シナリオ詳細
<Phantom Night2022>銀狼金狐の夜が来る
オープニング
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富裕層が家を構える一帯の傍に、山がある。
其れはとある男爵の私有地であり、男爵は魔術を修める求道者として有名だ。
さて、今年もファントムナイトがやってくる。いつもなら男爵は魔法を使いつつメイドと一緒になってお菓子を作り、街の子どもたちに配っているのだが……毎年其れでは子どもたちも飽きてしまうのではないか? と、思索を巡らせた。
何か刺激的な方法はないものだろうか?
例えば獣が狩りをするような……そうだ、最近はイレギュラーズの活躍も目覚ましい。大人とはいえ、彼らにもきっと息抜きが必要だ。彼らも退屈しないような何か……其れでいて安全な何か……
そうして男爵は考え付いた。
己の私有地にお菓子の獣を放って、狩って貰うのはどうだろう!
●
「これ、サバティ男爵からの招待状なんだけどね」
グレモリー・グレモリー(p3n000074)は一枚の手紙を差し出した。一目で上等な紙だと判る。封蝋は割られていて、開封済みである事を示していた。
「サバティ男爵は求道者で知られているんだ。この幻想に山を一つ所有していて、そこで魔術の研鑽を重ねているんだよ。貴族なのに珍しいよね。珍しいのは其処だけじゃなくて、割とイベントには積極的なところがあるんだ。特にファントムナイトではメイドと一緒になって作った手作りお菓子を、子どもに配っているんだよ」
でね。
今回は君たちにもお菓子のチャンスがあるんだって。
狩りのゲームへのお誘いだ、とグレモリーは言う。
「狩りだなんて貴族らしいお誘いだよね。でも狩るのは鹿やイノシシじゃなくて、狼と狐。男爵が魔術で作り出す、紛い物だよ。君たちの力なら一撃で倒せる、って手紙には書いてある。ええと……」
がさがさ、と手紙の中身――便箋を取り出すと、グレモリーは読み上げる。
「“魔術で作り出された銀狼は、群れを成して森を駆け回るでしょう。其れ等は狩られると菓子に変わり、貴方がたの舌を楽しませるでしょう。また、山頂には大きな金狐を用意しました。戯れるもよし、戦ってみるもよし。お好きにお楽しみ下さい。きっと貴方がたを満足させる結果が出るでしょう”――だって。凄い自信だね。でも、きっと狐はもふもふしてるよね。もふもふは気になるよね。あと、新しい技を試すにも良いんじゃないかな」
僕は狼や狐を見るのは久しぶりだし、スケッチに回ろうと思う。どうせなら君たちも描かせてほしいな。
グレモリーは話を終えようとして、あ、と思い出したように手を打った。これがあったんだ、と荷物置き場をごそごそして、革袋を取り出す。
中からは狼と狐を意匠した小さなバッジがじゃらじゃらと出て来る。灯りを受けて、其れはきらり! と輝いた。
「一般人が混じらないようにとの配慮だよ。君たちの技は広範囲のものもあるだろうし。このバッジを付けた人じゃなきゃ入れない。情報屋が直々に付けるように、とのお達しなので、行く人は此処に並んでね」
ちなみに子どもには今年はどうするのか? と誰かが問うた。
いつも通り配るそうだよ、とグレモリーは言った。最初は子どもたちにも狩りをさせようかと思ったんだけど、やっぱり危ないからやめたんだって。
●
おばけ型のマシュマロに、蝙蝠型のチョコレート。
南瓜の焼き印がついたマカロン。それから、こわーい手の形をしたパープルチョコのアイシングクッキー。
青色クリームを挟んだマリトッツォに、南瓜をたっぷり練り込んだクリームのシュークリーム。
おっと! 其れは南瓜のジュース。其れから最近が旬のマスカットジュースだ。キャッチする時は注意して! 瓶が割れないようにね。
他にも様々なお菓子が君たちを待っている。中にはホールケーキを落とす狼もいるかもしれない。
今日は誰でもトリック・オア・トリート。男爵は気前よくお菓子を振舞ってくれるだろう。
さて、では……山頂にいる金狐は何をくれるのかな?
