シナリオ詳細
<ディダスカリアの門>実験区画フォルトゥーナ
オープニング
●聖なるかな、聖なるかな
妖精の踊る虹色の空のした、清らかな聖衣を纏った子供達は安らかな表情で祈りを捧げている。
中央に燃える黄金の聖火台からは、美しい女神の幻すら見えるほど。
「皆さん」
そこへ、美しい衣を纏った男が現れる。煌めく妖精達に傅かれながら。赤い花の絨毯をひいて。
「「ファーザー・バイラム!」」
神父(ファーザー)と呼ばれた男バイラムは、優しく微笑み聖書を開いた。
「母(ゴッドマザー)は皆を許すだろう。罪を裁き、清き心に応え、ヘブンズゲートへと魂を導くだろう。ファルマコンの元へと。
さあ皆さん、イコルを……」
バイラムが言うと、子供達は小さなスチール製ピルケースから青白い錠剤を取り出した。キシェフ同様、特別な功績をあげた子供達にしか授与されない特別な恩恵であるイコルを、バイラムは全員に等しく、毎日常用できるだけの数を与えていた。
イコルを飲み込み、祈りの言葉を唱える子供達。彼らの表情はとろりと溶けるように弛緩し、歓声すらあがった。
「ファーザー・バイラム」
声がする。
バイラム振り向けば、赤い髪の聖銃士アガフォンが跪いていた。
「おかえりなさい、アガフォン。任務をこなせたようですね。お怪我はありませんか?」
「はい。ご心配感謝致します。使命を果たし、彼を……『撃鉄の聖銃士』セルゲイを連れて参りました」
そう言ってチラリと視線を後ろにやれば、天使になりかけていた少年がきょろきょろと周囲を見回している。
バイラムは深く頷き、錠剤の入ったケースを差し出した。
「ようこそ、フォルトゥーナへ。あなたには永遠の幸福と、苦しみからの解放を」
●ファーザー・バイラムとフォルトゥーナ
背景を、まずは語るべきだろう。
独立都市アドラステイアは天義国に新しくできたミクロネイションである。
聖教国ネメシスの旧政治体制への批判と不安、そして枢機卿や最高異端審問官といった重要な地位の腐敗と反転。コンフィズリー歴史改ざん事件を始めとする過去への不信……。
天義が民から見放されるべき理由は、もはや数えるだけでも日が暮れてしまう程だ。王宮執政官エルベルトを初め大半の重役たちが失脚ないしは処刑され人員が激しく入れ替わったことも併せ、事件から三年以上が経過したにも関わらず天義は未だ困窮していた。
そんな中で生まれたアドラステイアには、当初好意的な者も多かったという。
実際、冠位魔種ベアトリーチェによって蹂躙され、更には決定的不正義による失脚や処刑などで出た大量の孤児たちをとてつもない規模で引き取り、自給自足の生活を送らせることに成功したというのだ。
宗教観も一新され、真なる神ファルマコンを崇拝し、善き者には恩恵(キシェフ)を、悪しき者は魔女として裁きを与え、上層域から聞こえる鐘にあわせ子供達は清らかな祈りを捧げる。
……だがそれは全て、吐き気を催す邪悪の巣であった。
ほぼ子供だけしか暮らしていないアドラステイア下層域はスラム街と化しており、崩れた廃墟とバラック小屋が建ち並んでいる。本来農作に不向きな場所で痩せた野菜を育てて食い、子供達は口減らしの目的で少しでも疑わしい者を魔女だと告発し『疑雲の渓』へと突き落とす。
高い功績を残した者は聖騎士として取り立てられ、その中でも特に優れた者はプリンシパルとして中層域へ入ることが許されるというが……多くは『オンネリネンの子供達』と称し外貨獲得のための雇われ少年兵として消費されていく。
神のお遣いとして崇拝される『聖獣』も、その一部は大人たちから恩恵として授かった薬品イコルを服用し続けた人間の慣れはてであることまで分かった。
もはや捨て置くことはできぬ。
天義国を通し調査を依頼されていた探偵サントノーレ、そしてアドラステイアからの亡命者であるラヴィネイルたちの力を借り、天義国からの依頼という形でローレット・イレギュラーズたちはこの街の調査と介入を始めたのだった。
そして二年ほどの時が経ち、ついに大人達が住まうという『中層』への到達方法を探る段階へと達したのである。
今回、この物語の舞台となるのは『実験区画フォルトゥーナ』。
ファーザー・バイラムの管理するそのエリアには今、いくつもの物語が結った糸の如く集まっていた。
●輝き集いて鐘は鳴る
――拝啓、雪の精霊がことのほか空を踊る寒冷の候、お健やかにお過ごしでいらっしゃいますでしょうか。
――ノフノの街は混乱からやっと立ち直り、聖騎士不足も解消されつつあります。これもひとえに、あなたがたが我ら逆光騎士団と共に命をかけて戦ってくださったおかげです。
――つきましては、あなた方に折り入って、新しく依頼をしたく存じます。
――独立都市アドラステイアの下層域、実験区画フォルトゥーナをご存じでしょうか?
炎堂 焔(p3p004727)に届いた手紙には、そのような書き出しがあった。
かつて天義の街ノフノで起きた魔女裁判事件は、ローレットへの協力者全てを魔女やその手先と断定し次々に処刑していったという事件で、関係者は全員バイラム牧師なる正体不明の人物によって洗脳されていたという記録が残っている。
「今思い返してみると……これって、アドラステイアの環境を実験していたってことなんだよね」
「そうッス! ロータス先輩やオレガノ先輩たちも復帰しましたし、そろそろジブンたちもアドラステイアの調査に本腰を入れないといけなくて」
手紙を届けに来た『茨の騎士』プリクルは、すこし苦々しい顔をしてベリーショートの金髪をかいた。
「とはいえ、ノフノだけじゃなく天義全体がまだ混乱してるッス。数人の聖騎士を投入した程度じゃあ――」
「返り討ちにあうだけ、だよね。だから今回は『世界のピンチヒッター』の頼みたいって?」
焔の『もちろん引き受けるよ』と続きそうな言葉に、プリクルは半分イエス半分ノーのジェスチャーをした。
「既に下層域の調査は粗方済んでいるとラヴィネイルさんに聞いたッス。だから、中層域へのルートを確保する作戦を……と」
「……中層」
時を同じくして、スナーフ秘密教会からの手紙を受けたココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)は重々しく呟いた。
彼女の左右から手紙を覗き込むイーリン・ジョーンズ(p3p000854)とフラーゴラ・トラモント(p3p008825)。
書いてあった内容を読み切り、特にイーリンは重々しくため息をついた。
「新設した施設から、ジェニファー・トールキンが脱走。行き先はアドラステイア……それも、フォルトゥーナとはね」
アドラステイアを調査するにあたって、様々な資料を紐解いてきた彼女にはよくわかっていた。
子供にイコルを定期的に接種させ、聖獣へと意図的に変化させる実験を行っている区画であり、イコルの生産工場をもつ区画でもある。
子供達はイコルを服用したことによってゴミ溜めのスラム街を妖精の踊る楽園だと錯覚し、日々幸福感に包まれて生きている。
「幸せな人生っていうのが、脳の幸福物質を強制的に垂れ流し続けることをさすなら、成功してるんでしょうね。ひどく短い人生になるでしょうけど」
「そんなの…………」
フラーゴラは言いかけて、手を震えさせるココロに目をやった。
自分のやってきたことが世界を救うための正義だと信じ、ウォーカーが世界を破壊していると信じ、そのために懸命に戦ってきた彼女に……現実をつきつけた。
彼女は精神不安を取り除くべくイコルの服用を続け、依存状態に陥っていたという。その状態を止めるべく、彼女を倒し無理矢理拘束し、天義の秘密教会にて軟禁状態にしたところまではよかったが。
「あの子は、『自分の居場所』に帰りたがってた。信じてきたものや、そのために犠牲にした命に動揺してた。けどいつか……」
『いつか』のあとに言葉は続かない。
ココロの沈黙に、フラーゴラが小さく肩を叩くことで寄り添った。
イーリンもまた頷くことで寄り添った。
「大丈夫。行き先の調べはついてるんでしょ。連れ戻しましょ、実験区画フォルトゥーナから」
●甘い砂糖に誘われて
観音打 至東(p3p008495)がお兄様と呼ぶ人物がいる。ケリーという名で、かつて実験区画フォルトゥーナで暮らしていたという。
「僕らの幸福は管理されていた。思想も、未来も、暮らし方も。
ファーザー・バイラムの元にいれば、僕らは諍いを起こすことも飢餓に苦しむこともなく、ほんの少しの労働とお祈りの時間を繰り返して心豊かにくらしていた。
けれど、それが薬によって得た錯覚でしかなかったと、僕は知ったんだ。
だから君たちに亡命を求めた」
ここはアドラステイア周辺にある村のひとつ。一度聖獣の襲撃を受けたが、ローレットの活躍によって平和を取り戻した場所だ。
少しばかり前に行われた亡命作戦は、表向きには『ケリーの拉致』という形で実行され、そして成功した。
彼は本当の意味での自由を得て、見返りとしてローレットはフォルトゥーナの偽らざる情報を得ることになったのだ。
「フォルトゥーナには、別の下層域から人が移動するための門と、外部から直接物資を搬入するための門。そして『中層へ入るための門』があるんだ」
ケリーはそう語り、至東へと視線を送った。至東は頷き、彼のスケッチブックを出してきた。
大きな両開きの門で、優れた聖銃士が出入りしているという。
聖銃士たちの特徴を書いた図を見て、アーリア・スピリッツ(p3p004400)がぽつりともらす。
「クリムゾンクロス……『オンネリネンの子供達』に混じって傭兵活動をしていた聖銃士たちねぇ」
人相のうちの一枚は、とろけるような笑顔の少年。エヴァ=フォレノワだった。
アーリアたちは先んじて、エヴァとマルコという兄弟をフォルトゥーナから『連れ帰る』という依頼を受け潜入していたことがあった。
