シナリオ詳細
氷結神殿アルビレオ攻防戦
完了
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オープニング
●
「――来る」
「来るのね」
亜竜集落ウェスタ近郊、神殿“アルビレオ”。
氷で作られた其の神殿は、陽光に照らされても溶ける事はなく聳え立っている。きらりと太陽の光を反射して、遠くに見るだけでも美しい。
しかし其の中は張り詰めた糸のような緊張感で満たされていた。
夜色をした半球が、黒い膚の巫女――『金色の双星』セーヴィル・アルビレオを包んでいる。其処にはきらりきらりと星のような光点が煌めき、時に二つの間で線を結び、時に線は消えていく。
其処に何があるのかを読み取れるのは、占星魔術の使い手であるセーヴィルのみである。まったく同じ時刻に生まれた双子である『青き双星』ユーク・アルビレオにも、其の全貌は読み取れない。
だから、セーヴィルを信じている。彼が“来る”と言ったら“来る”のだ。
「どんなのが来るの?」
「でかいのが一つと、小さいのが無数だ。全く、秘宝が何に反応しているのかも判らんというのに、其れを嗅ぎつけるとは鼻の良い事だな」
薄れて行く小さな天球儀の中心で、皮肉をたっぷり言葉に塗り付けてセーヴィルが呟く。其の様を見守っていたユークは、少しして意を決したように口を開く。
「……ねえ、セーヴィル」
「何だ」
“何だ”なんて。
私達の間には一番必要のない言葉なのに。
「私が何を言いたいか、もう判っているよね?」
「……」
この領域に外から人が入り込んでいるのは、既にセーヴィルとユークの耳にも入っている。彼らは特異運命座標……イレギュラーズ、というらしい。
現在は「トライアル」という事で簡単な仕事を任されてはいるが、其の内覇竜の深い所(ないじょう)にも関わって来るだろう事は想像に難くない。
其れでも。セーヴィルは外から来た人間を受け入れる気にはなれなかった。
自分とユークで十分ではないかという過信が頭をよぎるのだ。勿論、過信だとは判っている。亜竜種でありこのアルビレオの巫女である自分達は弱くはないが、強くもない。他者の手を借りなければ、今回の危機を退けるのは難しいだろう。
まして現在、このアルビレオには――
「せーびるさまー! おほしさま、なんて言ってた?」
「まだお外に出ちゃ駄目なの? ねえー」
子どもがいるのだ。いつも遊びに来ているのが災いしてしまった。
彼らを傷付ける訳にはいかない。アルビレオに侵入されれば終わりだ。最下層にある秘宝は勿論大事だが、神殿の中にいる“未来”もまた、尊ぶべき大切なもの。
「……セーヴィル」
子どもたちの為だよ、とユークが言う。
言葉なくとも通じ合える双子が敢えて言葉にして言ったのは、念押しの為だろう。今だけでも、今回だけでも、彼らの力を借りるべきではないのかと。
「……」
ユークは普段はおっとりしていて、こんなに真面目になる事はない。
他者を癒す術を持つ彼女だからこそ判る事もある。例えばプライドと命、天秤にかければどちらが重いかだとか。
「……アルビレオの地下には入れない。絶対にだ」
「其れはそうだよ。護って貰うのは周辺」
「そうだな。敵は北西と南東、そして北から来る。其れ等さえ退ければ」
「……あ、でも、お疲れ様のお茶くらいは出しても良いよね」
「ユーク」
ぎろりと睨みつけたセーヴィルが、其れでも助力を請う事を許してくれたという事実に、ユークはのんびりと笑みを浮かべた。
- 氷結神殿アルビレオ攻防戦完了
- GM名奇古譚
- 種別ラリー
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2022年03月30日 18時15分
- 章数2章
- 総採用数42人
- 参加費50RC
第1章
第1章 第1節
●
氷の神殿に、僅かに影が映る。
宙に向かって吠えながら、まるで夕暮れに見る鳥たちの影のように亜竜の群れが近付いてきていた。
「ぶはははッ! 子どもがいるんじゃ仕方ねぇなぁ!」
笑う。恐ろしい見目をしているが、ゴリョウはこう見えて子どもを害すものには容赦ない、心優しい一面がある。。アルビレオにはウェスタの集落から遊びに来た子どもがいる。竜を通して傷を付けられるのは、ゴリョウには我慢ならなかった。
「この豚さんを無視して土足で人ン家に入ろうたぁイイ度胸じゃねぇか!」
なあ、木っ端ども!
