PandoraPartyProject

シナリオ詳細

うそつきリンカ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「きゃーっ、魔物よ! 魔物が来たわ!」
 絹を裂いたような悲鳴が森にこだまする――虹のサークルの付近、草花を摘んでいた小さな妖精たちが、手にしていたそれらを放り出し、一斉に羽をはばたかせて、空へと飛び出した。
「魔物よ! 魔物だわ!」
 ぱたぱたと飛んでやって来る、一人の妖精の少女――口調とは裏腹に、その表情に焦燥感は見受けられない。むしろ逆。その表情は、愉快気な笑いを浮かべている。
「リンカ! リンカだわ!」
 上空へと飛び散っていた妖精たちが、その妖精の少女、リンカの登場を確認すると、慌てて地へと降り立ってきた。
「うそつきリンカ!」
 ぶぅぶぅと、口々に怒りの声をあげる妖精たち。その様子がおかしかったのか、リンカはケタケタと笑った。
「騙される人が悪いんじゃない! だいたい、ちょっと考えればわかるでしょ? こんな森の奥の『妖精郷の門(アーカンシェル)』まで、魔物が来るわけがないわ! 」
 つまり、魔物が来る、というリンカの言葉は、嘘だったという訳だ。うそつきリンカ、と彼女が呼ばれていることを見るに、リンカは嘘の常習犯という事なんだろう。
「酷い! 今に天罰が下るわよ!」
 妖精たちが非難の声をあげても、リンカはどこ吹く風と言った様子だ。
「あははは! そんなもの、落ちませんよーだ!」
 ケタケタと笑いながら、リンカはどこかへと飛んでいくのである。


「イレギュラーズさん達は、どんな依頼でも聞いてくれるって聞いたわ!」
 と、深緑はとある村に呼び出されたイレギュラーズ達は、そこで数名の妖精たちと邂逅した。妖精たちは、例外なく怒りをあらわにし――と言っても、可愛らしく感じる程度のもであったが――、それを隠そうともしない。
「えーと。なんでも、うそつきリンカ、という妖精の子を懲らしめてほしいそうで……」
 と、妖精たちを宥めつつ、『小さな守銭奴』ファーリナ(p3n000013)は言った。
 なんでも、妖精たちの仲間に、リンカ、という名前の者がいるそうなのだが、このリンカ、たいそうな嘘つきらしく、仲間達も困っているのだという。
「外の怖い人に怒ってもらえば、きっと懲りるのだわ!」
「外の怖いイレギュラーズさん、リンカをめっ、ってしてほしいのだわ!」
 懲らしめる……と言っても、本格的な懲罰を求めているわけではないのだろう。そこは子供らしいというかなんというか。とにかく、リンカが嘘をつくのを止めるように、叱ってほしいという訳だ。
「リンカなら、今は『妖精郷の門(アーカンシェル)』の近くにいるのだわ。案内するから、一緒に来て!」
「えーと、まぁ、そんなわけなのですが」
 ファーリナは少々困ったような顔をしつつ、
「これも立派なお仕事です。という訳で皆さん、よろしくお願いしますよ!」
 と、イレギュラーズと、妖精たちを送り出したのである。


「きゃーっ、魔物よ! 魔物が来たわ!」
 『妖精郷の門(アーカンシェル)』、その近くの森に、リンカの声が響き渡る。
 しかし、今はその声にこたえる者はいない。門の先から、誰かが助けにくることもない。
「魔物よ、魔物……どうして! どうして誰もいないの!」
 しかし、そのことと場と表情には、今度こそ焦りの色が見えていた。
 リンカを追うように、現れたのは無数の影――狼とイノシシが歪に融合したキメラとか、ぐじゅぐじゅとうごめくスライムたちだ。
 今度こそ、本当に魔物たちが現れたのだ。しかし、リンカの言葉に気づく者はいない。
「誰か、誰か助けてーっ!」
 静かな森に、今度こそ本当の助けを求める声がこだましていた――。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 嘘つきな妖精、リンカ。
 彼女を懲らしめる依頼でしたが、嘘から出た実、本当に魔物たちが現れてしまいました。
 こうなっては仕方ありません。リンカを助け、ついでにちょっとお説教してあげましょう。

