ギルドスレッド
森の洋館
『どういたしまして。
行っておいで、僕らの紫苑の月』
(茨はあっさりと切り裂かれ、再生する素振りもなく地に堕ちる。
道を阻むものは、もう何もない)
行っておいで、僕らの紫苑の月』
(茨はあっさりと切り裂かれ、再生する素振りもなく地に堕ちる。
道を阻むものは、もう何もない)
(――もう、何も?
おかしな子、と少女は微笑む。
もう何も願いたくない。必要ない。とそう言いながら、静寂なる終焉を願い、求めている。
それを矛盾と言わずしてなんというのか。
本当に何も必要としないというのなら、私の声に応えることもしない筈でしょう?
本当に。この子は私によく似ている。
寂しがりやで、繊細で、独りよがりで。
矛盾を抱えたその姿はとても、人 間 ら し い 。
――馬鹿な子ね。
貴女も、私も。そして、彼も)
おかしな子、と少女は微笑む。
もう何も願いたくない。必要ない。とそう言いながら、静寂なる終焉を願い、求めている。
それを矛盾と言わずしてなんというのか。
本当に何も必要としないというのなら、私の声に応えることもしない筈でしょう?
本当に。この子は私によく似ている。
寂しがりやで、繊細で、独りよがりで。
矛盾を抱えたその姿はとても、
――馬鹿な子ね。
貴女も、私も。そして、彼も)
(──うるさい……うるさいっ……何もしたくないの、何も与えられない今が心地いいの……なのに、なのに、なのにぃ……)
外気に触れると同じく、周囲に漂っていた虚が転じて現になり、殻の中身を埋めていく。抱きつく腕に力が入る。
(もう、失わないたくない、から……嫌だよ……イヤ、ぁ……このまま、二人で、二人で……眠っていたい……)
外気に触れると同じく、周囲に漂っていた虚が転じて現になり、殻の中身を埋めていく。抱きつく腕に力が入る。
(もう、失わないたくない、から……嫌だよ……イヤ、ぁ……このまま、二人で、二人で……眠っていたい……)
(二人の元へ歩を進め、その傍にどかりと腰を下ろす。
眠っている…と考えていたが、卮濘の様子にゆっくりと目を細め)
…なあ、卮濘、ルミエール、そろそろ起きろよ。
迎えに来たんだ。
眠っている…と考えていたが、卮濘の様子にゆっくりと目を細め)
…なあ、卮濘、ルミエール、そろそろ起きろよ。
迎えに来たんだ。
……、
(そろそろ起きろ?迎えに来た?
嗚呼、なんて身勝手な。
僅かな苛立ちを感じる反面、喜びに浮き足立つ自分もいる。
悪霊を自称する男の真意は兎も角、自分達を必要として此処へ足を運んでくれた事実に間違いはなくて。
どうしてやろうかと思案しながら、狸寝入りを決め込んでいる)
(そろそろ起きろ?迎えに来た?
嗚呼、なんて身勝手な。
僅かな苛立ちを感じる反面、喜びに浮き足立つ自分もいる。
悪霊を自称する男の真意は兎も角、自分達を必要として此処へ足を運んでくれた事実に間違いはなくて。
どうしてやろうかと思案しながら、狸寝入りを決め込んでいる)
(いらない。いらないの。いらないよ。こうして話しているのも動いているのも生きてしまっているのも億劫で今すぐ消え去りたいのに思考 が展開 が生まれて『有原卮濘 』が再構築 されていくの生きたくない動きたくない考えたくない死人は死人らしく放っておいてあぁもうどうしてこんなにもセリフが回るのもうなにもしないって決めたのに逃げたのに消えたのにいやだ、やだ、やぁ……っ!)
ぎゅっ、っと閉じている瞼がさらに潰れて、一筋の雫が床を濡らした
ぎゅっ、っと閉じている瞼がさらに潰れて、一筋の雫が床を濡らした
……。
(二人が目を開ける様子はない。
けれど卮濘の様子から声は届いているのだろうと、言葉をかけるために再び口を開く)
…ごめんな。
オマエ達がそうしてんのは俺のせいなんだろ?
でもよ、それなら文句の一つ二つ言ってくれよ。
何も言わず終わらせちまおうなんて、寂しいじゃねェか。
俺はこれでもオマエらの事が結構好きだったつもりなんだぜ?
(涙に濡れた頬に指を伸ばし、その雫を拭ってやろうと)
(二人が目を開ける様子はない。
けれど卮濘の様子から声は届いているのだろうと、言葉をかけるために再び口を開く)
…ごめんな。
オマエ達がそうしてんのは俺のせいなんだろ?
