PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ステラ・マリスの星瞬

完了

参加者 : 30 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ただいちばんのさいわいをさがすように。

 天を泳いだ星屑が川のように流れ落ちる。いのちの終を顕わすようにその存在を輝かせたそのひとつ。
 天蓋を輝かせるイルミネーションのように。星々はカーテンの如く降注ぐ。空うつした海面は美しくも面白おかしく、鏡のように全てを移し込んだ。天と地の、その何方にも星が瞬き手招いた。

 ねえ、識っているだろうか。
 囁くように星々がかたりかけた。ささめきごとの様に密やかに、愛を紡ぐように柔らかに。

 このぼんやりと白い銀河を大きないい望遠鏡でごらんになって。
 だれかのさいわいを願った星はなんべんだってそのからだを灼かれ輝き続けるのです。
 星があなたにさいわいを与えてくれます。からだを灼かれたそのひかり。
 それは星の聖母があなたへと与える祝福のかがやきなのですから。


 流星群が遣ってくる。その言葉を唇に乗せてから『サブカルチャー』山田・雪風(p3n000024)は「海にも映り込んで綺麗なんだ」と柔らかな口調でそう言った。
「空いっぱいの星が、海にも映り込んで、天も地も、星みたい。
 そんな幻想的な景色を一緒に見にいかないか、とそう思って」
「……観測できる日、なんだっけ? 望遠鏡を担いでいきましょうよ。
 暖かいココアでも水筒に詰めていく? いっそ、海に浮かべば星の海で泳ぐ気分になるかしら!」
 何て素敵なのだろうと手を打ち合わせて瞳をきらり、きらりと輝かせる。『探偵助手』退紅・万葉 (p3n000171)は「けれど、寒すぎては困るから近くにお宿をとりましょう」と段取りを良く準備する。
 個室でのんびりと星の流れるまたたきを見詰めるのも幸福だろう。
「流星群、ですか?」
 ふと、首を傾いだ『聖女の殻』エルピス (p3n000080)に雪風は頷いた。
「そう、童話があってさ。ステラ・マリスっていうんだって」

 さいわいの星が落ちてくるのです。
 さいわいを願ってからだを灼かれた瞬く星。その慈愛は母の如く。
 それを海の星、海の聖母と呼びましょう。
 彼女のもたらすさいわいを、どうか、その目で映して。祝福を願いませう。

 そう言葉に乗せればエルピスは「まるでおとぎばなしのようですね」と頷いた。
 ステラ・マリスを見に行こう。一等美しい、冬の海で。
 星が映り込んだ海面に、静寂の溢れた砂浜に。
 その地でのんびりと過ごしたならば、きっとさいわいに心は満たされる。
 ――ああ、寒がりならば、暖かなお部屋でのんびりと過ごしてみよう。
 恋人と、友人と、食事をしながら、散歩をしながら、共に笑い合いながら。
 あのさいわいの星を探しに行こうではないか。

GMコメント

 日下部あやめと申します。何卒宜しくお願い致します。
 星を見に参りませんか。輝かんばかりの流星の日に。

●流星の日
 それは在る流星群が訪れるという日です。冬の海、静かな場所で見詰めに参りませんか。

(1)冬の砂浜で、流星群を眺める
 凍えるような寒さでも、一等美しく見えるもの。ざざんざざんと音立てる潮の満ち引きと共に、海と空の双方に映る星を眺めませんか。
 砂浜で持ち込んでいただいた食事を取っても良いですし、お散歩しても良いと思います。
 海の中に入ってみるのも良いかもしれませんね。
 岩陰でのんびり過ごすのも良いですし、お外で天体観測を。
 流星を手を繋いで眺めたならば、『星の聖母』が祝福を与えてくれると言われています。
 よければ、皆さんで流れ星を探してみて下さいね。

(2)暖かな室内から星を見る
 海に面した静かなお宿です。個室ですので、のんびりと食事なども楽しめます。
 また、星を眺めてうたたねの出来る広い窓が存在して居ます。
 お食事の持ち込みや、ボードゲームなどの持ち込みも歓迎されているようです。
 酒類などもルームサービスで準備もしてくれるそうですので、よろしければ。

