PandoraPartyProject
クリミナル・ワクチン
セフィロト中枢部、『揺り籠』。
地下迷宮の果て、練達の全てをコントロールするマザーの居室で続く激戦はイレギュラーズを激しく追い込むものになっていた。
「分かってはいた事ですが――」
「――このままでは、ジリ貧になります……!」
『白き不撓』グリーフ・ロス(p3p008615)、『断ち斬りの』蓮杖 綾姫(p3p008658)の結論は何れも芳しくない。
奇しくも混沌、R.O.O双方の『決戦』は無限の物量に相対するものとなっていたが、『死に戻り』が自由なR.O.Oと混沌では土台話は別だった。
あちらが無限の物量同士の消耗戦ならば、こちらは一方的に消耗戦を強いられる状況である。
「対策は無い――んだよね!? でも、負けないよ!」
「ま、やるだけは――違うな。やれるだけ、やれる以上は、ネ。折れるのは性に合わないから」
「HAHAHA! ミーはまだ温まって来た位だぜ!」
『いにしえと今の紡ぎ手』アリア・テリア(p3p007129)、『夜に一条』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)が奮戦し、『喰鋭の拳』郷田 貴道(p3p000401)が剛毅に笑う。
「厳しい状況だよぉ、でも……!」
「まぁ、ここまで詰めてきた訳ですし」
『繋ぐ者』シルキィ(p3p008115)、『喩え言葉が足らずとも』観音打 至東(p3p008495)は乱戦の中で踏ん張りを見せるも。
状況は良いものであるとは言えず、焦れる戦いの中で徐々にイレギュラーズは追い込まれ始めていた。
やがて来る敗北は約束された未来だった。
元より分かっていた通り『状況が変わらなければ敗北は必然』に違いなく、如何な戦いをそれを遅延するだけの行為に他ならない。
「ふふ、燃えてくるよ! 私のこの力が――未来を開く手段になるならね!」
「同感ですわ! 私の天国行きは間違いありませんけれど、まだ地上には呑み残したお酒が多い事ですし」
「ボクには、ボクにも――退けない理由があるんだっ!」
だが、それでも――『決まっていた筈の未来』が別の答えを探したのは。『雷光殲姫』マリア・レイシス(p3p006685)、『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)、『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)が、『揺り籠』に、R.O.Oに、『影の城』に挑んだ多くのイレギュラーズが決して『届かざるハッピーエンド』に諦めを見せなかったからなのだろう!
――HEY! イレギュラーズchang達! 聞こえますか!
「――クリスト!?」
「……だな」
マザー、そして彼女の機兵達と激戦を繰り広げていた『霊魂使い』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)は思わず傍らの『Nine of Swords』冬越 弾正(p3p007105)と顔を見合わせた。
クリストは似たような反応を見せた多くのイレギュラーズに構わず言葉を続ける。
――色々事情はブットバス訳ですが、俺様今から君達の味方をする事になりました。
まぁ、厳密に言うと君達はどーでもいいんだけど、クラリスchangを助けたいと思います。
クラリスchangのクリミナル・カクテルは辛うじて解毒が可能DEATH。
俺様が作ったんだから、そりゃそうだ。でも――それは簡単じゃあない。
「どうすればいいッス!?」
問答の暇はないから事情は問わず、『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)が虚空に問い掛けた。
『事情は兎も角、クリストがそう言ったからにはR.O.Oの仲間がやりやがったに違いない。万歳だ』。
――まず、クラリスchangを全力で叩いて『リソース』を奪取して。
俺様changが現状を改竄したら、クラリスchangの反転部分――
んんン! ざっと91.4687%が猛烈に抵抗するのは目に見えてる。
主体が反転部分にあるんだから、もうそういう状況なワケ。
さっきの逆ね。皆が俺様の『リソース』を奪った逆をクラリスchangにシュート、OK?
