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シナリオ詳細

<虹の架け橋>白百合に悶え奏に死す獣

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ボス? フロア
 大迷宮ヘイムダリオンの奥で、深く重い音が響き渡る。獣の唸り声、だろうか。
 さながら、山の中腹に空いた大穴から風が通り抜けた時のような、大きすぎる笛から吐出された息の音のような。
 悩ましく苦しげで重い、音。何処か深い深い『飢え』を感じさせる音だ。
 迷宮の奥底に足を踏み入れる者は限られていよう。『その獣』の存在を知る者もおるまい。そして、会うことがなければ――その脅威を知ることもおそらくはないのだろう。
 それは幸運なことなのか、それとも必要を求める者にとっての不幸であるのか。
「キィィィマァァァ……」
 嗚呼、まただ。
 また、獣の哀しみの声が響く。

●※皆さんが見てるのは間違いなくヘイムダリオン攻略編です
『ねぇ、どうして!? どうして何も教えてくれなかったの? 友達じゃない!』
(少女A、横たわるBの頬をなぞる。指でなぞられた血の下から、じくじくと血が溢れてくる)
『「友達だから」だよ。私は貴女と友達でいたくなんてなかっ』
「あっ」
 ぶつん。その先の展開がどうにかなる前に、『ナーバス・フィルムズ』日高 三弦(p3n000097)の眼鏡越しに流れていた映像は途絶えた。イレギュラーズの一人が、彼女の首筋にチョップを入れたからである。
「何を見せられてんだよ俺らはよ」
「何って。依頼内容を説明するのにそこそこ重要な映像だったんですが……」
 今の女の子同士のやり取りがか?! 問われた三弦は、はいと大きく頷く。
「今回、新たに見つかったフロアにはかなり強力な敵対生物が潜んでいます。大型の亀のような姿で、四肢は逆関節で曲がったような歪さを持ち、顔はどこか逆立ちしたような上下反転の顔立ち。甲羅の上には多数の棘状の構造物が並び、その全てが赤く染まっているとのことです」
 どこかのエクソシストが白目を剥きそうな外見だが、亀の亜種らしい。おどろおどろしすぎる。だが、本当にアレなのはそこではない。
「背中の棘なのですが、よくよく確認すると……そうですね、人工物の塔型建造物に近い作りをしているそうです。先端には布が結ばれ、その……こちらの世界で一般的かはわかりませんが、相合い傘のようなものが立っている、と……」
 なんて?
「いえ、その……更に申し上げますと、尻尾の辺りに何故かハンドベル状の大型構造物があり、それによる音波攻撃もしてくるそうなのですが」
 そうなのですが?
「攻撃条件が『地雷を踏んだ時』だそうなのです」
 地雷? フロアに仕掛けてでもあるのか? と疑問符を浮かべた者と、「まさか」と理解した者、二通りの人間がいたことを述べておこう。
 おわかりいただけただろうか。
「その……その怪物がヘイムダリオンにおける強力な敵の一体であることは紛れもない事実なのですが、『百合恋愛の妄想』、いわゆる『少女同士、女性同士の慕情』を力強く語ることで相手の琴線に触れた場合新たな塔が生えて相手の肉体を苛み、中途半端、または地雷を踏まれた時は尻尾のベルによる音波攻撃で吹っ飛ばしてハメ技めいて壁に押し付け生かすことを許さないレベルでキレ散らかすという……」
 俺達はヘイムダリオンのボスを倒す依頼を聞きに来たんじゃなかったのか。
 じゃあ何か、強火の百合妄想を音楽と一緒にそれこそ吟遊詩人めかして語れば一石二鳥ってか分りやすいなコラ。
「……大体ご理解頂いてるじゃないですか、嫌だぁ……」
 嫌だぁ、とか三弦がいうと「うわキツ」感しか出ないのだが、プロの百合妄想家ならうまい具合に料理してそうでもある。

 料理とは?