 (1)、(2)のどちらかをお選びください。
 両方ともに「こんなのがあればいいな」など現実的な範囲でしたら構いません。お好きに日常をお過ごしください。

●同行者や描写に関して・注意事項
・ご一緒に参加される方が居る場合は【同行者のIDと名前】か【グループ名】をプレイング冒頭にお願いします。
・暴力行為等は禁止させていただきます。他者を害する目的でのギフト・スキルの使用も禁止です。

●NPC
 山田・雪風とエルピス、退紅・万葉(+ペットの犬の面白山高原先輩と猫の蛸地蔵くん)が参ります。お声かけがなければ出番はありません。
 何かございましたらお気軽にお声掛けください。

どうぞ、よろしくお願いいたします。

  • ステラ・マリスの星瞬完了
  • GM名日下部あやめ
  • 種別イベント
  • 難易度VERYEASY
  • 冒険終了日時2021年01月06日 22時15分
  • 参加人数30/30人
  • 相談7日
  • 参加費50RC

参加者 : 30 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(30人)

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
フェリシア=ベルトゥーロ(p3p000094)
うつろう恵み
十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
鏡花の矛
ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
伏見 行人(p3p000858)
北辰の道標
ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)
想星紡ぎ
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
リディア・ヴァイス・フォーマルハウト(p3p003581)
木漏れ日のフルール
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
メイメイ・ルー(p3p004460)
約束の力
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
鏡花の癒し
シルフィナ(p3p007508)
メイド・オブ・オールワークス
ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)
懐中時計は動き出す
バルガル・ミフィスト(p3p007978)
シャドウウォーカー
リンディス=クァドラータ(p3p007979)
ただの人のように
小金井・正純(p3p008000)
ただの女
ヘーゼル・ナッツ・チョコレート(p3p008080)
指し手
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
メル=オ=メロウ(p3p008181)
Merrow
散々・未散(p3p008200)
魔女の騎士
クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)
海淵の祭司
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華
ルーキス・ファウン(p3p008870)
蒼光双閃
ラクロス・サン・アントワーヌ(p3p009067)
ワルツと共に
白夜 希(p3p009099)
死生の魔女
結月 沙耶(p3p009126)
少女融解
ナイアル・エルアル(p3p009369)
新たな可能性

サポートNPC一覧(3人)

山田・雪風(p3n000024)
サブカルチャー
エルピス(p3n000080)
聖女の殻
退紅・万葉(p3n000171)
探偵助手

リプレイ


 空を飾った星の瞬きは、いのちの終を伝えるように。天に流れたそのきらめきは、皆のこころに流れるように。
 天蓋に、てのひらを翳せば静寂の波の音だけが耳朶を擽る。沙耶は溢れる星が流れる軌跡を眺めながらその素足を海に晒した。波の感覚を楽しもうかと一歩踏み出して。
「って、な、ッ――」
 ざあ、と音と共に沙耶のその身体が浚われる。
 身体は海に浮かぶ形となれば、視界いっぱいに空が広がってゆく。浅黄色が海に溶けるように波と共に揺らいでいた。
「年の終わり、か。特異運命座標として動き出した私は、これからあの星のように輝けるのだろうか?
 ……あるいは、もうすでに輝いているのだろうか?」
 拒絶される事もあった。
 その身体には無数の傷が刻まれていても。
(――ああ、全部が全部報われるわけじゃないのはわかっているし、これから何が起きるかはわからない)
 それでも。
 どうか、私が、せめて貧しき人や苦しき人々にとってあの流星のように輝ける存在になれることを。

 特異運命座標となって。こうした星空を眺める機会がどれだけあっただろうかとノリアは海の中でぽかり、と浮かんで見つめていた。そうなる前に海を踊り過ごした日々とは違う喧騒。地上に出てから彼女は様々な人々に囲まれていた。人が沢山居る場所は、灯りが星を消してしまうし、空よりも横を見てばかりだから。
 波間に浮かんで見上げる空は、懐かしい。懐かしいはずなのに。一人で居る事が無性につまらなくなって――ああ、それだけ出逢いに恵まれていたのだろうと唇には笑みが浮かんだ。
 そろそろ、あの喧騒に戻ろうとその身を起こせば吹いた冬風が白い肩を擽った。
「あっ……風が、凍えそうですの!」
 水より風が温かくなる穏やかな陽光が降るまでは仕方ないけれど、一人でここで過ごしていよう。

