PandoraPartyProject

シナリオ詳細

まじない花火と空模様

完了

参加者 : 41 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ドン。ドドン。
 重く響く音が耳に届く。雲一つない空には光が閃いた。
 夏と言えば? そう問いかければ色々な答えが返ってくる事だろう。
 そのひとつにはきっと、花火という単語も含まれる。毎年のように夏の夜空を飾る大輪は、多くの人々の記憶の中で鮮明に花開いた。
 空いっぱいに花弁を広げ、赤と黄色の花を堂々と咲かせる花火の周り。小さな火花も負けじと弾けて空に咲く。
 すべてを呑みこんでしまいそうな紺色の海からも、次々と光が吹きあがって空と海を彩った。空に咲いた火花は勢いを失い、海へと溶ける。そうしてまた、違う色の光が海から空へと昇っていく様はなかなかに壮観だ。
 惜しみなく放たれる打ち上げ花火は、ひそりと輝く星々を呑みこんで、人々の瞳の中で咲き誇る。
 いまこの瞬間だけは、何よりも輝き、何よりも人々を魅了したって、いいではないか。
 ひと夏の、とある夏日の、まじない花火。


「秋にはまだ早いから、丁度良いでしょ?」
 酒場のいちスペースを勝手に借りて、ぺたぺたとチラシを貼る『勿忘草』雨(p3n000030)は訝し気に見やるイレギュラーズを振り返ってぴっと指を立てた。
 賑やかな場所に釣られがちな狼が齎したのは、花火大会のお知らせ。
 真夏日を過ぎ、秋に近付く頃合いではあるが、まだまだ暑さは続いている。納涼祭も兼ねて、花火大会をしようと言う事らしい。
「昼間は普通に屋台も出てるけれど、目玉は打ち上げ花火みたい」
 この花火大会、一風変わった噂も立っている。
 曰く、打ち上げられる花火に混じるハート型の色を予想して、当てられたら願いが叶うのだとか。
 大輪を咲かせる花火の中に、ハート型の花火が5回上げられる。そのハート型花火を、5回とも全て色を当てるというのだから中々難しい。
 その難易度が噂の裏付けにでもなったのか、今では多くの人がそのハートの色当てに夢中になっているそうな。
「ハートの色は、赤、青、黄、紫、白の5種類」
 指折り数えて、それからぱっと掌を広げる。
 毎年色は変わるものの、数は変わらないそうだ。今年の色は雨が言った通りの色で、そこから変更が入る事はないだろう。また、同じ色のハート型花火が上がることはない。
 打ち上げ花火だけでは物足りないのであれば、余興として色の順番当てしてみても良いだろう。
「夏が終わる前にさ、一緒にどうかな」
 妙な噂もくっついた、通称まじない花火は本日限り。たまには仕事も忘れて楽しんだって罰は当たらないだろう。

GMコメント

祈雨と書きまして、キウと申します。
夏シリーズ第三弾をお届けに参りました。これにて夏物語は終わりになります。

●ご注意
 50名限定イベントシナリオです。
 ペア、グループでの参加の場合は人数制限にご注意ください。

●場所・時間帯
 海がほど近い商店街の一角を歩行天国にし、お祭りが催されています。
 時間帯は夜。一見未成年に見える方は、あまりに遅い時間は避けてください。
 花火は空が暗くなってきた頃から始まり、子供が寝静まる前には終わります。

●できること
 打ち上げ花火を見る事が中心です。
 よって、屋台で買い食いしたり遊んだりはオマケ程度の扱いになります。
 屋台関連は「屋台で買った綿あめを持ち、花火を見上げる」「昼間にお祭りを堪能しきって、ゆっくり花火鑑賞をする」などの描写となります。
 花火より団子的な描写は少なめとなりますので、あくまで花火をメインに楽しんでいただければ幸いです。

