PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<Weiß Krone>花あかりに寄り添うは

完了

参加者 : 37 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

【共に過ごす一年】弥生・桜に幕

●花の浮橋より見ゆ
 色は匂へど 散りぬるを――

 儚くも毀れる梅に、微笑む桜は語らう様に。恋ヶ樹門の池に落ちる花弁は友禅の如く彩り踊る。
 根雪を忘れ、若葉の芽吹きを囁く頃に。土筆は恐る恐ると周囲を見回しては長閑な空気に心を満たす。
 豊穣郷、と豊かな恵みを示すその国は四季折々の姿を見せた。
 風青し、燦燦たる陽を通り過ぎ、黄金揺れる麗らかなる実りを迎え、耐え忍ぶ雪の根の中より解け出るは春の芽吹き。
 綻ぶ梅に続くのは淡く色づく早咲きの。
 かんばせに様々な季節を乗せて『神使』と呼ばれし人を待ち望む。

「ホワイトデー、と云うらしい」
 その言葉を伝えたのはある旅人であったそうだ。再現性東京と名のついたその場所では恒例の行事となったそれは『バレンタインデー』――グラオ・クローネの感謝に飛び切りのお返しを贈る日であるそうだ。
 心弾ませ恋ごころを唇乗せた少年少女へと、心を汲み返す日であると囁かれる。
 その日を『霞帝』は麗しき佳き日であると宣言した。ならば、早咲きの花を見遣り心和かに過ごそうではないか――

 愛おしき日々を、この国を愛し尊ぶかの如く。

●ホワイトデー
「はああ」
 がっくりと肩を落としてそのかんばせに疲労の色を乗せた『探偵助手』退紅・万葉 (p3n000171)は「船旅でも遠かった」と呟いた。
「はい。海洋王国から出ている船でも、長らくの航海でした」
 遠い地――海に焦がれたその国が見つけた黄金の穂の京、カムイグラ。
 随分と草臥れる航海であったと『聖女の殻』エルピス (p3n000080)は微笑む。特異運命座標であれば此岸ノ辺で訪れることが叶うが、そうでなければ一苦労だ。
 新たな地を踏み締めて心なしか喜ばしいと尾を振った面白山高原先輩に、興味もなさげな蛸地蔵くんは万葉をちらりと見遣る。
「ホワイトデーなのですよ!」
「ホワイトデーだけどさ」
 こちらは『皆』と同じく転移(ワープ)で訪れた特異運命座標の『サブカルチャー』山田・雪風(p3n000024)。「よく来たね」と万葉を揶揄い笑った彼は「ブラウから聞いてる?」と問いかけた。
「グラオクローネと対になるイベントだよ。
 バレンタインデー――グラオクローネは想いを伝える日だって混沌ではされているけれど、ホワイトデーはお礼をする日、って言えばいいかな。
 日頃の感謝とか、グラオクローネの贈り物へのお礼とか。とにかくそんな感じのイベントなんだけどさ」
「ここ、カムイグラではその文化がなかったらしいから広げに来たの! ――まあ、来る前に中務卿さん? とお話して合ったみたいなんだけれど!」
 万葉に雪風は頷いた。
 神威神楽は長らく隔絶された地。故に、そのような文化が浸透していない。まだ混沌でも新たな文化であるホワイトデーも折角ならばと『イベントのお裾分け』が行われたそうだ。
 中務卿、と呼ばれた建葉・晴明は『ほわいとでぃ』の受け入れを了承し、霞帝は自身も見知った文化であるとそう言ったらしい。

 ――ならば、早咲きの花でも見ながら行楽をしよう! 国を愛し、尊び、そして日々の疲れを癒すのだ。

 堂々たる指導者はそのかんばせに柔和な笑みを浮かべて宣言したらしい。
 桜の名所たる恋ヶ樹門で零れる前の梅と早咲きの桜を肴に花見をしようと誘いの声が入った。
「勿論、観光してもいいし、桜をのんびりと見に行っても良いと思うよ。
 花見宴会も楽しいと思うし。丁度お天気は晴れ模様。ぽかぽかしてきたし、のんびりと過ごせそうだよね」
「ねえ、雪風君? 因みにお食事の方は……」
「あー……準備してくれるって」
「やったぁ! ねえ、知ってる? 私ったら『年齢不詳系女子』だからお酒も飲めるのね!」
 瞳をきらりと輝かせた万葉に雪風とエルピスは顔を見合わせて小さく笑った。

 想いを伝える日。
 冬から春へ――芽吹きのその時を大切な人と過ごしてみるのは如何だろうか?