- <Phantom Night2022>銀狼金狐の夜が来る完了
- GM名奇古譚
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2022年11月19日 22時50分
- 参加人数31/31人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 31 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(31人)
サポートNPC一覧(1人)
リプレイ
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折角の祭だ。盛大に、派手に、ハジケようじゃないか!
「という訳で、今宵も麺狐亭ハロウィン出張サービスじゃ!」
うどん屋台を構えて天狐はお客にうどんを提供します。
「高級なお菓子が出るらしいからのう、メニューもチョコうどんで攻めるぞ」
もっちもちのうどんにチョコが絡む。うーん、凄く新領域。
「材料は勿論其の場で調達じゃ! ついでに其の尻尾をモフり尽くしてくれよう!」
年に一度のお祭りだから。全力で楽しみ、笑い、美味しく終わろうぞ!
狼……は、追いかけまわした記憶しかないな。ツェノワはそう言うのです。でも狼は理解を示せばきちんと接してくれる、良い存在でもありました。
今日の彼女はふわふわ真っ白お化け。空を舞い索敵して、狼を見付けたら狙撃。
どうせならあとで狐を狙ってみようか、と考えながら……いつの間にか沢山集まったお菓子を見下ろしました。
自分には一つだけ。このプリンだけで良い。
あとは他の人にあげよう。例えばそう、このイベントに誘ってくれた……ぐれもりー、だっけ。あの人にあげるのも良いかもしれない。
ある程度狼を撃ったなら、ツェノワの寝る時間がやってきます。
たまには悪い事をしてもいいかしら? 帰り道、夜に食べ歩き。プリンを食べながら、そっと帰路に就くのでした。
「確かに収穫祭だけど、狩りによる収穫祭? 魔術で造った狼? お菓子になる?」
流石貴族様、良い趣味してるねぇ!
ランドウェラは心中で叫んでいました。
「どんな魔術を使ったんだろう。あとで教えてくれないかなあ……」
ぶつくさ言いながらも、何処かテンション高めにランドウェラは狼を狩り、お菓子を手に入れていきます。最初は天使らしく……と己の仮装を顧みて色々と試行錯誤していましたが、何分己の力に「呪い」の文字の多い事!
最後には諦めて、狼をもふもふしに行っていました。ああ…抵抗しないもふもふ。幸せ。
閠はふわり、夜空に舞います。白い人魂と黒い霊、二人に狼を追い立てさせて、上から攻撃。
狼をお菓子に変え、そうして、いつものように彼はグレモリーの元へ。
「グレモリー、さん」
「うん、なんだい、閠」
「お菓子と悪戯、どちらが、お好きですか?」
……うーん。と、画家は悩みます。
悩む事なんだ……と少し驚いていると、お菓子かな、とグレモリーは言いました。
「今日の絵も、きっと素敵なんでしょう、ね」
さっきの狼から得たお菓子を彼に渡しながら、閠はグレモリーの傍で過ごすのです。
「グレモリーさんの、なりたいものは何ですか?」
「……なんだろう。僕は僕でいいかな」
ほら、獣になると筆が持ちにくいし。憧れる職もないからね。
とっても無味乾燥とした答えですが、とても彼らしくて。閠は知らず知らず、笑みを浮かべていたのでした。
モニモニにとって、これは初めてのハロウィンナイト!
しかも狩りときた、思わず血が騒いじゃう!