翼で空を切りながら迫り来る亜竜をひきつけるゴリョウ。もちろん一人でこの数を捌ききるのは難しいが――彼は一人ではない。
「来たぜぇ! 後は頼めるか!?」
「勿論だ。防御面は任せる」
ゴリョウの呼びかけに、ジルベールは感情のない声で答えた。戦えるという高揚を抑え込む。そうしなければ今にも群れに突っ込んで行ってしまいそうだったから。
ジルベールは戦いが好きで好きでたまらない。けれども、攻撃に特化しているので防御面に問題がある。亜竜の群れのなかで力尽きるのは流石に避けたいところだ。
「近付ききる前に数を減らす」
「おうよ!」
「近付いてきたらおれがどうにかするよ。――巫女くんたちも子どもも、そして神殿も。“神殿を守る”という彼らの願いも、しっかり全部守らなくっちゃね!」
神殿の入り口は上空からアクセスできる場所にはない。緩やかに滑空して降りて来る亜竜の群れに向かって、ジルベールは光の球を構えた。
瞬間、一同の目を焼く閃光。魔砲が空を切り裂いて、小さな亜竜たちを焼きながら真っ直ぐに空へと消えていく。
ぽっかりと亜竜の群れの中に開いたような穴だけれども、直ぐに他の亜竜が其処を埋める。トストが続けて絶望を歌う、其の声は亜竜たちを魅了してふらつかせる。
たん、とまるでステップを踏むような音がして、亜竜が頭を撃ち抜かれて落ちた。――ゴリョウやトスト、ジルベールの遙か後方で、子墨がライフルを構えている。後方から一匹ずつ、確実に仕留めていく。狙うのは最優先で翼、其れから着地するための脚。そして最後に、爪や牙のある口――急所である頭部。
幸いゴリョウが引き付けてくれているため、竜の軌道を読むのは容易い。トストが魅了してふらついたところで、確実に弾丸を撃ち込んでいく。
数発撃ち込んだらそっと移動する。相手は亜竜、真っ直ぐにゴリョウを狙っているとはいえ、何処から撃ち込まれているのかを悟られたら避けられてしまうかもしれない。こまめに場所を変えながら、攪乱するように銃弾を撃ち込む。
神殿に近付きすぎるなら自ら引き付ける事も考えていたが、其の必要はなさそうだ。
ふらふらと魅了されて不規則に飛行する亜竜に、トストが絶望を歌う。其の絶望は亜竜の心臓を鷲掴みにして、握り潰した。
魔砲の光が貫き乱れて、空へと昇っていく。胴体をまるごと焼かれて命尽きるもの。子墨に翼を撃ち抜かれ、落ちて行ったところでジルベールが放った閃光に焼かれるもの。トストに魅了され、絶望の歌を聞きながら静かに落ちて、そのまま動かなくなるもの。
亜竜の遺骸は積み重なっていく。ジルベールたちが次のものたちに引き継いで撤退するまで、光の乱舞は続いた。
成否
成功
第1章 第2節
●
「なんだなんだ、最近里の襲撃が多くない?」
ルーキスが呆れたように呟く。以前にも蟻の襲撃で里が一つ崩れたばかりのところに、今度は神殿が襲われたと来た。
「場所が変わっても仕事が多いのは、いつもの事ながら……」
「最近少し忙しいかな? どう、ルナール先生」
「どうだろうな。まあ何処であろうと、俺がルーキスを守る事には変わらない」
ルナールは一歩前に出る。
亜竜が飛んでいる。戯れるようにルーキスが放つ弾丸で翼を撃ち抜かれ、亜竜がぼとりと大地に落ちる。其処に流れるような連携でルナールが痛打を与えて、亜竜の命を刈り取る。
罪悪感が無いといえば嘘になるが、これは生存競争だ。神殿の中には幼子たちもいるというから、決して此処は通せない。徐々に接近してくる亜竜たちに、今度はルーキスは姿なき襲撃者たちをけしかける。
其れ等は血を好み、肉を愛す。ぎゃあ、と鳴いたのは一体どちらだろう。
ルナールは大地に降りて接近してくる亜竜から愛妻を護る。其の爪と牙は決して浅くはない傷をルナールに与えるけれども、其れが自分の役目ならば、多少の傷なんて構うものか。
