PandoraPartyProject

シナリオ詳細

氷結神殿アルビレオ攻防戦

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「――来る」
「来るのね」

 亜竜集落ウェスタ近郊、神殿“アルビレオ”。
 氷で作られた其の神殿は、陽光に照らされても溶ける事はなく聳え立っている。きらりと太陽の光を反射して、遠くに見るだけでも美しい。
 しかし其の中は張り詰めた糸のような緊張感で満たされていた。
 夜色をした半球が、黒い膚の巫女――『金色の双星』セーヴィル・アルビレオを包んでいる。其処にはきらりきらりと星のような光点が煌めき、時に二つの間で線を結び、時に線は消えていく。
 其処に何があるのかを読み取れるのは、占星魔術の使い手であるセーヴィルのみである。まったく同じ時刻に生まれた双子である『青き双星』ユーク・アルビレオにも、其の全貌は読み取れない。
 だから、セーヴィルを信じている。彼が“来る”と言ったら“来る”のだ。
「どんなのが来るの?」
「でかいのが一つと、小さいのが無数だ。全く、秘宝が何に反応しているのかも判らんというのに、其れを嗅ぎつけるとは鼻の良い事だな」
 薄れて行く小さな天球儀の中心で、皮肉をたっぷり言葉に塗り付けてセーヴィルが呟く。其の様を見守っていたユークは、少しして意を決したように口を開く。
「……ねえ、セーヴィル」
「何だ」
 “何だ”なんて。
 私達の間には一番必要のない言葉なのに。
「私が何を言いたいか、もう判っているよね?」
「……」
 この領域に外から人が入り込んでいるのは、既にセーヴィルとユークの耳にも入っている。彼らは特異運命座標……イレギュラーズ、というらしい。
 現在は「トライアル」という事で簡単な仕事を任されてはいるが、其の内覇竜の深い所(ないじょう)にも関わって来るだろう事は想像に難くない。
 其れでも。セーヴィルは外から来た人間を受け入れる気にはなれなかった。
 自分とユークで十分ではないかという過信が頭をよぎるのだ。勿論、過信だとは判っている。亜竜種でありこのアルビレオの巫女である自分達は弱くはないが、強くもない。他者の手を借りなければ、今回の危機を退けるのは難しいだろう。
 まして現在、このアルビレオには――

「せーびるさまー! おほしさま、なんて言ってた?」
「まだお外に出ちゃ駄目なの? ねえー」

 子どもがいるのだ。いつも遊びに来ているのが災いしてしまった。
 彼らを傷付ける訳にはいかない。アルビレオに侵入されれば終わりだ。最下層にある秘宝は勿論大事だが、神殿の中にいる“未来”もまた、尊ぶべき大切なもの。
「……セーヴィル」
 子どもたちの為だよ、とユークが言う。
 言葉なくとも通じ合える双子が敢えて言葉にして言ったのは、念押しの為だろう。今だけでも、今回だけでも、彼らの力を借りるべきではないのかと。
「……」
 ユークは普段はおっとりしていて、こんなに真面目になる事はない。
 他者を癒す術を持つ彼女だからこそ判る事もある。例えばプライドと命、天秤にかければどちらが重いかだとか。
「……アルビレオの地下には入れない。絶対にだ」
「其れはそうだよ。護って貰うのは周辺」
「そうだな。敵は北西と南東、そして北から来る。其れ等さえ退ければ」
「……あ、でも、お疲れ様のお茶くらいは出しても良いよね」
「ユーク」
 ぎろりと睨みつけたセーヴィルが、其れでも助力を請う事を許してくれたという事実に、ユークはのんびりと笑みを浮かべた。

GMコメント

 こんにちは、奇古譚です。
 初めての! ラリーシナリオ! 頑張ります!