●成功条件
 魔物の撃退

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●状況
 皆さんは、うそつきリンカにお説教をするため、妖精たちに連れられて、森の奥の『妖精郷の門(アーカンシェル)』へとやってきました。
 しかし、偶然とは恐ろしいもの。このタイミングで『妖精郷の門(アーカンシェル)』のエネルギーを奪い取ろうと現れた魔物たちと鉢合わせしてしまいます。
 そしてその場には、魔物に襲われ逃げ惑うリンカの姿もありました。
 皆さんには、この状況を打破するため、魔物たちを撃退してもらいます。
 作戦決行時刻は昼。戦闘は『妖精郷の門(アーカンシェル)』付近で行われます。周囲は開けており、何らかのペナルティは発生しません。

●エネミーデータ
 キメラ ×10
  イノシシと狼を掛け合わせた歪なキメラです。何やら、何かを調査するような動きも見せていますが……。
  主に物理属性の近距離での攻撃を仕掛けてきます。毒のBSを付与することもあります。

 スライム×5
  毒々しい色をしたスライムです。神秘属性の遠距離攻撃を仕掛けてきます。
  火炎のBSを付与することもあります。

●NPC
 リンカ
  嘘つきな妖精。魔物たちに襲われています。
  戦闘能力はゼロですので、守ってあげてください。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加をお待ちしております。

  • うそつきリンカ完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年03月29日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者
鶫 四音(p3p000375)
カーマインの抱擁
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女
セレマ オード クロウリー(p3p007790)
性別:美少年
アビゲイル・ティティアナ(p3p007988)
木偶の奴隷
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃

リプレイ

●嘘つきへの罰
「だからね! だからね! わたしたち、いつも困っているのよ!」
「そうよ! そうよ! リンカったら、酷いんだから!」
 ぷんぷんと怒りを表情から体いっぱいで表現し、ぱたぱたと『真実穿つ銀弾』クロバ=ザ=ホロウメア(p3p000145)の周りを飛び回る、二人の妖精たち。
 リンカという嘘つき妖精を叱ってほしい。そのような依頼を受けたイレギュラーズ達は、依頼人の道案内の下、森の奥の『妖精郷の門』へと向かっていた。
 道中、妖精たちから聞かされるのは、如何にリンカに迷惑をかけられたかというスピーチ。その話の種は尽きることは無く、ついでに何度もループして、まるで子供たちに駄々をこねられる大人のような気持を、イレギュラーズ達は味わったかもしれない。
「わかった、分かったよ……もう、分かったから、勘弁してくれ」
 些かげんなりした様子で、クロバがぼやく。端から見れば微笑ましいが、まとわりつかれる側からすれば疲れる事この上ないだろう。
「ふふ。剣士に付き従う、道案内の妖精……物語の情景としては、素晴らしいものだと思いますよ?」
 くすりと笑って、『カーマインの抱擁』鶫 四音(p3p000375)が言う。クロバはたまらず、ぎょっとした様子で、
「冗談だろう?」
 と肩を落とした。
「でも、実際、ウソをつくのは良くないよね。まして、それがみんなを困らせちゃうなら、なおさら!」
 『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)の言葉に、妖精たちはそうよそうよ、と声をあげながら、今度はアレクシアの周りを飛び始める。
「イレギュラーズさんは正しいわ!」
「わたしたち、みんな困ってるんだから!」
 ぱたぱたと周囲を飛び回る妖精に、アレクシアは、わわ、と苦笑する。ターゲットがうつってしまったようだ。
「まぁ、説教するなら任せな! この怖い顔で、ちゃんと叱ってやるからよ! ぶははははっ!」
 『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)が豪快に笑うのに合わせて、妖精たちは「きゃーっ!」と悲鳴を上げた。どこか楽しげなのは、妖精たちがまだ幼いゆえだろうか。はたまた、そのお叱りが自分たちに向かないことを理解しているからか。
「で、でも、今回の仕事は、簡単そうだね」
 些か落ち着きなさげに、『木偶の奴隷処刑人』アビゲイル・ティティアナ(p3p007988)。
「まぁ、そうだね。ヨウセイをセッカンする……マカセテよ。心頭滅却すれば火もまた涼しコースとかオレもよく体験したからね」
 にこりと笑いながら、『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)が答える。
「ヨウセイくらいのサイズなら、かまどの火を借りればジュウブンさ」
「……それは、その、大丈夫なのかい?」
 『特異運命座標』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)が、苦笑しつつ尋ねた。なんというか、叱る、という事の認識がずれているような気がしたのである。火で……何をするつもりなのか。
 一方、妖精たちの次なるターゲットは、『性別:美少年』セレマ オード クロウリー(p3p007790)に変わっていた。ぱたぱたと周囲を飛び回る妖精たちへ、セレマは意図して大仰なポーズを取り、
「それだったらボクに妙案がある。嘘つきにはさらに手の込んだ、飛び切りの嘘をぶつけてやるのさ。そうしなきゃ嘘が悪いことだなんて気付けないからね。わかるだろう、妖精たち?」
 と、重々しく語るものだから、妖精たちはごくり、とつばを飲み込みつつ頷いた。
「む、むずかしいはなしなのだわ」
「どくをもってどくをせいするのかしら」
 覚えたての言葉を意味もわからず使うように、妖精たちは声をあげる。
「例えばそう、実はボクは然るやんごとなき国の王子なんだけども――おや?」
 大嘘など付きつつ、リンカへのアプローチのプランを練るセレマ。しかし、その言葉が突如、止まった。
 鼻孔をくすぐる、その匂いは、何かが燃えるような匂いだった。それも、木々が燃えるような、自然のそれに紛れて、人工の燃料が燃えるような、独特の臭気が漂っている。
「きゃーっ! 魔物よ! 魔物がいるのよ!」
 そして突然、甲高い、子供のような悲鳴があたりを切り裂いた。イレギュラーズ達は、思わず身構える――だが、妖精たちは、はぁ、と小さくため息をついた。
「リンカだわ、リンカだわ」
「またウソをついているのだわ」
 なるほど、これはリンカの声なのだろう。妖精たちによれば、しょっちゅう嘘をついて、皆を困らせている厄介者。
「……いや、そうじゃないな」
 しかし、妖精たちの言葉を否定するように、ベネディクトが告げた。ベネディクトの鍛え抜かれた聴力が、蠢く何かの存在を感じ取ったのだ。
「複数、いる……足音、それにこれは……這うような音?」
 超聴力と、今までの戦いで培ってきたカンが、ベネディクトに警戒心を抱かせた。そしてその言葉に、イレギュラーズ達の間に再び緊張が走る。
「同感だ……まずいぞ、これは嘘が現実になったかもしれない」
 同じく超聴力による確認を行ったクロバが、声をあげる。
「あるぜ、本気の恐怖の感情だ!」
 ゴリョウが、その能力を駆使してあたりを探る。
「さっきの悲鳴も、冗談とは思えない……皆!」
 アレクシアが声をあげるのへ、イレギュラーズ達は一気に走り出した。わずかな間をおいて、虹のゲートの周囲を飛び回る妖精と、そこに散開する魔物たちの姿が見えた!
「これはオオアタリだね!」
 イグナートが声をあげる。どうやら、噓から出た実、リンカのウソは、現実になってしまったようだった。
「おやおや、これでは教訓めいた物語のようですね」
 四音が思わず、声をあげた。確かにこれは、ウソをつき続けた妖精が、信用されずに魔物にひどい目に合わせれてしまう、という教訓めいた状況だ。とはいえ、その話の流れのままに、リンカを犠牲にするわけにはいかない。
「ど、どうする?」
 アビゲイルが声をあげるのへ、
「決まっている、助けるんだ!」
 クロバが告げる。
「となれば、さっそく始めよう。君たちは、隠れていてくれ」
 セレマが妖精たちへとそう告げると、妖精たちは「わかったわ!」「がんばって、イレギュラーズさん達!」と声をあげて、木々の裏へと隠れる。
「ゴリョウ君、ベネディクト君、合わせてくれたまえ。まずはリンカ君の前に出るよ!」
「ぶははっ! 応!」
「了解だ!」
 息の合った連係を見せる、セレマとゴリョウ、そしてベネディクト。言葉を交わした時には、既に3人は動き出している。
 セレマが謳い上げる、絶望の声が、リンカを包囲せんとしていた、イノシシと狼を掛け合わせたような歪な生き物……キメラたちを包み込んだ。魔力を帯びた歌声が、キメラたちを打ち据え、
「ぶははっ! おら、ここから先は通行止めだぜ!」
 ゴリョウはその巨体からは信じられぬ反応速度で、キメラたちの前に躍り出た。
「きゃ、きゃーっ! きゃーっ!?」
 突如現れた援軍に、リンカは事態を理解できずに悲鳴を上げるが、
「おう、あんまり怯えられても傷つくぜ!」
 ゴリョウはにやり、と落ち着かせるように笑ってみせる。
「あなたたち、助けに来てくれたの……!?」
 安堵の表情で声をあげるリンカ――。
「大丈夫かい? 動けるか? 怪我は? ──助けに来た」
 ベネディクトがリンカへと告げ、その背にかばった。突如現れたイレギュラーズ達に、キメラたちは敵意をむき出しにぶつけてくる。
「よっしゃ、まずはこいつだ! 気合入れろよ皆の衆!」
 ゴリョウの叫び。それが戦いの合図となった。