 変化を解いて海中へと縁は向かった。昏い水底より見上げれば流星群が波に混ざり溶けてゆく。
 光の雨が海に注ぐような、野暮な感想を口に出すことさえ、無粋に思えるほど、溢れる光が眩い。
 海の聖母、ステラ・マリス。さいわいを願ってからだを灼かれた母の如き慈愛の星。
 星は死する際に耀くのだと。そうう聞いて思い出したのはただのひとり、かつて愛したひと。
 死した我が子を抱き、愛を求め、幸福になりたいと願って――魔種と身を落とした罪(あい)。
 どうか、幸せに居てくれ。
 縁にとって『言えた台詞』ではないのかもしれないが、それでも今は故郷の森で弟に見守られて眠っているだろうかと。
 帰りたかったその場所は、彼女にとってさぞさいわいに溢れているはずで。
(――俺がいつか死んで星になったら、お前さん方のさいわいを祈って灼かれても構わねぇ…なんてな)

 本当に星は綺麗だ。太陽も美しいけれど、届かぬからこそ、空の果てへ往きたくなる。
 メルは「さいわいってなんだろう」と囁いた。自らが滅びたってと願うさいわい。
 ――一体、誰のために。何のために。
「あぁ、わからないなぁ。でもあたしはいつも幸せを探しているんだよ。
 ね、ステラ・マリス。キミを見つけたら何か変わるかな?」
 綺麗なものが見たくて一人やってきた、けれど。本当は。誰かの為の献身が羨ましかったのかもと唇を震わせて。
「ああ、今日は冷える! 寒さは平気だけど、しんみりしちゃうのは良くないな。
 ほんとうのさいわいを探す前に今はこの小さなひとときを楽しむことにしよう……♪」
 謳う様に蜂蜜入りの温かな飲み物を喉へと流し込む。そのぬくもりが、何より心地よいから。

 誰も居ない屋根の上。星が一番近い場所、そんな場所で希は毛布に包まって寝転がる。
 空に覆われ、邪魔するものなんて何も無い、空とふたりきり。
 ――昔、暇な時や独りになりたい時、こうして夜空を見ながら過ごして、
 ピンク色に染まる朝焼けを見て、つまらない青空になったら帰って寝てた。
 晴れた夜空は広すぎて、自分がどれだけ小さいかが分かるから。
 疲れていても、悩んでも、嫌な事があっても、どうでもよくなってきて、つい、面白くなるから。
「来年は、世界が、平和でおもしろくありますように……」
 茫と眺めて言葉を紡ぐ。星が運んだ願いが、何時か実を結ぶようにと静かに祈って。
「ついでに良い出会いがありますよーに」


「こうやって星空眺めるのもあまりしたことなかったし、海とセットだとなおさら元の世界じゃできない経験かもね」
 宝石みたいな星空が、美しくて。オデットは寒いとコートの上から腕をさすって微笑んだ。
「ルチア、食べる?」
 林檎を一つ差し出せばルチアは温かいココアをコップへと注ぎ入れる。
「美しい星を見ながら一服なんてのも、また良いものではなくて?」
「ありがと、寒いときにはやっぱりあったかいココアよね」
 光の翼のひかりよ、少しだけ昏く待っていてねとオデットはルチアを見詰めて微笑んだ。
 星と海、釣られてしまいそうな美しさ。歌おうと手を伸ばし、ルチアはオデットを海上散歩に誘った。
 Ave, Maris stella Déi mater alma――
「こんなに綺麗な歌が歌えるならもっと歌えばいいのに」
 なんて、呟けば、彼女は可笑しそうに小さく笑って。