「キラキラのバッジ……隊長みたい! お菓子は保存の聞くものってあるかなぁ?」
あのね、いつか大好きな人にも分けてあげたいんだ! モニモニは無邪気に笑いながら狼を狩るのです。
黄金の爪を振るって、狼を次々とお菓子に変えていきます。狼は悲鳴も上げず、ぽん! と可愛らしい音だけを残してお菓子に変わって行くので、罪悪感もありません。
「クッキーとか、保存がききそう。あとはー……そうだ!」
モニモニが向かったのはグレモリーの元でした。
「おや、どうしたの」
「あのね、グレモリーを描こうと思って!」
不思議そうにするグレモリー。
モニモニはいつも絵日記を描いていますから、自分で言うのもなんだけど腕前はそこそこ大したものだと思うのです。
彼の姿を描く準備をしつつ、これが終わったら狐を狙ってみようと考える、モニモニなのでした。
「お菓子の獣だって、オフィーリア!」
イーハトーヴは思わず連れているお人形に話します。
とっても素敵な魔法だねぇ。サバティ男爵には会えるのかな? 会えるなら、後でお話を聞けたら嬉しいな。
まるで空から見下ろすように、イーハトーヴは狼の群れを見付けました。一網打尽のチャンス! 牽制の攻撃で狼たちを一か所に誘いこんで――そうしたら、気糸の乱れ舞う斬撃を見舞って。
ぽぽぽぽん、とお菓子に変わって行く狼たち。イーハトーヴは目をきらきらと輝かせました。
「お菓子が沢山! うわー! あっ、これプリンだ、みてオフィーリア! 俺、これ好き! こっちは? うわっ、なんか凄い色のマシュマロだ。極彩色の――」
其の時でした。イーハトーヴの脳裏に、新しいドレスのデザインが浮かんだのは!
私にも見せてよ、と言いたげな人形に、待って待ってと言いながら。イーハトーヴは大慌てでこのアイデアを残すメモを探すのでした。
今日のヨゾラは白猫姿。
あちこちを走り回る銀色の狼たちに、わあ、と感嘆の声を上げました。山を一つ所有して魔術の研鑽に励む。魔術師の一人として、とても興味深い。
……普段からお菓子の研究とかしているのかな? にゃんて、首を傾げてみるけれど。
どうせなら魔術には魔術。きっとハロウィンに映えるだろうと繰り出した一撃は、夜空の魔術紋も光り輝く星の破撃!
まるで一つの星が光り瞬くような其の一撃は見事に狼を貫いて。――トリックオアトリート! そんな心中の叫びに応えるように、ぽんと狼はお菓子に変わったのでした。
「――どうせなら、もう少し魔術を見せてあげようか」
ルリルリィ・ルリルラ。白い猫が歌います。
星が瞬くように、謡うように、歌いましょう。皆が男爵みたいに素敵なヒトだったら、平和なのになぁ。
「狼の僕が狼を狩るなんて、なんだかちょっと変な気分だな」
グレイルはそう呟いて、首に巻いた布をくい、と上げました。とても簡素な傭兵らしい姿は、とある人の真似っこ。
――本物を狩るよりはずっとマシか。のんびりと歩く狼の群れを目に留めると、グレイルは己の分身に似た狼を作り出し、其の力を借りて氷雪の嵐で狼たちを呑み込みました。
悲鳴はありません。ただ、ぽぽぽぽん! と愛らしい音が鳴って、其処にはお菓子が残るばかり。グレイルはお菓子を拾い上げると、腰のポシェットへと詰め込みました。
どうせなら狩りを楽しんでみようか。食べきれないお菓子は周りに配ろう。だって、折角のお祭りなんだから。
「この世界のハロウィンとやらは、なかなか趣向が変わってるね」
ルシは言います。まあ、ハロウィン自体、この世界では初めてなのですが。
狩れるのは狼に狐。じゃあ、遠慮なく――え? ある程度遠慮はしろ? ふふ、ごめんごめん。言葉の綾だよ。
なんて言いながら、ハルバードをくるくる振ると、其れこそ魔法のように暢気な狼たちはお菓子に変わって行くのです。
結果的に沢山のお菓子を得てしまったルシ。
ああ、手ごたえがないったらありゃしない! まあ催しだし、いいけどね?
