PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ラナンキュラスのドレス

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●妖精のドアの話
 迷宮森林の南の端にサスラットという小さな村がある。村には昔から『妖精のドア』という言い伝えがあった。
 森のどこかに妖精の隠れ家があり、妖精達はドアを開けて深緑に遊びに来る、という内容だ。
 隠れ家は人間には分からない場所にあるし、妖精は用心深いので見つけられはしないだろう。万が一、ドアや妖精を見つけても騒いではいけない。たちまち逃げてどこかへ行ってしまうから。黙って知らんぷりするのだ。
 こっそり村に遊びに来た妖精のために、ちょっとした食べ物を供えてあげよう。気に入った物のお礼に妖精の世界の珍しい物をくれるかもしれない。
 そんな理由から、サスラット村の入り口には妖精用の小さな祠が置かれていた。村人は交互にお菓子やみかんなんかを供えていたが、時々森の動物が食べて無くなると思っていたし、珍しい花や小物は通りかかった旅人が食料の対価として置いていったのだろうと思っていた。少ないとはいえ、ラサやローレットのような余所者が通ることもあるので。

 ところでこのところ、魔物が強くなっている、という噂が蔓延っていた。
 昔は数人で囲んで仕留めたような魔物が、多くの怪我人を出してやっと倒せるのだ。
 漠然とした不安とちょっとした親切心から、村長は妖精宛に手紙を書いた。
『ようせいさんへ つよいまものが でます きをつけてください』
 読みやすいように、小さな紙に小さな文字で。書き上げた手紙を折りたたんで祠に供えた。

 その翌日だった。
「強い魔物ってほんとなのーーー!?」
 涙と鼻水で顔面をべしょべしょにした小さい女の子が、村に飛び込んできた。
 魔物怖いと泣き崩れる女の子をあやしながら、妖精って本当にいたんだ……と村長は遠い目になった。

●妖精の心配の話
 サスラット村に呼ばれたイレギュラーズは、村長の家で件の妖精と対面した。
 身長は三十センチほどか。とんがり帽子を被った三つ編みの少女だ。
「沢山の大きい人、こんにちは。あたしはバターカップなのよ」
 ダイニングテーブルの上で自己紹介を済ませた少女は一礼をした。深々と頭を下げーーすぎて前へ一回転。勢い余って落下しかけたのを村長がキャッチしてテーブルに戻す。
「ぺちゃんこになるところだったわ。魔物に襲われてズタズタになるより早く迫る危険。大変ね」
「このように少々……想像力が豊かで危なっかしい妖精様でして。本人も怖がっていらっしゃいますし、皆様に妖精様の護衛をお願いしたいのです」
 胸を撫でおろした後は想像の世界へ行ってしまい戻らないので、村長から話を切り出した。説明をお願いしますね、とバターカップをつついて話を進めるのも忘れない。
「あたしはね、この先にある花畑に行きたいの。お花を摘んで服の材料にするのよ。でも、強い魔物があちこちにうろうろしているんでしょう? あたしなんか見つかったら木っ端微塵じゃない。だから大きい強い人に守ってもらいたいの」
 村人総出で守るわけにもいかないし、仮にそうしても倒せる魔物ばかりとは限らない。だから『善き友人』ローレットを頼ったのだ。

「警備隊の方の話によると……花畑の方には長い猫が出るとか」
「長い猫」
 つるつるした銀色の体で、にょーんと伸びるらしい。
 そして強力な猫パンチ。
 隙を見せるとがぶり。
 やけに素早いのが特徴で、反撃する前に逃げられるのだとか。

「妖精様がご用事を済ませて隠れ家にお帰りになるまでの護衛をお願いします。魔物が出たからといって倒さなくとも構いません。妖精様がお怪我なく戻れば、それに越したことはありませんから」
「お願いしますね、大きい強い人達!」
 村長とバターカップは、揃って頭を下げた。