マルコは病気がちなエヴァの幸せのため、イコルをわざと摂取せぬまま兄弟であの地区に暮らし続けていたという。しかも、イコルの製造に携わるという形でだ。
当然彼はエヴァのそばを離れることを拒み、アーリアたちがなかば拉致する形で秘密教会へと引き渡したのだった。引き渡し先がここだったのは、依頼人である両親が明らかにおかしい考えをしていたためなのだが……。
「エヴァくん。そう……中層への出入りをしていたのねぇ」
クリムゾンクロスには他にアガフォン、イディ、ヴァルラモヴナといった強力な聖銃士がおり、個々人がアーリアたちローレットトップランカーと互角に渡り合うだけの実力をもっていた。それどころか、エヴァに至っては腕を聖獣に変えて襲いかかるという驚くべき変化をみせていたという。
仲間の報告によれば一度完全に聖獣化してしまっていたという話なので、厳密には『聖獣から人型へと変化した個体』というものなのだろう。その現象は、いつか経験した肉腫寄生人間の仕様にも似ている。
「聖獣……」
同じテーブルについて話をきいていた小金井・正純(p3p008000)と三國・誠司(p3p008563)は、同じものを思い出していた。
ある聖銃士と戦った際に、彼の肉体が大きく怪物のように変貌したことを。
「それがイコルによる作用……いいえ、フォルトゥーナでの実験なのだとしたら」
「うん。あの戦いから逃げたセルゲイが、彼らに回収されていると考えた方が自然だ」
その横で、スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は考え込む仕草をした。
「バイラム神父……確か、周辺の村でも実験の痕跡があった、よね。聖獣と人間、ふたつの形態をもつ怪物を使った実験……」
少し前の話。ウェールチットという村の住民が一人残らず殺されたという事件の調査に赴いた時のこと。
入念な調査によって、その影にファーザー・バイラムと聖獣の影があったことが分かっていた。
「私も、あれから自分なりに調べてみたの。確かにあれは実験だったけど、同時にスカウトでもあったのかもしれない」
聖獣化をおこしながらも人間形態を維持できた者などそうそういないだろう。(でなければ今頃もっと知れ渡って然るべきだ)
「そのセルゲイって人も、同じようにフォルトゥーナへ勧誘されているかも」
ケリーが『それについて』と話を切り出した。
「『セルゲイ』という名前は、僕も聞いたことがあるよ。フォルトゥーナに出入りしていた聖銃士様がその名前を出していた。自分達の仲間に勧誘するつもりだと。
もし『勧誘』が上手くいかなければ保険があると言って……」
言いよどむ彼の背に、至東がそっと手を当てる。
「イコルの製造所には、天義の異端審問官が捕らえられていたみたいだ。名前は、そう……『神の鉄槌』メディカ」
「――ッ」
奇しくも、というべきなのだろうか。
それともこれこそが、たぐり寄せた必然なのだろうか。
メディカ。それは、アーリアの妹の名であった。
●行き着く先は闇か泥か
セルゲイ・ヨーフという青年がいた。
少年と言っていいほど若く、誠実で、そして悲しいかな病弱だった。
弟セダはそんな彼を慮り傭兵仕事をこなし、いつしか聖銃士の称号を得て、そして悲しいかなローレットに討たれた。
彼らが世界の平和のためと信じ、正義のためと信じて従事した通称『浄化作戦』は旅人たちを無差別にそして効率的に抹殺するというものであったがためだ。
アドラステイア上層部にあるという組織『新世界』の基本思想である、『旅人への憎しみ』はそのまま教義となり、魔種が生まれるのも滅びのアークが溜まるのも、世界の全ての悪逆はウォーカーにより外来したものだと彼らは信じていたのだ。
「そのはずだ。少なくとも、セダはそう信じていました……」
頭に包帯を巻き、潰れた片目の代わりに赤い宝石のような異形の目がぎょろりと動いている。
身体の半分は白銀の怪物へと変貌し、異形の片翼が彼の身をマントのように包んでいた。
彼こそが、『撃鉄の聖銃士』セルゲイ・ヨーフ。
そんな彼に温かいタマネギのスープを与え、優しく肩を叩く者がいた。
「間違いないとも。君は弟君の栄誉をその身で守り、そしてさらなる高みへと上らせたさ」
赤い髪と、煌びやかな衣装。舞台役者のように声を張る彼の名は『赤壁の聖銃士』アガフォン。
ドラム缶にたいた火は闇夜を照らし、周囲ではぼろ布を着た子供達が清らかな表情で祈りを捧げている。
フルシチョフカ型の粗末な集合住宅に挟まれた広場には腐敗したゴミが散乱し、道の端ではほぼ白骨化した子供の死体が横たわっている。にも関わらず、子供達の表情は清らかだ。
「見たまえ、この世界の醜さを。イコルを飲んで優しい夢を見なくては生きて行かれぬ世界さ。
旅人たちがこの世界に悪を持ち込み、おとぎ話でしかなかった魔種を現実のものとし、天義という国すら飲み込んで不幸をまき散らしたために生まれた世界……。
僕らは、そのために戦う聖なる剣となれたんだ。それも、特別なね」
アガフォンがそっとセルゲイの赤い宝石となった目に手を伸ばす。
「美しい色だ。今の君ならきっと、ファーザー・バイラムも受け入れてくださる。僕たちのように、プリンシパルになれるんだ」
セルゲイはぎょっとして、身体をびくつかせた。そして、喜びに頬を染める。
「私が……プリンシパルに?」
場面は変わり、天義国のあるカフェでのこと。
リルテア=ブライトストーンという女性が席に着き、『隣り合った別のテーブル』にヨハン=レーム (p3p001117)がついていた。
彼らは視線を合わせぬように、まるで偶然居合わせただけの他人のようにしながら、そっと資料を受け渡す。
「『新世界』が再び動きをみせつつあります。虚を突くなら、今でしょうね」
「…………」
ヨハンが資料を開いてみると、実験区画フォルトゥーナという場所について書かれていた。
アドラステイア下層域にあり、中層域への扉もあるエリアだ。
もしこの場所を攻略できれば中層への調査もやりやすくなるだろう。
「そんな派手なことをして大丈夫ですか? 相手だって、フォルトゥーナが攻略されたと知れば門を封鎖するはずです」
「でしょうね。しかし相手が動くということは、内部に居る者も動きやすくなるということ。水は流れてこそ毒が回るのですよ、ヨハン」
う、と言葉に詰まってヨハンはコーヒーに口をつけた。
門を封鎖する工事にあわせて、秘密の通路を作ってしまおうという算段だろうか。いや、リルテアという『極めて優秀なスパイ』のやることだ。もっと緻密な考えがあるのだろう。そして、こちらに伝えない意味も勿論あるのだ。
「私は引き続き、『新世界』への潜入を続けます。水を流す役割は任せますよ。天義の聖騎士たちがじきにローレット(そちら)へ依頼を出すはずです」
「わかりました」
資料をしまい、ヨハンは席を立つ。
「いずれ必ず、アドラステイアの頂点を討つために。この巨悪を払いましょう」
- <ディダスカリアの門>実験区画フォルトゥーナ完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別長編
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2022年01月25日 21時35分
- 参加人数30/30人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 30 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(30人)
リプレイ
●『ぬいぐるみいっぱいのジェリービーンズを』
小さな扉が開く。妖精たちの踊る美しい楽園都市が広がる。
そのように……子供達には見えていた。
「ようこそいらっしゃいました、マザー・リーナ」
少年が満面の笑顔でそう言った。
上半身に何もまとっていない、ボロボロの半ズボンをきただけの薄汚い少年だ。さしものマザー・リーナ……もとい『合理的じゃない』佐藤 美咲(p3p009818)でさえ、内心では顔をしかめ『これはない』と首を横に振るほどだ。
だが美咲はそんな気持ちをおくびにも出さず、ありがとうと微笑みを浮かべた。
この日のためにこしらえたシスター服と巧みな変装術。そしてアドラステイア内での経歴をでっちあげるという普通に考えれば不可能な潜入術を、彼女は達成していた。
更には、仲間の一人を自らの供回りとして潜入させるにいたるほど。
「…………」
頭を黒子のような布面で覆った『微笑みに悪を忍ばせ』ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)が、美咲の後ろについて背をまるくしながら歩いて行く。
後ろでしまった扉にはかんぬきがかけられ、そんな門の左右には腕を六本もつ白色の天使像がたっているのが見えた。
否、像ではない。首のない人型のそれは、生きているようにどくどくと身体にはしる太い血管のようなものを脈打たせていた。
両手には槍を二つずつ持ち、頭がないにもかかわらずこちらに僅かながら警戒の意思を向けているのが肌で感じられた。
(あれが、聖獣? これまでの個体に比べればはるかに『それらしい』ではありませんか)
ウィルドは心の中で呟き、そして改めて周囲を観察した。
美咲について歩いて行けば、街のいたるところに餓死寸前の子供が倒れているのが見える。地面に投げ出された脚や手を、まるで目にも入らないといった様子で踏みつけて笑顔の子供達が往来をゆく。これが『イコル』とやらの効果なのだろうか。
「美咲さん、現物は」
「ここに」
フォルトゥーナへ立ち入る際、子供であればイコルの摂取を事前に求められる。
シスター(大人)に扮していたためにそれは免れたが、イコルを配布する担当者から現物をスリ取ることに美咲は成功していた。