このお菓子はどうしよう。渡したい相手は素直じゃないから、受け取って貰えるか判らない。
なら、祖母の分にも幾つか分けておこう。食べやすいものが良いかな?
「今年もファントムナイトの季節か。時が過ぎるのはあっという間だな……」
憂うように、ベネディクトは言いました。そうですね、とリュティスが頷きます。
「何も起きない時の方が少なかったですから。あっという間に感じるのも仕方のない事かと」
リュティス自身、彼の従者として仕えてから慌ただしい日々を送っていました。
「さて、今日の事についてだが――他でもない。何でも狼狩りでお菓子が貰えるらしくてな」
「狼狩りで……景品か何かでしょうか」
「いや、狼がお菓子に変わるそうだ。今日の俺達の衣装は猟師と赤ずきん。ちょっとした関連性も感じて、こうして参加しに来た訳だ。手に入れたお菓子は領地の子どもたちにでも配ろうかと思ってな。無論、土産として幾らかは持って帰るつもりだが」
手を貸してくれるか? と主が問い掛けます。リュティスには断る理由などありませんでした。
「良いお考えですね、きっと子どもたちも喜んでくれるでしょう」
以前のリュティスなら思いもしなかった事。――彼女も少し、変わったのかもしれません。
「そうだ、なんでも山頂には金色の狐がいるらしい。折角だ、狙ってみるのも一興かも知れないな」
そう言って笑ったベネディクトは、何だか幼い笑みを浮かべていて。
リュティスも、それは面白そうですね、と応えたのでした。
「魔女姿、よく似合ってるぜ」
「あ、ありがとうございます」
バクルドはマリエッタを褒めます。しかし彼は何故かT字姿勢。なんかアレだね。3D作る時の初期姿勢みたいな。
「私、魔女という言葉に悪いイメージを持っていましたけれど……こんな魔女なら、幾らでも、ですね! でも大丈夫なんですか? 色々カクカクしてますけど」
「ああ、気にするな。大丈夫だ」
ちょっと立体的でも、気にしない、気にしない。
さて、どうやって狩りましょう。マリエッタの言葉にバクルドは思案する。本格的な狩りならば、罠を張って気配を隠し、確実に仕留めるのだけれども。今回の趣旨はそうでもないし、何より味気ないから。
「多少ぶらついて、見かけたのを狩るだけでも十分そうだ」
そう言って、彼はマリエッタを先導します。彼女に気付かれないように、狼が多いエリアへとエスコート。彼女が沢山のお菓子に囲まれて、困ったように笑う顔が見たいから。
「ふふ。そうですね。ゆっくりと散歩しながら、見付けた狼を狩りましょう」
折角の収穫祭ですもの。
マリエッタはふんわり笑って、良き魔女として力をふるう準備をするのでした。
「へぇー、お菓子になる狼か。美味しそうだねえ」
シキは楽しそうに狼を探しています。
此処に来るまでに何匹が斃して来ましたが、倒した時のエフェクトが可愛らしいとシキの中では話題。ぽん、と弾けるみたいにお菓子になる様は、なんだかワクワクするのです。
「色々お菓子も種類があるみたいだな。シキ、なんか食べてみたいやつはあるか?」
サンディは戦利品のキャンディを口に入れながら、隣のシキに問いました。
「うーん、私はチョコレートが好きだけど……サンディくんは?」
「俺はそうだな、南瓜のお菓子とか……食べた事ねーかもだけど。取り敢えず、チョコを落としそうな狼を狙っていこうぜ!」
とはいえ、狼はチョコ色をしている訳ではないので、結局二人は総当たり的に色々なお菓子を手にする事になるのですが。
チョコレートが無事手に入ったら、サンディは颯爽とシキに渡すのでしょう。
でもシキだって貰ってばかりじゃいられない。一口どうぞ、とサンディに渡して…それから、トリック・オア・トリート!
