PandoraPartyProject

シナリオ詳細

最果ての夜

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ――夕刻。
 木々がざわめき、鳥が羽ばたいた。
 大気が徐々に静かな青を湛え始めた頃。

 大陸西部には迷宮森林が広がっている。
 大自然の掟を知らぬものを拒み、立ち入ったが最後出ることすら適わぬとも噂される恐るべき大森林だ。
 そんな深緑(アルティオ=エルム)と呼ばれる地域では、大樹ファルカウを中心に幻想種(ハーモニア)達が静かに暮らしている。
 閉鎖的で謎めいていた深緑が門戸を開いたのは、さほど古い話でもなかった。
 以来、ローレットのイレギュラーズは、幻想種達の問題を次々に解決してきたのだった。

 迷宮森林には幻想種達が暮らす集落が点在している。
 村々は霊樹――ファルカウには遠く及ばぬまでも――を中心に形成されていることもある。
 そしてこのルマリエ=フォリオも、そんな村の一つだった。
 森と共生する人々とて、草木や動物の命を頂いて暮らしている。
 例えば三児の父ロフィリオは朽ち木で家屋を修繕したり、雑貨をこしらえたりする役目を担っている。
 年若い娘のミウ=ファシェリは果実をもぎ、種は丁寧に選別して育てている。
 こうして彼等は森から授かった恵みを余すことなく、最後の一欠片まで大切に扱うのだ。

 朽ち木は家屋に、廃屋はタンスに、お次は小箱に――
 永遠に続くかと思えるサイクルの中で、しかしついにその役目を終える品物も存在する。
 すり減った食器、薄くなりすぎたまな板、破損した髪飾り――そういったものだ。
 それらを灰として土へ返す際に、彼等は年に数度だけ『火』を使うのである。
 彼等は焼却の儀式を炎夜祭、あるいは借り受けたものを精算する報いの夜――終焉の帳(レコニング・ナイト)と呼んでいた。
 こうして灰は土へと還り、草木の栄養分となって再び芽吹くのである。
 祭りの主役は炎と宴。
 それから――


 少女が村の小道をゆっくりと歩いている。
 玉のような光精を宿したランタンを片手に、伝統の装束を纏って。
 今回の巫女役を務めるミウ=ファシェリは祭りの主役である妖精を向かえるため、祭場へと進んでいた。
 普段は何もない石の祭壇は、まばゆい虹のサークル『妖精郷の門(アーカンシェル)』を顕現させている。

「じゃじゃーん! ストレリチアなの!」
「わっ……!」

 現れた妖精ストレリチア(p3n000129)の声に驚いたミウ=ファシェリがよろめいた。
「ごめんなさいなの、びっくりさせたの」
「くっふっふ。娘さんじゃな。うちの若いのが悪かったの」
「おじゃま……します……です」
「いいえ、大丈夫ですから。あ、妖精の皆さん。ようこそルマリエ=フォリオの炎夜祭へ!」
「お酒とご馳走なの!」
「くっふっふ。たらふく飲ませてもらうからの!」
「飲み比べなら……まけま、せん……」
 門から現れた妖精は三人だ。それぞれ蝶の翅を持つ少女『花精』ストレリチア、消えぬ暖かな炎を纏った老人『炎精』ブレイゼイン、それから全身真っ白な美しい女性『雪精』スノーホワイトと言うらしい。
 いずれも小人。今は精霊種(グリムアザース)と分類するのが正しかろう。

 ――うなり声。

 和やかな雰囲気は、しかし突然の咆哮によって打ち破られた。
 茂みから現れた魔物が牙を剥き、一同をねめつけ。

 だが――


 時はしばし遡る。

「それで私達は、村のお祭りに参加すればいいのね?」
 ギルドローレットで『冒険者』アルテナ・フォルテ(p3n000007)が情報屋に念を押す。
 一行はこの日、深緑からの依頼を受けていた。
 内容をかいつまめば『小さな村祭りの警護』である。

 そもそもの事の発端はイレギュラーズが妖精を助けたことだ。
 つい先日。ストレリチアという妖精が魔物に襲われ、深緑の迷宮森林警備隊に保護されるという事件があった。ローレットのイレギュラーズは深緑からの依頼で魔物を退治し、ストレリチアを妖精郷の門に送り届けたのだった。道中でイレギュラーズと打ち解けたストレリチアは、門の向こうを『妖精郷アルヴィオン』だと語ったのである。

