シナリオ詳細
<ヴィーグリーズ会戦>あの丘に、夢は潰えて
オープニング
●残夢
夢を見ている。そう、これは夢の話だ。君たちには何の益もない話だよ。だから読み飛ばしてしまえばいい。
――子供の頃は、病気で臥せってばかりいた。その事を現すように、病的なまでに白い肌は大人になった今もそのままだ。
父も母も、僕には勇敢さを求めた。バランツ家の貴族は昔から勇猛で知られ、ミーミルンドの家を守ってきた家系でもあったからだ。クローディスと言う名も、何代も昔のバランツ家の当主の名から頂いたらしい。その人も、勇猛果敢な人物だったとか。
そうだ。僕にはそもそも、僕自身の名前なども無いのだ。誰もが僕を、クローディスとしてみるのだ。誰も『僕』を見ないんだ。
「貴方はベルナール様の右腕となるのよ」
母はそう言った。
「そのためにおまえは強くならねばならん」
父はそう言った。
誰も僕を見ない、父と母が見ていたのは、自分たちの理想と言う曇り眼鏡で、目の前にいる貧弱な出来損ない見る事だけだった。
お前はクローディスの名をいただいたのだ。誰が頼んだんだ!
お前は強く、強くあらねばならん。誰が望んだんだ!
どうしてお前は身体が弱いのだ。僕にだってわからないよ!
どうしてお前はそうなってしまったのだ。僕が望んでそうなったって言いたいのか!
違うのだろう。そうではないのだろう。父も母も、幸せになりたかっただけだ。人間は誰もが幸せになりたくて生きている。その幸せになるための条件に、僕では不適切だったというだけなのだ。
まるでそうなるのが当然であるかのように、僕は健康的な人間を憎んだ。とりわけ、肌の浅黒い、自ら太陽の下で生きているのを自慢するみたいな奴らが嫌いになった。リル、アンジェロ、彼らの様な――。僕の肌は白い。日に焼ける事すらないほどに。これはたぶん、嫉妬だったのだろう。だが、知った事じゃなかった。誰もが幸せになるために、他人を自分の理想に押し込めようとする。だから僕もそうしただけだ。
そうだ、自分の理想と言う額縁に、自分の理想となる人物を飾る。誰もがやっていることだ。……でも、僕には、誰かのそこに飾られる資格はなかった。とりわけ、父と母の理想の額縁に、僕が入る事はなかった。
父も母も失意のままに死んだ。多分、絶望に耐え切れなくて衰弱したのだろう。いい気味だ、とは思わなかった。むしろ哀れだと思っていた。僕はそのころにはようやく、貧弱な体でも人並みに生活できるようになっていた。ベルナール様と出会ったのはバランツの家を引き継いで、初めて挨拶に行った時だった。
「バランツの家の者と聞いていたけれど」
ベルナール様は言った。
「雪のような白い肌。綺麗じゃないか。私は好きだよ」
ただの社交辞令だったのかもしれない。いや、僕を良く知らぬが故に、ただ分かりやすい外見を述べただけかもしれない。
ただ、そう言われた瞬間、僕は……なんだか救われたような気がしたのだ。
ベルナール様。マルガレータ様。この人達は、僕自身を見てくれるのではないかと。それは思い上がりであったかもしれないけれど、そう思ったのだ。
だから僕は、精力的にミーミルンドに尽くした。それはある意味で、皮肉にも両親の夢見た関係であったのかもしれないけれど、クローディスではない僕が、僕として真摯に彼らに尽くそうとした、それが初めての事だったのだ。
ある時、マルガレータ様が亡くなった。事故だと聞いていたが、嗚呼、知っている。謀殺されたのだ。幻想と言う国に。
誰もが理想を額縁に描く。幻想と言う理想の額縁に、僕たちは必要ないのだと言われた気がした。
だったら……僕たちが夢見る額縁の中に、こんな連中などいらないのだ。
穢し尽くしてやろう。塗りつぶしてやろう。お前達が理想とする、この華やかな幻想と言う額縁の中を、僕の憎悪と言う汚泥で塗りつぶしてやる。
何をしても。
何を為しても。
その真っ黒な額縁の中に。
ベルナール様が新しく絵を描けばいい。僕と、ベルナール様と、マルガレータ様と、皆が。
笑っている、絵を、描けば。
それでいい。
その下に億万の死体が埋まって居ようとも。
僕たちが、笑えれば。
ベルナール様が、そうしようと『呼び声』をあげる。
だから僕は、その声を――。
●ヴィーグリーズ会戦
「元々は、幻想の奴隷市の元締めを追っていた私達ですが。随分と大きな流れに巻き込まれることにになったものですね」
イレーヌ・アルエはそう言って苦笑してみせた。幻想中央大教会の一室。そこにいるのは、イレーヌや、ヨハン=レーム(p3p001117)、ウェール=ナイトボート(p3p000561)、志屍 瑠璃(p3p000416)といったローレット・イレギュラーズ達、そして未だ負傷中のウィルフレッド・フォン・ジーグの姿だ。
「奇妙な縁ですね……そう考えると、今回の僕は、イレーヌさんに使われ続きですね? 専属にするなら報酬は高いですよ?」
からかうように笑うヨハンに、イレーヌは微笑んだ。
「あなたが専属になってくださるなら……と思いましたが、ヨハンさんを引き抜いたりしたら、鉄帝の方が黙って居ないでしょう。それより、現状を簡単にご説明いたしますね。
昨今幻想を騒がせた大奴隷市や、古代獣、巨人たちの進撃。それらの背後にいたのが、ミーミルンド家を首魁とする、ミーミルンド派の貴族たちです。
皆様ローレット・イレギュラーズの活躍により、その目論見はすべて阻止されましたが、ここに至って、ミーミルンド派による一斉蜂起の情報がもたらされたのです。
国王としてもこれは見逃せず、ミーミルンド派一層のための決戦をご決意されました――と言うのが、現在の状況です」
「なるほど……結局、一連の騒ぎも、一部の貴族たちによる暗躍があったという事か……」
ウェールが言う。
「平和に見えても……水面下で人の悪意と言うものは濁り、水を汚すものなのだな……」
「それに関しては、末端に居た僕としても申し訳ない限りです」
ウィルフレッドが言った。元々は、ミーミルンド派閥に属してたジーグ家の当主である。
「ぼくのようなものはさておき、ミーミルンド派閥の結束は強い。恐らく彼らは、最後まで抵抗を続けるでしょう」
「ウィルフレッドさんからもたらされた情報によれば、彼らは王権のレガリア、角笛を所持しているのでしたね?」
瑠璃が言う。
「盗み出したもののようですが……しかし、王権を持っているとすれば、こちらの貴族も日和見に出るものがいるのではないでしょうか?」
「可能性は高いですね」
ヨハンが言った。
「腐っても……と言うか、腐ってるのが幻想貴族ですから。大々的に派兵を拒否したりはしないでしょうが、色々理屈をつけて出遅れたりするのでは?」
「耳が痛いですね」
ウィルフレッドが苦笑した。
「その可能性は十二分に。故に、私達でもできることをしようと思います」
イレーヌの言葉に、皆は頷いた。
「今回は、戦争の参加ではなく、『罪人クローディスの捕縛』のために、中央教会の僧兵、そしてジーグ家騎士団の派兵を行います。これはもちろん、建前ですが。そして、中核になるのは、もちろんローレットの皆さまです」
「寡兵にて申し訳ありませんが」
と、ウィルフレッド。
「これでも、我が家に残ってくれた忠義の騎士たちです。50名ほどですが、使ってやってください」
「こちらも、すぐに動ける僧兵をかき集めて50名。総勢100名が、皆さんと行動を共にします。目的は、先ほど申し上げた通りクローディス・ド・バランツの指揮する軍です。そして、皆様、特に勇者であるヨハンさんとウェールさんには、部隊の旗印として活躍していただきたいと思います」
「勇者、か」
ウェールは苦笑した。
「身に余る名誉だと思ったが……なんだか上手く使われてしまっている気がするな」
「なんとも幻想らしい話ですね! たってるものは勇者も使う……いや、立ってるから使うんでしょうね」
ヨハンが肩をすくめる。
「何でも構いません。それで事が動くのでしたら、何でも利用しましょう」
瑠璃の言葉に、ヨハンとウェールが頷いた。
「それでは――どうか皆さん、お気をつけて」
イレーヌの言葉に、イレギュラーズ達は頷いた。
●決戦の時
ヴィーグリーズの丘。ミーミルンド派は布陣するその右翼側本陣に、クローディスの姿があった。
「来るのか……どいつもこいつも! いいさ、ここで皆殺しにしてやる……!」
そう叫ぶクローディスの眼には、魔の者の輝きが確かにあった。
一方、クローディスと相対するのは、ローレット・イレギュラーズと中央教会僧兵、ジーグ家騎士たちの軍勢である。
「いよいよ開戦ですね」
瑠璃が言った。
「それでは、檄を飛ばしていただければ。よろしくお願いしますよ、勇者様」
からかうように言う瑠璃へ、ヨハンとウェールは苦笑した。
「あまりそう言ったものは得意ではないが」
「ま、期待されてることはやりましょうか」
ヨハンはすぅ、と息を吸い込むと、
「ここで大罪人、クローディス・ド・バランツを討ち取ります! 全軍、構え!」
『応!』
僧兵、騎士達が鬨をあげた。
「突撃!」
ウェールが叫ぶ。同時に、全軍が雄たけびを上げて、戦いの野に解き放たれたのである。
- <ヴィーグリーズ会戦>あの丘に、夢は潰えて完了
- GM名洗井落雲
- 種別決戦
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年07月07日 22時05分
- 参加人数100/100人
- 相談6日
- 参加費50RC
参加者 : 100 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(100人)
リプレイ
●開戦
ヴィーグリーズの丘。多くのイレギュラーズ達が戦い続ける決戦の場に、幻想中央教会の僧兵50名、ジーグ家騎士50名、そしてイレギュラーズ総勢100名の、200の軍勢が斬り込んでいた。
目標は、敵幹部、クローディス・ド・バランツの首!
