PandoraPartyProject

シナリオ詳細

紅提灯の燈る夜に

完了

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●紅提灯が燈る夜
 深紅老街(シェンホン・ラオジエ)――その街は、夜こそ最も美しく華やかだと言われている。
 高層ビルが立ち並ぶ大都市から、随分と離れた山間部の田舎町。
 狭く急な石造りの階段と、そこから伸びる路地の両側には所狭しと商店や屋台が並んでいるが――昼間はその半数以上に「準備中」の札がかかるかシャッターが下りており、張り巡らされた紅提灯も山風に寂しく揺れるだけ。
 老人が犬を連れ散歩をし、子供たちが走り回るだけのありふれた静かな田舎の街は、少しずつ日が落ち、空が朱色に染まり始める頃にようやく目を覚ます。
 準備中の札は赤いチャイナ服を着た女性の手により「営業中」へと裏返され、犬を散歩していた老人は頭にタオルを巻き、湯気が立ちあがる鍋に蒸籠を並べていく。辺りの店からも香ばしいスパイスや、甘い餡の香りが漂い、この街の夜の香りを作り出す。
 空の朱色が段々と紺色に変わる頃、ぼう、と紅提灯に火が燈され――石造りの階段も、細い路地も、全てが赤く染められて。
 目覚めた街の階段を、ひとり、ふたりと観光客がやってくれば、あっという間に今日も千客万来。
 右を見れば、コルクが的を射抜き喜ぶ男女。左を見れば、両手に饅頭を抱えて頬張る子供。
まだまだ夜はこれから、だから今日もきっと――賑やかな夜になる!

●夜遊びは華やかに
「なんだかオリエンタル? が流行っていると聞いたのだけれど――それってこういうことかしら」
 境界案内人のシーニィ・ズィーニィは、何処で仕入れたのやら巷で密かに流行の事象を口にすると、一冊の本を開いてみせる。
 見開きで載っていたのは、山の斜面一面に紅色の提灯が飾られた建物が並ぶ華やかな光景。室内の灯りと提灯の赤い光が、暗い夜の街に燃えるように広がっていて。ぱらぱらとその本を捲れば、どこか懐かしい細い階段に路地に、深い皺が刻まれた老人が饅頭を差し出す写真に――なるほどこれは「オリエンタル」だと混沌肯定が働く。
「ここに似合う衣装も借りて散策できるみたいだし、行ってみるといいんじゃないかしら?」
 ほらほら、と背を押されれば、目の前には斜面に広がる紅提灯。
「ちょっとアンタ達、うちの服着て観光していっておくれよ! こんな色男とべっぴんさんに着てもらえれば、これ以上ない宣伝じゃあないの!」
 あれよあれよと女主人に貸衣装屋へと連れ込まれれば――普段と違う姿に変身して、夜遊びといこうじゃないか!

NMコメント

 オリエンタルな服を着て、お出掛けはいかがでしょうか。
 飲酒盃おさけです。

●目標
 楽しく遊ぶ。

●舞台
 深紅老街(シェンホン・ラオジエ)、時刻は夜。
 山の斜面に広がる古い町で、石畳の細い階段と路地が入り組んでいます。
 赤い提灯に照らされて、出店や茶館、ゲームの出来る屋台が並んでおり、どこかごみごみとして妖しい雰囲気。
 人出は激しいので、はぐれないように注意しましょう。

●貸衣装
 街の入り口付近に、チャイナドレスやアオザイを貸してくれる店があります。
 宣伝も兼ねて、と皆さん強制的にお着換えさせられてしまいました。
 イラストがある方はプレイング内にその旨を、無い方も着るならこんなもの!と想像してみてください。

●出来ること
・食事/食べ歩き
 手軽にわいわいやりたい方は出店で。
 小籠包(肉汁注意)、あんこ入り草団子、白玉ぜんざい(温/冷)、タピオカドリンク他。
 店の奥にあるテーブルで食べるもよし、食べ歩くもよし。フルーツビールもどうぞ。