 深緑では古くから妖精伝承が囁かれている。
 幻想種達の中でも知る人ぞ知る、なかなかにめずらしい存在であったようだ。
 従来であればそうした妖精に関連する集落は、独自の文化と采配で妖精と交流を続けてきた。
 だがいくらかの事情が重なり、妖精達がイレギュラーズの前に姿を見せることになったのだろう。
 このところ各地の魔物が強くなっているという感触があり、誰が呼んだか『アークモンスター』等と表現する向きもある。ともあれそうした魔物に深緑の迷宮森林警備隊もほとほと手を焼いているらしい。個々の村々では――それも狙われるのであれば――なおさら手に負えまい。
 また別の依頼では門を破壊する魔物が、魔種(デモニア)の少女に操られていたという報告もあった。
 攻撃には何か人為的(魔為的と呼ぶべきか)なものを感じざるをえない状況でもある。
 二つの事件を皮切りにして、魔物が妖精郷の門を狙うという問題が発生しはじめたのだ。

 そんな訳でイレギュラーズは迷宮森林の集落に赴くことになった。
 祭りを警護して、もしも魔物が現れたならばすかさず退治するのだ。
「お祭りってどんなのなの?」
「ああ、それはね」
 アルテナの問いに情報屋が答えた。
 どうやら村では祭りの際にご馳走を用意する風習があるらしい。
 村の住人はイレギュラーズに敬意を抱いているらしく、祭りに参加してほしいと告げてきたのである。
 何か役目を担うという訳でもなく、単にご馳走が振る舞われるという話だ。
 一緒に歌って踊ったっていい。嬉しい役得という奴なのだ。

「それじゃさっそく行きましょ!」
 振り返るアルテナに、一同は力強く頷いたのだった。

GMコメント

 pipiです。
 ちょいゆるNORMAL。
 敵は一応難易度相応なのでご注意を。

●目的
 魔物を退治することです。最低限、追い返せば良いです。
 あとは折角お祭りなのですから、遊びましょう。

 メタですが。プレイングの『戦闘』と『お祭りで遊ぶ』を半々ぐらいにすると良いでしょう。
 まあー。若干偏らせるなら『遊び』側を多めにするほうが、きっと楽しいですよ!

●ロケーション
 迷宮森林にある、ハーモニア達の小さな集落です。
 あまり火が好きではないようですが、年に数度だけ村の広場で炎を炊くをする風習があるようです。

 時刻は夕方~夜。
 村の中なので灯りや足場の心配はありません。

『戦闘フェーズ』
 そんなこんなで妖精をお迎えした村ですが、祭壇が魔物に襲われてしまいます。
 皆さんはイイ感じに格好良く登場して、魔物をバッチリ退治しましょう。

『お祭りフェーズ』
 さて。無事に退治したらお祭りです。
 お祭りといってもやることは、おしゃべりして飲み食いするだけです。
 村人達は、この日ばかりは火を使った食事をここぞと楽しむようです。
 炎を囲んで妖精と蜂蜜酒(ミード)を酌み交わし、暖かな野牛のシチューやローストビーフを頂きましょう。
 キノコや根菜など、森の幸をふんだんにつかった串焼きなんかも魅力らしいです。
 果物のジュースや暖かなお茶も良いですね。
 あとこのルートビアは、好き嫌いが分かれるかもしれませんが。

 あとは村人が奏でる素朴な音楽に合わせて手拍子したり踊ったり。
 どこか郷愁を感じる短調のドリア旋法が特徴的です。

 イレギュラーズの皆さんに興味津々の村人に、冒険譚や日常の話を語るのも良いでしょう。
 楽しんだ者勝ちです。

●村人達
 温和なハーモニアの人達です。
 イレギュラーズの皆さんに興味をもっており、歓迎ムードです。
 仲良くしてあげてください。

●敵
『ドライアド』×4
 魔物の気にあてられて怒っている精霊です。
 倒せば鎮められます。
 蔦で足止めしてくる他、麻痺する花の香りを範囲に撒き、また槍のような枝で至近攻撃も行います。
 死ぬもんじゃないので、可哀想ですがボコ殴りしましょう。

