シナリオ詳細
<Phantom Night2022>しっぽ繋いで
オープニング
●
柔らかなパープルの夜空に灯るランタン。
揺れるオレンジ色の灯りは幻想的で心が擽られた。
魔法の言葉――Trick or Treatを唱えれば楽しい気持ちが溢れ出す。
ファントムナイトの街はいつもより色彩豊かだった。
「とりっくおあとりーと!」
夜の希望ヶ浜に悪戯な声が響き渡る。
振り返れば、三銃士の格好を身に纏った『掃除屋』燈堂 廻(p3n000160)が居た。
「ふふ、今日は特別な夜なので外出許可を貰ってきました。暁月さんも居ますよ」
「にゃーん」
廻のマントの後から『猫廻』の姿をした『祓い屋』燈堂 暁月(p3n000175)が顔を覗かせる。
「僕も猫になれるのでお揃いなんです、ほら!」
くるりとその場で回転した廻の頭に猫耳が生えた。もちろんよく動くしっぽもある。
小さなカバンの中からハロウィンキャンディを取り出した廻はイレギュラーズの掌にそれを乗せた。カボチャの柄と、魔女モチーフの包みがコロンと転がる。
「ファントムナイトは希望ヶ浜の人達も魔法に掛けられるんです。だから、僕達みたいな『普通』じゃない人達ものんびり過ごせる日なんですよ」
希望ヶ浜という地域柄、普段は隠さなければならない翼や尻尾もファントムナイトだけは特別。希望ヶ浜の住人が現実を許容出来る数少ない日なのだ。
怪異の秘匿をしなくていいというのは、この街を裏から支えている廻達にとって安息の日なのだろう。
「希望ヶ浜でも色々な所でファントムナイトのお祭りが開催されるよ」
暁月が指差した方向へ視線を上げれば、パープルとオレンジのガーランドが飾られ、カボチャのランタンが揺れるファントムナイトフェスの灯りが見えた。
「ハロウィンにちなんだカラフルなお菓子もあるし、美味しいお肉とかビールとかワインもあるから大人でも楽しめると思うよ」
並ぶ料理はパンプキンパイにキャンディ。チョコレート菓子。
ぎっしりホタテクリームコロッケ、ジューシーポークの収穫祭ローストなんかもあるらしい。
想像しただけで暖かい気持ちが溢れ出す。
「夜は冷えますからね。暖かいパンプキンスープが美味しいですよ」
「センタービルとか観覧車からの夜景も綺麗だから行ってみるといい」
同じ猫廻姿になった暁月と廻はまるで双子のようだった。
不思議な感覚になりながらイレギュラーズは二人と共にフェスへと向かう。
――――
――
ファントムナイトフェスに近づくにつれてカボチャスープの良い香りが流れてきた。
いつもより目線が低い暁月と廻は、周りが大きくなったような楽しい気持ちに胸を躍らせる。
「へへ、楽しいですね暁月さん」
暁月は目を輝かせる廻とはぐれて仕舞わないように、彼と自分の尻尾を絡ませた。
「そうだねぇ。子供に戻ったみたいだ」
暁月は幼い日に明煌と遊んだ記憶に思い馳せる。
あの頃は何の気兼ねなく笑っていられたのに。
「ねえ暁月さん、明煌さんにお土産買っていきたいです。何だかお部屋から出てこなくて」
しょぼんと耳を垂らす廻に首を傾げる暁月。
「どうしたんだろ? あ、これなんかどう? 喜ぶかな? 最近の好みって分かんないんだよね」
小さな手でお菓子を選ぶ。可愛らしい子供用のハロウィンのお菓子だ。
昔はこういうのを明煌と一緒に食べていたと目を細める。
「暁月さんが選んでくれたものなら何でも喜ぶと思いますよ!」
「えーそうかな。昔は仲良かったけど……最近は廻の方が仲良しなんじゃないかな」
先日のもみじ狩りでも随分と明煌は廻の事を気に掛けていたように見えたのだ。
「んー……多分暁月さんが僕を大切だって思ってくれてるのと同じぐらいには、いやそれ以上?」
廻の言葉に目を見開いて暁月はお菓子を落しそうになる。
「そんなに? 嘘でしょ? だって、全然会ってなかったし最近の明煌さんのこと全然しらないよ」
「今度会ったときに聞いてみたら良いと思います。きっと明煌さんも喜ぶんじゃないかな」
暁月が選んでくれたお菓子を掲げて廻は『二人が前みたいに仲良くなりますように』と願いを込めた。
●
魔法の夜はなりたい姿になれる――なんて誰が考えたのだろう。
「何で……」
『煌浄殿の主』深道明煌(p3n000277)は突然ひらけた視界に首を振った。
右目を覆っているはずの黒い眼帯は消え失せて、クリアな色彩が目の前に広がる。
嘘だと、口から漏れた。いつも通りの自分の声。だけど背中に纏わり付く長い髪の気配が無い。
同じ骨格と身長だが僅かに『軽い』。筋肉の分だけ腕が『細い』。
「嫌だ……なんで、」
「明煌さんファントムナイトフェスに行ってきてもいいですか?」
障子を少しだけ開けた廻が遠慮がちに呼ぶ。
「――来るなッ!!!!」
廻が「ひっ」と息を飲む声が聞こえた。
「入って来たら殺す……! 何処でも行け! 入ってくるな」
「はい……お土産買ってきますね」
悲しげに返事をした廻の足音が遠ざかって行く。
何故と漏れ出る言葉は拒絶だ。
見えすぎるのだ。右目が。
暁月にあげたはずの右目が見えるということは。
己が魔法に掛けられた『なりたい姿』は――暁月以外有り得なかった。
