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シナリオ詳細

<虹の架け橋>スヴェルタおばあちゃんのおもてなし

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ごつごつした岩肌に突如として現れたドア。
 恐る恐る開けると、ふんわり小麦粉のいい香りがした。
 フリルとレースとキルトで飾られた、メルヘンチックな内装。
 なんてかわいらしいダイニングルーム。
「ああ、よく来たね」
 でっぷり太ったおばあちゃんがケーキを持って笑っている。
「さあ、テーブルにおつき。スヴェルタおばあちゃんのケーキを召し上がれ」 


「帰れなくなっちゃんてんだよ」
 『そこにいる』アラギタ メクレオ(p3n000084)に、世界は一生困らない衣食を約束した。ゆえに、常に菓子を食べている。
「こないだ、手伝ってもらったろ。忘れんぼうの『ネームプレート』 幻想種に花を加工してもらって、いざアルヴィオンに帰ろってしたら、アーカンシェルが使用不能の連鎖に巻き込まれて、帰還難民になっております。今幻想種に居候してるってよ」
 なんてこったい。
「魔物による破壊が起因だから、狙いは妖精王だろっていうのは明らか。孤立無援になってるわけだよ。向こうには魔物が入り込んでんのに」
 対処しきれなくなったら、終わりだ。
「今回壊されたのは、アーカンシェルからアルヴィオンまでのショートカットルートのチャンネルな」
 物理的に壊されたわけではないので、壊されたチャンネル以外を設定すれば使える。
「めんどくさくて大変なとこをすっ飛ばしてたの。そのめんどくさくて大変なところを通る正規ルートを使います」
 便利な新道が使えなくなったので、閉鎖していた旧道を開けます。的な。
「アーカンシェルは全部ショートカットのチャンネルに設定されてる。それを正規ルートに切り替える術詩が考案されました。グリムアザースの吟遊詩人ライエル・クライサー氏に乾杯」
 メクレオはぐびっと茶をあおった。
「そのすっ飛ばしてた難所『大迷宮ヘムルダリオン』の攻略を依頼する。いやあ、仲介者的にも気分が上がるな、大迷宮! 中の脈絡のなさがひっどいらしいぞ。共通してるのは、各領域には『虹の宝珠』というのがあり、それを入手することで更に深部への道が開くってことな。『ローレット』という一つの枠組みの中で進行してるから、みんなが攻略すると次の誰かが先に進める。それをアルヴィオン到達するまで繰り返す。いいね、フロンティアスピリッツ」
 迷宮に潜らなくちゃいけない理由は、急がば回れだった。


「という訳で。えーと。あれだ。俺の仲介を受けてくれるお前らを見込んで頼みがある」
 メクレオの仲介。中身は色々だが、よっぽど急ぎでない限り、大体お菓子とお茶が付いて、だらだら長い。
「迷宮の一室に、でっぷり太ったスヴェルタおばあちゃんがいそいそとケーキ焼いてくれるから、ケーキを食べ倒してきてくれ」
 お前が行けよ。と、ちらと浮かばなかった者だけ石を投げなさい。
「量は大したことはないんだ。精々ホールケーキ1台分。ケーキバイキングで『きょう、晩御飯いらなぁぁい』と叫び、翌日体重計に乗って悲鳴を上げるレベルの量だ」
 生涯、腹についた脂肪に愕然としない覚悟がある者だけ石を投げなさい。
「今までいくつかのチームが挑戦したが、なかなか」
 お、おう。
「おばあちゃんは一種類の生クリームたっぷりのケーキをだす。飲み物はない」
 それは、中々つらい条件。
「構成要素は、スポンジと甘くない生クリームだ。甘すぎない生クリームじゃない。甘くない生クリームだ。スポンジは普通に甘い。製菓は科学だからな。砂糖を入れないと膨らみが安定しない」
 いや、問題はそこじゃないだろ。
「ケーキにはジャムとか果物とかチョコレートとかそういうのは、挟まってない。もちろん、スポンジも粉と卵と砂糖とちょっとの牛乳とバターのみだ。フレーバーはない」
 とても――素朴。婉曲な表現をしてみました。
「ここまでの失敗から種明かしすれば、スヴェルタおばあちゃんはそれなりに条件付けされた魔法生物だ。魔物は、テーブルについてお行儀よくケーキを食べない。食べられそうな知的人型の魔物は大体肉食だからホールケーキは食べきれない。というか、フィリングも入ってなくて、正直一味足りないケーキを『目的のため』と目をつぶっておとなしく食べない。通せんぼ機能としては割と有効なので腹立つな」
 だから、レシピ本渡したりとか、フルーツ添えてとかいう親切心はムダというかアダ。と、メクレオは言う。
「メニュー変更を提案したり、飲み物持参とか、味変にフルーツソースやチョコレートチップを持ち込んだ奴らは部屋から追い出された。ちなみに、俺は生クリームが食べられない」
 常に焼き菓子なのはそれか!
「クッキーだのパウンドケーキだったら、俺が行ってた」
 行くのかよ。と、ちらと浮かばなかった者だけ石を投げなさい。
「そういう訳だから。こう、普段、作ったことのないハイカラなお菓子を見よう見まねで作ってみたおばあちゃんのもてなしを受ける孫のような謙虚さでケーキを食って、虹の宝珠を回収してきてくれ」

