シナリオ詳細
<グラオ・クローネ2021>綴る想いは
オープニング
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グラオ・クローネ――それは混沌に伝わる御伽噺のひとつ。深緑の大樹ファルカウと共に生きたと言われる『最初の少女』の物語である。それは閉鎖的である深緑の国境を越え、今や混沌世界ではちょっとしたイベントのひとつとして親しまれているものだ。
愛情、友情、感謝。大切なヒトが今日この日に此処にいてくれる奇跡を噛み締めるように。想いを届けるべく贈り物をする日である。旅人には崩れないバベルにかけて『バレンタインデー』と言えば分かるだろうか。
この混沌世界でもチョコレートを渡す文化は勿論ある。その時期になれば商人たちがこぞってグラオ・クローネ商戦だとチョコレート菓子やその素材を販売するし、喫茶店などを始めとした飲食店でもチョコレートを使った期間限定商品を出す店は多いだろう。
チョコレートを渡さなくてはならない、なんて制約もないので雑貨なども必然とグラオ・クローネの――それも贈り物にし易そうな――商品が並ぶのである。
つまるところ、今、混沌世界はグラオ・クローネというイベントで浮き立っていた。
そんな中、ローレットでは『Blue Rose』シャルル(p3n000032)が以前の報告書を漁っていた。探しているものは見ればわかると言わんばかりに頁をめくる手は早い。
「シャルルさん、何を探してるんです?」
「ん? ああ……今の季節にピッタリな場所、あったなあって」
報告書の束を持ってきたブラウ(p3n000090)が首を傾げる。シャルルはそちらへ目もくれず報告書を一瞥し、その束に目的のものがないと知るやブラウへ手を差し出した。彼が持ってきた報告書と、今しがた確認していた報告書を交換こして再び頁をめくり始める。
「ここ1年ほどの報告書ならそれで最後ですよ」
「じゃあ、この中にあるかな……」
呟きながら頁をめくっていたその手が、不意に止まる。ブラウが横から覗き込むと、それは1年と少し前に作成された報告書のようだった。
「これは……あー。シャルルさんが手紙を書いてたやつですか?」
「そうそう。贈り物にはいいんじゃないかなって」
シャルルはそう返しながら、報告書から場所などを別の羊皮紙へ写し始めた。
その報告書は深緑にある湖でひと時を過ごすというものである。レジャー的な内容ではあるが、湖が選ばれた最たる理由はその場所由来の伝承にあった。
『想いを乗せた紙飛行機は相手へ届く』
一見、ただの湖である。飛び込んでも変化はないし、ろ過して煮沸すれば飲むこともできるだろうただの水が満たされている。ただし、紙飛行機にした手紙を湖へ投げ入れると何故か消失すると言うのだ。
濡れて沈んでいる様子はないし、実際に去年――報告書からすれば一昨年か――にはイレギュラーズの複数名がそれを体感している。送り先に届いたとか届いていないとかいう話もあるが、定かではない。
だがその特異性に『もしかしたら』と思う者がいるのも確かである。
もしかしたら、相手を思い出せなくても想いがあれば届くかもしれない。
もしかしたら、どこにいるかわからなくても届くかもしれない。
もしかしたら、それが自身の行けぬ場所であっても届くかもしれない。
それが、異世界であったとしても。
どこまでも確証を得ない話である。何故なら召喚された者は現在、戻る術を持たない。確認する術を持たない。だから――それでも良いのならば、飛ばせば良い。
- <グラオ・クローネ2021>綴る想いは完了
- GM名愁
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2021年02月27日 22時05分
- 参加人数28/30人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 28 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(28人)
サポートNPC一覧(1人)
リプレイ
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ちらほらと、湖へ足を運ぶ影がある。その場で書く者もいれば、予め書いてきたそれを飛ばす者も。誰もが届くかわからないけれど、届くようにと、願いを込めていた。
一筆したためたそれを折りながら、クロバはふっと小さく苦笑する。ほとんどのイレギュラーズに対する敵。自分にとっても敵で――けれど、家族みたいなものでもあって。
(今、どこで何してるんだよ)
妖精郷で姿を消したあの人は、あれきり音沙汰がないものだから。返事なんて帰って来ないだろうけれど、そもそも届くかも知らないけれど――クロバはそれを、湖へ飛ばした。