『ルクスリア・ワーム』×6
 ミミズのような胴体に獣のような足。
 コウモリのような、けれど飛べない羽をもつ醜悪な魔物です。
 激しい接近攻撃を行ってきます。

 なんとなくだけど、野生の魔物じゃないような。

『メルクリウス・ウーズ』×1
 銀色のスライムです。
 うねうね動きますが非常に硬質という不思議なヤツです。
 身体の一部を鞭や槍のように伸ばして中距離攻撃してきます。毒を持ちます。

 なんとなくだけど、野生の魔物じゃないような。

●妖精達
 イレギュラーズの皆さんに興味をもっており、非常に友好的です。
 仲良くしてあげてください。

『花の妖精』ストレリチア(p3n000129)
 じゃじゃーん! おそらがとべるの!
 すこしだけど魔法とかもつかえるの!
 とのことです。
 実は飲酒可能な年齢です。

『炎精』ブレイゼイン
 消えぬ暖かな炎を纏った老人です。
 30センチぐらいのおじいちゃんです。
 豪快な性格です。
 炎は触っても火傷しません。なんか生ぬるいです。
 若干戦えないこともないです。若干。
 ひたすら度数の強い酒が好みです。

『雪精』スノーホワイト
 それから全身真っ白な美しい女性です。
 ちょっとおどおどした性格です。
 30センチぐらいの雪女を想像すると良いでしょう。
 さわると少しひんやりしています。
 若干戦えないこともないです。若干。
 お肉が好きで、割と度数の強い酒が好みです。

●同行NPC
『冒険者』アルテナ・フォルテ(p3n000007)
 両面型前衛アタッカー。
 Aスキルは格闘、飛翔斬、ディスピリオド、剣魔双撃、ジャミング、物質透過を活性化。
 皆さんの仲間なので、皆さんに混ざって無難に行動します。
 具体的な指示を与えても構いません。
 絡んで頂いた程度にしか描写はされません。

●諸注意
 未成年の飲酒喫煙は出来ません。
 UNKNOWNは自己申告です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 最果ての夜完了
  • GM名pipi
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年03月12日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ドラマ・ゲツク(p3p000172)
蒼剣の弟子
クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)
安寧を願う者
シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)
蒼銀一閃
ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)
白き寓話
ヨハン=レーム(p3p001117)
おチビの理解者
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
アリア・テリア(p3p007129)
いにしえと今の紡ぎ手

サポートNPC一覧(2人)

アルテナ・フォルテ(p3n000007)
冒険者
ストレリチア(p3n000129)
花の妖精

リプレイ


 木々の間から差し込む夕陽は穏やかだ。
 徐々に角度を緩める太陽は、春の足音を伝えてくる。

「のんびりしていいところだね」
 背伸びと深呼吸一つ。『女王忠節』秋宮・史之(p3p002233)が振り返る。
 深緑(アルティオ=エルム)の呼気はすがすがしくて、気持ちよくて。
 ほっとした感覚が呼び起こすのは、鎮守の杜の想い出か。
 村は祭りの準備を終えたばかりであった。
「うんうん、このまま何事もなくお祭りになればいいのにね」
 いやなフラグを立てた『冒険者』アルテナ・フォルテ(p3n000007)はともかく、一行の仕事は祭りの警備にあった。
「そうだね……って、警備もがんばるよ?」
「そういえばそうね……!」
「ええ。お祭りを邪魔されるなんて大変だものね」
 二人に『お道化て咲いた薔薇人形』ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)が応じた。

 近頃妖精が現れるゲートを魔物が襲う事件が多発している。
 この案件ではゲート周辺にさえ気を配れば良いと情報屋が述べていた。
「運動するなら食事前がいいよね!」
「同感!」
 拳を握る『無影拳』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)にアルテナが頷いた。
 戦場は村はずれで夕食前という事になり都合は良い。

「儀式が終われば宴です」
 先導する村の巫女役ミウの足取りは軽い。
「楽しみだね」
 声を弾ませる『疾風蒼嵐』シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)にミウも頬をほころばせ。
「ルマリエ=フォリオの火夜祭、お聞きしたコトはありますが、こうして参加させて頂くのは初めてです!」 述べた『蒼剣の弟子』ドラマ・ゲツク(p3p000172)はかつて大樹の書庫で暮らしていた同族である。
「こちらこそ、参加いただけて光栄です!」
「いえ、そんな」
 感激を隠そうともしないミウの言葉にドラマはフードを目深に降ろして――
「こうした催しは嬉しいですね」
 助け船は『祈る者』クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)の柔らかな声音だった。
 ハーモニアとしては複雑な事情を持つクラリーチェだが、ともあれ深緑の小さな村は普段関わることのない場所と人々。関わることに純粋なうれしさを感じている。