GMコメント

 田奈です。
 スヴェルタおばあちゃんからは、あえてジャムとかフルーツとかはちみつという概念が削除されている。なんて恐ろしい門番だろうと、妖精たちは震えあがった。

*迷宮の一室
 ドアを開けたら、ほっこりとした、かわいらしいダイニングルームでした。
 大きなテーブルにクッションをひかれた椅子。
 おばあちゃんは、にこにこしながら「ケーキをお食べ」と勧めてきます。
 おばあちゃんが満足するまでケーキは出てきます。

*ケーキによるおもてなし
 食べずに、持参の袋にナイナイするなどの小細工は効きません。
 満腹度は、継続ダメージがあるBS判定で行い、一定以上HPが削れるとスポンジに顔をうずめてギブアップとします。傷ではないので、普通の回復魔法は効果ありません。
 BS解除魔法、類する手段はありとします。
  RPで工夫すると、判定にプラス評価が付きます。
 ですが、あからさまに食べるのが遅かったり、グロッキーだったり、礼儀知らずだったりすると、おばあちゃんはにこにこしながら「また来てね」とドアの外に叩きだします。
 あくまで、おばあちゃんのおもてなしを受ける孫のようにふるまって下さい。
 RPで工夫すると、おばあちゃんのおもてなしした充実感が上がり、満足するのが速くなる可能性があります。

*スヴェルタおばあちゃん
 魔法生物なので、攻撃してもすかっと抜けます。魔法で捕獲しても、虹の宝珠は手に入りませんし、部屋からたたき出されますし、居座っても脱落にカウントされます。
 金の卵を産むめんどりの腹を割くにもさも似たりと申せましょう。

 おばあちゃんが満足する前に全員が叩き出されるか、ギブアップしたら失敗です。
 では、いい孫っぽいふるまいを!

  • <虹の架け橋>スヴェルタおばあちゃんのおもてなし完了
  • GM名田奈アガサ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年04月28日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧 (8人)

クロバ・フユツキ(p3p000145)
貪狼斬り
チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)
炎の守護者
夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
ブーケ ガルニ(p3p002361)
兎身創痍
錫蘭 ルフナ(p3p004350)
森の善き友
アルム・シュタール(p3p004375)
鋼鉄冥土
ソア(p3p007025)
虎風迅雷
モカ・ビアンキーニ(p3p007999)
Stella Cadente