サンディは笑って、さっき出てきた南瓜のまるごとうさぎケーキでも食べるか、と持ちかけるのです。
アルテミアは緑の衣をまとった幻想種の姿で、ウィリアムと一緒にお菓子集めを終えたところでした。
ウィリアムはなんとなく、既視感を覚えます。アルテミアの恰好……まるで自分が纏っている服のような……いや、まさか。偶然だよね?
いえ、偶然ではないのです。ウィリアムを意識してるのがバレやしないだろうかと、乙女の心はどぎまぎ揺れ動くばかり。
でも……アルテミアは近いうちに、他の貴族と婚約する事が決まっています。
だから、この想いは叶えられない。
何より、生きる時間が違うから――彼を悲しませる事を、したくなかった。
「……ずっと、この姿でウィリアムさんと一緒にいられたらよかったのにな」
「え?」
「あ、いえ! 狼は何処かなー? って」
「まだ食べるのかい? お菓子は別腹ってやつかな」
なんて笑い合う二人。心の裡に密かに、色々なものを隠して、其れでも綺麗に笑い合うのです。
――彼女への想いをもっと早く告げていたなら、何か変わっていたのだろうか。ウィリアムはそっと思いながら、アルテミアの手を引きます。
そろそろ、……ちゃんと、踏み出さないと。
ルナールとルーキスは今日も仲良し。
ルーキスは魔女の恰好、そしてルナールは吸血鬼の仮装でお出ましです。
「さーてどうしようか。山一つって話だし、それなりに数はいるでしょう?」
「大量の菓子か……俺的には構わないし、最悪、土産として持ち帰ればいいんじゃないか」
「まあ確かに。数は確実に倒せるけど、そんなにお菓子溜め込んでもなぁ。太らない?」
「太らないよ」
俺はどれだけ菓子好きだと思われているんだ、とルナールは若干むくれ顔。そんな顔も愛しくて、ふふ、とルーキスは笑うのです。
よし、とルーキスは銀鍵を容赦なく使います。暢気に歩いていた狼たちを、次々と仕留めていく怒ってない魔女の矢たち。
「おー。流石うちの奥さん。強いなー」
と、ひょいひょいお菓子を集めるルナール。
「取り敢えずだいぶ集まったけど、どうする?」
「食べきれないし、あとで子どもに配って回ろうよ。きっと喜ぶ」
「配るのも良いが、チョコ以外なら。チョコはルーキスの焼き菓子に入れて貰いたい」
「仕方ないなあ。じゃあチョコ以外で。お兄さんにも手伝ってもらうから、其処の所は宜しくね?」
「ああ。流石に手伝うぞ……量が量だしなぁ」
そういって腕の中の大量のお菓子を見下ろすルナール。一つ一つが小さいだけに、この量はすさまじいな、と呟いたのでした。
リュコスの知覚が、のんびり歩く狼の群れを捉えます。
これは甘い香りのオオカミさん。間違いなくお菓子の気配! リュコスは素早く前に出て、狼を引き付けます。
其の隙に、ステラがどかーん! と、狼の群れを一網打尽。
「うーん見事! お菓子を大量ゲット!」
散らばるお菓子を見て、満足げにリュコスは言うのです。
「お菓子の獣狩りとは――」
ステラは興味深げに、散らばったお菓子を見分します。無論、変わったところはありません。
――何とも珍しい貴族の方もいたものですね。勿論、いい意味でですが。
用意してきた入れ物にお菓子を入れるステラに、ねえねえ、とリュコスは言います。
「あのね、山の上には大きいキツネさんもいるんだって」
「山頂に狐? どれくらい大きいのでしょう」
「そりゃあもう! どーん! と。ステラもそういえば、キツネさん……もふもふもお揃い?」
無邪気に聞いてくるリュコスに、どうでしょうか、とステラは首を傾げる。毛の痩せた狐に変じた覚えはないけれど、はて。
「気になる。どうせだから、おかし集めながら、上まで昇っちゃおう!」
「えぇ、ちょっと触ってみたいですし、後で行ってみましょうか」
言いながら――ステラは少しだけ、お菓子を持って帰れるか心配になるのでした。
●
狩りを楽しみながらお菓子も貰えるなんて、なんて素敵な一石二鳥だろう。
ウェールはトランプから一撃を放ち、狼をぽん! とお菓子に変えながら最初はそう考えていました。例えば連射してみたり。気にせず打てる一撃をばらまいて、複数を倒してみたり。
時には接近戦を挑んでみたり! とってもやりがいはないけど!