GMコメント

●目的
 妖精の護衛。敵は倒さなくても構いません。
 村を出て小一時間ほどの場所にある花畑へ行き、必要な花を摘み、村のそばにある『門』へ帰るまで護衛をお願いします。
 花畑や『門』の場所はバターカップが地図を書いたので迷わず行けます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●敵
・ねこスライム×1
 水銀っぽい物質で出来た猫型のモンスター。
 猫っぽい動きで【近】【単】攻撃を仕掛けてきます。肉球の弾力を再現した猫パンチは【恍惚】付き。
 しかし猫ではないので猫に有効な手段(マタタビや火等)は効き目がありません。
 素早いので攻撃が当たりにくくなっています。

●フィールド
 迷宮森林のどこかにある花畑です。戦闘の障害になるようなものはありませんが、派手に暴れると必要な材料が取れなくなってしまいます。
 何やら細かい条件があるようで、必要な花はNPCにしか区別がつきません。

●NPC
・バターカップ
 アルヴィオンからやってきた妖精の女の子。
 マイペースでそそっかしいので一人で採取をやらせると時間がかかります。
 指示があれば素直に聞くので、効率アップにご協力ください。


こんにちは、乃科です。
一人で出歩いたら瞬殺されそうな妖精の護衛をお願いします。

  • ラナンキュラスのドレス完了
  • GM名乃科
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年03月13日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者
ドラマ・ゲツク(p3p000172)
蒼剣の弟子
ツリー・ロド(p3p000319)
ロストプライド
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
レスト・リゾート(p3p003959)
にゃんこツアーコンダクター
リナリナ(p3p006258)
アルメリア・イーグルトン(p3p006810)
緑雷の魔女
蟻巣虻 舞妃蓮(p3p006901)
お前のようなアリスがいるか

リプレイ


 サスラット村の周辺は春が早いようだ。頭上の木々は新しい葉をつけ、足元の雑草は小さな花を咲かせている。
 穏やかな日差しの春の日。イレギュラーズは花畑へ向かって歩いていた。
「大きな強い人がたくさん、助けてくれるのって頼もしいわ!」
 モンスターの噂に怯えていた姿はどこへやら、バターカップは鼻歌でも歌いそうなほど浮かれていた。
「妖精って本当にいたのね……今回はよろしく」
「よろしくね、アルメリアちゃん!」
 『かつての隠者』アルメリア・イーグルトン(p3p006810)は挨拶もそこそこに索敵を始めた。
(銀色の、猫みたいなスライムを見たことある? この辺りにいる?)
 周囲の名もなき白い花や若枝を伸ばす低木と意志を交わす。見てない、分からない……そしていないよ、と植物が囁き返す。
「ひとまず、ねこスライムはいないようね」
 同じく耳を澄ませて敵の気配をうかがっていた『真実穿つ銀弾』クロバ=ザ=ホロウメア(p3p000145)も頷く。
「おかしな物音も聞こえないな。近くにはいないんだろう」
 とはいえ、いつ現れるかはわからない。周囲の気配を伺いながら行く。
 妖精姿を取った『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)はぴょんぴょん跳ね回るバターカップに声をかける。
「一人で採取は危険だぞ。妖精嫌いの魔種がキメラとか使って、妖精の門を破壊したり、捕食しようとしているのに」
「デンジャラスの度合いだいぶやばいのね! あたしはわんぱんそくしってやつで倒されちゃうのよね。そして食べられて、ううっ……」
 変な妄想に走りかけたのを、『蒼剣の弟子』ドラマ・ゲツク(p3p000172)がさり気なくフォローする。
「本日は我々ローレットがお手伝いさせていただきます。ワンパン即死は無いですからね」
「そうだ。まあ、イレギュラーズが来たからには安心だ」
「大きい強い人がたくさんで頼もしいわ!」
 たちまち元気を取り戻したバターカップは、サイズの人差し指に飛びついて両手でぶんぶん振り回した。握手をしているつもりらしい。
 そうだ、とドラマは小さな紙包みを取り出した。
「バターカップさんは甘いものがお好きですか?」
「甘いもの……? みわくの響き!」
 妖精の期待に満ちた視線を受けて、包みを少し開ける。茶色い餡がつやつやと輝く丸いお菓子が覗いた。
「これは御萩と言う、旅人さんが齎したとても、とっても甘いお菓子なのです。このお仕事が早く片付いたら……宜しければ一緒に、如何ですか?」
「あたしの知らない甘いお菓子! 急いで花を摘むから一緒に食べようね」
 ドラマがお楽しみを予約したお陰で、途中で遊んだり昼寝したくなっても、未知のお菓子の魅力が勝ちそうだ。

