シナリオ詳細
ノームの祝祭
オープニング
●おかーさんからの手紙
長い――永い、眠りだった。
恵みの雨が炎を消し、深緑は眠りから目覚めた。
虹の掛かる空を見上げ、ハンナ・シャロン(p3p007137)は瞳を細める。傍らで見上げる兄、ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)もまた同じような表情で、ふ、と長く張っていた緊張の糸が綻ぶようだった。
「帰ろうか」
「うん、そうだね。帰ろう。おとーさんたち、きっと心配しているよね」
マルク・シリング(p3p001309)の声に、フラン・ヴィラネル(p3p006816)が笑顔で返す。その顔が濡れているのは『雨のせい』。だってみんなの顔も、同じくらいに濡れているのだから。
全てを終えたから、皆で揃ってノームの里に帰ろう。
そう話していたところへ、ちょこんと小さなリスが木々の枝を伝って現れた。
「あれ? おとーさんのファミリアーだ」
フランの肩へとスルスルと登ってきたリスには、保護魔法の掛かった手紙をたすき掛けのように結ばれている。なんだろう? と首を傾げながら解けば――それは、母からの手紙であった。
『わたしたちの可愛い娘 フランへ
あなたがこの手紙を読んでいるということは、あなたは役目を終えたのでしょうね。お父さんのリスにそう頼んだもの。
早くお母さんのところに帰ってきて……と言いたいところなのだけれど、ずっと走りっぱなしだったフランにはゆっくり休んでほしいの。お世話になっているパン屋さんも、きっといっぱいフランを心配しているもの。ちゃんと笑顔を見せてあげて。
そうしてたっぷり休んでから、ノームの里に帰ってきてほしいの。
それだけ時間があったら、お母さんたちも用意ができるから。
……と、言うのもね? お母さんたち里の人たちは、お世話になった人たちに感謝を伝えたいと思っているの。やれることは少ないけれど、みんなでとびきりのご馳走を振る舞えたらいいねってマルカちゃんたちとも話し合ったのよ。
だから、ね。数日だけ、少しだけ時間を頂戴。
里のお祭りみたいなものだから、可愛くおめかしして帰ってきてね。
お世話になったお友達をたくさん連れて、ね。
待っているわ、わたしたちの愛し子。
ミュスカ』
普段は間延びした喋り方の母だからか、母からの手紙は読む度に少し新鮮な気持ちを覚える。
「……と、言うことみたい」
フランがウィリアムに伝えれば、ウィリアムはなるほどと頷きながら脳裏に『早く帰った末に「まだ準備ができていないのに」と背後に吹雪を背負って微笑む母』の姿を思い浮かべて背中に汗をひとつかいた。
「あ。追伸かな。もうひとつ手紙が……あれ、マルク先輩宛みたい」
「僕? 何かな」
はいっと手渡された手紙は――。
『この手紙はフランには見せないでね』
そんな言葉から始まっていた。
会えない間にフランが二十歳の誕生日を迎えてしまったこと。
再会してからお祝いは告げたけれど、一度きりの成人のお祝いをしっかりと行ってあげたいこと。
そしてお世話になった人たちへの宴を開きたいのもあるが、里の皆も頑張った娘のお祝いをしたいと思っていること。
この手紙の内容はフラン以外には知らせて良い旨が記され『せっかくだもの、娘をびっくりさせたいの。頼まれてくれるかしら?』と締めくくられていた。
どういう内容だったの? と向けられる興味の籠もった菫色の視線には「僕も是非来て、とのことだったよ」と応え、マルクは密かにウィリアムとハンナと手紙の内容を共有した。
他の知り合いたちにも伝えなくては、と。
- ノームの祝祭完了
- GM名壱花
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2022年07月12日 22時05分
- 参加人数27/34人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 27 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(27人)
