PandoraPartyProject

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趣味人と特務大佐

「失礼するよ」
 男の声がする。声の主――鉄帝国の特務大佐パトリック・アネルが足を踏み入れたのは、発掘機械があちこちに雑多に転がる、工場のような研究所のような、そんな施設だった。
 ここは、EAMDの研究所。EAMDとは、鉄帝において古代兵器の発掘・解析・メンテナンス及びそれらの知見を活かした新兵器開発等を行っている機関だ。政府機関ではない、一民間研究機関であるが、その実力を買われた同機関は、飛空島アーカーシュの調査チームの一員に選ばれた。すでに第一回目の調査を終えており、その副産物をどうにか地上に持ち帰り、こうして研究しているところだ。
 EAMDはさほど大きな機関ではなく、構成員も4名が主という小さなものだが、それでも実力は充分な集団であり、だからこそ調査チームや、学者集団アーカーシュアーカイブ入りしたともいえる。
 EAMDについての解説はここまでとしよう。重要なのは、パトリック特務大佐が、EAMDの研究所に訪れた、という点にある。
「おお、特務大佐殿、よくいらした」
 がれきの中にうずもれていた男が顔をあげた。ガスパー・オークソン。EAMDの所長であり、同機関最高の頭脳である。
「わざわざご足労頂けるとは。部下のものをよこしてくれればよかったものを」
「いやいや、調査の功労者の話を聞けるまたとない機会。
 ここは直接話を聞きたい……というのは私のわがままでもあるがね」
 パトリックが笑みを浮かべる。人相のせいか、些か悪だくみをしているような顔であるが……いや、これは愛想笑いだろう。
「すまない、そのあたりにかけてくれ。この研究所じゃ一等座り心地のいい椅子である」
 ガスパーが指示した、がれきに埋もれた小汚いソファに、パトリックは素直に着座した。埃が舞ったので、ハンカチで口元を抑えるのは忘れずに。
「それで、どうかな? ゴーレムの方は」
 パトリックが言う。アーカーシュにて発見された古代の機械人形たちの事だ。
「ああ、一度だけ、戦闘に入ったがな。とんでもない性能をしていた。もちろん、イレギュラーズ達にはかなわなかったが……」
「だが、充分な戦闘能力を発揮はしていた、か」
 フムン、とパトリックは満足げにうなった。
「うむ! 実に興味深い! ああ、お目当ての『造花回路』はきちんと回収してきたぞ」
 そう言ってガスパーが示したテーブルの上に、こぶし大の機械回路が置かれている。
「造花回路? ああ、思考ユニットか。随分とロマンティックな名前だ」
「発見者のイレギュラーズに命名を頼んだものだ。
 私は気に入っている。発掘にはロマンが必要だ」
 さておき、とガスパーは言ってから続ける。
「特務大差殿の興味は、この『頭脳の書き換え』であったな。結論から言えば可能だ」
「ほう、では――」
「うむ。ゴーレムの再利用は、可能である。
 もちろん、ブラックボックスになっているところはあり、そこは触れん。
 ブラックボックスは、何か根源的な……それこそ魂のような部分だ。
 だが、表層的な命令の書き換えは可能である。
 だから、そうだな。特務大佐の言う、『村の労働力にする』ようなことは可能であるぞ」
「そうか、そうか」
 パトリックは深い笑みを浮かべた。人相のせいで悪だくみをしているように見えたが――。
「それは喜ばしい。
 現状の問題点として、アーカーシュには巨大重機などの機械類を持ち込めないというものがある。
 その問題を解決できるとあれば、うむ、村の発展にも、『鉄帝国の諸問題の解決』にも、大いに役立つ。
 そうそう、万が一の場合を備えて……ゴーレムへの一斉命令権を持つことなどは可能かな?」
「おお、それももちろん。外部コントローラーによる停止、命令書き換えなども可能であるぞ!
 特務大佐の言う通り、大量に労働力にした場合に一体一体指示命令を変更をしていては大変だからな。
 その装置の作成もすでに着手しておる! 近いうちに、大佐の手元に届けられるであろう!」
 パトリックはぱちん、と手を叩くと、満足げに頷いた。
「いや、流石EAMDだ。あなた方を推挙した私も鼻が高い」
「その節は感謝しておる。いや、この様な興味深い事業に関われるとはな!」
 ガスパーが満足げに笑った。ガスパーにとっては、未知の遺跡の発掘に関われることは、まさに望外の幸福だろう。パトリックにとっては――。
「それで、ゴーレムのリビルドの方は」
「うむ。ウチの職員と、ローレットの方に依頼を済ませておる。そろそろ出発する頃だろう」
 ガスパーは天井を、いや、正確には空を見上げた。その青い空の先には、浮遊島アーカーシュが存在し、今まさに、イレギュラーズ達による冒険と探索が繰り広げられているはずだった。


 ――浮遊島アーカーシュでの冒険が繰り広げられています!
 ――アーカーシュと鉄帝国軍の動向に関してイレギュラーズによる密談が行われたようです。

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