だからこそ、否定し拒否し顔を覆う。
「嫌だ。俺じゃない……願ってない」
この姿を望んでなどいないのだと叫んだ。
自分が暁月になることを望んでいるなんて恐怖でしかない。
暁月と己とでは異なるもの。自分がその聖域に成ることを望むなんて――
誰にも見られたくない。この姿は暁月だけのものだから。
- <Phantom Night2022>しっぽ繋いで完了
- GM名もみじ
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2022年11月19日 22時05分
- 参加人数30/30人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 30 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(30人)
サポートNPC一覧(4人)
リプレイ
●
魔法の夜は誰しもが子供のように心躍らせる。
「あ、廻見てみて……これ、この前の紅葉見に行った時にいなかった?」
「確かに、まあるいオレンジ色のヤツいましたね」
尻尾を絡ませながら暁月と廻が楽しげに声を上げた。こんな風にはしゃいでいる暁月を見るのは珍しいと廻は何だか心があたたかくなる。暁月も子供のように無邪気に遊びたいと思っているのだろうか。
ラズワルドは廻に会うために花魁姿の猫又になって夜の街を駆ける。
今夜だけは君のものになってあげるなんて、当時は冗談だったのに。今は少しだけ本当かもしれない。
「みーつけたぁ、ってあれぇ? 廻くんが増えて……違う、そっち暁月さんだよねぇ」
猫廻に抱きついたら同じ顔がふたつ。でも、『音』が違うからラズワルドにはすぐに分かってしまう。
暁月の傍に寄ったラズワルドは耳元で「あのさぁ、この間のことは忘れてねぇ?」と釘を刺す。
不思議そうに首を傾げる廻の手を引いて歩き出すラズワルド。
どうせ味は分からないからと暁月と廻が食べているものを摘まむ。
「廻くんの好みを知るイイ機会でしょ」
「じゃあ、このパンプキンパイ食べましょ。一口サイズに切ってあるから食べやすいです」
あーんとラズワルドの口に吸い込まれるパイ。お返しにとラズワルドも廻の口にパイを入れた。
三人で身を寄せ合い、尻尾を絡ませる。
「へへ、暖かいですね」
素足を寄せた廻がラズワルドに寄りかかった。
「お土産はどうしましょうか」と廻が暁月に問いかければ、ラズワルドは己の首輪から伸びる鎖を手渡す。
「じゃあ、廻くんは僕をお土産に持って帰っちゃう?」
「えっ!」
「……んふふ、悪戯成功だねぇ」
微笑んだラズワルドに廻はぎゅうと抱きついた。
「めーぐーりーっ! ふふ、久しぶりに会えて嬉しい!」
身体は大丈夫かと首を傾げるイーハトーヴに廻は「はい」と笑顔を向ける。
「……俺に対してじゃなくてもいいからさ、『辛い』や『助けて』を無理に飲み込まないでね。
今は皆と離れた場所に居るから、尚更だよ」
小さくなった廻の手を握るイーハトーヴ。自分も大きく変れたわけではないけれど、友達に甘えてもいいのだと教えてくれたのは龍成だから。
「ねっ、龍成!」
「おう……」
「それでね、今日は2人が俺に甘える日!」
パンパンになったお財布を顔の横に掲げて「何でも好きな物を頼んでね!」とイーハトーヴは微笑む。
「ねえ、廻、龍成」
熱々のホタテクリームコロッケを一緒に食べながらイーハトーヴに視線を上げる廻と龍成。
「今日、一緒に過ごせてすごく嬉しいよ。2人ともありがとう!」
「はい! 僕も嬉しいです」
満面の笑みを向ける廻の向こうで照れくさそうに龍成が「ああ」と応えた。
ファントムナイトの陽気な飾り付けに夏子は視線を移す。隣にはタイムと、その先に見えるディアンドルを来た女の子。
「良いねぇあの女性この女性皆スゴいか……っ」
「賑やかで見てるだけでも楽しいねぇ」
「そうだね賑やかで良いよねぇ~」
一回りしたフェス会場の隅のベンチでタイムと夏子は一休みしていた。
「いーい?」
タイムは夏子に向かってファントムナイトの合言葉を教える。
「じゃあ試しにわたしに言ってみて!」
「ふんふん じゃ~タイムちゃん トリック? ォァトリート?」
ポケットから取り出したキャンディを唇で加えて「はいどーぞ」と悪戯な笑みを向けるタイム。
夏子がどんな反応を見せるのか、意地悪心と好奇心がタイムの瞳に輝く。
可愛らしいタイムの仕草に夏子は飴を摘まんで。
「いただきます」
触れた唇の感触にタイムは頬を染める。
「お菓子渡してくれなかったし イタズラしてね ってコトよね」
夏子の言葉に視線を逸らしたタイムは「……そうよ。もっとイタズラして」と絞り出した。
素直なタイムの誘いに夏子はそのまま彼女をお姫様抱っこで迎えるのだ。
「とりっくおあとりーと!」
ニルはいたずらって何をしたらいいのでしょうと抱きついた廻に首を傾げる。
「廻様、おひさしぶりです! 廻様の元気そうな様子に、ニルは安心したのです」
「お久しぶりです。ニルさんは人魚姫の恰好ですか? かわいいですね」
