シナリオ詳細
<Autumn Festa>デカホオズキに思いを寄せて~祈りの秋
オープニング
●今秋の流行り
暑さも和らいで、秋。
幻想国内を蠍が騒がせているが、それでも季節は移ろいゆくもの。
特に流行りに敏感な一部の貴族などは蠍ばかりにかまけていられない。
誰が聞いたか最早定かでないが、旅人から聞いた『ある事』が国さえも越えて広まりつつあるのだ。
曰く──『○○の秋』と称して催し物をする、というもの。
人から人へと伝わっていくうちに内容は変わっているかもしれないが、まあ概ねそのような内容だった。
催しを行う貴族によって規模も内容も様々。当然、集客力も様々である。
沢山集まってるけどイレギュラーズも呼んでもっと賑やかにしようとか。
全然集まらないから客として来てくださいとか。
むしろイレギュラーズだけお呼びしてますとか。
結果──貴族の思惑は色々あるだろうが、催し物は依頼としてローレットへ持ち込まれたのだった。
●祈りを寄せて
「デカホオズキってのが、海洋にあってな」
“祈りの秋”という文句に寄って来たイレギュラーズに、『黒猫の』ショウ(p3n000005)は告げる。両手で胸元に三角を描くと。
「これっくらいのホオズキだ。ちょっとずれたこの時期に、赤い実から透けた色に変わるんだと。で、海洋ではそのデカホオズキ――オオホオズキって言いにくいだろ? だから“デカホオズキ”なんだが――に願いを書いた紙を入れて、傍の川に流すのが恒例らしい。こんな事があった、ありがとう、みたいな感じで思い出を書く人もいるみたいだな。周りは紅葉が綺麗だから、そっちを見るのも一興だと思う」
ショウはそういうと、紙はこれくらいだ、と実物を机の上に差し出す。丁度短冊くらいの大きさだ。簡単な願い事から、長い長い願いまで、巧くやれば書けるだろう。
「デカホオズキは夜になると中の実がほんのり光るんだ。だから灯りを妨げる屋台のような派手なモノは出てないんだが……最近貴族の間で“〇〇の秋”って銘打った祭りが流行ってるみたいでね。こんな行事があるんだけど、と俺たちにお声がかかったって訳だ。最近は物騒な事も多い。どうせだから乗っかって、ゆっくりしてきなよ。マジックポイントってのは、休息しないと回復しないもんだしな」
そうだろ?
悪戯っぽくウィンクしたショウは、続けて「思い出流し」の詳しい場所を説明し始める。
- <Autumn Festa>デカホオズキに思いを寄せて~祈りの秋完了
- GM名奇古譚
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2018年10月19日 21時00分
- 参加人数30/30人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 30 人
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参加者一覧(30人)
リプレイ
●Deylight
昼下がり。
透明度の長い川の流れに、ひらりと落ち葉が一枚落ちて流されていく。ほろほろと流れる赤い葉は、この海洋にも秋の訪れを確かに教えている。
「ピクニック……と思ったのですが、はぐれてしまいました……」
紅葉の雨の中、ぽつねんと佇むグラとストマクス。呪具がいつも一緒だから、本当の独りではないけれど。
「取り敢えずお弁当にしましょう。川の傍なら、きっと合流できるはず!」
『清々しいまでにポジティブだな。負担がかかるのは我だからな?』
そう、食べたものを納めるのは呪具ストマクスの役目。けれどグラはお構いなしと、何処で食べようかきょろきょろしている。
「あ、あの辺り紅葉がいっぱいだし、暖かそうですね!」
『落ち葉で滑らぬようにな』
意外と世話焼きな呪具と共に、二人ぼっちのお昼ご飯。いただきます、と声は元気に、ピクニックを楽しむ。
そういえば、あのデカホオズキって食べられるのかしら? そんなグラの疑問。野生なら味が良くないという呪具の返答に、彼女は食べるのを諦めた。それは残念。
微妙にテンション高めな零とヨルムンガンドは、紅葉とデカホオズキが織りなす紅の天幕にさらにテンションを上げていた。
零は混沌で見る二度目の秋。前の世界ではまじまじと見たりしなかった紅葉、だからだろうか、よりこちらの紅葉は美しく見えるようだ。
ヨルムンガンドもまた同じ。元の世界ではそもそもあったかどうかも怪しい紅葉なので、珍しくて仕方ないようだ。そのくれないを見ようとくるくる回っている。
「空以外が真っ赤に染まったみたいだなぁ……!」
「そうだな。足元にも紅葉が積もって、別世界みたいだ。ここまで赤いのは俺も初めて見たかもな……」
悠々と紅葉を見つめる零の横で、ヨルムンガンドは大きな紅葉を拾うとごそごそ何やらし始めた。しかし、紅に目を奪われている零は気付かない。
「……よし、出来た……! 零、零、見てくれ……!」
「ん? どうした、ヨル……うおあ!?」
じゃじゃーん。目の前には紅葉の顔をした紅葉怪人が!