サポートNPC一覧(1人)
リプレイ
●祝祭
「お祭りだー!」
沢山の『大変なこと』を終え、深緑に、ノームの里に平和が訪れた。それだけでもフラン・ヴィラネル(p3p006816)にとっては嬉しいことなのに、ミュスカおかーさんを始めとしたノームの里の人たちがお祭りを開いてイレギュラーズたちを招いてくれたのだ。フランは前日からワクワクして眠れないこの日を楽しみにしていた。
「……あれ? 今、黒狼の皆がいたよね?」
「ぎ、ぎくぅ!」
マルク・シリング(p3p001309)やウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)、ハンナ・シャロン(p3p007137)が皆を案内するから、フランは荷物の多いゴリョウ・クートン(p3p002081)をヴェルミリオ=スケルトン=ファロ(p3p010147)と手伝ってあげてほしいと言われていた。
「ぎくぅ?」
「な、なんでもありませんぞ!」
「ぶはははッ! 気のせいだ、気のせい! それより、料理はどこに置けばいい?」
「あ。おかーさんに聞いてくるね!」
ゴリョウが持ち込んだ沢山の料理たち――笹の葉に包んだ魚の炊き込みご飯に、動物の丼物、米麹の清酒。米をベースにした料理は稲作の出来ない深緑では珍しいものだ。大きな木のテーブルへとずらりと並べれば、興味深そうに覗き込んだ女性陣がゴリョウに作り方を尋ね始め、お互いのレシピを交換しあう賑やかな場と化した。
「うん、ゴリョウさんの料理も、深緑の料理も美味しいな」
あまり品数が多くては主役の深緑料理たちが埋もれてしまうだろうと、一品だけ――深緑では口にできないであろう海の幸を持ち込んで料理を作ったモカ・ビアンキーニ(p3p007999)は、早速果実酒と一緒に舌鼓。
「ミュスカさんの料理も美味しい」
「あらぁやだぁ、うふふ」
「こちら、お土産のお酒ですぞ! 皆さまもどうぞご堪能あれ!」
「まぁ、どこのお酒? 幻想の? うふふ、楽しみ」
ニコニコ笑ったおかーさんも楽しそうで、フランもニコニコしながらリスみたいにほっぺいっぱいにご飯を詰め込んだ。どの味も、とても懐かしいものばかりだ。作りすぎちゃったってお隣のおばさんがよくくれる煮物の味、大好きなおかーさんのシチューの味。どれもこれも幸せの味だ。
ノームの里はラダ・ジグリ(p3p000271)にとって木材の取引先でもある。
「おねーちゃん、かかんで!」
「ん……?」
緑豊かで良い土地だ。実際に一度訪れてみたいと思っていたノームの里をゆっくりと見て回っていたラダだったが、唐突に声を掛けられ、振り向いた。
「花冠は既に貰ったが」
「これはね、おれいなの!」
「お礼?」
「うん、おれい。ありがとう、の」
屈んだラダに花冠をもうひとつ。頭にえいっと被せたセレネはにっこり笑って駆けていき、慌ただしくてすみませんと頭を下げたシャールが妹を追った。
「おにーちゃん、みぃつけた!」
「っ」
正直、怖がらせたのではないかと、傷つけたのではないかと思っていたアルトゥライネル(p3p008166)は、明るい少女の声に肩を揺らした。
「あ……先日はすまな……」
「どうしてあやまるの?」
セレネはきょとんと首を傾げ、屈んでとねだり、アルトゥライネルの頭にも花冠を増やした。
「セレネが頑張って作ったので、貰ってやってください」
「あ! おうたがきこえる! おにーちゃん、おどれる? おどろ!」
「ああ。踊りは得意なんだ」
セレネに手を引かれ、里人たちの輪に加わった。
「フラン殿、よろしければスケさんとも躍りましょう! 深緑の作法はありますかな?」
「みんなの真似すれば大丈夫だよ!」
明るくも牧歌的な曲調の音楽に、ヴェルミリオとフランも飛び込んで。
沢山の笑顔と手拍子が場に満ちていく。
これまでいっぱい泣いた分、今日はいっぱい笑い合おう!