「私達が負ければ……敵の部隊が、他の戦場に援護に向かう可能性がある。
それに、この気配……魔種が居ますね。恐らく、クローディスか……」
瑠璃が呟く。煽情に満ちる禍々しい気配は、魔種の存在を示していた。
「となれば、なおのこと負けるわけにはいきませんね。
魔種退治はイレギュラーズの使命なのは確かです」
ヨハンが言った。魔種が関与しているとなれば、敗走は許されないというわけだ。
「なら……始めるぞ、皆」
ウェールの言葉に、多くの仲間達が頷く。とりわけ名のある勇者としての名誉を持つウェールは、すぅ、と息を吸い込むと、
「我が名はウェール=ナイトボート!
真のブレイブメダリオンを持つ勇者の一人!
これ以上の無辜の民の犠牲が出るのを防ぐ為、
今は会えぬ息子に恥じぬ父親でいる為、
この戦いに全力を尽くす!
ジーグ家の騎士達よ! 中央教会の僧兵達よ! 貴殿らの力を貸してくれ!」
その叫びに、ジーグ家の騎士たちが、僧兵達が、鬨をあげる!
おう、おう、おう! おう、おう、おう! 戦場に響く鬨の声!
「行きますよ、皆さん! 全軍、攻撃を開始してください!」
ヨハンの叫びに、再度鬨の声が上がる。同時に、仲間達は一気に駆けだした。前方には、巨大な巨人、そしてミーミルンド派の騎士たちが見えて、あちらも雄たけびを上げて突撃してくる!
ローレット軍はそれを迎え撃つために、三つの部隊に戦力を分けた。つまり中央、右翼、左翼の三部隊である。右翼、左翼の部隊で敵を包囲しつつ引き付け、中央部隊が大将の首を獲る布陣だ。
「右翼、左翼の指揮は私達が」
瑠璃が言うのへ、ヨハンが頷いた。
「では、中央に向かいます。お二人とも……いえ、全員、ご無事で!」
「そちらもな。終わったら食事でもとろう」
ウェールが言う。かくして勇者と呼ばれた者たちもまた、戦場へと向かい、戦いに身を投じたのである。
●巨人との決戦
左翼僧兵部隊。主に巨人との闘いを担当するこの部隊は、この戦場でも激しい戦いが繰り広げられていたともいえる。
「やれやれ、僧兵を守る羽目になるとはね。美少年向きだけれど、ボク向きではないな」
巨人の群れの前に立ち、うっすらと微笑を浮かべるセレマ。その姿に死神騎士の影が重なった瞬間、振り下ろされた巨人の拳が、セレマを潰す――否、その事象すら否定するかのように、セレマは穢れなき儘立ち続けていた。
「叫べ! スウィンバーン! 天秤は傾ける命を、残らず平らげてしまえ!」
振るわれる剣が、巨人を切り裂く――死神の刃は逃すものなく、巨人を次々と刈り取っていった。
あっけに取られていた僧兵達が息をのむ。が、すぐに頭を振ると、
「ローレット・イレギュラーズ達への援護を続けろ! 少しでも彼らの力になるんだ!」
応、と言う声と共に、僧兵達から活力を漲らせる祈りが飛ぶ。その後押しを受けて、イレギュラーズ達は一気に巨人たちへと斬り込んだ。
「さあ皆、ここが大一番だよ! きっちりばっちりやっつけて、悪い奴らの企みを完璧に叩き潰しちゃおう!」
クンプフリットの言葉に、部隊からも応じる声が上がる。一方、飛び出したのはナイアルだ。手にした魔剣を振るい、巨人を深く斬りつける。
「続いてくれ」
ナイアルの言葉に、クンプフリットが頷く。
「おっけ! 行くよ!」
放り投げたびっくり箱が巨人の眼前ではじけて、様々な災厄をその身体にもたらせた。苦悶にうめく巨人を、ナイアルの斬撃が刈り取っていく。
「さぁ、参りましょう、僧兵の皆様」
そう告げて、手にした杖を掲げるのはクリストフだ。
「さかさまの聖域、死に至る奇跡をここに」
掲げた杖より放たれる聖なる死の奇跡が、巨人たちをからめとり、その神聖なる死の淵へと引きずり込んでいく。巨人が倒れたる次から、新たな巨人がやって来るが、
「はぁ……じゃあ、やるか」
ゆっくりと立ちはだかるのは狛斗。だらりと下げた両手を、ゆっくりと構える。
信念などは、狛斗にはない。戦って死んだという両親、自分も此処で踏ん張れば、その理由が、想いが、分かるのかもしれない。そんな理由で、戦場に立つことを、誰が笑おうか。誰が厭おうか。それもまた、戦場に立つ立派な理由なれば。
「行くぞ」
静かに呟き、駆けだす。巨人が迎え撃つのを、狛斗は殴り返した。
「決着を、つけるべき方々が、辿り着けるように……此処は通しません、よ」
閠は黒布越しに巨人を見やると、指揮棒をゆっくりとかざした。途端、無数の疑似生命が現れ巨人たちへと向かって突撃していく。疑似生命たちが巨人の身体に登り、強かに殴りつける。足元から迫る痛みに、巨人は暴れた。
「戦線の維持には、命を使い捨てるのは、むしろ、不利を招きます、から……誰一人とて、死なせはしません」
指揮棒を強く振るう。そのたびに、疑似生命たちが兵隊のように規律よく巨人たちへと飛び掛かっていく。
「貴族のゴタゴタは正直、飯の種だけどさー! 小さい子を奴隷って騒ぎ、怒ってるんだからね!」
ユイユは声をあげ、戦場を駆ける。追う巨人たちは、ユイユに追いつくことはない。
「もふーん! 追いかけっこなら自信があるよ!」
距離を取り、跳びながら放つ銃弾が、巨人の眉間に穴を穿った。ぐらり、と揺れた巨人が、どう、と倒れ伏して動かなくなる。
「じゃあ、やろうか。幾許か久しぶりの戦いだ、暫く身体を暖めるのを手伝って貰うよ」
千歳の、二振りの妖刀による目にも止まらぬ斬撃が、巨人の肌を撫で斬りにしていく。人相手なら7回は死んでいたであろう斬撃が複数の巨人たちに浴びせられるが、巨人たちはかろうじて息をしているようであった。
「そう簡単に倒れてくれる相手じゃないのは解っていたけど、これは斬り甲斐があるね」
うっすらと笑い、千歳は跳躍。再度妖刀を振りぬく。首を狙ったその斬撃が奔り、巨人の首が落下する。
ずん、と音を立てて堕ちたその首の横を、リズリーが走る!