……ではなく。
「驚いたか? 大きな紅葉を見つけたんだ……!」
ぱっと紅葉を取ると、悪戯成功とばかりのヨルムンガンドの明るい顔。顔を覆う程の紅葉に目の穴をあけて、仮面代わりにしたようだ。
「………っくりしたぁー…! こいつは一本取られたぜ……!」
「ふふん、だろう……! 零のも大きい葉っぱ見つけてやるから、一緒にやろう!」
「ああ! 俺も紅葉お化けになってやるぜ!」
賑やかな二人は、紅葉の選別をし始める。これもまた、秋の楽しみ。
突然だが、ナミトは流されていた。何にって? 川にだよ!
「ごぼぼぼ、ごぼぼ、ごぼ……」
紅葉は美しいが、散る様はどこか寂しく物悲しいね、と言いたいようだが、流されている彼女自身が既に物悲しい。勿論落ちたわけではない。自ら流されているのだ。
川に浮く事で効率よく体を鍛え、めっちゃ冷たい川の冷たさで寒さに耐え、風邪をひかないための健康法……らしいが、もう風邪ひいちゃうんじゃないかな……
「ごぼぼぼ……」
あの子も最期はこんな思いだったのかな……と、嘘か本当か判らない呟きを残しながら、ナミトは流されていく。ちなみに彼女はおひとりさまを嘆いていたようだが……それを見つけたのは同じくおひとりさまだったクリスティアン。
「!? 何故か流されている人がいるね! 僕に任せたまえ! さあ、これに掴まるんだ!」
そういって投げたのはデカホオズキ。成る程、その浮力で浮き輪代わりにしようというわけですね!
どんぶらどんぶら流されながら、ナミトはホオズキに手を伸ばし、しっかりとしがみついた。それはさながら、願いへ人々が思いを馳せる様のメタファーが如く。
しかし運命が決して流れを止めないように、ホオズキに掴まったナミトも止まった訳ではなく……どんぶらどんぶらと、そのまま下流まで流されていった……
「………」
クリスティアンはひらひらと舞う紅葉を拾い、ふっ、と笑った。そして静かに下流に向かって歩き出した…名も知らぬ願いの人が、下流で引っかかっているのを信じて。
●Moonlight
夜。デカホオズキが凛々と生い茂るなか、願いをかける静かな祭りが始まる。
デカホオズキの灯りが川の上にぽつぽつと灯り、昼にも負けぬ赤い川となる。
かつては眺めるだけだった昼の光を、己が浴びられるようになるとはなぁ。
そう感慨深く思いながらも、落ち着くのは矢張り夜の方。サイモンは紅葉を踏みながら、ホオズキを見上げた。そのどちらも、彼にとっては初めてのもの。モミジという葉っぱは秋らしい良い雰囲気だし、……このホオズキは、でけぇな。
確か願いや思い出を書いて流すんだったか、と思い出し、戯れにホオズキを一つ千切り取ってみる。確か少しすると光り出すんだったな。しかし、何を書いたものか。
一攫千金? いや、そこまで金が欲しい訳ではない。
健康第一? いや、健康を気にする吸血鬼ってのもなんだかなぁ。
よし、じゃあ一発思い出を……振り返ってみても、戦闘以外の思い出がないぞ。
悩みに悩んで、サイモンはさらりとペン先を滑らせる。“これからいい思い出がたくさん出来るように”。命を失いかけたところを混沌に召喚された彼。二度目の生も戦い漬けではたまらない。楽しい思い出が、昼の優しい陽光のように彼に降り注ぎますように。
リヴィエラはほう、と感嘆の息を吐いた。
「これがホオズキ…綺麗だけど、大きいわね」
千切るには引っ張ったら良いのかしら。ハサミとか、要らないかしら?