 岩陰に腰掛けて、ひだまりのかおりで身を包む。リディアは「雪風さん、こっち」と手招いた。
「雪風さんは覚えてないかもしれないけど……」
 シャイネンナハトの天義の寒空の下、一人で震えたリディアはクマの『カイン』と一緒だった。
 その時、「ぬいぐるみさんも一緒に」とココアを差し出して呉れたことが嬉しくて、そのお礼が言いたかったとささめきごとのように微笑んだ。
「そんな、でも喜んでくれたなら良かった」
「『星の聖母』の祝福が得られるかはわからないけど手を繋いでもいいですか?」
「ぉ、俺でよければ?」
「……雪風さんが魔法少女に興味があると聞いたけど、私も魔法少女だけど興味は? ――なんて」
 揶揄う言葉に雪風は「ひぇ」と驚いたように頬を赤らめ微笑んだ。女性慣れしていない彼は「刺激が強いっす」と頬を掻く。それさえ可笑しくてリディアは「魔法少女お好きですか?」と瞬いた。

「やあ、初めまして。俺はベネディクト、星を眺めようと思って居たんだが、うちの犬がそちらの連れている犬がどうも気になって居るようで」
「こんにちは、ベネディクトさん。私は万葉。犬さん?」
 ベネディクトの傍らで目をきらりと輝かせ「犬ですよ、犬!」とアピールしているポメ太郎。
 万葉は「本当」と可笑しそうに微笑んで傍らの面白山高原先輩に「行ってらっしゃい」と微笑んだ。
「ポメ太郎、元気なのは良いが迷惑をかけていかんぞ。そちらの犬のお名前は……。
 なるほど……面白山高原先輩と言うのか、中々聞かない個性的な名前だ」
「わん」
 まるで「そうだろう」と言いたげな面白山高原先輩にふんふんと鼻を鳴らして喜ぶポメ太郎。
「また機会があれば色々と面白山高原先輩の話を聞かせて貰って良いかな、ポメ太郎もすっかり懐いている様子だし」
 名残惜しげに離れない犬を抱えたベネディクトに万葉は「喜んで!」と頷いた。犬たちは七夕伝説のように名残惜しげに離れていった――

「わ、あ」
 きらり、きらり。降る星に言葉は紡げずに。もこもこと着膨れしてメイメイはホットミルク入りの魔法瓶をぎゅうと抱き締める。
 一人キリの砂浜に落ちる星が美しくて。ずっと、ずっと眺めて居られそうだから。
(海の水を手に取ったら、この星を掴めるかな……)
 そう、と手を伸ばしたメイメイに「海の星を捕まえるの?」と万葉が上から覗き込む。
「はい、捕まえる事ができるかな、って」
「私もお手伝いしても良い? あのね、こうやって掬ってみれば」
 掌の水に映り込んだ星々が、まるで星を一時だけ掬ったようで。メイメイは「綺麗」と微笑んだ。
「じゃあ、手を繋いでさいわいの星を追いかけましょう。お祈りするように」
「はい、行きましょう」
 今度はメイメイがお手伝いする番だとゆっくりと立ち上がる。さいわいの星は、未だ見えないけれど。

「流星群、というのは本の中で見たことがあるけど、実際に見るのは初めてだな……」
 宿で借りたブランケットと温かいミルク珈琲を注いだ水筒。防寒対策は万全だとルーキスはエルピスを振り返る。
「じゃあ早速、流星を探そうか。
 そういえば『手を繋いで流星を眺めると祝福が与えられる』んだっけ……」
「はい、そう聞きました」
 手を繋いで、という言葉をもう一度繰り返す。唇が緊張の震えたがエルピスには其れは伝わらない。
「ルーキス、さん?」
「……あ、あの。もし良ければドウゾ」
 そう、と差し出された手を握り、エルピスは「星を探しましょう」とそう言った。
 祝福。さいわい。ルーキスにとってのそれは、『エルピスと、もっと仲良くなれますように』――これからも、共に在れればと切に願って。