 落ち着いて過ごしたい方は茶館へ。
 烏龍茶にジャスミン茶、タピオカドリンク他に各種ケーキ。
 ジャスミン茶のホットは、お湯を注ぐと花が開くので女子に人気。

・屋台でひと遊び
 射的に輪投げ、金魚すくい等ゲームの屋台が並んでいます。
 景品はかわいい髪飾りからあやしい人形まで千差万別。

・街の散策
 街を散策して路地裏へ入ってみたり、高台で景色を眺めてみたり。
 オリエンタルな雑貨が並ぶ雑貨屋で買い物をするのもよいでしょう。

・その他
 食い逃げ犯をチャイナ服で飛び蹴りするもよし、貸衣装屋での様子を描くもよし。
 その他、ありそうなものはきっとあります、お気軽にどうぞ。
 あれもこれもと詰め込むと駆け足になってしまうので、1-2点程度に絞る事をお勧めします。

●NPC
・シーニィ・ズィーニィ
 青のチャイナ服で近場をふらついています。
 お声がけ頂けた場合のみ登場します。

●ラリーシナリオについて
・このラリーシナリオは一章完結です。
 5/10を目安に、件数問わずそれまでに頂いたプレイングで完結予定ですが、完結までは積極的に執筆していきますのでお気軽にどうぞ!

・数人まとめての描写になる可能性があります。
 ソロ希望の方はソロと、同行者がいる方は【】やID等記載してください。

それでは、ご参加お待ちしております。

  • 紅提灯の燈る夜に完了
  • NM名飯酒盃おさけ
  • 種別ラリー(LN)
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年05月18日 22時23分
  • 章数1章
  • 総採用数30人
  • 参加費50RC

第1章

第1章 第1節

天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ

 両側に出店が立ち並び、観光客でひしめき合うその中をレイリーとミーナは並んで歩く。
「うお、っと」
「大丈夫? 気をつけて」
 すれ違った男と肩が触れ、よろけたミーナの腕をレイリーは掴むと、彼女の頭からずり落ちそうになっていた笠の帽子をそっと直す。
「ん、さんきゅー」
「どういたしまして……それにしても」
 傍らのミーナを眺めれば、身体のラインが浮かび上がった菫色のアオザイは蠱惑的な様相で。
「ミーナのアオザイ姿、綺麗だね。タイトラインの衣装も似合っている」
「ん、あー……お褒め頂きさんきゅ」
 直球で褒められれば、ミーナはどこかむず痒い心地で頬を掻き。
特に――とレイリーは腕を掴んでいた手を腰元の素肌が覗くそこに滑らせる。
「っ!?」
「腰辺り、好き」
 直球で告げられれば、ミーナの頭は人混みだけでないこの暑さにくらりと揺らぎ、しかし悪い気はせず――
「そのまま手を下ろさないでくれよ? 相変わらず穿いてないんだ」
 レイリーを見上げにぃ、と笑って見せる。それにしても、と身長差のあるレイリーを見上げれば、同様に普段と違った装いの彼女にも舌を巻き。
「……しかしレイリーも、たまには違う姿ってのも新鮮でいいな」
 黒地に金糸の刺繍が入ったチャイナドレスは、普段白を纏った騎士である彼女の印象から真逆。太腿からほんの少し覗く地肌も、普段見られないのだからミーナの喉も鳴るもので。
「ふふ、ありがとう。ところで立ち止まったついでだし、一休みといかない?」
 揺れる黒レースの袖から伸びたレイリーの手を取り、二人そのまま屋台の奥へと歩を進める。
「よし、飲み比べだー!」
 あっという間にテーブルに並んだビールの数々を、レイリーは小さなコップへと注いで行く。いくつかを向かいのミーナのグラスへと注いで二人それを打ち鳴らせば、レイリーは顔色一つ変えずにグラスを次々と空にし。
「ほんと、よく飲むよなぁ……私も酔いはしないけど」
 ミーナは感嘆の声を漏らすと、出来たての小龍包を箸とレンゲで掬いあげる。
「――ッ!」
 ひと足早く齧りついたレイリーは、どうやら真っ向勝負を挑んだようで――その結果、肉汁に完敗していた。
「ミーナ、それ、中の肉汁熱いから注意して。あと、美味しい」
「ん? ああ、大丈夫大丈夫。私、これ系の料理は作れるんだぜ? よーく知ってるさ」
 冷たいビールで熱さを相殺するレイリーの様子に笑いを堪えながら返し、箸で肉汁を逃がし頬張れば、期待以上の味。ならば、と形の違う饅頭を箸で摘まみ差し出す。
「ほら、こっちも食べてみろよ」
 こっちはそこまで凶悪じゃないし、そう付け加えればレイリーも躊躇せずそれに齧りつく。
「本当だ、これも美味しい」
 綻んだレイリーの顔を見れば、ミーナもつられて頬が緩み。
(さっきの手の続き――中はまぁ、帰ってからのデザートってことで)
 先程レイリーに触れられた腰にそっと手をやり、グラスのビールを飲み干した。