●森の奥の戦い
 突然の闖入者であるイレギュラーズ達に対して、キメラたちはしかし怯えるでも困惑するでもない。むしろ逆――どこか興味深げに、此方を観察している様子さえ感じ取れる。
「最近の依頼の報告書を見てると」
 アレクシアが声をあげた。
「ああいう、自然発生したとは思えない魔物たちによる襲撃が、深緑で発生しているみたいだね」
 イレギュラーズ達に相対するのは、イノシシと狼を組み合わせたような奇怪なキメラ、そしてどこか人工的な臭いを感じさせるスライムである。確かに、ぱっと見であるが、あのようなキメラが自然に生まれたとは考えにくい。
「何かウラがある……のかな? でも今は、一先ずあのモンスターを片付ければ良さそうかな!」
 イグナートの言葉に、仲間達は頷いた。この事件の裏にどのような思惑が隠されていようとも、今はあの魔物たちを撃退し、リンカを――妖精たちを救わなければならない。
 スライムたちが身体をプルプルと震わせて、何か燃料のようなものを吐き出した。それが宙を走ると同時に、一気に焔を巻き上げて、イレギュラーズ達へと迫る。
 身構えるイレギュラーズ達はそれぞれ武器を用いてそれを切り裂き、あるいははじき返して見せた。鼻孔をくすぐる独特の臭気――先ほど漂ってきた何かが燃える臭いは、どうやらこのスライムのせいの様だ。
「リンカさん、ケガをしていたら言ってくださいね。すぐに治しますから」
 治癒術式を展開しつつ四音が言う。
「さて、私がいる限り、誰も死なせはしませんよ。……いえ、悲劇的な物語も悪くありませんが、この物語を悲劇で終わらせるつもりはありません」
「頼りにしてるぜ? さぁ、来い、キメラども!」
 クロバは叫び、一気に戦場へ向けて駆けだす――応じるように、キメラがイノシシじみた突撃を敢行! 巨体による突撃へ、クロバはその黒紅のガンブレードを振るう。
 イノシシの突撃は厄介――だが、言い換えれば、それは直線運動しか行えぬ的も同然。
「舐めるな! その程度の攻撃で――」
 横なぎに切り捨てる――インパクトの瞬間に引き金を引いて、キメラの体内に銃弾をお見舞いする。爆発するような衝撃を受けて、キメラが吹き飛び、動かなくなる。
「俺を討ち取れるとは思うなよ、獣」
 一方、一斉に襲い掛かってきたキメラたちを、自身に誘引するように赤き魔力の花を咲かせるのは、アレクシアだ。
「さぁ、こっちだよ、狼さん達……いや、イノシシがメインなのかな……?」
 ぼやきつつ、魔力障壁を展開してキメラたちの攻撃を受け止めるアレクシア――そこへ飛び掛かるのは、イグナートだ。その右腕を存分に振るい、キメラを強かに打ち、叩き落す。
「どっちだろうね? いや、もうどっちでもナイのかな?」
 イグナートが笑う――キメラは吠え声をあげて、イグナートへと迫る。
「おっと」
 イグナートはその攻撃をいなしつつ、右腕で殴り飛ばした。ぐるり、と態勢を整えたキメラが、ぐるる、唸る。
「そう言えば、他のイライだと、オレ達の髪や血液を奪ってニゲル奴がいたらしいね……」
 どうやら、自身の身体組織は奪われていないようではあるが、警戒するにこしたことは無い。
「何が目的かは分らないけど、悪用されるわけにはいかないからね!」
 アレクシアの言葉に、仲間達は頷く――スライムたちによる炎の攻撃が、イレギュラーズ達へと降り注ぐ!
「わ、わ! くそっ、厄介だな、あのスライム!」
 炎を武器で振り払いながら、アビゲイルが言う――敵もまた、連携の取れた行動をとっていた。前衛のキメラたちに、後衛からスライムによる援護攻撃――。
「やはり、人の介在を感じさせるな。獣同士なら、こうもうまく連携はしない」
 クロバの言葉に、仲間達は頷く。
「どうやら、何かの陰謀なのは確実らしい……おっと」
 セレマへと、不意の一撃が迫った。キメラの牙がセレマの皮膚を切り裂き、その血をほとばしらせた――次の瞬間には、セレマの傷は治っていたのだが、キメラの牙にこびりついた少量の血は、変わらず存在している。
 キメラは一声、鳴くと、突如踵を返し、逃走の構えを取った。
「どうやらこいつらもそのようだね……」
 セレマはぼやきつつ、術式を編み上げる。
「どうします? 今ならまだ狙い撃つことも可能ですよ?」
 四音が声をあげるのへ、セレマは頭を振った。
「いや、あえて一匹くらいは、泳がせてみせるよ。ファミリアーを召喚した。こいつに追わせよう」
 セレマは召喚したネズミを走らせる――。