リプレイ


 アーカンシエルの前で歌を歌うと現場につながる。
「あれあれ、ネームプレートと会ったことがありますね?」
 あの時摘んだ花の効力か、以前妖精と同行したイレギュラーズは、ネームプレートの記憶に定着したようだ。
「それで、今日のネームプレートは何をしていたんでしたっけ?」
 妖精・ネームプレートのもの忘れは今に始まったことではない。
「はいはい。お歌を歌うのですね。お歌は――迷宮につながるお歌ですね。歌詞は――この神を見て歌えばいいのですね」
 幻想種はネームプレートの扱いに慣れていた。寿命が長いと気も長くなるらしい。老々介護。
「ネームプレートはご一緒できないのはなんででしたっけ? ああ、一人分出されてしまうからですね? なので、お帰りになったらまた会いましょう」
 忘れんぼなので、待っていることを忘れてしまうのだ。
「ネームプレートはお手伝いをしなくては。ええと、何をするんでしたっけ?」

 妖精はちゃんと歌を歌えた。ネームプレートという要請を知っている者ほど胸に迫るものがあった。
 転送された場所から暗い暗い道を歩いてきたのだ。そこに突然暖かな色合いをした木の扉が現れた。
「確かに、僕は見た目こそ小さな子供みたいだけどさ。だからって、小さい子がみんな甘いものが好きなんて思わないでよね」
『猫派』錫蘭 ルフナ(p3p004350)の声が低く響く。
「まあ、そんな訳で見た目こそ森の外の他種族からすれば童子とはいえ、年嵩の自負はある。無邪気に「すごーい楽しー」なんてはしゃがないからね!」
 それはそうだ。カオスシードに合わせる必要はない。年相応のお孫様してくれれば十分だ。いや、妖精向けの施設にわざわざカオスシードの老婆型魔法生物を配しているあたりに若干の腹黒さを感じる。
「なんていうか……お年寄りが食べ物をたくさん振る舞いたがるのはどこの世界でもいっしょみたいだね」
『魔動機仕掛けの好奇心』チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)、現在進行形で育ち盛り。最も「これから大きくなるんだから食べなさい」をされるお年頃だ。機械の体を隠していた元の世界でも、今も。
「接待ならば喜んで受けようじゃないか。おそらく途中まではそれなりに食べられそうだ」
『脚癖が悪い暴風バーテンダー』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)は美食家である。
「それからは、我慢比べだな」
 そう。我慢をしなくてはいけない。腹がくちい上にさらにケーキを詰め込む膨満感。喉の粘膜から容赦なく吸水していくスポンジ生地によって誘発される渇き。そして、美食家の下に虚無をもたらす味のないケーキについての怒り。
 あくまで上品に、エレガントに。ケーキに怒号を浴びせたり、テーブルをひっくり返してはいけない。
『真実穿つ銀弾』クロバ=ザ=ホロウメア(p3p000145)は笑顔だ。
 無駄なリアクションは負った傷に響く。内臓に優しくしないと怪我の治りが遅くなる。感情封印で、不快や辟易等の余計な感情がそもそも浮かんでこない様にしたのは任務を確実に遂行するためだ。ずるじゃない。
 穏やかな心持。居心地のいい服。味のないケーキだって鷹揚に受け止められる。
「……なに、腹に入れば一緒さ、とはスイーツ作りが得意な俺からしてみれば絶対に言いたくないが、心を無にすれば造作もない事……」
 これも人造人間が死神となるために必要な機能だ。断じてズルじゃない。
「おもてなしはメイドであるワタクシの得意とする所。する側の気持ちは勿論の事、される側の気持ちも分かってこそのメイドでございまス」
「スヴェルタおばあさまにおかれては少々ずれてしまっているようで御座いますね。。喜んでもらおうと思ってお客人を苦痛にさせてしまうのですから」
 かしこく沈着冷静な『鉄腕メイド』アルム・シュタール(p3p004375)は、舌先まで登っていた「ご用心下さいませ。これはおもてなしではございません」というセリフを済んでのところで飲み込んだ。
『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)は、浮世離れしている。本人に悪気がないので、スヴェルタおばあちゃんを「設置」した相手の腹黒さに到達できない。
 相手にテーブル蹴飛ばさせて強制転移させるループトラップだ、中途半端に攻略しようとすると、内臓にダメージを食らう分たちが悪い。
(ここで、幻様の士気を下げるのは得策ではない)
「はりきってつい作り過ぎてしまうと言うのも分かりますガ……相手は魔法生物だそうですかラ、一体どの様なおもてなしが待っているか楽しみですネ」
 違和感は「相手が魔法生物だから」ということにしよう。と、メイドさんは心に決めた。
「皆さん、私は思い浮かべた者をほんの数分具現化することができます」
 幻は言った。
「テーブルに着いた皆さんの口の中に飲み物をほんの少しだけ発生させることは可能です。ほんの数分なので実際に水分を摂取できた訳ではないのでのどの渇きは癒せないでしょうが、飲み込む助けにはなると思います」
 逆に考えれば、数分で消えるなら、おなかちゃぽちゃぽになる心配はないということだ。
「ひとつ、根本的で、致命的かもしれへん問題がある」
 『兎身創痍』ブーケ ガルニ(p3p002361)が神妙な顔をする。どうしたの、何でも言ってごらん。と言いたくなる幼気さだ。
「俺、うさちゃんやさかい、ベジタリアンやねん……いけるかな」
 なんですって――だけど、あとから内臓洗浄することになってもここは頑張って食べてもらうしかない。各々の脳裏に、今まで一緒に仕事した内で解毒の術にたけた者の顔が浮かぶ。
「いや、こないな大迷宮に新鮮な小麦とバターと乳と卵が定期的に搬入されるとも限らんし、なんかこう、魔法でできた概念的ケーキかもしらんし。肉ってわけでもないなら食べるよォ!」
 その意気やよし。もう、ケーキ食べるって決意表明だけで称賛雨あられである。だが、たとえ原材料が肉でも食べてもらうことになるのでご了承下さい。大丈夫。見た目も味も触感も甘くないケーキだから。
「だーいじょうぶ! ボクに任せて!」
『雷虎』ソア(p3p007025)の笑顔がまぶしい。
「ずっと昔に人の姿を借りるようになるまでは料理なんて無しに食べていたからね! 味付けがないのには、なれたものなのさ!」