 色当てに成功したら願いが叶うというハート型花火は、祈雨がさいころを振って色の順番を決めます。
 色は『赤』『青』『黄』『紫』『白』のみです。
 予想を立てて頂ければ、リプレイにて当たったかどうかをストレートに、あるいはふんわりお伝えします。
 色の順番はどうであれ、確実に当てたい/外したい場合はプレイングにてご指定ください。
 この際、色の順番を記述し確定で当たり/外れとしたプレイングは他のイレギュラーズ様にも影響が出るため、色の順番の記述をないものとして扱います。

 禁則事項は特にありません。公序良俗に反するもの、周囲に迷惑をかけるものでなければ大体大丈夫です。ゴミはゴミ箱へ。

●同行NPC
 『勿忘草』雨(p3n000030)が同行しています。
 海辺の消波ブロックに腰かけのんびり花火を見上げています。声を掛けられれば応えますので、何かありましたらお声がけください。

●お願い
 お連れ様がいる場合、グループでの参加の場合は、相手の名前とIDもしくはグループ名のご記載をお忘れなくお願いします。
 愛称のみの場合、迷子になりやすいので、きちんと記載して頂けると助かります。
 白紙プレイングの場合、シナリオの雰囲気を大きく損なうプレイングの場合、描写が薄くなる、名前のみとなる可能性があります。ご了承ください。

  • まじない花火と空模様完了
  • GM名祈雨
  • 種別イベント
  • 難易度VERYEASY
  • 冒険終了日時2018年09月17日 21時25分
  • 参加人数41/50人
  • 相談7日
  • 参加費50RC

参加者 : 41 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(41人)

サンティール・リアン(p3p000050)
雲雀
レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)
騎兵隊一番翼
十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者
セララ(p3p000273)
魔法騎士
零・K・メルヴィル(p3p000277)
つばさ
シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)
蒼銀一閃
マナ・ニール(p3p000350)
まほろばは隣に
闇魔 麗(p3p000430)
歩くスイーツ屋
ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)
黄昏夢廸
巡理 リイン(p3p000831)
円環の導手
シュバルツ=リッケンハルト(p3p000837)
死を齎す黒刃
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
イリス・アトラクトス(p3p000883)
光鱗の姫
シルフォイデア・エリスタリス(p3p000886)
花に集う
ヨハン=レーム(p3p001117)
おチビの理解者
ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)
想星紡ぎ
矢萩 誠(p3p001793)
怠惰な何でも屋
ズットッド・ズットッド・ズットッド(p3p002029)
脳髄信仰ラヂオ
ニーニア・リーカー(p3p002058)
辻ポストガール
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
ヨルムンガンド(p3p002370)
暴食の守護竜
フルール プリュニエ(p3p002501)
夢語る李花
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
十夜 蜻蛉(p3p002599)
暁月夜
九重 竜胆(p3p002735)
青花の寄辺
ラクリマ・イース(p3p004247)
白き歌
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
Morgux(p3p004514)
暴牛
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女
アマリリス(p3p004731)
倖せ者の花束
クリスティアン=リクセト=エードルンド(p3p005082)
煌めきの王子
宮峰 死聖(p3p005112)
同人勇者
エリーナ(p3p005250)
フェアリィフレンド
刀崎・あやめ(p3p005460)
ワルド=ワルド(p3p006338)
最後の戦友
酒々井 千歳(p3p006382)
行く先知らず
水瀬 冬佳(p3p006383)
水天の巫女
木津田・由奈(p3p006406)
闇妹
アナスタシア(p3p006427)
コールドティア
ニミッツ・フォレスタル・ミッドウェー(p3p006564)
ウミウシメンタル

サポートNPC一覧(1人)