 さて、イレギュラーズ達の奮戦により、敵の数は徐々に減っていった。
「さあ、皆さん、もうひと頑張りですよ。元気になってください、ね?」
 四音の回復術式が、イレギュラーズ達の体力を回復させ、立ち上がる活力を生み出す。
「うおおおっ!」
 雄たけびと共に、クロバがキメラを斬り捨てた――激しく血を吹き出し、地に、どう、と倒れ伏す。
「敵の前線に穴が開いたぞ! スライムどもを頼む!」
 クロバが叫ぶのへ、
「応、残るキメラは俺達で抑えるぜ!」
 ゴリョウが応える。
「だ、大丈夫なの!?」
 リンカが悲鳴を上げるのに対して、答えたのはベネディクトだ。
「任せろ。俺もまだ未熟だが、簡単に倒れてやる程安くはない!」
 その軽槍をかざし、残るキメラたちへと立ち向かう。
 一方、突撃するイレギュラーズ達へ向けて、スライムたちが応戦の炎を吐く。
「――ッ!」
 鋭く呼吸を吐きながら、イグナートの右腕がスライムを粉砕する――四散したスライムは、元に戻ることも叶わず地にしみていく。
 残るスライムたちは、やけっぱちになったように体当り攻撃を敢行する。体にまとわりついたスライムを、イレギュラーズ達が振りほどく――そこへ、アレクシアの魔力の花弁が打ち据えた。
「今ので、血を奪い取れた……つもりだった? もう逃がすつもりはないよ!」
 スライムがその身体を維持することができず、地にしみていく――その水分を栄養にしたみたいに、魔力の残滓がささやかな花を描いた。
「こ、このおっ!」
 アビゲイルの拳が、スライムを叩き潰す。
「や、やった! これで残りは――」
「コイツだけだ!」
 ベネディクトが槍を振るう。突き出された刃が、キメラの肉を抉った。ぎぎ、とキメラは悲鳴を上げつつも、最後の断末魔、突進を敢行する!
「此処でこれ以上、暴れさせる訳には……ッ!」
 ベネディクトは再度槍を振るい、正面からキメラの突撃へ、刃を突き出した。衝撃がベネディクトの身体を駆け抜けるが、しかしそれは些細なもの。自らやりに突撃した形となったキメラがは、その身体を切り裂かれ、地に倒れ伏すこととなる。
「す、すごい……やっつけちゃった……」
 リンカが驚きの声をあげるのへ、ベネディクトはくすりと笑った。
「ああ。どうだい、約束通り、ちゃんと守れただろう?」
 ベネディクトの言葉に、リンカは何度もうんうんと頷いた。
 果たして――イレギュラーズ達は、リンカを守り抜くことに成功したのであった。

