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シナリオ詳細

再現性東京:女騎士と行く回らないお寿司

完了

参加者 : 26 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●女騎士、寿司を食べると決意する!
「なるほど、再現性東京には“寿司”なる食べ物があるのか……」

 『女騎士』レディーナ・フォン・ロックシュタイン(p3n000146)は、話を聞きながらうむと頷いていた。
 寿司――。
 彼女が食べたことにない食べ物である。

「はい、とてもおいしい食べ物なのだそうです」

 女騎士に寿司の事を語ったのは、『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)である。
 この再現性東京は、グルメの街だ。
 異世界にある食べ物もそのまま再現されている。
 ラーメン、カレー、スイーツ各種……。
 そして、寿司もある。
 寿司の歴史を語ると長い。起源をさかのぼると、発酵寿司、熟れ寿司に行き着くが、再現性東京で寿司と言ったら握り寿司である。

「魚の切り身をご飯と一緒握って食べる……話だけ聞くと、あまり美味しそうには思えないのだが?」
「でも、再現性東京ではごちそうですのよ。回転寿司なら、お手頃なお値段で食べられるのです」
「回転する寿司もあるというのか!?」

 女騎士は驚愕した。
 世の中に回転する食べ物があるなど、彼女は聞いたことがなかった。
 再現性東京でも、お手軽な回転寿司も散見される。
 しかし、寿司という食べ物がいまだわかっていない女騎士にとって、さらに回転するとなったらますます面妖なものとして映る。

「姫様を捜してやってきたが、再現性東京というところは聞きしに勝る恐ろしい街だな……」

 女騎士は思わず唸った。
 彼女は、城を飛び出した姫君を追ってこの再現性東京にやってきたという。

「そのお姫様が、お寿司を食べに来たのかもしれないんですのね?」
「ああ、そうだ。寿司の食べ方を覚えれば、姫様を探す手がかりを得られるかもしれない」

 彼女が使える姫君は、好奇心旺盛でいろいろなことに挑戦しているという。
 寿司も食べに来たかもしれない。だからこそ、寿司の食べ方を覚えて捜索に役立てたいという。

「じゃあ、お手頃な回転寿司を予約いたしましょう」
「いや、待て! 回転するとかいう得体のしれない食べ物は避けねばなるまい。回らない、普通の寿司でいい」
「……回らないお寿司は、お値段も張りますのよ?」
「構わぬ! 懐の具合など心配しなくてよい。……そうだな、この新橋というところにある店などはどうか?」

 女騎士が指した店は、新橋の回らないお寿司である。
 この店に、さっそく予約を入れたのであった。

●お会計は女騎士持ち!
「そういうわけで、お寿司を食べに行きましょう。お代は、女騎士さんが払ってくれます」

 ノリア・ソーリアは言った。
 女騎士は、お城を飛び出した姫君を捜している。
 姫君は、野球などのスポーツの他、再現性東京のプレイングスポット、グルメにも興味を示しており、特に寿司をチェックしていた形跡がある。
 そのため、寿司屋を巡って手がかりを得るべく、寿司屋の作法を学びたいようだ。
 教えてくれるなら、再現性東京に再現された新橋の回らないお寿司を奢ってくれるという。
 つまり、他人のお財布で寿司が食えるチャンスである。

「女騎士さんは、お寿司は初めて召し上がるそうです。一緒に、美味しい食べ方も教えてほしいそうですの」

 女騎士、初めてのお寿司である――。
 “崩れないバベル”である程度は伝わるが、食べ方もよくわかっていない。
 だが、粋な寿司の食べ方を知らない。
 姫君捜索のためにも、寿司の食べ方を学んで手がかりを掴みたい。

「おすすめのお寿司とかそういうことを学びたいそうです。お寿司屋さんを巡っていれば、お探しのお姫様も見つかるかもしれませんし」

 というわけで、女騎士の懐で寿司を食べたい勇者を募るであった。

GMコメント

■このシナリオについて
 皆さんこんちわ、解谷アキラです。
 再現性東京には、ラーメンもあるらしいので寿司もあろう、そういうことで寿司を食べに行くイベントシナリオです。
 お代は女騎士が持ちます。