GMコメント

日下部あやめです。異文化に触れてみるって素敵ですね。
豊穣についてはSDの皆様に監修して頂きました。はじめての、ホワイトデー。

●『ホワイトデー』
 混沌ではグラオ・クローネという日に『大切な人へ贈り物をする』という習慣がある。
 ――其れに合わせて、他世界ではその1ヶ月後、お返しをする日である『ホワイトデー』が開催されることになりました。
 旅人からの伝播で『霞帝』は見知った文化であると承認し、豊穣郷では早咲きの花を見ながら行楽を、と開催されることに決定したそうです。

(1)早咲きの桜と零れる前の梅を見る
 花見を楽しむことが出来ます。高天御所の程近い場所に存在する桜の名所、恋ヶ樹門。
 毀れ落ちる前の梅と早咲きの桜を眺めながらのんびりと過ごして頂けます。
 見上げれば、嘗ては黄泉津瑞神と巫女姫が戦ったとされる天守閣を望む事ができ風光明媚な場所です。
 霞帝の取計らいにより花見宴会を同時に楽しむことが出来るようです。行楽弁当(豪華)や酒類、菓子類を楽しむことが出来るようです。
 ひっそりと楽しむならば、少し恋ヶ樹門を散策してみるのもお勧めですよ。
 少し残った戦の後も、趣深く、それも歩んできた証なのかも知れません。

(2)京を散策へ
 高天京を散策へ。お団子屋さんは『ホワイトデー』と『花見』を兼ねた宴会の為に大売り出しをしているようです。
 食べ歩き等もとても楽しいかと思われます。桜の名所へ向かう前に立ち寄ってみるのも良いですね。
 グラオクローネ(バレンタインデー)のお返しの品々として和雑貨、反物、カムイグラにしかない物なども如何でしょうか。
 普段の混沌大陸での生活とまた違った贈物を探すことが出来るかも知れません。

●同行者や描写に関して・注意事項
・ご一緒に参加される方が居る場合は【同行者のIDと名前】か【グループ名】をプレイング冒頭にお願いします。
・暴力行為等は禁止させていただきます。他者を害する目的でのギフト・スキルの使用も禁止です。
・イベントシナリオとなりますので一箇所に絞って行動していただいた方がより濃い描写を行えるかと思います。

●NPC
 日下部担当のNPCにつきましては山田・雪風とエルピス、退紅・万葉(+ペットの犬の面白山高原先輩と猫の蛸地蔵くん)が参ります。お声かけがなければ出番はありません。
 カムイグラのNPCさんは担当のついて居ないNPCさんであれば登場可能だそうです。
 担当GMが決定されているNPCに関しましてはご要望にお応えできない可能性もございますのでご了承くださいませ。
 何かございましたらお気軽にお声掛けください。

 素敵な花見&ホワイトデーになりますように。
 皆様の思い出に残るイベントとなる事を願っております!

  • <Weiß Krone>花あかりに寄り添うは完了
  • GM名日下部あやめ
  • 種別イベントシナリオ
  • 難易度VERYEASY
  • 冒険終了日時2021年04月02日 22時10分
  • 参加人数37/∞人
  • 相談7日
  • 参加費50RC

参加者 : 37 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧 (37人)

天香・遮那(p3n000179)
琥珀薫風
白虎(p3n000193)
武神
黄泉津瑞神(p3n000198)
夢見 ルル家(p3p000016)
離れぬ意思
ラノール・メルカノワ(p3p000045)
夜のとなり
サンティール・リアン(p3p000050)
雲雀
十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
エーリカ・メルカノワ(p3p000117)
夜のいろ
フェルディン・T・レオンハート(p3p000215)
放浪の騎士
シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)
雨は止まない
マルク・シリング(p3p001309)
ポシェティケト・フルートゥフル(p3p001802)
謡うナーサリーライム
鬼桜 雪之丞(p3p002312)
白秘夜叉
蜻蛉(p3p002599)
暁月夜
リディア・ヴァイス・フォーマルハウト(p3p003581)
木漏れ日の魔法少女
メイメイ・ルー(p3p004460)
あたたかい笑顔
シャルティエ・F・クラリウス(p3p006902)
不退転
イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)
秋の約束
ネーヴェ(p3p007199)
うさぎのながみみ
鹿ノ子(p3p007279)
琥珀の約束
ラヴ イズ ……(p3p007812)
おやすみなさい
タイム(p3p007854)
優光紡ぐ
黒影 鬼灯(p3p007949)
零れぬ希望
リンディス=クァドラータ(p3p007979)
夜咲紡ぎ
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
黒狼の勇者
眞田(p3p008414)
Re'drum'er
クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)
海淵の祭司
シガー・アッシュグレイ(p3p008560)
スモーキングエルフ
三國・誠司(p3p008563)
一般人
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
霊魂使い
希紗良(p3p008628)
鬼菱ノ姫
アイシャ(p3p008698)
スノウ・ホワイト
隠岐奈 朝顔(p3p008750)
天色に想い馳せ
ルーキス・ファウン(p3p008870)
散華閃刀
金枝 繁茂(p3p008917)
焔鎮めの金剛鬼
柊 沙夜(p3p009052)
特異運命座標
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色

リプレイ


 零れ散る花の美しさ。優美なる儚さの傍らで豊穣の名を冠するその地では心安らぐ宴をと恋ヶ樹門は賑わいを見せる。
 天蓋に触れるように手を伸ばして鹿ノ子は己を抱える遮那のかんばせをそっと盗み見た。
「鹿ノ子は飛べぬからな、私が抱えて空を飛ぼう」――その言葉を反芻して小さく笑みを漏らす。
(……本当は、飛行能力を手に入れることもできないわけではないッスけども……。
 少しでも近付きたいって、少しでも触れていたいって、そう思ってしまう僕を許してください、遮那さん)
 捕まっておれ、と囁くその声に鹿ノ子はぎゅうと彼の衣を握りしめた。宙に浮かんだ脚は不思議と恐怖なんてない。
 来年も、何時だって――共にと言う約束の様に。貴方と共に花を愛で、月を慈しむ日々を過ごしたいと微笑みながら。