●20歳の君に
改めてフランが『この日に来てね』と母から指定されたお祭りの日。
実はその『一日前』から動いている者たちが居た。
「この度はフランが誕生日を迎えたという事で、共にお祝いをしたく許可を頂きに参りました」
「フランさんには、いつもお世話になっております」
「フランちゃんにはいつも元気を貰ってるんです!」
礼儀正しく頭を下げたベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)を筆頭に、リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)やタイム(p3p007854)、先に到着した仲間たちはフランの両親へと挨拶をした。
深緑のポータルから離れているこの里に物資を届けるのはそう易いことではない。数日時間を頂戴とミュスカが頼んだ事からもそれは知れることだろう。故に、当日に必要なものを持ち込むため、先んじて準備に訪れたのだ。
その甲斐あってか、当日は朝から沢山の荷物を手にイレギュラーズたちが訪れ、見守るミュスカとレザンにも『フランは何も知らずに他の人と来る』旨を伝え、里人たちにもそれとなくお誕生日会を準備している方へとフランが来ないよう誘導することを頼んだ。
「配置はどうしようか。中央にテーブル?」
「お母さん、必要なものがあればいくらでも運ぶぜ。足の速さには自信あるんだ。いくらでもパシってやるとも!」
配置を悩みながら紙にマルクが書き起こし、ベネディクトが覗き込み確認をして。気軽に頼れと口にした國定 天川(p3p010201)と元気に動き回ってくれる新道 風牙(p3p005012)へと、あれこれと指示が飛び、慌ただしくも楽しく会場の設営をしていく。
「あ。ルカ先輩、挨拶に行くんです? しにゃも行きまーす!」
前日に顔を合わせなかった面々も、フランの父と母にご挨拶。
いつも世話になってると告げれば、世話になっているのはフランの方だろうと始終和やかな雰囲気だ――ったのだが。
「俺はラサの傭兵、ルカ・ガンビーノだ。フランにはいつも助けて貰ってる」
「……ん?」
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)が挨拶をした途端、レザンが一瞬不思議そうな顔をした。
「……何か?」
「……いや、すまないな。記憶違いかもしれない」
顎に指を掛け、記憶を探るような険しい表情をし始めるレザン。まるで、彼の中にいくつもの疑念が渦巻いているかのような表情で、「似ている、いや違うか……?」等とブツブツと呟いていて何故だか剣呑な気配が漂っている。
「ルカ先輩なんかしたんですか……?」
「いや、今初めて言葉を交わしたんだが……」
ひそひそと話しかけてくるしにゃこ(p3p008456)にルカは首を傾げるばかり。ちらりと振り返れば、マルクには普通に話し、他の男性等何名かには少しジロリと――まるで品定めするような目を向けているレザンの姿が見え、「ルカ先輩にだけじゃなさそうですね」としにゃこが口にした。
年頃の娘を持つおとーさんって大変なのだ。
「おかーさんのお手伝いをしてくれるひとー?」
はーい。良い子の手がみっつ上がる。
「はぁい。それじゃあおかーさんについてきてねぇ」
一般家庭の調理場は、精々二三人入れるくらいだろう。ちょっと狭くなるけど我慢してねとウィリアムとリュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)とジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)はヴィネラル家へと向かってお手伝い。
「沢山あっても大丈夫でしょうか」
「そうねぇ。里の人たちも来てくれるし、困らないわぁ」
「フラン様は……ロールキャベツは何派でしょうか?」
「うふふ、おかーさんのシチューに入れちゃうのが好きかも?」
「ミュスカ様、サラダ用の葉を食べやすく千切り終えたよ」