・女騎士レディーナ
 好物は芋ですが、なんでも美味しく食べます。
 しかし、寿司は初めてなので食べ方はよくわかっていません。
 美味しい食べ方やお城を飛び出した姫様の行方、手がかりなどを教えてくれると喜びます。
 たぶん、わさびには弱いですが、克服すると好きになるタイプです。

・新橋の寿司店
 再現性東京に再現された回らないお寿司屋さんです。
 大将は銀座で修行したこともあったそうですが、思うところあってサラリーマンの街に店を構えました。
 ランチメニュー一人前1200円で出してくれますが、高級店のようなコースも対応してくれます。

 それでは、皆さん女騎士と一緒に寿司を食べに行きましょう。

  • 再現性東京:女騎士と行く回らないお寿司完了
  • GM名解谷アキラ
  • 種別イベント
  • 難易度VERYEASY
  • 冒険終了日時2020年10月28日 22時05分
  • 参加人数26/∞人
  • 相談7日
  • 参加費50RC

参加者 : 26 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(26人)

嶺渡・蘇芳(p3p000520)
お料理しましょ
アリシア・アンジェ・ネイリヴォーム(p3p000669)
双世ヲ駆ケル紅蓮ノ戦乙女
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
矢都花 リリー(p3p006541)
ゴールデンラバール
ネリ(p3p007055)
妖怪・白うねり
シルフィナ(p3p007508)
メイド・オブ・オールワークス
メイ=ルゥ(p3p007582)
シティガール
ノエル(p3p007600)
師父の呪縛
ロロン・ラプス(p3p007992)
見守る
アカツキ・アマギ(p3p008034)
焔雀護
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
雨紅(p3p008287)
愛星
薫・アイラ(p3p008443)
CAOL ILA
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと
天之 雪(p3p008857)
叶わぬ願い
ラクロス・サン・アントワーヌ(p3p009067)
ワルツと共に
トスト・クェント(p3p009132)
星灯る水面へ
雑賀 才蔵(p3p009175)
アサルトサラリーマン
朱雀・アスター(p3p009179)
紅の暗殺者
オライオン(p3p009186)
最果にて、報われたのだ

リプレイ

●寿司を食べに行こう!
 再現性東京、夜の新橋――。
 サラリーマンの街として賑わう場所で、これも練達に再現された異界の都市の一部である。
 女騎士と回らない寿司を摘もうと、再現性新橋駅烏森口に多くのイレギュラーズが集合した。

「では、寿司の食べ方をご教授願おう」

 今回の集まりを企画した女騎士レディーナが集まったイレギュラーを前にして言う。
 寿司は、美味しい食べ物だという。
 魚の切り身を、酢飯の上に握って食べる。至ってシンプルだが奥深い料理である。そこには、職人の技術があるのだ。
 そして回らないお寿司ともなれば、まさに職人技が味わえる。

「メイ知ってるのですよ! これが都会のシースークイネーなのですよ!」

 元気よくブンブンと手を降っているのは、メイ=ルゥである。
 これから寿司屋に行くのだから、威勢がよいと言いかえよう。

「人のお金でSUSHIが喰える……!!!!」
「えっ、人のお金で回らないお寿司を好き放題食べられるって!?」

 アカツキ・アマギ、笹木 花丸は同じ反応であった。
 他人の懐で食べる寿司は最高にうまいという伝説がある。
 もちろん、稼いだ金でご褒美として食う寿司も至高のうまさだ。

「おや、花丸とアカツキはお寿司を食べに行くのか? ………ちょうど仕事も落ち着いたことだし、俺もご相伴に預かるか」
「構わぬ、遠慮なく食べてくれ」

 ベネディクトの参加も、レディーナは大いに歓迎した。

「まさかこの世界に来て東京で寿司を食うなどとはさすがに予想しなかったな」
「懐かしいですね、新橋。よくSL広場の前で土曜の朝を迎えたものです」

 元々の東京からやってきた雑賀 才蔵と新田 寛治も東京での寿司を懐かしがる。

「ぶはははッ、寿司に興味示すたぁお目が高ぇ!」
「おお、そうか。やはり寿司はいいものなのだな」

 ゴリョウ・クートンに褒められ、女騎士もまんざらではない。
 オークと女騎士とか、不倶戴天の敵のように語られてきたが、女騎士もオークも一緒に寿司を食べれば寿司仲間である。