●静かの森で
「うえええ、こわかったよぉぉぉ」
 静けさを取り戻した森の中、リンカの泣き声がこだました。
 緊張の糸が切れたのだろう。戦いが終わったとみるや、リンカはぽとり、と地面に降りて、そのまま泣き出してしまったのだ。
「やれやれ、やっぱり子供だな」
 ベネディクトは苦笑しつつ、リンカの頭を撫でてやった。
「さ、もう大丈夫だ……」
「うう、ぐす、ぐす」
 リンカがしゃっくりなどをしつつ、頷いた。
「さて……無事に終わったのは良いがな! 俺たちは、お前さんに説教しなくちゃならん! あんまり嘘ばっか言ってると、今度は本当に、食っちまうぞ」
 ゴリョウの言葉に、リンカはびくり、身体を震わせた。
「今回、お前が嘘をつき続けてたから誰も信じてくれなかった。だから、誰も助けに来てくれなかった……分かるな? 嘘をつくってのは、それだけ……信用を失わせる行為、って事なんだ。そして失った信用は、そう簡単に取り戻せるものじゃない」
 兄が妹を諭すように――優しく、しかし威厳たっぷりに。クロバの言葉に、リンカは、
「うう……はい……」
 と、頷いた。
「信頼出来るヒトっていうのは、自分への信頼に応えようとするヒトなんだよ。ウケウリなんだけれどね」
 イグナートが頷きつつ、そう告げる。
「信じてくれたヒトへ返したオコナイだけが、最後にリンカを助けてくれるんだよ」
「はい……」
 リンカはしょぼん、とうなだれた。そんな様子を見て、ゴリョウは、ぶははっ、と笑い声をあげる。
「まぁ、説教はこれくらいにしといてやるか! 反省すれば、旨い飯食わしてやっからよ! 友達も一緒にな!」
 ゴリョウの言葉に応じたように、隠れていた妖精たちも飛んでくる。
「もー、ばかよ! ばかだわ、リンカ!」
「もう、これに懲りたら嘘ついちゃ、めっ!」
「うわあああん、わかったよぉ!」
 妖精たちのやり取りに、イレギュラーズ達は笑顔を見せるのであった。
 一方――。
「ど、どうですか? やっぱり……」
 アビゲイルが声をあげるのへ、
「うん。やっぱりこれ、人工の魔物みたいだよ」
 残された死体を確認しつつ、アレクシアが頷いた。
「ファミリアーの方は……だめだ、潰された。見失ってしまったよ」
 セレマがぼやく。
「とはいえ……これではっきりしたね。何か、人が、この事件の裏で蠢いている」
 セレマの言葉に、仲間達は頷いた。
「……ふふふ、面白くなってきましたね。新たな物語の始まりを予感させますよ」
 四音がそう言った。
 新たな物語――その戦いの始まりを予感しながら。
 ひとまずイレギュラーズ達は、妖精の少女の無事を喜ぶのであった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 リンカもすっかり懲りたようで、とりあえずしばらくは……嘘をつくことは無いでしょう。

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