だって、どこにだって届く『かもしれない』というのなら。居場所の分からぬ人にも、世界すら跨いだ人であっても。
『兄上へ』
そう始めたナイエルは故郷で族長となった戦士へ文をしたためる。きっと突然いなくなって、心配させてしまっただろうから。
次の【宿木】がすぐ見つかるように。
皆が幸多い未来を歩めるように。
書き方などわからないけれど、想いを込めて。
(伝えられなかった想いも、伝わりますよう)
宛名のない手紙を風葬させていた燕姫だけれど、本当に、本当に届くのなら――遥か遠い世界の貴方へ。ちゃんと届くように、宛名を記して飛ばしましょう。
『私は今なぜか異国にいますが、今日も元気ですよ』
安心させるように。どんな日々を送っているか分かるように。けれど、まだ、『本当に伝えたいこと』はこの場で伝えたくないから――心の内に秘めよう。
「む?」
白妙姫は目をぱちり。
「しもうた」
ここで自身の認識に誤りがあったと気づいた。甘い菓子なんてここにはなさそうだ。
聞けば湖に文を投げ入れるということだが、そういうことにはとんと縁がない。困った。
(まぁ必ず書けというものでもあるまいよ)
茣蓙を敷いて座った白妙姫は目を伏せる。少しばかり肌寒い空気は身も心も引き締めるよう。
趣旨とは違えど、これもまた悪くない。
「お手紙、ちゃんと届くかなぁ?」
紙飛行機の軌跡を視線で追いかけるイーハトーヴ。ぽちゃり、と落ちた先はどうなっているかわからないけれど、どうか大切で大好きな友人へ届きますように。
「シャルル嬢、いつもありがとうね」
「え、何? 急に改まって」
「ふふ、口でも言っておかないと勿体ないなって」
くすりと笑った彼にシャルルもつられて微笑む。その表情にイーハトーヴは困ったなと小さく眉尻を下げた。
今でも十分なはずなのに、もっとと欲は留まることを知らなくて。言葉だけじゃなくて贈り物でだって気持ちを示したいのに、その気持ちだけが逸ってしまう。
「ねえ、シャルル嬢。ありがとうのお菓子、上手に作れるようになったら味見してくれる?」
「もちろん。美味しいの、楽しみにしてるよ」
――嗚呼、そんなこと言われたら、頑張らなくっちゃ!
(届かないだろうが、それでも)
誠司は書いた手紙に写真を添えて、紙飛行機へ折り込んでいく。故郷はあまりにも遠いけれど、届くのならば安心させられる1枚を、と。
「シュテルンはどう? 書けたか?」
「うん! 書く、したよ!」
ぱっとシュテルンは花綻ぶ笑顔を見せ、大切そうに折り終わった紙飛行機を抱きしめる。忘れてしまった、幼い頃のシュテルンへ。世界も飛び越えられるなら、時間だって飛び越えられるかもしれないから。
沢山遊んでいたのだろうか。沢山歌っていたのだろうか。どんな歌を歌っていたのだろうか。
ちっとも思い出せないけれど、興味はあって。誰に出そうかと考えて真っ先に出てきた人物だった。
「政治、なんて書いた? きーていい、する?」
「うん? ああ、俺は故郷に。まぁ届かないだろうが」
投げてみる価値はあるだろうと小さく笑む彼に、シュテルンは目を瞬かせ。それから大丈夫だと笑った。
「きっと、届くする! シュテね、わかる気がするのっ!」
だから想いを込めて、飛ばそう。
(前に来た時は女神様に送ったんだよな……)
あの手紙が届いているか、確かめるすべはないけれど。今日ばかりは再び女神さまへ送るより、最愛の旦那様へ想いを伝えたくて。
いつも一緒にいてくれる感謝を。
与えてくれる愛情に感謝を。
そして、これからも思い出と幸せを重ねて歩いていけるように。
『いつも、愛してる』
その言葉を、飛ばす。
「わぁ、きらきらしてる……すごいね!」
「あ、危ない……!」
シャオジーはドゥーに引き戻され事なきを得る。このまま湖に落っこちていたら――確実に風邪をひくだろう。
2人は紙とペンを受け取ってそれぞれ書き始める。どちらも字はつたないけれど、それでも精一杯の気持ちを込めていた。
『これからも美味しいものを食べに行ったり、綺麗なものを見に行こうね』
『これからも、なかよくしてね』
宛先は、隣にいるあなたへ。直接手渡しした方が早いし、確実だけれども、湖が届けてくれた方がずっとドキドキできて、ワクワク出来て、素敵だから。
(単純に、一緒に遊びに来たかったのもあるけど……)
そより、と冷たい風がそよぐ。それもなんだか心地よくて、手紙を追いかけるシャオジーを追いかけながら、ドゥーは口元を緩ませた。
(本当は翼ある俺が直接伝えたいんだけどな)
まさか紙飛行機に劣るなんて、とカイトは唸るができぬものは仕方がない。自分であっても、かの水竜の元には行けないのだから。
絶望の青を進むときはそれどころでなかったけれど、ちゃんとお礼をここで言わせて欲しい。彼女のおかげでカイトたちは無事に海を渡り、新しい土地を見つけられたのだから。
そのうちには彼女の元まで辿り着けるように――その時にはリヴァイアサンとも再開となるのだろうか?
