シナリオ詳細
ローレット・トレーニングIX<天義>
オープニング
●ネメシスの今
「おーっほっほっほ! みなさま! 天義へようこそ!!」
と、天義へ訪れたイレギュラーズ達を迎えたのは、高笑いをあげるシスター・テレジア(p3n000102)である。グラサンにビールと言う不正義極まりない格好をしたテレジアがごくり、とジョッキを傾け、
「さて、本日はわたくしの」
と声をあげた瞬間、何処からともなく現れた聖騎士たちが、テレジアを、座っていた椅子事担ぎ上げた。そのまま拘束すると、何処か――おそらく懲戒部屋的な建物――へと担いで去っていく。
「ちょ! まだ話は終わっていませんわ! 放して! お放しになって! ちょ、アーッ!!!」
声を響かせながら去っていくテレジア。そんなテレジアを見やりつつ、頭に手をやりはぁ、とため息をついて現れたイル・フロッタ(p3n000094)は、しかしすぐにきりっとした表情でイレギュラーズ達を迎えると、
「いらっしゃい、ローレットの諸君。
こうして記念すべき日を、皆とまた迎られる事、天義を代表して嬉しく思うよ」
そう言ってから、表情を苦笑の色に変えた。
「……まだまだ見習いに過ぎない私が、天義の代表などと言うのは些か分不相応な気もするが。
今年の先輩たちの記念の日、代表を任されたのが私なのでな。
襟を正しつつ、今年も先輩たちに、天義を案内することとなったよ」
「ふ……そう緊張することもあるまい。
君を、ローレットを迎える代表として推挙したのは私である。その判断が間違っていたとは思いたくないな?」
そう言うのは、レオパル・ド・ティゲール(p3n000048)だ。聖騎士団長からの言葉に、イルも流石に緊張感を強める。
「もちろん、俺もサポートするけどな」
リンツァトルテ・コンフィズリー(p3n000104)が、イルの隣で笑いながら言った。
「レオパル様、続けてもよろしいでしょうか?」
「ああ、構わん。ここで彼らを待たせるのも、な」
「では……まずは、祝いの言葉の前に、昨今の天義について、軽くおさらいしようか。
『冠位強欲』ベアトリーチェ・ラ・レーテとの闘い……俺達はまだ、昨日のことのように思い出せるけれど、激戦続きの皆にとっては、懐かしい事のように感じるかもしれないな。
とにかくその戦いによって、天義の国はひどく疲弊してしまった。街は壊れ、多くの騎士達は命を落とし……そうだな、壊滅寸前と言えるほどにまで追い込まれたよ」
リンツァトルテの言葉に、あの激戦を思い出したイレギュラーズ達もいるかもしれない。冠位魔種と呼ばれる脅威の存在との闘いは、ローレットにも激闘として記録されている事件だ。
イルが続く。
「あの時は、ローレットの先輩たちがとても頼もしく思えたよ。
天義の復興に関してだが、完全とは言わないまでも、順調に進んでいる。街はかつての活気を取り戻しているし、聖騎士団にも、新規に入団する者が増えた……ふふ。私もね、実は先輩、なんて呼ばれるようになったんだ。もちろん、まだまだ見習いとして、驕らない様に気を付けているけれどね。
だが、ここで天義にも少し影が差す……ラヴィネイル、頼めるか?」
「……はい」
と、二人の間にちょこん、と立っていたラヴィネイル・アルビーアルビーが声をあげる。
「ベアトリーチェとの闘い。それは、天義内の腐敗との闘いでもありました。今はその腐敗も払われて、より良き道をたどっていますが、しかしその天義の掲げる理想を信じられなくなった者たちもいます。
そうした人たちが、独立国家を作り上げたのです。それが、アドラステイアです」
アドラステイアは、子供達を魔女裁判と称し告発しあわせ、魔女と認定したものを『疑雲の渓』にて処刑させる。そうして信仰を先鋭化させ、自らの手足として扱っている様だ。
「アドラステイアだが、最近はその動きを活発化させているみたいでね」
そう続けたのは、サントノーレ・パンデピス(p3n000100)だ。
「先の幻想の巨人事件……アレに便乗して、一部のアドラステイアの部隊が幻想にまで進出したらしい。
それに、オンネリネンとか言う傭兵部隊も、各国に顔を見せている。
連中との闘いは、まさにこれからが本番になるだろうな」
「……と言った所が、現在の天義の現状だ。
ここからは、記念の日のお祝いの話だ。
首都のフォン・ルーベルグの公会堂に、ささやかだが、立食形式で宴席を用意してある」
イルの言葉に、レオパルが続いた。
「シェアキム猊下や、私も少しくらいなら顔を出せる。
シェアキム猊下のお話を聞くまたとない機会だ。是非参加してほしい。
もちろん、私も、貴殿らの活躍を聞きたいものでな。気軽に声をかけてくれ」
レオパルの言葉に、リンツァトルテが続く。
「他にも、街の方を見て回ってくれても構わない。商店なんかもだいぶ立ち直ってきているし、もし天義の出の者がいるならば、復興した街並みを視たり、故郷に戻ったりするのもいいだろう。
きっと、ローレットからはトレーニング、なんて名目をつけられているだろうが、休むこともまた鍛錬だ。記念の日くらいは、しっかり休んでほしい」
「もしアドラステイアが気になるようでしたら……近くまで偵察に行くくらいなら大丈夫ですけれど、内部にまで侵入するのは、今日は避けてください」
ラヴィネイルがそう言うのへ、サントノーレが続いた。
「当然ながら、内部はまだまだ危険だからな。調査するとしてもしっかり準備をしてからだ。
それに、今日はお祭りの日。つまり飲んで騒ぐ日だ。アドラステイアをほうっておけないのは解るが、こっちもしっかり休まなきゃまいっちまう。メリハリはつけないとな」
イルが頷く。
「うん、こんな所だな。
……っとと、忘れる所だった。さぁ、皆、行くぞ」
そう言うと、皆は、すぅ、と息を吸い込んでから、異口同音に、こう言った。
『4周年、おめでとう!』
- ローレット・トレーニングIX<天義>完了
- GM名洗井落雲
- 種別イベント
- 難易度EASY
- 冒険終了日時2021年08月19日 23時11分
- 参加人数84/∞人
- 相談9日
- 参加費50RC
参加者 : 84 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(84人)
リプレイ
●
宗教的シンボルも見受けられる内装の公会堂には、今は多くの料理と飲み物が運び込まれている。豪奢なそれは、天義でもここまでの宴を開けるほどには復興を果たしたというアピールでもあり、同時に天義の窮地を救ってくれたローレットのイレギュラーズ達への、誠心誠意の謝礼の表れでもあった。
「ふふー。これは美味しいですね。天義の伝統料理でしょうか……?」
まろうは素朴ながら味の良いリゾットを口に運び、にこにこと笑う。これをお家で再現出来たら、恋人も喜んでくれるだろうか? そんなことを思いながら、頭の中で味の分析。