「首(トロフィー)だ! アタシもあやかりたいもんだね!」
にぃ、と笑い、支援の力を受けながら、リズリーは跳んだ。轟風のように大剣を振り回す。大剣は巨人の顔面を切り裂いて、その生命活動を停止させた。
「一匹! ハッ、まだまだうじゃうじゃいるみたいだけど――来な。全員纏めて相手してあげるよ!」
轟風は止まらない。それは他のメンバーとて同様である。
「ふん、巨人共か。相手にとって不足無いわい!」
ゲンリーが手にした武器を高々と掲げた。勢いと重さを乗せた一撃が、巨人の膝頭を叩き割る。体勢を崩した巨人が膝をつくのへ、後方より飛来した銃弾が巨人の顔面へと突き刺さった。
「敵、巨大、鴨射。的、大、楽勝」
シャノの銃撃である。
「やるな、銃撃ち!」
にぃ、とゲンリーが笑い、顔面を抑えて苦しむ巨人の後頭部へと武器を叩きつけた。勢いのまま地面に突っ伏し、そのまま動かなくなる巨人。
「豪胆。見事」
驚いたように目を丸くするシャノ。しかしすぐにスナイパーは次なる獲物へと視線を巡らす。その視線の先には、スナイプとは真逆、面制圧の如き弾幕を張り巡らせる、フォウリーの姿がある。
「いやっほう! 的がでかい上にたくさんいるから、どこに撃ってもあたるじゃない☆ 最高っ♪」
大義だの、ドロドロした鬱憤だの個人事情だのはフォウリーには興味がない。世界はシンプルイズベストだ。つまり楽しければ全部良し!
「えっちーなシスターさんやお坊さんは援護よろしく! 今日は用意した弾薬が空になるまで撃ちまくっちゃうぞ☆」
驟雨の如き弾幕が、巨人の身体を穴だらけにした。一方で、巨人とて黙ってやられているわけではない。炎や毒等の属性を持つ巨人の吐くブレスは戦場を染め、戦場は混沌とした様子を見せる。
「僧兵の皆さんは、あまり前に出ないでください。攻撃は、わたしたちに任せて。どうか、敵の攻撃の当たらぬ範囲に」
背後に僧兵達を庇いながら、牧は跳躍した。刹那、それまでいた場所に敵の拳が落着する。それを回避した牧が放つ闘気の糸が、巨人を縛り付け細切れに斬り捨てた。
「一体……仕留めました」
その死亡を確認しつつ、牧は次なる標的に向かって跳ぶ。その後ろ姿を見ながら、ノット・イコールは僧兵達を守る様に立ちはだかる。
「僧兵さん達には犠牲は出したくないからね……それに、癒し手の生存はこの戦いのキーになるはずだ」
近寄ってきた巨人を、ノット・イコールはその巨体の虚をつくことで体勢を揺るがした。そのまま巨人は自重を支えきれぬように地に叩きつけられ、大地に転がり、動かなくなる。
「さぁ、かかってくるといい。僧兵さん達には指一本触れさせない!」
僧兵達を守ろうとするのは、ニルも同様だ。僧兵達に迫る巨人たちの間を飛び回りながら、手に輝く闇の月の光で以って、巨人たちを圧して迎撃する。
「ニルは、皆さんを守ります……!」
決意の言葉と共に、その手を高く掲げた。闇の月の輝きがひときわ強くなり、巨人たちを圧し返していく。
「……かなしいのは嫌なのです。
だから、ニルは、がんばります!」
ニルの生み出した敵の隙をつくように、巨大な黒の顎が巨人に食らいつく。
「うぃーんうぃーん。どーん」
と、僧兵に抱えられた扇風機……ではなくてアルヤン 不連続面が、羽を全開に回転させながら攻撃を敢行する。扇風機の羽から放たれる黒の大顎は、巨人に次々と食らいつき、地に倒し、消滅させていった。
「首があれば刎ねれば終わり、簡単なことウサ」
僧兵の近くで戦っているのは、ばにだ。手にした斧を、頭の耳を振って、巨人の首を斬り落とす。
一つ振るえば一つが落ちる。
二つ振るえば二つが落ちる。
「遅い遅いウサ~」
ぴょんぴょんと飛び回りながら、攻撃を続けるばに……たまにこけて僧兵に治療してもらっているのはご愛敬。僧兵達はイレギュラーズ達に護られて、損失は存在しないレベルだ。
「デカかろうが、硬かろうが関係ありません。
私の剣は、速いですからぁ」
そう言う鏡の周囲に、刹那の剣閃が奔る。目にも止まらぬ、とはまさにこのことか。果たして放たれた刃は人の目に視認されることなく、敵を斬り、そして再び鞘へと戻る。その閃光が輝いた後には、ただ巨人の屍が晒されるのみ。
「さぁ、楽しませてくださいよぉ? まだまだ斬りたい相手は居るんですからぁ」
うっすらと笑みを浮かべ、剣鬼は巨人たちを切り裂く。
「ダァーッハッハッハ!!決戦だってなあ、良いぜぇ、俺様の活躍の時って奴だ!!」
一方、巨人たちへと深く斬り込むのはバルバロッサだ。巨人の顔面へと飛び込み、思いっきり毒霧をお見舞いしてやる。吹き出した紫色の毒霧が、巨人の顔面を潰した。
「俺ぁよ、馬鹿だから良く分からねえけどよぉ。この戦いは俺達が勝たせて貰うぜ!」
そのまま顔面を蹴り飛ばす。バランスを崩した巨人が転倒。大地が揺れるのへ、
「巨人。このような無駄に馬鹿でかい御仁ともなれば、魂の大きさは如何程なのでございましょう?」
上空より飛び込んできたのはアンゼリカだ。手にした剣を、その勢いのままに巨人の額へと突き刺し、
「どれ、ちょっと割って確かめてみると致しましょう」
そのまま頭部を裂く。巨人は一度痙攣すると、そのまま動かなくなった。
「なるほど、なるほど。一つではわかりませんねぇ、はい。
一つでダメなら二つ。
二つでダメなら三つ。
割ってみましょう。確かめてみましょう」
アンゼリカはうっすらと笑いながら再度跳躍。振り下ろされた巨人の拳を回避。その巨人へと反撃を仕掛けたのは、コゼットだ。ウサギのそれを思わせるような強烈な一撃。額を蹴られた巨人がぐらり、と上体を揺らして、飛び跳ねるコゼットをターゲット。
「きょじんさん、こっちだよ」
コゼットがその耳をゆったりと揺らしながら言うのへ、果たして巨人が集まってくる。しかし、その大ぶりな攻撃は、コゼットを捉えるには至らない。
「コゼットさん、そのまま敵をまとめて!」
オルスタンツが剣を掲げて突撃。コゼットと入れ替わる様に敵の真中へ。
「幻想の国に生まれた以上はこの国の問題は可能な限り、私達で解決してみせるわ!