雨(p3n000030)
勿忘草

リプレイ


 お互い似合いの浴衣に身を包み、サンティールとウィリアムは花火会場を歩く。
「にしても、ハートの花火を二人で眺めるとか……」
 花火のアナウンスに紛れぼやくウィリアムは、ちらりと隣人の様子を窺った。色々考えてしまうのはこんな場所だから。
 一方のサンティールはウィリアムの様子に気が付くとカラコロと笑ってみせた。
「ほら、もうすぐあがるよ! はやくいこ!」
 急かす少女が差し出した手を取り、ふたり駆けて。
「願い事は浮かばねえけど……サティは何かあるか?」
 ウィリアムの問いにサンティールは何を言っているのだろうなんてきょとりとして。
「僕のねがいごと、前に言ったでしょう?」
 にっとサンティールがウィリアムを覗いてみれば、ウィリアムは返答に詰まる。
 確かに以前、答えは聞いて知っていた。
 それが、サンティールのねがいごと。ならば――
 花火に照らされ、ウィリアムは空を見上げる。頬が熱いのはきっと気のせいだと思うことにした。
 誰もが花火に夢中の中、サンティールだけがウィリアムの顔を見ている。どんな顔をしているのか、分かっている。
「……ふふ、あはは! ウィルってば、顔まっか!」
「見るんじゃねえよ、バカ」

「花火って、どんな風に上がるんでしょう……」
 わたあめをはむはむと頬張りながら、アナスタシアは花火の打ち上げ開始時間を待つ。
 今日のお祭りは初めてのドキドキと少しだけの恐怖。辺りを見渡せば、似た様に花火を待つ人々が見えた。
 ひゅるると微かな音がした。
 鮮やかな火花がぱっと視界を染めた。
 遅れてドンと身体を震わせる音が響いた。
 ひとつの花火を契機に、次々と花火が打ち上がっていく。
 宵闇が照らされていく姿はとても綺麗で。アナスタシアはじっと空を眺めていた。

「上谷兄……!」
 人混みの中から呼ぶ声がして、零はくるりと振り返る。
 近寄ってくるのは浴衣姿の麗だ。いつもと違う姿に零が気付いてくれるかは定かではないが、麗はこっちと手を振った。
「ん……? えっと……」
 零は記憶にない姿に狼狽える。麗も麗でどうすればいいかと一瞬惑い、いつもの笑顔で笑ってみせて。
 そこでピンと来たか、零はあっと声をあげた。
「もしやその声、闇魔、なのか……!?」
「う、うん!」
 聞き覚えのある声に、面影のある笑顔。
 答え合わせが済めば、テンパる零も少しずつ落ち着いてきて。
「いやーびっくりしたぜ。その浴衣、似合ってて可愛いなー、うん」
 にこにこ笑顔で浴衣姿の麗を見やれば、無意識のままに褒め言葉。
 突然の賛辞にぽっと麗の頬も染まるようで、やめてよおなんて照れ隠し。
「あ、一人なら一緒に花火でも見るかい?」
 恥ずかしさを誤魔化すように、麗は零を誘うのであった。


 ドーン、と空に大輪が咲いた。
 後から後から花火は上がり、空を彩って散っていく。今、ここには様々な種類の花火が大量に打ち上げられていた。
 ひと夏の終わりの花火大会。
 過ぎ去ってきた祭りの中には、暴雨に見舞われ開催を見送ったものも存在した。使われない花火の玉は湿気に負けて腐りゆくだけ。
 そういった、何かしらの事情で今年使われなかった花火が、今日この日に集められて花開く。このことから、毎年この花火大会はかなりの数を打ち上げるのだ。

 花火は祭りに添えるだけ。
 近頃はそんなお祭りも多いが、今日のこれは真逆だ。祭りは花火に添えるだけ。
「これぞ、真っ当な花火大会って感じね」
 屋台の賑わいを背に、竜胆は打ち上がる花火を眺める。空に咲く大輪は次から次へと絶え間ない。
 予想を立てた色順通りには花開かなかったが、当たる確率自体低いものだろう。
 さして願い事も考え付かないからには、そこまで重要でもないのだけれど。
「やっぱりとても綺麗ね」
 黒きに閉ざされた空を瞬く間に彩っていく打ち上げ花火は、まだまだ続く。