既にローレットはそれなりの数を回収しているとは聞くが、仮にイコル工場が燃えてなくなった際に貴重な資料として残ることになるだろう。念を入れて困ることではない。
ウィルドは青白い錠剤を手に小さく頷くと、地面を這い回っているネズミの一匹をファミリアー能力によって使役した。門の外で待機する仲間へ、開放の知らせをだせるようにと。
準備ができたことをサインで知らせると、美咲は優しい笑顔でバスケットを開いた。
「さあ、聖なる子供達。シナモンクッキーはいかが?」
何十年もまえからそうしてきたかのようになめらかな口調で言うと、美咲は『ありがとうございます』と言って集まる子供達にクッキーを手渡し始めた。
(イコル工場やジェニファーの居場所……アタリをつけたい要素はいくつもあるっスからね……)
美咲は甘いシロップに毒をまぜるかのように、子供達に問いかけを始めた。
●『スイートスイート、ストロベリーパイ』
美咲たちとはタイミングを別にして、ケリーを中心とした一団がフォルトゥーナへの入場を許されていた。
「おかえりなさい、ケリー。そして新しい同胞の皆さん」
金髪のあどけない顔をした少女が、ケリーと『suminA mynonA』観音打 至東(p3p008495)、そしてウィンブルとヴェールで顔を隠した『永久の新婚されど母』マグタレーナ・マトカ・マハロヴァ(p3p009452)たちへ青白い錠剤を手渡してくる。
事前にイコルに対する対抗薬を服用していた三人は、言われるままに錠剤を飲み込んだ。
リーディング検査をしてこないということは、対抗薬の存在がまだ知られていないか、あるいは罠か……。
(いずれにせよ、踏み込んでゆくほかありませんね)
ケリーから事前に、フォルトゥーナ内では巡回している聖獣がリーディングによる無差別検査を行うことがあると聞いていた。
対策としてばっちりペルソナを備えているのは、流石至東と言ったところである。
一般的なシスターへの変装を済ませたおかげか、彼女が以前ケリーを『浚いに』やってきた人物だとは知られなかったようである。
(お兄様は『僕ら』という言葉をお使いになりました。ならば、私はお兄様が本懐を遂げられますように……)
行動の是非も、その善悪も、決めるのはいつも己自身であり自身の課題だ。そこへ立ち入ってはいけないと、至東は考えていた。
だから、やるべきことはひとつだけ。
『今だ』と唇の動きだけで知らせてきたケリーに頷き、至東は門にロックをかけようとしていた少年へと剣を抜いた。
バイオリンケースに偽装していたケースを蹴るように開くと、飛び出た抜き身の刀をそのまま少年の肩へと突き立てる。
そばに控えていた門番係の聖獣がその姿をペネムタイプへと変え、槍でもって即座に至東へと襲いかかる。
が、自らの胸へと集中した四本の槍を彼女はもう一本の刀で払いながら飛び退き、回避した。
「お兄様、門を!」
「分かってる!」
ケリーは力一杯門を押し開き、そして外に控えていた仲間達へと呼びかけた。
慌てて門を閉じにかかる子供達だが、猛烈な勢いで突進した『波濤の盾』エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)を止めることは悲しいかなできなかった。
斧を開いた門のスキマから差し入れ、門へ近づいた聖獣たちへと『メチェーリ・スナリアート』を発射。
子供達は攻撃から逃げるように走り、代わりにペネム、ケルベロス、バクタムといったタイプの聖獣が集まってくる。
門をこじあけたエイヴァンは吼えるような声をあげ、バクタムへと身構える。
(ここいらにいる聖獣も、元々は……そういうことなんだろうな。
だからと言ってこのままにしておくわけにはいかん。
せめて安らかに眠れるよう、終わらせてやるしかないな)
飛びかかってきたバクタムが牙を剥きだしにするが、斧砲『白狂濤』による大上段からの一撃でエイヴァンは迎え撃った。
地面へと叩きつけられ、潰されるバクタム。
その様子に何も思わないエイヴァンではないが、もっとかかってこいとばかりに咆哮を更にあげた。
ケルベロスから浴びせられる電撃を、牆壁『摧波熊』を構えることで防御。吹き出た水蒸気を巨大な氷の盾にかえ、衝撃をうけとめた。
雷の槍が次々と突き刺さり盾を貫通。一部は腕にまで刺さるも、エイヴァンが盾を取り落とすことはない。
「こっちは俺が受け持つ。『そっち』は頼むぞ」
エイヴァンがあえて背を向けた先には、芋虫型の白い聖獣ハッピーバースデイが側溝から這い出ているのが見えた。
侵入者たちを拘束し、その間にペネムたちの力で門を無理矢理閉めてしまおうという考えだろうか。
であれば――
「阻止しなくては、ね」
「さぁ、皆さん行きましょう! 我々の義を押し通す為に――!」
ザッと滑り込むように立ち塞がったのは『白き寓話』ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)と『勇往邁進』リディア・T・レオンハート(p3p008325)のコンビであった。
(アドラステイア、話には聞いていましたが――人は、このような国を、作れてしまうものなのですか……? 一体どうして、何の為に……?)
吹き上がる疑問は、しかし剣とともに振り払う。
「飲み込み切れない部分も多々ありますが、今はただ、聖剣騎士団が一翼『スコフニュング』の名の下に、この戦場を切り拓きましょう……!」
吹き付けられる糸を断ち切り、キッと子供達へと呼びかける。
「我が名は、リディア・レオンハート!
貴方達の命を奪う事は本意ではありません! 投降者は受け入れます! 決して命を無駄にしないで!」
多くの子供達は逃げだし、一方で聖獣たちが率先してリディアへと襲いかかる。
いびつだ。『オンネリネンの子供達』のように少年兵が投入される場面もあれば、怪物がまるで街や子供たちを守ろうとするかのように立ちはだかるこのような場面もあるのだから。
ヴァイスは目を細め、襲いかかってくるハッピーバースデイめがけ暴風の力を叩きつけた。『薔薇に茨の棘遂げる』というヴァイスの秘術である。自然界のエネルギーをそのまま圧力(プレッシャー)として叩きつける術によって、ハッピーバースデイが壁へと叩きつけられた。
(……ふむ。ううん……そうね。子供たちが悪い大人に搾取され、果ては人を捨てさせられている……そういう風にしか、今のところ私には見えないのよね。
でも、真実を知るために刃を取るというのは皮肉なのかしら……この手で子供たちに傷を負わせる結果になるとしても、進まないといけないわ)
次なる衝撃でトドメを――とエネルギーを集めたその時、巨大な氷の槍が飛来した。
反応しきれなかったヴァイスにかわり、リディアが割り込んで輝剣リーヴァテインで防御。しかし防ぎきれなかった衝撃によって、二人はまとめて門のそばまで吹き飛ばされてしまった。
「ヴァイス、リディア!」
呼びかけるエイヴァンにケルベロスが食らいつく。援護に向かうのは難しそうだ。
なんとか起き上がったヴァイスは細く息を吸って意識を自分につなぎ止めた。そうでなければ頭をぶつけたショックでとんでいってしまいそうだった。
「さて、リディアさんはまだいけるかしら? あまり無理はしてはいけないわよ」
「当――然!」
仰向けに倒れた姿勢からぐいっと両足をあげ、蹴り出す勢いで軽快に立ち上がってみせるリディア。重い剣を持っているというのに驚くべき俊敏さだ。
対して、氷の槍を叩きつけてきたであろう相手は眼鏡を中指でちいさく突くように位置を直すと、ヴァイスたちを見て眉間に皺を寄せた。
「おぞましき魔女どもめ、善良なる同胞をたぶらかし、ついには聖なる門まで破ろうというのか。醜悪! 卑劣! そして傲慢!」
手にした杖を水平に振ると、無数の氷の槍を作り出す。
「我が名は『晴天の聖銃士』ヴァルラモヴナ! 悪しき魔女を討つ者なり!」
次に打ち込まれれば厄介だ。が、放つ寸前に飛び込んでいった『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)の拳がヴァルラモヴナの顔面へとめり込んだ。
ノーガードであったヴァルラモヴナが吹き飛び、開いたばかりの門へと激突。
イグナートは素早く距離を詰め、咄嗟に氷の盾で防御したヴァルラモヴナ――をあえて無視して門の鍵穴にあたる部分を掴み、恐ろしい握力でもって握りつぶしてしまった。
「子供をギセイにして出来上がってる楽園なんてその内にぶっ壊してやろうと思っていたんだ! 今日はアバレるよ!」
「利用だと!? 魔女が言いそうなことだ! 溢れんばかりに孤児を出しパンのひとかけらすら与えなかった天義のな!」
「オレは天義のニンゲンじゃあないんだけどね」
ヴァルラモヴナの憎しみに満ちた目はイグナートをとらえ、発射しそびれていた氷の槍の狙いを彼へとシフト。一斉発射した。
イグナートはキュッとピボットターンをかけて槍へ向き直ると、固く握りしめた拳でもって飛来する槍の全てを打ち砕いた。
といっても、拳から血が出るほどに痛みは走るのだが……。
イグナートは細く息を吐き出すと、気合いを込めた拳で門を今度こそ破壊した。
「これが現実だ! こんなものが本当に聖なる力が作り出した光景か!? 自分の手を汚すカクゴもないヤツが戦場に立つんじゃない!」
「魔女め……!」
ギリッと歯がみし、さらなる攻撃を放とうと氷の槍を作り出すヴァルラモヴナ。
イグナートが、そしてリディアとヴァイスが、聖銃士ヴァルラモヴナへと襲いかかる。
その一方で、至東とケリーは聖獣たちに囲まれつつあった。
飛来する槍。
しかしケリーへとそれが刺さるより早く、ぱしりとマグタレーナの手によって掴まれた。
満を侍して、と言い換えても良い。
「なるほど。事情は理解しました」