でもよ、それなら文句の一つ二つ言ってくれよ。
何も言わず終わらせちまおうなんて、寂しいじゃねェか。
俺はこれでもオマエらの事が結構好きだったつもりなんだぜ?
(涙に濡れた頬に指を伸ばし、その雫を拭ってやろうと)
(ほんの少し、少女を抱きしめる腕に力を込める。
文句は数えきれないほど。
今この瞬間にだって生まれている。
例えば、先に自分へ手を伸ばしてくれないのか、とか。
理不尽であることぐらい、わかっているけれど。
憎くて妬ましくて疎ましくて大嫌いで。
それ以上に愛おしくて、大好きだった。
何処か退屈だった日々に色をくれた。
空虚な器に魂を吹き込むように。
愛して、焦がれて、選ばれたかった。
手を伸ばして、抱きしめて。
選んで、必要とされたかった。
私は。この子も。きっと、ずっと)
文句は数えきれないほど。
今この瞬間にだって生まれている。
例えば、先に自分へ手を伸ばしてくれないのか、とか。
理不尽であることぐらい、わかっているけれど。
憎くて妬ましくて疎ましくて大嫌いで。
それ以上に愛おしくて、大好きだった。
何処か退屈だった日々に色をくれた。
空虚な器に魂を吹き込むように。
愛して、焦がれて、選ばれたかった。
手を伸ばして、抱きしめて。
選んで、必要とされたかった。
私は。この子も。きっと、ずっと)
(
聞こえている。
聞こえているけれど。
聞こえていないフリをする。
聞いていたくないから。
悪いのなんて最初から決まっている。
勝手に恋愛をして。
勝手に失恋をして。
なのに諦めきれなくて。
狸寝入りを決め込んでいる方。
手を差し伸べられて
救われてしまって
いいはずがない
私は夢の中で
あなたは外
これが現
だから
ねぇ
私
)
「──」
聞こえている。
聞こえているけれど。
聞こえていないフリをする。
聞いていたくないから。
悪いのなんて最初から決まっている。
勝手に恋愛をして。
勝手に失恋をして。
なのに諦めきれなくて。
狸寝入りを決め込んでいる方。
手を差し伸べられて
救われてしまって
いいはずがない
私は夢の中で
あなたは外
これが現
だから
ねぇ
私
)
「──」
…オマエ達がいてくれて、俺は嬉しかったんだ。
俺が今此処にいられんのはオマエ達がいてくれたからなんだぜ?
なあ、だからさ……、
俺が今此処にいられんのはオマエ達がいてくれたからなんだぜ?
なあ、だからさ……、
…………起きてくれよ。頼むから……。
(声の震えをどうにか最小限に押し留めて、二人を強く抱きしめようと)
(声の震えをどうにか最小限に押し留めて、二人を強く抱きしめようと)
重なる二つの時間軸 を観測できてしまうから。
未来の彼に自身の影も形もなく。
不要なるただの背景なのだと理解した。
ならそれに相応しい終わりを迎える他ない。
(起きたって 何も変わらないよ…)
未来の彼に自身の影も形もなく。
不要なるただの背景なのだと理解した。
ならそれに相応しい終わりを迎える他ない。
(起きたって 何も変わらないよ…)
(そう。起きたって何も変わらない。
私達が目覚めても、目覚めなくても、彼の運命は変わらない。
彼から自由を奪い去った鎖 が解かれる事はなく。
“主人の猫 ”という役割が変わる事はない。
定められたその運命に苦しめられる日があったとしても。
……けれど、「不要な背景だった」など誰にも言わせてなるものかと腹の奥で感情が猛る。
だって、だってそうだ。
例え多くを為したわけではなかったとしても。
彼の一番脆い心を必死で護り抜こうとしたのは。
私とこの子 だという自負はあって。
だから。
──“連れて行って”って、言わなくていいの?)
私達が目覚めても、目覚めなくても、彼の運命は変わらない。
彼から自由を奪い去った
“
定められたその運命に苦しめられる日があったとしても。
……けれど、「不要な背景だった」など誰にも言わせてなるものかと腹の奥で感情が猛る。
だって、だってそうだ。
例え多くを為したわけではなかったとしても。
彼の一番脆い心を必死で護り抜こうとしたのは。
だから。
──“連れて行って”って、言わなくていいの?)