成否

成功


第1章 第2節

古木・文(p3p001262)
文具屋

「お兄さん、そんなかしこまった服着ちゃって! 折角なんだから、もっと着飾っちゃいなさい!」
「え、えっと、はい……!」
 深紅老街に着くやいなや女主人に声を掛けられた『想心インク』古木・文(p3p001262)は、その手を引かれ貸衣装屋へと通される。
「か、貸衣装屋さんですか。それは、あの、ご親切にありがとうございます」
 きょろきょろと店内を見渡すと、周りは鮮やかな色と刺繍の衣装ばかり。その布に、糸に使われる顔料には心躍るが――自分がその色を着るとなると、落ち着かないもので。ぎゅう、と胸元のネクタイを握り締め落ち着きを取り戻し――嬉々として服を選ぶ主人に「あの」と口を開く。
「無地で紺色のアオザイはありますか?」
「あらま、黒髪に映える赤でもと思ったけど。うん、落ち着いた色でまとめるのもいいね」
 見繕われた紺色のアオザイに袖を通せば――軽く肌触りのいい生地は、どうやら中々の高級品のよう。
「よし出来た、それじゃあ楽しんでおいで!」
 主人に礼を告げ店の外に踏み出せば、足元で揺れる裾の感覚は不思議な楽しさ。スーツを脱ぎ異国の服に袖を通し、夜街の散策といこうじゃないか。
 提灯の燈る階段の途中、灯りの少ない細い路地を見付ける。ここを幾度も曲がった先で、不思議な雑貨屋にでも辿り着けないものか。
(墨や筆はあるかな? 面白そうだし行ってみようか)
 一歩踏み出し、喧噪を背中に――果たしてその願いは、叶うのか?

成否

成功


第1章 第3節

セレマ オード クロウリー(p3p007790)
性別:美少年

「え、ボクが広告塔に? ふふ、いいだろう。好きなようにボクを着飾ってくれるかい?」
『性別:美少年』セレマ オード クロウリー(p3p007790)は、紅色が煌く街に在ってなお、蒼く澄んで輝く。街に辿り着いた直後、貸衣装屋の女達に取り囲まれたのだ。
「まさかこんなにも美しいお嬢さん達が案内を申し出てくれるだなんて……この辺りは不案内だから本当に助かった。ありがとう」
 街の賑わいと人々の温かさを讃えて、黄金の瞳を細め微笑むと女達はよろめき互いに支え合う始末。
 彼女達の商魂と、セレマへの『贈り物』の相乗効果は絶大で――