●目標
 1)北西・南東から来る小さな亜竜を撃破せよ
 2)北から来る「暴れる亜竜」を撃破せよ

●立地
 覇竜領域デザストルに点在する里の一つ、ウェスタ。
 其の片隅にある神殿“アルビレオ”が中心です。

●エネミー
 小さな亜竜xたくさん
 暴れる亜竜x1

 アルビレオの地下にあると言われる秘宝“氷竜の遺骸”から放たれる恵みの香りに惹かれてやってきた亜竜です。
 双子巫女「セーヴィル」と「ユーク」は厳格で、イレギュラーズどころか同族にさえ秘宝を見せる事は許しません。そして神殿内には遊びに来た子どもたちが保護されています。
 故に神殿前で亜竜を撃破して欲しい、との依頼が持ち込まれました。
 小さな亜竜は特殊な力はありませんが、其の爪と牙は半端な獣よりも鋭いです。

 小さな亜竜を一定数撃破すると、暴れる亜竜が現れます。
 暴れる亜竜は爪と牙で直接攻撃するほか、水属性のブレスを放ちます。
 このブレスに触れると「溺れます」。水の力が体内で氾濫して、地上なのに溺れるという事象が発生するのです。
 BS解除系スキルで解除可能ですが、続けてブレスを受けると症状が悪化、一定数重なれば意識不明となりますのでご注意下さい。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。


 此処まで読んで下さりありがとうございました。
 アドリブが多くなる傾向にあります。
 NGの方は明記して頂ければ、プレイング通りに描写致します。
 では、いってらっしゃい。

  • 氷結神殿アルビレオ攻防戦完了
  • GM名奇古譚
  • 種別ラリー
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2022年03月30日 18時15分
  • 章数2章
  • 総採用数42人
  • 参加費50RC

第2章

第2章 第1節

 北の空が曇り始めていた。
 翼の皮膜が風を切る。鋭い爪を、長い牙を打ち鳴らして、そいつはやってくる。
 飢えていた。水に飢え、餌に飢えていた。水の気配を嗅ぎつけて、其の大きな影はやってくる。
 ――やがて大地に落ちるように着地した其の亜竜は、翼の先にある鉤爪を大地に付けて四つん這いになり、一度威嚇するように吼えた。
 そのまま神殿に向かおうとする――かと思えば、何かを見失ったかのように鼻を鳴らし始める。
 其の巨体は人間の数人などはね飛ばして神殿に入り込めそうだが、亜竜はそうしない。まるで神殿が何処にあるのか、見えていないような……

「私達は子どもたちを外に出さないようにするから、ずっと援護は出来ない」

 申し訳なさそうにユークが言う。

「でも、セーヴィルの占星魔術で一時的に秘宝の気配を攪乱しているから。混乱している間に叩いて欲しいんだ。宜しくね」

 ユークが癒しの光を降らせる。
 ダイヤモンドダストが煌めいて、小さな亜竜との戦いで傷付いたイレギュラーズ達を僅かに癒した。


<セーヴィルの術により、大きな亜竜は神殿の位置を見失っています>
<ユークの癒しにより、体力が僅かに回復しました>


第2章 第2節

クーア・M・サキュバス(p3p003529)
雨宿りのこげねこメイド
ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)
繋げた優しさ
文・久望(p3p010407)
運命で満たすは己の欲
熾煇(p3p010425)
紲家のペット枠

「なんて大きな亜竜……」
 ジョシュアは神殿の位置を見失い、忙しなく周囲を見回す亜竜を見上げた。
 僕でも戦力になれるだろうか? 少しでも力になれるだろうか。
「ごめんね、私たちは子どもが出ないように見張るのと、この隠蔽の術で手いっぱいで」
 ユークが神殿からそっと声を掛ける。ジョシュアはいいえ、と頭を振った。
「ユーク様たちは子どもたちをお願いします」
「おっきなドラゴンだな! 強そうだ」
 熾煇が瞳を瞬かせる。北の空から飛んできたとは思えない程頑丈そうな手足をしている。ブレスが恐ろしいという事だったが、そうでなくてもこの爪牙は脅威に値するだろう。
「これは不意打ちにはうってつけだ。俺達は俺達の役目を果たすとしよう」
「そうなのです、奇襲なのです! ブレスが火属性ではないお仕置きをするのです」
 久望がふわり、と地面から浮く。クーアは火を愛するあまりお仕置き隊になってしまったが、討伐対象なので構わないだろう。
「俺は空からやるぞ! こいつ、飛ばないかな?」
「飛ばないように奇襲で我々が引き付けるさ」
「おまかせなのです」
「僕は遠距離から皆さんを援護します。お気をつけて」
 ジョシュアはまだ見付かっていないうちに、ふわりと闇を纏う。そのまま距離を取って、クーアと久望が一撃を見舞うのを待つ。先に攻撃を入れてしまうと見付かってしまうし、何より奇襲が失敗するかもしれないからだ。
 ――音もなく亜竜の背後に回り込んだ二人。
 久望とクーアは目配せし合う。先に自分が、と先望が頷いて。ツインストライク――蒼き彗星がしたたかに、亜竜の翼腕、その根元をしたたかにうつ!