「いつも手際がよくて助かるわぁ。卵も割っておいてくれるかしらぁ?」
シチューを焦がしてしまわないように、とろ火でゆっくり。
「ミュスカさん、兄様。こちらは宴会場の分ですよね? 先に持っていきますね」
食欲を誘う料理が完成していけば出来た料理で調理スペースが削られるが、ちょうど良いタイミングで顔を出したライラがゴーレムと一緒に運び出していってくれる。
誰かのための、美味しい料理。
それは自分のためよりも俄然やる気が出るもので。
「まだまだ作るわよぉ。頑張ってもらっちゃうんだから」
おっとりと、それでいて強い母の腕まくりに、ジョシュアは「はい!」と力強く返事をした。
――フラン様も皆様も喜んでくれますように。
「ここがフラン君の故郷なんだねえ……」
ツリーハウスから離れたアレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)は、ひとりで里の中を見て回った。木々の間を吹く柔らかな風が、アレクシアの髪を揺らす。
「アレクシア様、こちらにおすすめの花畑がありますよ」
「案内ありがとう、ハンナ君」
良いところだねと微笑めば、ハンナが嬉しげにはにかむ。
案内する花畑には沢山の花々が揺れていた。ノームの里の――特に女の子たちは、昔からよくここに遊びに来のだそうだ。
「フラン君の誕生日をお祝いするんだ」
植物は人の違いを解りはしないけれど、アレクシアの喜びが伝わっているのだろう。喜びの感情が伝わってきてくすぐったい。
「一緒にお祝いしよう」
君も参加者だよ。微笑み、可愛い花を一輪摘み取った。
「私は花冠を作りますので、先に戻ってくださっても大丈夫ですよ」
夏らしい黄色の元気な花を手折り、慣れた手付きで編んでいく。末の妹にもこうして編んであげたことを思い出せば、くすりと自然な笑みが浮かんだ。
ケーキ作りには時間が掛かる。本格的にやるのならばスポンジは一晩寝かせるし、慣れている者でも間間に冷ます時間を考えれば3時間近く掛かる。それを大きいのを作りたいと望むのなら……故にケーキ作りは早朝から、皆で時間との勝負だと気合を入れて取り掛かっていた。
「皆が手伝ってくれておかーさんとっても助かっちゃう」
宴会場と各家々の調理場、そしてフランのための誕生日会の会場をウロウロする予定のミュスカは、仕上げは特にお任せしちゃってもいいかしらとおっとり微笑んでいた。
「おっきなケーキに仕上げてびっくりさせないと!」
そんなに使うの? とびっくりしちゃうくらいの沢山の卵を割って、バターも砂糖も用意して、スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)を筆頭に竈前は大賑わい。数名ずつ他の家の調理場を家主の厚意で借りさせてもらうのだが、竈がない家だってざらにある。
「かき混ぜるのは任せて」
「それじゃあこれお願い」
ケーキ作りにおいて、かき混ぜるという作業で妥協をしてはいけない。そしてそれは思ったよりも重労働になることを知っている秋月 誠吾(p3p007127)が申し出れば、大きなボウルが渡される。後から生クリームもお願いねと告げられる言葉にも、誠吾は気持ちの良い笑みで応じた。プレゼントの準備をする余裕は無かったが、その分気持ちは料理にこめるつもりなのだ。
「花丸ちゃんも手伝うよ!」
「それじゃあね……」
やることはたっぷりある。笹木 花丸(p3p008689)には竈の温度を見てもらいながらの果物を切ることをスティアがお願いし、任せてと花丸は袖を捲くった。
「ス、スティアスペシャル作るんですか!?」
材料の多さでハッとしたのはリンディス=クァドラータ(p3p007979)である。
スティアスペシャル――それは量がとても多い料理を指す言葉と言っても過言ではない。こうしてはいられないとリンディスは慌てて調理場を後にする。お誕生日会設営をしている皆に机を大きくしてもらえるよう――里に大きな机が無ければ作るかを検討せねばならない!
「見栄えも大事ですし……」
量は、食べきれるだろうか?