(怖かったけど、嫌いではなかったな)
今も仲良く微睡んでいればよい。そう思いながら負けじと自分たちの仲良しっぷりも書いておく。
「よし、っと。赤い紙飛行機にして、折り方も工夫して……」
赤とんびの紙飛行機が湖へ向かって飛んでいく。返事は来ないだろうけれどそれでいい。伝わるなら、いいのだ。
「想いを呑み込む湖、だって。ちょっとやってみようか、ライ」
リリーとライは一緒に小さな体でペンを取る。からの大きさにあわぬペンは扱いづらく、長くは書けないが、
(大好き、だけでも伝わるといいな)
淡く口元に笑みを浮かべるリリー。ライもまた同じ言葉を手紙に綴る。
(カイトさんからの手紙と勘違いしそうですが)
彼が誰へ飛ばしているのか定かでないが、リリーはその好意をすぐさま彼のものと捉えるだろう。けれど、それでも良いのだ。
「よいしょ、と……できたー! あとはこれを投げ込めばいいんだよねっ?」
「はい、最後の一仕事ですよ、お姉ちゃん」
2人とも綺麗に紙飛行機を折り、よたよたとしながらそれを飛ばす。届くように願ったリリーはライを振り返った。
「ちなみにライは誰に向けたの?」
「内緒です」
「そっかぁ」
深くは詮索しない。さあ、仲良く帰ろうか。冬の水辺は寒くて、仮に落っこちなかったとしても風邪をひいてしまいそうだから。
「ねえ、ゼファー。届いたら褒めてちょうだい」
だって前回よりずっと綺麗に字を書けるのよ、とアリスは肩を寄せるゼファーに囁いた。
1年と少し。久しぶりにきたこの湖は変わらないけれど、2人の接し方はちょっと変わって。以前は目を合わせられないくらいに恥ずかしかったけれど――。
(最近のゼファーは何だか、甘えん坊)
アリスだけが知っている、余裕のない所。
一緒に飛ばした紙飛行機はあの時と同じように、何故だかこつんと頭に当たって。顔を見合わせた2人は揃って紙飛行機を解く。
――時々逃げ出したくなることもあるの。
不変は存在しない。移ろって流れて置いて行かれて。その中で変わらない貴女(アリス)がいる心強さと、忘れないで欲しいという願い。
――わたしは何処にも行かないわ。
理想の少女(アリス)は、彼女の傍だからこそ輝ける。だから『忘れる』だなんて、悪い冗談よ。
「……屹度、此れが貴女の一番欲しい言葉だと思ったの。ふふ、泣かないでよもう、やだあ」
くすりと笑ったアリスはゼファーを抱きしめる。大丈夫、そんな弱い貴女の事もひっくるめて、だいすきよ。
お揃いの万年筆。窓を開ければ話せる距離の2人だけれど、今日ばかりは文字を綴りましょう。
未散は虹の轍を手紙へ走らせ。ヴィクトールの其れは金から赫へと移ろいゆく。もう少しで1年になるこれまでの想いを、変化を、一文字一文字大切に。
(ぼくの世界は、あなたさまによって随分と彩られたような気がします)
すぐさま思い浮かぶ記憶には沢山、沢山、ヴィクトールがいて。そこから今へ繋がる残滓は確かに未散を構成する一部となっている。
ヴィクトールもまた、そうであったら良い。
(ボクの記憶は、数少なくて)
それでも積み重ねられたのは、未散と共に様々な場所へ行って、様々な体験をしたから。また同じように1年、記憶を積み重ねて行けるだろうか。
ヴィクトールのそれに思いなどというものが籠ったのかはわからない。されど籠ったのならばいずれ、きっと、未散の元へ飛んでいくだろう。
春は近く、桜の香りも近く。未散という小鳥はまだ、ヴィクトールという止まり木にて囀る事だろう。
(――父よ)
そんな彼らも見えぬ、対岸の岸。ミロンは1人手紙を飛ばしていた。巡り合えぬ父と、何時しか巡り合えるように。
どうか心穏やかでありますように。どうか一目でも見ることができますように。それまではどうか、元気でありますように。