 ――!

 声なき悲鳴と共に、亜竜はようやっと小虫に気付く。飢えていたからか、混乱していたからか、ようやっと人間という種族の存在に気付いたようだった。
 間隙おかずクーアが焔纏った一撃を叩き込む。巨躯を打ち上げる事は叶わなかったが、剣と拳の乱撃にはそんなものは関係ない。やっぱり時代は紅蓮なのです! 誰が何と言おうとも!
「こちらです!」
 後ろから攻撃されている! 振り返ろうとした亜竜に、ジョシュアは思わず闇の帳を脱ぎ捨てて叫んだ。亜竜にとってはきっと小さな声だが、其れでも亜竜は聞き逃さなかった。ジョシュアを其のぎらつく瞳に捉えて、大きく吼える。
 幸い、上空の熾煇にはまだ気付かれていない。ジョシュアは素早く術式を編み、身体強化を己に、漆黒と業火の一撃を亜竜に加える。身体を蝕む不調、そして焦がす業火の痛みに亜竜が吼えたかと思えば――ぐるん、と其の身体を思い切り捻った。長く棘を頂いた尾が遅れて円を描き、イレギュラーズを強かに打ち付ける。
「ぐっ……!」
「うにゃっ」
「やめろ! おまえの相手は俺だぞ!」
 ワイバーンに乗った熾煇が、小さなおほしさまをきらきら降らせる。たちまち亜竜はおほしさまの虜となって、熾煇へと瞳を向けた。獣のような脚、其の爪を大地に突き立てて、中空に向かって吠えたてる。氷の群体に似たブレスが上空に放たれて、綺麗な扇型を画いた。
「んっ! ……ぐっ」
 喉が苦しい。ワイバーンの翼の動きが不規則になり、暴れるような其れに変わっていく。喉の奥から水が湧きだすような奇妙な感覚に、熾煇とワイバーンは体勢を崩して落ちていく。
「危ないのです!」
 ブレスの中にも関わらず、クーアが飛び出した。中空で熾煇を受け止め、ワイバーンの手綱を掴み、可哀想だけれどワイバーンは半ば引きずるように着地する。
「あれがブレスか……確かに脅威に値する。しかし此処で退くわけにはいかん!」
 久望とジョシュアが対角線上から攻撃を加える。不調に不調を重ねられ、亜竜が吼えた。
「大丈夫ですか!?」
「うう……ごぽ、」
 着地したクーアは熾煇の様子を見る。ごぼり、と其の小さな亜竜の口端から、水がごぼごぼ零れ落ちた。まさに“何もない所で溺れている”。クーアはあらかじめ不調に備えをしてきたが、其れでも何処か息苦しい。あくまで耐性であるから、完全にはブレスの効果を妨げきれなかったのだろう。
「(後の方、頼みますよ……!)」

成否

成功


第2章 第3節

ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
ルナール・グリムゲルデ(p3p002562)
片翼の守護者