「んん、でも、コックさんにお尋ねした方が速いでしょうか……?」
むむ、と小首をかしげるまろう。
「フルーツや、お魚……意外、ちゃんとお肉もあるね。宗教にうるさい所ってそういうの無いのかと思ったけど」
カカリカはテーブルの上の料理を興味深げに眺めながら、お腹が鳴るような思いだった。我ながら、色気より食い気とはなんともだと思うけれど、でも今日は食い気が勝っても問題のない日だ。
「ううん、色々あるから目移りするね……納豆とかは……流石にないかな」
と、自分の考えに苦笑しつつ、早速料理をさらに載せていく。
「ふむ……悪くはないな。いや、むしろ……」
凪もまた、用意された食事を楽しんでいる。たっぷりのソースの絡んだローストされた肉や、新鮮なサラダなどが、凪の舌を楽しませる。
「シェアキム猊下。ヨハン=レームと申します。どうぞお見知りおきを」
恭しく一礼をするヨハン。シェアキムは、ほう、と唸ると、
「なるほど、彼のバルド=レームの子とは貴殿か」
「おや、既にご存じでしたか?」
「隣国の勇者だ。その噂位はな……貴殿はベアトリーチェとの決戦にも臨んだ勇者の一人と聞いている。その武勇、有事の際には借りたいものだ」
「そんな事は起こらないのが一番ですが、その時は是非ともご用命を……所で、このケーキ美味しいですね? もう一ついただいても?」
毒気を見せぬように振る舞うヨハン。シェアキムはその様にわずかに口元を吊り上げ、笑ってみせた。
「またとない機会だ。どうかお話をお聞かせいただきたく」
バクがそう言うのへ、シェアキムは厳かに頷く。
「貴殿らは、信仰により何を得たか――ふむ、一言でいうとこの様な感じかの。儂は異邦人じゃ。儂にも信仰はあるが、貴殿らのそれは、儂のそれとは同じくするものではあるまい。
それに――この国の正義は、一度危機に陥った。その果てに何を得られたのか、と気になってな」
「ふむ。この国の信仰は、かつては確かに『絶対正義』を得た。そのように、皆信じていた。
だが貴殿の言う通り、それは一度は傷を負った。無論、我々の信仰こそが正義であるという信念は崩れていないが、しかし、信念持つものの綻びが彼の事態を招いたのは事実。
そして今、この国はまだ再生の途中だ。この信仰が何を得、何を失わせたのかは、おそらくは私が生涯をかけて希求せねばならぬものだろう。それが教皇たる私の責務だと、考えている」
「なるほどのう」
バクは満足げに頷く。
(あれがシェアキム猊下か……挨拶とかした方がいいのかな……)
文は遠巻きにシェアキムを見やりつつ、胸中で独り言ちた。
(……頑張って下さいは余計なお世話だし、お疲れ様ですは気安い。
そもそも面識の無い偉い人に話しかけるのは難しいんだよ……)
と、悩みを飲み込むように、グラスは空になっていく。
(しまった、相当美味しかったんだけど……高いよね、これ……お代分、どこかに寄付した方がいいかな……?)
などと慌てながら。
「案内役お疲れ様。堂々として立派だったわ。そろそろ見習いは返上しても良い頃合いではないかしら?」
アンナがイルへと声をかけるのへ、イルは頭を振った。
「いや、私などまだまだだ」
「ふふ、そう言うと思った。
でもね、街並みを見てきたわ。ここまで復興が進んでいるのは、確かに貴女達の頑張りのお陰よ。ありがとう」
ゆっくりと頭を下げるあんなに、イルは慌てた様子で、
「いや、これは私達の使命でもあるんだ! だから、やって当然というか……!」
その様子に、アンナは苦笑する。
「ほんと、真面目よね。でもたまには息抜きしないとダメよ。最近リンツァトルテ様とはどうなの?」
「ふわっ!?」
虚を突かれた様に慌てる様子のイルに、アンナは笑ってみせた。
「天義の上流階級回りを調べたいってのは、またどうしてだ?」
サントノーレが尋ねるのへ、彼者誰は静かに頷く。
「いえ……ね。天義の貴族とは色々とありまして。もちろん報酬はお支払しますから、何かありませんか? キナ臭いのから、そうじゃないの。それから、アドラステイアに関しても欲しいですね」
「上の連中はだいぶ綺麗にはなったが、そうじゃない奴もいる。天義で何かあったら、優先的にローレットに情報を流すよ。
アドラステイアは……これもまた、どうして突然?」
「……貴方、これからが本番だと仰いましたね。何か掴んだので?」
サントノーレは皮肉気に笑う。
「さぁて、まだまだパズルの一ピースを手にした状態だ。オンネリネン、バイラム……。
だが、このピースがでかい一枚絵になることだけは確信できる。
アンタらの働きには期待してるぜ? 奴らに一泡吹かせる段になったら、な」
その言葉に、彼者誰は頷いた。
●
アネモネ=バードケージの庭園には、シンプルながら洗練されたテーブルと、その上にいくつかのティーカップと、菓子の類が置かれていた。
開催されたお茶会、庭園の主、アネモネはいつもの顔で、ベルナルドを見る。ベルナルドは、僅かに震える唇で、紅茶を飲み込んだ。
「ちなみに聖女様、お好きなタイプは?」
と、十三が言うので、ベルナルドは思わずむせ返ってしまう。
「なんだよベルナルド、紅茶をふくなよ、白衣にとんだらどーすんの。
で、お答え如何? 聖女様?」
アネモネはふふ、と笑い、ベルナルドに意味ありげな視線を送った後、
「そうですわね。やはり籠の中の鳥のような方、などが」
「ってことは、翼がある人? それはかなり困ったね……いやいやこっちの話ですけど。
お世話になってる先生も素敵な翼が生えてるし、時々自分も空を飛んでみたいなぁと思う事はあるよ」
十三がのんきにそう言う一方で、剣呑な気配を感じたのはレプンカムイだ。
(このアネモネって女……血のにおいがプンプンしやがる。これで聖女ってんだから、天義も嵐が過ぎ去りきったとは言えねぇようだな)
「まぁ、眉間にしわが寄っておりますわ? 甘いお菓子は苦手?」
アネモネがそう言うのへ、
「いや……少し食べ過ぎて、喉に落ちて行かなかっただけだ」
レプンカムイは口に詰め込んだ茶菓子を紅茶で流し込む。此方を見ている。やはり油断ならない女だ。
「そう……この度はお茶会に参加させてもらってどうも。
これ、花と、お土産のお菓子で……」
ブラムがアネモネへ、花束と洋菓子の詰め合わせを差し出すのへ、アネモネは目を細めて、
「まぁ」
と笑った。
「僕も食べたかったです。我慢しました」
とアヴニールが言うのへ、アネモネは、
「では、早速ですがいただきましょう。開封させていただいてもよろしくて?」
「ええ、どうぞ」
ブラムの返事に、花をお付きの者に渡し、手慣れた手つきで洋菓子の入った包みを開封する。
「では、どうぞ、お客様方」
「いただきます」
マカロンを手にとって、もぐもぐとアヴニールが口にする。
(うわ、あんな自由奔放で……ブラムさんもドM障壁装備してるし……!)