(──いいよ。)
一つ間を置いて。
腐り堕ち割れた器はそう零した。
運命が変わらないのなら
展開など今更変える気はない。
(どうしたって、もう変わらないから……)
一つ間を置いて。
腐り堕ち割れた器はそう零した。
運命が変わらないのなら
展開など今更変える気はない。
(どうしたって、もう変わらないから……)
……………っ、
(目覚める気配のない二人を強く、痛い程に抱きしめる。
ただ傍にいてさえくれればそれで良かった。
それでは不足だったのだろうか。
…不足だったのだろう。
少なくとも、上手く使ってやれはしなかった)
…このまま俺に何も残さず終わるつもりなのか、オマエ達は。
(目覚める気配のない二人を強く、痛い程に抱きしめる。
ただ傍にいてさえくれればそれで良かった。
それでは不足だったのだろうか。
…不足だったのだろう。
少なくとも、上手く使ってやれはしなかった)
…このまま俺に何も残さず終わるつもりなのか、オマエ達は。
「──私は」
あぁ。もう。
割れ物の扱いはもっと優しくしろと。
既に割れていても、壊れていても。
「私の意思は、貴方から離れてしまった。貴方の魂魄は私から離れてしまった。明確なる死を、新たなる旅路を齎す『死神』より逃れられた。"それでいい"と言ったのは貴方」
……はぁ。
息を吐く。仕方なく。聞こえるように。
「ね。全部、今更、なんだよ。お互いに。クウハ。何も残さず?はは、変なことを言うね。違う。違うよ。最初から、『ありはしない』の。貴方が前にどれほどの影響を受けたとて、今に後に残るものは一つもない。だって、存在していないんだから」
それはきっと、幸せな幻覚だった。
覚めれば一つ残らず消え去るのみ。
「──だから。もう。振り返らず先を見て。ここには最初から何もありはしなかった」
進んで、進んで、進んで、進んで──たどり着いたその背景には、荊や泥があるかもしれないけれど。
少なくとも、此の現本史ではない。
あぁ。もう。
割れ物の扱いはもっと優しくしろと。
既に割れていても、壊れていても。
「私の意思は、貴方から離れてしまった。貴方の魂魄は私から離れてしまった。明確なる死を、新たなる旅路を齎す『死神』より逃れられた。"それでいい"と言ったのは貴方」
……はぁ。
息を吐く。仕方なく。聞こえるように。
「ね。全部、今更、なんだよ。お互いに。クウハ。何も残さず?はは、変なことを言うね。違う。違うよ。最初から、『ありはしない』の。貴方が前にどれほどの影響を受けたとて、今に後に残るものは一つもない。だって、存在していないんだから」
それはきっと、幸せな幻覚だった。
覚めれば一つ残らず消え去るのみ。
「──だから。もう。振り返らず先を見て。ここには最初から何もありはしなかった」
進んで、進んで、進んで、進んで──たどり着いたその背景には、荊や泥があるかもしれないけれど。
少なくとも、此の現本史ではない。
──仕方のないコね。
(いつからだろう。
私の与えられた役割は“妹”であった筈なのに、時折“姉”の様に振る舞う様になったのは。
長い刻を識っている癖に、愛に飢えた子供の様で。
彼の魔法使いによく似ている。
いや、“似た存在になってしまった”というのが正しいのか)
…何もかも貴方の所為でないとは言わないけれど。
ほんのきっかけにすぎないのよ。
私は半分死んでいて、貴方が現れた事をきっかけに少し息を吹き返しただけ。
私もこの子も死にたくて、死にたくても死にきれなかった。
最後に幸せな夢を見る為に、彷徨い歩いていた亡霊に過ぎない。
この結末は最初から決まっていた様なものなのよ。
私。貴方が嫌いになったから眠るんじゃないわ。
貴方のこと、大嫌いだけど大好きよ。
ずっとずっと大好きよ。
例え私が終わってもずっと一緒にいられる様に、祝福を残してあげたでしょう?
(もう振り返る必要は、ない筈だ。
…ない筈なのに。
どうしてだろう。私達に縋るのは)
(いつからだろう。
私の与えられた役割は“妹”であった筈なのに、時折“姉”の様に振る舞う様になったのは。
長い刻を識っている癖に、愛に飢えた子供の様で。
彼の魔法使いによく似ている。
いや、“似た存在になってしまった”というのが正しいのか)
…何もかも貴方の所為でないとは言わないけれど。
ほんのきっかけにすぎないのよ。
私は半分死んでいて、貴方が現れた事をきっかけに少し息を吹き返しただけ。
私もこの子も死にたくて、死にたくても死にきれなかった。
最後に幸せな夢を見る為に、彷徨い歩いていた亡霊に過ぎない。
この結末は最初から決まっていた様なものなのよ。
私。貴方が嫌いになったから眠るんじゃないわ。
貴方のこと、大嫌いだけど大好きよ。
ずっとずっと大好きよ。
例え私が終わってもずっと一緒にいられる様に、祝福を残してあげたでしょう?
