PandoraPartyProject

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大空の遺産

大空の遺産

「イレギュラーズじゃない!」
 大きな帽子を左右にふりふり、鉄帝国軍人のリーヌシュカ(p3n000124)が、勢いよく駆けてきた。
 春の遠い北国帝都スチールグラードも、この日は多少の陽気に恵まれている。うららかとまでは言いがたいが、けれどリーヌシュカの軽快な足取りは、楽しげなリズムを纏っていた。
「大ニュースなんだけど、ちょっと聞いてくれない?」

 リーヌシュカが言うには、なんでも『伝説の浮遊島』が発見されたらしい。
 その名は――アーカーシュ

 発端は鉄帝国南部の町『ノイスハウゼン』に、三人の少年少女達が降ってきたことらしい。手作りのグライダーで滑空してきたようだ。その子供達が『アーカーシュからやってきた』と述べたそうなのである。
 それを聞いた大人達の反応は、当然ながら冷淡なものだった。少年達の年齢がいくら分別のつく十代中頃といっても、所詮は子供の話だと取り合わない。可哀想にも思えるが、当たり前でもある。「空飛ぶ島からやってきました」なんて与太話など、誰も信じるはずがないのだから。
 けれど子供達の一人ユルグ少年は、古い身分証を持っていた。帝国軍のドッグタグである。それは百年以上も前に行方不明になった軍人ヴィルヘルム・メッサーシュミットのものであった。彼こそ『初代アーカーシュ探索隊』隊長その人だったのだ。
 こうして『流れ』が変わってきた。少年達の弁が、様々な事象と照らし合わせてあまりにつじつまが合うこと、またドッグタグの鑑定がどうやら正しそうなこと、何よりも実際に町の住人達が口を揃えて「大空に浮かぶ島を見た」と言いだしたことが決め手となった。なんなら当局のお役人まで目撃を証言する始末だ。
「だから私達、軽騎兵隊が調査をしたんだけど――」
 リーヌシュカは顔の前で両手をまるめて望遠鏡を覗き込む真似をした。軽騎兵の運用としては些か疑問があるが、平時の暇と機動力を買われたのだろう。そんな話はさておき。
 イレギュラーズの前に立つ彼女は、誇らしげに胸を張った。
「――秒速で発見したわ!」

 あれよあれよと話は進む。
 鉄帝国は直ちに新たな調査隊を結成し、ローレットには大型の依頼が舞込んだ。
 いくらこの国が、武に秀でているからといって、冒険が得意とは限らない。そこでイレギュラーズの手腕が期待されたという訳である。
 何よりイレギュラーズは手軽な飛行手段を手に入れたのだ。調査にうってつけであろう。
 だからアーカーシュの調査と攻略に、手を貸して欲しいということだ。
 鉄帝国は古くから食糧問題を抱えており、領土拡大にも貪欲だ。それは往々にして武力を必要とする。浮遊する島というのは、どちらか、あるいは両方にアプローチ出来る可能性があるのだ。
 考え方は今も昔も変わらないということだろう。

 だったらなぜ、「秒速で発見した」ほど分かりやすい浮遊島が、これまで発見されなかったのか。
「アーカーシュって、おとぎ話の島なんだけど。雲に覆われているって話なの」
 かつての調査隊が挑んだ際、そこは巨大な積乱雲に覆われていたという。
 調査はおびただしい犠牲者と行方不明者を出し、計画は頓挫した。そしていつしか忘れられたのだ。
 本当にそんなものがあるのかと、信憑性さえ疑われ――
「その雲がなぜか消えてるってわけ。それでね、アーカーシュには村があるらしいんだけど」
 どうも昔、行方不明になった探索隊の一部が、アーカーシュに取り残されてしまった。致し方なく、自活を始めたのだろう。海のない無人島と思えば、それは大変だったに違いない。そして少年達は、自身等をそんな調査隊の子孫だと述べているそうだ。

 ともあれ、スチールグラードのローレット支部にでも顔を出して、依頼の内容に目を通してみようか。

 ※伝説の島『アーカーシュ』が発見されたようです。鉄帝国からの依頼が舞込んでいます。

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