「それじゃ、僕達は花火の"形"を予想して楽しもうか!」
 色当てに興じる人々に混ざって、ニーニアが高らかと宣言する。
 今日集まった花火予報士は4人。
 ハート型があるのなら、きっと他の形もあるはず。そんな予想から、それぞれどんな形があるのか予想を立てる。
「花火の形の予想ですか? そうですね……」
 悩むエリーナはペットのネリーと一緒に花火を見上げる。今の所、変わった形の花火は上がっていないようだった。
「蝶の形の花火とか、見てみたいと思いませんか?」
「あとは……傘型とかあったら面白いかも!」
 うんうん悩んだシャルレィスが思い付いたのは、今日とは真逆の日に使う傘。そんな傘が空に上がったら、きっと面白そう。
 似た形で剣も……なんて思うものの、複雑な意匠は出来ないだろうから難しい。
「定番の星型とか、花型とかも……あるかも、しれないね……」
 遅れて声をかけたニミッツも、ありそうな形を述べればウンウンと周りから同意を得られた。
 その言葉のすぐ後に、ドーンと重たく響く音が鳴る。
 花開いたのはハート型。花火予報の切欠だ。
 ハート花火の色も予想していた面々は、最初に咲いた黄色にがっくり肩を落としたようだった。
 当たると願いが叶うというが、そう簡単にはいかないらしい。
 消えた後、重なるようにしてクローバーの形が咲けば、興味はすぐさまそちらへ。
「わあ、ああいう形もあるんだねえ」
「あ、あっちに星型あるよ!」
 予想になかった形を見上げ、ニーニアは楽しそうに声をあげる。少しそれたところに星を見付ければ、シャルレィスも嬉しそうに拍手した。
 ひとつめのハートが契機だったのか、次々と変わり種の花火があがる。
 トランプのマークに様々な花、猫や犬といった動物や、どこかのキャラクターの花火まで。
 花火予報士は思った以上に忙しい。あちらこちらに咲く花火を、各々こっちだあっちだと楽し気に語り合った。

「バカンスと仕事がみっちり詰まるとはね」
 夏休みのつもりがヨットレースに大渦に。随分とせわしない夏を送っていたような気がする。
「いやぁ、今年の夏は色んな意味で熱かったね」
 落ち着いた紺の浴衣のレイヴンは、桃色浴衣のイーリンとふたり、宿の窓辺で花火に興じる。
 特等席から眺める花火は格別だ。
「ワタシには叶えたい願い……願うものじゃないかもだけど、あるよ」
「叶えたい願いね……」
 ぱっと空に灯ったハート型は白く灯る。この組み合わせを当てるとするならば、確率は0.0083%程度だ。
 当てられる人間はほとんどいないだろう。
 静かに呟いたイーリンにレイヴンは問いかける。
「イーリンは?」
「そうね、今はないわ。正確には、ありすぎて困っちゃう」
 ふと冗談めかして笑うイーリンの表情は、憂いた大人と子供っぽさが同居していて、どこか神秘的にも見えた。
「……花火よりもこっちを見てたいかも」
 ぽつりとレイヴンが零した声に、イーリンが彼を見れば視線が重なる。
 数秒の静寂。
 レイヴンの示す見たいものを理解すると、イーリンはさっと顔を花火へ戻す。
 その頬が赤いのは、花火の光が照らしているからだ。きっと、そうに違いない。

「……夏も、もうすぐ終わりか」
 言葉の通り、吹く風の冷たさが夏の終焉を物語る。
 二人並んで思い出を語りながら、シュバルツとアマリリスは昔を想う。
 最初は嫌だった外も、今なら悪くないと思える。未知の世界はいつだって恐怖だ。
 風の速さで過ぎて往く日々。明日を必ず迎えられる生活ではない。
 でも。
「来年の夏も一緒に居たいかも……? なんて」
 少し冗談っぽく濁しながら、アマリリスはシュバルツに微笑みかける。願いを断言できないのは、不確定な未来に自信が持てないから。
「何言ってんだ」
 それを打ち破るのは、シュバルツだ。
「来年の夏も、再来年も、その先も――またこうやって一緒に花火を見に来ようぜ」
 当たり前のように未来の話をして、シュバルツは優しくアマリリスの頭を撫でる。
 安心する掌だ。この熱がない先が、今は怖い。
 そっぽを向いたアマリリスにシュバルツが不思議そうにしていると、細る声が耳に届いた。
「好きです、シュバルツ」