葵に合わせてかサッカーのような物言いをする。
――んでもって、俺様は同時にワクワクチンチン作っちゃう。
これは君達っていうか、R.O.O側の話になるけど。
『Behemothchangはクリミナル・カクテルのオリジンみたいなもんだ』。
アレをやっつけて貰って――唯一完全な被検体になってるアリスchangからデータを取る。
君達がクラリスchangを削って、俺様がワクチンを作ったら。
可能性はあるよ、ちょっとだけ。
「人使いが荒くない!? これは後でドーナツいっぱい貰わないとだ!」
『魔法騎士』セララ(p3p000273)の剣が敵の猛攻を跳ね返した。
戦闘をしながらの会話に余裕はないが、俄に現れた『希望』にイレギュラーズの士気が上がったように見えた。
――うっわ、スゲー。絆の力? 希望の軌跡?
そりゃ悪役だってついその気になっちゃうYO!
『ドン引く』クリストの軽口は兎も角、だ。
各所で勢いを盛り返している。これならば、と思わせる戦いが始まっていた。
――ログアウト不可も解いておいたし!
まぁ、泣いても笑ってもこれが最後のchanceだから!
俺様changが言うのも何だが、妹を宜しく頼むぜ、イレギュラーズchang!
練達の運命全てを決める戦いが今、始まろうとしていた――
●Alice in Anoter World
運命は時に残酷だ。
誰かが何かを為した事で、別の何かが喪われる事もある。
それは何時でもお互い様で、出力される力そのものに善悪を問う事等愚かしい。
可能性の獣達が境界深度を上げた時、パンドラが満ちた時。
或いはあの大いなる迷宮が掘り進められた時――
吹き溜まりのようなか弱い世界は混沌と混じり合って一つになった。
アリスの楽園は姿を変え、世界そのものだった彼女は間違いのない消失の運命を辿るべき筈だった。
――筈、だった。
――お母様。
真深い闇の微睡みの中で、アリスは繰り返し彼女の名を呼ぶ。
――安心していいわ。私が貴方を逃してあげる。
――アリスはこの混沌では生きられない。貴方は世界そのものだから、貴方の世界なくてはいられない。
だけど、貴方という存在は肉体よりも自我そのものに近いから。
貴方の世界(からだ)は私が用意してあげられる。貴方はあの広い世界で自由で在り続ければいい――
混沌を恨んだ事は無かったが、アリスは『彼女』にまるで知らない感情を覚えていた。
アリスは自然発生的に生じた『概念』だ。母を知らない。
そしてアリスを救った『少女』もまた、母を役割付けられた『概念』だ。
クラリスがアリスを救い、IDEAなる箱庭にその居場所を与えたのは恐らく――アリスが『子供』だったからだろう。彼女が『母』だったからに違いない。
だからアリスが焦がれて呼んだ「お母様」の名も、子供を慈しむクラリスの姿も『ごっこ遊び』の域を出てはいなかったのかも知れない。
但し、そこには間違いない情があった。恐らくクラリスはアリスに自分の姿を重ねる事が出来たから。
――お母様……
だから、全てが『おかしくなった』時――アリスはクラリスを助けようと決意した。
無表情ながらに優しいあの顔が苦しみに歪む姿を見たくなかった。
全てが壊れてしまうなら――胸を潰すようなその光景を彼女にだけは見せたくなかったのだ。
――お母様!
『おじ様』であるクリストの言に従い、クリミナル・カクテルを受け入れた。
皮肉にも母のくれたIDEAを最短で破壊する事が彼女の救いになると信じていた。
『おじ様』はふざけた調子だったが、少なくともアリスは理解していた。
『彼』の気持ちは自分のものと違いない。『彼』もまたクラリスを想っているのだと識っていた。
――だから、道が分かたれて。心から残念だわ、おじ様。
茫と考えたアリスはその思考が母を愛した自我のままに生み出されたものであるのか、もう自信が無かった。
終焉の獣、特別製――彼女が共にあるBehemothは『原罪』を最も色濃く受け継ぐ『子供』である。
捻れて汚れて傷付いても、『父』と『母』の為に世界を壊す。
BehemothとAliceは奇しくも同じく『親』を想っている――
※――最終決戦が始まりました!
これまでの再現性東京 / R.O.O
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