「妖精さんかあ、お伽噺で有名だけど実物を目にするのは初めてだなあ」
 木漏れ日に目を細めた『その手に詩篇を』アリア・テリア(p3p007129)が呟いた。
「ええ、精霊種という話ですね」
「そういえば精霊種なら私と一緒じゃん!」
 ドラマの言葉にアリアは合点したといった表情を見せ、二人はくすりと笑い合う。

「もうすぐ到着です」
 質素な石の祭壇ではぼんやりとした円環が虹色に輝き始めた所だった。
「ははあ、アーカンシェル」
 ぽつりと零して。鉄帝人らしいと言うべきか、らしからぬと言うべきか。こんな珍しい仕事を任されて良かったのか等と、『砲兵隊長』ヨハン=レーム(p3p001117)考え込んで。

「じゃじゃーん! ストレリチアなの!」
「わっ……!」
「腕でゴメンね」
 よろめくミウを支えたイグナートが、ゆっくりと手をひらいて姿勢を戻してやる。
「ありがとうございます」
「ごめんなさいなの、びっくりさせたの」

 光冠から現れたのはヴァイスやシャルレィス、クラリーチェ達が知る小さな少女――
 かくして物語は冒頭へと交わる。


「こんばんは、魔物さんたち招待状は持ってる?
 今日はお祭りだからね関係者以外はお断りなんだ――なんてね!」
 掲げた魔剣蒼嵐は夕陽に輝き、蒼穹と黄昏のあわいを映し出す。
 胸を張るシャルレィスに答えたのは、ワーム共の獰猛な咆哮であった。
「噂には聞いているけど、キメラみたい」
 カトルセの剣を閃かせアリアが首を傾げた。
 奥で蠢く奇っ怪な粘体の怪物、そして魔物の放つ瘴気にあてられ怒りを顕にするのは樹精霊達。
「妖精さん達と巫女さんは下がって!」
「すまんの、任せたぞい」
「大丈夫! 警護に来てて良かった! お祭りの邪魔はさせないよ!
 村もみんなも、私たちが絶対守ってみせる!」

 一行は迅速だった。淡い色彩の可憐な身を翻し、ヴァイスの周囲に甘やかな花びらが舞い踊る。
「追い返しましょう……!」
 視界の向こうが揺らぐほどの魔力を束ね。
 美しい魔力の奔流が敵陣を貫き、戦いの火蓋が切って落とされた。
「そうですね……っ!」
 紡がれる歌。黒い炎――蛇骨の調が敵陣をなぎ払った。
 樹精霊が金切り声をあげ、炎に包まれたワームの数体が互いに牙を向き合う。

 残った醜悪なワームが矮小な飛べぬ翼をはためかせ、一行に躍りかかり。
「食事前の運動にはテゴロな敵だね。エンリョは要らないアイテだし、ハデに暴れようか!」
 大きく胸を張りドラミング(肉体言語)。
「ゴリラさんみたいなの!」
「ゴリラですよ、それ。ってのはともかく、皆さんは僕の後ろへ!」
 ストレリチア一行を守るように大盾を構えるヨハンの声。
「このさいゴリラだよ。うほーってね!」
 ひょっとして魔物と交信出来ないかと、イグナートは考えた。
 ダメ元だが、敵に恣意的なものを感じる以上は情報を引き出したい。
 躍りかかるワームをイグナートは拳で打ち落とす。衝撃に踵が地を抉る。
「なかなかハゴタエがありそうだ!」
「どうして暴れているのかしら?」
 薔薇道化の存在証明。万物との意思疎通を可能とするヴァイスの権能。
 一応尋ねてみたヴァイスであったが――
 両名に感じられた意思は強烈な隷従意識であった。
「操られてるってコトかい」
「――っ」
 そしてヴァイスの思考をちりりと灼くおぞましい気配は。
「……デモニアの気配……!?」
 ヴァイスの呟きに一同は戦慄を禁じ得ず。
 この魔物は魔種によるなんらかの思惑と通じている可能性が高く感じられる。
「これ以上はムダそうかな? じゃ、ヨテイ通りにぶっ飛ばそう!」
 イグナート、そして大盾を構えたヨハンへ怪物達が殺到する。