 遊びに来たお孫ちゃんたちは、最初にちいちゃい子(外見)を入れると、なんとなく形になります。
「おばあちゃん、遊びに来たで!」
「お邪魔します」
 覚悟を決めたブーケとルフナが扉を開ける。
 暖かな部屋。かわいらしい調度。クロスが引かれた大きなテーブル。
「ああ、よく来たわね。いらっしゃい」
 スヴェルタおばあちゃんがにこにことイレギュラーズを出迎えた。
「「おばあ様ワタクシ花を摘んで来ましたノ。これをテーブルに飾ればおばあ様のケーキが、更に映えると思うのですがどうでしょウ?」
 アルムは、持参の花と花瓶をおばあちゃんに見せた。花の香りでクリームで鈍った嗅覚をリフレッシュできるに越したことはない。
「あら、お土産を持ってきてくれたの。活けてくれるの? まあまあ、嬉しいわね」
 おばあちゃんは、カオスシードに見える。ふっくりした感じでとても朗らかだ。
「さあ、ケーキを召し上がれ」
 目の前に置かれたホールケーキのサイズが想像を逸していた。スポンジ部分だけで高さが10センチある。まあ、ほとんど空気と言われるシフォンケーキならそういうこともあるが、これはスポンジケーキだ。空気より実がある。誰だ、大したことはない量って情報屋が。あ、あいつ、無類の甘党だ。
『ご一緒できないのはなんででしたっけ? ああ、一人分出されてしまうからですね?』
 妖精が一緒に来なかった理由。チャロロはキュピーンと気が付いた。あの時は何のことやらと思ったけれど。ハッキリ言って、このケーキの大きさ、妖精が住める。
(なんということでしょう)
 アルムの唇がわなないた。
 手伝いを申し出たら、カトラリーを並べるように言われたのだが。
 ここで必要なのは、貴婦人が小指を立てて優雅に扱うデザートフォークではない。礼儀に反しているがふっかふかの質量を割り割くディナーフォークだ。これでは、胃が満腹を訴え始める前に腹に収める戦法が使えない。
 ああ、あまりにも礼儀に則った小さなフォーク。メイドとして、用意されたカトラリーを並べるしかない。
(甘いスポンジに甘くないクリーム……配分を考えないと大変なことになるでしょう)
 幻は、ケーキを凝視した。その隣で――。
「おいし―っ!」
 ソアは歓声を上げた。名前がケーキっていうだけで何だか美味しい気さえする。愛情がおいしさとは間違いではない。
「食べる前にはちゃんと手を合わせて『いただきます』を言うんだよ! 騒々しくてごめんね、おばあ様。皆はしゃいじゃってさ。」
 たしなめるルフナに、数年に一回しか会わないいとこ感が高まる。
 フォークに見合う量を口に運ぶ。甘くないクリームとは要は脂・虚無の味である。
(大体、甘いケーキなんてそれこそお貴族様が食べるようなものじゃないの。深緑で質素に生きるハーモニアとしては別段このケーキに不満点なんかないよ)
 食事、あるがままなり。生で食べても木の実も野菜も果物もおいしい。
 ソアもルフナも今味わっているのは、カオスシードの文明の味である。異文化コミュニケーション。
「生クリームの優しい感触……流石はおばあちゃんの作ったケーキです。僕もこんなケーキを作れるようになりたいなぁ」
 僕って誰? などと言ってはいけない。立派にお孫さんしているクロバの努力を認めてほしい。
 事前に打ち合わせしていた。おばあちゃんには常に二人以上話しかけ続ける。その間に幻がケーキを咀嚼しているモノの口の中にコーヒーを具現化させる。すぐ飲み込んでしまえばおばあちゃんに見えない。口から逆噴射にだけ注意だ。
 チャロロがウィンクする。モカが目で訴える。閉じた口の中にコーヒーのうるおい。
 しばらくはそれでどうにかなった。湿り気とケーキ以外の味はイレギュラーズを少なからず助けた。唾液がコーヒーくらいの感覚だ。心構えがあればむせることはない。
「おやおや、これは何の香りかしら」
 スヴェルタおばあちゃんは小鼻を引くつかせた。
「なんだか香ばしい、とってもいい匂いがしないこと?」
 背筋に冷たい汗が流れる。
 コーヒーは案外香る。一人分ならそうでもないが八人分となるとわずかな香りが室内に広がり、コーヒーを口に含んだ者には違いがわからない。そして、おばあちゃんの気をそらすためにおしゃべりをやめるわけにいかない。どうしても香るコーヒーの残り香。
 警告と判断するべきだろう。これ以上はお部屋の外に出されてしまう。
 コーヒーよ、さらば。
 渇きをいやしたさっき飲み込んだコーヒー。この依頼が終わったらたっぷり飲む(各々任意の飲み物)各自、カッコ内に書き込むこと。配点30点。