「次はこの薔薇のチャイナ!」
「総レースのアオザイが先よ!」
「ああほら、ちゃんと全部着るから。いい子で待っていて」
 試着室から顔を出す度上がる歓声。さながらここは、美少年と観客である姫の為の舞台。
 扉を閉め、鏡に映る青龍のチャイナ服を着た自身と目が合えば。
「――んふ」
 美少年らしからぬ鼻息が漏れる。この状況は非常に気分がいい。そして何より自身が美しい。
(美しいボクがそれらしく振舞い、もっとボクを褒める。
 そうすればボクが嬉しい。つまりキミ達も嬉しい)
 両者にとって得しかないその関係に、次に紡ぐ言葉を決め。
 新たな服に着替えて顔を出し――沢山の姫達に告げる。

「ねえ、それで、お嬢さん。
 次は一体どんな素敵な楽しみを、ボクに教えてくれるのかな?
 朝まで時間はたっぷりあるから、ね?」

成否

成功


第1章 第4節

郷田 貴道(p3p000401)
竜拳
ネーヴェ(p3p007199)
星に想いを
長月・イナリ(p3p008096)
狐です
甘露寺 結衣(p3p008114)

「私の服も、『オリエンタル』というものではありますが――此方もまた、風情があるものですわね」
 甘露寺 結衣(p3p008114)は、紅提灯を見上げ歩を進める。弓道を嗜む彼女は、普段の袴と胸当てから、今宵は白のアオザイに着替えていて。
(一度着てみたいと思っていた服を着られるなんて、絶好の散策日和です)
 立ち並ぶ屋台、さてどこへ――そう思案する結衣の鼻孔を、ふわりと甘い湯気が誘う。
「蒸し立ての草団子、特製の餡子入りだよ!」
「まぁ、それでは一つ頂きましょう」
 店員の誘いに乗り注文すれば、紙に包まれた草団子を手渡され。その熱さに「わ」と小さな声も漏れる。
「中で食べていくかい? 熱いなら箸もあるよ」
 それならば、と中に入ろうとする結衣の目に入ったのは人混みを照らす紅色の提灯。店内の無骨な蛍光灯と見比べ――
「いえ、折角ですから歩きながら頂きます」
 草団子を片手に、喧騒へと戻っていく。
 普段ならば食べ歩きなどはしたない、と思うが――今日ばかりは、この光景を遠くから見るなど勿体無い。袖口が広がらぬこの服ならば、食べ歩きも楽なはずで。
「お借りした白い衣装に、零さないようにだけは気をつけねばなりませんね」
 ふ、と微笑み草団子に齧りつく。喧騒の街を眺めながら一口、また一口と食べればあっという間に完食間近。次はぜんざいか、それともちまきか――迷う時間も、きっと食べ歩きの醍醐味!

「――あら、これは草団子かしら」
 ぴくりと鼻を動かす『新米の稲荷様』長月・イナリ(p3p008096)。朱色に金糸で牡丹が刺繍されたチャイナドレスに揺れるスカートを合わせた彼女は、その優れた嗅覚で甘味の香りを拾っていた。
「ねぇ、今の香りのお店を探してみない?」
 イナリは傍らの、彼女と瓜二つの姿の少女に問う。揃いの服を纏った狐の少女二人は、傍目にはきっと愛らしい双子の少女のよう。
「向こう側から歩いて来たようですし、あちらへ向かってみましょう」
「えぇ、そうね。あの香り、きっと美味しいはず!」
 姉妹というには少し固い言葉に頷き、人混みの中を進む。イナリは一人で歩くのは味気ないと、自身と瓜二つの外見の式神を使役していたのだった。
「それにしても、お祭りみたいで楽しそうな場所ね」
「えぇ、本当に賑やかですね」
 二人話に花を咲かせながら、幾度かの甘味の寄り道を経て目当ての屋台へと辿り着く。
「うん、これは大正解ね」
「それはよかった――あの、あれは?」
 草団子を頬張るイナリに式神が示したのは、工芸茶の屋台。
「あれはお湯を入れると花が咲くお茶ね。喉も乾いたし、飲みましょうか」
 愛らしい二人の少女がやってくれば、店員の口も軽やかになるもので。
「これは本当の花なの?」
「いや、花を茶葉で編んで――」
 屋台に身を乗り出し、その仕組みを聞く二人の尻尾は揃って揺れていて――道行く人は微笑ましく、それを見守っていた。