マグタレーナは掴んだ槍をくるりと回し、敵対していたペネムめがけて投擲。と同時に己の魔力をやりに込めた。
筋力にはいささか弱いマグタレーナのこと。ペネムは槍を容易にたたき落とした……はずだったが。槍に触れた途端その手の先から順に肉体が腐敗し、たちまちのうちに崩れてしまった。
そこでやっとフードを外し、身体を覆っていた偽装シスター服も脱ぎ捨てるマグタレーナ。黒い喪服のような美しいドレスが露わとなる。
「ケリーさん。わたくしもまた、貴方の行為を是非を問う立場にはありません。
ただ己の心に問いかけ、そして出した結論であるならば。その心の自由なる在り様を、そして己の保身ではなく家族の為に行動する姿を、わたくしは肯定するものです」
と、そこまで言ってからケリーと至東の関係を今一度観察しなおしてみた。
一度顔を合わせただけの男女が、亡命直後から兄弟姉妹となり同じ家で暮らしているという。色々な考えが回るなり分岐するなりしたところで、『深く考えないほうがよいのでは』と考えを打ち切った。
なにも、血のつながりだけが家族ではない。それを、ある意味では一番知っているマグタレーナである。
折りたたみ式のライトクロスボウをドレスのスカート内から抜くと、レバーを握りブンと一振りすることで展開。ガチンと固定され張った弦に素早く矢をつがえると、そこに魔力を込めていく。
右に一体、左に一体。囲まれてはいるが、背後で至東たちが戦っている。他の仲間も続々と門に集まり、深部へ突入する部隊も既に展開済みのようだ。……ということを仲間の足音やその反響だけで確認すると、仲間の道を塞ごうと展開するペネムたちめがけて魔力の矢を解き放った。
冷たい絶望の呪力を爆発させた矢が、彼らにあらぬ幻を見せる。倒しきることが目的ではない。足止めこそが目的だ。
「わたくしたちの役目はここまで。あとは、ケリーさんを安全な場所までお送りしましょう」
マグタレーナはケリーと至東へ合図を出すと、門の外へと走り始めた。
●『ウミガメのスープ』
美咲が華麗に集めた情報を使って、『進撃のラッパ』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)、『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)、『医術士』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)の三人はフォルトゥーナの深部へと潜入していた。
門周辺の広場や、子供達が密集して暮らすフルシチョフカ群よりも更に奥。イコル工場を挟んでまた更に奥へと進んだ所に、大きな門がある。
「『ディダスカリアの門』……」
フラーゴラは呟いた。ゆらぎの人化によって変装し、更には足音や息すら殺してこの騒ぎの中を進んできたのだ。
町中の聖獣たちは外からの敵を撃退すべく動き出し、警備のために巡回していた聖獣は特にその動きが早い。が、だからこそレーダー系の能力を行使されることなくすりぬけることができたと言えるだろう。
イーリンは専用のシスター服を着て、門を同じように見つめる。
以前フォルトゥーナへ潜入した時の報告書によれば、地区の奥には門があるということだったが……。
「これが、中層への入り口になっていたとはね」
今回のフォルトゥーナ襲撃は陽動であると同時に、この門をアドラステイア中層側が封鎖処理することを狙いとしていた。
「お師匠先生、封鎖しちゃったら通れなくなるんじゃないの?」
「人の手が入るってことは、『人の手を入れられる』ってことでもあるのよ。内部に潜入してる連中が抜け道を作るチャンスだわ」
封鎖処理がされていないなら厳重な警備を突破する必要があるが、封鎖されているとかえって警備が緩くなるものである。
その抜け道が使い物になるか否かはともかく、この陽動作戦は大きなチャンスなのだ。
「まあ……陽動作戦に乗じたのは私達も、だけれど」
イーリンがちらりと見ると、潜入用のシスター副を着たココロが胸に手を当て、深く呼吸を整えていた。
何を……誰のことを考えているのか、手に取るように分かる。
(ジェニファー、なぜ待ってくれなかったの。いや、わたし達が遅すぎたのかも……。
彼女の憎しみの根源、それを広げるものはあの扉の向こうにある。あの子を救いたい。だから……)
救うことも殺すことも、どちらもエゴなのかもしれない。
けれど、指をくわえて見ていることなんてもうできない。
「今、取り戻さないと」
振り返る。情報の通りだ。
近くの建物から二人の少女が飛び出してくる。
「急いでジェニファー! もう、あなたを浚われるなんて――」
ぴたりと足を止める紫髪の少女、マリリン。
彼女は赤い両手剣を抜き、ココロたちへと構えた。
「やっぱり、狙いはこの子ってわけね。絶対に渡さない。あなたたちの手におちれば、どんな目にあうか……」
『それはこちらの台詞だ』、などという水掛け論はしない。
「ココロさんの目を見て、話を聞いて!」
ライオットシールドを構えると、そのままフラーゴラはマリリンめがけてシールドバッシュを仕掛けた。
そこへさらなる攻撃を重ねるイーリン。振り込んだ『紅い依代の剣・果薙』から紫の力が波のように溢れ、マリリンへと直撃。フラーゴラのタックルを剣で受けようとしていた彼女はそのまま吹き飛ばされ、建物の壁に肩と頭をぶつけた。
「ねぇマリリン、ジェニファーにはここの臭いのほうが似合うと思う?」
「魔女の、いうことなんて……」
頭から血を流し、唸るマリリン。
その様子を、ジェニファーは固い表情で見つめていた。
「ジェニファー・トールキン」
ココロの呼びかけに、振り返る。
ジェニファーはマスケット銃をとり、ココロへと狙いをつける。警告も威嚇もしない。すぐに発砲した。
ココロは貝殻状の魔力障壁を展開し、銃弾を防御。武装が万全でないからだろう。ジェニファーの弾は簡単に弾くことができた。
「あなたが何を信じようが構わない、でもわたしも信じてよ! あなたを好きなわたしの事を!」
もう一発――が放たれる前に、ココロは魔力障壁をそのまま力に変換。強烈な炎の魔術を解き放った。
攻撃を防ごうと翼を丸めるが、ココロの力を押しとどめるには不十分だったようだ。
同じように吹き飛ばされ、マリリンのそばへと転がる。
「ネヴィア……」
ジェニファーはマリリンへ手を伸ばし、マリリンはその手を握る。
「離さないから。大丈夫、ぜったい……」
微笑むマリリン。こうなれば無理矢理にでも連れて行くしかない。そう考えフラーゴラたちが近づこうとしたその時。
「そうとも!」
よく通る声が、した。
それも。
門の向こうから。
「その手を離してはいけないよ。ましてや、美しいこの世界を穢す魔女などに渡しては」
ディダスカリアの門が開き、その向こうから姿を見せる少年。
「アガフォン……」
イーリンは彼の名を呼び、アガフォンは『やあ久しぶり』と舞台役者のような笑顔で挨拶をした。
カランビットナイフを手に取り、魔法の炎をあげる。
「あなた、現実を理解して役を演じているわね? それと……ジェニファー、あなたもよ」
イーリンはそう言って、この『妖精も七色の光もない』街の様子を見回すしぐさをした。
ドレスと呼ぶにはあまりに汚すぎるぼろ布を纏い、みすぼらしい姿をしたマリリンが壁によりかかり血を流している。
ジェニファーは彼女の手を握ったまま、目を瞑った。
「まったく、役割が多くてこまるわね」
イーリンはアガフォンへ呼びかけるようにしながら、そして構える。
『ここは任せて先に行け』と、イーリンの背が言っていた。
フラーゴラはマリリンを抱え、ココロはジェニファーを立たせた。意識をもうろうとさせたマリリンはともかく、ジェニファーは抵抗しなかった。
黙って、そしてうつむくジェニファーへと語りかける。
「私を信じて。信じさせて、みせるから」
●『理髪店下のミートパイ』
イーリンとアガフォンの戦いは苦戦を強いられた……と述べるとやや不適切かもしれない。
ローレットのなかでも高度な戦闘能力をもつイーリンと互角かそれ以上に戦う聖銃士アガフォン。更には彼の下についていた少年兵ら、加えて戦闘を察知した近くの聖獣たちが集まってきたことでもはや絶望的な状況に陥っていたのだ。
だが本当に絶望するかといえば、そうではない。
(さて、悍ましきかな実験区画。我の興味を惹くようなとっておきの悪趣味があるといいのだが。ヒヒヒヒヒ!!)
一足遅れはしたものの素早く駆けつけ、強引な割り込みをかけて聖獣バクタムの牙を腕でうけた『闇之雲』武器商人(p3p001107)。
更にペネムから放たれた槍やケルベロスの雷撃が浴びせられるも、武器商人は笑いながらそれらをうけとめていた。
そこへ少年兵たちが次々に群がり、剣で斬りかかっていく。
本来なら倒れて然るべき状況にもかかわらず、武器商人は笑いながら立っていたのだ。
「まさか……不死の魔女か!?」
「冠位魔種だって死ぬんだ! そんな存在、いるわけがない!」
少年兵の一人がナイフに必殺の力を込め、斬りかかる。
「おや」
種こそわれたが、これは受けるわけには行かない。武器商人は少年のナイフを手首を掴むことで止め、至近距離から即死級の魔力を解き放った。
膝から崩れ、顔から倒れる少年兵。
武器商人の目的はジェニファーの回収支援である。より厳密に言えば、一人で残ろうとしたイーリンのタンク役になることだ。
そして助けに現れたのは、武器商人だけではない。
(司書さんとフラーゴラさん……そして、大好きなココロさんの望みがここにあるのなら)
複数のファミリアーを並行運用していたことで周囲の状態を誰よりも深く察知していた『嫉妬の後遺症』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)が、武器商人へと群がる少年兵たちを心の魔法で振り払った。