胸中でわたわたとしているアムル。そうこうしているうちにも、アヴニールは鳥の形を模った角砂糖で遊んでいるようで、他人のカップに座らせたりしている。が、なんだか空気が重い気がする。これはもしかして、とんでもないお茶会に来てしまったのでは?
(こんな時……『兄さん』達が居たらどうしていたかな……きっと僕なんかよりうまくやるはず……。
……『兄さん』『姉さん』、みな無事でいますように……)
若干の現実逃避を兼ねつつ、きょうだいたちの無事を祈るアムルである。
(ベルナルドの知り合いとお茶会だなんて言うから同窓会みたいな何かかと思ってたが……相手って天義の聖女様かよ!
こりゃあ金儲けの匂いがビンビンだぜ!)
晴明は紅茶で唇を湿らせつつ、言葉を紡ぐ。
「特異運命座標ともっといい関係を築きませんか? 聖女様。
数年前に一件、強盗の取締を任せたっきりでしょう。あの時はレオパル様とブッキングしたっていうし、もう一度商談のチャンスを貰えやせんかねぇ」
笑う晴明に、アネモネは、ふふ、と笑んで見せる。
「ええ、ええ、それは是非とも……縁がありましたら、ねぇ?」
そう言ってベルナルドへと視線を送る。ベルナルドの足がわずかに震えた。
「しかしベルナルド、こんなべっぴんさんといつ何処で知り合ってたんだ? しかも何だか親しげ……おーいベルナルド、足が震えてるぞー」
と、リヒトが言うのへ、ベルナルドがわずかに肩をびくりと反応する。それを愉快そうに見るアネモネは、
「そうですわね。少し肌寒いのかしら……此処は涼しい場所ですから」
と笑ってみせる。
「なぁアネモネ様はベルナルドとどういう関係なんだ? やっぱり領地絡みで……」
「どういう、関係?」
にこり、と、アネモネは笑った。途端、何か空気がぴしり、とひび割れたような感覚が走った。マズい、何か言ってはいけないことを言ったか、とリヒトが口を紡ぐ。
「……スコーンを焼いてきた」
と、その空気を何とかするみたいに、ヴァトーが菓子を差し出す。
「人間の見様見真似だが、食べてもらえると嬉しい」
アネモネは、差し出された菓子を見やりながら、
「こちら、味見は致しました?」
と尋ねるので、ヴァトーは首を傾げ、
「味見とは何だ?」
と尋ねる。それを聞くと、アネモネは愉快そうに笑った。
「――ふふ。今日は随分と愉快なお友達を紹介してくださいますのね?
それで、あなた――」
と、ベルナルドに視線を向ける。ベルナルドは意を決したように息を吸うと、
「絵を、描きに来た」
「ふぅ、ん?」
アネモネが、揶揄うように笑う。
「……お前の隣で描く絵が、一番自由に描ける。
……約束、忘れてねぇから」
――今更と笑われるかもしれないが、必ずお前を迎えにいく。
その言葉に、アネモネはゆっくりと頷く。
「そこにアネモネと言う花が咲いていました。今は時季外れですが。開花の時期に、また来られると良いですわ。
きっとよい絵が描けましょう。今回は……その他の花で我慢なさってくださいな?」
そう言って、蠱惑的な笑みを浮かべた。
●
「リンツァトルテ様! 稽古を願いてぇ、です!」
と言うのはアルトリウスだ。隣にはミカゲの姿もある。
「彼の特異運命座標たちに稽古をつけてくれ、とはね。此方からも手合わせを願いたい所だよ」
公会堂の近く、広場にて木剣を手にしたリンツァトルテが言う。
「こうしてトレーニングを通じて仲良くなれるかもだしね。強くもなれて、一石二鳥じゃない?」
ミカゲの言葉に、リンツァトルテは笑う。
「なるほど、嫌いじゃないよ、そういう考え方は」
「リンツァトルテ様! やるからには全力で行かせてもらいます!」
アルトリウスが、木剣を片手に力を籠める。その目には、確かな決意が見て取れた。たとえ届かないとしても、一撃は入れる! その熱意に、リンツァトルテもまた熱くなるというものだ。
「では始めようか……いざ!」
三者が一気に駆けだし、突撃する。やがて木剣が打ち合う激しい音が響き渡った。
「――と言うわけで、今日は対聖獣戦を想定した訓練だよ」
と、スティアが言うので、アカツキがおー、と声をあげてぱちぱちと拍手をした。
スティアはこほん、と咳払い一つ。
「サメは万能だからね。空も飛ぶし、大きいし。行動パターンもつかめないから、訓練にはもってこいだと思うんだ」
「それは良いが……サメ、とは……?」
レオパルが困惑した様子を見せる。訓練と言う事で呼ばれた天義騎士達も、困惑している様子である。スティアは笑った。
「やだなー、サメはサメだよ?」
「スティアちゃん! 妾思いました、サメに炎を足したら面白、ごほん、
何だか凄く強い感じになっていい訓練になるのではないかと!!」
「なるほど、面白そうだね! 足そうか!
それから、イルちゃんの恋のサポートもしないといけないから大変だね!