 花火を見た経験がほとんどないのは置いといて、これなしでは夏の終わりを実感できない。
 そんな話をするイリスに、エリスタリスはツッコミをするでもなく受け流した。
 もふもふとたこ焼きを頬張りながら、願い事をあれこれ考える。
 色々と欲張りに迷うイリスと、無病息災をお祈りするエリスタリス。
「姉様は頑丈なのを良い事に、進んで危険なポジションに行きたがりますし……」
「シルフィこそ、私より体細いのに無茶したがるのはお姉ちゃん知ってるんだから」
 ぶつくさと文句をぶつけるエリスタリスに、反撃とばかりにイリスは言葉を返した。
 お互い思っているからこそ、お互い心配で。
「なんだかんだ言って、似た者同士なのよね」
 ふうと呆れたように肩を竦めたイリスの言葉はまた流す。否定はない。
「……もっと強くなりたいし、がんばりたいのですよね」
 膨れた頬はそのままに、どこか拗ねた様にエリスタリスがぽつりと零した。
 隣ではイリスが打ち上がるハート型花火を見つけ、わあと声をあげていた

「たーまやー……っとな」
 重たい音を響かせ咲く花火を瞳に映し、一人クロバは空を仰ぐ。
 広げた扇子からそよぐ風は程よく冷たい。
 思えば、色々あった夏だった。
 日々の変遷は待ってくれず、時には人の心も置いていく。
 センチな気分を演じてみるも、所詮は演技。軽く肩を竦め自嘲した。
 次があれば、誰かを誘うのも乙だろうか。
 自問自答の答えは再びの嘲笑。
 遠く沸き起こる歓声をよそに、クロバはただ夏を思った。

 海岸沿いにぶらぶらと歩きながら、史之は鳴り響く音に耳を傾け空を見た。
 思い浮かべるのは故郷の景色。惜しむべくは、写真として残せないことだろうか。
 いつの日か、恋い慕うあの方へと願うぐらいは許されるだろう。
「そういえば……」
 花火は人命に例えられる。
 弾けて消える数々の花火を見上げながら、ひとつの決意を胸に抱いて。
 ドン、と一際大きな花火が空に上がり、史之はその色合いに目を見開いた。
 真白き花火がどこか薄れて見えるのは、頬を伝う一滴のせい。

「花火もあるのですね……」
 見覚えのある文化にひとりごちた冬佳は空を見上げる。
 様々な種が混じる幻想では、よくあるひとつの出来事だろうか。
「打ち上げ花火の色当てだってさ、花火を見物がてらちょっと見てみようか」
 唯一初耳なのが、千歳の言う色当てだ。
 冬佳と千歳は二人並んで大輪咲く夜空を仰ぐ。あの中に、変わり玉が打ち上がるのだろう。
 色が全て当たる確率は低い。どうなることかと打ち上がるのを待ちながら、良く見る打ち上げ花火を眺めた。
「綺麗だねえ、元の世界じゃ見れない花火もこの世界にはまだきっとあるんだろうな」
 郷愁に駆られるのは冬佳だけではない。共に来た千歳もまた、見慣れた光景だった。
「冬佳さん」
 千歳は名を呼び、冬佳の手を取る。
 触れ合う熱は、確認の印。
「元の世界に戻る時は必ず一緒に帰ろう、約束だ」
「ええ、千歳君」
 きっと、どちらかが欠けてもいけない。
 諦めない決意を二人共に宿して。
「――必ず、一緒に」