ゆらゆらと尻尾を揺らすニルは廻が猫の姿である事に気付いた。
「は。お魚は、猫さんに食べられちゃう……? じゃあ人魚姫も……? ニルはおいしくないですよ?」
「こんなに可愛いと食べちゃいたくなりますね」
廻がニルの尻尾をツンツンするとぷるぷると震え上がる。
「まだ廻様は帰ってこれないのでしょうか。早く元気になって帰ってきてくれたらいいなってニルは思っているのですよ」
「そうですね、最近は浄化の儀式もゆっくり進んでて……」
以前は廻の体調など関係無く行われていた儀式が、最近は負担が少ないように配慮されているらしい。
その分浄化が完了する期間が伸びているのだという。
「明煌様? が廻様を元気にしてくれるのですよね。ならニルも、お土産選ぶのお手伝いしたいです
ありがとうございますのきもちを、たくさんこめて!」
腕一杯のお菓子を手にしたニルに笑みを零す廻。
「ありがとうございます。明煌さんも喜ぶと思います」
「今年は廻君とお揃いの格好だよぉ~。廻君、とっても似合っててカッコ良い!」
「えへへ、シルキィさんも格好よくて可愛いです」
シルキィと廻はお揃いの三銃士の衣装で嬉しそうにふんわりと笑い合った。
廻はシルキィを遊歩道へ誘う。ハロウィン仕様にライトアップされた道は幻想的だった。
「ね、廻君。手を繋いでも良いかなぁ?」
返事は指先に絡む温もり。久し振りに合う廻の姿は楽しそうだけれど、随分と痩せてしまったように見えるのだ。廻に合えて嬉しい気持ちと、何も出来ない悔しさがシルキィの瞳に滲む。
「……だめだねぇ、心配事だらけで。一番辛いのはキミなのに……」
「ごめんなさい。シルキィさんにいっぱい心配かけてしまって」
「ううん、ごめんねぇ、いきなりこんな話になっちゃって! えへへ、ちょっとだけ弱音を吐きたくなっちゃったんだ。もう大丈夫だから」
眉を下げるシルキィの手を廻は強く握った。
「けど、もうちょっとだけ手を繋いでいても良いかなぁ?」
「はい……僕もシルキィさんと一緒の時間は心がふんわりとあたたかくなって幸せなんです」
吹いてくる風は少し冷たいけれど、繋いだ手は温かい。少しでもこの時間が長く続いて欲しいと思うけれど暁月達が心配しているかもしれないから。
「……ね、廻君。わたし、たくさん頑張るから。だから、きっと、帰ってきてね。」
「はい。必ず帰って来ますよ。約束です」
魔法の夜に交わす切なる願いは強く儚く。
世界各地で起る動乱の合間の平穏。隣の龍成と一緒であれば尚更心地良いとボディは紡いだ。
「……これでも嬉しいのですよ、ほら」
指で口角を上げたボディの頬を龍成はむにっと摘まむ。
「では、トリックアンドトリート。菓子を渡しますので菓子を下さい」
飴玉を龍成の口に放り込んだボディは「口に合いますか?」と首を傾げた。
次は龍成からのお菓子を待ち望む瞳に、両手を上げて持って居ないアピールをする。
「持っていない……ではトリックをします」
「おう」
「ええと、その……龍成はどんなイタズラが良いですか?
よく考慮すれば、私はどのようにイタズラすれば良いか学習をした事が無い、ので」
昔は何も考えず出来ていたことが今のボディには出来ない。
悪戯で手を繋ぐことさえ、今は躊躇してしまう。
さっきだって飴を龍成の口に入れることも動作が重くなり、一瞬で発熱していた。
ずっと見ないふりをしていたけれど、どうにも最近致命的に何処かがおかしくなってしまったようだ。
バグであるのに、不快ではない。むしろ心地よくて、もどかしい。
「イタズラしねーの?」
「…………」
自分からイタズラをするなんて、恥ずかしくて無理だとボディは俯いた。
ボディの唇に触れた飴玉の感触。龍成が隠し持っていたお菓子だ。口の中に広がる甘さと、未だに唇から離れない龍成の指先が感触を楽しむように数度左右に揺れた。
息子の空と一緒にファントムナイトフェスへ足を踏み入れたヴェルグリーズ。
隣で目を輝かせるのは空とテアドールだ。
「トリックオアトリート!」
「はわ! トリックオアトリート!」
狼男の恰好をしたヴェルグリーズとカボチャの魔女の恰好をしたテアドールがお互いにお菓子を交換してくすくすと笑い合った。
その隣ではヴェルグリーズの姿になった空が、光って音が出るDXヴェルグリーズを格好よく「シュバ!」と振っていた。
「空、人が居る所では振り回しちゃいけないよ」
「う……ごめんなさい」
しょんぼりと項垂れた空は次の瞬間にはテアドールを連れてお菓子売り場に走って行く。
「お菓子いっぱいある! はやく、テアドール!」
「はい!」
子供の心変わりに吹きだしたヴェルグリーズはその様子を動画に収めた。
今は居ない相方の為に。彼女が帰ってきて思い出話に花を咲かせられるように。
来年は三人で此処を訪れたいとヴェルグリーズは目を細めた。
観覧車の窓から星屑を散りばめたような夜景が見える。そのガラス越しに見える十夜の顔。
彼が一緒に乗ってくれるなんて。
「……まさかこの歳になって、こいつに乗る日が来るとはな」
「ほんに、どういう風の吹き回しやろ」