「さーて」
 威嚇するように暴風めいた息を吐きながら、棘頂く尻尾を振る大亜竜を見て、ルーキスは伸びをした。
「大物が釣れたぞー」
「なんだか凄い事になったな。予想の2倍はでかい」
 ルナールは至って落ち着いた様子で亜竜を観察している。落ち着いていられるのは、無上の刃にして愛する細君であるルーキスが傍にいてくれるからというのもある。
「取り敢えずこれを何とかすれば終わり、かな?」
「そうだと良いんだが。マトリョシカ? だっけか……開いたらまた次の器、みたいなのはやめてほしいな」
「あはは、それはヤだね」
 亜竜と獣を足したような姿のそいつは、ルーキスとルナールを直ぐに見付ける。最初に目に止めたのは、鮮やかな青を纏うルーキスだった。
「取り敢えず、油断は禁物」
 構えたルーキス。其の前に陣取って、ルナールは妻を護る身構えをする。
 シャッ、と閃光が奔った。其れは亜竜の爪。だが其れを受け止めるのはルナールだ。深く腕を切り裂かれようとも、其れが腹部に達しようとも、ルーキスの前を譲る気はない。
「悪いが、俺の奥さんには指一本触れさせないぞ?」
「心強い旦那様がいて、私は果報者だよ」
 ルーキスが指先に灯した光は、恐ろしい量のルーンを孕んで輝いている。破壊。破滅。痛み。全てを込めてそっと指先で亜竜の冷たい膚に触れれば、其の硬さを撃ち抜いてルーンが亜竜の体内を暴れまわる。

 ――!!!

 亜竜が痛みに耐えかねて吼えた。ぎりりぃ、と大樹のような牙を噛み締め、ルーキスとルナールに向き直る。がちん、がちん、がちん。数度牙を打ち鳴らすと、其の喉の奥から一気に放つダイヤモンドダスト。ルーキスは素早くルナールの後ろに隠れるが、其れでも喉の奥にわだかまるような純水の煩わしさに眉を顰める。
 喉の奥から水がせり上がって来る。大気の中で溺れるとは、成る程? こういう事らしい。吐き出しても吐き出しても、水は喉の奥で勝手に生まれて来る。
 互いの名さえ呼べない。其れでも、この二人の絆は堅固だった。
 ルナールが亜竜を引き付けて、防御力を攻撃力に転化した一撃を放つ。じわり、と暖かなものが身体を駆け巡って、ルナールは水を吐き捨てる。
「……俺が横にいるんだ。危ない橋だろうが、目を瞑っててもルーキスなら渡れるさ。渡らせてみせるのが俺の役目だ」
「ええ、ええ! 勿論一つや二つ、目隠ししてでも渡り切ってみせましょうとも!」

 慈悲か、無慈悲か?
 無慈悲を選ぼう。

 一撃が亜竜の前脚を強かに叩いて、亜竜は悲鳴を上げる。筋繊維を脂肪を引き千切るほど震わせながら、ルーキスも最後の水を吐き切った。何とか意識は保っていられそうだ。ならば其の間に何回痛みを撃ち込めるか。
 ルナールが傷付いた腕で再び防御を攻撃に転化する。痛みに呻く亜竜は何度もブレスを吐く事は難しいようで、凶悪な皮膜を付けた前脚でルナールを殴り飛ばした。

成否

成功


第2章 第4節

バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)
老練老獪
咲花・百合子(p3p001385)
白百合清楚殺戮拳
ティスル ティル(p3p006151)
銀すずめ
スフィア(p3p010417)
ファイヤーブレス