「ええ夜風……熱いのは嫌い、でも」
 夏が終わろうとしている。それは、寂しい。
 矛盾を孕んだ蜻蛉の言葉に、縁はからりと笑った。
 人でごった返す屋台道を抜け、潮風注ぐ海辺へと辿り着く。縁と蜻蛉は正面に打ち上がる花火を見上げた。
「順番……旦那は、どうしはるの?」
 尋ねた蜻蛉の声で、そういえばと思い出した縁は一度考え込む。
 一度開きかけた口は閉ざされて。
「こういうのは当たった試しがねぇのさ」
 諦めも肝心だと告げる縁はどこか寂しそうに翳りを見せ、蜻蛉は声に出さぬまま瞼を下ろした。
 また、その瞳だと。
「……それに、もう願いは叶ってるんでな」
 そう続けた縁が息を吸う。
 後に加えられた言葉が蜻蛉に届いた途端、世界が一瞬静寂に包まれた。
 僅かの後に、再び人々の賑わいや花火の音がかえってくる。しかし、今はそれどころではなかった。
「――今、何て?」
 俯く蜻蛉。見上げる縁。
 視線の先は違えども、胸中に抱く想いは、きっと――


 海辺は花火を見るのに丁度良くて、潮風が少し冷たいぐらいで視界は開けていた。
 ある人は身を寄せ合い楽し気に予想を立てて、ある人はひとり静かにその時を待ち、各々自由に余興に興じる。
 予想の結果に関わらず、まじない花火に寄せられた皆の想いが成就すると良い。
 どこか他人事にワルドは花火を見上げ、ほうと息を吐く。
 耳に届く重たい音は腹に響くようで、その数を嫌でも体感した。
 花火の音に紛れ、運営のアナウンスが流れた。いよいよ、ハート型の打ち上げが始まるようだ。

 海の香りが二人を包む。
 マナとヨハンは二人寄り添って浜辺のベンチに腰掛け、夜空に咲く花火を見上げた。
 願いが叶うというまじない花火が上がるまで、あと幾許か。繋いだ指先が火照るよう。
「白だけでも当てられたらいいなあ」
 ぽつりと呟いたヨハンの言葉を聞き届け、マナはぱちりと瞬く。
「白、ですか?」
「そ、そう! 何となくだけど!」
 口にしていたかとヨハンは慌てて言い淀み、照れ隠しに頬を掻いた。
 白色は、マナの髪色。特別な色。
 不思議そうな表情のマナは、それ以上追及するでもなく空に視線を戻した。
「本当に……綺麗な花火です……」
 夏を感じると共に、肌を撫でる潮風の冷たさが終わりを告げていく。
 もし。
 もしも、花火の色が当たったなら、告げたい事があるんだ。
 こくりと唾を飲み込み、ヨハンはじっと空を見上げる。
 ――少し後、しょんぼりしたヨハンの姿がそこにあったのだけれど。その先はまた、別のお話。

 ぽんと最初に上がったのは。
「あっ、黄色の花火!」
 ヒィロが子供のようにはしゃいで声をあげる。釣られてフルールも空を見れば、黄色いハートが空に描かれていた。
「おねーさんは、この色にどのような意味を見出しますか?」
 林檎飴を齧りながら、興味本位かフルールが聞いてみれば、ヒィロは同じ林檎飴を片手にうーんと悩んで。
「黄色って、ボクにとってはルルちゃんの素敵な髪の色のイメージなんだ」
 もふもふと両手いっぱいの食べ物を頬張りながら、つまりとヒィロは続ける。
「ルルちゃん色、かな?」
 フルールにとって、ハートは赤色であってほしいものだった。赤は情熱の色、強い愛の色だから。
 それでも、ころころと笑うヒィロが黄色を当てて、それを自分の色だと言うのなら、それも悪くないかもしれない。
 なんて。
 ヒィロの肩に頭を乗せ、互いに寄り合いながら夜空彩る花火を目に焼き付けた。

『花火』
『打ち上げ花火』
 ラジオ受信機を傍らに、ズットッドはラジオ屋を一人営む。
 ほんの少し高みへ登ってみて、群衆から逸れれば穴場とも言えるスポットへ出た。
 ラジオ放送の声はズットッドの耳だけに届く。時々、通りすがる人が風に乗った音を聞いたか、視線を投げるがそれだけだ。
『そうよ、美しい世界でおまじないをしましょう』
『と少女は言いました』
 ひとつめのハートが打ち上がる間際、ズットッドのラジオ放送にノイズが走る。
 弾けた黄色は予想の最後。願い事は、その内に。

