PandoraPartyProject

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海の音色にのせて

 三番街クレーロス・コンサートホールの舞台に、一人のバイオリニストが立っていた。
 浴びるライトの中で、赤いスパンコールドレスを纏った彼女は弦に弓を翳し、深く深く息を吸って、止めて――。

 ビーチの波打ち際に足を付けて、寄せる波をちゃぷちゃぷと素足でけっとばす。
 滴がスローモーションにはねて、太陽の光でプリズムを作った。
 スクール水着の上に赤いジャージを羽織ったエイス(p3n000239)は、ポニーテイルにまとめた髪をなびかせながら振り返る。
「見て見て、海、つめたいの。こんなの知らなかった」
 無邪気に笑う彼女に手を振られ、ラーシア・フェリル(p3n000012)はおっとりと微笑んだ。
 深呼吸をしてみれば、温かく爽やかな潮の香り。もう慣れてしまった筈のさざ波の音が、なぜだか遅れて耳に入ってきた。
「初日からそんなにはしゃいでいたら、すぐに疲れてしまいますよ」
「だって」
 眉尾を下げて口を尖らせるエイスに、ラーシアは苦笑しながら歩き出した。はいていたビーチサンダルをから素足を外すと、砂浜へとおろす。
 パウダーサンドが足の裏をくすぐって、つい指先できゅっとつまんでしまう。
 指をはなすと、砂はさらさらと地面へと抜けていった。
 振り返ってみれば、美しく整えられたビーチにはそんな砂浜がずっとずっと続いている。
 海洋貴族が訪れる、ここはコンテュール家のブライベートビーチだ。
 シロタイガー・ビーチではマーケットの活気もあって人の賑わいを感じるが、こんなに静かなビーチもまたよいものだ。ローレットは自由に入って良いというカヌレの言葉に、今更ながらラーシアは感謝の念を送った。

 フェデリア島を中心としたシレンツィオ・リゾートは『地上の楽園』だ。
 はるか二年前に勃発した海洋王国大号令を期に始まった、前人未踏破の海を越える大航海計画。
 冠位魔種アルバニアによる致死の病や滅海竜リヴァイアサンの脅威を越えて、人類はこうして自由の海を手に入れた。
 海洋王国は溢れんばかりの海洋資源を、鉄帝国は常夏の海を、そしてその先にあった豊穣郷は未知の文化を手に入れ、フェデリア島はみるみるリゾート島へと変わっていった。
 リゾート開発が始まってから二周年の夏。関連国合同によるサマーフェスティバルがいよいよ開かれようとしている。海洋王国ご自慢の豪華客船によるクルーズツアーも始まるという話だ。
「けど、本当に大丈夫なのかな。あのダカヌ海域、海賊が出るんでしょ? なんていったっけ、かい、かいら――」
海乱鬼衆(かいらぎしゅう)?」
 砂浜に体育座りをしたラーシアの言葉に、エイスが『それっ』と言って笑った。
 豊穣郷ではかつて魔種による実質的な支配が行われていたが、ローレットの活躍によって彼らは討たれ、目覚めた霞帝や天香家を継いだ遮那、そして清明や土地神たちによって早くも復興が進んでいるという。だがそうした光があれば、当然影も生まれるもの。
 高天京から追い出されてしまったアウトローな集団が海へと出て、近隣かつ裕福なフェデリア島周辺の船を狙って海賊行為を働いているというのだ。それらを総称して『海乱鬼衆』とよぶ。
「あと深怪魔(ディープ・テラーズ)もですね。あれって、狂王種とは違うのでしょうか」
 ラーシアが砂に描いたのは角の生えたタコの絵。かつてこの海が『絶望の青』と呼ばれていた頃は、アルバニアの力の影響を受けたらしき狂王種というモンスターが主な脅威となっていたが、それらの対策はリゾート化にあたってかなり軽減されたはずだ。貿易拠点ともなっているこの島は、当然モンスター対策も万全に行われるからだ。
 エイスは顎に指を当て、むずかしい顔で首をかしげた。
「うーん……いろんな人に聞いてみたけど、わかんないみたい。狂王種とは別種ってことだけ、わかってるんだって」
 だからこれから調べなきゃだよね。とエイスは続けた。
 二人はあらためて海を見つめる。
 太陽の光がきらきらと水面を乱反射して、珊瑚礁の海を彩っている。スクーバダイビングでもしてみれば、きっと鮮やかな世界が見られるだろう。
「このフェデリア……無くなったりしたらいやだね」
 ぽつりともらしたエイスは、両膝に顎をおとした。
「……そうですね。そのためにも、私達もがんばらなくては」
 今もフェデリア一番街にあるローレット支部には無数の依頼が舞い込んでいる。
 この鮮やかなる夏のために――。
「依頼、受けに行きましょうか」
「うん!」
 二人は立ち上がり、ぱしぱしとおしりについた砂を落として歩き出した。

 ※シレンツィオ・リゾートより、依頼が舞い込んできています……!

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