「お返しなんていらへんから一緒にお花、見にいってくれん?」
 ――なんて、声掛ければ「やれやれ、相変わらず物欲のねぇ嬢ちゃんだ」と揶揄うような声が聞こえて。
 少しだけ変わった関係が、どうにも落ち着かないと縁は蜻蛉のかんばせを窺い見遣った。
「霞帝さんの計らいのお酒、頂いて来たよってほら、どうぞ」
 此方を見遣ることなく、赤い酒器に酒を注ぎ入れる蜻蛉は妖艶な笑みを浮かべ、見上げる.その笑みに、縁は「どうも」と小さく告げて彼女の盃へと酒を注ぎ入れた。
 艶紅光る指先が添えられた器を眺めれば、其処に揺らぐ花弁の音さえ聞こえそうなしじまが辺りを包む。
 揶揄いと軽口のない空間に最初に声掛けたのは縁の側で。
「今日は随分と大人しいねぇ、お前さん。借りてきた猫にでもなっちまったのかい?」
 花より赤く膨れれば「お花に笑われてしまう、そないに言わんでもええやない」と尖る唇が可愛らしい。
 梅を見遣った縁は記憶の中で控えめに咲いたそれと重なったと茫と眺めた。
 何も聞かずに蜻蛉は寄り添った。今日くらいは大人しい猫で居てあげる。寄り添ったぬくもりが、何よりも心地よいから。

 ――凄惨な戦いだった。失うものは多く、得るものは多くなく。だがそれでも、最も大切なものは、失わずに済んだから。
「ラノールも、もういたくない?」
「あぁ、もうすっかりだ。一緒に休んだ甲斐があったね」
 たくさんの血が流れ、いのちが花落つるように散った光景を思い出しながらエーリカはラノールへ問い掛けた。
 抱き寄せられれば、腕からじわりと伝わる温度と、生きている証。堪らなく愛しい音を遮るようにそ、と掌が胸を押す。
「あのね、ラノール。きょうは贈り物があって……もらって、くれる?」
 本当かいと、問うて耳を立てる。小箱に収められたのは国用の万年筆と夜色のインク瓶。大切な言葉を綴る為のそれは思えば『あの日』のようで。
 纏めて束ねれば片手で掴みきれないほどの綴紙。想いを連ねたそれは『ことば』と『こころ』があふれているから。
「ふふ、ありがとう、大事にするよ。私からも贈り物があるんだ」
 ラノールの囁きにエーリカがぱちり、と瞬いた。よく見えるようになった薄氷は何よりも美しい。
 一つは甘い果実の酒。少し前から大人になった彼女との『はじめて』に。もう一つは白い花の髪飾り。宵闇の髪に生える光の色を。
「よければ使ってほしいな」
「ふふ。やっと、ラノールとおなじものがのめるね。それに、これ……」
 花に込められたことのはが、愛おしい。彼の心をまたひとつ知った気がして、『おとなのなかまいり』をするように合わせた杯を眺めながら肩へと擦り寄った。
 これから先も、同じように。君と『おそろい』を積み重ねて―― 