さあ、行くわよ! 私の剣──存分に受けなさい!」
振るわれる剣戟の嵐が、巨人たちを滅多打ちにする。暴風の如き剣戟に、周囲の巨人たちが次々と切り伏せられ、
「寄越せ、その動力を。寄越せ、その生命を。骨の髄までしゃぶり尽くしてやる」
トドメとばかりに、その触手で食らいついたのはショゴスだ。粘液性の触手をばくり、と大口を開けて、巨人の頭部を飲み込み、引きちぎる。
「テケリ・リ」
ショゴスは笑う――そして食事を続ける。
ローレット・イレギュラーズ達の進撃は、巨人のそれに勝るとも劣らぬ――いや、明確に勝った勢いである。
「信じられない……あの巨人を相手に、ここまで圧しているなんて……!」
イレギュラーズ達の実力を疑っていたわけではないが、僧兵達もその勢いにさすがに驚きの声をあげる。そして、戦う彼らの姿は、僧兵達の士気をいやがおうにも上げるものであった。
「ハゲの人達も頑張ってるっす! 助かってるっすよ!」
魔力の砲撃を打ち込みながら、フェアリが笑いながらそう言う。ハゲの人達、つまり僧兵のことらしい。禿頭の者が多いのが理由だろうか。
「ハゲの人達の力も借りて! いくっすよーあたし! 必殺! なんとかビーム! ……っす!」
撃ち込まれた魔力の光が巨人の身体を撃ち貫き、粉砕する。留まるところを知らぬ砲撃が、次々と巨人たちを貫いていった。
「僧兵の人達は、あまり前に出ないでね……ちゃんんと、俺達が守るから……!」
ドゥーが叫び、その手を掲げる。途端、四方より迫る土壁が巨人を包み込み、そのまま土葬してみせた。
「勇者騒動とか、幻想貴族の事情とかは、俺にはわからないけど、沢山の人が死ぬかもしれないって言うなら……!」
戦う理由は充分にある。ドゥーは再びその手を掲げて、巨人たちを土葬した。
「僧兵の皆さん、私も回復支援に回りますっ!」
紫紡がそう言うのへ、僧兵隊長が頷いた。
「助かります! 共に戦線を支えましょうぞ!」
僧兵隊長の言葉に、紫紡は頷いた。そびえたつような巨大な巨人の影に、些か緊張しながらも、
「手が震えてる……ここは戦場、気は抜けないけど、今出来ることを精一杯やるっ……ただそれだけ!!!」
その手を組んで、静かに祈りをささげる――僧兵達も続くように祈りをささげた。降り注ぐ奇跡が、仲間達の傷を癒し、その背を押した。
「お怪我はこれで大丈夫。いってらっしゃい、みなさん。ワタシ、応援しているわ」
僧兵達と共に、仲間の回復を担当しているのは、ポシェティケトもそうだ。
「僧兵のみなさんは、このままの位置を保って。ワタシは少し前に出て、みなさんの援護にむかうわ」
ポシェティケトの言葉に、
「お気をつけて!」
僧兵がそう言うのへ、ポシェティケトはゆっくりと微笑んだ。
回復の層は厚く、今のところ脱落者が出るような様子はない。それは、ポシェティケトらをはじめとするメンバーが、しっかりと戦線を支えていたという事でもある。
「陣形を組んで、効率的に回復を行いましょう」
P・P・Pが声をあげ、僧兵達をまとめ上げる。
「私たちは突出せずに。あくまで後方支援に徹してください……マテリア君、空からみて、状況はどうでしょうか?」
「順調だよ」
上空からは、戦場を俯瞰して見つめるマテリアの姿があった。
「人は夢のために生き、夢のために死んでいく。それは理解出来る。
しかし、夢潰えて尚縋る者は他者の夢を喰い潰すのみ。まさに悪夢だ。
さあ、悪い夢から醒ましてやろう」
呟き、眼下の部隊へ情報を共有する。その横にもファミリアーたちが飛び、上空から戦場を確認している。
「ニャー、パーフェクト、俺が前に出て盾になる! 攻撃を頼むぞ!」
アンファングの叫びに、
「了解だにゃー!」
「クハハハ! 我らが極光にて倒れるがいい!!」
合わせるように、同時に手を掲げたニャーとサーヴァント。その手から打ち上げられた光が、裁きの聖光となって、戦場に次々と着弾。空から降り注ぐ光が巨人たちを打ち据え、その身体を焼いていった。
「さぁ、こい! お前達の攻撃は俺が受け止める!」
アンファングは盾を掲げて、振り下ろされた巨人の拳を受け止めて見せた。がぎん、と音が鳴って、盾がきしむ。圧力に耐えながら、アンファングは歯を食いしばった。
「今だ、もう一度撃て!」
「アンファングにゃんの頑張り、無駄にしないにゃー!
ニャーはただの猫で、ぶっちゃけると部外者だにゃー。
でも、幻想の街を散歩するときに、皆が暗いかをしているとしたらそれは嫌だにゃー! だから!」
「人と人との戦争は怖い……けど、混沌に召喚された自分には、運命を変える力がある! だから!」
二人は再度、手を合わせて掲げる。再び打ち上げられた光が、裁きの光が、巨人たちを貫き、その活動を停止させた。
「真鶴が次女、美織に御座います。どうか、お覚悟をして下さいます様に」
一方、美織は刀を抜き放ち優雅に跳躍。流れる様な所作で、巨人を一刀両断に切り裂いた。真ん中から真っ二つに切り伏せられた巨人が分割して倒れ伏し、ずぶずぶとその死体を地に溶かしていく。
「戦働きは私共の種族にとっては生業の様な物。きっとお力になる事が出来るでしょう」
うっすらと笑い、美織は再び刀を振るった。そのたびに、敵は文字通りに一刀両断された。
「おお、でかいのうでかいのう! 本当にこやつらとやり合わねばならんか? わし、かよわいんじゃが」
白妙姫は意地悪気に笑うと、しかしするりと刀を抜き放った。
「仕方ないのう、これもお仕事じゃからなあ?」
跳躍。巨人の毒のブレスを切り裂いて、白妙姫の刀が光る。閃光が巨人の眼を切り裂き、激痛に巨人が目を抑えた刹那、横合いから放たれた銃弾が、巨人の眉間を撃つ。
「おおっ、すないぱあか?」
白妙姫が視線をやれば、そちらには銃を構えていた奏の姿があった。
「悪いわね。私は英雄だとか、勇者って感じじゃないから」
「好い、生き残ればこその戯言よ」
にぃ、と白妙姫は笑った。刀を抜いて再び跳躍。その後を、奏の銃口が追った。
イレギュラーズ達の奮戦により、巨人たちはその勢力を徐々に追い込まれていく。敵の数は確実に減っていき、その勢いも衰え始めた。
「暗躍の終わり決戦の時という訳か。
力で物事を解決しようとした時点で勝敗を決まったようなものだわね」
硝煙たなびかせるライフルを構えながら、ナインは呟いた。
「結局、主義主張関係なく強い方が勝つことになるんだから。悲しい話ね」
自嘲気味に言いながら、次なる敵にポイントする。主義主張を通すためにも、力というものは必要になってしまうのかもしれない。
いずれにせよ、この場において、力を持っていたのはローレット・イレギュラーズ達であることは確かだった。
「もう少しだよ! 頑張って! 攻撃は最大の防御だー!」
咲良が前線を圧し支えながら、そう叫ぶ。敵の攻撃を受けつつ、巨人たちをその場に足止めをした。
「こんなバカげた戦い、ここで終わらせなきゃなんだ! だったら、まだまだ戦ってみせるよ!」
咲良が、振るわれた巨人の拳を受け止めた。衝撃が周囲に走る。痛みに顔をしかめつつ、
「咲良殿! 一人でダメなら二人であるぞ!」
と、ローガンが飛び込んできて、騎士盾を構えた。敵の攻撃を分散するように自己で受けながら、戦線を維持する。
「にゃんにゃんは近寄らないようにするですよ」
『怪我したら元も子もねえからな』
テラとマリスがそう言うのへ、にゃんにゃん……鈴音は尻尾をぶわっとさせながら、
「にゃんにゃん……はっ! 鈴音の事ですにゃ?!」
と声をあげる。そんな三人の元にも、生き残った巨人はやってくる。テラはその手に炎の大扇を生み出すと、巨人を薙ぎ払うべく跳躍。その扇を振るい、巨人を打ち据える。
「へいメディーック」
「テラちゃんがエネルギー切れですにゃ!」
しゅばっとタクトを構え、エネルギーを充填する鈴音。
『ひゃっはーエネルギー充填だー』
気力充填、再度振るわれる炎の扇が、巨人たちを薙ぎ払い、焼き尽くした。
「よし、一気に押し込んで!」
カティアが叫ぶのへ、ザハールが飛び込んで、戦槌を巨人の頭にたたきつけた。頭を潰された巨人が横転、そのままぐずぐずと消滅していく。
「はっはっはー! 政治とか権力とかさっぱりわかんねーけど、なんかめんどくせーもんだってことだけはわかったぜ! それでも、こうやってぶん殴っとけば俺の仕事は完結するって事はよぉ!!」
「やれやれ、ザハールさんは野に解き放って、魂の赴くがままに動いて頂くのが効率的にも周囲の精神衛生的にもよろしいのでは……確かにそう言いましたが、まさか本当に、それが一番効率がいいとは」
此花の言葉に、カティアは苦笑した。
「まぁ、実力を発揮できるならそれでいいんじゃないかな……それより、もう一押しだ。けど、ザハール、此花、最後まで気は抜かないで」
「任せろ! 最後まで暴れてやるよ! 右を殴ればいいのか? 左を殴ればいいのか!?」
「ああ、もう、好きにしてください、ザハールさん!」
此花も軍刀を抜き放ち、残る巨人たちに斬りかかった。果たしてそれから少しの後に、地を闊歩する巨人は姿を消していたのである。
●人と、人との闘い
一方、戦線、右翼側。此方にはジーグ家の騎士50名を率いる、30余名のイレギュラーズ達の姿があった。
「ジーグ家騎士隊、50名。これよりローレット・イレギュラーズの皆様の指揮下に入ります」
騎士の一人がそう告げつつ、苦笑した。
「ニコライが悔しがっていましたよ。怪我を忘れて飛び出してきそうな勢いでした」
「です、か。あの人らしいですね」
くすりと笑いながら、しかし次の瞬間にはその表情を引き締めて、瑠璃は言った。
「民を守った者として私は勇者のメダルを受け取った。
ゆえに私は勇者で。ならば、守るべき誰かの家族を共に背負い、最大級の危機に立ち向かう我々は皆、等しく勇者だ」
その言葉に、多くの仲間達が、騎士たちが、ゆっくりと頷いた。
「行きましょう。これは、勇者の戦いです」
「おう!」
騎士達が鬨をあげる。イレギュラーズ達が駆けだす! 同時、騎士の一人が叫んだ!