「この東京でクレープやタピオカ以外で気になる食べ物でした」

 再現性東京のさまざまなグルメが気になっていたシルフィナにとって、この機会はチャンスである。
 しかも、回らない寿司というのはなかなか踏ん切りがつかなかったのだ。

「寿司? 鮓と似たものみたいですが、そもそも鮓も食べた事がないのでどんな味なのか気になりますね」

 ノエルもまた、寿司未体験組である。

「寿司……知識としては得ているけれど、食してみるのは初めてだね」

 ぽよんぷるんと動くロロン・ラプスも寿司は初めてだ。
 皆、ロロンがどのように寿司を食べるのか、興味の視線も集まっている。

「えっ、今日はお寿司たくさん食べていいんですか!?」
「ただ……そうね、回らない方の寿司ってたしか値が張ったような」
「レディーナちゃん、大丈夫かしらー。一人で全部持つって、騎士さんでも大丈夫なのかしらー?」

 食べる気満々の天之 雪を見て、アリシア・アンジェ・ネイリヴォームと嶺渡・蘇芳もちょっと心配してしまう。

「任せてもらおう! 私は騎士である。高貴な身分として人々に食わせることは義務と心得ている。この日のために蓄えてきたのだ」

 女騎士レディーナは、太っ腹なところを見せる。
 財力にも自信があるのか、たわわな胸を張った。

「でも、回らないお寿司の相場は……」
「なん……だと――!?」

 アリシアが耳元で呟くと、レディーナの顔色がコハダのようにさあっと青ざめ、霊圧が消えかける。
 よろめいた後に財布の中身を確かめ、きりっとした表情を取り戻する。

「だ、大丈夫だ。騎士たるもの、時価なんかに屈したりはしないっ!!」

 そんなわけで、一行は予約した店へと向かう。

●食いねえ食いねえ、寿司食いねえ!
「はい、らっしゃい!」

 暖簾をくぐると、きれいに磨かれたカウンターが出迎えた。板場には、年配の大将と若い職人がふたり。カウンター席の他には、テーブル席と座敷席となっている。
 20名以上の予約に対応してくれる店は、再現性東京にもなかなかない。

「今日は世話になる。寿司は初めてゆえ、ご無礼はご容赦願いたい」
「最近は外国人のお客さんも多いんで、大丈夫ですよ。難しいことぁありませんから、気楽に摘んでいってください」

 にこりと柔和な笑顔を浮かべる大将であった。
 カウンターから見えるショーケースには、仕事がしてあるタネが並ぶ。マグロ、煮穴子に煮蛤、コハダ、コウイカ、赤貝、サバ、戻りガツオにカンパチ、もちろんエビもある。

「お寿司は初めて……!」
「マリアも、寿司は初めて、だ。楽しみ、だな」

 フラーゴラとエクスマリアは、邪魔にならないよう髪を三つ編みにしている。特に、エクスマリアの三つ編みは彼女の心情を表しているのかパタパタ楽しげに動いている。

「寿司! 食わずにはいられないっ!」

 猫として魚を使う仙狸厄狩 汰磨羈は、参加せずにはおられなかった。
 しかし、美味しい寿司の食べ方と言われるとちょっと難しい。

「お寿司には取れたてのお魚を使う海鮮寿司と魚に仕事をする江戸前寿司がある」

 カウンターでも職人の仕事が見える席に付き、サクラは女騎士と寿司が初めてというメンバーに説明する。

「魚に仕事をする江戸前寿司? 切って乗せるだけじゃなくて一手間加えるって感じなのかな?」
「そちらのお客さん、よくご存知で。江戸の海で採れたものを一仕事して出すのが江戸前でございます」