 袖の無い黒のチャイナ服から隆々とした二の腕を覗かせ、通りの中央を歩く一人の男。
「HAHAHA、チャイナタウンみたいなところだな!」
 豪快に笑う『人類最古の兵器』郷田 貴道(p3p000401)の両手には、串焼きの肉が大量。
「ちょいと風光明媚だが、こういうのも嫌いじゃないぜ! オリエンタルだか何だか知らないが、賑やかなのは大歓迎だ!」
 並ぶ屋台はシンプルで無骨で、どれも彼の性に合う。ならば、やる事は一つ。
「やっぱり男は、色気より食い気だよな! 久しぶりに食い歩くかな!」
 HAHAHA、と高らかに笑って食べて――そうすれば、そろそろ運動もしたくなるというのが郷田貴道という男の性で。
「ちょ、離して!」
「いいじゃん、女の子だけで歩くよりエスコート役がいれば安心だよ?」
 喧騒に混じって届いた不穏な声に目をやれば、どうやら不届き者がナンパに励んでいるようで。貴道は最後の肉を噛み千切り――
「ユー、エスコートにしてはスマートじゃないぜ?」
「アァ? 邪魔すんじゃね……」
 振り向いた輩の前で、束となった串を片手で握り潰し――
「そこのユー達は行きな、後はミーとコイツの時間だ」
 礼を言って駆けていく女子を見送り、折れた串をポケットに入れ拳を合わせ楽しげに笑う。
「まぁ、運が悪かったと思ってミーのオモチャになってくれHAHAHA!」
 顔面蒼白な輩の前で貴道は上着を脱ぎ、高く放り投げ――特別試合のゴングが鳴った。

「……?」
 叫び声と歓声に足を止める『うさぎのながみみ』ネーヴェ(p3p007199)。この先で催しがあるのだろうか。とはいえ野次めいたその声の方へと近付くのは、どうにも憚られて。けれど紅提灯が絶えた小道もまた怖いもので。
 白地に小さく赤い兎が描かれたアオザイをきゅっと握って、何処へ行こうかと困り果てたネーヴェの目の前には――淡いランプが燈った茶館。覗いた店内は、騒がしくはなさそうで。安息を求め、ネーヴェは扉を開く。
(よ、よかった……一息つけそう、です)
 穏やかな音楽が流れる店内に通されたネーヴェは、メニューを開き――おすすめ、の文字の横の写真へと目を止める。
「たぴおか……? 飲み物、です、よね?」
 黒い粒、この粒がたぴおかなるものだろうか。意を決し頼み、ほどなく届いたそれを太いストローで吸い上げ――

 ぽこん。

「……!?!?」
 流れ込んできたその物体を、思わず喉へと流し込む。
(か、固くは……ないのですね?)
 両手でグラスを眼前に掲げ、改めて見てみても、やはり正体は判らず。ならば、ともう一度ストローに口を付け、少しの抵抗の後口に飛び込んできたタピオカを、今度は恐る恐る噛み締め――その感触に、目を丸くする。
(弾力が、あるもの、なのですね)
 ほんのり甘いのは黒糖だろうか、噛めば噛むほど――これは癖になる。
 ネーヴェはしばし、その未知なる触感と無言で対話をし――すっかりタピオカの虜になるのだった。