 ロイヤルブルーの夜空を見上げて、シルフィナは特別な紅茶を一人で飲んでいる。
 薫る心地よさと静寂に、小鍋に角砂糖数個と少量のブランデーを入れ、紅茶と混ぜたティーロワイヤルは体を芯から温める。
 水筒の中で香ったそれは今日のとっておきだから。シルフィナはガウンを羽織って只一人で空を眺めた。
 流星群。降る星々を。何時の日か誰か大切な人と見ることが出来たならば――そう願っては笑み綻んで。

 商談相手が言っていたとふと、バルガルは思い出す。今日は星が降る日なのだそうだ。
 暖房の効いたオフロード車のエンジンを停止して、シートに掛けていたコートをとって砂浜に。
 外気に小さく肩をふるわせながらも岩に腰掛け煙草を灯らせればバルガルの肺深くへと慣れ親しんだ紫煙と凍て付く空気が流れ込む。
「此の寒さは少々この歳だとしんどいものがありますね。
 さて、流星群は降る時もあれば降らぬ日もある。本日はどうでしょうかねぇ。
 まぁこんなに綺麗な夜空を久々に意識して見られただけでも十分収穫はありますか」
 降る星は、屹度話題作りに丁度良い。だから今は星を眺めて居よう。あの美しい、空を飾る煌めきを。

 行人をエスコートするように。アントワーヌは「こちらへ」と恭しくその手を取った。
 彼にとって星を見るのはほぼ実用。故に、星見には馴染みは無いけれど、彼女が誘うならば是非にとその手を取るだろう。
「せっかくだから、海に入ってみようか。――行人君もこっちにおいでよ、抱き留めてあげるから」
 恭しく指先を掴んだその身体をぐるりと入れ替えて行人は「ワッカ」と呼んだ。
「えっ、わっ! ……まさかワッカ君に乗せるなんてね」
 アントワーヌの瞳が揶揄う子どものように細められた。行人は「前は夕日だったなぁ」と眼を細めた。
「そう言えば流星の聖母の祝福なんて話があったね、空を見上げて流れ星を探してみよう。行人君。君は星に何を願うんだい?」
 指先で空をなぞったアントワーヌに「俺は、そうだなあ――こういう感動を、何度も感じたい。かな」と呟けば、行人は彼女の『願い』を促した。
「私かい? 私の願いはね……秘密だよ」
 ――君の隣がずっと私の物でありますようになんて。まだ言えしないその言葉を飲み込んで小さな笑みを浮かべ綻び。

 静かに一人で星空を、と言うのもオシャレだけれど。大勢で見るのも素晴らしいから。
 フェリシアはブランケットにぐるりとくるまって蜂蜜を溶かしたホットワインを喉に流し込む。
 ポテトはたっぷりのミルクとちょっぴりの砂糖を溶かしたミルクティーを飲みながらバスケットの中のサンドイッチにクッキー、ケークサレとマフィンを召し上がれと取り出した。
「さいわいの星か……」
 ポテトにとってのさいわいは、愛しい愛しいお星様が幸福である事だから。
 そうやって皆も思いを馳せるだろうか。ワインを揺らしたウィリアムは葡萄酒の芳醇な香りに「う」と小さく呻いた。
「結構来るな……酒飲むの、まだ慣れてないんだ。でも、美味しい……のも分かる気がする」
 頬は赤らんで。ウィリアムが呟けば、アーリアはくすりと笑みを浮かべた。砂幅のレジャーシートとブランケットは今日の星宴の会場で。
「フェリシアちゃんもイケる口、だものね? 花丸ちゃんはあと4年我慢ねぇ、ふふ」
 くす、と微笑むアーリアに「皆はやっぱりお酒なんだね」と唇を尖らせて。
「花丸ちゃんはホットココアがいいかな。甘くて温かくてとっても美味しいしっ!」
「ココアもいいですよね……ココアをお供にお話したり、本を読んだり……夢が広がります」
 頷くフェリシアやアーリアと『おしくらまんじゅう』で寒いのなんてあっちへさようなら。ぎゅうぎゅう、と距離を詰めれば暖かさが伝わって。
「外は寒いけど、この冷たい空気の中にいるからこそ、星の下にいる、という感じがするよね」
 ストーンマグにグリューワインを。マルクはワインと砂糖とスパイスが混ざったそのかおりを楽しんで笑み綻ばす。
「本当にこの1年……沢山ありました。わたしは、少しお休みをしていて、今年からまたお仕事を始めたのですが……本当にたくさんの事が……」
 指折り数えるフェリシアに花丸は「花丸ちゃんはまだまだ新米だけど、」と始める。
「沢山の事件と、戦いがあったよね。だからこそ、この一時が大事って、本当に思えるんだ」
「はい……全部、わたしの大事な思い出です。今だって『大事な思い出』の1つです。
 来年もまた、ここで。皆さんで星を見たいです、ね」
 噛みしめるようにフェリシアと花丸をぎゅうと抱き締めてアーリアは微笑んだ。一緒に戦ったこともある、戦場のあの姿。それが今は穏やかに笑みを綻ばせ笑い合う、そのさいわいが本当に嬉しくて。
「一年……今年一年も、本当に色々あった。良い事も、悪い事も。
 来年もまた、こうして仲間と……皆と過ごせたら良いなって思うよ」
 星に願いを掛けるように、祈るように目を伏せたウィリアムにマルクは頷いた。夜空に軌跡を残した流星は一瞬、其れに願いを乗せる時間は無いだろうか――けれど、仲間と共に同じ星を追いかけるなら。
 ホットワインの熱のように、体に染み入るよろこびが溢れる感謝だけでも伝えたい。
「――ウィリアム?」
 ふと、ポテトが問い掛ければ酩酊の眠りの中に落ちる彼にマルクは笑う。今は皆、寄り添って星を眺めて居よう。