 さくさく歩みを進める集団の後方で、『天然蝕』リナリナ(p3p006258)は大いなる誤解を抱えていた。
「バターちゃんの『お花摘み』に、何でわざわざ花畑に行くんだ……?」
 目的の場所は一時間もかかる森の奥、しかも魔物が荒ぶる迷宮森林である。
(村にトイレ無いのか?)
 人間用はあるだろう。妖精だって工夫すれば使えるし、緊急事態だったら物陰でアレコレすれば用が足せるだろう。それをわざわざ片道一時間の花畑を目指すのである。
(……きっと特殊が事情がある?)
 妖精には妖精の秘密の生態があって、花畑が重要だとか何とか。
 考えるほど謎が深まるばかりだ。
 飛び跳ねるバターカップを思案顔で眺めても、答えは見つからない。そもそも誤解から始まるミステリーなので正解は存在しないのだが。
「おー、コレは聞かない方が良さそうだな!」
 リナリナは首を左右に振って、ひとまず謎を棚上げした。


 警戒を怠らずにいたアルメリアとクロバだが、引っかかるものはまだ無い。
 順調な道のりを歩くこと小一時間。木立が途切れた先に目的の花畑が広がっていた。春を彩る花々があちこちで群生して野原を彩る。その合間を蜜を集めに来た蝶々やてんとう虫が忙しく飛び回っていた。
「さて、ヨウセイの服を作ったりするのに必要な花はどれかな?」
 メモ帳を片手に『無影拳』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)が尋ねる。
 えーと、うーんと、とバターカップは花畑を駆け回り、端の方で立ち止まると「このへんの花がいいわ!」と答えた。
「それじゃ、お花畑は保護結界で保護しておくわね〜」
 すかさず『遠足ガイドさん』レスト・リゾート(p3p003959)は妖精を中心に結界を展開した。戦闘のとばっちりで花が駄目にならないための心遣いだ。
「これは駄目、こっちは咲き終わり……あ、これがいいわ!」
 真剣に花を見ていたバターカップが選んだのは、薄い花弁が何枚も重なったラナンキュラスの花だった。
「花びらがくしゃくしゃになったら使えないからね、慎重に摘むのよ」
 彼女はラナンキュラスの茎を両手で掴むと、全力で引っ張った。抜こうとしているのか折ろうとしているのか、「ンギギギギ……」と頑張っているものの丈夫な茎はびくともしない。
「……私が採取しても構わないか? こう、ポキっと」
 見かねた『お前のようなアリスがいるか』蟻巣虻 舞妃蓮(p3p006901)はジェスチャー混じりに名乗りを上げた。お願いよ! とOKが出たので交代して、花を手折る。
「強い! 強いわ大きい人! すごいわ……。ええと、それで摘んだ花にキラキラの魔法をかけて保存したら、おうちに持ち帰るのよ」
 摘んだ花の前で手を振って「キラキラー」と唱えたら採取完了のようだ。
 一連の流れを観察したサイズは、バターカップの横にしゃがんで確認を取る。
「手順は了解だ。必要なのはラナンキュラスだけかな?」
「このヒラヒラのお花はよく使うから多めに摘むの。他の種類のお花も欲しいわ。長いのとか、つるつるのとか」
 抽象的な希望は解読が難しかったため、サイズは一冊のノートを広げた。今まで見てきた深緑の植物を纏めたノートだ。何度も深緑での事件を解決してきた関わりの深い人物だけあってノートは分厚く、知識と経験が詰まっていた。
「このノートに探している花は乗っているかな。種類がわかれば手分けして探しやすいと思う」
「わぁ……大きい妖精さんはお勉強熱心で、深緑が好きなのね。知らないお花も沢山あって目移りしちゃうわ」
 バターカップは目を輝かせてノートを読む。素敵! とか可愛い! とか歓声を上げながら脇道に逸れてゆくのを、サイズが適宜声をかけて軌道修正してやる。
 そのお陰で多少時間はかかったが、必要な花のリストアップが終わった。
 イグナートは手順と花の種類をメモにまとめ、イレギュラーズ用とバターカップ用の二種類を作り上げた。
「手間取ったらチェックしてね」
「はーい!」
 イレギュラーズのおかげで妖精の頭の中にあった手順は効率よく可視化されていく。