首を傾げるリースリットに、スティアは軽く大丈夫と笑っている。まあ、人数いっぱいいるしね。
「僕はアイシングクッキーを作るね」
調理場の済みで越智内 定(p3p009033)はクッキーの材料を混ぜ始めた。スティアが求めるような大きなケーキを焼く為には、オーブンで何度も何度もスポンジを焼く必要がある。スポンジを焼いて冷ます時間のほうが掛かるから、クッキーはその後だ。
クッキー生地とて型抜き前に冷やしたり、アイシング前に冷やしたりと時間が掛かる。時間配分を話し合い、全員で協力してケーキを作り上げていった。
「ね、ねぇ。これって本当に誕生日ケーキだよね? ウェディングケーキじゃないよね!?」
沢山のパーツを作って、積み上げて、並べて、積み上げて、塗って、飾って。一般家庭の調理場では組み立てられないから、勿論組み立ては会場のテーブルの上で、だ。テーブルはリンディスが可愛く仕上げてくれている。
大きなケーキの上にはファルカウのような木や、森の動物達、それからフランの顔のアイシングクッキー。たっぷりの生クリームに、果物もふんだんに。
花丸が想像していたよりもずっと立派なケーキにごくりと喉が鳴った。
フランに食べてもらうのが楽しみだ。
「来た来た。みんな準備はいーい?」
こっそりとツリーハウスを繋ぐ橋を伺い見たタイムが、皆へと合図を送る。
バッチリと親指を立てたり笑みを向ける仲間たちは、外から聞こえるフランの声にワクワクと心を弾ませた。
「え? え? こっち? スケさん、こっちはお祭り会場じゃないよ?」
「フランちゃーんおめでと~~~!!」
「え? え! みんな!?」
ワッと飛び出たタイムがいつまでも仲良くできますようにと気持ちを籠めたハグをして、祝う仲間たちへその背を押し出した。
「フラン嬢! 誕生日おめでとう! ハッピーバースデー!」
「フランさん! お誕生日おめでとーーー!!」
天川が鳴らしたクラッカーがパーンと大きな音とともにヒラヒラと紙吹雪を生み、リボンみたいなカラフルな紙テープを風牙が盛大に放り投げた。軌跡を描く紙テープはまるで虹のように華やかで、皆の顔に笑顔が咲いた。
「誕生日おめでとうございますフラン様」
「フランさん誕生日おめでとう」
「ハッピーバースディです、フランさん!」
「おめでとうございます、フランさん」
「ハッピーバースデーフランさん! 超絶美少女しにゃこちゃんが祝いに来ましたよ! いえーい!」
いくつもの『おめでとう』が同時に飛んで、フランは驚いて、喜んで、ぶわり、涙で視界が滲んでしまう。
「フラーン! 誕生日おめでとう!」
驚いて固まり、ビックリして涙をボロボロと零しているフランに、ぎゅうっとアルメリア・イーグルトン(p3p006810)が抱きついた。先に大人になっちゃう幼馴染のフランがちょっとだけ羨ましくていいなぁと声を零すも、すぐに離れて。
「フラン! これ、私……とお母さんからのプレゼント!」
はいっと渡すのは、イイ感じに掃除してくれたりする魔法の箒。
「わ、いいの?」
「勿論。後からうちにも寄ってね」
返る言葉は同じ響き。勿論!
「しにゃに祝われるだけでも誕生日プレゼントみたいなものですけど、なんともう一個用意してあるんですよ!」
しにゃこが歌い始めれば、他の皆も思い思いのお祝いをしていく。
誠吾の故郷の『誕生日を祝う歌』を誠吾とベネディクトが一緒に歌い、その間に皆で見て見てとフランの手を引いた。
「わあ……! すごいケーキ!」
「皆で作ったんだよ」
皆の顔を見た時からバーンっと視界に飛び込んで来ていたケーキだが、驚いたり喜んだりでフランも忙しかったのだ。最初の一口をフランに食べてもらったら切り分けて皆に配られ、「美味しいね」「頑張った甲斐があった」と笑顔の花が咲いていた。
「誕生日おめでとうな、フラン」
「ルカさん! ありがとう」
何度祝ってもいいよなと笑ったルカが、新たに溢れたフランの涙を指先で払ってやる。