少し悩んで、これが良いと思ったものを引っ張ってみると、案外簡単にぶちんと千切れた。抱えて、回して、色んな角度から眺めてみる。真っ赤なのに熱くない。不思議。
次は紙に願いと思い出をしたためる番。リヴィエラはこの世界に来たばかりなので、思い出ではなく願いを書く事にした。
「ええと……来年に今年の思い出を書けるように、思い出を作るの、と……それから美味しいものをたくさんに、綺麗な景色も見たいし、素敵な服も……」
願い事はたくさん。思いつくままに書いていたら、髪の表裏を余すことなく使ってしまった。スペースはあと少し。あと一つ、何を書こう。少し悩んでリヴィエラが書いた願いは。
“沢山友達が出来ますように”
ほんのりと光り始めたホオズキに口付けて、紙を託し、川に流す。――あ! もう願いが一つ叶ってしまった。とっても綺麗な景色だわ!
ニミッツは、ペン先を唇に当てて悩んでいた。
今年の思い出は(諸事情により)余りないので、願いを流したいのだが……これを書いてよいものかどうか。自分としては真剣なのだが、皆に心配されそうなのだ。即ち、“セイレーンのような破滅の歌姫、深海の怪物になる”。いやあ、これはまずいのでは? と、さすがのニミッツも躊躇していた。
怪物になったら、きっと怖いものもなくなるかも。情けない自分にさよならを言えるかも。でも、仲間に心配されるのは、余り良くない事なのだろう、と思う。
なら、当たり障りのない感じに変えてみたらどうだろう。こう、破壊とか、怪物とか、そういうのを排除して……そうだ、これだ。
“これからもいっぱい歌を歌う”。そう紙にしたためて、ニミッツはうん、と頷いた。本当のお願いを流したら大変だから。これくらいなら、きっと大丈夫だろう。
史之の願いは一つだった。かの海洋を統べる女王の力になりたい。悪しきもの、邪なるものを払い、守り通したい。“あなたの力になれますように”、そうしたためた紙をデカホオズキに入れるのに、然程時間はかからない。
召喚されて、流されるままに時間を過ごしていた史之の運命を変えた女王。まるで今まで眠っていて、揺り起こされたかのような心地。ローレットに舞い込んでくる依頼に積極的に志願するようになり、今ではそこそこのものだと自負している。それは全て、女王の力となりたいがため。人間、目標があればなんでもできるんだなあ、としみじみ思う。
手の中のホオズキを見つめ、溜息を吐く。まだ足りない。もっと力を付けて、自分を磨きたい。片思いで上等だ。微笑みを曇らすすべてから、あの方を護りたい。決意を込めて、川にデカホオズキを載せた。流れに乗ってゆくさまは、今の自分を見るようで。想いを秘めて時勢に乗り、いつか決意よ、星になれ。
「わあー、ホオズキがいっぱいだぁ」
焔はりんりんと枝にぶら下がるデカホオズキを見て、感嘆の息を吐いた。大体のイメージは教えて貰ったけれど、実物をみると矢張り大きいと思う。どれにしよう、としばらく周辺をきょろきょろして、この子にしよう!とひときわ大きく見えたデカホオズキを両手で千切り取った。
「お願い事、思い出……うーん、何がいいかなぁ」
こちらの世界に召喚されてから、楽しい事がいっぱいあった。けれど、やってみたい事も同じほどたくさんある。何を書こう、と焔は頭を悩ませる。
歌や踊りが巧くなりますように? うーん、これはボクが頑張らないといけない事だし。パルスちゃんのライブを見た時の思い出とか、お料理を教えて貰った時の事? うーん、悩むなぁ。焔は悩んでいるが、きっとこれが一番楽しい瞬間。何を書こう、とこれまでを振り返り、あれが楽しかった、これがしたい、と己を再確認する瞬間。
「よし! やっぱりこのお願いにしよう!」
焔はウンと頷いて、紙に真剣に願いを書いた。それはこれまでやってきた事で、楽しかった事で、これからもそうしたい事。ちょっとだけ欲張りになってもいい、それくらいがちょうどいい。
“お友達がたくさんできますように”!