「ルナ、大丈夫? 団体さんへの攻撃はこっちが稼ぐよ、フォロー宜しく!」
「ああ、判ってる」
――資格あるものよ。深淵からの呼び声を聞け。其れはいつも隣にいて、されどお前達の目には見えぬもの。
ルーキスが手繰るように魔術を放つと、にわかに亜竜たちの脚が鈍くなった。今ならば、とルナールが攻撃に切り替えて、防御を攻撃に切り替えて一気呵成に攻め立てる。
「さあて、きりきり倒して安全確保だ!」
ルーキスの指が踊る。亜竜たちがどんなに飛び回ろうとも、間合いの内にいる限りルーキスの銀鍵は逃しはしないし、ルナールの鉄壁を抜ける事はあたわないのだ。
成否
成功
第1章 第3節
スフィアが歌う。
彼女の歌には、歌詞がない。母音のみで歌う其の声は幼く、神聖さすら感じさせる。音楽は甘く切なく、静かなバラード。
「お。……ありがとよ、嬢ちゃん」
己の身体に加護が付与されたのを感じると、バクルドはスフィアに向かって笑い掛ける。人慣れしていないスフィアは其れだけで跳び上がって、咄嗟にティスルの後ろに隠れてしまった。
「駄目じゃない、怖がらせちゃ」
「ああ? ……別に怖がらせたつもりはないんだがなァ……あ、其処からあんまり動くんじゃねえぞ。罠があるからな」
バクルドは事前に神殿周辺に罠を仕掛けていた。勿論亜竜対策である。巫女たちは余り良い顔をしなかった(特に男の方の巫女は)が、――十分という程渋い顔をした後に、良いだろうと許可を出したのだった。亜竜に押し入られるよりは、大地を掘ったりされるほうがまだマシだ、という判断だったのだろう。
「たとえどういった事情が、話せない事情があろうとも……子どもたちを護りたい、其の意志だけで十分だ。この貴族騎士は喜んで手を貸すさ。僕は空から亜竜を撃ち落とす」
「俺も行くぜ。……そっちにスフィアの嬢ちゃんを載せてやってくれるか? 俺と相乗りは怖いだろうしな」
「任された。ではスフィア、こちらへ」
スフィアはティスルの陰から伺うと、とことことシューヴェルトへと歩み寄る。脇に手を差し入れてひょいと痩躯を持ち上げてワイバーンに騎乗させれば、ひえ、と愛らしい声が上がった。
「大丈夫だ。噛みはしないし、何かあったら僕が君を守る」
「私は此処に残って、罠の発動と打ち漏らしの処理をするよ。……ケルツェさんは?」
「え? ……あ」
ぼんやりと思考に耽っていたケルツェは、ティスルの声にはっと我に返る。周囲を見回すと、ワイバーンが2頭いて、乗る人が3人いるようだった。
――まさか、トライアルに参加する側になるなんて。
ドラゴニアであるケルツェは、心の中で呟いた。別に嫌味ではなく、素直な感想と言ったところだ。召喚前なら考えもしなかったし、もしかしたらトライアルを持ち込む側だったかもしれない。けれど、特異運命座標として神殿に呼ばれてからは出来る事は各段に増えた。
――護ろう。守る為の力が、私にはある。野良の亜竜にくれてやれるものなんて、何処の集落にもないのだから。
「じゃあ、私も地面に残る」
「そう。じゃあバクルドさん、シューヴェルト君、お願いね」
「ああ」
2頭のワイバーンが飛び立つ。亜竜たちが直ぐに群がってくる。騎乗用のワイバーンが警戒に鳴くけれど、シューヴェルトの後ろに控えていたスフィアが静かに歌う。
――わたしには、うたうしかできない。
――でも、うたでみんなをたすけられる、から。
バクルドが弾丸の驟雨を降らせる。翼を、脚を爪を、頭を撃ち抜かれて亜竜が落ちていく。抜けてきた亜竜ががぶり! とバクルドの腕に噛み付くけれど、返って来るのはがちん、という堅い感触だった。
「おーおー。子猫ちゃんみたいな噛み付きじゃねえか。そんなんじゃ俺の手を噛みちぎる事は出来ないぜ?」
バクルドが亜竜を摘まんで放り投げると、其の体の中央を弾丸で射抜く。
「僕らもいこう。スフィア、しっかり捕まって」
「……!」