GMコメント

 書いてて本当に混乱してきましたけど、敵の造形が狂いすぎててそれどころじゃないんですよね。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●勝利条件
・『ジーリョ・イルジオネ』に百合妄想を熱く語って聞かせて撃破する
・勝利条件を満たすまでの間に『百合地雷』を踏み抜くor『ナンセンストリガー』で倒れる参加者が半数以下であること

●ジーリョ・イルジオネ
 直訳すると『百合妄想』である(発音耳コピ並感)。
 背中に生えているのは今まで『刺さった』百合妄想の残滓である。いやどんだけ悠久の強火ヲタなんだ。HPは尋常じゃなく高い。たくさん妄想が聞けるね。
 なお普通に戦うとHARDくらいは余裕でいく強さを持ち合わせているが、百合妄想を語って聞かせると自滅する。
 ただし『ナンセンストリガー』を踏むとめっちゃ強いダメージとか与えてくる。
 余りに理不尽、唐突、理解不能な場合(ご都合主義は一定レベル可)、及びごくごく一部の『地雷』を踏んだ場合、『ナンセンストリガー』(尻尾ベル。神超域・万能・識別・ブレイク・必殺その他BS)が飛んでくる。
 この際、妄想と一緒に演奏とか交えて吟遊詩人めかすとダメージを減衰させられる。一部の性能もオミットされる。
 ある程度弱ったら背中の塔とか殴って押し込むといいとおもう。
 なお、仲間が生やした以外の塔を殴ると食らったダメージの半分をお返ししてくるよ。

●地雷
 多くの人が不快に思う(一般倫理観的な意味で。性的嗜好ではない)ものは大抵地雷。
 あとは『度が過ぎる(悲しすぎる・常識がなさすぎる・痛々しすぎる……など)』ものも地雷っちゃ地雷だけどそこは感性だし、最悪音楽で減衰させちゃえ。
 あ、別にPC的な実話は地雷じゃないです。

 さあ、妄想を叩きつけていきましょう。具体的には〇・パ〇デ〇みたいなのがみたい。

  • <虹の架け橋>白百合に悶え奏に死す獣完了
  • GM名ふみの
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年06月14日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

フェリシア=ベルトゥーロ(p3p000094)
うつろう恵み
サイズ(p3p000319)
妖精■■として
ミラーカ・マギノ(p3p005124)
森よりの刺客
アデライード(p3p006153)
移動図書館司書
御天道・タント(p3p006204)
きらめけ!ぼくらの
アルメリア・イーグルトン(p3p006810)
緑雷の魔女
アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)
Le Chasseur.
長月・イナリ(p3p008096)
狐です

リプレイ

●状況は決意の前に無力
「ィィィィ……マァァァァ……」
「ぜ……絶対普通に戦ったほうが早い…………」
 地を揺らす巨体。腹に響く鳴き声。そして威容というより異様と言ったほうが差し支えないその外見。
 それでもなお、『緑雷の魔女』アルメリア・イーグルトン(p3p006810)にとっては普通に勝てんじゃねーのコイツ、という感想が脳裏に浮かぶ。だってこんなナリでしんどい百合妄想オタクみたいな性質なの相手に妄想を話して聞かせるとか絶対時間の無駄じゃん。
「珍妙な。なんと、珍妙な……? 妖精さんの国には、本当に変な生き物がいるのです……ね?」
 アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)にとってもこの事態は困惑に値する。深緑においてそこまで頭の悪い案件に出会ったことはない。つまりは大迷宮ならではの生物ということになる……が、絶対こんなものレアケースだ。おいそれとこんな奇怪ないきものがいてたまるか。
「オーッホッホッホッ! ふむ、普段の敵とはひと味もふた味も違うお相手ですが……良いでしょう! このわたくし!」
  \きらめけ!/
  \ぼくらの!/
\\\タント様!///
「──に! お任せあれー!」
 『きらめけ!ぼくらの』御天道・タント(p3p006204)はこの状況でも割といつも通りだった。何を求められているのかを瞬時に察知し、妄想を結実させるために全力を尽くす。彼女はいつだってブレるということを知らなかった。
「まあ、恋のお話が、大好きな……実体験は記憶にない、です……が、楽しそうなお話なら、本で読みまし……た。
 それを女性同士に置き換えれば、よさそうでしょう、か……?」
「ふふん、あたしにとっては呼吸みたいなものよ!」
 『うつろう恵み』フェリシア=ベルトゥーロ(p3p000094)はよくわからないなりに、女性同士の恋愛をどう扱うべきか模索していた。結果、既存の知識の応用を決意するに至る。
 他方、『夜天の光』ミラーカ・マギノ(p3p005124)はそもそもが『そっち』に偏っている人間なので、呼吸となんら変わりない行為。理想を語れば大抵その手の妄想にリーチする。存在が勝者みたいなタイプだった。
「この戦いの為に、少女同士の恋愛模様が描かれた雑誌とか漫画を不眠不休で熟読して来たわ」
 『狐です』長月・イナリ(p3p008096)は既に、なにか多くのものを犠牲にしてここに立っている気がする。人、それをミーム汚染という。大丈夫なのだろうか。徹夜によるパフォーマンスの低下とか。
「何か新しい世界に目覚めそうだったけど、たぶん大丈夫!」
 こういう事言う場合は大抵大丈夫じゃないです。覚えておきましょう。
「悲恋の呪いをもった武器としては最悪の相性の敵だ……しかもよりによって……うん、俺はサポート演奏にずっと集中してるね、終わったら肩でも叩いてくれ……」
 存在自体が地雷原。『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)は自分とすこぶる相性の悪い敵の出現に酷く動揺していた。妖精郷のためであると繰り返し自分を説得し、即興で作った鉄の琴を構えていた。
 演奏技術何するものぞ、自らの意志こそが音をより良いものにする。腹をくくったサイズの目は、しかし決意に反して泳ぎまくっていた。
「求める物語を探し、お届けするのが司書のお仕事でございます――本日の私は語り部、聞き手の方はお静かに座ってお聞きください」
 『移動図書館司書』アデライード(p3p006153)にとって、この相手ほど自分と好相性な相手はそうそう居ないだろう。相手が物語の条件を提示しているのなら、自分はそれに見合う物語を紡げばいい。
 相手が気に入らないというなら、別のものを――それこそ求めるものに合うまで――語り続ければいい。
 難しいことなどなにもない。それが自分のあり方ならば。
「満足頂けるまで語り明かしましょう――」
「是非手短に片付けたいわね……」
 アルメリアはアデライードに言ったワケではなく、本心からとっとと終わらせたいなと思ったのである。