そして、アガフォンとの戦いで消耗しきったイーリンへと駆け寄る。
「一人で戦うなんて無茶だわよ」
『調和の陽光』によってイーリンの体力を回復させつつ、アガフォンへと向き直る。
無茶とはいったが、気持ちはわかった。自分がこの場にいたならきっと同じことをしただろう。
「ココロさんの分まで仲間の回復を頑張るのだわよ」
緑の瞳に炎の心を燃え上がらせ、歌の魔法を解き放つ。
呪縛し蝕む茨の形を成した嫉妬の発露が、アガフォンめがけて襲いかかる。
「美しい心の形だ。見とれてしまうよ――君がおぞましき魔女でなければどんなによかっただろう」
アガフォンは悲しげに笑うと、次々と突き刺さるトゲのごとき力をうけながら直進。イーリンをかばって立ち塞がる華蓮へと逆手に持ったカランビットナイフを繰り出す。
刺々しい心を具現化したかのような魔力障壁をもってナイフを止める華蓮。
障壁を突き破り無理矢理に伸ばしてきた手を、がしりと真正面から掴んで止めた。
指を絡めるかのように互いに握り、そしてアガフォンの手からは魔法の炎が、華蓮の手からは大量の茨の幻が飛び出し互いの肉体をむさぼるように破壊していく。
そこで初めて、アガフォンはギッと苦しげに歯を食いしばった。かなり相手も追い詰められているのだろう。
一方で、防御性能の恐ろしく高い華蓮であってもアガフォンの炎を無限に耐えられるわけではない。イーリンが必殺の魔法を解き放つその瞬間まで、こちらも歯を食いしばって耐えた。
結果として、耐える価値は充分にあった。
合図の声がして、華蓮はアガフォンを突き放して飛び退く。紫の衝撃がかすめて、アガフォンへと突き刺さった。
ジェニファーたち、もといココロたちが門の外まで撤退するためのルートが必要だ。
更には、仲間達がイコル工場へと突入するためのルートも。
それらのちょうど中間にあたる場所では、『斬城剣』橋場・ステラ(p3p008617)と『水月花の墓守』フリークライ(p3p008595)が戦っていた。
「聖獣……在リ方 歪メラレ ヒトトシテ 死ネナカッタ者達。
ヒトトシテハ モウ死ンデル者達。
ナラ 墓守トシテ ソノ死 取リ戻ス。
カツテ ヒトデアッタ者達トシテ 眠レ」
真正面から殴りかかるペネムの攻撃を、フリークライはその頑強なボディで受ける。そして両腕をドンと相手のボディに押し当て、腕の水晶を強く発光させた。
広がった青白い魔方陣は腕に沿って直列方向に連なり広がり、そして幾重にも重なった所で一気に圧縮した。
魔力を超圧縮して放たれた衝撃はペネムのボディを粉砕。両脇が円形にえぐれる形で、その場に溶けるように崩れていく。
一方のステラは、特別なシスター服を靡かせながらケルベロスによる雷撃を防御。両手にはめた赤と青の宝石指輪(ジュエリー)を輝かせると、相手の雷撃を受け流――さずに、あえてまっすぐ突っ込んでいく。
「今までに何度かオンネリネンの子達絡みのお仕事を引き受けましたが、いよいよ大きく動きますね。それでは――」
身体が激しく破壊されるが、だからどうしたとでもいわんばかりに魔力を腕に込め、ケルベロスのボディめがけて掌底を放つ。ズドンと杭でも打ち込むように放たれた衝撃はケルベロスの肉体をおおきくへこませ、それのみならずまっすぐに吹き飛ばす。
「盛大にノックするとしましょう」
僅かしかいなかった少年兵たちはすぐに逃げだし、あたりは聖獣ばかりだ。
アドラステイア……とくに『オンネリネンの子供達』には少年兵のイメージが強かったが、ここフォルトゥーナの主力は聖獣であるらしい。
「――」
フリークライが『このまま持ちこたえられそうか?』といったような視線を向けてくる。が、ステラはそれに対して小さく首を横に振った。
「いいえ。そろそろ出てくる頃です。とっておきの聖銃士が」
ステラは予期していた。より正確に言うなら、『そう来なければおかしい』と考えていた。
だから両手の指輪に力を流し、片手に青光の剣を、もう一方の手に赤光の剣をそれぞれ作りだし、振り向きざまにクロスした。
ガギン、と鋼のパグナウがクロスした剣にぶつかり止まる。
あまりの衝撃にステラは吹きとばされそうになった。実際両足は地面から離れ不安な浮遊感が彼女の背筋をぞわりとさせたが――背中にとんと当たるものがあった。フリークライの身体だ。
フリークライは自らを壁にしてステラをとめると、両手を翳し聖域化の魔法を発動。ステラの身体を青白い光が皮膜のように包んでいく。
「コノ 相手 聖銃士。情報 読ンダ」
フリークライは記憶をたぐるかのように目の光を明滅させ、そしてカッと光らせる。
「『白磁の聖銃士』イディ!」
「ン」
イディはステラを突き飛ばすことに失敗したと即座に察して、両足で彼女の剣を蹴る形で距離をとった。
獣のように両手のパグナウと両足を地に着け、グルルと小さくうなりさえしてこちらを見ている。
小柄な身体だが、大鎧に身を隠し頭はこれまた獣めいたかぶとで覆っているので、視線がこちらにきているのかはわからないが……。
「どうやら、私達は強敵を引き当ててしまったようですね」
地を蹴るイディ。同じく地を蹴るステラ。
イディによる凄まじい速度の連撃を『あえて防御せずに』ステラは光の剣を鋭くイディに突き立てた。大鎧の装甲を貫き、相手の身体へと突き刺さる。背から貫通するほどではなかったが、強引にふりまわし投げることに成功。イディは血を散らしながら地面をころがった。
ステラはといえば、軽く死にかけすらしたがフリークライが全力でかけてくれた治癒の魔法によって身体のあちこちにできた深い傷を塞いでいく。
「なん、とか……」
荒く息をするステラ。その横を、仲間達が駆け抜けていく。彼らが目指すはイコル工場……。
●『黄金の杯と赤ワイン』
怖くないと言ったら嘘になる。
会いたくないと言ったら、それこを嘘だろう。
まぶたを開けた『彼女』が自分をどんな目で見るのか、怖くて怖くて仕方なくて。
けれどまた一緒にいたくて、仕方なかった。
だから。この扉は自分の手で開けるべきなのだ。
「お姉ちゃんが、助けるから」
開かれた両開きの扉の先には赤い絨毯がのび、両サイドには木製のベンチが並んでいる。
そこは教会のチャペルめいていて、奥の台には極めて一般的な牧師風の男が立っている。
違いがあるとすれば色の薄く丸いサングラスをしていることくらいで、聖書に目を落としていた。
外の騒動も、乱暴に扉を開いたことも、分かっているだろうに。
「おや、おや……」
顔をこちらへと向ける。
「ファーザー・バイラム」
と、誰かが言った。
バイラムはこちらを見てにやりとだけ笑うと、奥の部屋へと歩いて行ってしまう。
追いかけようとした仲間達を、ローブを纏った少年がふらりとベンチから立ち上がることで止めた。
より正確に言うなら、腕を巨大な芋虫の怪物に変えてベンチから上の空間をまとめてなぎ払ったのである。
真っ先に飛び出したのは『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)だった。
(ああ、流石アドラステイア、おびただしいほどの少年たちの若い精気を感じます。天国はここにあったのですね? ……なんてね)
利香は内心で苦笑しながら魔剣グラムを構えると、芋虫の巨腕による打撃を受け止めた。否。一瞬かそこら止めただけで、利香の身体は思い切り吹き飛ばされ協会の壁へと叩きつけられた。黒と茶色だけで塗りたくられたなんともいえない絵画めいたものがへこみ、利香は壁から転げ落ちる。
酷いダメージだが……飛び出した意味はあったようだ。
利香が止めた一瞬の間に仲間達は下のスペースをくぐり抜け、打撃を回避できていたのだから。
「流石に、芋虫は男の子だろうと範囲外ですよ。
だいたい私にとっての天国なんて、この世の地獄以外の何物でもないわ。
潰しましょう、この狂った街を跡形も無く」
口から漏れる血をぬぐって立ち上がり、視線をめぐらせる。『人助けセンサー』をはしらせたのだ。距離的に考えて、そろそろ『彼女』を感知できる範囲にはいったとはおもうが……。
(まさか、この期に及んで助けを求めない? 全く……)
利香は鋭く名を呼んだ。
「一気に焼き払うわよ、クーア?」
「はい。私の全身全霊に、否が応でも付き合っていただくのです!」
打撃を回避しすりぬけていた『めいど・あ・ふぁいあ』クーア・ミューゼル(p3p003529)は地面に手を付け、ネコの爪でもたてるようにギッとすべらせる。魔法の爪は火花を散らし、火花は揮発した魔法成分をとらえ炎となって燃え上がる。
「何に救いを求めるかなど、それこそひとの勝手……ではあるのですが」
(それを言い出したら、私の望み齎す焔色の末路など、一般には悪逆と呼ばれるもののようなのですし)
途中の言葉を心の中だけでとなえ、クーアは飛び出す。
「眼前の悪趣味と地獄だけは看過しかねるのです。アドラスティアに牙を突き立てる理由など、たったそれだけで充分なのです!」
炎の尾を引いて跳躍し、スピンをかけるクーア。
炎の爪は少年――エヴァの顔面を狙って放たれ、そしてそれは横から食らいついたもう一本の芋虫によって弾かれた。
利香同様壁に叩きつけられるも、スパンと放たれた剣によって追撃を逃れたクーアは地面を転がりそのまま走る姿勢へとシフト。利香と並んでエヴァへ突っ込むと素早く足払いをかけた。
更に掌底の勢いで炎を放ちエヴァを赤い炎で飲み込んで行く。
「利香ちゃん、クーアちゃん!」
同じくすり抜けていた『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)が魔法を発動しようと手をかざすが、彼女よりも前に出ていた『黒鎖の傭兵』マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)が射線を遮るように手をかざした。その手からじゃらんと鎖が垂れる。