 乱れ、落ちる花のひとひら。指先を伸ばせばイズマの許へと挨拶をするように柔らかに散り落ちる。
「ええと……こっちが梅で、こっちが桜? とても似てるけど、どんな違いがあるんだろう。
 あ、遠くに建物が見える。あれは……? なるほど、ここで戦いがあったんだ。これが戦の跡か……」
 花を愛で、目を凝らしては違いを楽しむ青年は風雅なる日に似合いの唄はあるだろうかと女房へと問い掛けた。
 口遊み歩めば「もし」と小さく声が掛けられる。
「お一人であらば、わたしと宴の席を共に致しませんか?」
 白き毛並みは綿毛のように。小柄な少女――黄泉津瑞神は小首を傾いで硝子玉のような瞳を煌めかせた。
 その傍らに腰掛けて、沙夜は「ご一緒してもよろしいの?」と芽吹きの色の瞳を幾重にも瞬かせ。
「うち、瑞ちゃんたちとお花見がしてみたくて。 ……あ、瑞さん? それとも瑞様がええのかしら。愛らしい姿やけれど、この場所の立派な守護獣様やものねぇ」
「瑞ちゃんでよろしいですよ」
 ころころと笑みを零した瑞神に沙夜は「瑞ちゃん」と微笑んだ。月の光のように美しき髪を揺らがせた彼女の傍らで瑞は「お食事は如何でしょう」と微笑んだ。
「白虎と好いたものを選んで賀澄に『おねだり』したのですよ、ねえ?」
「うん! 我も沢山味見をしたぞ! 賞味してみるといい!」
 胸を張った小柄な少女もこの国の神柱のひとつ。白虎と瑞へと「これはどうかな?」と微笑んだのはシキであった。
 淡い藤色を揺らし、土産の団子を差し出せば「わあ」と白虎の喜びの声一つ。
 此の地の春が初めてだとそわそわと身を揺らしたメイメイの柔らかな綿毛に花弁が絡まり落ちる。
「メイメイさま、御髪に」
「ふふ、瑞さまも。……瑞さまの真白の御髪に、桜や梅の花色が重なって……とても、綺麗です」
 人の子の姿を取ってそうとメイメイの髪へ落ちた花弁を摘まみ上げた瑞はぱちりと瞬いた。きれい、の言葉にどこか気恥ずかしくて。
 小さな子犬の姿になってメイメイの膝へと収まった守護神へ「恋ヶ樹門という名には、何か謂れがあるのでしょう、か?」と問い掛けた。
「遠い昔に、姫君が想いの成就を願って桜を植えたそうですよ。あの子は、なんと言う名でしたか……」
 悩ましく、首傾いだ瑞にメイメイも釣られて首を傾ぐ。ふと、湯飲みに落ちた花弁に沙夜は小さく笑みを零した。
「瑞ちゃんはずっと京を守ってくれとったんやっけ。その頃って京の様子とか見られたのかしら?
 うちはポカポカ陽気のこの季節が好きやけれど、瑞ちゃんはどんな季節が好きなん? それともどの季節も好き、かしらねぇ」
「お見通しですね。わたしは四季折々、姿を変える神威神楽がいとおしいのです」
 姿を変える神威神楽。それはシキにとっては『新しい表情』で。外の世界の話を教えて欲しいと乞うた神霊へとシキは「ねえ、瑞さん」と声掛けた。
「改めて見れば……瑞さんや賀澄さんたちが守り導くこの国はとても美しいね。
 せっかく瑞さんや黄龍と友達になれたんだ。この美しい国で生きる君たちのこと、人々たちのこと、妖怪たちのこと。そのほかにもたくさんのことを。
 ……私ね、もっともっと知りたいんだ。よかったら聞かせておくれ。このあたたかな心の意味も、きっとわかるから」
「はい。たくさん、たくさんお教え致しましょう」
 ふと、その背へと小さな影が一つ。瑞殿と呼び掛けたアーマデルは緊張したようにそっと少女の背を押してやった。
「保護して居るミーサという。良ければ瑞殿達にも仲良くして貰いたいな、と」
「……ミーサです。神霊様とお聞きしています」
 背筋をぴん、と伸ばした彼女は責任感からか『神霊』に緊張したような表情を見せた。ぱち、と瞬く瑞は「まあ」と嬉しそうに微笑む。
「お菓子は如何でしょうか? ミーサさまは何がお好き?」
 瑞とミーサの様子をアーマデルはちら、と見遣った。彼女にどのように過ごしているか、不便はないかと聞くのは難しい。ヒトは言葉を介さなければ理解には及ばない――だから、神霊の言葉に沿うようにアーマデルは「俺は此れが好みだ」と葛切りを指さした。
「私は……神霊様のお食べになっているそれが……」
「まあ、シキさまのお団子。とっても美味しいですよ.良ければ、おかけ下さいな」


 グラオクローネの礼だと誠司はアイシャと共に京内の散策へと訪れた。
「お兄ちゃん、梅も桜がとても綺麗ですね! 微かにいい香りもしますよ」
 声を弾ませ、花咲くように微笑んで。花を見に行こうと声掛けた誠司はアイシャを連れて反物屋に。
 絢爛なそれらを見遣ってから「アイシャはどんな柄が好きなんだ?」と伺うように視線をやればアイシャは眼前に飾られた春色の衣を指さした。
「あの桜の柄が一番素敵だなって思います」
「成程。アイシャ、これだな?」
 店内に強引に連れ込む誠司にアイシャはぱちりと瞬いた。遠慮などさせやしないと告げるような嬉嬉とした笑みを見遣りながら、反物でアイシャに一着作成する事を決定付ける。
「……ありがとうございます、お兄ちゃん。
 着物が出来上がったら、また一緒にこの街をお散歩して下さいますか?」
「ああ、構わないぞ。じゃあ、次は桜。桜……桜かぁ……こっちにもあったんだなぁ」
 彼の世界にも咲いていたのだと聞けばどこか、不思議な心地で。誠司がそっと手にしたのは桜の簪、アイシャも桜の根付を手に取って手渡して見遣る。
「アイシャは元々可愛いからな、こういうのもよく似合う。あ、それともう敬語とか使わなくていいからな」
「……お揃いだね、お兄ちゃん」
 褒められてはにかんだアイシャは慣れない口調で彼へと微笑んだ。

「食べ歩き! とても、とても、楽しみです! わたくしはお家にいた頃、そんなことはできなかったので……」
 屋台も、同じように食べ歩く人も物珍しいときょろりと周囲を見回すネーヴェを見遣ってからシャルティエは小さく笑みを綻ばせた。
「この前は通り雨に、遭ってしまったのだけれど。今日はいいお天気で、嬉しいです」
「……ふふ、凄く楽しみにしてくれてるみたいで良かった……うん。折角の良い天気だし、僕も楽しまなくちゃ!」
 行こう、と微笑むシャルティエはエスコートをするようにそっと手招いて。
「クラリウス様、お団子屋さん、ありました、よ!」
「本当だね。団子を買って桜の名所を目指そうか?」
 頷くネーヴェの初めての食べ歩きチャレンジは団子。串から落ちないようにと四苦八苦しながらぱくり、と口へ入れればシャルティエと少しの距離が。
 立ち止まっては食べてになってしまうのだと慌てるネーヴェにシャルティエは小さく笑みを零して。
「串が刺さると危ないですから、手元もちゃんと見ながら食べましょう。歩くのはゆっくりでも良いですから!」
 歩幅を合わせれば、ネーヴェは「はい」と頷いた。今日はネーヴェの方が『お姉さん』だけれど、自分の方が『お兄ちゃん』っぽいとどこか嬉しくて。
 微笑むシャルティエに釣られて、ネーヴェは微笑んでからこてりと首を傾いだ。