銀は無言で、川を見つめていた。紅葉に似た色の灯りが一つ、二つ。やがて数えられなくなるくらい、流れていく。その数だけ願いがあり、思い出があるのだろう。
己も、と一つホオズキを手にとってはみたものの……書きたい思い出がありすぎて、なかなか筆先が動いてくれない。
思えば皆、歯の浮くような褒め言葉ばかりくれた気がする。目の色をルビーのようだとか、髪の色を雪のようだとか。そんな事をぶつぶつと呟きながら、これまでの思い出を掘り返す。それはまるで、雪に埋まったルビーを探しにスコップを入れるかのような作業。
そして見つけたルビーは、切ない輝きをしていた。
“また、君に逢いたい”
叶わぬ願いとは判っていても、思い返せばその願いはより強く輝いてみえて。紙にしたためてホオズキに託し、川に流す。流れていくさまは忘れろと自分に言うかのように思えて、銀は去来する心の痛みに胸を抑えずにはいられなかった。
うーん、何を書こう。
悩んでいたアオイ。まだこの混沌に来て4ヶ月。それでも、色々な事があった。来て早々に決戦だ! と駆り出されたり。祝勝会だ! とはしゃいだり。夏祭りに……とそこまで思って、もう秋かあ、と時間の流れる速さを知る。
元の世界への未練はないし、もう戦の行方も見えていた頃合いだったけれど、どうなっただろうか、と頭の隅で考えるくらいはする。元の世界に比べればこの混沌の方が行方知れずで面白いのだけれど。
アオイのペン先が、ようやく動き出す。“なんだかんだ楽しい日々だったし、それを護っていきたいな”――其処まで書いて、少し考えて、また書く。“海洋の魔種の件でも、無事に帰ってこられるよう”
平和な祭りがおこなわれる傍ら、大渦が彼らイレギュラーズを待っている。アオイはそっと願いをホオズキに託し、川の流れへと載せた。
「あ」
空が昏くなったので、とホオズキを千切ったエンヴィが声を上げた。光り出したわ、と彼女が言う。散策していた他の者たちもぽつり、ぽつり、同じ声を上げる。木から離れたホオズキが、時間を経て光り始めたのだ。
儚い明かりに照らされる紅葉。その赤さはまるで、異世界に迷い込んだかのよう。
「枝を手折るのは宜しくないですが……」
これくらいなら。と、クラリーチェが手に取ったのは地に落ちた紅葉。そうね、落ちている紅葉なら。と、エンヴィも一枚拾う。どうやって使おうか。押し花ならぬ押し紅葉にして、栞に使っても良さそうだ。
「今日の思い出として頂いて帰りましょうか」
「……思い出といえば」
そう、忘れちゃいけないよ。デカホオズキに思いを載せて、川の流れに載せる事。
こんな素敵な思い出が、これからもたくさんありますようにって。
さて、【樹上の村】の二人。願いはとうに決まっているのだ、とシラスは言う。“のしあがってやりたい”と大きく紙に書いた文字、ホオズキに託し、川の流れに載せて。
シラス君らしいね、とアレクシアは微笑む。大きな事だけど、はっきりとしていて、それであって夢もある。叶ったらどうなるのか、わくわくする。私はそういうの、好きだよ。
「まあ、出世して何したいのって聞かれても特にないけどさ。何か欲しい時に手が届かないのは嫌なんだ」
だから、今自分たちの手でローレットが大きくなっていくのが楽しい、とシラスは言う。アレクシアはその横顔に、どこか一抹の不安を感じた。危なっかしいような、そんな漠然とした不安。口に出すのははばかられたから、其処には蓋をして、応援してるね、と笑う。
「私はね」
アレクシアが託した願いは“もっと大勢の人を救えるようになりたい”。今は手の届く範囲しか救えない。それは将来もそうかもしれない。でも、いつかは手の届かないところの人も助けられれば。
語るアレクシア。彼女はいつも誰かの為を思っているようで、でも、欲張りだ。シラスはそう思う。誰かを助けるのは、簡単なようで難しい事。手の届かないところまでなんて、尚更。でも、だから。