「全軍突撃! 勇者たちに後れを取るな!」
おう! 声と共に、騎士達もまた駆けだす。前方には百を超えるミーミルンド派閥の騎士たちの姿がある!
「数の上では劣勢。だが、それを覆すほどに力と勇気が、我らにはある! 勇者を讃えよ! 勇者と共にあれ!」
「では一番槍はいただきましょう!」
アルプス・ローダーが先陣を切って、誰よりも早く戦場を突っ走る! アルプス越えのその名を持つ、ならばこの程度の丘などは、舗装道路のようなもの!
全速力の速度を乗せた機体が、ミーミルンド派閥の騎士たちを轢き飛ばす!
「う、おっ!?」
ミーミルンド騎士たちがフッ飛ばされるのをしり目に、しかしその場にその車体は既に存在しない!
「なんであるかあのはっやいのは! 余の援護をぶっちぎっていきよった!」
と、叫ぶのはトルテだ。その姿は平素のそれではなく、ものと世界のあるべき姿に、薔薇城の魔王としての姿を現していた。
「ええい、ここから仕切り直しじゃ!
勇者だけではない。異界の魔王たる余も手を貸してやるのだ。
魔種が何するものぞ! その企みごと食い破ってくれようではないか!」
魔力銃を構え、引き金を引くや、その銃口から放たれる氷結のルーン。敵の頭上より降り注ぐ雹が、次々と敵騎士たちを打ち据える。
「魔王も手を貸してくれるらしいぞ! これは負けられんな!」
味方騎士たちがついに接敵、敵騎士と激しく切り結び始める。その背後から飛ぶのは、蛍光ピンク色の魔力砲撃だ!
『威を借る悪を砕く愛と正義の無礙光! 魔法少女インフィニティハート、ここに見参!』
ぴっ、とポーズを決めつつ、ふと真顔に戻った愛が言う。
「……さて、ここに集まった皆さんならばわかると思います。
本当に王に必要なものは、目に見える聖遺物などでなく、目に見えない民衆への愛であると。
さあ私と皆さんの愛の力を以て、愛無き者が王となることの困難さを存分に教えてあげましょう!」
再び戦場を走る蛍光ピンクの砲撃。敵騎士たちが倒れ行くのを踏み越えて、イレギュラーズ達が、味方騎士たちが前進する。
「敵の悪行は聞き及んでおります! もはや黙ってはいられません!
正義は我々にあり! そして正義は悪に決して負ける事など無いのです! その証明は、我々の手により行われる事でしょう!」
イロンの檄が飛ぶ。仲間騎士たちの背を押すようなそれは、戦場へと高らかになり響く。
「私は召喚される前、大群を率いて世界大戦を勝利に導いた。
私が諸君等についている限り、諸君等が負けることはあり得ない」
纒のそれはでっち上げの経歴だったが、しかし今この場においてははったりとて使えるなら使うべきだ。味方の士気を落とすわけにはいかない。
「行け、幻想国の誇りの為!」
纒もまた、騎士を率いて前線へと突入する。
「負けられない戦いです、私も前に出ましょう。道を拓き、後に続く者達の為に」
ストライドが敵騎士の前へと立ちはだかる。圧倒的な存在感――否、守るものとしての矜持。
「残念ですが、彼らに攻撃をしたいのであれば私を倒してからにして貰いましょうか──そう容易く倒れる心算はありませんが」
敵騎士から振るわれる刃を、ストライドは受け止め、返す刀で反撃に転じた。敵騎士がその一撃に頽れ、地に倒れる。
「儂はバク=エルナンデス! 汝ら悪悦に浸る輩を押し留めんとする者也!
正道を進まんとする我らの邪魔をせんとするなら掛かって来い!」
防御兵装を掲げたバクが名乗り声をあげる。必然、敵騎士たちが群がってくるのだが、その斬撃をバクは短剣で受け止め、いなして見せた。
「愚かじゃな……掲げられたものの澱みにすら気づけないか?」
バクが短剣で、振り下ろされた剣を受け止め、受け流す。敵騎士が剣を振り下ろし、隙を晒すのへ、
「乱(ニャン)刃流剣術――狗尾草流し!」
紅華禰の振るう刃が、敵騎士を討ち取った! そのまま流れるように、乱れるように、まさに乱刃のごとく刃を振るいながら、次なる敵騎士へと斬りかかる!
「ひと所に留まらぬが乱(ニャン)刃流の所以じゃ! さあ、いざ、受けてみるが良い! 乱(ニャン)刃流剣術・木天蓼暴れ!」
猫の爪を思わせる連続斬刃が、敵騎士の鎧ごと、その肉体を切り裂いた。
「はっはっは、同じ騎士なのに付いた家が違うだけで正義と悪とにわかたれるたぁ、可哀想な話だなぁ。
判官贔屓に勝てば官軍、例える言葉はいくらでもあろうもんだが、なあ、そんなもの気にするだけ無駄無駄!」
豪快な大声をあげながら、戦場を疾駆するのは窮鼠だ。その口の端をにぃ、と釣り上げ、浮かべるは壮絶なる笑み。
「だろう騎士様方。敵も味方も関係ねぇ、自分(テメェ)で守りてぇもんがあるから今ここにいる訳だ。
なら、御託はいらねぇだろう。殴りあおうぜ殺しあおうぜ。
喧嘩の時間だ!!」
その拳を、敵騎士の鎧へと叩きつける! 奔る衝撃が鎧をへこませ、内の肉体へと衝撃を伝播させる!
「バランツ家のざぁーこ♪ 数でしか戦えない情けない無能集団ー☆」
カナメがぴょんぴょんと飛び跳ねながら、敵騎士たちを挑発する。
「くそ、訂正しろ! 小娘!」
「前言撤回ぃ? やーだ、女の子一人殺せない人達に下げる言葉なんてないよーだ♪」
「ちっ、弓兵、奴を撃ち落とせ!」
敵騎士の号令に、カナメ目がけて大量の弓矢が降り注ぐ。鋭い痛みが、カナメの腕に走った。
「……最っ高♪ うぇへへ☆」
その痛みを楽しみながらも、カナメは敵陣へと深く斬り込んでいく。一方、同様に敵陣深く突撃するのは、侠だ。
「戦いなんだってな。俺も力を貸すぜ、騎士さん達」
クールに微笑を浮かべつつ、手にした刃を振るい、周囲の騎士たちを薙ぎ払う侠。
「俺には難しい事なんて解らねえ、けど俺は俺の正義の為に戦ってる。
お前達の正義は何だ? 守りたい物って何なんだ? ――譲れないもんがあるなら、此処が踏ん張り時だぜ!」
イレギュラーズ達に鼓舞された味方騎士たちが、また一歩前進する。衝突。剣戟。騎士と騎士の戦いが繰り広げられている。
「さぁて、久しぶりの戦場だ腕が鳴る。
リーチェも腕はなまっちゃないだろうね?」
「ヨランダお姉様と再び肩を並べて戦える日が来るなんて……リーチェは感激です!
はい! 鍛錬は怠っておりませんので、どこまでもお供致します!!」
敵騎士の群れを前に、不敵に笑うヨランダ、そしてどこか嬉し気に頬を赤らめるリーチェ。二人は一度視線を躱すと、一気に敵陣へと突撃した!
「男がこっちに近寄るんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! すり潰すぞコラ!」
リーチェの蛇腹剣が敵騎士を滅多打ちにするのへ、ヨランダはひゅう、と口笛一つ。
「さすが。アタシも負けてられないね! そーら、派手にブチかますよっと!」
魔力を込めたこぶしの一撃が、敵騎士の鎧を粉砕して、派手に吹き飛ばす!