●物語るは萌芽の話
「じゃあ、例えば……。敬虔で堅物なシスターを面白がって、頻繁にちょっかいをかけてくる胡散臭い女とかどう?」
 アルメリアは概念は知っていたが、物語を紡ぐのにやや時間を要した。粘り強く待ってた敵はボスとしてどうなのか。
「シスターの性格いかんにもよるんだけど、最初はやっぱりつっけんどんに跳ね返したり、ちょっと弱気なら『おやめください……』って嫌がったりしてさ。私はどっちかっていうと後者の方が可愛いかなって思うんだけど」
 トップスピードの色気は後者、デレるとくっそ色気が増すのは前者であると思います。
 更にアルメリアの話はスピードを増していく。押す方の女性のバリエーション……女狐風なのかミステリアスな婦人なのか、も結構話を変えそうだ、なんて。
「胡散臭い方がいるはずもないのに恋人について聞いてきたり、なれなれしくスキンシップとかしちゃったりして。そんなことを続けてるうちになんだかんだシスターのほうが絆されてきちゃってさ。
 こんな事じゃあいけないってお祈りの間に首をぶんぶん振ったりしてるところとか意地らしくてかわいいと思わない?」
「ィィィィ……」
 みしっ。敵の背中に隆起が見えた。畳み掛けるなら今だ。
「その後は……そうね……。シスターのほうから『今日は何もしてこないんですか?』とか言っちゃったりして、『えっ……?』みたいな」
 キャー、と自分の言葉に首を振ったアルメリアと同タイミングで、敵の背に高々と塔のようなものがそびえ立つ。どうやらストライクだったらしく、意外と先端が鋭い。
「アアアアアア!」
(効いている……なら十分相殺できる……!)
 ずんずんと足踏みをする相手、ほんの僅かに揺れたベルは音波を吐き出すが、サイズは死力を尽くして演奏に力を込め、これを相殺……しきれず、僅かに額から血を流す。されど軽微。地雷を踏んでいなければこの程度だ。いける、と仲間達は確信を深める。
「私が話すのは、アイドルの百合営業から始まるガチ恋ね。主人公は小悪魔系ゆるふわ女子、相手は中性的美人クール系ね」
 ミラーカのそれは設定がブレないようだ。これはかなりの高得点が期待できる。
「アイドルは人気商売故、人気出そうな目立つ娘に絡み、仲良しアピールする訳ね。相手に近づいたのは計算尽く、百合需要を満たして人気取りに利用するの」
「ィィ……」
 僅かに踏み出したその足音に、ミラーカは「続けるわよ」とその目を見た。相手の目には狂気が孕み、見つめ合うだけで精神に負荷がかかるが、出だしだけで止められては堪らない。
「計算通り、自分の単推しのみならず、カップリングで相手側のファンも2推しとしてゲットして人気も上がってくるわけよ。でも……」
「でも、どうなるんですの!?」
 タントが思わず問う。イナリがかぶりつく様に寄る。
「自分からの百合営業だけじゃなく、相手から『もっと近づきなよ』とかスキンシップしたり、ファンの前で百合釣りコメントされるわけね。段々と意識して本気の好意を抱いて、相手からの営業が辛くなってきちゃうの。そうすると接触が遠慮がちになってきて、逆に不仲説や破局説が流れちゃうわけ」
 ガラン、と思わず鳴ったベルの音波がミラーカを叩くが、吹き飛ばされもしないし全身から血が吹き出す程度で済んだ。この敵繊細ヤクザにも程がある。
「そしたら裏でこっそり『もっと利用してくれていいよ。人気欲しいんでしょ?』って言われて強気な押しに動揺してドキドキしてたら、沈黙に不安になったのか見たことない弱々しい表情で『貴女は色々計算してるのかもしれないけど、私はずっと本気だから』って、小悪魔に利用されてるのに気付きつつ、クールさんは最初から好意を抱いてたの打ち明けるの」
 つまり――リップサービスは本心、クール系は最初から惚れていたのだ。そしてファンは二人の本当の気持ちに気付いている……!
「~~~~~~~~!!」
 サイズの演奏が加速する。絶対百合妄想でダメージを受けているのはジーリョよりサイズな気がするのだが、その演奏でかなり貢献してるのも事実。気持ちで技術を凌駕したりしなかったりしろ。
「それでは、お付き合いしたてや、意識したての頃の、『気持ち』のお話はどうでしょう、か」
 三番手、フェリシア。夢見がちな彼女の目は、もう追体験しているかのようなそれだ。
「一緒のお買い物も、おしゃべりも、ご飯も……お友達だった時と同じことをしているはずなのに、少しだけ関係が変わっただけで、そわそわしてしまう、ような。他の人達から見えるのと、本当とは、違うところを見ていて……」
 男同士とは違う。女同士の親しさは暖かさと安らぎに満ちたやり取りに見え、それでいて恋慕が絡むと一気に深みが増していく。そしてそれは、お互いの相手への想いにも影響する。
「特に、お互いを意識し始めたぐらいなら……『相手は今どんな気持ちなんだろう』って、そっとお相手さんの顔を伺って、目があってしまってあわあわするアクシデントがあります、し。少しの触れ合い、や、なにかを共有することひとつとっても、その意味が、大きく変わってしまう……とか」
 間接キス、些細な秘密の共有などの近付き、それでいて『恋人未満』なら、それを踏み越えても、相手の気持ちと自分のそれとの距離は近いのか、遠いのか意識してしまう。不安になってしまう。答え合わせで一喜一憂する。
「……そういう『恋の入り口』みたいなの、良いですよね……ね?」
 クリティカルだった。
 今日イチの高い尖塔がそそり立ち、僅かにジーリョの身が傾く。
「弱ってきたわね! このまま一気に――」
「わたくしの一人芝居で畳み掛けますわよー!」
 喉の調整は済んだ。シチュエーションの語りでは終わらない。流れるオルゴールにあわせ、手を広げた。
 タントの百合妄想が今、炸裂する。