心配されないほどに健やかでも――それは合わなくて良い理由になどならないのだから。
(来てみたはいいけど、元の世界に送ったら行方不明者から手紙が届くんでしょ? ホラーじゃん)
世界は内心何とも言えない気持ちで傍らのメルーナへ視線を向ける。彼女は誰へ送るのだろう。最もこの方法で届ける相手など十中八九訳アリだろうが、やけに真面目な表情だ。
(お父さん、お母さん……本当に届くのなら)
メルーナは顔もしらない両親を思って飛ばす。こんな姿の子供なんて気味が悪かっただろうけれど、子供としては親の無事を祈りたいもので。
「……世界。アンタは――どんな事を書いて飛ばしたの?」
メルーナはそう問うてからあれ、と心の中で疑問に思った。今、どうして『言い換えた』んだろう?
「あー……まあ、他愛ないことだよ」
一方の世界は『誰宛』なら考えていたものの『何を』の部分は考えておらず適当にはぐらかす。そして沈黙。いたたまれない。
(こうなったら最終兵器だ)
自作のチョコである。これを――彼女の頭へ。
「だーから、頭載せるなっつってんでしょ!」
「そうその調子だ! それでこそお前だ!!」
吠えるメルーナにぐっとサムズアップするも束の間、世界は差し出されたそれに固まった。
「今日はアンタに貰うんじゃなくて、私がアンタにくれてやるのよ。……そういう日でしょ?」
「…………チョコ!? お前がか!?」
受け取った姿を見るなりふいっと顔をそむけるメルーナ。だってこういうの、ちょっとは気恥ずかし――。
「こりゃ明日は大雪になりそうだ」
「どーしてそういうこと言うのっ!」
やっぱり吠えた。好意は素直に受け取れ!
●
夜更けに、2人。ウィリアムとコルクは湖のほとりで待ち合わせ。
「案外迷われるかと思っていましたけれど、そうでもないみたいですわね」
「そうそう道には迷わないって」
ころころ笑うコルクと、肩をすくめるウィリアム。彼は彼女の手元へ視線を移した。どちらの手にも、手紙はない。
「手紙はもう、捨てて……いえ、投げてしまいました」
私が『私』であるための手紙。『わたし』はいらないの。そんな気持ちは彼と会う前に決別しようと思って、ほんの少し早く来たのだ。
(そうでしょう――作者さま?)
「……どっか行ったりするんじゃねえぞ。あんまり、知り合いに居なくなって欲しくはないからな」
視線を湖へ移したウィリアムの独白に、コルクはほんの少し目を細めた。嗚呼。彼はきっと、やりきれない思いと共にここへ来たことがあるのだろう。
「……ねぇ、ウィリアム様。今宵も、星が綺麗ですね」
「星はいつだって綺麗なもんだ」
揃って空を見上げた2人。誰かと一緒に見る星空は尚更美しく、ただ只管に静寂で満ちていた。
その下をリゲルは足元照らしながら進む。妻とは敢えて時間をずらしたから、彼女はきっともう家にいるはずだ。
(俺も早く帰ろう)
妻への手紙を飛ばしたら、最愛の本人の元へ。そう思いながらリゲルは明かりにしていた飛行機を湖へ飛ばす。
美味しい料理と迎えてくれる笑顔に感謝を。
暖かな日常を共に歩んでくれる感謝を。
来年も、その先もこうして『この日』を過ごせるように。
沢山の想いを込めた手紙は小さな音を立てて湖へ沈んでいく。それを見届けたリゲルは暖かな家へと踵を返したのだった。
「ファクル、寒くない?」
「アイシャこそ」
姉弟で夜道を行くアイシャとファクル。母の体調が良くなってきたため此度は誘ったが、彼の反応を見るに誘って正解である。幻想料理を食べた時、お土産を買い込んだ時。幼い子供のようにはしゃぐ彼はとても楽しそうで。
「足元には気を付けろよ? ……っと、言わんこっちゃない」
躓いたリヴィと手を繋ぎあい、ぐっと引き戻す才蔵。ほんの少し赤らめた頬は幸いに、暗いから彼へ見られることはない。
(言い伝えの事、知らないよね?)