「応援する。困ったときはいつでも頼ってよ」
かつて己が小さくも大きな奇跡に救われたように。彼女を救う小さな光になれればと。
拳同士がこつん、とぶつかる。それは小さな誓い。相手への、己への。
【星芋】の二人は、デカホオズキを流そうかという段階。「リゲルとこれからもずっと一緒にいられますように」。そうしたためた紙をそっとホオズキに入れて、ポテトはリゲルに問う。
「何を書いたんだ?」
問いに答える代わりに、リゲルは紙をポテトに見せる。「家族で幸せに暮らせますように」――それは許嫁だけでなく、己の両親やポテトの両親まで。一緒に暮らすことは難しくとも、幸せになれれば――少し照れながら告げるリゲルに、ポテトはほっと心に灯がともる。
水に揺れながら流れていくホオズキを見送って、そっと紅葉狩り。夜は冷えるけれど、隣に温め合える人がいるから暖かい。同じ毛布にくるまりながらポテトが振る舞うのは、ミートパイとコンソメスープ。
赤い赤い紅葉の下、寄り添い指を絡め合い、お互いの想いを確かめる。これからも共に色んなものを見に行こう。春も、夏も、冬だって。
「思い出だけでなく、これからの願いも流せるのですね」
マナが感心したように呟き、まだ白い紙を見つめ、ペン先を惑い惑い走らせる。その様を微笑ましげに見つめながら、ヨハンもまたペン先を紙に走らせた。
流れていくホオズキを見つめながら、マナはそっとヨハンに寄り添う。ヨハンはどきりとしながらも、マナの手を探り、温かさを分け合おうと握った。まだ思いを通じ合わせていない二人なれど、互いの想いの端に触れるような、愛らしい探り合い。繋いでほしいという前に繋がれた手に、マナはまるで夏に帰ったかのような心地。
「何を、ホオズキに流されたのですか…?」
マナがそっと問う。期待半分、興味半分、乙女心を一つまみ。ヨハンは視線を彷徨わせ。
「今年の思い出かな。…マナさんと仲良くなれた事とか。へへ」
「……」
マナの心が熱を持つ。己の願いを告げようか、告げまいか。迷っているうちに、ヨハンは優しく手を引いた。
「送っていきますよ。それと、……気が早いですが、来年もよろしく?です」
へへ、といつものように笑うヨハン。ああ、眩しい。マナの願いはもう叶ってしまいそう。“レーム様とこれからもずっと、一緒にいられますように”。
流しと聞くと、HINAを思い出すな。
これ駄目な思考なんじゃないかな、とも思いながら、ルーキスはルナールとのんびりデカホオズキを千切り取る。
今日はのんびりしよう。それが二人の総意。ホオズキが光り出すのを見つめながらも、気になるのは相手の願い事。
「ルナは何書くの? ……聞いたら意味ないか」
「俺のか? まー、言わずともわかる気がするが……」
「ええ? 判らないから聞いてるんだけど……あ、私はまあ色々とな。詳しくは秘密」
「うむ、秘密でも構わないぞ」
と、ルナールはルーキスの頭をぽんぽん。精神的にはこちらの方が大人のようだ。
二人とも書き終えればホオズキに紙を入れ、仄かな赤灯が流れていくのを見ていた。計ったようにルーキスは、ルナールに耳打ちする。私はね、これからも二人でいられるようにって、書いたんだ。
そう告げられれば、ルナールは嬉しそうに微笑んで。俺も同じことを書いたと、愛しい恋人の手を取った。この嬉しい火照りが冷めるまで、紅葉とホオズキを見上げて散策といこう。
ミディーセラとアーリアは、ホオズキ流れる川の横、茜色した道を歩く。
「ミディーくんは思い出流ししなくてよかったのぉ?」
「ええ、ええ。……だって、手放してしまったものは戻らないのですわ」
結んでおいた微かな縁が切れるように。鼓動が途切れてしまうように。そうならないよう、一度抱いたからには引き摺ってでも繋いでおきたいのです。例え引き摺って、削れて擦り切れてしまうとしても、持っておきたい。