 透明の杯にたぷりと酒を注いで。
 一本横道に逸れれば、賑わう声も遠のく。
 見付けた階段を登れば、とっておきの特等席を確保できた。少し見えない所があれど、充分だ。
 色付くハートを見る度に、頭に浮かぶのは同じ色のお酒。
 それに、色とりどりの輝きを持つ友人たち。
 過ぎ去った楽しい日々も同じように鮮やかに彩られていて。
「この先も、沢山の友人たちと笑っていられますように」
 予想と色の違うハート型を見上げながら、アーリアは願い事を口にする。
 占いが外れたって構わない。自分で叶えてしまえば良いのだから。

「花火!」
「花火」
 あがる声二つあれど、そこにいるのはたった一人。
 頭上に花開く花火の群れを仰ぎながら、ランドウェラは嬉々としてその光を瞳に映した。
 ひと粒ひと粒は小さな火花だとしても、こうして大群となって打ち上げられる様はなんと美しいことか。
 震える掌は興奮からか。あるいは、初めて目にした花々への喜びからか。
 少し間を置き、打ち上がる花火はハート型。
 予想を立てて、ぱちんと瞳の中に弾けたその色は。
「願い事は――……」
 続く言葉は、白き閃光に呑まれた。

 微かに届くは海の音。すぐにそれも、遠く響く花火の音にかき消された。
 リインは屋台で買った綿あめを頬張り、ぼんやり夜空を見上げる。
 次から次へとあがっては消えていく花火を眺め、時折あがる変わり種には視線を投げた。
 その最中、ぽかんと空いた空間に白色の花火が咲き誇る。
 ハート型の形をしたそれが上がると、辺りは一瞬歓声に包まれた。
 弾けた白が、徐々にその形を失い闇夜に溶けていく。
 すっかり暗闇に包まれた空間を、リインは最後まで見つめていた。

 夏が終わりを告げる。
 店主からたこ焼きを受け取りながら、Morguxは屋台群の隙間から見える花火を見た。
 運営のアナウンスが花火の音の隙間に流れ、まじないハートの花火が上がった。
 お、と声に出たのは予想と一致したからだ。ひとつも当たらないよリかは良い。
 連続で当てるのは叶わずとも、少しは効果があるかもしれない。
 元より本命は自分で叶えるつもりだ。
「しっかし、どういう原理でハート型になっるのやら」
 それはそれとして、別の事。夜空に溶けていくハートを、Morguxは消えるまでじっと見つめていた。

 きっとこれが、今年最後の花火になる。
 アレクシアは潮風当たる道をゆったり進みながら、空一杯に咲く花火を見上げた。
 また来年もみんなと花火が見られると良い。
 この先お仕事も忙しくなって、色々な事に見舞われるだろう。
 自分も、みんなも。
 ふと見上げた夜空にぽんと開いた花火は青色。
 あと一歩の所で最後にはならなかったようだ。
 当てられたら願いが叶うというまじない花火。
 でも、当たらなくたって、自分で頑張って叶えてしまえば良い。
「ふふ、頑張らなきゃ!」
 みんな無事で、みんなで花火を。

 ぷっくら膨らんだ袋から、ふわふわの綿あめを取り出して。
 どーんと打ち上がる、大輪の花を見上げて。
 普段は依頼に駆け回る魔法少女とはいえ、たまにはこんな夜もいい。
 セララははむりと綿あめを頬張りながら、空に咲く花々を眺める。
「そういえば、ハート花火の色を当てるんだっけ。予想はー……赤!」
 アナウンスがかかって、ハート型花火が夜空の空白にぽんと咲いた。
 宣言通りの赤色ハート。
「世界が平和になりますように!」
 好きな色で当てたから、きっと叶うはず。