(今は知らないフリをしておくか)
リヴィの隠し事なんて才蔵にはお見通しで、しかしそれを敢えて指摘するような必要もなく。リヴィは気恥ずかしさからさっと紙飛行機を飛ばし、その隙に才蔵もしれっとメモ書きを追って暗闇へ飛ばす。
『きっと無理をしないで下さい、なんて言っても貴方はきっと無理をするから。……だから、せめて生きて不愛想なその顔を見せて下さい』
『止めても聞かないだろうからコレだけは言わせて欲しい。無事に帰って来て、笑顔を見せて欲しい』
こんなこと、直接言い合えるような子供ではないから。互いの気づかぬうちに、手元へ届くことを願って。
カンテラ揺らすタイムの先導により夏子は湖のほとりを進む。ここにはなんともロマンティックな言い伝えがあるらしい。
「本当なのかなって……夏子さん?」
「……えっ? あいやソレで、紙飛行機を飛ばしてみよってワケね!」
聞いているともと大ぶりなジェスチャー。ごめん、話半分だった。一緒に居ても楽しいけどワンチャンないかなとか思ってた。
なんて言ったら可愛くも拗ねられてしまうだろうから。夏子は紙飛行機、もとい手紙に意識を向ける。日頃の感謝はその時しているし、色んな女性と仲良ししたいのは毎日だし。
(真面目でストイックだとこうなるよねうんうん)
とひとり頷く彼の傍ら、タイムはカンテラの傍で手紙を書き始めていた。彼へ届いた時にはこれが懐かしい思い出になっていますように。
(できれば手紙が届くのが、うんと未来でありますように)
「……って、そんなに飛ばすの?」
「何処で誰とどうなるか、な~んて分っかんないからさぁ」
数打ちゃ当たると言わんばかりに7通。そしてタイムの1通。暗闇に呑まれてしまったならこれでおしまいで。
「もう少しここにいる? 戻って部屋で暖かいお茶でも?」
タイムの放った『部屋』に素早く反応した夏子。もしかして、もしかしなくてもくれってチャンスなのでは!?
「いつくらいに届くんだろうね?」
「まーボトルメッセージくらい気長にいればいいんじゃねーか?」
シキとサンディは夜道をぶらぶら歩きながら飛ばす場所を探す。うん、この辺りがいいかも。
「シキちゃんは誰に書くんだ?」
「ふふ。手紙を書きたい相手は決まってるけれど、内緒」
そのうちわかるさね、なんて笑うシキは早速書き始める。分かると言うことは世界や時空を跨いだ相手ではないと言うことか。
(誰なんだろうなー、その果報者は)
などと思いながらサンディも手紙へ。何時までも書けていないと先に帰られてしまうかも、なんて。
(……なーんて。宛先は君なんだけどね!)
