PandoraPartyProject

シナリオ詳細

蛍の色は何色か

完了

参加者 : 29 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●七色なんだって。
「へぇ」
「らしいよ」
 何やら盛り上がっているのはローレットの一角──瓶詰め屋の店主ミーロと『Blue Rose』シャルル(p3n000032)だった。見かけた『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)があれ? と首を傾げる。
「おふたりが話しているのは珍しいですね。何か気の合う趣味でもあったのですか?」
「ボクが初めて行った場所の話だよ」
 その話に興味を持ったのだというミーロ。片や混沌在住、片や旅人ではあるが、やはり混沌に長く住まう者であっても知らない場所や物はあるらしい。
「何もなければヒトって知らない場所とか行かないからねー。世界が狭いっていうのかなー」
 かくりと首を傾げたミーロ。彼女は自らの世界を広げるため、時として他人からそのような話を聞くのだそうだ。
「やっぱりお仕事のためなのです?」
「うーん、まあそれもあるけど。やっぱり楽しいじゃない? 世界が広がっていくのって」
 にぱっと笑うミーロは成人しているはずだが、いくらか幼く見えた。まるで無邪気な子供のようだ。
「それで、シャルルさんの行った場所というのは」
「うん。ボク、2年前の今くらい……いや、もう少し後か。それくらいにここへ来たんだ」
 あっという間なようで長い期間。よく雨の降る季節だったから、実際にはもう半月ほど後になるだろう。精霊からヒトの体を得たシャルルにとっては知らないものばかりだった。今となっては知人も増え、見知った場所も増えたがやはり知らない場所や人の方が多いだろう。
「中々見られない蛍の話を聞いて、見た方がいいんだろうって思ったんだよね。そう、幻想での事件もひと段落したところだったし」
 あの頃の自分が今の自分を見たらどう思うだろうか。鍛えられていない表情筋で──今も鍛えられたというわけではないけれど、あの頃よりマシである──何とも言えぬ表情を浮かべるかもしれない。
「あ、思い出したのです! ナナイロホタルでしたっけ?」
「そうそう。どうなんだろう、今年も飛んでるのかな」
「飛んでるなら見てみたーい! クリエイターにはインプットが必要なのさー」
 お願いお願い、と手を合わせるミーロに苦笑したユリーカ。調べてみますねと言った彼女から、ほどなくして「今年も飛ぶ、というか飛んでいる」という情報がもたらされたのだった。


●イルミネーションのような

 さらさら、さらさら。

 河原の音が静かに木霊する。目を閉じてしまえばその音しか聞こえないほどの静寂が辺りを包んでいた。
「このへん?」
「いーんじゃないー?」
 シャルルとミーロはシートを敷き、揃って座り込むと頭上を見上げる。ちらちらと舞うのは蛍──だが、灯る光はまるでシャイネンナハトに見られるイルミネーションのようだ。
 赤、紫、青、緑、黄。
 ゆっくりと点滅するたび、その色を変える様は不思議としか言いようがない。練達の学者ともあればその謎を解明したいなどと言うのかもしれないが、そんな者はこの場にいなかった。
「うわぁ、すごいねー……」
「ね。……何か感じるものとか、あんの?」
 シャルルが問えば、ミーロは蛍から目を離さず「そうだねぇ」と呟く。その目がふと細まった。
(……?)
 その姿にシャルルはふと目を瞬かせる。なぜだろう、ミーロが遠く感じるような。
 しかしそんな違和感は一瞬で、ミーロはシャルルへ視線を向けるとにへらりと笑った。
「すっごくある。やばいなー、なんでここに機材ないんだろう。持ってくれば良かった」
「……それは色々大変そうだからやめて欲しいかな」
 ローレットでのように色々と出されてはたまらない。夕暮れで薄暗いし、手元が狂ってもシャルルには手を出せないのだ。シャルルからすれば『持ってきていなくて良かった』である。
「そういえば、イレギュラーズの皆も呼んだの?」
「うん。帰ってきてるみたいだし」
 他でもない、海洋から。
 シャルルの言葉にミーロはそっか、と小さく呟いた。


●チラシ
 ローレットに1枚のチラシが貼られている。
 静かな場所でナナイロホタルを楽しみませんか。要約すればそんな内容だ。
 聞こえるのは河原の音と、風のせせらぎ。もしかしたらそよ風が悪戯をして草を鳴らすかもしれない。
 今年はほんの少し早めらしいが、蛍にとって過ごしやすい気候なのだろう。

 友達を、仲間を、恋人を、家族を誘って。
 一緒に蛍見は如何ですか?