「問題は……息子の姿で銀色の狼を倒すというシチュエーションなので…狐に挑んでみるか」
まあ、ウェール的にはとっても問題だよね。わかる。なのでウェールは山頂で、狐を狩る事にしました。
倒す事こそ出来ませんが、ダメージは蓄積していきます。狐は何処か悲しそうに、身をよじらせながら、お菓子をぽんと吐き出しました。
狐の形の、クッキー。
「うっ、ううう……」
……もう堪えきれませんでした。
「ごめんな、ごめんな……賞味期限ぎりぎりまで一緒にいるからな……今度は大事にするからな……」
ウェールよ。其れはあくまでお菓子であって、君の子ではないんだぞ。
――モフモフしに行きます!
――間違えました! 狐狩りをします!
エルは力いっぱい、山頂を目指しました。
そうして出会ったのは大きな狐。艶のある毛並みに、長い尻尾。時折空を見上げてけーん、と鳴く様は、少しだけ哀愁すら感じます。
本来ならエルは銃を用いて闘うのですが、今日はモフモフ――じゃなかった、囮が彼女の仕事です。
いざ! と抱き着いて動きを止めます。ふんわりしていて、ふかふかで、ほんのり暖かい。うへへ、と緩みそうになる顔を抑えて、エルはいうのです。
「さあ! 私に構わず! やっちゃってください! どうか私に構わず!!」
ふんわりと尻尾に撫でられて、其の顔が――ああ、ほら。蕩けそうです。
――魔術で動物を作って、其れを狩るなんて楽しそうね!
セチアは意気揚々と山頂を目指します。
――しかもお菓子に変わって、其れがまた美味しいのだとか!
そうしてついた山頂には、どででん、と大きな狐が鎮座していました。
セチアは容赦なく攻撃を加えていきます。他にも、何人か狐を攻撃している者の姿が見えます。中には尻尾でもふもふされているものの姿もありました。
誰かが下がったと思ったら、セチアが前に出て。そうしてふわりと尻尾で撫でられる感触の、なんと心地よい事でしょう!
「くっ、なんて強力な攻撃なの……!」
でもセチアの心はとても元気になっていました。
「でも、看守として絶対に負けられないわ……! バトルに勝って、お菓子を手に入れるのよ!」
アーリアは魔女の姿で。あの子を追いかけるような姿で、バッジを大きな帽子に付けました。
――私ってばとっても我儘だから、いっとう素敵な"何か"が見たいの!
そうして辿り着いた山頂、金色の狐は大好きなもふもふの彼を思い出させてくれるようで。今にも飛びついてしまいそうだけど、我慢我慢!
箒に乗って跳び回り、甘い甘いジャムみたいな睦言を呟きます。さて、狐に其の意味が解せるでしょうか。
時にはふわり、懐に飛び込んで――アルコールに浸るみたいに、いい気分になって躍りましょ、と魔女は誘います。
ぽん、と狐が吐き出したのは、ハートの形をしたクッキーでした。
トリックオアトリート――ああ、美味しそうなクッキーだこと。家で待つかわいい私の銀色さんと、はんぶんこにして食べなくちゃ!