「アーリア。先にやるべきことがあるだろう。行け」
言わんとすることは、誰もが分かっている。
アーリアは小さくだけ頷いて、背を向けて走り出した。
対してエヴァは、炎を振り払い長く伸びた芋虫の両腕を高速再生させると。『にこお』と蕩けるような満面を浮かべた。
「大丈夫だよお、みんな、ひとつにしてあげるからねえ」
うねり、そして背をむけたアーリアめがけて伸びる芋虫の腕。
だがそれはマカライトの放った鎖に止められた。
「折角の姉妹の帰宅、台無しにさせる訳には行かんしな」
ぐるぐると鎖が巻き付き、締め付けるように引っ張る。
「此処の中を見るのは初めてだが……スラム街とか思っていたんだがどうやら誤った認識だったらしい。
コレは肥溜めだ。それも死病やらバイ菌が飛び交う最悪の。地獄に例えるには閻魔様に失礼だ」
マカライトは鎖に特殊な力を流し込むと芋虫の腕を凍り付かせようと霜をはしらせる。
そして、一緒に戦おうとしていた『カモミーユの剣』シャルティエ・F・クラリウス(p3p006902)へと目を向けた。
「一緒に行ってやれ。あそこが安全だとは限らん」
「……わかった、ありがとう!」
シャルティエは剣を抜いてはいたが、マカライトに頷きアーリアを追って走り出す。
複雑に入り組んだ道を走る。元々は貴族かなにかの建物を改築した場所なのだろうか。通路は複雑に入り組み小さな部屋がいくつもある。
迷わず走れているのは彼女の透視能力と――。
「アーリアさん、右だ! あっちの方角から強い感情の発露を感じる!」
同行してくれたシャルティエの感情探知能力のおかげだろう。
アーリアは頷き、もう何枚目になるかわからあない扉を蹴破るように開いた。
そこは……工場だった。おそらくは。
両サイドには巨大な水槽がいくつも並び、血のように赤い液体がごぼごぼと音をたてている。
中央の通路を進むと、その奥に大きな十字架が立っていた。
鉄骨を無理矢理組み合わせたような十字架である。そこに、鎖で縛られる形で吊り下げられたシスターがいた。
彼女の名を、知っている。ずっとずっと前から。
「――メディカ!」
アーリアは掛けより、シャルティエは罠の存在を警戒して彼女と並んで走った。
幸い罠はなく、アーリアは指先に熱の魔法を灯して鎖を切っていく。その間、シャルティエは周囲を警戒すべくアーリアとは逆方向(入口方向)へと剣を構えていた。
やがて鎖が切れ、ずるりとメディカの身体が落ちてくる。へたりこむようにキャッチしたアーリアの……腕のなかで。
「……ん」
メディカは、うっすらと目をあけた。
「二年半。あなたが眠ってから今日までの時間よ」
開いたメディカの瞳に、自分のくしゃくしゃの顔が映って、その瞳の中に大きく見開いたメディカの顔があった。
メディカはびくりと肩をあげ、そしてゆっくりと下ろす。
「なんですか、お姉様。その顔は」
「……だって」
「それじゃあ、謝れないじゃないですか」
メディカの目が、いつものように細く閉じられる。笑っているのか、よくわからない顔だ。
「まずは、ここから出ましょう」
アーリアはメディカを抱えたまま歩きだそう……として、シャルティエが鋭く止めた。
「待って。まだ無理そうだ」
ギイ……と音を立てて扉が開く。鍵ごと破壊された扉だったので、開いたというより外したというほうが正しいのだが。
「泣いてるの?」
あどけない少年の声が、ドアの向こうからする。
とろけるような笑顔の少年……エヴァが顔を見せ、そして、それ以外のすべてを見せた。
首から下は白くいびつな、どうとも形容できないグロテスクな物体の集合体になっていた。
巨大な、それも大量の芋虫が絡み合ったような物体からはうねうねと芋虫がのび、そのいくつかがこちらに頭を向けている。
エヴァがここまで来たと言うことは、仲間達はおそらく……。
「ここは通さない。守るって決めたんだ……!」
シャルティエは意志の力を示すかのように『ナイツブレイズバースト』のトリガーをひき、剣に激しい光を纏わせた。
振り放つ光はエヴァの芋虫を一匹斬り割くに充分だが、それでもとまらずエヴァは巨大芋虫の大群となって迫る。
両サイドの水槽が次々に破壊され、鮮血のごとき波がはじけた。
アーリアは反射的にメディカを抱きしめ、血塗れの部屋の中で――
ズドン、という衝撃の音がした。
壁にあいた大穴から魔法の光が走り、そのままエヴァの身体(あるいは芋虫の大群)を部分的にえぐり取っていく。
「待たせたね」
手をかざし、苦笑するマルク・シリング(p3p001309)が穴の向こうにいた。
防具の法衣はぼろぼろで、あちこち怪我をしているのか血塗れだったが……。
「ごめんよ、突破されてしまった。けど、すぐに仲間が追いつくはずだよ」
シャルティエが『みんなは?』と目で訴えたが、マルクは『無事だよ』とサインをかえした。
ダメージを受けたことでわずかに突撃をやめ、わずかに引き下がるエヴァ。
「泣いて、泣、い、てて、て」
エヴァは笑顔を引きつらせながら、全身をぼこぼこと再生させはじめている。
マルクは魔法のキューブを作り出すとそれを散弾のように発射しつづけながらシャルティエへと並ぶ位置へと移動した。
「こんな見た目だけど、『エヴァ』は手負いだ。あと一息……だから、頼めるかな?」
マルクはちょっとだけシニカルに笑うと、肩越しにアーリアへと振り返る。
アーリアは頷いてメディカを下ろそう……とした所で、メディカは虚空に手をかざした。
いや、虚空ではない。まるで凄まじい磁力でも働いているかの如く、銀のウォーハンマーが彼女の手元へと飛んできたのだ。それをがしりとキャッチし、立ち上がるメディカ。
「お姉様。知らないでしょうけれど……これでも私、とてもこういうことに慣れているんですよ?」
言われて、アーリアは思わず笑ってしまった。
覚えたての楽器を自慢するみたいな口調と顔だったから。
「知っているわ。あなたを待つ時間が、とても長かったから」
メディカはムッとしたようで、目尻だけをぴくりとさせた。
「いいでしょう」
二人並ぶ、メディカとアーリア。
その様子をちらりと見て、マルクとシャルティエはやるべきことを完璧に理解した。
「「さあ、行こう!」」
マルクの放つ魔法の砲撃。更にシャルティエが突撃し芋虫の群れを斬り割くと、二人分の細い道が開けた。
その道を、走り抜けるアーリア。そして、エヴァの頬へと手を伸ばす。
そっと触れた黒い手袋越しに、やさしいまほうが流し込まれる。
びくんと身体をふるわせ、全身の芋虫たちが一斉におとなしくなった。
瞬間。ゴオッという音がした。巨大なハンマーを手にすさまじい速度で走り、跳躍までしたメディカの風切り音だ。
そしてメディカはきわめてシンプルに、とても分かりやすく、ハンマーをエヴァの顔面めがけて振り下ろした。
直前に手を引っ込めて飛び退いていなければアーリアの手ごと潰していたかもしれないが、アーリアは『あらまあ』という顔だけをしていた。
そうなるだろうと、なんとなく分かっていたからだ。
かくして、メディカのハンマーは確実にエヴァの肉体を破壊し、青白い粘液にしてまき散らしたのだった。
「何があったのか、聞かせてくれるのでしょう? お姉様」
頬についた粘液を指ではらい、メディカは笑顔で振り返った。
●『人間がいっぱい』
さて。話を少しだけ戻そう。
貴族の屋敷を改造したであろうイコル工場。教会のチャペルにも似た部屋から黙って歩み去ったバイラムを追うべくローレット・イレギュラーズたちがЯ・E・Dたちが走って行くと、ベルトコンベアの流れる広い部屋へと出た。
普段は多くの子供達が作業をしていたはずだが、彼らの姿はない。
むなしく流れていく青白い錠剤の列があるだけだ。
それらを無視して進もうとした、矢先。
「止まりなさい、魔女よ」
ひとりの聖銃士が、彼らを阻んだ。
白銀の、鷹や鷲のような意匠が施された鎧を纏った聖銃士セルゲイ・ヨーフである。
そうとわかったのは、彼の半身が白い天使のように変化し、いびつな片翼がはえていたためだ。
「なるほど、彼が……」
『盲御前』白薊 小夜(p3p006668)はゆらりと剣に手をかけると、凄まじい速度でセルゲイとの距離を詰め、そして抜刀した。
周囲にあった金属製の配管やベルトが切断され、崩れたそこから白い煙のようなものが噴き出していく。
肝心のセルゲイはといえば、小夜の斬撃を飛び退き、何かの機械の上へと着地していた。
「分別ある大人が己で選んだ道の果てに破滅するならばそれもよし。
けれどまだ世界を知らない子供達を誘惑し破滅の道に誘うなど許せない。許してはならない」
小夜はそうつぶやき、セルゲイへと殺気を向けた。
「これは、私が自ら選んだ道です」
「……嘘ね」
相手の顔を見なくても、いや、見えないからこそわかる。セルゲイの声に含まれた迷いのゆれが。
直後、セルゲイの後ろから『咎人狩り』ラムダ・アイリス(p3p008609)が躍り出た。高所であるにも関わらず、機械翼によって高く跳躍した彼女は魔導機刃『無明世界』を構える。
小夜とはまた異なる高速抜刀は今度こそ確実にセルゲイをとらえた――はずだったが、セルゲイはいびつな翼によって剣を受け止め、振り向きざまに白銀の剣を払った。
「おっと、いけたと思ったんだけどなあ」
素早く飛び退きながらも手を払い、『ダイヤモンドダスト』の魔術を近距離でぶっ放す。
セルゲイもまた飛び退き、先ほどまで立っていた機械が倒壊していく。
ラムダにとってセルゲイは咎人。情状酌量の余地なしと判断して首を落とすつもりでいたが……そこまで至るのにだいぶ手子摺りそうだった。
キッとセルゲイがこちらをにらみ付ける。半分まで聖獣化したことで片目が宝石にかわっているが、あそこを狙うべきだろうか?