GMコメント

●すること
 ナナイロホタルの飛ぶ場所でひと時を過ごす。

●詳細
 場所はチラシの通り。木々に囲まれた静かな雰囲気です。
 指定が無い限りはグループ、個人ごとに少し離れての描写となります。突然他の人が乱入してきたりしません。そのため騒ぐものグループ内なら大丈夫です。

 時刻は夕暮れ~夜。
 夕暮れは鮮やかな茜空と、影を伸ばす木々の中に蛍を見つけることができるでしょう。
 夜は満点の星空の下です。ロマンティック。
 冷えるので温かい飲み物や防寒具等をおススメします。

 純粋に楽しむもよし、静かな場所で気持ちの整理をするもよし。
 ご自由にお過ごしください。

●NPC
 私の所有するNPC、及び瓶詰め屋店主のミーロはお呼び頂けます。
 瓶詰め屋に関しては以下が関係作です。

関係作:
記憶と想いを込める瓶 (https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/3164)
瓶に込められしモノは(https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/1457)
瓶詰め屋『エアインネルング』(https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/1550)

●プレイング注意事項
 本シナリオはイベントシナリオです。軽めの描写となりますこと、全員の描写をお約束できない事をご了承ください。
 アドリブの可否に関して、プレイングにアドリブ不可と明記がなければアドリブが入るものと思ってください。
 同行者、あるいはグループタグは忘れずに。

●ご挨拶
 愁と申します。2年ぶりに出したネタの気がします。
 七色に光ると言ってもゆっくりと、ぼんやり見ていれば「あ、変わったな」程度の変化です。きっと落ち着いて見られることでしょう。
 それではご縁がございましたら、よろしくお願い致します。

  • 蛍の色は何色か完了
  • GM名
  • 種別イベント
  • 難易度VERYEASY
  • 冒険終了日時2020年06月12日 22時05分
  • 参加人数29/∞人
  • 相談7日
  • 参加費50RC

参加者 : 29 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(29人)

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
グレイシア=オルトバーン(p3p000111)
勇者と生きる魔王
ヨタカ・アストラルノヴァ(p3p000155)
楔断ちし者
焔宮 鳴(p3p000246)
救世の炎
ルアナ・テルフォード(p3p000291)
魔王と生きる勇者
シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)
蒼銀一閃
銀城 黒羽(p3p000505)
アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)
灰雪に舞う翼
武器商人(p3p001107)
闇之雲
古木・文(p3p001262)
文具屋
アリス(p3p002021)
オーラムレジーナ
リョウブ=イサ(p3p002495)
老兵は死せず
十夜 蜻蛉(p3p002599)
暁月夜
ノースポール(p3p004381)
差し伸べる翼
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
シラス(p3p004421)
超える者
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
大樹の精霊
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
御天道・タント(p3p006204)
きらめけ!ぼくらの
イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)
キラキラを守って
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)
懐中時計は動き出す
ハルア・フィーン(p3p007983)
おもひで
アビゲイル・ティティアナ(p3p007988)
木偶の奴隷
散々・未散(p3p008200)
魔女の騎士
エルシア・クレンオータ(p3p008209)
自然を想う心
雨紅(p3p008287)
愛星
マッダラー=マッド=マッダラー(p3p008376)
涙を知る泥人形
クロエ・ブランシェット(p3p008486)
奉唱のウィスプ

リプレイ


 ちらほらと舞う光。グラデーションのように少しずつ色を変え行くそれは、ほんの少しばかりしか生を許されない命の灯火だ。

 命を燃やすナナイロホタル。危険にさらされながらも前へ進むイレギュラーズは──その光に、何を見る。



「ほらほら、フレイムタンくんこっちこっち! 蛍さんいっぱいいるよ!」
「急がなくても逃げないぞ」
 わかっているともと言わんばかりに焔が取り出したのはレジャーシート。温かなお茶とブランケットも2人分だ。
「今年はゆっくり見られるように準備してきたんだ!」
 さあどうぞと促され、フレイムタンは彼女とともに蛍を眺める。空と蛍で空の宝石箱のようだ。
「あっ、見て見て! 色がゆっくり変わっていく!」
 不思議だけど綺麗で、目が離せない。2人はお茶を飲みながら飽きることなく蛍を見上げていた。