 外に行くには風が冷たすぎやしないだろうか。自分用の毛布は少女には些か大きすぎやしないか。
 星を眺めて紫煙を揺らし、ヴィクトールは窓硝子一枚のその向こう落ちる星の光を追いかける。
 臓腑を占めた煙の心地よさに「星が綺麗ですね」と小さく囁いた。
 窓辺の寝台から天と地、両方の星を眺めて甘く香るチョコレェトに酔う未散は彼の組まれた足の間の特等席からちょん、ちょんとお留守な片手を突いた。
 何気なしに出来ているだろうか、露骨すぎやしないかと。未散が考え事をすれば「ん」と彼の視線が下がる。
 横切った流星に「あ、」と呟けば一等眩い星が逃げていったことに肩を竦めながらもその「あ、」が可笑しくて。
『……また、こんど。次こそは手をつないで眺めに来ましょう』――なんて言えやしない彼は取り繕うように曖昧な笑顔でごまかして。
「ええ、屹度、また、いつか」
 ――貴方が出来やしない約束を。未散はヴィクトールの代りに取り付けた。

 岩陰へと歩を進めてひっそりと。空の果ての海から逸れた星が落ちてくる。
 故郷では落星(ほうきぼし)は不吉の予兆とされていたけれど。
 天ノ涯より凶星が毀れ其れの吐く瘴気が数多の神をも殺めたならば。死を司る星の堕ち神の御伽噺はアーマデルにとって馴染み深く。
(だが、落星の全てが不吉というわけではない。
 ヒトに善いものと悪を為すものがいるように……それはたまたま、この環境に合わないものであったのだろう、なんて。……言ったのは誰だっただろうか)
 もう、遠く覚えていない記憶を探るよりは今は未来を乞い願おう。どうか、どこかの誰かがさいわいで在らんことを。

 流星を題材に文字と文様を描いてリンディスは紙上のそれと対話を続けるように囁いた。
「天を翔ける星。遥か遠く、古の光たち。
 誰かに、どこかに何かを伝えたくて光を送っているのでしょうか。
 死した人たちも星となって、私たちを見守っているという人も居ます」
 届けることしか出来ない悲しく優しい彩達。星のきらめきは、自身が死した時にもそうして誰かに届いて欲しいと願うのだろうか。それとも、其れすら叶わずに、望みなど関係なしに世界と別たれるのか。
(……召喚されたあの日のように、全てを置き去りに。気づくとまたいなくなるのでしょうか。
 ――私はいつまで、ここに、いることを許されるんでしょうか)
 目が覚めれば、違う場所だった、なんて。そんな事が無いように。リンディスは降る混沌の星をまじまじとその双眸へと映した。