 アルムは、メイドとしての技能を発揮し、おばあちゃんにしきりに話しかけていた。
「まあ、私のケーキが何でできているのか知りたいの? ふふふ。愛情でできているのよ、いい子ちゃん達」
 そうならば、愛情が重い。
「まあ、あなた。気持ちよく食べてくれるわね」
 ブーケは、ろくに噛まずに飲み込んで、おばあちゃんの目を見てにっこり笑った。
「これ、ホンマにおばあちゃんが作ったん? 凄いねえ!」
(「味」の結構な部分は匂いによるものって言うよね)
 スポンジのバターの匂い、クリームの乳くささを味に脳内変換させ、味がないことからの脱却を図ったブーケは、徐々に「ずっと同じ味」にさいなまれている。
(喉と消化モジュールが乳脂肪分にまみれて悲鳴をあげているような……)
 機械の体だからっていくらでも食べられると思うなよ。
 全員のフォークの動きが鈍くなったと思われたその時。
「もう。皆お喋りばっかしてるなら僕が全部食べちゃうからね」
 ルフナがそう言うと、乳脂肪分の分解能力が上がった気がした。これが解毒作用。もうちょっと頑張れそうな気がする。
 ソアは思っていた、自分には戦闘続行が35回使えるだけの力がある。だから、別腹が35個あるようなものだと。
 だが、それを遂行するということは、かりそめの死を35回味わうということに他ならない。決して、胃袋35個分ではない。ニアデス35回なのだ。
「ねねっ、食べさせてほしいの!」
 イレギュラーズにはわかった。糖分の取りすぎでだるくしびれて、もはや腕が上がらないことを。
(すっぱいじゅーす)
 ソアの唇が動いたが、この状態でジュースを口に発生させたら間違いなくむせるし、そもそも正面におばあちゃんがいる。匂いで気づかれる。おそらく、次ばれたらお部屋から放逐コースだ。
「ばーば、そこにあるのも食べていい?」
 これが最後のケーキの塊。もう塊にしか見えない。
 ソアにすべての重圧をかける訳にはいかない。その捨て身のスキルを使わせたりしない。食べられない量じゃないと情報屋も言っていた!
「君達ばっかり食おうなんてそうはいかないぞ」
 誰とか言うな。クロバ的にははよくできたお孫さんはそういう風にしゃべるんだ。
「デハ均等に取り分けて差し上げましょうネ」
 アルムが、全員分――少し多めに自分に取り分けた。
 騎士として、過酷な状況に耐えることには慣れている。
 時として、主人の代わりに毒杯をあおるのも従者の役割だ。
 全員、完食。皿の上から何もかもがなくなった。
「ごちそうさまでした。おいしかったです!」