「おかえりなさい。ふふ、風流ってやつだねー」
 ミーロの言葉にえへへと笑ったハルアは、下駄を鳴らしながら彼女の元へ。浴衣姿はこの風景に似合うと思ったのだけれど、正解だったようだ。
「ただいま。ありがとう、ミーロのおかげさまだよ」
 手に乗せた夜明けの月は、夕闇の今とまるで兄弟のよう。小瓶から蛍へ視線を移したハルアは小さく目を細めた。
「……ボクは絶望の青で『泡沫』をみた。魔種でも誰かを想い、心苦しむ姿を」
 いずれ消えてしまう泡沫は切なくて──でもそれは綺麗で豊かで。一瞬かもしれないけれど、沢山のものが詰まっているものだ。
 だからハルアは今も、きっとこれからも。たとえ世界が泡沫のようなものであったって、好きな想いに心変わりなど有りはしないだろう。

 マッダラーは光の舞う中、そっと楽器を構える。
(俺が泥人形になる前であれば、大切な人と一緒に……いや、そんなことを言っても仕方あるまい)
 過去のない自身はその術を持たないのだから。
 誰かの真似であろうこの感情は、けれど確かにこの光を美しいと。そして人の言葉が、歌が入るのは野暮だと告げていた。
 誰に聞かせるでもない、ひとりの演奏会の始まりだ。

 その音楽を聴きながらアビゲイルは蛍を見守る。
 なぜ、この美しい蛍は命が短いのだろう。
 なぜ、奴隷である自身はのうのうと生きながらえるのだろう。
(オレが、もしも──)
 命が短くともあのように美しい蛍であったら。
 叶うことのない願いだ。小さく頭を振ったアビゲイルは恐る恐る人差し指を宙へ伸ばす。光が留まってくれないだろうか、と。

 茜と藍が混じり合う逢魔時。小さな水のせせらぎと未だに冷たい風。それに濡れたような匂いがまだ夏が先であると知らしめる。
 2人とも、無言だった。
 2人とも、見惚れていた。
「「綺麗」」
「……なのです」
 かぶった言葉に未散とヴィクトールは視線を交錯させる。それはすぐに空と蛍の光へと。
 燃えるような赫に、静かな蒼海の青。此の子はぼくかな、と未散が柔い紫色を指す。
 その中に滓かな燈を見つけたヴィクトールはついつい物思いにふけり──服の裾辺りを揺らされてハッと目を瞬かせた。
「ああ、ごめんなさい。すこし……ぼんやりしてました」
 夜が更ければさらに冷えるだろう。その前に帰ろうか、とヴィクトールは自分のマントを広げて未散の風除けにする。未散は小さく目を細め、視線を優しい彼へ向けた。
「帰ったら、温まるハーブティを淹れましょうか」
「では、お茶菓子も用意しましょうね」
 帰路につく2人。その姿を見送るように、ホタルたちは空を舞った。

「ありがとうおじさま」
「夜は冷えると聞いていたからな」
 グレイシアから温かな紅茶を渡されたルアナは、両手でカップを持ちながら空を見上げる。綺麗な星空を見上げながら深呼吸して、意を決して。
「おじさまは『本当のわたし』に会ってるんだよね」
「……どうして、そう思う」
 一瞬固まってしまったグレイシアへもたらされるのは数々の証拠。大人の服や化粧品、自分と異なるタバコの香り──正直、頭を抱えそうだ。彼女の内の人格は隠れる気もないのだろう。
「……わたし、このまま消えちゃうのかな? って最近……おもって。ちょっとこわいの」
 ルアナの視界が滲む。もし召喚前の自分に戻ったのなら、今のルアナは。その想像は難くなかった。
「吾輩から見て、より本物と感じるのは今のルアナだ……心配する事は無い」
 根拠などなくとも、大丈夫だとグレイシアは繰り返す。その言葉は彼女に──そして、自身に。
(吾輩は……ルアナに消えて欲しく無いのだな……)
 頭を撫で、撫でられる2人。その周りを静かに蛍が照らしていた。