「招かれざるお客様には――」
 重なる声。ドラマとクラリーチェの視線は刹那、交わり。
「――さっと退場して頂きましょうか」

 ――――お友達、みぃつけた。

 クラリーチェの放つ黒の囀り。鈴の声音で闇は嗤い、樹精霊を捕え放さず。
 ドラマが紡ぐ書に謳われた嵐の暴威が顕現し、早くも一体が清浄な森気へと還された。
「アルテナさん。よろしくお願いします」
「任せて!」
 クラリーチェに頷いたアルテナが、次なる一体に剣魔の乱撃を見舞う。

 ――こうして僅か数十秒。幾ばくかの時が流れた。
 戦闘の推移は堅調とも安定ともほど遠い所にあった。
 ただしそれは魔物側にとってである。
 イレギュラーズとて敵の戦闘力にいくらかの傷は負っている。
 だが止まる事を知らぬイレギュラーズの圧倒的な猛攻は、敵を一歩、また一歩と追い詰めていった。
 可能性こそいくらか焼いたが、戦況は圧倒的にイレギュラーズ優位と言える状況だ。
「乱暴でごめんだけど、どうか落ち着いて!」
 シャルレィスの剣光が閃き、嵐の如き蒼の斬撃が敵陣を踊る。
「ふふふ――っ!」
 光の羽根が戦場にきらきらと舞い踊る。
 赤光を輝かせ、史之が躍りかかるワームへ理力の盾を叩き付ける。
 暴れ狂う怪物の膂力を押さえ込み――刹那、指輪が輝いた。
 邪しき力が障壁のこちら側から向こう側へと絡みつき、醜悪なワームを呪詛で蝕んだ。
「……って、こえーよ!」
 セルフツッコミ。今日の史之は『嫌がらせ要員』を決め込むも「ねえ、俺の幼馴染の君よ、おまえこのペアリングにホントなにぶちこんだの?」なんて。
 しーちゃんを守る指輪ですよ!

 傾いた戦いの天秤は戻らない。
 立て続けの連撃に、ワームは最後の一体となった。
「全力で叩き潰します!」
 たたみ込む頃合いだ。誇り気高き大盾と、親友の名を刻んだ長剣を高らかに構えて。
 ヨハンの小さな身体に紫電が駆け抜け、その切っ先へと集う。
 轟音と共に迸る雷撃。一閃。
 大気を焼き、寸断。二つの黒い塊と成り果てたワームは地を転げて煙を噴いた。

 触手のように伸ばす銀色の粘体の前。
「これでキメるよ!」
 風を切り裂き振り抜かれたイグナートの拳がウーズの身体にめり込む。
 とうとう形質を維持できなくなった怪物が銀色の液体になって飛散した。

「……水銀?」
 アリアがピンセットで慎重につつく。こんな野生生物がいるものか。
「出来るだけ回収しましょう」
「そうね」
 述べた史之にアリアが頷く。
 史之としては生け捕りにしたかった所だが、この様子では難しかったろう。
「仮に水銀だとすれば、慎重に片付けるべきでしょうね……」
 それそのものが森を汚染してしまうとドラマが頷き、アリアはその身体の採取を始めた。
「野生の魔物じゃないならば、この生き物はどこから来たのでしょうか。誰かが発生させた?」
 だとすれば、何の目的で。
「もしくはゲート等を通って別のところから来た……?」
「こりゃ郷里でも見たことないぞい」
 小首を傾げたクラリーチェに、炎精老ブレイゼインが応じる。
「あとはこっちのワームも……っ!?」
 転げたワームが突如アリアを食いちぎろうと跳ね飛んだ。アリアが尻餅をつく。
 ワームは僅か一本の髪の毛を咥え、森の奥へ消えていく。
「大丈夫!?」
「油断ならないね……」
 ともあれ身体の一部は採取出来た。
 それはきっと――お互いに。


 夜は更け、村人達と掃除を終えた一行は改めて挨拶を終え、ぱちぱちと燃える炎を囲んでいた。
「遅くなってすまんかったね、お客人方」
「いえいえ、お招き頂きありがとうございます!」
 ドラマが応じた。
「こちらこそ、大歓迎だよ! ところで皆さん怪我は大丈夫かい?」
「ダイジョウブだよ、この通り!」
 イグナートは村人へゆっくりとVサイン。一行は荒事に慣れて久しい、いずれもベテランだ。
 一通りの治療を終え、身体を清め服を着替え、あるいは借り受けて。
 いよいよ祭りの儀式が始まった。