成否

成功


第1章 第5節

グレイシア=オルトバーン(p3p000111)
勇者と生きる魔王
ルアナ・テルフォード(p3p000291)
魔王と生きる勇者

「……吾輩はどうやら、頭でも打ったのだろうか」
『知識の蒐集者』グレイシア=オルトバーン(p3p000111)は口元の髭を撫でると、ファーの付いたロングの羽織の胸元から煙管を取り出し――皺の滲むその手は、若い女の手に止められる。
「隣に女性が居るというのに煙管なんて、無作法よ」
 この街に燈る提灯よりもっと深く、濃い赤のドレスを纏った女。
『絶望を砕く者』ルアナ・テルフォード(p3p000291)は艶やかに笑うと、その煙管をグレイシアの胸元へと押し戻す。
(確かに吾輩はルアナに『おじさま、お出掛けしよう!』と言われたはずだったが……)
 誘いに乗ってこの世界へとやって来た筈が、気付けば目の前に居たのは自身を敵――『魔王』と認識した勇者の姿。一旦落ち着こうと煙管を取り出そうにも、その手を止められたのならそれも出来ず。
「この街は不思議ね、珍しい食べ物や街並みに」
「それで、殺すならこんな光景が良いとでも?」
 皮肉を込めて返せば、いいえと声が返ってくる。
「貴方を殺すのはいつでもできるもの。……こんな素敵な格好をしてるわけだし、ね?」
 くすくすと笑うルアナがくるりと回って見せれば、大きく開いた背中が眩しい。
 本来ならばとうの昔に首を掻き切っていたであろうこの男の困惑が見られれば――どれだけ胸の透くことだろうか。
「吾輩を殺す事よりも、此方の世界の食べ物に興味を示すとは……不思議なものだな」
 グレイシアは溜息をつくと、困ったように、けれど何か言いたげに眉を潜め――
「……まぁ、この世界の食べ物には吾輩も興味はある」
「……は?」
「混沌では見られない料理もあるだろう。未知の料理は、やはり気になるものだ」
 店の新作のヒントにもなるだろう、と付け加えたグレイシアの言葉にルアナも言葉を失う。随分と気の抜けた、あまりにも『人間』的なこの男の言葉に、目を丸くする外なく――けれどこの、ほんの少しの楽しさはなんだろうか。
(これは、私であって私でない――いえ、まさかね)
 今のルアナにとって敵であり、幼いルアナにとって慕うべき『おじさま』であるグレイシア。
「貴方、本当に『魔王』なの?……まぁいいわ」
 ほら、とルアナの差し出した手は、今度は胸元ではなく身体の前で掌を上に。
「……何のつもりだ?」
 先程いつでも殺せる、とまで言われればグレイシアが怪訝な顔をするのも当然で。
「あら、女性をエスコートするのは男性の嗜みでしょう?」
 返ってきた言葉に、今度はグレイシアが目を丸くする番。
(全くもって、突飛な言動はどの姿でも変わらないものだ――)
「殺す相手に対し、よくそんなことが言える物だ……」
「いいじゃない、お互い変な気も起こせないでしょう?」
 なるほど、互いに牽制になるならば――この申し出も悪くない。グレイシアは差し出された手を恭しく取り、一歩足を踏み出す。

 いつかは互いの血に染まるこの手も――今だけは、繋いだままで。

成否

成功


第1章 第6節

ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣

「すごいな、こんな雰囲気のところは初めてだ」
「ああ、本当に。不思議な光景だ」
『死力の聖剣』リゲル=アークライト(p3p000442)と『優心の恩寵』ポテト=アークライト(p3p000294)は、肩を寄せ合い街を見上げていた。辺りを歩く人々の、見慣れぬ異国の装いも相まってまさに居世界の様相で。
「この匂いは何だろう?」
「屋台があるみたいだし、きっとそこで売っている食べ物かな。食べた事がないというか、一味違っていて美味しそうだ」
 石段の方から漂ってくる香りに二人、食欲をそそられいざ行かん――と足を踏み出した瞬間。