このはなさくや? いまさくや。
シューヴェルトの広範囲を巻き込む斬撃に、堪らず亜竜が裂かれて落ちていく。まだ辛うじて動ける者もいたが、其の下にはバクルドがあらかじめ仕込んでおいた落とし穴がある。大地に着いたと思ったら更に落ちて、其処に仕掛けられた竹槍に、ぐさり。単純な罠ほど信頼する挙動をしてくれる。
「飛んでくれるなら、寧ろ好都合だね」
ティスルの髪が白く染まってゆくのを、ケルツェは見た。ティスルは良くも悪くも魔力の影響を外見に受けやすく、其の感情とあいまって色が変化してゆく。白は即ち理性の色。此れから解き放つ妖魔としての己に負けないという意思表示。
「……私も、行くね」
「うん。間合いと罠には気を付けて!」
あらかじめ、バクルドは罠の内容と数、そして位置を共有してある。ケルツェは慎重に大地を蹴り、上空のワイバーンではなく大地の人間たちを狙って降りてきた亜竜たちのど真ん中に突っ込んだ。
「剣。……私達を、護って」
ぼろぼろの機械剣。其れは初めてケルツェが手にした武器だ。薬師ではあるけれども、ケルツェはずっと、護られた経験を忘れられなかった。あの時護られたように、私も護りたい。助けを呼ぶ人たちを、出来得る限りの力で!
暴風のような斬撃が、周囲の亜竜を消し飛ばす。其れは切り刻むというより消し飛ばす、という表現がよく似合った。
ティスルもまたじっとしてはいない。空にいる亜竜(えもの)に向かって旋風の如く跳び上がり。
「メルクリウス!」
腕輪の形をした己の武器に呼びかければ、メルクリウス・ブランドは剣へと形を変える。膝で亜竜に一撃お見舞いして、一刀の元に両断す。
「悪いけど――今日の私は逃がすほど甘くないし、逃がすほど遅くもないわ!」
「外」には小鳥が沢山いるとでも思った? だから怖くもないと思った?
残念! 「外」の小鳥にはね、貴方たちに負けない爪と牙がついているのよ!
成否
成功
第1章 第4節
「神殿の秘宝とやらも気になりますが、こんだけの亜竜が大挙して押し寄せるとか其れ自体が既に大ごとのような」
「そうだな。獣害というのは何処にでもあるものだ。其れが獣ではなく亜竜というのは実にこの国らしいところだ」
「……覇竜に限らず、という事なのです?」
「そうだな。まあ、共通するのは“餌を求めて来る”という処だ」
クーアの呟きに、ラダが冷静に返す。命って過酷なのです。
「だが、私たちはいつも通り仕事をするだけだ。そうだろう?」
「そうだ! 空から来る奴はいるか? 俺、空からどかーんってするぞ」
熾煇がひゅるり、と子竜の姿で飛ぶ。其れを見てアーマデルが思わず目を見開いた。
「……!」
「……? どうした?」
「いや……誰かに飼われているペットだとばかり」
アーマデルは正直なのだが非常に失礼である。
だが熾煇の場合は少々事情が違った。
「おう! 俺はペットだぞ。行き倒れていたところを拾ってもらったんだ! だから此処を守る為に頑張る!」
「……そうだな、頑張ろう。俺も載せて貰って良いか?」
「おう! 勿論だぞ!」
「ふうん……」
あれは小さいけど同胞か。
スースァは思わず出しかけていた武器を、今度は違和感がないようにそっと抜く。其れは熾煇を討つためではなく、迫り来る亜竜たちを駆逐するためだ。
スースァは秘宝には興味がない。亜竜に手心を加えるつもりもない。全ては神殿で無邪気に遊んでいる子どもたちの為。巫女たちが秘宝に関わらせたくないなら関わらないし、関わるつもりもなかった。
「この神殿はドラゴニア、おいてはウェスタにとって大事な場所らしいでありんすねえ」
「……。」
「ね」
じろ、とねめつけたスースァに、エマがにこりと笑ってみせる。対照的な表情の二人だったが、先に折れたのはスースァの方だった。
「外でも神殿は割と大事な場所だろう?」