 ゼファーの上でアリスはキョロキョロ。だって蛍は初めてなんだもの。そのつむじを見てゼファーは苦笑し、彼女もまた蛍を見上げる。数年ぶりだが、このように光る蛍は初めてだ。
「ねえ、ねえ、素敵な夜ね。此の子達を連れ帰っては駄目かしら?」
 宿に離したら星空のようだろう。そんな無邪気な願いにゼファーは首を振る。
「此の子達の命は、とても短いものなのよ」
 すぐ死んでしまうのよ、と告げたゼファーにアリスは目を瞬かせ、蛍の光へ視線を移す。短い命ならば、閉じ込めるような可哀想なことは出来ない。
「……ねぇ、アリス。あの光にはどんな意味があると思う?」
「意味?」
 向けられた視線に「求愛行動なんですって」と微笑んだゼファーは、パッと表情を明るくしたアリスに請われて耳を貸した。
「其れだったらわたし、何時だって、何処だって。あなたが眩い位に、煌めいて見えるのって、もしかしてそう言う事かしら?」
 酷い境遇、悲しい別れ。孤独や、ある時は涙に濡れたって光は薄れることがない。それはこの蛍と同じ光なのかもしれない。
「そうね……そうなのかも。実際、貴女は私を見つけてくれたものね?」
 光っていても必ず見つけてもらえるわけではない。だからこれはきっと、幸運なのだ。
「ねえ、わたしの蛍さん──目を、閉じて?」

(あの時は彼と一緒に見に来たっけ)
 喪失の恐怖と、存在の安心感を感じたあの夜。あれから何度も魔種と戦い、怪我もしたけれど──まだ2人とも無事で生きている。
「あ、ミーロさん! こんばんは。良かったらココア、いかがですか?」
 もらおうかなぁ、と微笑むミーロとココアを分けっこしたノースポールは小瓶を星空へかざす。
 狂王種と2度相対した時も、セイレーンと戦った時も。大切な記憶と決意のこもったそれは、見るたびに『絶対戻ってくるぞ!』と思わせてくれた。励まし支えてくれたのだ。
 そう告げればミーロはくすぐったそうに笑うけれど──心の底からのありがとうを、彼女に。

「すごいよ……! 紫月、見て……綺麗……!」
「美しいね。蛍が妖精のようだ」
 声を上げるヨタカに頷く武器商人──だが、その視線はつい先ほどまで傍らの小鳥に。あまりにも楽しそうな姿は、何かに残しておきたいくらい愛らしい。
 蛍の舞う様は、まるで近くに星が降ってきたよう。川のせせらぎと風の音、そこへ指を振って鼻歌歌えば、ヨタカは自然とともに音楽を叶える大自然の指揮者となる。
 音らしい音がなくとも、この世界は大きな楽器なのだ。
 武器商人は目を細めてそんなヨタカの音楽会を見て、聴く。満点の星空と蛍の光は明るく、彼の赤と金の瞳がキラキラ輝いて美しい。
「ふふ、紫月……楽しい……?」
「ああ、十分楽しんでいるさ」
 1人で楽しんでいないかと我に返ったヨタカは、そのまま武器商人をデュエットへ誘う。蛍も誘って、光と音のハーモニーだ。
「そうだ、小鳥。歌ってる間は傍らにいておくれ」
 その言葉に2人の視線が絡んで、武器商人が笑みを作る。
 寒くはないけれど──そう、"冷える"から。ね?

 静かなれど、よく探れば人の気配はそこかしこにある。考え事には良い場所だと文は蛍を見上げていた。
 彼はまだ混沌という世界を知らない。そのための、1歩を踏み出す勇気が必要だ。
(少しずつでも視界を広げられたら……あとは、逃げ癖が治せたらいいな)
 ふわりと目の前を通り過ぎた蛍が「頑張れよ」と言わんばかりに文の周りを1周して離れていく。視線であった先にミーロの姿を見つけた文は、小瓶の礼を言うためにそちらへ歩を進めた。

(今回は1人だが、次は大切な人と見たいな)
 黒羽は七色に光る蛍を見上げ、そして彼女のことを考えながらほうと小さく息をつく。掌を出して意識を集中させると、そこには暖かく儚い純白の闘気が揺らめいた。
 その光に何を思ったのか。蛍はふわりとやってくると、黒羽の指先に留まる。純白と七色は優しく淡く溶け合っていた。
 次は彼女と、共に。