 後は作業をするばかり、という段まで来たが。
 ざわり、と森の木々が不快感を告げた。
「いる」
 アルメリアが植物の声を代弁する。クロバの耳も同時に『敵』を捉えていた。
「八時の方角だ、来た、一直線に来る、速い――」
 下生えの雑草を踏み荒らす足音が真っ直ぐ、花畑に向かって駆ける。
 それは銀色の矢のように現れた。
 シルエットを既知の生物で例えるなら猫、となるだろう。尖った耳に四本の足と長い尻尾。軟体動物じみた動きで飛ぶようにやって来る。
「銀色の不思議ネコ! リナリナこっちこっち!」
 リナリナが名乗りを上げる。ねこスライムはそちらを見ることもせず、バターカップを目指して駆ける。
「ぴぎぇやあああ!」
 ねこスライムの迫力にバターカップは悲鳴を挙げた。その直線上にサイズは割り込み、妖精を背後に庇う。
 噂に聞いてはいたが異様に素早かった。
「倒さなくて構わないって言われても、こんなの放っておくわけにいかないわよ」
 アルメリアの指先から魔性の茨が伸びる。ねこスライムを檻のように囲んだが、敵はにゅるりと細長い姿になって隙間を抜ける。
「こいつをぶっ飛ばせばいいんだよね!」
 さらなる前進を阻んだのはイグナートの拳だった。練った小麦粉のような心許ない手応えがする。
「ニャーアアア……」
 横に飛んでイグナートから距離を取ると、猫を真似たいびつな声で『それ』が鳴いた。
 足を止めたねこスライム目指してレストは走る。
「蟻巣虻ちゃん! ねこちゃんサンドイッチ作戦開始よ〜!」
「アレが敵で恐ろしい魔物? ……度し難い」
 レストにあわせて舞妃蓮もねこスライムに駆け寄った。舞妃蓮が背後からサバ折りよろしく敵を確保し、レストが正面から旅行鞄で押さえ込めば足止めの完了だ。
 素早い敵なら動きを止めてしまえばいい。作戦は成功だ。
「ニャ!」
 ねこスライムは暴れた。縮まったり伸びたりしながらもがいてもブロックは外れそうにない。
「ニャニャニャナン!」
 怒りの声を上げ、押さえ込む舞妃蓮めがけて猫パンチをお見舞いする。
 ふわふわの毛の間に隠れた柔らかな肉球の感触。おまけに素材(?)のせいかひんやり冷たい。
「うっ……」
 一瞬恍惚とした舞妃蓮だったが、続くパンチで正気に戻った。うっかり拘束が緩みそうになった腕に力を込めて、ギリギリと締め上げる。
 レストの方も猫パンチの雨を浴びていたが――
「あらあら〜? あまり……気持ちよくない……?」
 ひんやりふかふかな感触は伝わるのだが恍惚感はない。レストはしょんぼりと眉尻を下げた。
「そ、そんな……特殊抵抗が仇になってしまうなんて……」
 完全に捕まったと確認したねこスライムは伸びた。縦に。三メートルはあろうか。下半分を押さえられてその場から動けないが、激しく左右に揺れてイレギュラーズを威嚇する。
「逃げられると思うなよ!」
 クロバは地を蹴った。揺らめく炎のように魔力を帯びたガンエッジ・アストライアが敵を屠らんとする。一度はねこスライムの爪に弾かれたが、軌道を変えてさらに踏み込む。ざん、と小気味のいい一撃が決まった。
「珍しい感じの魔物……倒してしまいましょう!」
 ドラマの蒼魔剣が傷を広げる。ねこスライムの前足に半分ほど切り込みが入った。肉も骨もなく、つるんとした銀色が覗いている。