いつもと違う雰囲気に慣れないのは蜻蛉も十夜もお互い様だろう。
借りてきた猫みたいだと伝う軽口も返された強がりも、余計にこの狭い空間と相手の吐息を意識させる。
頂上に近づくにつれ口数は少なくなった。それを破ったのは珍しく十夜の方だ。
「――トリックオアトリート」
「……ん?」
一瞬何を言われたのか蜻蛉は分からなかった。まさか十夜が『試すような』言葉を言うなんて。
「うちは狼さんにやったら、いつでも食べられてええのよ。
好きな人に食べられるんやったら、きっと幸せやわ」
「……俺は狼じゃなく魚だぜ、嬢ちゃん。悪戯か甘いモンか、どっちが欲しいか聞いたのさ」
逃げ場の無い観覧車の中。何時ものように冗談だと躱すには狭すぎる距離。
「――好きだ」
紡がれる言葉に蜻蛉は一雫の涙を零す。
言葉にしてくれるのをずっと待っていた。ずっとずっと待っていたのだ。
「──うちも、好きよ。初めて出逢うた日からずっと」
ずるい男だった。いつまでも逃げていた。
責任を負うことを拒み。自由である事に、自由にしてあげられることに固執した。
己が海の底に囚われていたから、空に浮かぶ月は手が届かぬからこそ美しいのだと思っていた。
けれど、きっともう己の『心』に嘘はつけないから。
「降参だ。俺もお前さんが好きだ――蜻蛉」
「……やっと言うてくれた、縁さん」
傍にいてほしい。いつかの夜と同じ言葉。されど、帯びる意味は違うもの。
「……なぁ、嬢ちゃん。お前さんにとって、『トリック』か。
それとも――『トリート』になったかい?」
「……さぁ、どっちやろ?」
お菓子よりも甘い魔法の夜。蜻蛉が待ち続けた言葉は夜空の瞬きと共に――
ジェックは元の姿のまま街を駆ける。
ショウウィンドウはなるべく見ないように。魔法に掛けられないように。
見知った顔を見つけジェックは思わず声を掛けた。
「眞哉?」
「あ……えっとジェックか。この前、ありがとなミアンに紅葉狩りのお土産。喜んでたよ」
紅葉の枝と他にもお菓子なんかを貰ったと明煌から聞いていたから。
「そっか、明煌はちゃんと渡してくれたんだね。……眞哉は何してるの?」
「ああミアンにお土産買って帰ろうと思ってんだけど」
「どれにしようか迷ってる? ……ふふ、全部にしちゃおうよ。これでもアタシ、稼いでるんだから」
南瓜のランタン、お化けのクッション、蝙蝠のネックレス、ドクロのクッキー、カラフルなキャンディに色んな形のチョコレート。眞哉は籠一杯に詰められたお菓子を見つめる。
「きっと何をあげても喜んでくれると思うけどね。一番は、一緒に楽しんであげることじゃないかな」
他にも飾り付けのオーナメントを買って、ミアンが食べきれない分は他の呪物にも分ければいい。
「……折角だし、キミ達の主にもね」
「おう。ありがとなジェック。皆喜ぶと思う……明煌さんの分は廻に渡しとくから」
「うん、楽しいファントムナイトになることを願ってるよ」
両手いっぱいのお土産を抱えた眞哉をジェックは見送った。
「今日は練達の特別な日なんだねえ、ぼくもかわいい方の姿で来ちゃった」
わに姿のギュスターブくんは暁月と廻に手を振る。
「燈堂のおにいさんと、ちいさいおにいさんかな? かわいいね」
猫廻姿の二人を肩に乗せたギュスターブくんは祭りの喧噪から離れた場所でゆらゆらと身体を揺らす。
「今日は悪そうな方のおじさん来てないんだね」
「明煌さん、部屋から出てこないんでありますか……体調でも崩したのかな……?」
ムサシが手にしているのはさっきそこで買って来たお菓子だ。
せっかくのハロウィンだから、この時期にしかないようなお菓子をムサシは選んだ。
「王道はシンプルなおばけやかぼちゃの絵柄のクッキーであります! あとは日持ちしそうなパウンドケーキに……意外と日持ちするって知った羊羹とかも添えてみました!」
ムサシは小さな廻たちが持ちやすいようにリュックサックを買ってきてその中にお菓子を詰め込んだ。
「ぼくからのお土産はこれだよ」
ギュスターブはリックサックにタイヤ味の食いかけグミ(とんでもない味がして美味しくなかったやつ)をアソートに入れてあげる。
「明煌さんに、お大事にって伝えてください!」
「はい、明煌さん喜ぶと思います。ありがとうございます」
手を振って去って行くムサシを見送った廻たちにギュスターブくんは問いかける。
忘れ得ぬ出来事は思い出に刻まれるけれど。
「お兄さんたちはそういうのって、あるの?」
「僕はいっぱいあります。全部忘れたくないです」
廻は記憶を無くしてしまったから。今ある思い出を大切にしたいと応えた。
「私は……私もいっぱい、かな」
暁月にはいっそ忘れてしまいたいと思う記憶があった。それで心を壊しかけたこともある。
けれど今は仲間のお陰でそれを乗り越えて此処に立っている。だから、全て抱えて歩いて行くのだと暁月はギュスターブくんに語った。
●
夜空の星が瞬く天空の島アーカーシュ。
マイヤの元を訪れたヤツェクは得意げにお菓子の箱を手渡した。
「働き者のレディとその友人たちにお届け物だ」
「わぁ! 何かしらこれ!」
目を輝かせるマイヤの瞳にはパチパチわたがしが握られていた。