「ええ。信仰は何事においても大事でありんす。ま、これを機に貸しを一つ作るのも、悪くないなんし」
「貸しを作ってどうするってのさ」
「さあ……其れはまだ考えてないでありんす」
さあて、取り敢えず仕事と行くでありんすよ。
熾煇とアーマデルは騎乗用ワイバーンに乗って上空にいた。
下を見ればクーアが神殿の一角に保護結界を掛けているのが見える。アーマデルは直ぐに視線を戻すと、羽ばたきながら此方へ接敵してくる亜竜たちに向かい音色を奏でる。
――其れは、時計の針の音に似ている。捕らわれてはならぬと進み続けた癒し手の逡巡が、亜竜たちの心を揺らす。
「おれもいくぞ!」
熾煇が鱗に、全身に魔力を巡らせる。騎乗ワイバーンの頭上にぴょんとのって口を開くと――か、と閃光が瞬いて、魔砲が亜竜を焼いた。
「どうだ!」
ふふん、と胸を張る熾煇が子犬に見えて仕方ない。アーマデルは欲求に逆らう事なく、偉いぞ、と熾煇の頭を撫でた。
クーアが上空に狙いを定める。熾煇たちを狙わないように留意しながら放つのは、こげねこメイドの餞。赤黒く渦巻く焔は麗しく、終幕と呼ぶにふさわしい。最後に幕を下ろすのは、この私なのです。全てを焼き尽くして、劇場さえ焼いて、そうして全てに幕を下ろすのです!
スースァの心を、怒りが塗り潰す。怒りと、戦意。其れ等がクーアの放つ炎のようにとぐろを巻いて、スースァの戦闘力を増強する。――“ラ・レーテ”。かつて天義を泥の海に沈めた冠位の名を頂く剣を振るえば、亜竜たちは慄く。心に染み込むような不調。其の不調を血肉ごと抉るかのような痛み。叫びながら地面でのたうち回る亜竜の腹を踏みつけて、スースァは其の柔らかい口腔に剣を突き立てた。
「ふむ。予想以上に敵が多いな」
「此処は協力するなんし」
揉み手で近寄ってきたエマは完全に怪しい人だが、ラダはちゃんと彼女が仲間だと判っている。
だから其の提案に乗った。
エマが手を翳すと、ひゅるり、と風が渦巻く。味方の周囲には優しい風が吹いて、亜竜を包み込むのは刃のような砂嵐。其処にラダが銃弾の雨を撃ち込めば、何処から弾丸が来るか判らない弾丸の嵐の出来上がりだ。
暴風は吹き荒れ、時折熾煇が撃ったのであろう魔砲の光が上空へ向けて輝く。更にクーアが大地に逃れた亜竜を打ち上げて嵐の中にご招待。己も跳び上がり、雷撃と猛焔によるおもてなしを行う。此れには流石の亜竜さんもメロメロのノックアウトなのです。
「はあッ!!」
スースァの喝が亜竜たちを吹き飛ばし、エマの作り出した砂嵐へと押し返す。押し返しきれなかったものは剣で切り刻み、不調でじわりじわりと攻め立てた。
「ところで――」
……エマの言葉に、スースァは嫌な予感がした。
「この亜竜って、食べられるんでごぜーますかね?」
「はあ?」
「いや、亜竜とはいえ竜肉はちょっと憧れでありんす。試しても構わないでありんすよね?」
スースァの傍に転がっている亜竜の遺体を確認すると、エマはこれで良いなんし、と頷いた。
「お肉貰っておきんしょう」
「……腹壊しても知らないよ」
「大丈夫だ。ラサ式の調理術を使えばどんなものもある程度は食べられるはずだ」
「アンタもか!」
「メイドを呼びましたか!?」
「呼んでない!!」
「……ぶるる」
「どうした?」
「いや、いま、なんか寒気がしたんだぞ……なんだろな。かぜかな」
成否
成功
第1章 第5節
「こんな神殿があったんだね……何かを祀ってたりするのかな?」
「そりゃあ神殿だし、厳しく余所者を弾いてるんだから何かが眠ってるんだろ。……興味ある?」
「其れはシラス君のほうでは?」
「……まあね」
バレたか、とシラスは後頭部を掻く。いや、だって気にならない方がおかしいだろう。頑なに外の者を拒む彼らが、一体何を祀っているのか。手を出そうとは思わないが、一目見てみたいという気持ちはないでもない。