「ひえ……ひい……」
 間近で繰り広げられる戦いにバターカップは真っ青な顔で震えていた。
 距離はあるのだが、イレギュラーズの本気の戦闘だ。ほんわかゆるゆるな妖精生を送ってきた彼女にとっては刺激が強すぎた。
 小刻みに震える妖精をあやすように、サイズは人差し指でつついた。
「あれを倒すのも仕事だが、キミを守るのも大事な仕事だからな……完璧に守ってみせるさ」
「大きい妖精さん、すきー!」
 バターカップはサイズの腕にしがみついた。相変わらず震えは止まらないので、サイズの腕もなんだかぶるぶるすることになった。


 ふわっとした情報の中にあった『素早い』の文言は伊達ではなかった。
 攻撃を当てた、と思っても理不尽に形を変えて避ける。下の方を狙ってみても、命中率はろくに変わらなくて。
「理不尽だ……」
 舞妃蓮は呟いた。時間がかかるようなら今のうちに採取でもしてくれたら……とバターカップを見たが、サイズの腕にくっついてぶるぶるしている。戦闘が終わるまでどうにもならないだろう。
 そっちは任せた、サイズにアイコンタクトを送って押さえ込む腕に力を込める。

 当たらないなら当たるように工夫をするだけだ。
 アルメリアは暴れまわる長身の動きを観察し、予測して、アースハンマーを放った。回避のために変形したねこスライムの横っ面を、地面から生えた巨大な土塊の拳が殴る。
「それにしてもなぜ猫の形をしているのかしらね?」
 もっと強いモンスターや、非生物の姿だって取れるだろうに。厄介な敵なのに、猫っぽいだけで絵面がゆるゆるだ。
「いくら逃げ足が速くても押さえ込まれたら回避しきれないだろう! オレの一発は重いよ!」
 最初はイグナートが繰り出す拳をなんなく避けていたねこスライムも、五発十発になる頃には避けきれず被弾が増える。かする程度でも当たりは当たり、ふらついた隙に全力の右ストレートが決まった。勢いに押され長い体がさらに伸びる。
 粘土細工のようにぐにゃぐにゃしたねこスライムは、元の姿に戻ろうと縮みだす。
 敵に絶え間ない斬撃を繰り出しながらクロバは問いかけた。
「何故、妖精を狙う」
 迷宮森林で何かが起きている――最近のローレットに出入りする者なら誰もが感じていた。門をくぐって現れる妖精や、それを狙う妙な敵が同時多発。敵のことがわかれば事態の進展に繋がるだろう。
「目的は何だ?」
 質問を乗せた刃を一閃。
 駄目でもともと、と試みた対話に返事があった。
「『error』」
「お前は何者だ?」
 さらにクロバはガンブレードを振るう。
「『That information is not open』ニャア」
「他に仲間がいるのか?」
 クロバは猫パンチを避けながらいくつか質問を重ねた。エラーだとか何とか、返答はあるものの情報は一切出てこない。
「っち、分かり合えないか――」