「どう思う?」
隣に着地したラムダに問いかけられ、小夜は静かに思考した。
「あの怪物は初めてだから……そうね、そちらはどう? 正純さん」
問いかけたのは、後ろから駆けつけた『燻る微熱』小金井・正純(p3p008000)と『一般人』三國・誠司(p3p008563)だった。
「あれは……随分だな……」
誠司はリーディングを試みてみるが、相手からは強い拒絶の意志しか感じられなかった。耳元で大声で怒鳴られるかのような不快感に、首を振ってリーディングを停止させる。
一方で、正純は弓にてをかけつつセルゲイをじっと見つめていた。
いろんな事を思い出したが、最初に思ったのは自分が殺した聖銃士のことだ。彼の弟のことだ。
名も知らず殺した、子供のこと。
「彼に、肉体的な弱点はあってないようなものでしょう。倒そうと追い詰めればそれを克服するように変異します。だから、仮に突破口があるとすれば……それは」
「『心』」
小さく唱えた小夜に、ラムダが『ふうん』と返事を返した。
「なら、私達の役目は呼びかける時間を稼ぐことね」
行くわよ、と小さくラムダに呼びかけてから小夜は再びセルゲイへと斬りかかる。ラムダもまた別方向から回り込むように斬りかかり始めた。
「セルゲイ!」
キャノン砲を撃ちまくりながら、誠司が叫ぶ。
「憎しみにとらわれたって構わない。
人の心ってそんな割り切れるもんじゃないんだ。誰かに押し付けられた正義で迫ってくるよりよっぽどマシだよ。
僕たちから逃げた時、お前は初めて自分で選んだんじゃないのか」
「私は……!」
逃げてなどいない、と言いたかったのだろうか。その嘘に自分で気付いたのだろうか。口を閉じ、小夜からの斬撃を剣で受ける。
「お前の周りのやつらは『撃鉄の聖銃士』だけを見てる。
だけど、正純ちゃんは”セルゲイ・ヨーゼフ”を見つめてくれた。わかってるんだろう、そんなことは!」
誠司の叫びに、セルゲイはうるさいと声を荒げた。
二人がかりの斬撃を、全方向に伸びた天使の光によってうち払う。
「私は貴方を無理に止めたり、こちらに従わせたいわけじゃないんです」
正純の鋭く放った矢は、セルゲイの変異した腕に掴んで止められる。
「貴方のことを知りたい。私のことを知って欲しい。それだけなんです」
「誰が魔女の話など――!」
「それが嘘だと気付いてるんでしょう!?」
矢を放つわけじゃない。
殴りかかるわけでもない。
叫んだ正純の言葉が、セルゲイの胸をついた。
目を見開き、一瞬だけ硬直する。
その隙をつくように繰り出されたラムダと小夜の斬撃が、彼の異形の翼と腕を斬り割いた。
歯を食いしばり、剣で二人を切り払いつつも、思わず膝を突くセルゲイ。
誠司はもう一度リーディングをかけるべきか考えて、やめた。どころか、手にしていた大砲を放り捨てる。
「セルゲイ、お前にこんな相手はいたか? 正純ちゃんみたいに、殴ってでも話をしたいって人がさ」
誠司を見て、正純もまた弓をおろした。
歩み寄り、1mだけの距離をあけて止まる。
「逃げるなら、逃げていいんです。私は……私達は追いません」
「……」
彼女のつま先だけを見ていたセルゲイが、はっと顔を上げた。
その視線にあわせるように、正純は身をかがめた。
「逃げないなら、私と話をしませんか」
視線が交わされ、セルゲイの手から剣がころりと落ちる。むなしいくらい、小さな音だ。
「私は……お前達に協力なんか、しない」
「ええ」
「貴様は弟を、殺した」
「ええ」
「お前達が、憎い」
「ええ」
頷く正純。
「私は、無力だ……」
「……」
目を瞑り、剣をおとしたからっぽの手に触れた。
小夜は壊れた機械やパイプ群のなかから立ち上がりそして刀をおさめた。
「やっと、本音を言ったわね」
ちらりと見ると、ラムダは『もう興味はありませんよ』とでも言うように先へと歩いていっていた。
セルゲイが上げる泣き声だけが、大きく聞こえた。
●『かみさまへのおくりもの』
物語を遡るには、あまりに遠すぎる。そう、『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)はすぐそばを走る『茨の騎士』プリクルの横顔を見て思った。
いつかの戦いから比べて随分と成長したらしく、頑強な防御と聖なる光を込めた剣で聖獣の部隊を切り崩していく。初めて出会った時と比べれば別人レベルの違いだ。
逆光騎士団の面々も、当時見た顔だけでなく新顔も多く見えた。
「ノフノの街から連れ去られた子達も、ここにいるのかな」
そのとき焔がちょうど考えていたこが、『純白の聖乙女』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)の口から漏れた。
その横顔をちらりと見る『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)。
「それは、ノフノでおこった一連の事件のこと……?」
サクラもその件には無関係ではない。スティアと共に戦った記憶が蘇る。
街一つを、聖騎士たちまでもを洗脳しローレットを『世界を壊す魔女』と認識させ協力者たちを次々に魔女裁判にかけ続けたという事件である。
思えば、今の環境はその発展系といっても過言ではないだろう。
イコルという薬によって世界への認識を歪められ、子供達は幸福を錯覚しながら生き続ける。その末路がいかにおぞましいものであっても、その瞬間まで意識することなく。
そこでふと、『赤い頭巾の断罪狼』Я・E・D(p3p009532)が自分の考えを述べた。
「過去の記録を見るかぎり彼が純正肉腫なのは間違いなさそうだね……」
「ああ。人間では考えられないほど残忍な」
『特異運命座標』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は口にしようとして表情を歪めた。
「此処で退かせるとは言わん。此処で討ち取る、その心算で望もう」
「……そうだね」
Я・E・Dはそうとだけ答えて、目を伏せた。
(彼が肉腫なら……。滅びのアークから産まれた存在。
イレギュラーズとはその存在自体が相容れぬモノ。
産まれついてそういう生き物なら、それは悪とは呼ばないよ。
だって、ソレにとっては、そういう生き方しかできないんだから)
「だからわたし達にできる事は。冷静に、ただ冷静に害虫(ソレ)を滅ぼすことだけ……」
「皆さん、この先ッス!」
プリクルが扉を指し示し、侵攻を阻止しようと追いすがる聖獣たちへと剣を構えた。周囲の逆光騎士団の面々もそうだ。
「聖獣たちは抑えるッス! 焔センパイたちは先へ……!」
「うん!」
アドラステイアの惨状を知っているローレットだが、天義を直接動かそうとすれば最悪戦争となり、ベアトリーチェ災害によって疲弊した天義にかなり深刻なダメージを与えることにもなりかねない。国政の傾きならいいほうで、近隣の街が蹂躙される危険とてあるのだ。
そのためのローレットであり、そのためのクッションだ。ローレットがある程度自発的に行動しているという体裁をとることで、天義との戦争を回避できているのである。
そういった意味では、天義が直接動けない理由があるにも関わらず『自領の行方不明者探索のため個人的に助勢した』という体裁をとって参戦している逆光騎士団が特別なのである。
「ここから先は、ボクたちが行かなきゃ」
焔が繰り出した槍はそのまま扉を粉砕し、広い部屋へと吹き飛ばす。倒れて滑る扉の音に、しかし部屋の中の子供達は答えない。
両手を組み、祈るような姿勢でなにかを唱えている。
ベネディクトは部屋へと踏み込み、剣を構え、そして状況を観察する。
一見してチャペルのようだった。
エヴァと戦ったチャペルが一般的な作りであったのに対して、この部屋はひどく荘厳で、不気味なほど清らかだ。
牧師の服を着、サングラスをかけた男――ファーザー・バイラムは壇の前に立ち、少年少女へなにかを唱えている。聖書の一文を朗読しているようであり、しかし聞いたこともない文言だった。
子供達の服装は質素を通り越して貧しく、上半身は裸のままの少年も多い。
彼らはとても清潔とはいえない様子であるにも関わらず、表情は皆安らかだった。
少年の一人が、バイラムへ歩み寄ろうとするЯ・E・Dたちを阻むようにベンチから立った。
「ファーザーにどのようなご用でしょうか」
サクラがキッと目に光を強めて歩み出る。
「バイラム! そして、偽神ファルマコン! 貴様達を斬る!」
その言葉は少年にというより、朗読をしているバイラムに向けられたものだ。
奥の壁に向けて朗読していたバイラムは振り返り、サングラス越しに目を細める。
「帰るのです、愛しき隣人たちよ。この聖域を汚してはならない」
「――」
余裕ぶった様子に、サクラが激高しそうになった所で、スティアがスッと隣に立った。彼女の優しい香りが、サクラの気持ちを風でなでるように落ち着かせた。
「サクラちゃんのことは、私が守るよ。だから大丈夫」
「……うん。背中を預けるね、スティアちゃん」
少しずつ歩み寄る。バイラムはこちらを向いたまま、退きも進みもしない。ただ手錠をかけるのを待つかのように両手を翳すだけだ。
「もう一度言いましょう。帰るのです、愛しき隣人たちよ。
この聖域を汚してはならない。この子供達は、幸福なのです」
「薬で作られた幸福なんかに――」
「幸福は作られなければ生まれ得ぬものです」
言葉を遮り、バイラムは優しく続けた。
「彼らには家はなく、仕事はなく、庇護する親もありません。そして彼らが何不自由なく幸福を得られる環境は、この地平にはなかったのです」
「そんなの――」
「無限の財はありません。無償の施しを無限に行える魔法の泉はないのです」
各国首脳より領地を割譲されているローレット・イレギュラーズといえど、それは例外ではない。
「しかし、ここだけは例外なのです」
バイラムはそこで初めて、壇上から降りこちらへと歩き出した。
子供達は再び祈る姿勢へと戻り、なにかを唱え始める。声は重なり、部屋の中を反響した。
「彼らは無限に幸福を得、幸福の中で一生を終えることが出来ます。あなたには不可能なことです。ゆえにここは、聖域なのです」
バイラムは優しく、金髪の少年の頬に手を触れた。
途端にバイラムから赤い血のような粘液体が吐き出され、ぎょろりと眼球をもったそれは少年の口から体内へと入り込む。
あまりに自然で、そして高速で行われたことゆえに反応が遅れた。
いや、仮に赤いなにがしかをたたき落とせたとて、結果は変わらなかったかもしれない。
少年はぼこぼこと変異し、六つの腕を持つ奇怪な天使の姿へと変貌した。
首がゴトリとおち、かわりにヤツメウナギのような頭がはえる。
「この子はエステバンといいます。二人の妹がこのままでは娼婦になるしかないと、この街で働く決心をしました。偉いですねえ……」
本当に愛しい子供に向ける視線と声だった。
「その子はアカトス、将来の夢はお医者さんだそうです。其方の子はメディチナ、貴族のお嫁さんになるのが夢だといいます。可愛らしいですねえ。それにサリヴァー、イ・エミン、ケルトス、キースケ……皆よい子たちばかりです」
名を呼んだ子供達も同様にぼこぼこと変異し、聖獣へと代わっていく。
バイラムが、優しい笑みでこちらを見る。
「わかりますか? この子達は今も尚、幸福なのです」
一斉に襲いかかる聖獣たちを、ベネディクトは剣を払うことで斬り割いた。
「ファーザー・バイラム!」
ベネディクトはそのままバイラムへと迫ると、剣を大上段から斬り付け――ようとした所を、腕で止められた。
ただ翳しただけの右手は刀身を掴み、だというのに血の一滴も流れていない。バイラムは牙を剥きだしにした顔でギリッと笑うと上半身を肥大化させた。
服がちぎれ飛び、膂力が数倍にも増す。
ベネディクトは剣ごと振り回され、後方へと投げられた。
(せめて相手の能力を丸裸にして次に繋げるしかないかなぁ)
Я・E・Dは『狼を縛る光糸』を放った。バイラムを雁字搦めにした光の糸が、しかし無理矢理に引きちぎれる。
スティアとサクラが見事な連携をもって突進。スティアの放った強力な治癒の光を浴びながら、サクラはロウライト家伝来の刀を強く握りしめ、バイラムへと斬りかかった。
「貴方を生んだのはきっと天義の民の祈りだ。混沌の癌、ガイアキャンサー!」
「いくよ、バイラム!」