話題を変えなければ。シラスは南東の空を見て、ひゅう、と口笛を吹いた。まるで鳥のような亜竜の群れが神殿目掛けてまっしぐら、ときている。
此処の神官は外の者に良い印象を持っていない。首尾よく依頼を片づけて、信頼を得ておきたいところだ。そうすれば覇竜で動くのももっとやりやすくなるだろう。
「戦う力のない子もいる訳だし、被害を出させる訳にはいかないよね! そういう訳で、今回も張り切っていくよ! おー!」
「おー」
「力がない! おー!」
「おー」
もー! と怒りながらも、アレクシアも戦闘態勢を取る。徐々に高度を下げながら迫って来る亜竜たちに、まずはとアレクシアは少し前方を指差した。ぶわり、と白い花の吹雪が巻き起こり、まるで花の妖精のように其の中心にアレクシアは着地する。
――ギャアッ!
――ギイッ!
竜の注目が集まるのを感じる。そうだよ。こっちに来て。この花びら、ふわふわで綿みたい――って、花には興味ないかな?
竜たちがアレクシアを囲んで渦巻くように降りていく。其処をシラスは見逃さない。アレクシアを傷付けぬように。亜竜を残さず平らげるように。剣閃が煌めいて、亜竜を切り裂いていく。
「……ッ!」
「アレクシア!」
亜竜の爪がアレクシアを引き裂く。大丈夫だよ、とアレクシアはシラスに視線を向けて。
「シラス君、もっと頑張って!」
なーんて冗談めかして笑ってみせるものだから。
シラスは仕方ないとばかりに、更に剣閃を重ねて確実に亜竜に死を与えていくのだった。
成否
成功
第1章 第6節
マルクのファミリア、鳥がひゅうるりと飛んでいる。鳥は大きな氷の神殿をぐるりと一周するように見て回ると、神殿の屋根につ、と止まった。鳥が止まった北西部、眼前には亜竜の群れが近付いてきている。
「マルク、どうですか?」
リースリットが問う。
「うん。北は殆ど何の影もない。南東も殆ど。北西に少し残っているくらいだね」
「まだ狙って来るか……アルビレオの秘宝、だったか? 余程大きな影響力を持つのだな」
今回も宜しく頼む、とタイニーワイバーンの背を撫でてやりながらベネディクトが言う。
「亜竜たちにとって何か特別な感覚を与えるという事でしょうか。出来るなら見てみたいですが……巫女さんたちは厳格ですから、無理でしょうね。其れに、亜竜の襲撃がよくある事、という訳でもなさそうです」
だから今回私達が呼ばれたのでしょう、とリースリット。
……はあ、と溜息を吐いたのは天川だった。
「この有様は……嫌でも練達の件を思い出すな。あれほど大騒動ではないが、其れでもな……あー、さて! 仕事だ仕事!」
「ああ。今回は神殿の防衛だ。だが皆であれば最上の結果を得られると信じている。各自の奮闘を祈る!」
黒狼王の子たるベネディクトが言葉を発すれば、三者三様に頷く。そうしてベネディクトはワイバーンにのり上空へと飛んだ。
其れを追うように、リースリットも飛ぶ。
亜竜たちが近付いてきている。
「行くぞ」
「はい!」
ベネディクトとリースリットが二手に分かれる。敵はまるで面を埋めるように接近している。点と点では叶わないが、互いに面と面を作れば如何か。
ベネディクトの剣がひらめく。縦横無尽に奔る剣戟が、どちらかといえば青よりの膚をしている亜竜たちを鮮血で赤く染めた。
「これなら――どうですッ!?」
リースリットが放つ絶凍のダイヤモンドダスト。きらきらと美しく陽光を反射する其れらは、しかし亜竜を落とすには十分なものだった。凍って砕けて、翼を、脚を失った亜竜が大地に落ちていく。
其れをカバーするのが天川だ。凍り付いた亜竜は放っておけば息絶えるだろうが、念には念。変幻自在の二振りの小太刀が舞い、亜竜の命を葬り去る。
マルクは後ろからファミリアの視界を借りつつ、全体を俯瞰していた。――皆には話していない事がある。北西部の反応が一番多いのは事実だが……北からまるで大きな壁のような威圧感を感じるのだ。