 イグナートが拳を叩きつける。頭、喉、鳩尾とくっきり跡がつく。形を戻す動きがだんだん遅くなっているのは弱った証拠だろう。
「ニャー、ニャー、ニャー」
 わざとらしい猫風の鳴き声を発すと、ねこスライムはほとんど千切れていた前足を自分でかじり取った。体から切り離された足には短い触手が生え、一個の虫のような姿を取る。そして敵は長い体をばねにして、虫スライムを投擲した。
 虫スライム(前足)はイレギュラーズの頭上を飛び越え、着地すると森の奥へと全力疾走を始める。
「理不尽第二弾とか……!」
 舞妃蓮は思わずねこスライム(本体)をべしべし叩いた。
「逃がすか!」
「おー、銀色の虫! こっちも不味そうだ! リナリナ」
 とっさの判断でクロバとリナリナは虫の方を追いかける。アルメリアも動きを止めるべく茨を伸ばしたが、銀色の表面を茨がひっかくに留まる。
 現れた時と同じかそれ以上の速さで虫スライムは逃走した。
 余力をすべて注いだのだろう。ねこスライムはイグナートの拳を受けて、形を崩した。


 ゲル状に広がる元ねこスライムは沈黙したまま、もう二度と動かない。
 アルメリアは自然会話で植物に敵の存在を聞く。
(いないよ ぎんいろ いない)
 ひとまず危険は去ったようだ。
 大きい方は倒した。分体こそ逃したが、元の大きさの十分の一。危険も確実に小さくなっただろう。

「ねこスライムは倒したぞ。分裂したやつは逃げて、ひとまずここに危険はない」
 サイズは状況を知らせて、腕にくっついたバターカップを剥がした。
 妖精は辺りを見回し銀色のゲルに怯えたが、イグナートがつついても無反応なのを見てようやく笑顔を取り戻した。
 敵が一体だけとは限らないし、虫スライムが戻って来るかもしれないが――今が平和なら、妖精を落ち着かせて花の採取にかかるべきだろう。
「さて、花摘みをお手伝い致しましょうか。せっかくの良いお花畑ですし、終わった後に時間が許すのであれば……お茶会を開いて御萩を楽しみましょうね」
 ドラマの言葉にバターカップは御萩の存在を思い出し、一瞬でやる気に満たされた。
「お茶会! 御萩! 頑張るわ!」
 採取を再開してしばらく。クロバとリナリナが戻った。
「すまない、逃げられた」
 こちらも全力で追ったが逃げ足に特化した分体を捉えきれず、見失った。誰が追いかけても同じ結果になっただろうが、当事者になると悔しさがある。
 リナリナはバターカップとイレギュラーズが花を選び、摘んでは集める姿を見て謎が解けた。
「おー、本当にお花を摘んでたのか!?」
 隠語ではなくそのままの意味の花摘みだったのか。それなら村で用事が完結しないのも、一時間の遠出も納得である。

 結界のおかげで花畑は荒れずに済んだし、手順をメモにまとめたり必要な植物をリストアップしたりと効率化を図り、ついでに御萩のパワーでバターカップのやる気を引き上げたお陰で、さくさくと必要な花が集まってゆく。
「バターカップちゃん、まだ咲いてない蕾でもお目当てのお花になるかわかるかしら?」
「わかるわ。このラナンキュラスの蕾なんか、咲いてたら一番に選んでいたわ」
「ふふふ。それじゃあ、おばさんのギフトを披露するわね」
 レストは煌めく魔方陣を展開すると、お洒落な如雨露を召喚した。ふっくらとした蕾に水をやるとみるみるうちに花開く。
「みてみて、すごいでしょ〜?」
 きらきらと輝く水滴をまとった、豪華な八重咲きのラナンキュラス。バターカップは拍手した。
「美しいうちに摘みましょう」
 ドラマがそっと手折り、妖精の魔法をかける。

 順調に採取を終えた後は温かいお茶と御萩の共演で、イレギュラーズはつかの間の休息を楽しんだのだった。


成否

成功

MVP

なし

状態異常

レスト・リゾート(p3p003959)[重傷]
にゃんこツアーコンダクター
蟻巣虻 舞妃蓮(p3p006901)[重傷]
お前のようなアリスがいるか

あとがき

お疲れ様でした。
村の周囲はひとまずの平和を取り戻し、バターカップは材料を大量獲得できました。
ご参加ありがとうございました。

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