「一口食べてみるといい」
「うん! あーん……ひゃ!? な、にゃにこえ! 口の中が!」
「パチパチするだろう?」
口の中で弾ける小さな飴に吃驚して目を白黒させるマイヤ。練達のドッキリ菓子というものらしい。
「アンタらも復興やら何やらで大変だろうからな。アーカーシュはアーカーシュで住んでる奴が増えたし。まあ、面倒ごとは大人に任せて、今日くらいは心から遊んだらいい」
精霊であるからマイヤは自分より年上だろうかと思いながら。
「とにかく遊べ、歌え。冬は長い、その前にひと息つくのも悪くないさ」
ヤツェクはギターを手にマイヤ達が楽しげにはしゃぐのを見守った。
「Trick or Treat!(お菓子がなければ、身ぐるみを差し出しなさい!)」
「うお!?」
ラド・バウ独立区に響き渡るヴァレーリヤとアンドリューの声。
「……なあんだ、アンドリューではありませんの。何をしていますの、こんなところで」
「ああ、子供達にお菓子を配りにな」
手の中に置かれた小さなキャンディにヴァレーリヤは目を細めた。
「はい、お菓子。私からTreatを貰えるだなんて特別なのだから、感謝なさい?」
「ははっ、ヴァレーリヤも子供達に配ってたんだな」
お菓子を交換してベンチに座った二人はラドバウ独立区の通りを見渡す。
「ラド・バウは変わりませんわね。少し景色が変わっただけで、まるで何もなかったみたい」
新皇帝派が牛耳る帝都の中にあるラド・バウは最も危険な場所であるというのに。
「……また皆が、元通りに暮らせるようになると良いですわね」
「ああ、そうだな」
ヴァレーリヤと別れたあとアンドリューはカイトと落ち合う。
「ファントムナイトにまさかこうなってるとは思わなかったけど」
「まあこんな時だからこそ楽しむぞカイト!」
応と返事をしたカイトはいつものようにカフェ・クナイペへと足を踏み入れた。
「今日のオススメはカボチャとかか。やっぱりファントムナイトだしな」
「肉も食おう! 肉はイイぞ!」
「はいはい、もう分かってるから。肉ね肉」
アンドリューが肉が好きな事は承知しているとカイトは軽くあしらう。
冬が来る前に、楽しい時間が――
「一夜限りの魔法が、この先も解けないように。そう、俺は思いたいよ」
カイトの切なる願いの声は魔法の夜に儚く霧散した。
「やあアルエット殿! 奇遇じゃな! その魔法使いは可愛く似合っているのう!」
「オウェードさん、こんばんはなの。オウェードさんの服は……」
首を傾げるアルエットに眉をぴくりと動かし笑みを見せるオウェード。
「これは若い頃の衣装で、当時天義の仕立て屋に薦められた。
どこか貴族的じゃろう……ワシは平民育ちじゃが……」
「ふふ、とっても似合ってると思うわ!」
微笑むアルエットにオウェードはメロンソーダを差し出す。
「動乱で大変じゃろうが今は休もうかね! 皆が揃った所じゃし……」
共につれてきた季彰と共にオウェードはメロンソーダを振る舞った。
アルエットを見送ったあと、北辰連合の今後を季彰と話しながら、オウェードは悩ましい表情で空を見上げる。ノーザンキングスや不凍港の情勢は深刻なものだろういつ戦線が動いてもおかしくない。
オウェードの溜息が夜空に散った。
四音とアルエットはお揃いの魔女の姿でファントムナイトのお祭りを歩く。
「それにしても、どうしてここに居るのか。教えてくれますか、アルエット?」
問いかけに首を傾げるアルエットの手を四音は握った。
「なりたい姿になれる。貴女はなれましたか、なりたい自分に」
「うん、四音さんとお揃いの魔女の姿よ。アルエット嬉しいな」
「そうですか、では祝福しましょう。まあ、貴女は既に可愛いアルエットになっていますけどね!
鳥かごに閉じ込めて私のものにしてしまいたい位には大好きですよーアルエット?」
片方の手でアルエットの頬を撫でた四音の言葉は何処か不穏な色を帯びていて。
それでも、冗談だと微笑む四音の傍にアルエットは自らの意思で居るのだ。
「にゃんにゃにゃんにゃ!」
ティエルはそっとアルエットの後に忍び寄り猫耳をちょこんと乗せる。
「トリックにゃー。みんなも猫耳付けるのにゃ!」
彼女のギフトは触れた人に可愛らしい猫耳をつけるというもの。
「わわ!?」
触れた瞬間に消えた柔らかな猫耳に驚いた声を上げるアルエット。
「悪戯楽しんでくれたにゃ?」
「ふふ、びっくりしちゃった。お菓子をどうぞ」
「やったにゃー!」
ぴょんっと飛んで行ったティエルを見送って振り向けば、氷の精ジュリエットがぺこりとお辞儀をする。
「こんにちは、初めましてアルエットさん。ご一緒に遊んでもよろしいでしょうか?」
アルエットはギルバートの従姉妹と同じ名前を持つ少女だ。だから以前から気になっていた。
「あ、そうだ。トリックオアトリート! 私の手作りお菓子と悪戯(くすぐり)、どちらに致しますか?」
「はわわ……お菓子でお願いします!」
くすりと微笑みあったアルエットの手にお菓子がのせられる。
「失礼ながらローレットで貴方の事を聞きました。
本当のご両親が見つからないと……早くお会いしたいですよね?