 スティア・エイル・ヴァークライトに大将が答えた。

「ですが、昨今のご時世、江戸前一本でやるのも厳しいんで、サーモンやウニも扱ってます」

 大将は申し訳無さそうにいう。
 遠塩と酢で〆る、蒸す、煮る、ツメを作るなど、鮮度を保つさまざまな“仕事”をして出すのが江戸前寿司だという。
 よって、昭和の時代にできた軍艦巻きで使うウニやイクラ、サーモンなど、近年の冷蔵技術と輸送技術が発展によって北海道などで採れる寿司ネタを使うのは、厳密には江戸前の定義から外れるという者もいる。
 一方で、江戸前の技法で握れば江戸前寿司だという声もある。

「な、なるほど……」
「うちは大衆店ですんで、何でも頼んでやってください」

 寿司の奥深さに触れた女騎士に、大将ははにかむように言った。

「まずは漬けマグロ」
「こっちも!」
「へい、マグロおまち!」

 大将の小手返しで握られた漬けマグロを、マリアは頬張る。その姿には、どこか品があった。

「……うん、美味しい。表面に火を通して長時間煮切り醤油に漬け込んで旨味をしっかり引き出している」
「ありがとうございます」

 アルコールを飛ばして煮詰めて旨味を凝縮し、素材の味を殺さぬよう絶妙に仕込んである。

「サクラちゃんどうしてこんなにお寿司に詳しいんだろう? 私もサクラちゃんと同じ物を頂戴!」

 こうしてサクラとスティアが頼んだのをきっかけに、皆が注文を始める。

「粋な寿司の食べ方とはすなわち、味を落とさないための作法ってやつだ。マナーがどうこうというよりは、間違った食い方すると味が落ちちまうって面が強いな」
「そ、そうか」

 ゴリョウは、寿司を横に倒して器用に醤油をつけ、頬張ってみせた。

「そうそう、あっさりとした白身から濃厚な赤身の順にと言うのが基本的な頼み方だ。ワサビは……刺激の好みもあるだろうし少なめからで」

 サラリーマン時代の経験を活かし、才蔵もうまい鮨の食べ方は心得ている。
 味の淡白なものから、濃いものの順に食べるとうまい、そういう知識も授けていく。

「美味しく食べること、なるほど。であれば、なおさら覚えておきたいですね」

 江戸前の話とゴリョウ語る作法を覚え、雨紅も頷いている。

「お寿司ねぇ……。テキトーでいいんじゃん……?」

 矢都花 リリーは何気なく言う。
 “どうせお腹に入っちゃえば一緒だし”
 これもまた、ひとつの心裏である。

「ってことで、あたいはカニ系とエビ系メインで攻めるよぉ……」
「まぁ好きなもんを食べるのもアリだけどな!」
「そのとおりです。昔のハンバーガーみたいなもんですから」

 ブハハと笑うゴリョウに、大将も笑った。
 というわけで、ズワイガニやエビ、シャコが並ぶ。
 まさにヤドカリなディープシーのリリーを気遣い、タラバは出されていない。

「一通り握っていただいて、その後旬のモノ等をお好みでいただければ」
「はい」
「妾も花ちゃんと同じコースのやつを!」

 次々舞い込む注文に、大将と職人たちが見事な手付きで握っていく。

「お寿司は前いた世界で食べたコトあるわ。妖怪の皆と囲んだりもしたわね……あいつら元気かしら」

 過去を思い出しながら、ネリも注文を始める。
 大トロ、車海老、アワビ、のどぐろなに続いて、マグロステーキも頼んだ。のどぐろは時価である。

「遠慮しないでいいの、好きなだけ頼んでちょうだい」
「う、うむ……」
「あ、コースは高級な奴でお願いしまーすっ! 女騎士さんが大丈夫ーって言ったんだしきっと大丈夫っ!」

 ネリと花丸によって見るからに高そうなネタが並ぶと、女騎士も表情が真剣になる。

「戻り鰹が旬なので鰹、エンガワ、寒ブリ」
「鯖にサンマ、それと……鮭もいくならイクラもセットで」
「はい、いいの入ってますよ」
「えーと、あとは甘海老と蒸しエビを追加で……。ああと、濃い味のネタを食べたらがりを食べるといいって」
「ガリ……。これか?」