「ちょっとそこのお二人さん! うちの店に寄って行ってちょうだい!」

 ――客引きに、二人仲良く捕まった。

「お待たせ、ポテト。似会うと思った物を選んでみたよ」
 貸衣装屋にて、意外にも乗り気になったのはポテトよりむしろリゲルの方で。自分に選ばせて欲しい、とポテトの服を選ぶ事を買って出ていた。
 愛する夫が自分の為に真剣に女性物を眺めるのは、少しむず痒く――その真剣な横顔も愛おしい。
「ん、これに着替えるのか? わかった、待っていてくれ」
 ポテトは受け取った服を手に、試着室へと向かう。普段なら選ばない真っ赤なそれを広げ、袖を通し――鏡に向きあい、ぴたりと固まる。
「リ、リゲル……」
 そっと扉から顔だけ出して夫の名を呼べば、「着られたかい?」と優しい笑顔を返される。
「そ、その……ど、どうだ?」
 恐る恐るポテトが扉から出れば――深いスリットの入った、赤に大きな牡丹の描かれたチャイナドレスを纏い、気恥ずかしげにスリットを抑えリゲルを見上げる。
「うん、思った通りだ」
 リゲルは満足気に頷くと、ポテトの抑えた手の横――牡丹の花へと手を伸ばす。
「普段が素朴な美しさの分、こうやって着飾るとまた魅力的だ」
「あ、有難う……その、えと、折角だしリゲルもここの服を着よう!」
 身に纏う赤と同じ色に頬を染めたポテトが選んだのは、リゲルらしい白と青の装い。
 着替えたリゲルはそっと跪き手を差し伸べると――
「では改めて、ポテト。少し大胆な、今日の君も素敵だよ」
 店員の黄色い声を背に、二人で街へと繰り出した。

「折角グルメが揃っているんだ、食べ歩きを楽しんでみよう」
「うん、どんなものがあるか凄く気になる」
 手を繋ぎ屋台を回れば、見慣れない食べ物に二人目移りするばかり。
「わ、すごい。もちもちだ!」
「うん、流石この街でブームになっているだけある。美味しいな」
 タピオカ入りのお茶を片手に、草団子にアツアツの小龍包にと楽しめば――あっという間に夜も更けていき。
「そろそろ戻ろうか、ポテト」
「ああ、そうだな――あ」
 家族にと買ったお茶を抱え、階段を降りようとした二人の目の前には、紅提灯と、灯りの海。
 また一つ新たな世界の思い出が出来た、と二人どちらからともなく繋ぐ手の指を絡め――階段を下りる足を、踏み出した。

成否

成功


第1章 第7節

リウィルディア=エスカ=ノルン(p3p006761)
叡智の娘
アリア・テリア(p3p007129)
いにしえと今の紡ぎ手

「リウィちゃん、もう着替えたー?」
「はいはい、大丈夫だよ」
『希望の紡ぎ手』アリア・テリア(p3p007129)の声に、『銀蒼討』リウィルディア=エスカ=ノルン(p3p006761)が返事をする。
「それじゃあ、せーの!」
 アリアの声に揃って試着室の扉を開ければ、赤い膝丈のチャイナドレスのアリアと、紺のアオザイのリウィルディア。
「うん、アリア。よく似合ってる」
「ありがと! リウィちゃんも似合うね……チャイナも見たかったなあ」
「い、いや、それは」
 アリアの無邪気な言葉に、リウィルディアの背筋につ、と汗が流れる。自前のチャイナドレスはあれど、それを着て街を歩くのは遠慮願いたいのだ。
「とにかくほら、行こう?」
 誤魔化すように立ち上がり歩いていくリウィルディアを、アリアは「待ってよー!」と小走りで追いかける。