「ね、イヴ。よかったら、僕にお裁縫を教えてくれない?」
 サンティールのお願いにイーハトーヴはそっと笑みを零した。豊穣の手芸用品をじっくり見るのは初めてで、彼女も自棄に真剣な顔をしていたから、つい可笑しくて微笑みが浮かんでしまって。
「そんなの、勿論喜んで!」
「ほら、きみがくれたこの服! きみが糸を紡ぐことで、救われるひとがいるんだってこと。
 きみの魔法は、あたたかでやさしいものなんだってこと。それを僕からもかたちにして贈りたいなっておもったわけ!
 ……そうだ、ネクタイなんてどう? オフィーリアとおそろいの布でつくるの!」
 糸を紡いで、彼にも飾りたい。そうして幸せが溢れる事をサンティールは知っているから。
「そうしたらいつかの日には、そのネクタイを締めて君とおでかけしたいな。
 それに、君と一緒にお裁縫をする時間もとっておきの宝物になるね。ふふ、君の魔法で、嬉しいが一度に沢山増えちゃった!」
 嬉しいね、と笑みを零したイーハトーヴは悪戯っこのように笑みを浮かべて「サティ」と彼女の名を呼んだ。
 オフィーリアがそっと差し出したのは青色のリボン。
「へ、え? これ……ぼくに?」
「そう。元いた世界にはなかった空の青は、俺にとって、自由で心が弾む色。だからね、君の幸いを願って贈るのにぴったりくると思ったんだ」
 サンティールにとっていっとう好きな色。『さいわい』を解くことはちりちりと胸が痛んだけれど。
 それでも、自分を縛っていた名前の知れない感情が、青色で解きほぐされた気がして。
「ありがとう、イヴ。えへへ、似合うかな?」
「うん、とても似合ってる。ねえ、2人で選んだ糸で、お花の刺繍を入れるのなんてどう?」
 そうしたらふたつのしあわせが飾られるね、と揶揄い笑った彼に「素敵だ!」とサンティールは手を合わせて微笑んだ。

「インドア派、でしょうけれど、如何でしょう? 東京はクレープ。豊穣ではお団子、とか」
「ははーん、いいっすね」
 団子、興味ありますと雪風が緊張したように手をひらり。リディアはまだまだ慣れない様子の彼に小さな笑みを浮かべた。
 雑貨屋をちら、と見遣れば簪や人形が並んでいて。その中でもリディアが興味を引かれたのは盆栽であった。
「盆栽?」
「ええ。深緑の盆栽とは違う部分もあるでしょうが、ひとつ買ってみようかな、と」
 雪風は「そういえば、深緑の出身だっけ。だから、盆栽」と不思議そうに盆栽を見遣る。
 リディアにとっては共に買い物や食べ歩きをする事だけでも喜ばしくとも、雪風はどうだろうと窺い見遣る。
「リディアさん、盆栽詳しいの? あ、違うか。緑に詳しいの? 俺でも花、育てられるかなあ」
 どう思う? と問うた彼も楽しんでくれているのだろうか、と。僅かに落ちた昏い気持ちは少し散歩に。


「向日葵」
 その名を呼ばれて、朝顔はかんばせに喜色を滲ませて振り向いた。彼と共に散歩をと望んだ刻がやってきて心が弾む。
「それにしても、今年も桜が綺麗に咲いてて良かったです。豊穣の戦い、きっと此処にも影響が出てたはずなのに……」
 戦の傷跡に心痛めて息を吐く。それでも根付く花は咲き誇るかと目を細めた朝顔を見上げた遮那は彼女の名を呼んだ。
「こうして上を見上げ、空と共に見る桜は美しいのう。向日葵は桜が好きか? 私は好きだぞ。綺麗で潔い」
「私も桜大好きですよ! 咲いている時も素敵だけど……散る時も、儚さを感じると同時に美しくで……
 きっと、特に晴れた空に舞う桜吹雪はとっても綺麗なんだろうなって思いますし!」
 儚き故に、美しい。この絢爛華麗なる景色を共に歩み見られたことが嬉しくて朝顔は「有難う」と微笑んだ。
 傍らにあることが、何よりも幸福なのだと胸に抱いて。