(もう振り返る必要は、ない筈だ。
…ない筈なのに。
どうしてだろう。私達に縋るのは)
俺はっ……、
(力を緩めることも忘れ、俯き言葉を詰まらせる。
永遠の眠りにつく事が二人の望みなのだとしても、この手を離したくはなかった。
離せば卮濘の言葉通り「ありはしなかったもの」として、全てが消え失せてしまうかもしれない。
それは、それだけは耐え難い)
…俺は、置いていきたかったわけじゃないんだ……。
オマエ達だけは何があっても、傍にいてくれるものだと、ずっと……、
(力を緩めることも忘れ、俯き言葉を詰まらせる。
永遠の眠りにつく事が二人の望みなのだとしても、この手を離したくはなかった。
離せば卮濘の言葉通り「ありはしなかったもの」として、全てが消え失せてしまうかもしれない。
それは、それだけは耐え難い)
…俺は、置いていきたかったわけじゃないんだ……。
オマエ達だけは何があっても、傍にいてくれるものだと、ずっと……、
「──なわけないでしょ」
仕方ないなぁ、と僅かながらに優しげな声で
「どんなに優れたアイテムでも手入れを怠れば壊れるし、役目を終えた"だいじなもの"も同じく消え失せる。もう、あなたの歩む次の物語の道行に……私達の出番はないの」
クウハの顔を流れる涙を指で掬い、続けて
「物語は幾多にも別れ分岐して、並列する展開を持つ。けれど本史 になるのは一つだけ。だから既に定まった今も、その先に続く未来も、もう、覆らない」
断言。泥へ解けた手でクウハに触れても、人らしい感覚しか伝えられないように。もう私にできることはない。
「……でも 一つだけ やり残しがあったから それだけを済ませよっか」
仕方ないなぁ、と僅かながらに優しげな声で
「どんなに優れたアイテムでも手入れを怠れば壊れるし、役目を終えた"だいじなもの"も同じく消え失せる。もう、あなたの歩む次の物語の道行に……私達の出番はないの」
クウハの顔を流れる涙を指で掬い、続けて
「物語は幾多にも別れ分岐して、並列する展開を持つ。けれど
断言。泥へ解けた手でクウハに触れても、人らしい感覚しか伝えられないように。もう私にできることはない。
「……でも 一つだけ やり残しがあったから それだけを済ませよっか」
…分かってる。分かっちゃいたんだ……。
(涙で潤む瞳で不恰好に苦笑する。
幸福は砂上の楼閣の様なモノ。
いつかはじける泡沫夢幻。
甘やかな日々と引き換えに喪失の刃は研ぎ澄まされる。
永遠なんぞこの世に在りはしない。
そう、だからこそ。
『幸福な夢こそが、何より一番恐ろしい』
それでも願ってしまったのは、主人の影響か。或いは。
いつまでも、変わらず傍にいて欲しかった。
叶わぬ願いと識っていても。
傍にいてさえくれれば、それでよかった)
…やり残しってなんだ?
俺は何をすればいい?
(涙で潤む瞳で不恰好に苦笑する。
幸福は砂上の楼閣の様なモノ。
いつかはじける泡沫夢幻。
甘やかな日々と引き換えに喪失の刃は研ぎ澄まされる。
永遠なんぞこの世に在りはしない。
そう、だからこそ。
『幸福な夢こそが、何より一番恐ろしい』
それでも願ってしまったのは、主人の影響か。或いは。
いつまでも、変わらず傍にいて欲しかった。
叶わぬ願いと識っていても。
傍にいてさえくれれば、それでよかった)
…やり残しってなんだ?
俺は何をすればいい?
「そのままいてくれればいいよ」
顔を近づけ、囁く。
「私と遊んでくれてありがとう。そしてさようなら、寂しがり屋の幽霊さん」
……そのまま、頬にキスだけし、離れる
顔を近づけ、囁く。
「私と遊んでくれてありがとう。そしてさようなら、寂しがり屋の幽霊さん」
……そのまま、頬にキスだけし、離れる
…あぁ。今まで、ありがとな。
(嫌だ、と手を伸ばして引き留めたかった。
だが、その行為には最早何の意味もない)
…ルミエール、オマエもか?
オマエ、前に俺に連れて行ってくれって……。
(柔らかな身体を抱きすくめ、涙に濡れた頬を寄せる。
答えなど分かりきっている。
それでも聞かずにはいられなかった)
(嫌だ、と手を伸ばして引き留めたかった。
だが、その行為には最早何の意味もない)
…ルミエール、オマエもか?