うまいことリンツさんとイルちゃんが急接近できるように頑張らなきゃ!」
と、スティアがなんやかんやすると、空に無数のサメが現れた。
「おー! 燃えておる! わはは! ゆくのじゃ妾のファイヤーシャーク!!」
「ええ……」
天義の騎士達が困惑をあらわにする中、サメは各地に解き放たれたのである!
「もう慣れました」
あきらめ顔でサクラが言う。もう慣れました。本当に。サメと戦うのも。もう帰りたい。すべてを忘れて。
とはいえ、ここは天義。
「でもリンツァ様もイルちゃんもレオパル様もいる前でそういう訳にはいかないよね!
スティアちゃんは後でちょっとお話だからね! スティアちゃんのおばさまも一緒にね!」
サクラがサメへと斬りかかる。後を追うように、レオパル指揮下の騎士達も、必死の抵抗を続けるのであった。
「……またサメかぁ……」
色々と諦めた様子で紫電が呟く。以前クソ映画を撮った時もサメと戦った。その時は倒し方がアレだった……というか、何でこう、サメと戦っているんだ……?
「しかも空を飛んでる……スティアが次々とサメを召喚している……いや、オレは何も見ていない……オレは何も見ていないはずなんだ……」
とはいうものの、サメ(げんじつ)は目の前ににじり寄る。
「お姉様がお呼びとあれば! この花榮しきみ、どこへでも!」
と、サメをシバキ倒しながらしきみは言う。
「でも、なんだかこう言ってしまうとお姉様が呼ぶ呼ばない関係なしに現れるサメに負けているような?
いえいえ、この花榮しきみ。お姉様のサメのように、いえ、お姉様のサメとして一生を捧ぐ覚悟をしております!
トレーニングのためたびに冠になるサメ! ずるい! R.O.Oで認知されているサメ! ずるい! 私もお姉様のファミリアーのしきみとして召喚されたい!」
しきみはがしっ、とサメの首根っこを掴むと、がくんがくんと振った!
「サメさんわかりますか? 持つものとして理解できませんか? ああ、何とずるいのでしょう! 私よりもたくさんのものを得たサメが憎らしい!」
べしっ、とサメをひっぱたいた。サメは泣きながら帰っていった……。
「……まさか、ネメシス聖騎士団とイレギュラーズの正式な訓練相手としてサメを使おう等という発想に至るとは……」
阿鼻叫喚のサメ絵図の中、リースリットは頭を抱える。天義の騎士達とイレギュラーズ、そしてサメはあたりを埋め尽くし、激しい攻防を繰り広げていた。
「これで……ええと。何度目になるのでしたっけ?
確か最初は突発的な……事故だったような……気もしたのですが……?
今ではすっかり立派なサメ召喚術の第一人者、サメ召喚術士になってしまって……」
スティアの行く末を案じながら、とりあえず負傷者の回復支援にひた走るリースリットである。そんなリースリットを庇うように、カイトはサメと激闘を続けていた。
「噂には聞いてたけど本当にいるとはね!
とりあえず、罪の無いサメには悪いけど、お帰り願おうか!」
鋭い斬撃が、サメを切り裂いていく! サメは泣きながら撤退していく。
「しかし、この大量のサメ、どうしたものか……生きているなら海に返して、死んだものは捌いた方がいいのかな……?」
その言葉に、サメがビビり散らした!
「ふむ……正直、奇妙な光景、とは思いましたが……」
サメを打ち飛ばしながら沙月はあたりを見回す。天義騎士達も初期こそは困惑していたが、今は一丸となってサメに対応している。
「意外と、訓練としては良いのかもしれませんね」
手近にいたサメを打ち飛ばして、ふぅ、と人心地。
「何はともあれ、思う存分に戦うことはできそうですね」
すぅ、と構えを取り直し、サメへと飛び掛かる沙月である。
「……すごくよく分からない状況だなぁ」
グリムが独り言ちた。大規模召喚から四周年。めでたい。復興する天義。めでたい。それはそれとしてなんでサメが空を飛んでいるのか。
「わからない……分からないことが多すぎる……」
グリムは困惑するまま、空をサメが埋め尽くすのを見つめている。
「訓練なんてしたくないから街に逃げてきたのに、なんでサメがいるのーーーー!!!」
悲鳴を上げて逃げ惑うクリスハイト。最初は正直幻か何かだと思った。疲れてるのかと思って休憩しようかと思った。現実だった。
「サメがー! どうしてー!? 誰か助けてぇぇぇぇ!!!」
サメに追われるクリスハイトに幸あれ。一方、街を散歩中にサメに襲われたのはカシャと白犬カイカも同様だ。
「な、なんでサメが……!? くっ、訓練だって……言っても……滅茶苦茶、すぎるよ……!」
必死で応戦して、カイカを守るカシャ。万が一にも、カイカがサメに丸呑みされるような事態は避けたい。
「でも、訓練、なら……お手伝いに、行った方がいいのかな……? ねぇ、カイカ……?」
首をかしげるカシャに、カイカは、わふ、と鳴いた。
「私は「バール教」のアナト・アスタルト! ええ、貴方方に「愛」(暴力)を教えてあげまして!」
と、街中に参上したサメを、片っ端からトゲ付き鉄球でホームランしていくアナト。
「ふふ、このような超常摩訶不思議な異常事態に対して活躍すれば、我が「バール教」への信仰も高まると言うモノ!
さらに言えば、お布施(愛天使アナトチョコ)もバカ売れに違いません!」
壮大な野望を抱きつつ、アナトさまは今日も行く。
「なんでサメが飛んでるウサ? なんで天義でサメウサ?
……でもローレットに来て結構そういう生物がこの世界にいるってのも知ったウサ。
……今も何かこういうのいてもいいかもとか納得できてる自分がある意味怖いウサ」
ばには諦観の表情を浮かべながら言う。そうだね、世の中不思議な事でいっぱいだね。しょうがないね。
「まあいいウサ。これがトレーニングなら退治するだけウサ。ウサギがサメに負けるとかありえないウサね」
ばには不敵に笑い、跳躍! そしてサメへと攻撃を仕掛け――ようとしてすっ転んだ!
「ぎゃー!
やめるウサ! 髪の毛むしるなウサー!」
天義にばにの悲鳴がこだまする。
――ロレトレと言えばサメじゃあないんだよね。
――今まで食い殺されなかったケースが無い。
――場所の選択肢があっても遭遇した訳で、アレもしかして全国同時出現なの?