 星見、ということならば。正純はとても良く星が見えると目を細める。
 星々へと祈りを捧げるならば、誰の目にもとまらぬ場所が良い。鎖のように締め付ける呪いの如き祝福が、雁字搦めに痛みを訴え続けるから。
「ステラ・マリス。星のかがやきはからだを灼かれたひかり、星の聖母の祝福のかがやき。
 とても美しい物語ですね。今日は、星の声がよく届く。その祝福も、皆さんの祈りも、喜びも」
 だからこそ、祈りはよく届くはず。灼く痛みは献身を伴う物ではないけれど。
 正純は其れを許容し、祈り捧ぐ。星の煌めきと、締め付ける苦しみに。
「喪われた多くのモノに、前に歩む人達の道筋に、この世界の行く末に――星の祝福があらんことを」


 岩陰に一人、ランタンの明りで書を紐解いて。
 ほんとうの、さいわい。ヘーゼルからすれば『随分と同族を喰らっておいて窮鼠に追いかけられたなら井戸に落っこちて改心した蠍の話』ならば、と。識っていると星明りに目を細めた。
 此の体など、百遍灼いても構わない、とはどんな献身か。
「――私は此のお話が如何にも苦手だ。何回読んだって、苦しいんだもの。娘さんの様な年頃の子供なら、亦、」
 何時もは膝の上にちょこんと乗っかるあのぬくもりが凶は無い。煙草に火を灯せば唇を尖らせて喫煙してとせがんだ灰の少女。
「……――今度は、少々強引にでも手を引いて攫って来ようか。お高い望遠鏡も持って、ね」
 随分と大切だと自覚すれば女々しくっていやになるとヘーゼルはランタンの明りから貌を背いた。

「俺、こんなに寒いのも、海も、初めてだ。
 夜に一人で出歩くのも、元の世界ではほとんどなかった。
 ……本当に、違う世界に来たんだな……」
 天蓋を見回すだけで心が躍る。ナイアルは温かなスープを飲みながら星空を眺めた。
 波音に混ざった人々の笑い声が気持ち良い。流星に希う。何を願おうかと疑問がふわりと浮かんだ。
 ――帰りたい? でも、帰れないのはわかってる。
 なら、この世界でどう生きていくか。出来る事は少ないけれど、それでも一歩一歩。
 星に導かれるように、ナイアルはそうと言葉を紡いだ。
「すまない、俺も混ぜてもらえないか」
「丁度、みんなの星見に混ざろうと思っていたの。ご一緒に行きましょう?」
 そう、と手を差し伸べて。万葉はナイアルへと花咲く様に笑み浮かべ。

「さいわいの星を見に行きましょう、クレマァダ」
 イーリンがそんなことを言ったのは『彼女』を見て、昔のことを思い出したから。
 星空さえも鏡のように映しそうな深い海。前も後ろも無いそんな世界。
「さいわいの星とな」
 クレマァダは再現性東京で買った本を畳んでなんとなしに思い出す。姉がよおく言っていた言葉だろうか。
 ――僕はもうあのさそりのようにほんとうにみんなの幸のためならば僕のからだなんか百ぺん灼いてもかまわない。
 思い出して手を取って、イーリンは言う。「けれどもほんとうのさいわいは一体何かしら」と。
 クレマァダはぱちりと瞬いて、「我はわからない」とだけ応えた。姉ならば、知っているのだろうか、と。
「どうしたらほんとうにさいわいなのかな。イーちゃん」
 震えた冷たい手と共に、海へと飛び込み潜って行こう。星を探して深く暗い場所にある、ゆりかごのような星を探して、私も流れ星のように髪を煌めかせて。
 ――けれども、これは違うじゃろ?
 ――でもこれは違うのよね。
 冬の海から急浮上。ほんとうのさいわいなんて――、

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ご参加有難う御座いました。
 だれかのさいわいを願った星はなんべんだってそのからだを灼かれ輝き続けるのです。
 皆さんのさいわいの星が灯りますように。

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