「成る程? 神殿の場所を見失って混乱してんのか」
 都合がいいな、とバクルドは呟き、ワイバーンの上できらりと光るものをちらつかせる。
 破片七晶石。其の気配に敏感に、亜竜は顔を上げた。
「こいつもエサにしたいなら、追い付いてみやがれ! トカゲ野郎!」
 黙って見上げられるほど、バクルドは悠長ではない。
 亜竜がこちらを向いた其の瞬間に、漆黒のあぎとがばぐん、とドラゴンを呑み込んだ。
「まだ、お仕事……終わって、ない」
 そう呟くスフィア、そして其の前には百合子、ティスルがいる。バクルドが亜竜の視線を奪っている間に、百合子は一気に距離を詰めた。
「ぶん殴ればなんとかなるピンチ。実に判りやすい! 好ましい! 吾は殴るのが一番故に!」
 すう、と亜竜が息を吸い込む。ブレスか? させぬ。美少女たれと血潮が滾る。極彩色の世界において、百合子はただ一点の白。
「ユリユリユリユリユリィーーーーッ!!」
 美少女はたをやめではない。其の音速にも近い一撃を後ろ足に喰らって、亜竜は悲鳴と共に倒れ込む。じわり、と内出血のような跡が亜竜の蒼い膚に浮かぶ。
「今だね!」
 飛び込んだティスルの髪は赫黒い。戦意に燃えるような色の髪を靡かせながら、亜竜に蹴りの一撃と、更に数撃を畳み掛けた。
「おーこえ。やっぱり女子は敵に回したくねえなあ」
 結果として囮のような結果になってしまったが、自分は一人ではない。役割を果たせるなら十分だと、バクルドは笑う。そうして上空から見下ろして……スフィアが魔法を放つ準備をしているのを見ると、百合子とティスルに向かって叫んだ。
「嬢ちゃんたち! 大技が来るぜェ、左右に散開だ!」
「む! 了解した!」
「了解ッ!」
 百合子とティスルが左右に跳んだ、其の瞬間。
 スフィアの魔砲が轟音と共に放たれて、亜竜の脚を一本、いよいよ焼き飛ばした。
「ふむ……事前に白百合百裂拳で脚を殺しておいたとはいえ、凄まじい威力だな」
「でもこれで、他の人が戦いやすくなるはず。他の部位にもダメージを負ってるはずだよ」
 亜竜は後ろ足を一つ失って、其れでも退こうとはしない。
 すう、と今度こそ息を吸い、ダイヤモンドダストに似たブレスを上空――バクルドへと放つ。
「おっと、こっちか! そうくるよな!」
 バクルドはワイバーンの手綱を操り、風の中を滑るように跳ぶ。僅かにちりり、と掠めるだけに留めたブレスだが、ごぼり、と喉の奥に水がわだかまるのが判った。
 ――これは厄介だ。
 バクルドは解析する。外から見て異常が殆ど判らない上に、ブレスを受けたと伝達する手段もない。……だけれど、対策をしていないとでも思ったか?
 ワイバーンの手綱を手繰る。空気を求める本能を抑えて、バクルドは重厚な一撃を亜竜へと放つ。其の瞬間喉から溢れる水が止まって、ごほ、と男は咳き込んだ。
「くっそ……! 厄介だな! 嬢ちゃん達もブレスには気を付けろよ!」
「判っている!」
 百合子がもう片方の足を狙って一撃を見舞う。
 ティスルもまた、亜竜の正面に位置どる事を避け、籠手と剣の液体金属を解き放つ。――メルクリウス・バースト。そう名付けた銀色の一撃が、亜竜の後ろ足を毒した。
 素早く動く四つ足も、三つ足になっては動きが鈍る。毒でじわじわと攻め立てられ、上空と大地から攻撃で挟み込まれ、亜竜は苛立たし気に尾を大地に叩き付けた。

成否

成功


第2章 第5節

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
ケルツェ(p3p010419)
小さな灯火
スースァ(p3p010535)
欠け竜

 竜の尾が、鞭のようにしなる。
 強かに叩かれて、ケルツェは思わず呻き声を上げた。ブレスも厄介だと聞いているが、流石にこの巨大さだ。爪が、牙が、尻尾ですら十分な脅威になり得る。
 ラダが後方から銃弾の嵐を見舞う。其れは硬質な亜竜の蒼い膚ではなく、失われた後ろ足の柔らかな断面に突き刺さり、亜竜が吼える程の痛みと傷を与える。
「――お前が求めるものがどこにあるかは言えないし、通じもすまい。ただ、私たちを倒さねば辿り着けないと理解するんだな」
「生きるのに必死なのは、亜竜も亜竜種も同じさ。どちらかが生き残り、どちらかが斃れる、其れだけの事なんだよ。だから、遠慮なくいかせてもらうよ。剣の使い方は知ってるかい!」
 スースァが斬撃を飛ばす。三日月形の衝撃波となった其れは、容赦なく亜竜の硬質な皮膚に突き刺さった。一撃、二撃、……いや、亜竜も生きるのに必死だ。左前脚に力を籠めるとぐるりと周囲の木々を薙ぎ倒しながら半回転し、三撃目をかわす。
 そうして、亜竜は進撃する。最早彼にとっては、神殿が、恵みが何処にあるのかなど二の次なのかもしれない。自らを害すものを滅す。其れは生き物としての本能だった。折れた木々がすぱん、と伐られる。鋭い爪が一撃、二撃、空を切る。そうして三度振るえば、スースァへと鉄で作ったような爪が迫った。
「――ッ!」
 狙われるかもしれない事は織り込み済みだ。スースァは後の先を突く。知っていらして? 邪剣と呼ばわれようが勝ちは勝ちですのよ。かつての悪意がそう囁くように、剣の一撃が亜竜の爪とかち合う。鉄同士がぶつかり合うような音がして、びりり、と亜竜の体に痺れが奔った。
 スースァに一撃を入れたらブレスを吐こうとでも思っていたのだろうか。亜竜の顎が開きかけて――止まる。其の隙をケルツェとラダは逃しはしない。ラダの弾丸が宙を裂く。付けた名の如き銃弾の嵐が、真正面から亜竜に叩き付けられた。合わせてケルツェが猛火の一撃を叩き込み、まるで焔の竜巻のような乱撃が亜竜の急所を絶え間なく叩く。
 一際高く亜竜が吼えた。麻痺に痺れる其の体がびくり、と大きく跳ねる。よく見れば、其の片目から血が滴っていた。ラダの銃撃がケルツェの火焔に乗って、其の眼球を撃ち抜いたのである。
「片目をやったか。これで奴もまともに間合いを定められないだろう」
「だと良いんだけど」
 ラダは構えた銃を微動だにさせぬまま、再び銃弾を亜竜に撃ち込む。
 これは生存競争。
 安全を脅かすなら、命を懸けてやりあうのみだ。なあ、其れはお前だって同じだろう。
 懸けてみろ。命を。