「まあまあ。みんなとってもお行儀がよくきれいに食べてくれて嬉しいわ。みんな特別いい子ちゃんね」
 スヴェルタおばあちゃんは、にこにことほほ笑んだ。
「特別いい子ちゃんには特別にいいお土産を上げましょうね。おばあちゃんのドアをいつでも開けに来てくれていいのよ?」
 ソアの手の上に鍵が乗せられた。鍵はごく普通の鉄製だが、その飾りになっているのは――虹の宝珠だ。
「さあ、特別ないい子ちゃんたち。開けてみてちょうだい。みんな自分の荷物は持ったかしら? 忘れ物をしないようにね」
 さようならの時間なのだ。
 スヴェルタおばあちゃんはまた別の来訪者が来るまでここでひっそりとケーキを焼くのだ。
「ケーキを作ってくれてありがとう」
「ありがとう。楽しかったし、美味しかったよ」
 モカとクロバは別れの時を悟り、スヴェルタおばあちゃんに最後の挨拶をした。
 スヴェルタおばあちゃんの指し示す扉に鍵を差し込んで回すと、居心地のいい暖かな部屋は消えてしまった。
「クロバさん、そういうタイプでしたっけ」
「何せ、厚意を無駄にするな。と、元の世界の或る人に厳しくしつけられているからね」
 鍵も消え、虹のかけらだけがソアの手に握られていた。
 振り返ると、最初に通った暗い道。前方はほの明るく見え、また別の領域につながっているようだ。装備が足りない。イレギュラーズは帰還しなくてはならない
「あぁ、お水がほしいよ……今はとにかく飲み物が必要だね」
 チャロロが言う。そう、この先を戦うにはお腹がパンパンで、喉がカラカラすぎる。もう、幻が出してくれたコーヒーは胃からもなくなった。
 どこかから、妖精の歌声がする。
『ネームプレートは何をするんでしたっけ? ああ、そうでした。みなさんを呼ぶのでしたね。みなさん、帰り道はこちらですよ~』
 忘れんぼの妖精が呼んでいるのが聞こえた。あの妖精がうちへの帰り道を忘れないうちに、踏破し、ルートを確定してやらねば。迷宮踏破まではまだまだかかりそうだ.

成否

成功

MVP

夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした。みなさん、よいお孫さんでしたよ。ゆっくり胃腸を休めて、次のお仕事頑張ってくださいね。

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