「色んな種類があるけど、エルピスはどれが良い?」
 問うルーキスへとエルピスは「そう、ですね」と首を傾いだ。この時期は桜餅と草餅がお勧めだと指さした。
「大陸のお菓子とはちょっと違うけど美味しいよ。桜の花は塩漬けにして食べたりもするんだ。あ、お茶も一緒にどうぞ。
 ……こうして、カムイグラで一緒に花見ができるとは思ってなかったから、嬉しいな」
「わたしも、万葉さまが仰らなければこの旅は無かったと思っております」
 小さく笑みを零したエルピスにルーキスは頷いた。ああ、けれど――桜や梅を見るよりも尚、花より団子とでも言うかの如く傍らのエルピスばかりを見てしまう。
「……ルーキスさん?」
「……あ、ううん。大丈夫、何でもないよ、桜キレイダナー」
 君が気になるなど、言えやしない。言っても彼女は少しも理解してくれないだろうけれど。

「荷物持ち、ありがとうであります! キサ、早起きしてあれこれ作ったのであります! たんと召し上がれであります!」
 希紗良の微笑みにシガーは「有難う」と綻ばせる。花を眺めて早速の手料理を、と蓋を開ければ希紗良は緊張したようについ、と見遣った。
 味見はしても好みがある。故に、彼の様子が気になるとそうと見遣ればシガーは一口摘まんだ後に大きく頷いた。
「うん、味もしっかりしていて美味しい。希紗良ちゃんは料理上手だねぇ」
「少し濃いめにし過ぎたかと心配しておりましたが、よかったであります!」
 及第点ですか、と瞳を煌めかせた希紗良にアッシュは「勿論」と微笑んだ。量もそれなり――に見えようともついつい勢いよく食べてしまったとシガーは頬を掻く。
 食後に桜茶をと用意していた希紗良の前に、そっと差し出されたのは形良い桜餅であった。
「ご馳走様。お礼とは言っては何だけど……希紗良ちゃんはまだ食べられそうかな?」
「勿論であります!」
 花より団子。甘味は別腹と瞳を輝かせた少女の溌剌とした笑みにシガーは大きく頷いた。美味しいものを食べて語らうとはなんと贅沢な時間だろう。

 豊穣の装いに身を包んでいたクレマァダの肩をつん、と突いたのはマリンガァタ。
「おひいさま、おひいさま。王子様がいらっしゃいましたよ」
 そう言われれば、びくりと肩が跳ねる。昔馴染みであろうとも何もかも見透かしてくる様に感じるのは身内贔屓だろうか。
「桜の花って、華やかですよねえ。でも、ぽつりぽつりと咲く梅の花の、朴訥でささやかな様も好きなんですよ、私。
 素直さって大事ですよねえ。……あ、そろそろお邪魔虫は退散いたしますので♪」
 くすりと微笑んでいってらっしゃいと手を振るマリンガァタに見送られて。クレマァダはゆっくりと顔を上げた。
 花の海は、草原も、昏い海もだ。視界を覆い尽くすすべては己の場所を見失わせるかのようで。呆けたような、眉尻の落ちた穏やかな表情は『我』らしくないと感じながらもクレマァダは彼の姿を見つけてから笑みを零した。
「フェル。……少し歩こう?」
「えぇ、お供致しましょう」
 海洋の貴族として。豊穣での挨拶を行う彼女の公務の労を労るように、傍らに立てば「綺麗じゃの」と呟く声が聞こえる。
 満開の花を眺め穏やかな気持ちになる事がフェルディンにとっては初めてかも知れないと鮮やかな衣に身を包んだ彼女を見遣り傍らの花へ微笑んだ。
「……とても、綺麗です」
「ああ」
「いいえ、――クレマァダさん」
 いつもより少しばかり爛漫と振る舞う彼女の事だと。花のことだと誤魔化さずに白状すれば、海にはない景色を愛でる己の滑稽さなどひた隠したようにクレマァダは悪戯めいて微笑んだ。
「我が綺麗じゃと? ……どの辺が?」
「在りのままの貴女が。どの花にも負けないくらい、綺麗に映りました」
 ――その後の表情は、フェルディンだけの秘密にしていて。

「ここが豊穣! いいね~。空気が全然違う! なにげ俺来たことなかったから新鮮」
「そうなの? ふふ、はじめて同士だわ!」
 眞田におそろい、と微笑んだ万葉。足下でアピールする面白山高原先輩と蛸地蔵君は何かに興味があるようで――
「面白山高原先輩と蛸地蔵君も久しぶりだねー! ジャーキーいる? ササミじゃないけど多分美味しいよ。なんなら俺も食べよかな?
 ……はは、お弁当もあるんだっけ。ご飯食べようぜ! ごめん、俺わりと花より団子な所あるから。正確には花も団子も」
 自分たちもだというように尾を振り回す面白山高原先輩と蛸地蔵君を諫めながらも万葉は「実は私も」とお猪口をふりふりとアピールして来る。
「退紅さんお酒飲めるんだ? 意外だー。俺めっちゃお酒好きなんだよね。一緒に飲めたら楽しいだろうな」
「東京で一緒に飲みましょう? 眞田さんが好きなお酒教えてほしいもの!」
 瞳をきらりと輝かせた万葉に眞田は大きく頷いた。弁当箱にひらりと落ちた花弁が、アクセントのように鮮やかで。
「しかし桜も梅も綺麗だな。なんつーか、和風……雅って感じ? 再現性東京だったらまた違うんだろうな。
 一緒に練達外に行けて嬉しいよ。今日一よかったと思う! また来れたらいいね!」
 万葉が口を開くより先に「わん」「にゃん」と同意を示した二匹へと「先を越された」と頬を膨らませたのだった。