 初めてさんなタントは蛍の光に思わず
「ほわあ」と言葉を漏らす。2度目さんのシャルレィスはそんな反応に笑みを浮かべた。
「もっとチカチカしてると思ってた?」
「ええ。けれど、とっても優しい光ですわねぇ……」
 芸術作品のような光の移ろい。それは気がつけば時間が経ってしまいそうなほど、飽きることがない。
「折角だし座ってちょっとゆっくり見よっか」
 ぽんぽんと隣を示したシャルレィスは準備万端。水筒には温かなお茶を。おやつお菓子も用意してある。
「ほわ、ありがとうございますわ!」
 万全のエスコート──なのだけれど、出てくるそれにくすりと笑って。
「シャルレィス様、蛍より団子ですわね?」
「はう!?」
 図星を指されたシャルレィスは恥ずかしげに苦笑する。そんな彼女にタントは軽く目を瞑って見せた。
「ええ、良いでしょう。美しい“時”を感じながら食べるお菓子は、きっと忘れ難いお味になりますわ!」
 そう、きっと。光もお菓子も、綺麗で美味しい想い出になるのだ。

「まだ、もう少し預かって頂けませんか」
 エルシアの申し出にミーロは目を瞬かせ、その眉尻を下げた。
「また行くんだねー」
「はい。でも……この前は願掛け通りに無事に戻って来ましたし、この願掛けはきっと、本当に意味があったんです」
 だから、もう1度。またかと思われそうだけれど、願って叶うのならば思い切って甘えた方が良い。
(私もまたかって思いますけれど)
 小さく笑ったエルシアは、しかしすぐ真剣な眼差しで小瓶に魔力と祈りを込める。
 今度もまた、ちゃんと取りに来れますように。
 皆も、無事に戻って来ますように。
 小瓶は蛍に混じって、ふわりと光を灯していた。

「ねえ、身体は冷えてない?」
 チャイがあるよ、と出された水筒にシャルルが興味を示す。イーハトーヴはサンドイッチも、スケッチ道具も持ってきたらしい。
「ふふ。不思議な蛍に会えるって聞いて、俺、わくわくしちゃって!」
 温まって、スケッチを残して。イーハトーヴはほう、とその光景に息をつく。まるで星が空から遊びに来たようだ。
(この世界には、俺の知らないものが、まだまだ沢山あるんだなぁ……)
「わ、上手」
 はっと我に返れば、視界には白髪のつむじ。うっかり手が止まっていたらしい。
「そういえば……シャルル嬢も旅人なんだよね?」
 彼女の世界はどのように見えているのだろう。言葉で聞けば少しでも知れるだろうか。
 問われた彼女は目を瞬かせ、小さく笑ってみせた。
「すごくね、キラキラしてるんだ」

(そういえば鳴が記憶を思い出した時も、蛍に導かれて……だった気がするの)
 鳴は木の根元へ腰掛け、淡い光に目を細める。姉に会い、記憶を取り戻し、そして鳴は──。
「……っ」
 過去を思い返し、辛くならないと言えば嘘になる。背負ったものを重たく感じることもある。
 けれど『焔宮 鳴』であること。選んだのは他でもない自身だ。例え守るべき一族が無くとも、力なき民は須らく守るべきものなのだから。
「……えへへ、色々考えたら頭がすっきりしたのっ」
 浮かんだ笑顔はきっと明日も明後日も──その先も変わらない。

「のだ! のだー!」
「わあ、不思議な色のホタルだねー」
 アクセルはちびスライムと共に感嘆の声を上げる。鼻をくすぐるのは蜂蜜の甘さ漂うホットミルクだ。口に含めばここ最近の忙しさから離れられるような気がして、ホッとひと息こぼれていく。
(ホタルが光るのは相手を見つけるためらしいけど、色が違うのは話でもしてるのかな?)
 まじまじと見つめるアクセルの前で色はゆっくり、ゆっくりと変化を起こしていた。

(たまには陸の、川を楽しむというのもいいね)
 海を身近としていたリョウブは、どこか楽しげに川沿いを歩く。楽しむための準備、防寒着も万全だ。
 海の小島に光るものなどなかったから、この光景は初めてである。
「綺麗だねぇ」
 幾つになっても知らないことを知り、目にすることは全て得難い経験だ。そして何より、楽しい。
 試しに指を伸ばせば、青い光がふわりと降りてきて。指先で灯る光にリョウブは微笑を浮かべた。
 まだ死ねない。まだ楽しみたいことは沢山ある。その為にも、元気に長生きをして、特異運命座標の仕事もこなしていかねば。

