を進め、その後ろをパトリックに懐いている、おかしなゴーレムがついて行く。

「ここだな? いいぞ、いいぞ」
 遺跡内は不思議な立方体が浮遊しており、一行はその一つに乗って深部へ移動している。
「しかし鉄帝国というものは、情けない国と思わんかね。イレギュラーズを頼らずして何も成し得ず、幻想王国とは膠着のまま、南の島の開発に現を抜かしている。食料問題への寄与は結構だ。だがたかが兵器利用の算段すらも思いつかんというのかね」

 ――システム認証、有資格者メタトロン・キーを確認。解錠。

 立方体で構成された壁からブロックが一つはずれ、奥への道が続き、そして石版を戴く広間に出た。
「だがお陰様で私は、この兵器を誰にも知られないまま国家へ献上することが出来る。出世街道とはこうでなくてはならん。それに武器があれば国とてようやく目覚めるとだろうからね。この国はより強く、より逞しくなければならん。だがそれが今やどうだ。何ヶ月、戦っていない。前代未聞ではないかね、こんな為体は!」

 ――システム認証、有資格者メタトロン・キーを確認。コンソールを解放。

 パトリックは幻影のように浮かぶコンソールに指を這わせた。
「読める、読めるぞ……」

 ――システム認証、ユルグ・メッサーシュミットを最高権限者(アドミニストレーター)に登録。

 突如、頭を抑えながらうずくまったパトリックが、血走った目で顔をあげた。
 そして何かへ応えたように呟く。
「ああ。そうか、頼れないなら、私がやればいい――ということか」

 ――システム認証、パトリック・アネルをレビカナン住人に登録。現在の住人数、二名。

 それから最後に。

 ――システム認証、パトリック・アネルに最高権限者(アドミニストレーター)を委譲。

「は、ははは――!」
 パトリックが哄笑をあげる。
 彼は強引な手腕で物事を推し進める悪癖があった。
 だが彼は嫌われ者だが、頑張り屋の働き者だったはずだ。
 元来は冷静な軍人であり、その性質は合理的だったはずだ。
 無私の人ではないが、国益を最優先する人物だったはずだ。
 けれどここ最近に限っては、彼の行動は明らかに異常であった。
 なにより冷静でもなければ合理的でもない。
 彼に満ちた気配は激しい『怒り』だ。いつものにやけ面でこそあるが、どこか苛立ちに彩られたパトリックの面持ちは、彼を彼で無くしてしまったかのようにも見える。
 まるで何かが彼に語りかけ、何かが彼を壊してしまったような――
「ユルグ君、これで君は用なしだ。一度橋頭堡へ戻る、付いてきたまえ」
 辺りを見張っていた部下を引き連れ、パトリックが遺跡から引き上げる。
「お忙しい歯車卿閣下には、特務の単独行動を認可して頂こうじゃあないか」
 縛られたままの少年は芋虫のようにもがき、けれどまるではじめから少年など居なかったかのように無視され、ただ一人そこにぽつんと取り残された。
「大佐、あのままでよろしかったので?」
「立場をわきまえたまえ、誰が君の意見を許したというのだ」
「ハッ!」
 問いかけに答えたパトリックは、明らかに苛立ちを隠せておらず、部下は困惑して黙り込む。
 こんな時、以前のパトリックなら始末していたはずなのだが、歯牙にもかけないとは。
 そもそもこの上官が、こうまで苛立っているところなど、これまで見たことがあるだろうか。
「イチマルハチゴーナナ地点にC暗号で作戦を伝える。それまで待機しておけ」
「ハッ!」

 ――遺跡深層部、そして魔王城で何かが蠢きだしたのは、それからすぐの事だった。

 ※浮遊島アーカーシュの遺跡深部、ショコラ・ドングリス遺跡の中枢部で何かが起きたようです。
 ※特務に保護されていたユルグ少年が行方不明になったようです。
 ※特務大佐パトリック・アネルの行動が、明らかに異常です。

 ※アルティオ=エルムを覆った眠りの呪い、冠位魔種『怠惰』の影は払われました。
 ※アルティオ=エルムでは『祝宴』が行われています。

これまでの覇竜編深緑編シレンツィオ編

トピックス

PAGETOPPAGEBOTTOM