「遮那君が来ているみたいだけど……行かなくて良かったの?」
 空をも覆う満開の花色に、マルクがそう問い掛けたのはリンディスにとっても大切な友の姿を見かけたからなのであろう。
 杯を手に、リンディスの唇には小さな笑みが浮かぶ。「今日はマルクさんと、一緒にお花見に来たんですよ?」と、微笑めばマルクの目尻が和らいだ。
 己を選んでくれたのならば嬉しい、と。言葉にせずとも表情に滲んだ心模様をリンディスが知ったか知らないかは定かでなくて。
「こうした景色の中で飲むお酒。花見酒、というらしいですね」
「花見酒、かあ。風流、ってやつだねえ」
 広げたお弁当と花咲く景色。それからリンディスにとっては初めての酒。記念すべき席だとマルクが揶揄い笑えばリンディスは頷いて。
「それじゃ、リンディスさんの初めてのお酒に、乾杯」
「乾杯、です」
 酌をし合い、会話を交せばリンディスの心が躍り出す。和らぐ風を受ければほんのりと色付く頬も機嫌良く笑みを乗せて。
「ふわふわする感じ……これがお酒なのですね」
 はじめての感覚に、酒の心地よさが眠気を誘う。瞼の重さを感じながらリンディスの身体はそっとマルクの膝へと横たえられた。
 その状況でも、心地よいぬくもりが傍にあるとリンディスはゆっくりと花瞼を閉じて――
「おやすみなさい、マルクさん」


「この辺りで花を見て楽しんでいるから行っておいで、ポメ太郎」
 ほら、とベネディクトが送り出せばポメ太郎は嬉しそうに尾を揺らし駆けてゆく。
 わあ、綺麗ですねと嬉しそうなポメ太郎は一直線に面白山高原先輩の許へと向かっていた。
『先輩! 先輩だ! 先輩は人型になれるんですか!?』
『なれない』
『猫もなれない』
『ええ!?』
 ――ベネディクトも想像していた通りの会話を繰り広げるポメ太郎と面白山高原先輩(+蛸地蔵くん)。
 その様子を見遣って小さく笑った万葉はベネディクトに気付いて手を振った。揶揄い笑った彼女にベネディクトも頷き返す。
 面白山高原先輩に懐いているポメ太郎はとても楽しそうだ。彼にとって余程頼りになる犬なのだろう。
 飼い主同士も挨拶に行こうかと踏み出して、ベネディクトはふと思う。美しい花と共に茶を飲むならば次は誰かを共にしようか、と。

 こうしてゆったりとした気持ちで花を愛でるのは初めてで。ラヴは傍らのポシェティケトを見遣る。
 浮き立った心は秘密ではなくて。春めいた空と桜と梅、それから沢山の料理を前にポシェティケトは笑みを零す。
「みてみて、キュウ。お弁当、見たことない食べ物がたくさん。何段も重なって、豪華よ。ワタシ達だけで食べきれるかしらねえ」
「美味しそうなお弁当を並べられたら、つい……食べても、良いなら……それじゃあひとつだけ、頂くわね?」
「……あらあ、ふふ。せっかくたくさんあるのよう。たっぷり食べましょ」
 揶揄い微笑んだような、ポシェティケトの声音にラヴは『この世界では』禁じられているけれど、折角ならば彼女が嗜む酒を共にしたかったと囁いて。
「あら。この世界では、ということは、もとの世界では大丈夫だったのかしら。
 ……勝手が違って、困ったこともあったのではない? ね、それじゃ、あらためてを、しましょうよ。
 ――ようこそのあなた、大好きと大切のキュウに、乾杯」
「ふふ、ええ。それじゃあ、あらためて。私はお茶で、ね。花でも団子でもなく、大好きなあなたがいるこの世界に……乾杯」
 大切で、大好き。そうした想いを込めたグラオ・クローネ。大好きなお友達と一緒が嬉しくて、ポシェティケトはふわふわと眠たい気持ちで胸満たす。
「大切の気持ちを半分こ、交換できて嬉しかったのよ。
 これからも、美味しいもの、楽しいもの、たくさん半分こしましょうね」
「ええ、ええ、私こそよ。美味しいものや、大切な気持ち。いつでも、ポシェティケトさんと半分こ出来たら嬉しいわ。
 ……あ、あら? ポシェティケトさん、いつの間にその姿に……きゃっ、もお、擽ったいわ……!」
 鹿の姿に戻ってしまっても気付かないままにポシェティケトは懐くようにラヴへと擦り寄って。
 眠たいと問えば応えるようにその肌が寄せられる。このぬくもりと春うららかな気配に、今は甘えていよう。