――いやでも他に出たって聞かないし。
――たまたまだよね! そうたまたま。
――流石にもう同じ場所にサメは……出ない、でしょ? ね?
――出るとしたら何だろう……天義に原因あるよね?
――まあ居るハズもないサメの事なんて気にするだけ無駄無駄バカバカしい目の前に現れてみやがれ粉々にしてかまぼこにしてやらぁかまぼこが天義の名産になっちまうぜ僕は有意義に美女美少女と仲良く楽しくしっぽりぐふふしてよっしゃあかまぼこ大勝利なのだわ!
と、胸中で呟いていた夏子だが、気づいたらサメの腹の中にいた。
「確かにアイドルって仕事の為に体張る時はあるっスよ?
でも……何が哀しくて母国でサメに齧られなきゃいけないっスか!? ……病む」
ミリヤムが諦観の表情でサメと相対する。相対する。相対する。めっちゃいる。
「痛だだだだ! いくらEXFが100超えのボクでもサメに齧られたら痛いに決まってるっスよ!
誰だ! こんなヒデェ仕事割り振った奴! でてこい! ぶん殴ってやるっス!?
くそっ! どうせテレジアって奴の仕業に違いないッス!
お前もサメに齧られて借金増やせっス!」
悲鳴を上げながら、めっちゃサメにガジガジされるミリヤム。リアクションに関していえば、かなりおいしい現場となったのは事実である。
「天義に来るのは久しぶりですね。ここ最近のトレーニングでは何故か鮫に襲われてますが、今回はきっと大丈夫の筈」
クラリーチェが若干疑いながらそういうのへ、
「そうね……今回は騎士団の方達と一緒に訓練だし、大丈夫なはず……あら?」
エンヴィが絶句する。もちろん、空にサメが飛んでいたからだ!
「……帰りましょうか」
「えぇ、帰……く、クラリーさん、”何か”が此方に向かってきてるわ!?」
何か、と言っては見た物の、間違いなくスティアさん家のサメである! 現実逃避も許してくれないらしい。二人は思いっきりため息をついてから、諦観と共に武器を取った――。
かくして、大騒ぎのトレーニングはしばし続いた。
●
天義首都の中心街へ。この辺りの復興はほとんど完了しており、以前のにぎやかさを取り戻していた。
「本当なら今しばらく静かな余生でも堪能しようかと思ったのだがな。
……とはいえ街が宴に染まる中、世捨てのように振る舞うのも無粋なのだろうな」
そう呟きながら、ノワールはギフト『細やかな玖の智慧』に思考を委ねる。浮かんだ言葉は――。
「『人』、か。祭に興じるモノ、日々を生きるモノ、日常をまだ取り戻せぬモノ……この国には様々な人がいる。それを見て回るのも一興か」
そう言うと、ノワールは天義の街へと歩き出す。
「ここが宗教国家、天義……」
ハリエットは街を歩きながら、事件の報告書の内容を思い出す。そこには、ひとつの恋のお話が記されていたという。
「恋、か……」
ハリエットが呟く……その視線の先に、ギルオスの姿があったので、ハリエットは目を丸くしてから、こほん、と咳払い。
「偶然だね、ギルオスさん」
「やぁ、ハリエットだね。君も天義へ?」
「観光がてら歩いてたんだけど何処に行こうか迷っちゃって。
迷惑じゃなければ少しの間、一緒に歩いてもいいかな」
「もちろんだとも」
そう言ってにこやかに笑うギルオス。ハリエットにとって、ギルオスは拾い上げてくれた恩人で、人生の先輩。そして職場の上司……『それから?』
いいや、今は。それからは考えないでおこう。今はこの休日のことだけで、頭がいっぱいだ。
「ちょっと前は異端審問とかやってたって聞いて怖かったけど……」
トーラはそう言いながら、街の景色を眺める。そこには、想像していたモノとは違う、活気あふれる人々の笑顔がある。
「全然そんなことないのね! わぁ~~素敵な街! 綺麗な建物!!
この様子だと、教会の人達も怖くは無いのかな? そうだ、やっぱり聖なる都市ってなると、癒しの術とか得意そうだし……色々聞いてみよ!」
トーラは教会を探し始める。トーラのトレーニングははじまったばかり。
さて、そんな教会の前には、ルチアと鏡禍が居た。初めて天義に来た鏡禍のために、案内を買って出たルチアだが……。
(……あれ? ところでさっきから教会、多くないですか?)
と内心苦笑する鏡禍である。確かに、ルチアは教会を多く紹介していた。趣味なのだろうか? だいぶ偏った案内だったが、しかし鏡禍にとっては新鮮な場所に違いはない。
「天義は、貴方にとっての豊穣みたいなものなのよ。私にとってはね。似て非なるとはいえ、故郷の雰囲気を感じ取れる場所、ってこと」
「そうですか。でしたらもっと案内してください、ルチアさんの故郷の空気を感じられるところに。僕も感じてみたいですから」
と穏やかに笑う鏡禍に、
「じゃあ、今度豊穣のほうは案内して貰えるのかしら?」
ルチアは笑ってそう言うのだった。
そんな教会の中では、コロナが静かに祈りを捧げていた。
(平和であれ……そう願う心が潰えないことが重要なのです。
乙女(イルちゃん)の恋よ実れ……おや、雑念が混じりましたか……私もまだまだ修行が足りませんね)
内心でクスリと笑いつつ、祈りの時間は続く。
「……教会ですか。静かな場所ではありますね。精神修養にはよい所かもしれません」
ナインは荘厳なステンドグラスを見上げる椅子の前に座りながら、ぼんやりと静けさに身をゆだねる。
何か、感情を抑えるような修業が、ここでできるかもしれない。
「取り合えず、感情の激発を抑えてくれそうなものがあれば役に立つかもしれません。
再燃して燻り続ける怒りっていうのも厄介なものですね」
そう考えれば、ナインは教会の関係者に接触すべく、立ち上がった。
そんな教会の一角では、聖歌隊が練習をしている。その中には、ジオドリクの姿もある。
「良い歌だ。聖歌には、他にも種類があるのか?」
尋ねるジオドリクに、シスターは様々な種類の聖歌を教えてくれた。そして、ジオドリクは歌が上手いと褒めてくれる。
「有難う。これでも歌手でな……ああ、良ければ楽譜を見せてくれ」
シスターから聖歌の楽譜を受け取りながら、ジオドリクは優し気な笑みを浮かべた。
教会の隣の広場では、シュテルンが歌の練習をしていた。
響く優しい旋律。癒しの音色。
守りたい人がいた。癒したい人がいた。
あなたが、やすらぎで満たされますように。
兄のようで、王子様のようで、とっても大好きなあなたへ。とっても大切なあなたへ。
大切な人がいる。その人へと送る歌を。シュテルンは優しく、優しく、紡ぎ続けるのだ。
教会には様々な施設が併用されている。例えば、懲罰的な施設も。そこの入り口で、アンジェラはシスター・テレジアについて尋ねている。