歌姫と、怪人がいました。
おっと失礼。レイチェルとメリーノです。
バッジもきちんとつけました。あとは意気揚々と山頂を目指すだけなのですが……何分歌姫はヒールに慣れていません。あちらへよたよた、こちらへふらふら、少しあぶなっかしい感じ。
「よーちゃん、転ばないようにしてねぇ。ヒール引っ掛けないようにね?」
「ン、やっぱ、ヒールは慣れんなァ。いや、大丈夫だぞ? 大丈夫だが……そうだ。エスコート。お願い出来ないだろうか?」
本当は、こんなの柄じゃないのだけれど。折角だもの、とレイチェルが言うと、メリーノは驚くように跳ね上がり。
「勿論! ちゃんとエスコートするわぁ! ふふふ、よーちゃん照れてる? ふふふ」
「照れてない」
そうして二人着いた山頂には――狐、がいました。大きな大きな金色の狐。其の姿を見た瞬間……メリーノはエスコートしていた歌姫の手を離し、お腹をもふもふしに大分!
「――綺麗だ。……って、めーちゃん!?」
「よーちゃん! 金色のもふもふよぉ! わたし、アレがやりたかったの! あれ! 某田舎に住んでる灰色のアレにとびつくやつ!」
はて、何を言っているのかレイチェルにはさっぱりでしたが、大きなものに身を預ける安心感というのは確かにあるもの。
仕方がない、とレイチェルもメリーノの隣で、ふわりとした金色の毛並みに身を任せるのでした。
「でも金色もふもふちゃん、独楽に乗ってお空は飛んでくれないのね……」
メリーノは残念そうに言うのでした。
狐狩りに行こうか。
そう言ったのは、狼男の姿をした史之の方でした。
黒い毛並みに、紅い眸。其の奥にある優しさを、十二単に似た衣装を纏った睦月は知っています。
「こういうのは真面目に戦っても面白くないよね……」
「はわっ! これは何とも見事なお狐様。さぞ名のある神とお見受けしました。其れにしても月に照らされた毛並みの見事な事……少し触っても宜しいでしょうか?」
真面目に考えている史之に対し、狐のもふもふにしか目が行っていない睦月。苦しゅうない、とゆらゆらゆれる尻尾に、睦月は思わず抱き着きに行きました。
「ふわああああ……! もっふもふ! しーちゃん! これすごい、一緒にもふもふしよう! うわあ……この艶、照り、柔らかさ、そして温もり……完璧です、完璧」
「カンちゃんが尻尾の虜になってるー!? いや、一応敵なんだからさ!」
といいつつも、史之だってモフりたいんでしょ? とばかりに狐は尻尾を差し出しました。恐る恐る、其のふわふわに触れる史之。
「お、おお……」
まるで流れるように、大きな尻尾を抱き締める史之です。
「なんというもふ……しかしモフリ度では今の俺だって負けないぞ! カンちゃん! こっち見て! ほら、俺の尻尾で我慢して!」
「えー?」
仕方ないなあ、と身体を離した睦月に当たらぬよう、史之はひっそりスキルを全振りして狐に攻撃を仕掛けます。
「妬いてない、妬いてない。俺はぜったい妬いてないです、妬いてなんかないですー! 俺はカンちゃんのための一振りの刀として役目を果たしてるだけだから!」
……其のうち史之はとうとう耐えきれなくなって、抱っこするように睦月をぎゅっとするのでした。
今夜の私は怪盗フレグランス。
ジルーシャはそう己に言い聞かせ、マントをふわり靡かせます。
「さあ、どちらが早く狐を倒せるか勝負ですよ、狼探偵さん」
水を向けられた先にはラグナルがいました。いいえ、今夜はラグナルではありません。
「狼探偵ウルフマン、此処に参上――俺だって腐ってもノルダインの戦士……じゃなかった、狼探偵だ! 狩りは得意な筈!」
はて、はず、とは。
二人は山頂を目指します。するとそこには黄金の毛並みが美しい、大きな大きな狐がいるではありませんか。
「さあ、いきますよ」
ステッキの先から魔法をふわり、怪盗フレグランスが攻撃を仕掛けます! ばちばち、とふんわりした狐の尻尾の先が焦げて、狐は熱そうにふうふうと吐息をかけました。
「行くぞ、ベルカ!」
狼探偵だって負けてはいません。お供の狼と連携して、一撃一撃を重ねていきます。
「わあ、すごい! ……じゃなかった、やりますね、狼探偵さん」
すると狐がぶるぶると震え出しました。
はて、と二人が首を傾げていると――ぽん! と狐が破裂して、お菓子の群れが降り注いだではありませんか!