そうねぇ、とアーリアは頷く。流してしまいたい思い出ならある。決して少なくはない――けれど。手放してしまったら、それはそれで寂しいじゃない。癖が強いものや苦いものも、お酒のいいアテになるのよねぇ。それは酒を愛し酒に愛されたアーリアらしい口ぶりだった。
「それにミディーくんは……願いをこめるというより掲げて標にする、でしょお?」
という事で、私も願いを掲げてみるわぁ。
ふふん、と言うアーリアに、どんな願い事を掲げるのかしらとミディーセラは問う。アーリアは軽く、けれど万感を込めて掲げた。
“来年も一緒にこの光景を見られますように”。
可愛らしいというミディーセラに、アーリアも笑う。きっと彼にとっては何百年のうちの一瞬。だけれど、その一瞬が何よりも輝けばいいと思う。欲張りな彼が持って歩いて、削れて擦り切れて引きずられて、それでも残る思い出になればいいと。
サンディは思う。折角レディと二人でロマンチックに過ごせそうな場所なのに、どうして一人で来てしまったのかと。
或いは物思いにふける時間が欲しかったのかとも自問するが、そんな感じでもないし。さて、どーしたもんかね。いや、やる事はあるのだけれどね。と、デカホオズキをぶちりと千切りながら思う。
願い事。色々と思い浮かぶことはある。スーパーパワー、高身長イケメン、大金持ち……願えばきりはないけれど。そういえばこのホオズキは、光って川を流れていくのだったかと思い当たる。
なら、こう書いてみよう。サンディの筆先が描いた願いは、“サーカス等の事件で殺されたガキ共が無事に三途の川を渡れますように”。
「竜宮城に向かう亀に出会えますように、ってな」
本当ではない願いを口にしたのは、気恥ずかしかったからか否か。ホオズキに託して流せば、同じく願いを載せた灯りが流れていくのが見えた。――俺はまだそっちにはいかないからな。頼んだぜ。そっと、男の視線がホオズキの光を見送る。
アクセルが思い返せば、今年も楽しかったり、大変だったり、色んな事があった。魔種の暗躍に始まり、ローレットの活躍によって他国にも渡れるようになったりだとか。こちら、海洋は海洋で魔種が渦をなしていると聞く。
しかし憂いている暇はない。その渦を晴らすのもまた、彼らイレギュラーズの役目。願いを込めようか、思い出を託そうか、少しばかり悩んで。
“今年感じた楽しさと、ありがとうの気持ちを形にして”
思いを込めた紙をホオズキに託す。少しだけ凝ってみて、封筒をかたどった切り絵をホオズキに預ければ、ほら。ホオズキが郵便屋さんみたい。
どうか良い知らせを持ってきてね。これからも、来年も。
マルベートは一心不乱に紙に文字をしたためていた。傍らには紙が数枚積みあがっている。まるで手紙のよう、……いや、彼女にとっては手紙なのだ。思い出に住まう、彼女が殺めてきた者たちへの手紙。彼らとの思い出、命を奪った事への謝罪。彼らの分まで生きてみせるという誓い。それらを紙に書いていると、一枚では足りなかった。
せっせと書いた手紙を書き終えれば、随分と暗くなっている。ホオズキもきっと一個では足りないと、ぶちりぶちり、いくつも千切っては手紙を載せていく。何人か手紙が相席になってしまうけれど、其処は容赦してほしい。
ゆっくりと慌てないように、ホオズキを川へ流す。マルベートは改めて思い出した記憶と共に、それを見送った。己の中に、彼らの鼓動を感じながら。
ほんの少しの間だけ、さようなら。またいつか、私の思い出の中で会おう。
流すような思い出は、まだランドヴェラの中にはない。けえど、ホオズキに託す願いはあった。だから彼の筆には迷いがない。
“のんびり暮らせますように”。少しばかり動かしづらい右腕で、紙にしたためる文字。しかし、特異運命座標がのんびり暮らすというのも難しいだろうか、と思う。いや、でもそんな日が来るようにと願ったって良いだろう。
願いは周りに知られぬよう、神に思うのが良い。そう、母に教わった。ホオズキは神ではないけれど、彼(彼女)になら知られても良いだろうか?