「……此処に来たときに、どこかへ連れていかれましたが……彼女は何処へ? 何をしたのですか?」
「ああ、特別に悪事を働いたわけではないのです。ただ、「新しいビジネスを思いつきましたわー!」とか騒いでいたので、今日お祭りでいらっしゃるイレギュラーズの皆さんに悪影響がないかと……それで謹慎させているだけですよ」
「ああ、それは……」
流石のアンジェラも納得した。
「お時間を取らせてしまって申し訳ありません。
お詫びと言っては何ですが、お仕事をお手伝いします」
「いえ、お気になさらないでください」
「いえ、これは私の私情でもあるのです……この国では、滅私の奉仕が大切と聞きました。それは、働き人と然程変わりません。
もしやここが私の居場所では、と思っているのです」
と、小首をかしげるアンジェラであった。
教会に併設された図書館から、ゆっくりと出てきたのはトストだ。入り口でゆっくりと息を吸い、はぁ、とため息。
「ここもダメだったか……」
思い返すは、先ほど探索した資料の山。地底湖を含む河川の地形や、鉱石の産出される土地についてに資料は、どこにあるとも知れぬ自身の故郷を探すための手掛かりであった。
「まぁ、すぐには見つからないか。気長に行こう。
……うーん、パーティ会場に戻って、ご飯でも食べようかなぁ……?」
トストは伸びをすると、表路地へと向けて歩き出す。
表路地ではスピカとシャウラが歩いている。
「ねぇシャウラ。宗教都市だって」
「はぁ? 宗教都市? ここがか?」
シャウラが皮肉気に笑う。路地には、襤褸をまとった人もいる。泣いている子供を殴る大人もいた。
信仰厚い天義ではあるが、完ぺきではない。シャウラの元の世界に比べたら、そう見えてしまうのも仕方ないのかもしれない。
「にしても、この世界の神様ってどこにいるんだろうね?
出来れば挨拶してみたいんだけど……本当にいるのかな?」
「この世界の神、なぁ。どうだろうな?」
いないだろう、とシャウラは思ったが、そうは言えなかった。そう言ったら、スピカが悲しむような気がした。
初めての場所は緊張する……スノウは少しだけそう思いながら、天義の街を歩く。
鉄帝みたいに大騒ぎするような雰囲気ではないけれど、それでもやはり不慣れな地は、不安を感じるものだ。少しだけ心細く歩いていると、目の前には一人歩くギルオスの姿があった。スノウはとてとてと近づくと、ギルオスの袖を引っ張る。
「ああ、特異運命座標の。確かスノウ君だったね?」
ギルオスがにこやかに微笑むのへ、スノウはこくりと頷いてから、スケッチブックに文字を書いて見せた。
『良かったら散策、付き合ってもらえませんか?』
「ああ、もちろんさ。見たところ、あまり天義には詳しくない様だね。それじゃあ、少し案内させてもらおうかな」
そう言って歩き出すギルオスに、スノウはくっついていった。
ノエミもまた、天義の街を歩いている。首都フォン・ルーベルグが『真なる夜魔』に襲われたあの戦い。それが、ノエミの特異運命座標としての『始まり』だった。
「あのとき、皆に助けてもらわなければ、今の私は無いんですよね」
そう呟く。その傍らのルーイが、キュウキュウと鳴いた。
「……ふふ、わかっていますよ。
勿論、ルーイも一緒にです」
そう言って、相棒の頭を優しく撫でる。相棒はくすぐったそうに目を細めた。
「大きな戦いの後の復興、か。
混沌に来る前では見慣れた光景だったが……軍から離れてみるとまた感慨も変わるものだな」
活気あふれる街を見ながら、スティーリアは独り言ちる。元々の世界では軍司令官としての権限を持つものであったが、今の自分は一兵卒だ。その視点から見れば、かつてとは違った視点と言うものも持ちえるというもの。
「……しかし、かつてここで何があったか、我はあまりにも多くの事を知らなさ過ぎるな……此方の世界では新兵であるがゆえに仕方のない事であるが」
しばし己の手を見つめる。混沌肯定によって失われたかつての力。いずれ取り戻さなければならない。
「ふ……より良き国、か……今は、一人の客としてここがそうなるであろう事を祈るとも……」
「J'étais perdu! 完全に迷子だ!!
Hmm……嫌やわぁ、仮にも何年だか住んでたお家やのに……」
そんな道の片隅で、よよよ、と泣いて見せるのは、父の墓参りに訪れた日澄だが、久しぶりの故郷すぎて迷ったらしい。
それでもまぁ、いいか、と思う。父と話したい事なんて……。
「いや、あるか。はじめて友達ができたんだから」
思えば色々あった。古代獣とも戦ったし、パン作ったり、虹吐いたり、魔法少女にもなったっけ。日澄は、ふ、と笑うと。
「まぁいいか。今日は楽しい墓探しだ。骨に会うのに骨が折れるなんて、これ如何にだ」
そう言って、再び歩き出す。
「なるほど。ありがとうございます」
街を巡回していた騎士に一礼をするフォークロワ。尋ねたのは、冠位魔種ベアトリーチェの事件の時のことだ。
報告書だけでは、わからないこともある。現地にて生の声を聴きたかったわけだが、
「ふむ、良い収穫でしたね」
成果に笑み、天義の街を歩く。災厄から生き残り、復興した街。異なる文化を持った国を見るのは、楽しいものだ。
「おや……あれは、ギルオスさんでしたか」
前方に、見た姿を見つけた。ギルオスだ。フォークロワは近寄ると、一礼。
「こんちは、ギルオスさん。散策ならばご一緒してもよろしいですか?」
「ああ、フォークロワ君か。いいとも。何か当てはあるかい? ないようだったら、僕が天義を案内するよ」
そう言って笑うギルオスに、フォークロワは「是非とも」と一礼をするのであった。
一方、ヴィルヘルミナもまた街を行く。一歩一歩を始める準備。その第一歩として、天義の地を踏みしめることに決めた。
「予定もなく歩くというのは、めったにない事だが……なかなか良い心地だ」
「僕は、目的のないままに好きなように動くって意外と大変だなぁ。今までそう言う事してこれなかったから、余計にね」
一緒に歩くパティが言う。同業のイレギュラーズと言う事で、たまたま出会った二人は、こうしてひと時を共にしていた。
「なに、一緒になれて行けばいいさ。しかし、トラブルなどに出くわさなければいいが……」
「いやいや、祭の日にそうそうトラブルなんておきないでしょ……ん?」
パティが空を見上げるのへつられて、ヴィルヘルミナも空を見上げた。
「……なんだ、あの空を飛んでいる……サメ!?」
訓練所からはぐれたサメが空を飛んでいる!