其れは此処に居るだけでは感じないもの。ベネディクトもリースリットも、天川も気付いていないだろう。恐らくは亜竜たちをまとめる大物。だが、いつ来訪するか判らない大物を警戒させて、今の戦いをおろそかにさせる訳にはいかないから。だからマルクは、まだ仲間が接敵していない亜竜たちを狙って魔光を弾けさせる。其の圧倒的な熱に、ゆらりと亜竜たちがふらついた。
リースリットは今のところ、体力を温存できている。しかしベネディクトと天川は傷付けば傷付くほど反撃に繋がるタイプなので、回復にはタイミングをよく見極めなければならない。
ベネディクトは傷を負いながらも、幾度目かの斬撃を見舞って周囲を見回した。あちこちで戦士たちが戦っている。劣勢となる戦場があれば援軍に向かう事も考えたが、人数は十分だろう。自分たちはこの北西部に集中して良さそうだ。
――しかし、北の辺りから嫌な予感がする。其れをベネディクトも察していた。まだだ、まだ来ないだろう。けれども……
其の懸念ごと、ベネディクトは亜竜を切り捨てた。リースリットが次々と亜竜を凍らせていく、其の冷気を感じながら。
「はッ!」
風精霊の名を冠する斬撃にて残りの亜竜を葬り、リースリットは息を吐く。
亜竜はまるで波のようにばらけて四人へと群がって来る。其れ等を切り捨てるのは造作もない事だが、こうも数が多いと捌ききれなくなる。
一人ではとても対処できなかっただろう、と安堵の息を吐きだした。
「さあて、此処から本気だぜえ!」
天川の声が聞こえる。彼は傷付いて強くなる戦い方をするから、少し心配だけれど……同じ黒狼の旗に集った者だ、心配は無用の長物か。
神殿は大丈夫だろうか、と振り返った其の時、白い衣に身を包んだ白い巫女が慌てて氷の階段を降りていくのが見えた。
「大変、大変!」
「どうしました?」
振り返ったのはマルクだった。白い巫女――ユークは慌てて、北の空を指差した。
「セーヴィルが、飛び立ったって言ってるの。あと数分もしないうちに、大きなのが北から来るだろうって」
成否
成功
GMコメント
こんにちは、奇古譚です。
初めての! ラリーシナリオ! 頑張ります!
●目標
1)北西・南東から来る小さな亜竜を撃破せよ
2)北から来る「暴れる亜竜」を撃破せよ
●立地
覇竜領域デザストルに点在する里の一つ、ウェスタ。
其の片隅にある神殿“アルビレオ”が中心です。
●エネミー
小さな亜竜xたくさん
暴れる亜竜x1
アルビレオの地下にあると言われる秘宝“氷竜の遺骸”から放たれる恵みの香りに惹かれてやってきた亜竜です。
双子巫女「セーヴィル」と「ユーク」は厳格で、イレギュラーズどころか同族にさえ秘宝を見せる事は許しません。そして神殿内には遊びに来た子どもたちが保護されています。
故に神殿前で亜竜を撃破して欲しい、との依頼が持ち込まれました。
小さな亜竜は特殊な力はありませんが、其の爪と牙は半端な獣よりも鋭いです。
小さな亜竜を一定数撃破すると、暴れる亜竜が現れます。
暴れる亜竜は爪と牙で直接攻撃するほか、水属性のブレスを放ちます。
このブレスに触れると「溺れます」。水の力が体内で氾濫して、地上なのに溺れるという事象が発生するのです。
BS解除系スキルで解除可能ですが、続けてブレスを受けると症状が悪化、一定数重なれば意識不明となりますのでご注意下さい。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
●
此処まで読んで下さりありがとうございました。
アドリブが多くなる傾向にあります。
NGの方は明記して頂ければ、プレイング通りに描写致します。
では、いってらっしゃい。
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