シキは内心ほくそ笑みながらサンディへの手紙をしたためる。いつも守ってくれる彼へ感謝を。そして、
『君がとても大切で、特別だ』
言葉にするにはあまりにも大切すぎる、親愛を。
きっとこれからも我儘を言うだろう。止まれない時もあるだろう。けれど彼はついてきてくれる、そんな予感があって。だからこれからも――どうぞよろしくね、と。
そんなこと露知らずなサンディは少しばかり悩む。返してもらうモノではないから、伝えるモノでなくてはならない。
(そのままでいてってのも、俺が縛るモンじゃねえし)
彼女には自分の幸福を掴んでほしい。その傍らに自分が居ないとしても、だ。
(ま、そーはいってもまた色々悩んだりもするんだろうな)
ならば、その時背中を押せるように。『俺はここだ』と。
「手紙、書いてきた?」
「もちろん。アイシャも?」
2人は互いのそれを確かめ合うように手紙を取り出す。後は紙飛行機にして飛ばすだけ。
やっぱり寒そうだと弟の上着を羽織らされたアイシャは、その温もりを感じながら手紙を折り込む。父へ、会いたいという言葉を。
その横顔はあまりにも儚く消えてしまいそうで、ファクルはぎゅっと唇をかみしめた。
(早く帰って来いよ、馬鹿親父)
彼女の手を握って、一緒に手紙を飛ばす。早く連れ帰させて、腹一杯に美味い飯を食べさせてやろう。それで、笑ってもらうんだ。
(ホルスの子供達がお父さんの姿を取った……ううん、あんなの、幻に決まってる)
母も一緒に、楽しく幸せな未来があると信じよう。大丈夫――きっと。
(もう、1年以上経ったのねぇ)
アーリアはランタン片手に手頃な場所を探して腰かける。灯りの傍で綴ったのは『メディカ』という妹への宛先。
「……ふふふ。この時間にお菓子を食べさせるなんてメディカったら」
もぐもぐとチョコレートクッキーを食べながら手紙を書いたアーリアは、その食べカスごと飛行機に折り込んでしまう。以前は香水だったけれど、彼女に宛てるなら一緒によく食べたおやつの香りの方が覚えがあるはずだ。
(メディカのばか。……迎えに行くから、待っててね)
まさか起きてすぐ動くとは思わなかったから、彼女が今どこにいるのか知れない。いや、目星はつけているのだけれど。
(アドラステイア。ユーゴくんも……まさか、ね?)
祖国天義で生まれた独自国家。身近な人が巻き込まれている、そんな予感にアーリアは瞳を眇めたのだった。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れさまでした、イレギュラーズ。
渡したい人へ、手紙は飛ばせましたか?
この後のやり取りは是非RPでお楽しみください。
それでは、またのご縁がございますように。
GMコメント
●すること
湖のほとりで過ごす
●ロケーション
深緑の森にある湖。1日を通して天気は良く、夜は星空も見えるでしょう。ただし寒いです。また、夜間は灯り必須。
湖に落ちたら寒中水泳です。やめといたほうがいいです。
●紙飛行機の手紙
手紙を書き、それを紙飛行機に折って湖へ飛ばしてください。不格好でも構いません。『想いのこもった紙飛行機』ならば湖は呑み込んでくれます。
●EXプレイング
このイベントシナリオは参加費とは別の追加RCを払うことでEXプレイングをかけることができます。
プレイングの文字数を増やすことができる他、関係者を呼べる場合があります。(確約はできません)
【関係者の場合】
手紙はPC⇔関係者でなくても構いません。それぞれがそれぞれの出したい方へ出すのが宜しいかと思います。
ケース1. 同伴できそうな関係者の場合
友人、家族など、深緑へ同伴してもらっても世界観的に問題がないという場合は一緒にお越し頂けます。
敢えてケース2のような描写も可能です。
ケース2. 同伴できなさそうな関係者の場合
まだPCと混沌で巡り合えていないため同伴できないなど。この場合はタイミングをずらしてであれば別々にお越しいただいても構いません。(誰の関係者かわかりやすくするため、描写位置自体は近くします)
※ この和やかな場に魔種が来たら大変なことになるため、種別『魔種』で登録されている、及び魔種の可能性がある関係者は今回ご遠慮いただけますと幸いです。
※ そもそもEXプレイングって何? という方は以下のEXプレイング欄をご覧ください。
https://rev1.reversion.jp/page/scenariorule#menu03
●NPC
私の所有するNPCはお呼び頂ければ、リプレイに登場する可能性があります。
尚、ブラウは湖のほとりで羊皮紙とペンを用意しています。その場で書きたい方は借りて行ってください。
●注意事項
本シナリオはイベントシナリオです。軽めの描写となりますこと、全員の描写をお約束できない事をご了承ください。
アドリブの可否に関して、プレイングにアドリブ不可と明記がなければアドリブが入るものと思ってください。
同行者、あるいはグループタグは忘れずにお願い致します。
●ご挨拶
グラオ・クローネですね。愁です。
甘くはありませんが、気持ちのこもった贈り物を届けませんか?
このシナリオで描写される手紙について、お客様同士で了承が取れた場合は『湖へ飛ばした紙飛行機がいつの間にか相手の手元に届いた』としてくださって構いません。ロールプレイの切っ掛けにもお使いください。
それでは、ご縁がございましたらよろしくお願い致します。
以下シナリオと同じ舞台となります。お読み頂かなくてもご参加頂けます。(雰囲気の参考にしてください)
『Dear.』https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/2397
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