あの……変な事をお聞きしますが、ギルバートと言う名前の方に心辺りは?」
「えと、ギルバートさんは北辰連合に居る人かな? 直接会ったことは無いけど遠くから見た事はあるの」
その言葉に偽りは無いのだろう。
ジュリエットは首を傾げるアルエットを見つめ「そうでしたか」と微笑んだ。
「ヘルムスデリーに来てたんだな、アルエット」
「ジェラルドさん!」
飾り付けされたヘルムスデリーの広場でアルエットはジェラルドに手を振った。
魔女の姿をしたアルエットに自分も何かすればよかったと考え込むジェラルド。
「どうしたの?」
「いやね、折角アンタが可愛く着飾ってるのに俺は何もしてねぇから浮いてねぇかとさ?」
似合ってると微笑むジェラルドにアルエットは「嬉しい」とその場でくるんと回って見せる。
「色々あるみたいだし見て回るか? 人多いからはぐれないようにな」
差し出された手に恐る恐るそっと指先を乗せるアルエット。
ジェラルドは友達だから大丈夫だと『幼いカナリー』に言い聞かせる。
「アンタはローゼンイスタフ城には行ったか?」
「1回だけ入ったことあるけど、皆忙しそうだからお邪魔しないようにすぐに出て来ちゃった」
「はは、おんなじだ。色んな奴が忙しなく意見し合ってるのを見かける。脳筋の俺には小難しんだがよ」
同じ気持ちを共有出来るのは嬉しいとアルエットとジェラルドは笑い合う。
「アンタは今どこを拠点にしてる? 送ってくぜ。たまにはこの服に合った事をするのも悪くないだろ?」
「う? アルエットは今はローゼンイスタフ城下町の宿屋に泊ってるわ。一人じゃ怖いから四音さんと一緒に泊ることが多いかな?」
成程なとジェラルドは頷いて「仲が良くて羨ましい」と口の端を上げた。
幻想の勇者王が魔女に頼んで、魔女がこの日だけはと魔法を残したファントムナイト……
エステルはギルバートの姿を見つけ、今日の姿が彼の願望なのかと思い馳せる。
占い師のようなローブ姿の魔女の仮装をしたエステルはお菓子の詰め合わせを持ってギルバートの傍へ。
「トリックオアトリート、ギルバート様」
「おや、エステルか。ふふ……お菓子だね。はいカボチャのクッキーだよ」
手の平の上に乗せられたクッキーとお菓子の詰め合わせを交換したエステル。
「トリート、こちらからはトリックを。
炎のように揺らめく心が、やがて何より望むものを得て形を得ますように……」
エステルの紡ぐ願いにギルバートは「ありがとう」と微笑んだ。
「久しいな、クルトの具合はどうだろうと思ってさ。
乗りかかった船だ、本当はもっと色々とやりたいんだけど」
ギルバートの元を訪れたシラスは以前助けた少年の事が気に掛かっているのだと告げる。
自身は革命派の切り盛りで精一杯でとてもじゃないがクルトの様子を見に行ける状態ではなかった。
「ああ、クルトは元気だよ。今はヴィルヘルムの所に居るよ」
「そうか、元気なら良かった。ギア・バシリカもお菓子を作る位の余裕は出来てきたよ。
これ、子供たちに分けてやってくれ」
渡された籠一杯のお菓子にギルバートは笑みを零す。
ギルバートの剣へと視線を落したシラスは「そういえば」と話しを切り出した。
「俺さ、近いうちに幻想で騎士になってやろうと思ってるよ。それか騎士よりもっと偉いやつ」
「シラスも騎士に? 頼もしいな」
「だからギルバートたちに聞いておきたくってさ。騎士って何だい? 騎士に大切なことは何だと思う?」
大切なものと考え込んだギルバートは剣柄に手を置いてシラスを見つめる。
「自らの手で己の大事なものを守れる強さだろうか。その為に日々鍛錬を続けている。
シラスも欠かさぬ鍛錬を行っているだろう?」
その先に見える道が揺るぎなき騎士の強さだとギルバートは信じているのだ。
●
アーマデルがビニール袋を下げて燈堂家を訪れる、玄関先に居たのは子供達にカボチャのカップケーキを配っているチックだった。小さな包みに入ったケーキを悪戯好きの子供達に渡している。
「丁度良かった、今から繰切殿に会いに行く所だ。チック殿も白銀殿も一緒に行かないか?」
「うん、ご飯とお菓子……持って行くよ」
「……いつでも会えると思っていたら、突然そうじゃなくなることもある。
だからという訳ではないが、うん……」
繰切と二人では遊べないゲームも皆が居れば寂しくないだろうから。
ファントムナイトは魔法に掛けられる日。この希望ヶ浜の人々も驚かず一緒に過ごせるのが嬉しいとチックはアーマデルに語る。
「今日のゲームは、マダミス、マーダーミステリー。今回のは人里離れた山中の旅館で紅葉狩りに来たPL達を襲う怪奇事件で……」
「ほう……」
封印の扉の奥から繰切の声が聞こえてくる。
「繰切殿には今の人間の遊びや文化も知って欲しいと、俺はそう思った」
興味のあることがあれば教えて欲しいと伝うアーマデルに、こくこくと頷くチック。
「そうだ紅葉狩りといえば、先日、廻殿の写真をとってきたんだ
子供になった廻殿の写真もあるぞ……」
広げられる写真には美しい紅葉と楽しげな廻達の姿が映っていた。
扉の前にはチックが用意したお菓子と白銀の料理、アーマデルのジャンクフードが置かれている。
それに加え、紫桜が差し入れたお酒もあった。
「この料理とかって繰切そっちに持っていける?」
心配そうに首を傾げる紫桜の頭を大きな手が撫でつける。そのあと、お菓子と酒が扉の中に消えた。
「楽しそうだな紫桜」
「誰かとこういう催しを楽しむってのは初めての事で。それに君の願いを叶えられる機会でもあるし」
紫桜はどんな姿になりたいかと繰切に問いかける。
「我は……永く生きたからな。人間に成るのも悪く無いな」
終焉を迎えるなら、一瞬の輝きに満ちた時を誰かと過ごすのも良いと繰切が笑った気がした。
「燈堂家のハロウィン、楽しみに来たよ。みゃー」
祝音は白い耳と尻尾の猫の姿で手を振った。ピンクの肉球が可愛らしい。
「あれ! 猫さんな廻さんが2人……!?」
「ふふ、じつはこっちは暁月さんです」
「そうなんだね、トリックオアトリート。みゃー」
三人の愛らしい猫しっぽがゆらゆら揺れる。その足下には白雪の姿もあった。
「白雪さん、トリックオアトリート……みゃー。お菓子をくれなきゃいたずらするぞー」
「にゃーお」
どんとこいとお腹を見せた白雪に祝音は飛び込む。
ふわふわとろとろの白雪の毛並みを堪能する祝音。本物の猫とは違って少しぐらい強く抱きしめてもびくともしない。祝音は白雪のお腹に埋もれながら脳裏に過った八千代の姿に口を噤む。
「色々大変な事もあるけれど……」
「にゃー」
白雪の肉球が祝音の頬に触れた。こうして一緒に過ごす時間は祝音にとって癒やしとなるだろう。
「来年もファントムナイト、楽しめますように。みゃー」
マリエッタは燈堂家の夕飯を食べながら「ハッ!」と重要な事に気がつく。
「ど、どうして私は燈堂家でお夕食を頂いているのでしょう……!?」
確かに浄化の儀式についていろいろと調べていて……廻や明煌が今苦しんでいるものをどうにかできないかと、隙を見て燈堂家へ訪れ時間を忘れるぐらいに蔵書を見ていたのだが……!