成否

成功


第2章 第6節

マルク・シリング(p3p001309)
軍師
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
フラン・ヴィラネル(p3p006816)
ノームの愛娘
タイム(p3p007854)
女の子は強いから
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
國定 天川(p3p010201)
決意の復讐者

 片目。
 其れから、片足。
「どうみても」
「弱点!」
 そう言ったのは黒狼隊の遅刻組、タイムとフランである。失礼。遅刻するのは別に悪い事ではない。
「これまでの攻撃が積み上がった結果か……頼りになる仲間も合流してくれた。出来る限り俺達で仕留めよう」
 ベネディクトが力強く頷く。元より小亜竜は前哨戦、こちらが本番の心積もりだ。まだまだやれるぞ、と笑う。
「しっかし、またデカいのが出たな。ま、判りやすい奴は嫌いじゃないぜ」
 天川が小太刀を抜いて構える。亜竜が吼えた。別に判りやすい事を怒っている訳ではなく、生命の危機を感じているのだろう。
「これだけの大きさの亜竜までの引き寄せられるなんて」
 一体神殿で何が起こっているのでしょう。リースリットは思案に沈みそうになり、慌てて頭を振る。そんな事をしていたら、亜竜に瞬く間にぱくり! だ。何はともあれ、あの亜竜を仕留めてから。リースリットはふわりと宙に浮いた。
 亜竜は吼える。喋っている小虫のような人間の一団に向かって突進してくる。大地を揺らす獣のような強靭な脚が進行方向を変えたのは、タイムがきらきら星を落としたから。煌めきは亜竜の目を眩ませて、タイムへと其の足を向けさせる。
「神殿には行かせないわ。こっちよ、いらっしゃい!」
 少しでもアルビレオから遠ざけるためにタイムが動く。其れを追うようにベネディクトと天川が先陣を切り、後ろからフランとリースリット、そしてマルクが続く。己の役割をそれぞれ心得ているがゆえの其の動きは、まるで一つの生き物のよう。
「腕と翼が一体化しているのですね……まるで獣のよう」
 リースリットがきらきら光氷を降らせる。ダイヤモンドダスト、其の勢いは美しくも残酷に、亜竜を引き裂き凍らせてゆく。しかしある程度水と氷に耐性があるのか、亜竜の蒼い膚は僅かに凍り付くばかり。
 すう、と亜竜が息を吸う。
「――来るわよ!」
 引き付け役となったタイムが、其の予兆をはっきりと見取る。亜竜は背が膨れる程息を吸ったかと思うと、氷雪に似たブレスを吐き出した。
「くっ、……う……!」
「タイムさん!」
「大丈夫、他の人には……! ごぼ、……!」
 いかせない。
 其の言葉をタイムは次げなかった。抵抗を抜けて水が喉の奥から湧き上がって来る。嘔吐とは異なる異物の感覚に、タイムの胸に悪心が広がる。思わず口を開けて下を向くと、ばたばたばた、と水が零れ落ちた。其れでも已まない。水は後から後から溢れ出て来て、タイムの喉に空気を通さない。
「大丈夫、いま治すよ!」
 フランの声が何処か遠くに聞こえる。
 ――私以外に被害を受けた人は?
 霞む視界で周囲を見回すと、天川とベネディクト、リースリットが亜竜に攻撃を仕掛けてブレスの隙を殺していた。マルクが後方から支援して、亜竜の皮膚から血が飛び散る。
 ……ブレスの呪を受けたのは、自分だけ。良かった。
 そうして直ぐ傍にいるフランを見上げる。大丈夫だよ。其の唇がかたどる。彼女の「大丈夫」は魔法の言葉。するり、と喉で暴れ回っていた水が身体の奥へと去っていき――急激に吸い込んでしまった大気に、思わずタイムは咳き込む。
「わあ! 大丈夫、タイムさん!?」
「だ、大丈夫、……ありがとう……相手のブレス、油断、出来ないわ」
 幸い、神殿を囲む森側に亜竜を向かせていたお陰で、神殿にブレスを吐かせずに済んだ。タイムははあ、と息を吐く。そうして改めて、大丈夫だとフランに頷いた。