「良い匂いですね」
 お腹をならしたストレリチアにアリアが応じた。
 他の村人達も、小声だが楽しげに話しているから問題はなかろう。
 儀式といっても、それほど厳粛というものでもないらしいのが幸いだ。
 ともあれ目の前で儀式と平行して鍋や串焼きが作られているのだからたまらない。

 儀式のほうは村長と炎精老、なぜかドラマが取り仕切っている。
 同族のよしみで手伝いを申し出たのだが、たまたま以前読んだ書から作法を知っていたのが良かった。
「この村のハーモニアなら、ドラマさんを見習ってきちんと焼けるようになるんだぞ」
 そんな風に語られた時のドラマの表情については、ここでは述べまい。
 ともあれ、村人達が家々から朽ちた小物を次々に持ち寄り、村長はそれを炎へくべ感謝の言葉を述べる。

 塵は炎へ。炎は灰へ。灰はやがて緑へと芽吹かん――

 なぜか教わり祈らされているクラリーチェは、客人ゆえ差し出がましくないように控えていたが。
 村長から頼まれてしまっては仕方が無い。おおらかな気風の村であるようだ。
「炎は正しく使えば恐れる物じゃないのですね」
「左様」
 村長が頷いて――
 奏でられている厳かな旋律が、郷愁の愁いを帯びた『分かりやすい』ものに切り替わる。
「メイン!」
「メインなの!」
 ここからが本番だ。
 アリアは解放された心地でストレリチアを頭に乗せている。ちょっと髪飾り気分で。
「髪の毛大丈夫だったの?」
「うん、一本だから」
「なでなでなの!」
「ありがとう」
 曲が鳴り止んだ。郷愁的な曲。短調のドリア旋法とくれば、これはどうだろうか。
 アリアは即興でヴァイオリンの演奏をはじめる。
「すごいの!」
 村人達が耳を傾けている。
「ねえストレイチアちゃん、妖精郷にも音楽ってあるのかな? あるなら是非教えてほしいな!」
「友達にハープ弾ける子が居るの!」
 耳よりな情報だ。せっかく妖精が居るなら、音楽を教えてもらって異文化交流を図ってみたい所。

 村人達は酒を持ち寄り、食べ物を配り始めた。
「こちらの皆様のお口に合うか分かりませんが……折角お招き頂きましたので」
「おいしそう!」
 クラリーチェが渡したのは焼いたパンだ。
 そのまま頬張る者、ほんのり火で暖める者。シチューやローストビーフと合わせる者。
「ストレリチアさんもお元気、そうですね……!」
「はいなの! お久しぶりなの!」

「炒飯作るよ!」
 史之言ってみたかったのだが、材料はばっちり。
 お祭りなのだし、たまには異国の味もと考えたのである。
 中華鍋の油に卵を落とし、ご飯と香味野菜に焼豚を加えて煽れば、歓声が飛ぶ。
「なんだいなんだい、美味しそうじゃないか」
「ピラフ? 焼きピラフ? 私もいい?」
 村人とアルテナが寄ってくる。
「どうぞどうぞ!」
「いただきまーす!」
 アルテナが美味しそうに頬張る。
「そういえばアルテナさん、改めまして久しぶり! 元気してた?」
「うんうん、久しぶり!」
 海洋ではずいぶんな目に遭った二人だ。
「助かったよ」
「史之さんもありがとう。って大丈夫? 提督に……って、これはやめとくほうがいいかな」
「……そうだね」
 じくり。何かが疼いて。
 史之は一瞬だけ、炎の向こう、遠い森の彼方へ滾る想いを馳せ――
「これからもよろしくね」
「こちらこそ!」
「おいし……そう……」
「妖精郷って、コメ食文化はあるのかな?」
 せっかくだから白雪精スノーホワイトに尋ねてみる。
「これは……はじめて」
「果物が好きなの! でもお肉もお野菜もパンも食べるの!」
 ストレリチアも寄ってきた。
 普段は花蜜や果物やなんかを食べているらしいが、深緑から食材を頂くことはあるらしい。
 細かくは人(?)それぞれに、千差万別だとか。