 蓙に腰掛けて、雪之丞は膝をぽん、と叩いて見遣る。エルピスと名を呼べば緊張した彼女はぎこちなく首を傾いだ。
「せっかくの花見ですから、エルピスに、普段は見ない景色を、と。……拙の膝枕では、不満でしょうか?」
「あ、い、いいえ」
 いらっしゃい、と微笑めば、エルピスがおずおずと膝へと頭を乗せる。緊張する彼女の頬を擽ればふにゃりと眉が和らいだ。
 ズルいでしょうか、と問えば「もちろん」と困り顔で破顔して。エルピスの頭を撫でやれば驚いたように瞬き照れ隠しの笑みが浮かんだのが見て取れた。
「見上げ、視界に広がる花々は、心に残る情景です。……たまには、こういう時間もいいのではないでしょうか?」
「はい。なら、わたしが雪さんに……」
「いいえ。少しでも、船旅の疲れを癒せれば、幸いです。拙も、こうしてもらった時は、とても落ち着きましたから」
 それなら、とエルピスは雪之丞の膝に甘えるように桜を見遣る。心地よい、余り経験のないそのぬくもりに。
 ねむたくなりました、とエルピスは小さく呟いた。どうぞ、と頭を撫でやれば、心地の良い重みが僅かに増える。
 
「頭領、ここは本当に素敵なところですね。桜がとっても綺麗です」
 卯月の穏やかな声音へと鬼灯はそうだろう、と頷いた。喜色に和らぐ彼を見遣れば、共にと選んだことが間違いではなかったと感じられる。
 舞い落ちた花弁を章へとそうと握らせた卯月は「どうぞ」と笑み溢す。
 章はと言えば彼女のお気に入りの桜のドレスを。鬼灯は父と慕う彼女を見遣れば心和らぐと同時に僅かな嫉妬を抱くと小さく笑った。
「しかし、本当に貴殿は宴が好きだな。まあ、俺も人のことは言えんが」
「共に誰かと杯傾けるのは楽しいだろう?」
 からからと。笑みを零した霞帝へと鬼灯は悪くない風景だと大きく頷き、腕の中の章が身を乗り出すように菓子を指す。
「帝さん、帝さん! このお菓子はなあに?」
「それは桜餅か」
 ひとつひとつ、問えば笑みが返される。そんな様子に心躍る気がして、章はもっと聞きたいと微笑んだ。
「楽しいかい? 章殿」
「ええ、とっても! 私とーっても楽しいのだわ!」
 彼女が笑ってくれるならば鬼灯も幸せだと破顔して。

「霞帝」
 繁茂は静かな声音で眼前に座する男の名を呼んだ。物を送る相手は居らず、独り酒と眺めたが瑞の傍らに座した霞帝に気付いて頭を垂れることを選んだ。
「……お前の夢に憧れ諦めていた夢を叶えようとした鬼がいた。一歩踏み出し高天京に上り『不運な事故』の報復で死んだ鬼がいた。
 俺はお前へのこの感情を、言葉にできない。だが、あんたに贈りたい言葉がある」
 霞帝は繁茂には何も言わずに、彼の言葉を待った。切なげに眉根を寄せて、苦しげなかんばせは彼の友の死を悼むように。
「……お前のおかげで、あいつは最期も希望を持って逝けた。ありがとう。
 このような場で言う事ではないと考えたが、直接伝えられる機会はそうないと思った、すまない。――邪魔したな、失礼する」
 瑞神が「繁茂さま」と声を掛けるが彼は振り向かなかった。心優しき神である瑞は自身にとっては余りにも清すぎる。
 酒で心を見たそうと、距離を取って眺める花は美しかった。

「この間、梅を一緒に見られたら……ってお話ししたばかり。こんな素敵な場所に来られて嬉しいな」
 微笑むタイムはこの辺にしようかと蓙を広げた。梅と桜、その双方は趣深いと遮那は目を細め破顔する。
「凍える冬の終わりを感じさせてくれるからな。ぽっと咲くのも可愛らしい。タイムの目にはどう映っておるのだ?」
「わたしは春が一番好きな季節なの。大地が鮮やかに色づいて生命の息吹に噎せ返るくらいで、この季節は新しい何かが始まる予感に溢れているわ」
 梅は、冬の終わり。溢れるほどの満開な其れが新たな予感を過らせるから。
 準備できましたよ、とルル家が弁当を広げた。遮那のリクエストで準備したおかずは可愛らしいものばかり。
 唐揚げ、ほうれん草のごま和え、タコさんウィンナー、肉団子。全て可愛らしくアレンジと一手間加えれば遮那は瞳を輝かせた。
「ルル家! この肉団子美味いぞ! 唐揚げも最高だ。うちの女房達にも引けを取らぬとは中々やるのう」
「梅干し……すっぱっ!」
 タイムに小さく笑ったルル家は「肉が多めというリクエストに応じてみました!」と胸を張った。ローストビーフに生姜焼き。
 食べ盛りの少年はうまいと胸を高鳴らせる。
「……のう、うさ林檎は無いのか?」
「ルル家さんの剥いたうさ林檎あるの? いいな、わたしもー!」
 奥ゆかしい梅のかわいらしさを眺めて居たルル家はぱちりと瞬いてから悪戯っ子の様に笑みを零した。
「じゃあ作りますので待って下さいね!」

 和やかな時を過ごして、日々を紡いで。
 舞い散る花に。移ろう季節を感じようとも、儚きそれを止める事は無く――
 さいわいの花あかりに寄り添うて。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 この度はご参加有難うございました。
 豊穣での花見と、ホワイトデーが皆様にとって良き思い出になりましたら幸いです。

 また、ご縁がございましたら。

PAGETOPPAGEBOTTOM