●刹那い恋
「あの子とは別れたの?」
「そっか、バンドも、辞めたんだ」
「そのリップ、似合わないね」
「貴女だけ、大人になっちゃったみたい」
 語りかける、誰かに。ハスキーな声は、横恋慕していた相手の変化を嗤うような。
「私は、貴女の声に一目惚れしたんだよ。……一耳惚れ、かな」
「その声が漏れ出る唇を、一晩中想ったりもした」
 そこまで口にしてから、タントは拒否するように一歩引く。片手を拒絶の姿勢に。
「やめて」
「あの子とキスした唇なんて、絶対に触れてやらない」
 それは始まりというにはあまりに重く、終わりというには初々しく、恋愛というにはあまりに粘度と湿度が高い。迫る誰かの姿が見えてきそうだ。
「逃げ出したいよ」
「忘れてしまいたいよ」
「忘れられないよ」
「呼び止められたいよ」
「その声で」
 ――一同が息を呑む。フェリシアは生々しさに顔を覆い、イナリの目が見開かれる。
「だから」
「お願い」
「お願い」
 一歩、前進。
「耳元で、私の名前を囁いて」
「口付けよりも深いところに、貴女の愛を届かせて」

 尻尾が振り上げられた。
 すわ、地雷かと思った一同は、振り下ろされ、ヒビの入った鐘に驚きを隠せない。オルゴールの音と反射した鐘の音はタントを苛んだが、ジーリョの背からあふれる血と捻れた尖塔を見れば効果は明らかだった。

「では、私はとある天使のお話を」
 アデライードが前に出る。一瞬の緊張の後、話が始まる。

「あるところに少女を見守る天使が居りました。他の人には天使の姿を見ることが出来ませんでしたが、少女には天使の姿がはっきりと見えておりました」
 それは天使が見える少女の話。素朴な反応を返す少女に恋した罪深き天使の話である。
 天使は人とは交われない。翼を捨てるという罪深い選択肢に手を染めようとした天使は、無性である己として男になりたいと願う。されど、少女は女の子としての天使を望んだ。
「天使は悩み、悩み続けて……少女の言う通り女の子になりました。友として共に歩もうと決意しました。――その恋心を胸の中にしまって」
 女の子同士では恋心は成就できないと、天使は思ったのだろう。
 少女は『元』天使の体に触れ、髪に触れ、頬に手を添え――。
「ずっとこうしたかった」
 身振りを交えたアデライードは、首を傾げて前に倒す。
 天使だった少女と少女のシルエットが重なる幻覚を、誰もが見た。その効果を語るまでもあるまい……。

「かいつまんで、お話しをします。混沌へ来るよりも、前の話で……恐縮です、が」
 アッシュは思い出すように昔話を紡ぎ出す。相手と自分と、冬の青空の下で、どちらが提案するでもなくサボタージュに至った日のことを。
「良く開けた空の下は、とても寒くて。暖かな上着なんて気の利いたものは無くて。だから、ほんの少しだけ気を紛らわせる為に。お互い、身を寄せ合ったのです」
 『姉さま』の匂い、触れた手の感触は、彼女の胸の早鐘を打ったのだ、という。
 訓練を続けてきて知っていた喜び、恐怖、その他の感情よりもずっと確かな響きで彼女の鼓動を加速させたのである。
「……初めて、そんな気持ちを知ったのです」
 胸をきゅっと抑えたいじましい姿は、ジーリョが動き出すことを忘れるくらいには純粋な心の動きだった、様に思えた。

 イナリは自ら話すことなく、百合雑誌を式神にあつらえ、それに話させるという奇策を採った。ジャンルは数あれど、王道的な女学生の恋愛模様。
 少女と上級生とが一組となって信頼関係を築き……ありがちだが多くの人が支持するタイプのものだ。ああ、式神の原型がそれならそつなくこなすだろう。皆それで終わると思っていた。
「私にもそんな素敵な上級生のお嬢様的な人が居たら嬉しいわね……そしたらその人に甘えて、抱き付いたり、抱きしめられたり」
 突如として語り始めるイナリ。肩を抱くイナリ。首をかしげる。
「『イナリ、貴女はとても可愛らしいわね、食べてしまいたいわ……』なんて甘々な展開に……違うわね、私がお嬢様を押し倒して『下級生に大人しく押し倒されるなんて、御姉様は狐さんに食べられたいのですか?』って逆転の立場も、そして御姉様は私を受け入れてしまう…うふふふふふ、実に素敵、イナリパーフェクトな展開よ!」
 ぶんぶんぶんぶん。照れ隠しのあまり腕を振ったイナリの剣が炎を纏い、捻れた塔に飛んでいく。それから次々と炎が飛ぶ。
「えぇーい手間取らせて! 恥ずかしいったら! 死になさーい!!」
 アルメリアが吠える。イレギュラーズもここぞとばかりに攻勢を強める。イナリの妄想はむしろ本人の破壊力によりジーリョをめっちゃ傷つけている――!

 迷宮の一角に新たな墓標が、その日建てられた。
 『百合妄想』の墓標。数多の妄想とそれを受け入れた偉大なる怪物の、それが顛末。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

ミラーカ・マギノ(p3p005124)[重傷]
森よりの刺客

あとがき

 どこを削れっていうんだよ。

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