「くそっ、怯むな! 怯むな! 怯むなぁ!」
敵騎士たちも士気をあげようと鬨をあげ、力強く進軍する。振るわれる、刃。撃ち放たれる魔術と弓矢の類が、雨あられと降り注ぎ、仲間達を、騎士たちを傷つけた。
「負けないで、皆! オイラ達がついてる!」
指揮杖を手に、高らかに勇気の歌を歌いあげるのは、アクセルだ。
「みんな、この歌に乗って戦って!」
その歌が、心が、騎士たちの足に踏ん張る力を与えてくれた。
「みんな! 勇者の私たちと共に突き進んでいくよ!」
彼方もまた、その歌に合わせるように、応援の言葉をあげた。彼方はアイドルだ。偶像足りえるのならば、この場で熱狂を生み出す偶像となってみせよう。青のその目がオーシャン・ルビーの赤に変われば、彼方は究極無敵のアイドルとなる
「さあ、みんなで敵たちを倒すよ!」
熱狂をかき回してさらに爆発させるみたいな声が、戦場に響く。
「では、ひと舞い、させていただきましょう――」
その歌に合わせるように、雨紅は舞う――優雅な、しかし魔力を帯びた舞。それは敵騎士たちをからめとり、不吉の手につかんで離さぬ舞。しかし、味方から見れば、士気を鼓舞する舞である。
「英雄と言うには、争いを厭い、力も名声も無いに等しい私ですが、この地を守りたいと思う程度に情はあります。
……しかし、きっとそう言うものをこそ、勇者と呼ぶのかもしれません。そしてそれは、私に限った事ではないのでしょう」
ここにいる、皆が勇者であるのだ。
「そうよ! 負けないで! 圧し返すのよ!」
ぱたぱたと跳びまわり、癒しの力を振りまくのは、トリーネだ。
「ここでもう一踏ん張りできたら……偉いわ! 偉い人は勝つ! それすなわち私達の勝利よー!」
ぱたぱたと跳びまわり、仲間達を鼓舞する。その声、その調和の活力、それが仲間達を踏みとどまらせる力となる!
「ここが終わりましたら、美味しいお菓子とお茶をご用意します……頑張りましょう?」
テルルが声をあげて、自身の生命力を立ち向かう力へと変えて、仲間達に注ぎ込む。
萎えていた手が力を取り戻す。震えていた足が確りと立つ。
「それじゃあ、負けてられないな!」
騎士たちが声をあげて、敵騎士たちを圧し返す! 硬直した戦線が、今一たび動こうとしている!
「いいぞ! ウェール・ナイトポートがここにいる!
幻想の勇者はここにいるぞ! 俺に続け!」
『節樹 桃果、故郷の地である豊穣を特異運命座標に救ってもらった。
あの日の恩を返す為、自分が明日笑えるよう、見知らぬ誰かの笑顔を守る為に戦う者だ!』
「レーさんが皆を回復するっきゅ!
だから皆も死なないよう死ぬ気で頑張ってっきゅー!!」
ウェールが声を張り上げ、仲間達を鼓舞する。トウカが鬼紋の花弁を散らして、己の想いを伝える。
レーゲンが辛そうな顔をしながらも、しかしその手は、回復の術式を編み上げることを止めない。
「貴方達にも信念や主君の為に命を散らす覚悟があるんだろう!
でも貴方達の家族を泣かせたくない。
だから逃げる奴は追わん!
立ち向かう者は容赦なく斬る!」
トウカが声をあげ、敵騎士たちに相対する。
「そうっきゅ! 死ぬことなんてないんだっきゅー!!」
レーゲンが叫ぶ。二人の声が届いたものはいるのか。それは、争いの音にかき消されて、最後までわからなかった。
だが、きっと、伝え続けることは無意味でも愚かしい事でもない。
「傷が深い者はレーゲンの近く、範囲回復の範囲で戦ってくれ!
余力があるものは怪我人のカバーを頼む!
全軍、進め!」
『応!』
その言葉を合図にしたように、ローレット・ジーグ家騎士合同軍の攻勢が再開される。
「凄い……ウェールさん……アレが、勇者、か……!」
戦場を率いるというその空気に飲まれながらも、グレイルはしっかりと己の意思で戦場に立ち続けていた。
「さっき、皆が言っていたな……此処にいる、皆が勇者なんだ、って……だったら……僕だって……」
勇者足りえる。誰もが。その心に勇気を抱いていたのなら。
グレイルは無数の術式を同時展開、それをまとめて編み上げ、一匹の黒狼を生み出した。
「ハティ、行こう……!」
黒狼ハティは小さく吠えると、主の心に従って、敵陣へと突撃。中心で魔力を解き放ち、敵騎士たちを薙ぎ払う。
「どの様な相手が敵だろうとも、こちらには勇者がついている。
恐れる事は無い、各々日々の訓練で積み重ねて来た物をこの場で発揮すれば勝てる筈だ!」
颯人が声をあげ、騎士たちを率いて突撃。敵騎士をオーラの剣て切り伏せると、
「我々の相手をするというのなら、容赦はせん! 俺に続け!」
その剣を高々と掲げ、仲間騎士たちを鼓舞する。応! と騎士達から声が上がり、その足は力強く大地を踏みしめる。
まさに進軍。まさに進撃。ローレット軍は敵陣深くに斬り込み、正面からその戦力を次々と斬り落としていった。戦局はこちらに優勢。左翼側に続き、右翼側もまた、ローレット優勢の戦況に突入していたのである。
「オラァッ!!」
ファウエルがその刃を、敵騎士へと叩きつける。爪牙の如き一撃が、敵騎士の鎧を切り裂き、騎士はもんどりうって倒れる。
「こいつは俺が倒してやったぜえ!!!」
ファウエルが雄たけびをあげるように宣言した。戦果が上がったという報告に、騎士たちの士気も上がり、その攻勢が強まる。
「アナタ達が悪に属する限り、万に一つも勝ち目はありません。潔く武器を捨て降伏し、善行にて罪を償う道を選ぶのです!」
イロンの降伏勧告は、しかし敵の雄たけびに黙殺された。いや、或いは、戦場を離脱した者もいたかもしれない。もしそうであれば、この呼びかけの意味はきっとあった。
「オレはなぁ、幻想の騎士サマやら貴族サマが落ちぶれようと負けようとクソ程どうでもいいんだよ」
煽る様なアンケルの言葉。アンケルはうんざりした表情を見せながら、頭に手をやった。
「ムカつくか? それでいいんだよ。敵を前にした時には引け腰よりよっぽどそっちの方がいい。
オマエらには意地とかプライドとか家名とか、んなもんがあんだろ?
だったら、やるべきことをやれよ。バランツよりジークが上なんだろ? 力で示せ」
「言われなくてもな!」
騎士が叫び、突撃を敢行する。アンケルはにぃ、と笑うと、自身もまた戦場へと躍り出る。
「特異運命座標は勇者、という感じなのかな。
いやあ、正直私は勇者なんて感じでもない胡散臭い魔術師なんだけれどね」
セオドアは謙遜したが、しかしセオドアもまた、確かに勇者であることに違いはない。
「――皆、必ず生きて帰ろう」
静かに呟く。誰かを守ろうとする心があるならば、それは間違いなく勇者に違いないのだから。
「幻想の騎士が味方って言う事は、うまく活躍すれば「君は……強くて素敵な女性だ。結婚しよう!」となるわけね……!」
と、なんか誤った方向に式を挙げているものもいて、それが菖蒲である。
「実家のパパ、ママ、そして「辞めたくなかったけど家庭に入って彼を支えるのがもう一つの夢だったの。貴女はこれからも仕事頑張ってね」なんて言って来た元同僚!
わたし、この戦いで勝利(うんめいのひと)を掴み取るわ!!」
と、銃を握りしめ、後列から狙撃を繰り返す菖蒲。まあやる気があるのは良い事である! 実際に敵も充分仕留めているぞ! 運命の人も仕留められると良いね!
「私は特異運命座標とはいえ非力な身だ。
故に騎士諸君、貴殿らの力が必要なのだ。
貴殿らもここに居る以上は英雄となり得る者達だ。
特異運命座標のみが英雄ではないということを知らしめてやろうじゃないか。
往くぞ」
仲間への援護術式を編み続けていたマヌカが、最後の力を振り絞り、術式を編み上げる。騎士の突撃にあわせ、その術式が騎士たちの、仲間達の背中を押す。最後の攻勢! 敵を押し流さんばかりの、圧倒的な攻撃! 数の利は確かに敵に合った。だが、今やそれを覆したのだ!