願いが書けたら、次はデカホオズキの選別だ。優しくしなければ破いてしまいそうで、こわごわと千切る。まるで何かの頭だな、と考えて、いや物騒だ、と頭を振った。
いつか叶うと信じて、ランドヴェラは願いをホオズキに載せる。それは流れにのってゆっくりと揺れながら――やがて、海の方角へと消えていった。これはよい土産話になりそうだ。
――僕は罪を犯して参りました。幻は思う。
人も怪物も区別なく、それを殺すことに何ら躊躇はなかったのです。生き物が自然に帰るのは、ただの摂理に過ぎないと。
肉体を持ち、人と交わり、やがて僕は知ったのです。殺される生物にもまた大切に思う人がいる。殺める事は罪なのだと。
――ローレットの依頼が一筋縄ではいかない事を、ジェイクは知っている。
なかには幼子を殺すといった、人道に反した依頼も舞い込んでくる。同じローレットに所属する者として、その死の責任は自分にもある。
二人はそれぞれ違った観点からなれども、鎮魂の為にホオズキに願いを託した。
“僕の罪が決して許されることがないように”――それは、命を背負ってゆく決意。
“彼の者たちの魂に安らぎあれ”――それは、無辜の魂を思う心。
恋人たちは手を繋ぎ、赤く小さな明かりをいつまでも見送る。誰の生にも、誰の死にも、意味はあるのだと信じて。静かに、静かに、見送っていた。
●
数多の願いを載せて、ホオズキは流れていく。
赤い輝きが川を染めて、海へと流れていく。やがてホオズキが沈んでしまっても、願いと思い出は各々の胸の中に。そしていつか、倖せを導く標となりますように。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした。デカホオズキと紅葉、いかがだったでしょうか。
色々な願い事や、皆さんの過ごしてきた思い出。皆さんの思いをプレイングを通して追体験させて頂いた心地です。
どうかこれからも、素敵な思い出を作って行ってくださいね。
ご参加ありがとうございました!
GMコメント
ホオズキの実、可愛いですよね。好きなんです。
こんにちは、奇古譚です。今回はイベントシナリオにご案内します。
こちらは<Autumn Festa>の一環です。
是非他のシナリオもご覧になってみて下さいね。
●目的
紅葉を見たり、デカホオズキに願いを載せたりしよう
●立地
成人男性2人分程度の川幅がある川と、その岸辺です。屋台はありません。
祭りの為に周辺はある程度整備されています。
川は少々冷たいです。落ちたら風邪をひくかも。
生えている木は紅葉とデカホオズキです。思い出流し(後述)の時は、これらの木から好きなデカホオズキをぶちっと千切って流します。
特有の文化として「思い出流し」があります。
デカホオズキの実の表面が透けるこの時期を狙って、今年の思い出やこれからの願いを紙に記し、ホオズキの実の中に入れ、川にホオズキごと流すというものです。
デカホオズキが大きくなって更に透けるのを待つため、この時期の開催になるようです。
木から離れたデカホオズキの実は、時間が経つと中の小さな実が光り出します。薄赤いその光がぽつぽつと川を流れていくさまは、言葉にしがたいものがあります。
●出来ること
《1》昼、紅葉狩りや川遊び
《2》夜、思い出流しや散策
賑やかにピクニックなどをしたい方は1、しんみりしたい方は2をお勧めします。
あえて夜に紅葉狩り、なども良いかもしれません。雰囲気を壊さないように描写致します。
●NPC
おりません。ご注意ください。
ショウくんは皆さんを笑顔で送り出しました。
●注意事項
迷子・描写漏れ防止のため、冒頭に希望する場面(数字)と同行者様がいればその方のお名前(ID)を添えて下さい。
シーンは昼・夜のどちらかに絞って頂いた方が描写量は多くなります。
●
イベントシナリオではアドリブ控えめとなります。
皆さまが気持ちよく過ごせるよう、マナーを守ってレッツ秋。
では、いってらっしゃい。
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