 食事の作法と次々握られる寿司を前に、女騎士も学んでいく。

「大将、すまぬがワサビを多めで頼む」

 朱雀・アスターが黙々と寿司を食べいく。
 特に旬だけあって寒ブリが多い。

「そうか、魚には旬があるのだな」

 時期によって最も美味しいものを美味しく食べる。
 こうした追求が食文化を支えるのだ。

「こんな依頼ばっかだといいな特異運命座標。そんなわけないか」

 トスト・クェントも満足げである。

「ちょっとだけ追加していいなら川魚も食べたい~」
「川魚でございますか。するってえと鰻ですね」

 鰻は、江戸前の代表的なものであった。
 ただ、江戸後ろに当たるのと鰻の焼き床を用意する手間と高騰によってなかなか手に入らないという事情がある。
 江戸の品であったが、今は関西の寿司に鰻が出るという。

「生魚に何となく……抵抗があります、ですから何か生魚以外の物を食べてみます」

 そんなシルフィナのために、玉子や穴子が用意されている。
 玉子は厚く焼き上がり、穴子もしっかり煮上がっており、ふっくらと柔らかい。
 かんぴょう巻きやかっぱ巻きもある。

「お寿司屋さんで実力が出やすいネタはいくつかあるわねー」

 ほわんとした蘇芳の発言であったが、ここで大将の目が勝負師の目になったことに幾人か気づいた。
 レディーナも戦場を経験しているだけあって、ちょっと背筋が伸びている。

「玉子は〆物も違いがでるわねー。〆物も違いがでるわねー。煮アナゴとか、漬けとかねー」

 若い職人ふたりも何かを感じ取ったのか、戦闘態勢と言ったふうである。
 
「あれこれネタ選ぶのが難しいなら、握りのセット頼むのがいいわよー」
「セットか、よいことを聞いた」
「という訳で、上にぎりのセットを頂くわー」

 大将はどこか嬉しそうでもある。
 良い食い手がやってくると、職人もまた腕の見せ所だ。

「実は、わたくしもレディーナ様と同じく、回るお寿司は頂いた事がございませんの」

 そう語るのは薫・アイラであった。
 お嬢様にとって、寿司と言ったら回らないものだ。
 
「わたくしは、やはり旬の物をお任せを。お箸には慣れてらっしゃないでしょうし、手で食べてもよいのですよ」
「おお、そうなのか?」

 アイラはネタとシャリを分けるようなことをせず、醤油をつけて食べる一連の動作は美しかった。
 レディーナもこれに習う。

「再現とはなんでもありだな。日本の食事作法は厳しいと聞く。スシ職人に失礼のない様にせねば」

 作法を学んだオライオンも寿司を口に運ぶ。
 口に入れるとホロリと解けるシャリはやはり絶品だ。
 特にしめ鯖は酢の香りと鮮烈さが同居した驚愕の味である。

「ね、大将君。オススメとかあるかな、どれも美味しそうで迷ってしまって……」
「はい、ございますよ」

 ラクロス・サン・アントワーヌに大将は答える。

「わたくしは、やはり旬の物をお任せで。ロの目利きと技術に頼るのが一番ですわ」
「俺も、季節の旬の物で店主のおすすめを一貫ずつ出して貰おうか」
「私もコハダを」

 旬のおすすめということで、大将はコハダを握る。
 このときばかりは本手返しだ。
 コハダは、小さいほど良いとされるネタであり、美しく〆の技法が問われる。
 また、仕入れ値も高く身も少ない。
 これを握るのは赤字覚悟であり、それでも提供するのは江戸前寿司職人の心意気である。

「はい、コハダお待ち!」

 大将、勝負の握りだ。

「メイが頼むのは、卵焼きだと思ってるですね! そんな、子供な注文はしないのですよ」
「では、この涙巻きなんかを」

 そして、メイの前に細巻きが置かれる。

「フッフッフッ……メイは辛いの大好きなのでワサビもへっちゃ……アッ、アァァァァー!?!?!?」

 強烈なわさびの刺激に、メイはのたうち回る。
 涙巻きとは、わさびをネタに巻いたものだ。
 通にはこれがたまらないというもので、しかも良いわさびが手に入らないと出せない。
 それでもメイは追加するつもりである。