 見上げれば見事なまでの星空。まるで絶望の青にいたことが幻だったかのような、静かな夜だった。
「……ねぇ、名前。縁って言うんね?」
 十夜は蜻蛉へ振り返る。彼女は指先に光を留まらせていた。
 水底で聞いた彼の名前。気にしたことなどなかったけれど、ふと零れ落ちたのだ。
「……まあな。似合ってねぇだろ?」
 苦笑した十夜が視線で蛍を追う。普段は名乗りもしない名前だが、今ばかりは蛍の光が話の続きを促すようで。十夜はぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。
「人との縁が絶えねぇやつになるように……ってことらしい。すっかり名前負けしちまってるがね」
「……うちとの縁は繋がったけど。ほら、そっち行った」
 その縁を繋ぐように、指先の蛍は十夜の肩へ。その指がなんとも寂しげで、寒そうで──十夜は思わず、自らのそれをほんの少し触れあわせた。
「……人は1人では生きていけんのよ」
 その名の通りに、彼の周りには様々な縁がある。蜻蛉も、そのひとつ。
「……好きよ。ずっと」
 応えはない。それで良い。繋がった温もりは確かだから。そして十夜も──いいや、縁もまた心の底で願う。
(せめてこの縁だけは途切れないように──)

『ホタルは死んだ者の魂らしい』
 2年前の今頃、シラスはそんな話を思い出していた。死んだ時のことを考えて、不安なんてなくて。
(でも今は違う)
 あまりにも得たものは多かった。失うと思うとひどく寂しかった。けれど彼を蝕む廃滅は確かに進行していて、最期は次か、その次かと落ち着かない。
 最後になるなら、言わなくちゃ。
「アレクシアのことが好き……一番の友達だよ」
 過去に悪事へ手を染め、資格などないとわかっていても、伝えずにはいられなかった。不意に吹いた風は予想以上に寒くて、シラスは我に返る。彼女が冷えてしまうかも、と──。
「シラス君」
 その時、青の瞳に射抜かれた。
 彼にとってはあの時が転機で、現状を夢みたいに思っているのかもしれない。けれど、これは夢じゃない。
 もしこんなにすごい夢を見られるのなら、現実のアレクシアは偉大なる大魔法使いだろう。けれどそんな自分がいるわけもないのだから、これは現実だ。
「……大丈夫、心配しなくても何も逃げやしない。私も、ここにいるよ」
 だから最期だなんて縁起でもないことを言ってはいけない。アレクシアがそんなことはさせない。
「どうしても心配なら思い切り頬をつねって、夢じゃないってわからせてあげる!」
 手をにぎにぎするアレクシアに苦笑する。ああ、もっと生きなくちゃ。

 防寒着をしっかりと着込み外れぬ面をつけた雨紅は、その実とても楽しみにしていた。
 ナナイロホタルとはどのような光景なのだろう。そもそも特定の虫を目的として眺める、という行為自体が初めてだ。
 どの色も輝く光景はただ見惚れるばかり。どれも違って、けれどどれも飽きることなく。
(この世界には、本当に色々な……あの七色、いえ、きっとそれ以上に『楽しみ方』というものがあるのですね)
 今後も知れるだろうか。いいや──知りたい。もっと、たくさん。

(どんな風なんだろう? 綺麗だといいなぁ……)
 羽織を手に、クロエはチラシで指定された箇所まで訪れていた。辺りは静かで、自然の小さな音が時折耳を擽る。あたりをつけて木々の中を覗いてみると、七色の光がふわりふわりと舞っていた。
「わぁ……」
 幻想的な光景に目を奪われるクロエ。満足したら遅くならないうちに帰らなくちゃ──けれど、あともう少し。

 サーカス事変から2年になるのか、とアーリアは羽織を搔き合せて見上げる。その光景はあの時と変わらない。
「そういえば、あの直後にここに来て、こうやって貴方達に話を聞いてもらったのよねぇ」
 あの直後──アーリアが初めて、人を手にかけた時。
『誰かを守るためなら、私はこれからも手を汚すって決めたわぁ』
 あの覚悟に嘘偽りはない。2年の間には色々な事があって、慣れてしまいそうにもなるけれど──やはり苦手ではあった。
「でも、守るためならって気持ちは変わらないの」
 他でもない──大好きな人と、共にある為に。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした、イレギュラーズ。
 今回は数名に称号をお贈りしています。確認してみて下さいね。

 またのご縁がございましたら、よろしくお願い致します。

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