「どうしたの? マリエッタちゃん、美味しくない?」
「い、いえ! 美味しいです」
心配そうに見つめる暁月にマリエッタは首を横に振った。暁月の周りには牡丹や黒曜、白銀も居る。
「ふふ……とても素敵ですね」
燈堂家に流れる優しい空気。こんな場所に自分がお邪魔しているのが申し訳なくなってくるけれど。
けれど、マリエッタもこの優しい時間を望んでいたのかもしれない。
「良かった、ゆっくりしていくといいよ」
「はい、ありがとうございます。暁月さん。……あっ、後片付けぐらいでしたらお手伝いしますので、いつでも言ってくださいね」
拳を握ったマリエッタに暁月は優しく笑みを零した。
彼らのこの優しい場所を守りたいとマリエッタは心に誓う。
「すみれも食べていくでしょ?」
「ではご相伴に預かりましょうか」
ファントムナイトは成りたい姿になれれる日。日向はどんな姿になるのかとすみれは期待してここまでやってきた。日々伝令役に励み、将来有望な彼は何を望むのかと。
すみれの隣でご飯を食べているのは紛れもなく『深道明煌』の姿をした日向であった。
何故その姿になったのか、問う事は躊躇われるだろうか。ちらりと横顔を覗き込めば視線があう。
「あ、すみれって明煌さん怖いかな?」
「いえ……そういうわけでは無いですが、どうしてそのお姿に?」
「――強いから。明煌さんは誰よりも強いから」
真っ直ぐにすみれを見て、日向は告げる。
周藤の夜見より、燈堂の暁月より、深道の朝比奈より強い存在。
深道三家の誰も敵わない力を持っている明煌のように成りたいのだと日向は語る。
「明煌さんみたいに強くなれれば、すみれを守る事ができるでしょ?」
己の弱さを正しく受入れて、それでも強くなりたいと願う少年の心。
それは『すみれ』という守りたい大切な存在が居るからに他ならない。
幻に包まれる一夜でも、この絆は不変なのだと信じられる。
「いつもと違う姿でも、私と一緒にいてくれますか?」
「もちろん、僕はすみれの傍に居るよ」
柔らかな笑顔で日向は大きく頷いた。
燈堂家の縁側に座っているのは魔女のアーリアと猫廻の暁月だ。
「なりたいものがそれだなんて、かわいらしい所もあるわよねぇ」
「ちょ、しっぽ触んないで擽ったいから」
逃げ惑う暁月の尻尾を掴んだアーリアは悪戯な笑みを浮かべる。
もうすぐファントムナイトの魔法も解けてしまう時間。
数度瞬きをすれば、何時もの暁月が視界に現れた。
柔らかな髪が触れる程近く顔を寄せるアーリアは暁月の右目をじっと見つめる。
「その瞳が暁月くんのじゃないなんて」
「やっぱ気になるよねぇ……小さかったからなのか、事故の衝撃で記憶が飛んだか定かではないんだけど、その時の事が少し曖昧でさ。多分夜妖にやられたんだと思う。痛くて辛くて、気付いたら右目が元に戻ってて明煌さんの右目が無くなってた。それが怖くて申し訳なくて……取り返しの付かない事をしてしまったって」
自分のせいで明煌の右目が無くなったという事実だけが残った怖さ。
「……なぁんかあの人ってば暁月くんを避けているというか、その割に興味津々っていうか……人の親戚に言うことじゃないけど、得体が知れなくて怖いのよねぇ」
得体が知れないというのは暁月も否定出来ない所である。
明煌の考えていることは暁月にも分からないのだ。
「だから、もしもの話ね。もしあの人が私達の敵となって、暁月くんや廻くんに危害を加えようとするなら、その時は私、暁月くんと似た顔だろうと顔面をはっ倒すわ!」
女の子は強いのだと拳を握ったアーリアに「ありがとう」と微笑む暁月は、随分と近づいて来た彼女の前に降参と言わんばかりに掌を広げる。
きっと、これ以上は香りが移ってしまうから――
煌浄殿の明煌の寝室をそっと開ける廻。
お菓子をいっぱい抱えて、赤い縄で巨大な鞠のようになった明煌の元までやってくる。
「明煌さん……お土産いっぱいありますよ。皆からと僕からと、暁月さんから」
「……入ってくるなって、言った」
廻は巨大な鞠のようになった明煌に近づいてそっと縄を掴んだ。
縄は小さくなった廻の力でも簡単に解ける。掴んで除けて掴んで除けて。
ようやく明煌の顔が見えてきた所で、どうして彼が『見るな』と拒絶したのかを悟る。
廻は明煌の顔に触れた。其処には本来無い筈の右目がある。これは『暁月』の顔だ。
何も言わずそっと抱きしめてくれた廻の肩に埋もれながら明煌は不安そうな声を出した。
「…………暁月の、右目あった? ちゃんとあった?」
「はい、大丈夫ですよ。ちゃんと暁月さんの右目ありましたよ」
その瞬間、絡んでいた縄が解け長い溜息が漏れる。目の下には隈が出来て眉間に皺が寄っていた。