「……サメ?」
軽食店のベランダカフェテリアで昼食をとっていたテルルは、一瞬、空にサメが飛んでいるような気がしたが、すぐに見えなくなったので目をごしごしとこすった。
「……歩き疲れたのかな。色々お店まわったから……もう少し、ここでゆっくりしていくことにしましょう……」
冷えた果実のジュースを飲みながら、テルルはふぅ、と一息ついた。
中心街から少し外れた場所。街の外縁は未だ復興が遅れている部分もあったが、しかしこのあたりも、今やかつての風景を取り戻している。
「おうおう、皆の衆今日も今日とて復興作業とは精が出るのぅ。
ほらそこ瓦礫が崩れるから危ないぞ、それに体調が悪くなったらいち早く休みたまえよー」
木陰で休みつつ、紅華禰はそう言って酒をくいっと一献。
ただだらけているように見えるが、こう見えても、けが人や大量不良の者がいないか見張っているのだ……そうは見えないが、本当に。
「お、お前様、休憩か? ニャフフ。なら酒じゃ、酒を飲め! さすれば気分が良くなるぞ!」
……いや、休んでるだけかもしれない。
新人であった詩業にとって、天義とはまだまだなじみのない国だ。未だに異端審問が行われていると思っているし、子供が魔女裁判をしているのは、天義は天義でも、独立国家アドラステイアであるので、天義そのものとはあまり関係がない。
とはいえ、いや、だからだろうか? 復興したとはいえ、未だ闇はこの国を覆っている。そんな所に、詩業がひかれるような何かがあるかもしれない。
「悪いことしたら、良いことして悪いことを揉み消すしかねぇよなぁ。ってことで、ゴミでも拾うか?
ゴミって元路上生活者の俺には何がゴミなのか分かんねーけど」
ケタケタと笑いながら、詩業は道を行く。
「ンフフ、天義で平和を守るべく街をパトロール……ワタシも名実ともに天使に近づいてきているじゃないの」
エンジェルもまた、天義の街を歩いていく。復興を遂げた町並みには、エンジェルを必要とするトラブルは起きなかったけれど、それはそれで心地が良い。
「アドラステイアの事件に何度か関わってるから、この国にはあまりいい印象を持っていなかったのだけれど。意外とちゃんとやってるのねぇ。街中回ってもそれほど事件に当たらないのはいいことだわ……なに、子供達? 飛んで木に引っ掛かったボールを取ってくれ? ごめんなさい、ワタシ空飛べないのよ……うーん、茨つかったら届かないかしら……」
子供達にせがまれつつ、エンジェルは小首をかしげた。
「むっ、子供達が困っている感覚っ!」
と、朔・ニーティアが近くを通りがかるが、エンジェルの姿を見て胸をなでおろした。
「どうやら大事ではない様だね。それに手助けしてくれる人もいる……うん、いい事だ」
朔・ニーティアは笑顔を浮かべつつ、商店街へ向けて歩き出した。
「何かいいお守りみたいなのがあると良いのだけれど……ううん、この際手作りでもいいのかな。
そう言う神聖なものは天義には多そうだし、色々見て回らなきゃね」
頭の中にお守りのイメージを描きつつ、道を行く。
「けっこう堅苦しかったり疲弊したりっていうのは聞いてたからもっとこう、暗い感じなのかと思ってたんすけど……意外と賑やかっすね」
静羽は商店街を覗きながらそういう。復興はこの小さな商店街もかつての姿を……いや、それ以上のにぎやかさを与えてくれている。天義が変わったことの証左でもあるだろう。
「天義独特な書物ないっすかね? 厚くても薄くてもいいから面白そうな物……」
小さな古書店を覗く。そこには子供向けから真面目な神学の本まで、様々な本が並べられていた。
「なるほど、これは楽しそうっす」
静羽は笑顔を浮かべると、早速古書店へと入店した。
紙袋に詰まったチーズとパン、そして葡萄酒。沢山の鳥(子)たちと共に、メルランヌは小さな噴水のある公園にたどり着いた。
「ちょうどいいわね。あそこで休みましょう」
と、メルランヌは鳥たちにそういう。ちちちっ、と鳴いて、鳥たちも同意する。噴水近くのベンチに腰掛ける。噴水から感じる涼しさが、肌に心地よい。メルランヌはパンを小さくちぎって、鳥たちにあげた。鳥たちがそれをついばむのを見ながら、葡萄酒をグラスに注ぐ。
「変わりつつある国に乾杯!」
小さくくすりと笑うと、午後の日差しを感じながら、穏やかな休息の時を楽しむのだ。
「……なるほど、大変だったんだな……って言うと他人事みたいで悪いが」
「いいや、いいんだよ。でも本当に、この世の終わりみたいだったよ」
朔は道を歩く老婆の荷物を持ってやりながら、かつての戦いの話を聞いていた。冠位魔種との闘い。傷ついた天義と言う国。それが今、こうして復興を遂げているのは、国民たちの並々ならぬ努力の結果だろう。
「俺はそう言うの知らなかったけど……この国が復興に頑張ってるのは分るよ。あんただって、その、色々大変だったんだろう?」
「そうさねぇ。おかげでこの国も色々変わったよ。それもいい事だとは思うけどねぇ」
そんな話を聞きながら、朔は道を歩いていく。
「ハッ……相変わらず、何の面白みもねえチンケな町並みだぜ!
だが、よくここまで建て直したとも言えるね」
グドルフがそう言うのへ、アーリアは笑った。
「ええ。外れの方の住宅地や商店の復興は遅かったイメージだから……。
そんな街がこうして活気を取り戻すのを見られるのは、嬉しいものよねぇ」
「これも、天義の人々の努力の結果なのだろうね」
モカがそう言ってから、
「しかし、私はこの国とは縁が薄いような気がするから、偉そうなことは言えないのだけれど。
この国で受けた仕事と言えば、以前シスターに変装して潜入し、オークどもから女性神官を救出した仕事くらいかな……」
「あら、それでも立派にこの国のためにやってくれたことだわ?