「……?」
「ルカさん?」
「いや、何か視線を感じた気がしたが……」
どうやら気のせいのようだ。……気のせい、ということにしておこう。
「フランさん、二十歳の誕生日、おめでとう!」
「フラン様、誕生日おめでとうございます」
フランの元には沢山の贈り物が集まってくる。マルクが花束を差し出し、リュティスが再現したとスイーツをくれる。先日食べたばかりのスイーツによく似たそれに瞳を輝かせるフランに「召し上がるのは後で」と付け足すのも忘れない。今の主役はきっと、リュティスも恐れおののく巨大なケーキなのだから。
「フランさま、お誕生日おめでとう御座います」
柔らかな笑みとともに、散々・未散(p3p008200)はお祝いと感謝を歌うように紡いだ。
初めて会った時は、未散がまだイレギュラーズになりたてだった頃。まだ解らないことの多い未散に、フランは言葉をくれた。背中を押してくれた。それだけで、彼女が皆に愛されている理由を理解するのに足りた。
沢山の感謝を。
そしてこれからのあなたさまを想う。
「あなたさまの此の門出が良いものとなります様に!」
「ハッピーバースデー、フラン! 成人おめでとう!!」
「ついに成人ですね!お誕生日おめでとうございます、フラン様!!」
祝いの声は、幸いの声は、いくつも重なり合う。
ハンナが摘んできた花をウィリアムとライラが揃って差し出し、寿いだ。
「わあ、三人ともありがとう!」
同郷の三人のお祝いに、知っていたなら教えてよーと頬を膨らませてみせるが、笑み崩れてしまって長くは保たない。
「次は俺の番だな」
いつの間にか道衣へと着替えた天川が静かに小太刀が閃かせると、仲間たちが準備してくれた鉄芯入り巻き藁が四本、同時に両断された。
「わ! すごーい!」
「これくらいしか能がなくてな! ははは!」
ついでに熊のポーチも手渡せば、きょとんと瞬いてから「ブサ可愛……ううん、可愛いね!」とフランが笑う。
「フラン殿、スケさんからもプレゼントですぞ!」
「も~、スケさん! 皆が何かしてるって教えてよ~」
「サプライズ成功ですな! フラン殿の行く先に幸多からんことを! ご成人、誠におめでとうございます!」
フランはヴェルミリオから黄色のフリージアを受け取って、顔を埋めるように微笑んだ。
「楽しめているか、フランセンパイ」
歌や踊りの余興を見せてくれる仲間たちと一緒に踊っていた『特異運命座標』オルレアン(p3p010381)が仲間たちの輪から抜け出して、おめでとうを言いたくてと近寄ってきた。
「躍り、上手なんだね」
「うん。俺は踊るのは得意なんだ」
脳が記憶を憶えていなくても、体は色んな事を憶えていてくれている。
飛んで跳ねて、くるりと回って、爪先から妖精のように着地をする。手足はしなやかに動いて、こうしようああしようと思わずとも美しく舞うのだ。
「お花、綺麗だね」
「あ!」
オルレアの花が足元に溢れていることに気が付き、オルレアンの白い頬に微かに朱がさした。オルレアンの昂ぶる――喜びの感情が花を咲かせたことを知らないフランはきょとんとしているが、オルレアは花を慌てて散らし、その一輪を摘み差し出した。
「……誕生日おめでとう、フランセンパイ」
ありがとうとフランが受け取るとオルレアは満足そうに頷き、また踊りの輪へと戻っていく。これは、幸いの、祝いの舞。
「ふふ。フランのお友達、みぃんな素敵ねぇ」
「でしょ? ……あ、おかーさんあのね」
あっちにいる人が、あたしの好きな人。
内緒話をするように顔を近づけて、こっそりとバレないようにルカを指差した。
あらと笑う母に、えへへとはにかみながら笑うフランは知らない。
その瞬間、レザンの聴力が超聴力並に上がったことを。
そして父が凄まじい形相でギュンッとルカへと顔を向けたことを。
――やはりアイツか、フランんんんんんんん!
ルカの背中にぞくりと悪寒が走る。
(俺、なんか悪い事したか……?)