「片目と脚――脚の傷を狙えば、効率的に体力を削げそうだね」
 片目は流石に、狙うのが難しいだろうから。
 後方から支援していたマルクが言う。天川とベネディクトが一瞬目を合わせて頷くと、天川が動いた。彼らも無傷ではない。流石に牙の間合いに入る無茶はしないが、鋼鉄のような爪はめくらめっぽうに振るっても十分な威力を誇る。天川とベネディクトは其れを敢えて受けた。傷付く程に、彼らは強くなる術を得るから。
「出し惜しみは致しません……!」
 可能性を纏って、風精の極致を放つ。リースリットが舞い、刺すように放った一撃が傷付いた竜の後ろ脚を確実に斬り付けて、竜が痛みに咆哮する。
 逃れようともがく亜竜。だがもう遅いと、ベネディクトの一撃が前脚を容赦なく切り裂く。其れでも、と亜竜は四肢に力を籠め、跳躍して飛翔しようと――
「今だ、國定!」
「任せな! こいつはとっておきだ! 喰らっとけオラァ!!」
 傷付いて。
 傷付いて、傷付いて、傷付いて。そうして放つ天川の一撃は、亜竜が空に逃げるを許すほど甘くはない。集中に集中を重ねる。傷付いたからこそ命が鳴動する。命を懸けた集中は、ある種の未来予知にすら変わる。次に何処の筋肉が動くのか。次に何処を斬り付ければ、最も効率が良いか。
 其れを見定めた天川の乱撃は、亜竜も恐れる悍ましい牙となる。傷付いた脚の断面から側面、更に前脚にまで傷は到り、跳び上がろうとした亜竜は出鼻をくじかれて大地に伏した。
「マルク、リースリット!」
 ベネディクトの号令に、二人が答える。
 リースリットの風精の一撃が、ようやっと捉えたはもう片方の亜竜の瞳。視界を潰してしまえば、もう神殿は見えないでしょう? 貴方に見えるのはもうただ一人、果敢にフランさんと共に立つタイムさんの気配だけ。
 合わせるようにマルクが歪曲の一撃を放つ。もう弱点なんて言わなくても、狙うのは心臓か首で良い。前脚を捩じるように硬い膚を歪ませて、そうして最後の一撃を待つ。
 フランだって負けてはいない。癒すだけじゃない、護るんだ。私にだって、護れるんだ! 放った一撃に、亜竜がまるで示し合わせたかのように首を下げる。

 銃弾に。剣に。小太刀に。魔法に。
 あらゆる武器に傷付けられてようやく、亜竜は其の命を終える事を感じた。
 そして其れを本能で察知した其の瞬間。
 ベネディクトの剣が、亜竜の首を刈り取っていた。

成否

成功

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