 夏の風物詩の下で、ヨルムンガンドは過ぎ去った日々を振り返る。
「私が生きてきた中で、一番だったかもしれないな……!」
 脳裏に流れる景色は鮮やかで、ひとつひとつが大切な思い出だ。
 色の予想は外してしまったが、打ち上がる度に次はこれかななんて考えてみる。
 段々と色濃くしてみて、よぎる思い出を花火と共に胸にしまい、ぽんと咲いたハートを見上げた。
「……!」
 最後に花開くのは、赤色。
 頬の赤と、林檎飴の赤と、夜空に咲く赤の花。
「来年もきっと……」

 昼の内に偶然邂逅したラクリマとクリスティアンの二人は、酒と屋台飯を手に花見と洒落る。
 本日の肴は夜空に咲く大輪と、ちょっとしたゲーム。
「ここはひとつ、どちらが多く当てられるか競ってみないかい? 負けた方が次の奢りね」
 その一言から始まったゲームだが、いよいよ開幕しようとしている。ハート型花火の打ち上げだ。
「俺はこう見えても賭け事は得意なのです! 負けませんよ!」
 などと宣うラクリマの過去の戦績はというと散々ではあるのだが。
 誰もが聞いたような鼻歌になりながら、ラクリマの予想とクリスティアンの予想が出揃って。
 さて、ゲームと言えば勝敗はつきものであるが、此度の賭け事はどちらが勝ったのかというと。
 またの約束をしながら、クリスティアンがにやりと口の端を釣りあげる。
「今度はラクリマの奢りでね……!」
「くう」
 ワイワイ楽しめる友がいるというのは何よりも素晴らしい事ではあるが、負けたら負けたでちょっと悔しいラクリマなのであった。

 ぶらぶらと花火を見上げながら、従者たちの目の届かぬ所へ足を運ぶ誠。
 ふと懐かしくなって理由もなく訪れた花火大会で、最愛を想うあやめ。
 何の因果だろうか。あるいは、これは定めだったのかもしれない。
 もう一度。
 もう一度。
 二人の思いが重なり、助けを呼ぶあやめの声が誠に届く。
「……!」
 誠は、知らず駆け出していた。その声に、求めに、応えるために。
 そうして二人は再び出会う。驚きに目を瞠ったあやめもまた駆け出した。
「貴方を探してました……大好きです、誠君」
 脇目もふらず誠の胸の中へ飛び込めば、少し高い位置に見える最愛へ口付けを。
 あやめを視界に捉えた誠は、抱き着かれた柔らかさや触れた熱に一瞬息を詰まらせた。
 声が出ないまま、口が開閉する。何を言うべきか。導かれた答えはただひとつ。
「俺も会いたかった……愛してるよ、あやめ姉」
 愛の言葉を。

 まるで本当の兄妹のように――片方はそれ以上のように、揃って進む死聖と由奈。
 屋台を巡っているうちに見つけたペアリングは、それぞれ二人の指元に。由奈の機嫌はますます急上昇。
「由奈、どんな順番だと思う?」
 前もって聞いていたハート型花火の色当ては、かなり低確率だと聞いていた。
 ふたりそれぞれ、予想を立てて空を見上げる。願い事が叶うと言われるまじない花火。
「お兄ちゃんは何を願うの?」
「僕の願いかい? ……ふふ、それは内緒だよ」
 教えてくれてもいいじゃんなんて由奈がむくれてみせても、死聖は楽し気に笑うだけ。
 死聖の願いは、由奈の笑顔を守る事。
 由奈の願いは、死聖と添い遂げる事。
 例え色を違えようとも、ふたりの願いは変わることなく、自力で叶えようと尽力するだろう。
 人混みから逸れて道を往くふたり。願い事を胸に秘め、帰路を往く。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

プレイングお疲れさまでした。ご参加ありがとうございます。
返却は秋口に入った頃となってしまいましたが、楽しんでいただければ幸いです。
花火はころっと賽子を振った結果、『黄/紫/白/青/赤』の順番となりました。
予想が当たった方は何か良い事がある……かもしれません。
色々と大変な昨今ですが、イレギュラーズの皆さまは良き日となりますよう。
改めて、ありがとうございました。

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