「わあ! ……倒したのね? イエーイ、やったわ!」
口調も忘れて、すっかりジルーシャは嬉しそう。
「おいおい、口調忘れてんぞ」
「あっ……じゃなくて、えっと……もう、笑わないでよ! しょうがないでしょ、アタシこんな喋り方慣れてないんだもの!」
でも楽しくって、怒りはすぐに過ぎ去って、後には笑みが残るばかり。
さあ、お菓子を取りに行きましょ、とジルーシャはラグナルの背を押すのです。
其の後はジュースで乾杯して、……え? バーニャがしたい? うーん、それはまた後でね。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした。
ファントムナイト、お楽しみいただけたでしょうか。
私も去年から暖めていたネタをお出し出来て満足です。
銀狼と金狐。美味しく食べて下さいね。
ご参加ありがとうございました!
GMコメント
こんにちは、奇古譚です。
ファントムナイトだぞー!! ウオオオオオ!
●目的
“狩り”を楽しもう
●立地
幻想の富裕層が家々を構える一帯の裏側です。山一つが今回の舞台となります。
普段は魔術の研鑽に使われるため、一般人が入り込まないよう厳重なセキュリティが張られています。
万が一にも放たれた獣が逃げ出す事はありません、ご安心下さい。
(放たれたとしてもお菓子を触媒にした非常に弱い存在なので、街の人達がエイッとすれば斃せます)
●出来ること
変身した姿で参戦する事が出来ます。
だってファントムナイトだから。
ただし、バッジは忘れずに付けて下さいね。
1.狼狩り
さまざまな技を使って銀色の狼を狩りましょう。
狼は技をうけると一撃でぽん!とお菓子に変わります。割と高級品です。美味しいです。
2.狐狩り
山頂に大きな大きな金色の狐が一匹、でんと丸くなっています。
また、レイドバトル的な一面も持つので戦う事も可能です。累積ダメージで倒れます。つまりシナリオの最後を飾ります。シナリオの最後で必ず倒されますのでご安心ください。
尻尾で反撃してきますが攻撃力はありません。もふもふもふぁーとしています。ある意味トリートかも。
●NPC
グレモリーが金狐の傍で狼の群れや大きな狐、戦うイレギュラーズをスケッチしています。
獣もイレギュラーズの技も普段は見られないものだからと張り切っているようです。
彼に悪戯を仕掛ける事も出来ます。お好きに扱ってどうぞ!
ちなみにリリィリィは(見た目を大いに利用して)お菓子を貰って回るのに忙しいため、不参加です。
●注意事項
迷子・描写漏れ防止のため、同行者様がいればその方のお名前(ID)、或いは判るように合言葉などを添えて下さい。
また、やりたいことは一つに絞って頂いた方が描写量は多くなります。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
●
イベントシナリオではアドリブ控えめとなります。
皆さまが気持ちよく過ごせるよう、マナーを守ってイベントを楽しみましょう。
では、いってらっしゃい。
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