この国を代表してお礼を……なんて、言えた立場じゃないかしらぁ」
「ま、どうでもいいがね? それよりこれからどうするんだ? 俺は新しい店を開拓してもいいと思うがね」
「お酒! いいわねぇ。でも、今日はみんなで街を見て回りたいの。
それで、街の人達を手助けして、触れ合って……今の天義の街を肌で感じてみたいわぁ」
「なるほど、人助けか。まぁ、こういうのも悪くはない。民衆と触れ合うのも街の調査になる。
グドルフさん、そういうわけで、飲むのは後だ。仕事を終えてから、存分に、ね」
「あー、くそ、お預けか。ま、酒の前の運動と考えりゃぁ……」
「ふふ、ありがとぉ」
アーリアが微笑む。
「ねぇ、皆。私、思うの。
前の天義は決して逞しいとは言えなかったから、こんなにも逞しくいきいきしている天義は嘘みたいだ、って。
でも、嘘でも、幻でもないの。これが今の天義の姿。私は今の天義の方が、ずっとずーっと好きだわ!
みんなは、どう思う?」
その言葉に、仲間達は、笑って返すのだった。
●
「サントノーレ、ラヴィネイル、案内感謝する」
荷物を抱えたオライオンがそう告げるのへ、サントノーレは頷き、ラヴィネイルは笑った。
「いいえ、アドラステイアの皆のことを気にかけてくれて嬉しいです」
皆は、子供達の保護施設へとやってきていた。アドラステイアから保護された子供達のための施設だ。
「こんにちわ。此処での生活はどうですか? 不自由はない?」
子供達にそう笑いかける正純に、子供達は屈託のない笑みを浮かべて頷く。
「ここの子達は、比較的早めに真っ当な生活に順応できた子達だ」
サントノーレが言う。
「まだ洗脳が深い子や、イコルの影響が残っている子は、別の施設にいます……」
言外に、案内したくない、と言うような空気を、二人は感じた。拒絶しているのではない。苦しむ子供達を見て、辛い思いをしてほしくなかったのだ。
「オライオンさん、お付き合いいただけますか?」
「無論だ」
そう言う二人へ、ラヴィネイルは驚いた様子を見せた。
「ですが……」
「私達は、アドラステイアが行ったことのすべてを、知っておく必要があるとおもっています」
正純が言う。
「この国は変わったのだろう。俺は以前の天義は解らないが、こうして子供達を保護できるのなら、良い方向に」
「それは希望です。子供達にとって。この国は、捨てたものではない、生きる希望はあるのだと、少しでも伝えるために。
子供達の苦しみを、私達は知っておきたい」
「分かった。行こう」
サントノーレが頷いた。
「ああ、その前に……此処の子達に、お菓子を配ってからにしましょう」
正純の言葉に、オライオンが頷く。
「ああ。せっかくここまで運んだんだからな」
二人の様子に、ラヴィネイルは微笑んだ。希望はきっと、ここにあるのだと。
夜――アドラステイアを臨む丘の上。希は一人、アドラステイアを睨む。
新しい情報はまだない。内部へと至る手段も。歯がゆい。だが――今は、待つしかない。
「……今頃盛大に旅人の大召喚を呪ってるんだろね?
水差してやろっ」
希はバッグから花火を取り出すと、横に並べて順々に火をつけた。破裂音と共に、空に花火が撃ちあがる。
緑の煙に、白の光。スズランをイメージした花火。
その花言葉は、再び幸せが訪れる。
幸せは、再び訪れるのだろう。天義にも、アドラステイアの子らにも。
その幸せの運び手は、間違いなくイレギュラーズ達だ。
彼らの幸せは、イレギュラーズ達の手にかかっている。
しかしいまは、全ての人に再びの幸せの訪れを。
祈ってやまない。
成否
大成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
ローレット・イレギュラーズの皆様。
四周年、本当にありがとうございました。
これからの一年も、また厳しい戦いが待っていることと思います。
しかし、どうか来年も、この地で皆と笑いあえますことを。
GMコメント
Re:versionです。四周年ありがとうございます!
今回は昨年同様、特別企画で各国に分かれてのイベントシナリオとなります。
●重要:『ローレット・トレーニングIXは1本しか参加できません』
『ローレット・トレーニングIX<国家名>』は1本しか参加することが出来ません。
参加後の移動も行うことが出来ませんので、参加シナリオ間違いなどにご注意下さい。
●成功度について
難易度Easyの経験値・ゴールド獲得は保証されます。
一定のルールの中で参加人数に応じて獲得経験値が増加します。
それとは別に『ローレット・トレーニングIX』全シナリオ合計で700人を超えた場合、大成功します。(余録です)
まかり間違って『ローレット・トレーニングIX』全シナリオ合計で1000人を超えた場合、更に何か起きます。(想定外です)
万が一もっとすごかったらまた色々考えます。
尚、プレイング素敵だった場合『全体に』別枠加算される場合があります。
又、称号が付与される場合があります。
●プレイングについて
下記ルールを守り、内容は基本的にお好きにどうぞ。
【ペア・グループ参加】
どなたかとペアで参加する場合は相手の名前とIDを記載してください。できればフルネーム+IDがあるとマッチングがスムーズになります。
『レオン・ドナーツ・バルトロメイ(p3n000002)』くらいまでなら読み取れますが、それ以上略されてしまうと最悪迷子になるのでご注意ください。
三人以上のお楽しみの場合は(できればお名前もあって欲しいですが)【アランズブートキャンプ】みたいなグループ名でもOKとします。これも表記ゆれがあったりすると迷子になりかねないのでくれぐれもご注意くださいませ。
●注意
このシナリオで行われるのはスポット的なリプレイ描写となります。
通常のイベントシナリオのような描写密度は基本的にありません。
また全員描写も原則行いません(本当に)
代わりにリソース獲得効率を通常のイベントシナリオの三倍以上としています。
●任務達成条件
・真面目(?)に面白く(?)トレーニングしましょう。
・天義の街で、楽しく過ごしましょう。
●GMより
お世話になっております。洗井落雲です!
PPPも四周年となりました。皆様本当にありがとうございます。
此方では、天義での休日となっております。
順調に復興しつつある天義の街にて、一日をお過ごしください。
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