父とルカの心中を除き、和やかにお祭りの時間は過ぎていく。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
毎日に素敵が溢れますように。
GMコメント
冠位魔種討伐、お疲れさまでした。壱花です。
そんなわけで、ノームの里アフターシナリオになります。
●シナリオについて
ノームの里で宴会をします。里を知らなくても大丈夫です。深緑を救ってくれたイレギュラーズたちに対して感謝しており、「今日はめいっぱい食べて飲んで楽しんでいってね!」な雰囲気です。此処がウィリアムさんやハンナさん、フランさんの故郷かぁ~と観光に来てくださる感じでも大丈夫です。
当日、里はたくさんの花で飾られています。訪れたイレギュラーズたちは、花冠を入り口で頭に載せられ、歓迎されます。
●プレイングについて
一行目:行き先【1】~【3】メインで行動したい番号を選択
二行目:同行者(居る場合。居なければ本文でOKです)
一緒に行動したい同行者が居る場合はニ行目に、魔法の言葉【団体名+人数の数字】or【名前(ID)】の記載をお願いします。その際、特別な呼び方や関係等がありましたら三行目以降に記載がありますととても嬉しいです。
例)一行目:【1】
二行目:【ハッピー3】(※3人行動)
三行目:
【1】宴会を楽しむ
深緑料理を味わえます。新鮮な果物の比率が多いですが、この日のために森で狩ってきた動物や魚の料理もあります。ミュスカおかーさんも大きなお鍋に特製シチューを作って振る舞っています。
飲み物類は果実水等のジュースから果実酒まで、色々あります。
排他的な国だった影響か、外の国の料理やお酒等は珍しいので、料理やお酒の持ち込みは歓迎されます。
歌や音楽、躍り等も交え、賑やかです。
ヴィラネル家もウィリアムさん宅も、基本的にはこちらに居ると思います。(お声掛け頂いたところで動きます。)
【2】里の散策や里の人と話す
ご飯等よりも会話メインだったり散策をしたいならこちらを。
ノームの里人たちも宴会を楽しんだり、のんびり過ごしたりしています。眠っていた人たちも全員目覚め、とても穏やかに日々を過ごせています。
また、大樹ファルカウ下層で救出した幻想種たちも居ます。彼等はお家が無くなってしまっている状況なので、もう少し落ち着くまでノームの里に滞在するそうです。
彼等は皆イレギュラーズたちに感謝しています。
ノームの里は、ツリーハウスを橋で繋いだ樹上街と地下の遺跡部分とで構成される小さな里です。地下には遺跡――妖精郷の門(アーカンシェル)があります。(ヴィラネル家が守っています。)
宴会は樹上街の木々と木々の間に板を張って作られた広場的な場所で行われます。宴会からそっと抜け出して平和になった里を歩いて眺め、静かな時間を過ごすのも良いかも知れませんね。この平和は、あなたたちが勝ち取った成果です。
【3】フランさんへお祝い!
フランさんには内緒! 見えていないはずです。(ですよね!)
フランさんは「もうすぐ二十歳の誕生日だね、お祝いして初めてのお酒を一緒に呑もうね」という手紙のやり取りを両親としていた矢先、深緑が眠りに鎖されてしまいました。誕生日の約一ヶ月前のことです。再会しておめでとうは言えたけれど、でもまだ深緑は危機的状況から脱しておらず、お祭りムードにはなれない。楽しみに待っていた、ゆっくりと時を歩む幻想種でも一生に一度の成人を迎える大切な日。両親はフランさんには言わないけれど、お祝いできなかったことをとても気にしていました。ですので、二十歳のお祝いをします。
こっそり持ち込んだプレゼント等でびっくりさせちゃいましょう!
サプライズケーキも登場します。
(※フランさんはどの行き先番号を選択していても大丈夫です。)
●NPC
・ヴィラネル家
おとーさん:レザン・ヴィラネル
おかーさん:ミュスカ・ヴィラネル
・ウィリアム・ハンナ兄妹家
可愛い妹:ライラ・エシェル
祖母:マハラ・タリア
祖父:テオバルト・ヴェッセル
母:マルカ・シャヴィト
・ノームの里の人々
セレネ、シャール、アザレラおばさんを始めとした幻想種
他、「<タレイアの心臓>灰釉に消ゆ」で助けた幻想種10名程
上記の人たちと、弊NPC劉・雨泽(p3n000218)が同行しております。
御用があればお声掛けください。
●EXプレイング
開放してあります。
文字数が欲しい、深緑関係者さんと過ごしたい、等ありましたらどうぞ。
可能な範囲でお応えいたします。
●ご注意
公序良俗に反する事、他の人への迷惑&妨害行為、未成年の飲酒は厳禁です。
年齢不明の方は自己申告でお願いします。
それでは、愛おしい穏やかなひとときとなりますように。
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