「流れはこちらにある」
レベリオは呟きつつ、敵騎士を打ち倒した。誰もかれもがボロボロだった。だが、決して死者は出ていないのは、多くのイレギュラーズ達の、そして騎士たちの奮戦によるところだろう。
「こちらは抑えた……後は、中央の部隊が上手くやってくれるのを祈るばかりだな……」
レベリオが空を見上げる。その空に、歌が響いていた。
「僕たちの歌はまだ続いてる。
隣に、ほら、みんながいる。
家には、守るべき人がいる。
伸ばした手に希望を。
繋いだ心には強さを。
僕たちは持っているはずだから」
Meerが歌うバラードが、仲間達の傷を癒していく。優しい歌が、戦場に似つかわしくなくとも、それでも静かに、穏やかに、流れて行く。
「私に出来るのは露払い程度です。
けれども露も集まれば視界を塞ぎますからね、尽力しましょう」
SperliedはMeerに寄り添い、守りながら、その歌が紡がれるのを、聞いていた。
戦場に、歌が響く。
やがて剣戟の音も遠くなり。
バラードだけが響いていった。
●彼の夢の終わり
「両翼部隊はうまくやってくれてる……! このまま一気に突破しますよ!」
ヨハンが叫び、中央突入部隊が、敵本陣へと一気に攻め立てる。本陣に近づけば近づくほど、分かるのは濃密なる魔の空気。
魔種と、狂気に陥った者達の持つその雰囲気は、もう何度も体感したイレギュラーズもいるだろう。
「遠からぬ者は音に聞けぃ!!! 近くば寄りて眼にも見よッ!!!
我こそは悪の秘密結社『XXX』が総統!!! ダークネスクイーンッ!!! で、あるッ!!!
貴様等は善に非ず!!! さりとて悪に非ず!!! 人、是を魔と呼ぶッ!!!
堕ちたる騎士の魂よ!!! せめてもの情けである!!! この戦場にて散華せよッ!!!」
ダークネス クイーンが叫び、その両の手に力をためる。途端、放たれたのは悪の心と正義の魂、そしてみんなの力の合わさった、驚天動地の必殺砲! 敵陣を貫通するように放たれたそれが、狂気に陥った騎士たちを、巨人たちを打ち据えていく!
「露払いは任せよ! 行け!」
「ええ、ヨハナの戦力は四倍だぞ四倍! と言うわけで石神ゾンビさん!」
『ヴァアアアア!』
突如現れたヨハナの石神ゾンビたちが、騎士たちに瞬殺される! そりゃそうだ、石神ゾンビさんはそう言う装備品ではない。突如脳内あふれ出す、それっぽいBGMとゾンビさん達との思いで!
「許しませんっ! 許しませんよっ! あのちょっとオデコ広い貴族のおにーさんめっ!
あの美白がこんがり小麦色になって夏休み明けの同級生が戸惑うぐらいにワカラせてやりますっ!
覚悟しなさいっ!! ……あ、はい、満足しました! 真面目にやります!」
ヨハナが敵騎士たちを抑えに入る。ふざけているように見えるが、実力は充分なのがヨハナの恐ろしい所である。騎士たちはヨハナをダウンさせることはできない。
「わしには因縁なぞはないがな。故に、此度は道を譲ろうぞ」
瑞鬼が指揮の声をあげる。態勢を立て直すその号令に、仲間達が隊列を乱さず敵陣へと向かっていく。
「やりたいものがあるならやるが良い。わしが支えよう。
倒れそうなら言うが良い。わしが支えよう。
此度は特別じゃぞ? さぁゆけ、言って本懐を果たすがいい」
カラカラと笑う瑞鬼。
「人数差は圧倒的にあちらが優位。だが、それだけが戦いの勝利を決定づける物にはならない。
優れた個として、特異運命座標としての力を彼らに教えてやろう」
アレフがその手を高く掲げれば、降り注ぐ神罰の光が、騎士達を貫き、その罪を裁く。打ち倒された騎士たち。だが、まだその数は充分だ。
「既に騎士達は狂気に囚われていたか――ならば、遠慮はいらんな」
「よーし、敵大将への道は開くにゃ。雑兵共は任せろにゃー!」
「さて、それじゃあ親玉の所まで少しばかりでも道を切り開くとしますか」
シュリエ、そしてレアが声をあげる。レアは槍をくるりとまわし、その切っ先を敵陣へと向けてぴたりと止める。
「まとめて攻撃するにゃ! その後接近するにゃよ!」
「了解! 派手に暴れるよ!」
シュリエその手を掲げるや、黒い何かの手が地面からはい出してきて、巨人たちを掴み、地に縫い付ける。その隙をついて突撃したレアの槍が、巨人の身体を粉砕し、次々と消滅させていった。
「皆、頑張って! 道を開けるよ!」
ミルキィが声をあげて、怨霊を顕現、解き放つ。宙を駆ける怨霊が狂気騎士たちを掴み、その怨念を叩き込むことでその生命力を奪い取っていく。
「ちょっとかわいそうだけれど……ううん、今はそんなこと言ってられないよね! キミ達を止めないと、悲しむ人が居るんだから!」
ミルキィは再度怨霊を呼び出して解き放つ。怨霊たちが狂気騎士たちの生命力を奪い、地に打ち倒していく。
「さて、道を開けますかの。琴、迷子にならんようになぁ。おんしは、昔からおっちょこちょいじゃけぇ」
「ふん! 子供扱いするでない! 支佐こそぼーっとして迷子にならぬようにな!」
支佐手の言葉に、五十琴姫はべぇっ、と舌を出してそう言った。支佐手は少しだけ微笑んでから気を引き締めると、
「琴、合わせて攻撃じゃ。できらば大物を狙うぞ」
「承知じゃ! 支佐もわしに遅れるでないぞ!」
二人はぴったりと息の合った動きで、その手を掲げた。五十琴姫の持つ銅鏡が太陽の如き輝きを発し、放たれる熱線が、敵群を薙ぎ払う。合わせて放たれる支佐手の悪意の術式が、残された敵たちに止めを打ち込んでいった。
「支佐、わしの手伝いが必要なら遠慮なく言うんじゃぞ!」
「分かっとりますとも、琴もやせ我慢はせんようにな」
「せんわ!」
軽口などを叩きつつ、二人は次々と敵を撃ち落としていく。もちろん、他の仲間達による決死の攻撃により、突入のための隙はこじ開けられていた。
「今だ、行くと良い」
ジェームズは狂気騎士をその武器で貫きながら、言った。
「後ろは任せろ。奴に言いたいことのある奴もいるんだろう?」
仲間達が、静かに頷く。後方にて支援を続ける仲間達に後を任せ、突入部隊は再度敵陣深くへと突入。ついにその視界に、クローディス・ド・バランツを捉えることに成功したのである。
「来たな……!」
クローディスが、その眉間を強くしわを寄せた。にらみつける。その様相は些か迫力のない表情だったが、纏う魔の気配のようなものは本物だった。
「お前達は……何もかもを邪魔するのか! 僕の夢も、ベルナールの夢も!」
「なに? なんか頼りなさそうな顔で楽勝……って思ったら! なんか怖い空気を纏ってるじゃない!」
リーゼロッテがそう言いながら、祝福の光を戦場へと降り注がせる。仲間達の傷が次々と癒えていくのを確認し、
「頑張って! 絶対通さないで! 何かその人達怖いのよー!」
リーゼロッテが悲鳴をあげる。それはそうだろう。相手は魔種。あまり呼び声を発していないとはいえ、驚異的な存在であることに間違いはないのだ。
「怖いなら消えろよ! 僕たちの邪魔をするな! どいつもこいつも……ッ!!」
狂気に陥ったように叫ぶクローディス。その目は既に正気ではなく、魔に魅入られたモノ……魔種に間違いはないのだ。
「私気付いたんです。全てを救うことなんて不可能だったって事を。
――――だから私は手を伸ばすんです。届く限り守り抜くって、平穏を手離さないって!」
響子が駆ける。クローディスへと一気に接敵。その手を突き出し、負の気を一気に流し込む!
「ちっ! 邪魔をするな!」
クローディスが、身の丈に合わぬ立派な剣を振るい、響子へと振り下ろす。斬撃を受け止めた響子が、衝撃に顔をしかめる。
「強い……! ですが!」
「いったん下がってくださいですめぇ! こちらに注意を引き付けますめぇ!」
メーコが注意を引くためにカランカランと鐘を鳴らす。反応したかのようにクローディスの視線がそちらに向き、
「いいさ、お前から殺してやる!」
大剣を振るい、生み出した衝撃波がメーコを狙う!