オマエ、前に俺に連れて行ってくれって……。
(柔らかな身体を抱きすくめ、涙に濡れた頬を寄せる。
答えなど分かりきっている。
それでも聞かずにはいられなかった)
ええ、そんなこともあったわね。
(白く小さな手を伸ばし、幼子にするのと同じ様に彼の髪を撫でてやる)
でも、ダメよ。貴方は優しいから。
私を食べてしまったら、貴方はずっと苦しむのでしょう?
だからやっぱりいけないわ。
私達。
貴方が望みさえするのなら、いつだって眠らせてあげるつもりだった。
カミサマの手すら届かない安寧の園へ。
全てのしがらみを捨て、新しい物語を。
痛み、苦しみ、悲しむ貴方を、もう見たくはなかったから。
けれど貴方は今の貴方のままで、生きていくことを選んだのでしょう?
それでいいのよ。それでいいの。
貴方が貴方らしく前を向きさえすれば、また新たな出会いがあるでしょう。
貴方がまだ知らない明るい場所へ、手を引いてくれる誰かがきっと現れる。
それは私達には出来ないことなの。
だから、さよならをしましょうね。
有難う、私を愛してくれて。
貴方をずうっと愛しているわ。
(濡れた頬へ口付けを一つ。
腕の中から抜け出し、彼から離れ、彼女の傍に身を寄せる)
(白く小さな手を伸ばし、幼子にするのと同じ様に彼の髪を撫でてやる)
でも、ダメよ。貴方は優しいから。
私を食べてしまったら、貴方はずっと苦しむのでしょう?
だからやっぱりいけないわ。
私達。
貴方が望みさえするのなら、いつだって眠らせてあげるつもりだった。
カミサマの手すら届かない安寧の園へ。
全てのしがらみを捨て、新しい物語を。
痛み、苦しみ、悲しむ貴方を、もう見たくはなかったから。
けれど貴方は今の貴方のままで、生きていくことを選んだのでしょう?
それでいいのよ。それでいいの。
貴方が貴方らしく前を向きさえすれば、また新たな出会いがあるでしょう。
貴方がまだ知らない明るい場所へ、手を引いてくれる誰かがきっと現れる。
それは私達には出来ないことなの。
だから、さよならをしましょうね。
有難う、私を愛してくれて。
貴方をずうっと愛しているわ。
(濡れた頬へ口付けを一つ。
腕の中から抜け出し、彼から離れ、彼女の傍に身を寄せる)
…俺の方こそずっと愛してるよ。
覚えてる限り、ずっとな。
(目尻に残る涙を乱雑に拭う。
酷い喪失感が胸を締め、立ち上がる気力も見当たらない。
それでも行かなければならないのだろう)
だけどよ、慈雨の事はいいのか?
オマエは慈雨と一緒にいるために眷属になったんだろ?
覚えてる限り、ずっとな。
(目尻に残る涙を乱雑に拭う。
酷い喪失感が胸を締め、立ち上がる気力も見当たらない。
それでも行かなければならないのだろう)
だけどよ、慈雨の事はいいのか?
オマエは慈雨と一緒にいるために眷属になったんだろ?
父様?
……いいの。よくないけれど。
父様には貴方がいるもの。
心残りはあるけど、いいの。
私はね。父様が嫌いよ。大嫌い。
父様は貴方を苦しませて悲しませるし、肝心な時に役立たずだもの。
貴方がいなくなった時、痛いのは父様自身なのに。
それが少し心配だけど。
…一緒にいてあげて。飽きるまででいいから。
どうかこれからも愛してあげて。
……いいの。よくないけれど。
父様には貴方がいるもの。
心残りはあるけど、いいの。
私はね。父様が嫌いよ。大嫌い。
父様は貴方を苦しませて悲しませるし、肝心な時に役立たずだもの。
貴方がいなくなった時、痛いのは父様自身なのに。
それが少し心配だけど。
…一緒にいてあげて。飽きるまででいいから。
どうかこれからも愛してあげて。
……とう、さま………?