「なるほど、これがわさび……」

 人の姿となったロロンにもこの刺激は新鮮な体験となった。
 工業汚染水や毒の沼などの刺激とはまた違った、突き抜けるような峻烈かつ爽やかな風味である。

「んあっ!? なにこれ、から、うっっ……!?」 

 一方、ラクロスは未知の刺激にのたうち回っている。
 経験しないと、この刺激離れるものではない。

「マリアは、まずマグロを……うむ、美味……!?」
「まずはブリから……いただきます……! ……!? ……からあっ……痺れるし、スースーする……!」


 エクスマリア、フラーゴラ、わさびにやられている。
 ぶわっと、ふたりの三つ編みが逆立っている。

「わさびは醤油に混ぜずにネタに載せて食べる? なるほど?? ……~~!!」
「アカツキさんそんな一気に食べたら……あ、アカツキさーんっ!?」

 本わさびは結構鼻に来る。
 割と阿鼻叫喚の図ができあがった。・

「もうしわけありやせん! ちゃんとサビ抜きのも用意しますんで」

 大将がわさびが苦手というお客様ようの寿司も用意してくれる。
 若手ふたりも急いで握る。
 しかし、その後のサビ抜きがくると、エクスマリアとフラーゴラの三つ編みも楽しげに揺れる。

「……うむ、美味い。俺の領地でも寿司を出せればと思うが、職人を育てるだけでも大変だろうな」
「そうですねえ。寿司を握るだけじゃあなかなか厳しいですから」

 ベネディクトとの世間話に、応じる大将にはどこか寂しさも見えた。
 職人には厳しい時代というのは、再現性東京でも変わらないようだ。

「あっ、この赤身や中トロ大トロって、同じ魚なのですね……部位や食べ方でこんなに差が出るとは……面白いです……」
「そうそう。マグロは食べる部分によっていろいろあるから。大トロのハガシ、あるかな?」

 サクラが注文した大トロのハガシ、これも珍しいネタだ。
 マグロの下腹、トロの筋から剥がすようにして取る一品である。

「最後はヤリイカをお願いう」

 スティアが頼むのは、コリコリした触感のヤリイカである。
 イカのさばき方、隠し包丁の入れ方は、やはり職人の腕が出るのだ。

「そろそろカワハギなんて入ってると嬉しいですね。肝醤油で」


 新田が頼んだカワハギは、そろそろ旬の走りの時期。
 大将も心得たもので、仕入れたものを用意していた。
 カワハギは淡白でこりっとした感触で、海のフォアグラとも呼ばれる濃厚な肝を絡めて食べると絶品である。

 このふたつが頼まれると店内がどよめいたので、興味を惹かれたノエルも頼む。
 そのたびに、女騎士が何かに耐えるような表情をした。

「……し、心配はいらない! 私の財布など気にせずともよいどんどん食べてくれ!」
「ぱぱとままへのお土産、特上のをテイクアウトでお願い」
「ぐっ……!?」

 ネリが頼むおみやげは想定外ではあった。
 だが、後日女騎士の城はまるごときれいに掃除される。
 そんなわけでお会計である。女騎士は何かを悟りきった表情であった。

「……とまあ、こんな風に美味しそうに食べてれば、そのうち姫様のほうからひょっこりやってくるんじゃないですか?」
「うむ、いろいろな意味で勉強になった。しかし、姫様はどこに……?」

 本来、女騎士レディーナは姿を消したプリンセス追ってきた。
 だが、まだ見つけることはできない。
 思わぬ出費となったが、事情を知る偉い人の接待で寿司屋を使えるようになったのは有意義であった。

「ところで誰かが言ってたけど……回るの? このスシが……?」

 回らない寿司から入ったトストには、回転寿司がどういうものかわからない。
 そのうち、回る寿司も食べに行く……のかもしれない。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

というわけで、寿司イベントごちそうさまでした!
書いてると解谷の腹も減ります。回らない寿司、行きたい!
でも、行けないからこうして欲求を発散します。
お付き合いいただき、ありがとうございました。
それでは、またの依頼でお会いしましょう!

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