「いけない……!」
ルーンベルグが刃を構え、メーコの前へと立ちはだかった。衝撃を、刃で受け止める。爆発的な衝撃が、ルーンベルグの身体を打ちのめす。
「問題ありません。引き続き、皆様の護衛を務めさせていただきます。どうか皆様、十全の働きをなさってくださいますよう」
ルーンベルグが傷つきつつも一礼。それを合図に、イレギュラーズ達の一斉攻撃が始まる。十数名による集中砲火に、しかしクローディスは倒れない。
「無駄だ! 僕は、僕は強くなったんだ……父上や母上やの期待通りに……! だから、見ろ! 僕を視ろ!」
狂ったように叫び、大剣を振り回すクローディス。暴風のように荒れ狂う衝撃波が、イレギュラーズ達の身体を叩く。
「くっ……だが、拙者の初陣とあらば、これほど良き相手もおりますまい!」
成龍が傷口を抑えつつ、言った。
「タイミングを合わせて、一気に攻撃するっす! 成龍さん、サポートをお願いっす!」
「承知!」
無黒の言葉に、成龍が頷く。治療術式を編み上げ、仲間達の背中を押す。
「ヨハンさん! 亘理さん! いくっすよ!」
「勝利を我らが手に!」
無黒の言葉に成龍が続く。飛び込んだ無黒、具現化魔術で生み出した刀を振るい、クローディスへと斬りかかる。斬撃! クローディスは大剣でそれを受け止める!
「この程度で……!」
「まだ終わらないっす!」
無黒は刀を滑らせてから魔術の込められた蹴りを一発入れると、その勢いのまま跳躍。続いて飛び込んできたのが、義弘だ。
「お前さんが勝手にやるなら、俺のやる事も勝手だな?
ここに住んでいる人達の生活を壊すのが気に入らねぇから、
お前さんの夢をぶっ潰す!」
義弘の拳が、隙を見せたクローディスの腹へとめり込んだ。内臓を破壊するような一打。だが、魔種とかしたクローディスは耐えた。
「お前達はそうだ! いつも正義面して、僕たちのことを踏みにじっていくのか!」
「だがどれだけキミが被害を受けていたとしても、その手を汚したのならダメなんだ!
卑怯な事をせず、最初からこうやってぶつかれば良かったんだよ!」
ヨハンが続いた。一息に接近し、その手を突き出す。途端、堕ちる終焉の夜の帳。
「キミを敬う事はできないが、強敵……武人としてキミを覚えておこう。
はは、互い周りからの期待は苦労するものだね。信じる道を、胸を張って逝ってくれ」
ぐ、と手を握ると、帳はクローディスを包み込むように収束した。叩き込まれる、不吉と終焉の力。その衝撃が、体内に走り、クローディスの生命力を0に落とし――。
「まだ、だ! まだ、僕、は!」
死の淵で、クローディスが踏みとどまった! それは、執念か。もう一度大剣を振り上げ、衝撃波を生み出そうとするそこへ、撃ち込まれたのは人魚の刃。
「これは慈悲なんかじゃありません。遮那君を恨む奴と結託して、よからぬ呪いを産んだこと、決して許せません」
不殺の刃に慈悲は無く。深々と体内に突き刺さった刃を、クローディスは無理矢理振り払った。
「う、う、あ」
だが、魔種の生命力と言うべきか。彼が死すには未だ届かぬ。
「――クローディス・ド・バランツ!!」
シャルティエが叫んだ。すでに、幾多の戦いと攻撃を受けて、シャルてぃえもまた傷ついていた。しかし、執念で、この場所までたどり着いていた。
知っていたのは、名前だけ。
顔も知らないような相手。
でも、それでも、言いたいことは、山ほどあった。
それでも――いざ出てきた言葉はあまりにも少なくて。
「リルがお前の言いなりだったのは、打算でも恐怖でもない! 望まない苦しみから救ってくれた感謝だ! 恩返しを望んでの尽力だ!!
それ以外に優しいあの子が何をした!? なんで……お前はッ!」
「うそ、だ」
クローディスは、喘ぐように言った。
「僕には……ベルナールしか、もういないんだ。嘘だ。ベルナールだけが、僕を本当に見てくれる……リルが、僕を……見てくれていたモノか……!」
クローディスは死の淵に近い。混ざり合った記憶が、うわごとを吐いているのかもしれない。それでも。
「そう。貴方は誰かに見てもらいたくて……でもずっと他人を信じられなかったのね」
アーリアが言った。その目に、同情の色はない。
そうだろう。
多くの者を、傷つけてきた。
その、身勝手な迷妄にて。
彼は間違いなく悪人だ。
故に――罰せられなければならない。
「初めまして、クローディスさん。
私達の事なんてご存じないでしょうけど――。
アンジェロ・ラフィリアとリル・ランバートの名は、知っているでしょう!?」
ぱくぱくと、クローディスは何かを呻いていた。それは聞き取れなかったけれど、アーリアは続けた。
「貴方が本当に欲しかったものは、あの二人じゃなくて何だったの?
欲しい物はちゃんと言わなきゃ、だめなのよ。
答えて。私は、『貴方』について知らない。私は、今の『貴方』しか見ていないもの」
クローディスは、ゆっくりと口を開いた。
何かを言った。それは、アーリアにも聞き取れなかったかもしれない。
「そう――」
アーリアは、静かに目を閉じた。黒の手袋を身に着けた手を、ゆっくりと掲げる。
「さようなら、クローディス。今度はどうか、良い夢を」
放たれた魔力の弾丸は、クローディスの心の臓を完全に撃ち貫いた。
鼓動が止まる。
夢が終わる。
クローディスは、ゆっくりと倒れ伏した。
あの丘に、夢は潰えて。
今はただ、静かな現実が横たわるのみ。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
ご参加ありがとうございました。
お見事、快勝に御座います。
白紙以外すべて登場はしております。万が一抜けがありましたらお問い合わせください。
GMコメント
お世話になっております。洗井落雲です。
決戦の時です。クローディス・ド・バランツを討ち取りましょう。
●成功条件
クローディス・ド・バランツの討伐
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
●状況
長きにわたるミーミルンド派閥の暗躍にも終わりの時が訪れました。今こそ決戦の時です。
皆さんは、幻想中央教会から派兵された僧兵、そしてウィルフレッドのジーグ家の騎士達と共に、クローディスの討伐を担当することになります。
現在時点で、自軍左翼側に僧兵たちが、右翼側にジーグ家騎士達が、中央にローレット部隊が布陣し、クローディス率いるバランツ軍を包囲している形になります。とはいえ、バランツ軍は皆さんに比べれば大軍です。その数の差を覆すのが、皆さん一人一人の実力と言う事になります。
●同時参加につきまして
決戦及びRAIDシナリオは他決戦・RAIDシナリオと同時に参加出来ません。(通常全体とは同時参加出来ます)
どちらか一つの参加となりますのでご注意下さい。
●戦場について
皆さんが参加する部隊は、主に以下の三つになります。
どれも重要な部隊ですので、貢献したい所に参加しましょう!
【1】左翼僧兵部隊
左翼側に布陣する幻想中央教会僧兵たちと共に、主に巨人たちと戦います。
巨人は非常に強力な存在です。が、僧兵たちが生き残っていれば、後方からの回復や能力向上支援が受けられますので、かなり派手に戦えるはずです。ガンガンに巨人を狩りましょう。
此方の部隊への戦力が少ない、或いは巨人を撃ち漏らした場合、他の戦場に巨人が乱入し、他の部隊に被害が及ぶ可能性があります。
【2】右翼騎士部隊
右翼側に布陣するジーグ家騎士達と共に、主にバランツ家騎士たちと戦います。此方では、英雄的な行動や口上などで味方の騎士たちの士気をあげることで、より有利に戦局を進めることができます。幻想を代表する勇者として、反逆の騎士達を撃退するのです。
此方の部隊への戦力が少ない、或いは敵部隊を撃ち漏らした場合、他の戦場に乱入し、他の部隊に被害が及ぶ可能性があります。
【3】中央ローレット部隊
ローレット・イレギュラーズたちによって構成された、少数精鋭部隊です。敵として立ちはだかるのは、巨人、そしてバランツ家の騎士達です。その数は、戦場【1】【2】に配置された味方戦力によって増減します。
数々の敵を打ち倒し、最奥に立ちはだかるのは、クローディス・ド・バランツです……充分に警戒してください。彼からは、魔の気配を感じます。また、周囲の護衛兵も狂化しているように見えます……。
●プレイングの書式について
以下の書式の通りにプレイングをご記入ください。
書式が守られていない場合、迷子や描写漏れが発生する恐れがあります。
一行目【参加する戦場の番号】
二行目【一緒に参加するキャラの名前とID、あるいはグループ名】
三行目【パンドラ使用の有無】
四行目以降【プレイング】
記入例
【3】
【ファーリナさんとゆかいな仲間達】
有
友と力を合わせてチョップで敵を倒す。
以上となります。
それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております!
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