(そこにある筈のないものを視たとでもいう様に呆然と呆けた顔をして、父の姿を瞳に映す。
青い瞳が静かに揺れて)
(そこにある筈のないものを視たとでもいう様に呆然と呆けた顔をして、父の姿を瞳に映す。
青い瞳が静かに揺れて)
おや、まァ。……どうしたの、ルミエール。
急にそんなに泣き出して。
(穏やかな顔で、服の袖を使って彼女の頬に流れる涙を拭いてやろうと)
急にそんなに泣き出して。
(穏やかな顔で、服の袖を使って彼女の頬に流れる涙を拭いてやろうと)
「──ん」
そちらのお迎えが来たみたいだし。
「…………一度起きたからには もう少しだけ 動いてくるよ。ほんの少し、ほんの僅かだけ。生きるというには短くて儚い時間をさ」
さ、ごゆっくり。
もう 私に出来ることはここにないから。
「全てが終わる頃には また戻ってくるよ」
身体を溶かして何処かへ
そちらのお迎えが来たみたいだし。
「…………一度起きたからには もう少しだけ 動いてくるよ。ほんの少し、ほんの僅かだけ。生きるというには短くて儚い時間をさ」
さ、ごゆっくり。
もう 私に出来ることはここにないから。
「全てが終わる頃には また戻ってくるよ」
身体を溶かして何処かへ
わたしっ…、わたし……。
(溢れる涙は止めどなく。
止める方法も思い当たらず。
嗚呼。汚れてしまう。穢れてしまう。
美しいこのヒトが。私の所為で。)
っ…、ごめんなさい、ごめんなさい……。
父様との約束、私、結局……。
父様といるの、やなわけじゃないの……。
もっと一緒に、いたかったっ……。
(傍の少女が消え失せた。
けれど、それに構う余裕はなく。
何度もしゃくり上げ、喉を詰まらせ、必死に言葉を吐き出していく。
大嫌いだと口にはしても、本心から嫌えよう筈がない。
愛しているのだ。どうしようもなく。
今までもそうであったように。)
(溢れる涙は止めどなく。
止める方法も思い当たらず。
嗚呼。汚れてしまう。穢れてしまう。
美しいこのヒトが。私の所為で。)
っ…、ごめんなさい、ごめんなさい……。
父様との約束、私、結局……。
父様といるの、やなわけじゃないの……。
もっと一緒に、いたかったっ……。
(傍の少女が消え失せた。
けれど、それに構う余裕はなく。
何度もしゃくり上げ、喉を詰まらせ、必死に言葉を吐き出していく。
大嫌いだと口にはしても、本心から嫌えよう筈がない。
愛しているのだ。どうしようもなく。
今までもそうであったように。)
いいんだよ、可愛い我 のムスメ。
我 のわがままに付き合ってくれてありがとう。
本当はもっと一緒にいたいし、やだって言って連れて行ってしまいたいけれど。
でも、おまえが決めたことだものね。
ずーっとずっと、愛してるよ、ルミエール。父様 の娘 。
いつか、どこか。気が向いたら、どんなカタチでもいいから会いに来てくれる?
(ゆっくり頭を撫でて、あやすように)
本当はもっと一緒にいたいし、やだって言って連れて行ってしまいたいけれど。
でも、おまえが決めたことだものね。
ずーっとずっと、愛してるよ、ルミエール。
いつか、どこか。気が向いたら、どんなカタチでもいいから会いに来てくれる?
(ゆっくり頭を撫でて、あやすように)
卮濘……、
(緩慢な動作で視線を巡らせ、消えた卮濘の姿を探す。
見つかる筈もないだろうに。
この後に及んでなんと未練がましいことか。
こうなるのであれば一度ぐらい、卮濘が望んだ使い方をしてやればよかっただろうか)
ごめんな….…。
(湧き上がる後悔に瞳を伏せ、重い息をゆっくりと吐く)
(緩慢な動作で視線を巡らせ、消えた卮濘の姿を探す。
見つかる筈もないだろうに。
この後に及んでなんと未練がましいことか。
こうなるのであれば一度ぐらい、卮濘が望んだ使い方をしてやればよかっただろうか)
ごめんな….…。
(湧き上がる後悔に瞳を伏せ、重い息をゆっくりと吐く)
……ぎゅってして?
(チクタク、チクタク。
時を刻む音がする。
時計の針の音がする。
長く長く止まっていた金の懐中時計から)
(チクタク、チクタク。
時を刻む音がする。
時計の針の音がする。
長く長く止まっていた金の懐中時計から)
父様…。とうさまあ……。
(もう決めたことなのに名残惜しくて。
連れて行ってと口にしそうになる。
けれど願ってしまったなら、変わってしまうと識っている。
愛した全てを愛したままで。
“私”のままで死にたかった。
『どうか、いつまでも変わらずに』)
次に会うときは父様のこと、覚えてないかもしれないけど。
それでも私のこと、愛してくれる……?