「ふーい! 酒じゃ酒じゃ!」
 炎精老が小さな腰をどかりと落とす。
「よっしゃ! 爺さん呑もう! どっちが強いかショウブだ!」
「ガタイが違うわ、お若いの!」
「ウデにかかえたブンがイッパイだ!」
「受けて立とうぞい!」
 イグナートと炎精老の飲み比べが始まった。
「お酒呑めるようになったらゼヒ一緒に呑もうね!」
「とことん付き合ってもらうんだから!」
 アルテナがイグナートの背を叩く。
「私は呑むの!」
「また会えたね! って。え? ストレリチアさんお酒飲めるの!?」
「はいなの! へっへーんなの!」
「すごーい! 私はまだだから果物のジュースで!」
「私もジュースかな」
「僕もですね」
「しょうがないですからね」
 元気いっぱいのシャルレィスにほんのり寂しそうなアルテナとヨハン、史之。
「じゃあ私達は食べる係! 美味しそうなお肉もいっぱいだし、今日は食べるぞー!」
「おー!」
 シャルレィスの宣言に未成年組は力強く頷いて、グレービーソースの滴る暖かなプライムリブを頬張った。
「ローストビーフ! ローストビーフがあれば人間はハッピーになれるんです! キノコもいいですね!」
 舌の上で踊る旨味と、鼻腔を擽るホースラディッシュの香りと――

「炎精老さんには幻想から、悪霊火酒と呼ばれるお酒をご用意しました!」
 ドラマからの差し入れ、危ないヤツだ。
「おっほー! こいつはたまらんぞい!」
 このじじい、燃えながら呑んでやがる。
 
 色々な物を少しずつ頂きながら、ふと考えるヴァイス。
 両手から現れた花びらが、楽曲に合わせてふわふわ踊る。
 普段はあまりやらない大道芸だが、せっかくのお祭りだ。
 わいわいと人々が集まってくる。
「それ……どうやった……の?」
「ふふ、秘密よ!」
「じゃあ、飲み比べ……勝ったら、おしえてね……」
「それなら、こんなのはどうですか?」
 ドラマが白雪精とヴァイスに凍らせた葡萄の果汁を使った甘いColdFireを振る舞って。
「ありがとう……それなら、これを……」
 ドラマはシャーベット状のジュースを受け取って一口。
 優しい甘みにエグいアルコールが隠れている。キンキンに冷えたフローズンカクテルだ。
「やりますね……!」
「う、ふ、ふ……」
「わたしもわたしも!」
「ストレリチアさんは元気いっぱいですね! こちらをどうぞ」
 ノアで取り扱っている甘露な貴腐ワイン。その名もHermit。
「お花の蜜みたいでおいしいの!」
「そうそう、俺、もうちょっとで酒が飲めるようになるんだ」
 おすすめが知りたい史之。
「甘いのから入るといいぞい」
「そう……ね……あとは……冷たい……もの」
「この甘いワインに炭酸とかおいしそうなの!」
 なるほどなるほど。

「日常、日常……」
 ヨハンのどつきあいエブリデイ。肉体労働ばかりでパっと浮かばない。
 この前も歯車大聖堂で――守るべき人達に怪我をさせるのは嫌だから。
「飲んでるか、若いの!」
 現れたイグナートと老人。
「飲めませんて」
「ほれほれ」
「オレとの勝負が終わってないよ!」
「そうだったわい!」
 って。炎精老には凄く既視感を感じる。鉄帝国の香りというか。
 すごい近所の頑固なじいちゃんを思い出す。絡まれたら絶対長話してくるタイプだ。
「ジュースおいしいし、アリアさんも踊るの!」
「ぇ……っ!?」
 踊れないもん! ならば手拍子を合わせて。
「そうそう、ジュースがいいですよって。……あっ、お酒くさっ!」
 このちっちゃいの、ヨハンより年上だと言うのか。
「雪みたいで綺麗だね」
「ふふ……ありがとう」
 語らうヴァイスと白雪精にシャルレィス、そして村人達。
 最近の様子、美味しいもの、そして妖精郷の事――

 賑やかな夜は終わらない。

成否

成功

MVP

ドラマ・ゲツク(p3p000172)
蒼剣の弟子

状態異常

イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)[重傷]
黒撃

あとがき

依頼お疲れ様でした。

MVPは半端ない敵のけちらしっぷりへ。
重傷は炎精との苛烈な戦いを制して優勝していった名誉の、その。

それではまた、皆さんのご参加を願って。pipiでした。

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