ドッと音を立て血の障壁が阻むがそれをも貫き、サクラの剣がバイラムの胸へと刺さる。対して砕けた障壁が大量のガラス辺のように尖り、サクラの身体を無数に貫いていく。
サクラがそれで殺されなかったのは、スティアによる癒やしの光が守っていたからに他ならないだろう。
Я・E・Dが魔法の砲撃を放ち、素早く起き上がったベネディクトが剣を放つ。
バイラムの背に刺さる剣、聖書をもっていた左腕を吹き飛ばす砲撃。
そこへ更に、焔の槍が突き込まれバイラムの腹を貫いた。
「実に素晴らしい」
そう言いながら、バイラムの右手が焔の額をがしりとつかんだ。
「名前を言いなさい。出身地は? 両親の名前は。好きな食べ物は? 好きな音楽は? 将来の夢は? 言っておきなさい。今からすべて、書き換えてしまうのですから」
焔の目から光が消えていく。びくんと背筋を伸ばし、指先がふるえ槍から手が離れた。
が、それまでだ。
「焔センパイ!」
プリクルの剣が、腕を切り落とした。
それからは、まるで嵐のようだった。
暴れ回る聖獣たちと乗り込んできた逆光騎士団が壮絶な殺し合いを初め、部位を切り落としては再生し続けるバイラムと、一歩間違えれば自分事書き換えられてしまうリスクと戦いながら攻撃を続ける焔たち。
気の遠くなるような時間……はたしてそれが何十秒だったのか、はたまた数分にまで及んだのかは判別できなかったが、気付いた時には部屋は血にまみれ、バイラムは再生をとめていた。
目を見開き笑顔のまま、バイラムとおぼしき肉体は地に仰向けに倒れて動かなくなっていた。
「……倒した、のか?」
「わからない」
焔は経験からそう言って、スティアを見た。
血塗れの服をぬぐい、スティアも頷く。
「けど、この街の子達は、もう自由だよ」
●「 」
それから。
聖銃士や一部の聖獣はディダスカリアの門の向こうへと撤退し、門は固く閉ざされた。
特別な処理が施されたらしい門をこじ開けることも、すり抜けることも不可能だと判断したローレット・イレギュラーズは監視をつけたままその場からの撤収を開始した。
実験区画フォルトゥーナに残された子供達は引き取られたが、彼らがバイラムへの信頼とファルマコンへの信仰をすぐに失うことは難しいだろうと思われた。通常ならごくまれに報償として与えられるはずのイコルを異常な頻度で投与され続けた子供達がそれから脱却するためには、相応に長い時間と苦痛を伴うだろうとも。
しかし、これだけは言える。
ローレット・イレギュラーズはこの戦いに勝利し、フォルトゥーナというおぞましい実験区画を解放することに成功したのだ。そしてきっと、中層へのチケットも……。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
――mission complete
GMコメント
●オーダーと背景
アドラステイア中層域への侵入方法を獲得するため、ローレットをあげての大規模作戦が執り行われます。
主な作戦内容はアドラステイア下層域や外郭部で戦闘を行い、管理者層である大人(牧師、神父たち)の注意を引くこと。
そしてここ、実験区画フォルトゥーナでも同様に襲撃作戦が行われようとしています。
ですが、どうやらフォルトゥーナは他とはどこか様子が違うようです……。
●実験区画フォルトゥーナと、襲撃計画
ファーザー・バイラムによって管理されるアドラステイア下層域の閉鎖区画です。
他の下層スラム街とは壁によって隔たっており、内部では独自の社会(コミュニティ)が築かれおぞましい実験が行われています。
住民である子供達には依存性が高く強い幻覚作用のある薬品『イコル』を常に服用させ続け、永遠の幸福感を強制的に得させているほか、イコルの継続投与によっておこる『聖獣』化現象を意図的に引き起こさせています。
そのためか、区画内には能力的に優れた、または特殊な能力に目覚めた聖獣が多く配置されています。
参考シナリオ:https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/4806
皆さんはこのために温存しておいた手段を用いてフォルトゥーナを襲撃。
聖獣や聖銃士たちと戦い、このエリアを制圧します。
作戦には【潜入】と【襲撃】の二段階があり、リソース問題からイレギュラーズたちはてわけして行う事になります。
各自やるべき事ができればOKなので、人数比を均等にする必要は一切ありません。
================================
●パートタグ
【】で示されたタグを一つだけ選択し、プレイング冒頭に記載してください。
以下は各パートの説明になります
【潜入】
秘密の通路を使ってフォルトゥーナ内へと前もって侵入します。
主な目的は門番の聖獣を倒し内部から扉を開くことですが、一部のメンバーには特殊なオプションが与えられています。
(潜入班はこの後襲撃班に加わって戦う扱いになりますが、描写はほぼ潜入パートにさかれますので、襲撃用のプレイングもほぼ必要ありません)
【ジェニファー】
ジェニファーの奪還と拉致を目的としたオプションパートです。
フォルトゥーナ内部にある住居に戻っていたジェニファー・トールキンを連れ戻します。
彼女は聖銃士として戦い抵抗する筈ですし、ルームメイトのマリリンや他の住民たちも抵抗に加わるでしょう。これらをどのように対処するかによって、今後の展開が大きく変化していきます。
優先参加者:ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)、イーリン・ジョーンズ(p3p000854)、フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
【ケリー】
ケリーの護衛を目的としたオプションパートです。
潜入のとっかかりとして、フォルトゥーナから『拉致された』扱いになっているケリーを区画内へと入れます。このとき変装などを用いて一緒に侵入します。
襲撃が起こった場合真っ先にケリーの裏切りがバレることになるので、彼を護衛し戦い、まずエリアからの脱出をはかりましょう。ケリーには戦闘能力が一切ありません。
優先参加者:観音打 至東(p3p008495)
【襲撃】
潜入班が門を開いてくれた段階で突入を仕掛けます。
聖獣や聖銃士たちとの激しい戦いがおこるでしょう。
隠し球をもった強力な聖銃士や、特殊能力をもった聖獣たちなど対処すべき問題は沢山あります。
その中でネームド敵を対応するメンバーには別途オプションパートが設けられています。
襲撃には味方NPCとして、天義国の聖騎士『逆光騎士団』が加わります。
【エヴァ】
聖銃士となったエヴァと、イコル工場にて戦います。
工場には『神の鉄槌』メディカが捕らえられており、彼女を救出することも役割に含まれています。
彼女を『どれだけ早く救出できるか』によってこの先の展開が大きく変化します。最悪の結末もおこりうるので、くれぐれもご注意ください。
優先参加者:アーリア・スピリッツ(p3p004400)
【セルゲイ】
聖銃士セルゲイとの対決です。
彼はイコルが尽きたために摂取をやめ、憎しみに囚われて正純達と戦っていた事実に押しつぶされそうになっています。
新たにイコルを手に入れたことでこれを服用すべきか迷いつつ、しかし新たに与えられた聖なる使命のために戦わなければならない状態にあるようです。
優先参加者:小金井・正純(p3p008000)、三國・誠司(p3p008563)
【バイラム】
このエリアの管理者であるファーザー・バイラムと戦います。
彼は純正肉腫あるいは膠窈肉腫と考えられており、このフォルトゥーナの実験を行う元凶でもあります。
この時点で倒しきることは難しいですが、中層へと撤退させることでフォルトゥーナ制圧に大きく貢献することができるでしょう。
逆光騎士団のうちプリクル初め数名もこの戦いに加勢します。
優先参加者:炎堂 焔(p3p004727)、スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
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●聖獣と聖銃士
このエリアに住まう子供達の多くは幸せな幻覚を見ており、汚れきったスラム街を楽園だと錯覚しています。更には襲撃者である皆さんを魔女や悪魔だと認識して逃げ出すでしょう。
ですが、エリア内に配置されている聖獣たちは高い戦闘能力や疑似非戦スキルを持つため、子供達が一切戦えなくても問題無く防衛機能を果たします。
・『猟犬型聖獣』バクタム
嗅覚に優れ、夜目のきく猟犬型の聖獣。全長2mほどの大きさ。
兵とセットで複数体を点在させる形で運用し、主に警戒や警報を行う役割を持つ。
・『翼犬型聖獣』ケルベロス
飛行能力と電撃系攻撃に優れた犬型聖獣。
身体から雷の翼が生えている他、頭が殻のようなものに覆われ全身がやや発光している。
雷を発生し操る能力を持ち、雷の翼を拡大させてなぎ払ったり特定の場所に雷爆弾を打ち込んだり、雷を壁にして防御したりと器用にたちまわる。
・『槍兵型聖獣』ペネム
そこそこの知性と全長3m近い人型のシルエットをもつが、頭部はヤツメウナギに酷似している。
怪力や瞬発力の他、粘液を槍のように硬化させる能力をもち投げ槍など応用のきいた戦い方も可能。
・『芋虫型聖獣』ハッピーバースデイ
白く巨大な芋虫のような形状をしたモンスター。
糸を吐き相手を拘束したり、複数の効果を持つ毒液を発するなど戦闘に置いては援護攻撃を得意とし、HPが高く再生能力ももつ。
・『オンネリネン特別実験部隊』クリムゾンクロス
聖銃士数名と少年兵で構成された、バイラム直轄の傭兵部隊。
炎の魔法とナイフ術で戦う『赤壁の聖銃士』アガフォン。
氷の槍を召喚する魔法使い『晴天の聖銃士』ヴァルラモヴナ。
獣のように両手を地に着き戦う戦士『白磁の聖銃士』イディ。
両腕を芋虫の怪物に変えて襲いかかる狂戦士『繭割の聖銃士』エヴァ。
半身を怪物に変えてしまった剣士『撃鉄の聖銃士』セルゲイ。
以上五名を中心としてこちらに対抗してきます。
●情報共有とソース
このシナリオには、いくつものシナリオ群での結果が集合しています。
それぞれの要素には優先参加者たちが詳しい筈ですので、情報共有を行ってみてください。
情報の合流によって、思わぬヒントが見つかるかも……?
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★背景解説
●独立都市アドラステイアとは
天義頭部の海沿いに建設された、巨大な塀に囲まれた独立都市です。
アストリア枢機卿時代による魔種支配から天義を拒絶し、独自の神ファルマコンを信仰する異端勢力となりました。
しかし天義は冠位魔種ベアトリーチェとの戦いで疲弊した国力回復に力をさかれており、諸問題解決をローレット及び探偵サントノーレへと委託することとしました。
アドラステイア内部では戦災孤児たちが国民として労働し、毎日のように魔女裁判を行っては互いを谷底へと蹴落とし続けています。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/adrasteia
●聖銃士とは
キシェフを多く獲得した子供には『神の血』、そして称号と鎧が与えられ、聖銃士(セイクリッドマスケティア)となります。
鎧には気分を高揚させときには幻覚を見せる作用があるため、子供たちは聖なる力を得たと錯覚しています。
●『オンネリネンの子供達』とは
https://rev1.reversion.jp/page/onnellinen_1
独立都市アドラステイアの住民であり、各国へと派遣されている子供だけの傭兵部隊です。
戦闘員は全て10歳前後~15歳ほどの子供達で構成され、彼らは共同体ゆえの士気をもち死ぬまで戦う少年兵となっています。そしてその信頼や絆は、彼らを縛る鎖と首輪でもあるのです。
活動範囲は広く、豊穣(カムイグラ)を除く諸国で活動が目撃されています。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
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