(もう決めたことなのに名残惜しくて。
連れて行ってと口にしそうになる。
けれど願ってしまったなら、変わってしまうと識っている。
愛した全てを愛したままで。
“私”のままで死にたかった。
『どうか、いつまでも変わらずに』)
次に会うときは父様のこと、覚えてないかもしれないけど。
それでも私のこと、愛してくれる……?
おや、ま。当たり前のことを聞くんだねえ、ルミィ。
いつでも、どこでも、姿が変わっても、我 を覚えていなくても。
──我 はおまえを愛しているよ。
(ゆっくりと言い聞かせる様に頭を撫でて、額に口づけを贈ろうと)
いつでも、どこでも、姿が変わっても、
──
(ゆっくりと言い聞かせる様に頭を撫でて、額に口づけを贈ろうと)
うん……。
(最後の口付けを受け取って、溢れ続ける涙を拭う。
公開も未練も目一杯。
それでも別れを告げなければ)
私の父様。私のカミサマ。
ずっとずうっと愛しているわ。
いつまでも、ずっとよ。
(いつかまた次に会うときも。
私はあなたを愛するでしょう。
父へ身を擦り寄せて、頬へ口付けを贈ろうと)
(最後の口付けを受け取って、溢れ続ける涙を拭う。
公開も未練も目一杯。
それでも別れを告げなければ)
私の父様。私のカミサマ。
ずっとずうっと愛しているわ。
いつまでも、ずっとよ。
(いつかまた次に会うときも。
私はあなたを愛するでしょう。
父へ身を擦り寄せて、頬へ口付けを贈ろうと)
うん……。
(未だ雫が光る瞳で、漸く微笑みを取り繕い)
……最後に会えて嬉しかったわ。
私達の猫ちゃんを連れて行ってあげて。
ずっとここにいたらきっと、何処にもいけなくなってしまうから。
漸く見つけた同胞だもの。
失いたくはないでしょう?
(永遠の少女 は慈悲深く。
同時に我儘 で、残酷だ。
ざわざわ。ざわざわ。
ほら、見てご覧。
彼の猫に切り伏せられた魔女の茨が鎌首をもたげ始めている。
花々の貴婦人が囁く声。
──それ程別れを厭うなら、共にここで眠っては如何?
──そうすれば夢の中でずうっと一緒よ?
──主がそれを赦さずとも。
──あなたがそれを、望むなら)
(未だ雫が光る瞳で、漸く微笑みを取り繕い)
……最後に会えて嬉しかったわ。
私達の猫ちゃんを連れて行ってあげて。
ずっとここにいたらきっと、何処にもいけなくなってしまうから。
漸く見つけた同胞だもの。
失いたくはないでしょう?
(
同時に
ざわざわ。ざわざわ。
ほら、見てご覧。
彼の猫に切り伏せられた魔女の茨が鎌首をもたげ始めている。
花々の貴婦人が囁く声。
──それ程別れを厭うなら、共にここで眠っては如何?
──そうすれば夢の中でずうっと一緒よ?
──主がそれを赦さずとも。
──あなたがそれを、望むなら)
…まあ、それも悪くはないんだが。
(貴婦人の声に苦笑して、鉛の様に重い腰を上げる。
悪くはない。嫌ではないのだ)
有り難い申し出だが、遠慮しとくよ。
結局のところ、オマエも卮濘も、俺に生きて欲しいんだろ?
俺もまだ慈雨の傍にいたいしな。
(貴婦人の声に苦笑して、鉛の様に重い腰を上げる。
悪くはない。嫌ではないのだ)
有り難い申し出だが、遠慮しとくよ。
結局のところ、オマエも卮濘も、俺に生きて欲しいんだろ?
俺もまだ慈雨の傍にいたいしな。
……そうだね。我 も此処に長居してたら、今度こそおまえを奪い去ってしまいそうだから。…さようならは『嫌い』。だから、ま た い つ か 。
(最後にもう一度だけ、名残り惜しむ様にムスメへ短い頬擦りを贈ってからクウハの手を取ろうと)
(最後にもう一度だけ、名残り惜しむ様にムスメへ短い頬擦りを贈ってからクウハの手を取ろうと)
…ん。
(主人の手を取り、想いを込めてしっかりと握る。
いつの日か主人と別れる日が来るとしても、少なくともそれは、今ではない)
悪いな。最後まで世話になっちまった。
いつかまた会う時があれば、その時も俺の妹になってくれるか?
(主人の手を取り、想いを込めてしっかりと握る。
いつの日か主人と別れる日が来るとしても、少なくともそれは、今ではない)
悪いな。最後まで世話になっちまった。
いつかまた会う時があれば、その時も俺の妹になってくれるか?