「お菓子たべましょ。沢山貰って来ましたから」
「……」
明煌は僅かに安堵した表情で、廻が差し出したタイヤ型のグミを口に放り投げた――
魔法に掛けられてファントムナイト。
甘いお菓子と可愛い悪戯が溢れる素敵な夜には、何処からともなくはしゃぐ声が聞こえるのだ。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした。如何だったでしょうか。
ファントムナイトの楽しい夜を彩って。
ご参加ありがとうございました。
GMコメント
もみじです。ファントムナイトの魔法を楽しみましょう。
●目的
ファントムナイトの夜を楽しむ
●ロケーション
ファントムナイトの夜。
希望ヶ浜センタービル前の広場。ファントムナイトフェス開催中。
オレンジとパープルのガーランドとパンプキンのランタンが揺れています。
少し肌寒いです。暖かくしていきましょう。
●出来る事
適当に英字を振っておきました。字数節約にご活用下さい。
【A】出店でお食事
エールにカクテル、フレッシュなジュースに美味しいお肉。サラダやデザートもあります。
キャンディやチョコレート、カラフルなグミやケーキなど。
ワイルドなステーキやフライドポテトなど、お酒のおつまみにピッタリのラインナップです。
温かなパンプキンスープ、パンプキンパイ、
サンマとキノコのソテー、牡蠣とほうれん草のグラタンポットパイ、
エリンギのアンチョビバター焼き、ぎっしりカニクリームコロッケ、
ぎっしりホタテクリームコロッケ、ジューシーポークの収穫祭ロースト、
チキンとキノコのフリカッセ、具だくさんクラムチャウダー、
バタールのガーリックトースト、ミッシュブロートの生ハムオープンサンド、
クリームチーズとスモークドサーモンのプンパニッケル添えなど。
未成年にはジュースが提供されます。
【B】トリックオアトリート
広場にはベンチがあります。
友達や恋人に魔法の言葉を伝えてみるのもいいでしょう。
お菓子をあげて一緒にたべたり、いたずらしてみたり。
【C】その他
お買い物をしたり、センタービルの展望台や観覧車で夜景をみたり。
少し肌寒いので手を繋いで夜の道を散歩しても。
【D】他の場所
自宅や、燈堂家、ヴィーザル地方など、上記以外の場所はこちら。
(シナリオの都合上、煌浄殿やサヴィルウス、天香邸には行けません)
・ヴィーザル:ローゼンイスタフやヘルムスデリーもファントムナイトの飾りがあちこちに見えます。
・燈堂家:ハロウィンの飾り付けがあり、暖かい家庭料理があります。
●プレイング書式例
強制ではありませんが、リプレイ執筆がスムーズになって助かりますのでご協力お願いします。
一行目:出来る事から【A】~【D】を記載。
二行目:同行PCやNPCの指定(フルネームとIDを記載)。グループタグも使用頂けます。
三行目から:自由
例:
【A】
【夜廻】
ちょっと肌寒くなってきましたね。
こんな時は温かなパンプキンスープと、ホットワインが身体に染みます。
●NPC
○『掃除屋』燈堂 廻(p3n000160)
煌浄殿に居て普段は会うことが出来ませんが、今回は特別に遊びにきています。
少し痩せたように感じますが、いつも以上にはしゃいでいます。
猫廻姿だったり三銃士の姿だったりします。
○『祓い屋』燈堂 暁月(p3n000175)
猫廻の姿で廻と一緒に遊びにきています。
のんびりとした猫廻の姿は幸せの象徴なのかもしれません。
○『刃魔』澄原 龍成(p3n000215)
狼の仮装をしています。
お誘いが無ければ無ければ廻達と一緒に露店を回っているでしょう。
○『揺り籠の妖精』テアドール(p3n000243)
人間の姿になってカボチャの魔女の格好をしてはしゃいでいます。
○その他
ギルバート、アルエットは【D】ヴィーザル地方
アンドリューは【D】ラド・バウ、繰切は【D】燈堂家。
マイヤは【D】アーカーシュ。その他もみじ所有のNPCは居そうな場所に居ます。
【不在NPC】
○『煌浄殿の主』深道明煌(p3n000277)
暁月の姿になってしまったため、煌浄殿の自室に籠って出て来ません。不在です。
何か伝えたいこと等があれば廻にお願いします。
○『琥珀薫風』天香・遮那(p3n000179)
シナリオ進行上、海上を渡航中のため不在です。
●諸注意
描写量は控えます。
行動は絞ったほうが扱いはよくなるかと思います。
未成年の飲酒喫煙は出来ません。
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