PandoraPartyProject

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エスケープ・ドラマ

 迫る、迫り来る気配がする――

 大樹ファルカウ擁く迷宮森林を一人――その背には蝶の如き翅が揺れている――が飛び、逃げ惑う。
「来ないで、です! 来ないで……! 誰か、誰か、助けてです!」
 追われる側は淡い空の色をその体に閉じ込めた小さな妖精。そして、追う側は全ての色彩を失ったかのような白化(アルベド)であった。
 美しき花が咲き誇る妖精郷。その場所で女王の側付きとして過ごしていた空色の少女、フロックスは今はハンターに追われる立場になって居た。
 そのハンターの姿を見る度に、涙がに滲む。溢れる。止まらない。

「――――」

『彼女』の――妖精女王ファレノプシス・アルベドの唇が動く、その指示に従ったように赤き血を好むけだものはフロックスへと飛びついた。
 白き少女の背後には、同じく色素の抜け落ちた『ニンゲン』が立っていた。フロックスはニンゲン達もアルベドである事を識っている。
 女王の側付きとして、女王を捕らえた魔種の男の動向を隠れて観察していたからだ。麗しのレディ・ファレノプシスを救うが為、小さな勇気は確かに見た。
 妖精郷の外側、迷宮森林を中心に魔種達が起こしていたモンスター騒ぎ、そして、大迷宮の踏破に於いてあの錬金術師は『ニンゲン』よりデータを収集していたらしい。
 血液、髪、皮膚、なんだって良い。その『ニンゲン』を作り上げる要素を彼は収集し、そしてアルベドを作り上げた。
 ……どうやって? そんな事、フロックスは想い出したくはない。悍ましく、記憶の底に閉まっておきたいその現実。

「――――」

 ファレノプシス・アルベドの指示が飛んだ。一人のアルベド、弓削 鶫は苛烈なる攻撃を繰り返す。
 間一髪で避けた、と感じた刹那、フロックスの体には痛みが走った。ばちり、と雷撃が放たれる。まるで餌を求めるけだものの如く笑みを浮かべたアルベド――ソアはフロックスを喰らうようにその手を伸ばした。
 捕まれば一溜りもない。傷つきながら、フロックスは翔けた。
 木々の合間を縫い、草木に塗れ、花を盾にし。
 乱撃の雨の中、彼女は目的地を目指す。友人が、ストレリチアが言っていたのだ。

 ――炒飯豚汁っていうのおもって(奢って)もらったの!
   リンカちゃんもほんとのほんとに美味しいって言ってたの。嘘じゃないの。
   みんなすっごく面白いってバターカップちゃんも言ってたの。
   イスで競争したり、百合妄想で重傷したり、おじいちゃんのぱんつが盗まれて大騒ぎになって。
   伝説のスヴェルタおばあちゃんが急に出てきたり。
   ぜったいやばいってメープルちゃんとかカンパニュラちゃん達といっぱいお話したの。

 とりとめのない言葉達を。
 語られた、きらめきのひとひらを。
 その訳を――

「アンテローゼ大聖堂でみんなが力になってくれるの! だから困ったことがあれば行くと良いの!
 友達もいっぱい出来たの。イレギュラーズっていうの。
 イレギュラーズなら、ぜったいぜったい助けてくれるの!
 あのね、あとね! わたしは、大聖堂でも紅茶リキュールで優勝したの!
 フロックスも今度一緒に、ぜったいぜったい優勝しに行くの!」

 ――思い出す。友の言葉を。
   思い出す。一条の光明があることを。
   思い出す。その希望の名は、イレギュラーズ!

 其処に行けば、助けて貰える。フロックスは息を切らし、ストレリチアが言っていたその場所へと飛び込んだ。灰薔薇の咲き誇る荘厳なる大樹ファルカウを臨む信仰の場。
 フロックスは胸の奥底の酸素をすべて吐き出し、そして、喉が切れるかと言う位に叫んだ。
「助けて、です―――!」

 その声に応えたのはルドラ・ヘスフランツェル・ロア・ヘクセンハウスであった。彼女らは――そして、居合わせた者はフロックスを守るが為、アルベドを撃退しその異質さに息を飲んだ。
「……わ、わたしは、妖精女王ファレノプシスの侍女のフロックスなのです。
 助けて、助けてなのです。女王様が魔種に捕まって幽閉されてしまったです。それに、それに――……妖精の命から白い怪物(アルベド)を作り出してるです。
 わたしを追ってきたのは、その、怪物なのです。うう、ヘデラ……ソリダーゴ……シレーネ……」
 ぽろぽろと涙を流したフロックスは助けて、助けてと何度も何度も繰り返して意識を失った。
 疲労と、そして傷――それから、思い出したくない記憶を語った事によるものだろう。少しすればきっと、目を覚ます。
「ルドラ、時間の余裕はないようだわ?」
 フランツェルは活動を停止した白き怪物を見て、そう呟く。ルドラも同じ結論だったのであろう。
 破廉恥にも、よりによってイレギュラーズ(英雄)を模した怪物は取り逃がしたが、妖精を模した一体は確保出来た。
 調査すれば何かの手がかりになるだろう。
「妖精郷アルヴィオン――イレギュラーズへと要請を駆けよう。
 魔種の手である事が判明している以上、見過ごせない。それに……命、か」
 アルベドは妖精の命から。ただ、その言葉だけでも悍ましい事が起こっていることは分かる。
 見過ごせば、多数の命が失われる。まるで、羽虫をぷちりと潰す様に、だ。
 アンテローゼ大聖堂に降りた静寂は、直ぐに払われる。妖精郷へ向かうが為、情報を収集し、隊を編成しなくてはならないのだ。


 *妖精郷から逃れてきた妖精が、新たな情報を伝えてきたようです。
 *ストーリー関連クエスト『迷宮踏破ヘイムダル・リオン』が開始されています!

 *期間限定クエスト『神威神楽・妖討滅』が開始されています!
 *また、カムイグラではお祭りの話が出ている様です……?

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