(永遠の少女はただ微笑む。
青い瞳に愛情と、幾らかの寂しさを滲ませて。
そして。静かに唇を開く)
──あなたがそれを望むなら。
さあ、もう行って。
私とあの子を想うなら。
青い瞳に愛情と、幾らかの寂しさを滲ませて。
そして。静かに唇を開く)
──あなたがそれを望むなら。
さあ、もう行って。
私とあの子を想うなら。
──落ちる影が一人になって、暫く後。
『有原卮濘』というカタチが微かばかりの行間を終えて。
コレは死を齎しに戻ってきた──我が身諸共。
「これで 終わり」
「もう やり残しは ない?」
「聞くまでも ないだろうけど さ」
「世界を欺いてまで また 私達は眠るんだ」
しゅるり、にょきり。
混沌の泥を自称する不定なる肌から。
現にはないはずの花弁と蔓が伸びて。
「あらためて 聞きたいの」
「他にあり得たかもしれない可能性 を全て切り捨てて 私 を 選んでくれる?」
何でもないようない声で。
ぎゅう、と縋るように 抱きついた。
『有原卮濘』というカタチが微かばかりの行間を終えて。
コレは死を齎しに戻ってきた──我が身諸共。
「これで 終わり」
「もう やり残しは ない?」
「聞くまでも ないだろうけど さ」
「世界を欺いてまで また 私達は眠るんだ」
しゅるり、にょきり。
混沌の泥を自称する不定なる肌から。
現にはないはずの花弁と蔓が伸びて。
「あらためて 聞きたいの」
「他にあり得たかもしれない
何でもないようない声で。
ぎゅう、と縋るように 抱きついた。
──ええ。
(迷いなく頷き。
少女の身を強く抱き返す。
運命を誓った番が今も共に在ったなら、結末は違ったかもしれない。
けれど、彼女はもういない。
或いは。
永遠の少女のカミサマが、今もヒトリであったなら。
──みんなの願いを叶えてくれる優しいカミサマ。
──けれどそのカミサマの願いは一体誰が叶えてくれるの?
契りを交わす事を決めたいつかの日の祈りが、今はとても懐かしい。
願いは叶えられた。
数多の時と界を渡って尚得られなかった同胞を。
彼はこの世界で、確かに手にした。
それならば)
貴女は私。私は貴女。
二人で一緒に眠りましょう。
これ以上何かを失う前に。
(迷いなく頷き。
少女の身を強く抱き返す。
運命を誓った番が今も共に在ったなら、結末は違ったかもしれない。
けれど、彼女はもういない。
或いは。
永遠の少女のカミサマが、今もヒトリであったなら。
──みんなの願いを叶えてくれる優しいカミサマ。
──けれどそのカミサマの願いは一体誰が叶えてくれるの?
契りを交わす事を決めたいつかの日の祈りが、今はとても懐かしい。
願いは叶えられた。
数多の時と界を渡って尚得られなかった同胞を。
彼はこの世界で、確かに手にした。
それならば)
貴女は私。私は貴女。
二人で一緒に眠りましょう。
これ以上何かを失う前に。
「ありがとう」
乾いた涙を流し。
笑顔を浮かべたまま。
床へとルミエールを誘う。
「うん、二人で。もう何も得たくない。ルミエールだけがいればいい」
カタチあるものいつかは崩れるのなら。
満たされている時がいい。
「またね。おやすみなさい」
唇にキスをして、瞼を硬く閉ざした。
乾いた涙を流し。
笑顔を浮かべたまま。
床へとルミエールを誘う。
「うん、二人で。もう何も得たくない。ルミエールだけがいればいい」
カタチあるものいつかは崩れるのなら。
満たされている時がいい。
「またね。おやすみなさい」
唇にキスをして、瞼を硬く閉ざした。
…ええ。おやすなさい。またいつか。
(嗚呼、失う事に満たされていく。
漸く物語 を終えられる。
最後の涙はきっと安堵から)
(大嫌いで大好きなこの世界の全てが、どうか幸福でありますように。
おやすみなさい。おやすみなさい)
(嗚呼、失う事に満たされていく。
漸く
最後の涙はきっと安堵から)
(大嫌いで大好きなこの世界の全てが、どうか幸福でありますように。
おやすみなさい。おやすみなさい)
キャラクターを選択してください。
二人きりのエンドロール。
例えそれが
悲しむことにも、痛むことにも、虚しさに溺れることにさえも、もう疲れてしまったから。
だからこれでいい。これがいい。
現実はとても残酷だから。
……けれど現実は。
二人が思うより、きっと、ずっと。