「うわー、凄い人だね!」
 左右に屋台が立ち並ぶ通りは、人がごった返しており、気を抜いてしまえばはぐれてしまいそうで。
「わ、わ!」
「アリア、大丈夫? ほら、手」
 案の定人混みに流されそうになったアリアの手をリウィルディアが取ると、アリアは自身の空いた手を繋いだ手に重ねる。
「リウィちゃんの手、あったかいね~」
 アリアは心から幸せそうに笑っていて――リウィルディアも自然と釣られ、笑みが零れる。
(……あれ?)
 リウィルディアの笑みに、アリアの胸がほんの少し、鼓動を早くして。
(ちょっと、ドキドキしてきちゃった)
 きっとこれは、あたたかい手と人混みの暑さのせいで――
「ほらほら、こうしていたら食べ歩きも出来ないよ?」
「それは嫌だ! 行こ、リウィちゃん!」
 アリアは繋いだ手を引いて、人混みの中へと歩を進める。きょろきょろと目移りするアリアにリウィルディアもペースを合わせ、同じ歩幅でゆっくりと。
「あ、リンゴ飴がある! 私あれ食べたいなあ!」
 ふとアリアは道行く人の手にあるリンゴ飴に声をあげる。
 いいなあ、何処にあるんだろう? ときらきらした目で眺めた彼女は、まるで小さな子供のようで。吹き出すのを堪え、リウィルディアは周囲を見渡し――少し先に、それらしき屋台を見つける。
「あそこか。ふふっ、買ってあげないとね」
「やったあ、一番大きいの!」
 はいはい、とリンゴ飴を差し出せば、アリアは御礼にリウィルディアに食べたい物を買うのだと申し出る。
「そうだね、片手で持てる――ちょうどいい、あの草団子にしよう」
 はあい、と駆け出したアリアが買ってきた蒸したての草団子と、リンゴ飴を互いに頬張れば――美味しい、の声が重なり。
 紅提灯を見上げたリウィルディアの草団子は、一瞬の隙にアリアに横から齧りつかれる。
「あ、こらアリア!」
「ふふーんだ♪」
 リウィルディアの叱る顔すら、アリアにとっては楽しくて堪らなくて――
(もうちょっと一緒にいたいなあ)
 夜が終わらなければいいのに、そう紅提灯に願いを込めた。

成否

成功


第1章 第8節

スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士

 眼下に広がる紅提灯を見下ろす、茶館のテラス席。
 二人の少女が、鈴を転がすような声で楽し気に話に花を咲かせていた。
「見て見てサクラちゃん、あそこさっき通った道だよね?」
「本当だ、すごい人!」
 花の刺繍入りの淡いブルーのチャイナドレスを纏い、眼下の通りを指す『新たな道へ』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)。この街を彩る提灯と似た紅色のチャイナドレスを纏った『聖剣解放者』サクラ(p3p005004)も感嘆の声をあげる。
「ゲームの屋台も色々あるし……ご飯食べたら遊びに行かない? 金魚すくいとか珍しいしね」
「いいよ、あとで勝負だね!」
 負けないよ、と宣戦布告をするサクラも、受けて立つスティアも――深くスリットが入った脚に注意がいっていないのはご愛敬。天義生まれの二人にとって、その故郷の厳格さは緩和されたとて、この街の雑然とした賑わいは目新しく、否応なしに気分も高揚していた。
「お待たせしました、小籠包に桃饅頭、ちまきと特製スープでございます」
「わぁ!」
「小籠包だ~。食べてみたかったんだぁ!」
 冷めないうちに、と二人改めて冷たいお茶のグラスを高らかに打ち鳴らす。
「普段と違う物が食べれるっていうのは、外食の醍醐味だよね」
 目当ての小籠包にありついたスティアは、せいろに箸を伸ばそうとし――はっと周りを渡す。観察すると、どうやらレンゲに掬って皮を箸で破ってから食べるのが作法のようで、見よう見まねで頬張ってみる。
「美味しい! でもあつーい!」
 じゅわ、と口の中に広がる肉汁は、食べ方を誤れば大惨事ゆえ危機一髪。
「たまにはこうやってお店でご飯頂くのもいいよね。うーん、美味しい~」
 向かいのサクラも、同じく小籠包を頬張ると満面の笑みでちまきへと手を伸ばし――心中で、幸せをひしひしと噛み締める。
(スティアスペシャルじゃないのが安心できる!)
 あの料理では聞くはずのない、工事としか言いようのない音で作られる目の前の幼馴染特製のスペシャルすぎるボリュームの物でないことが、どれほど心の安寧を保つことか……!
(最近いっぱい食べさせられて体重が気になってて……)
 依頼で運動しているとはいえ、やはり年頃女子にとっては死活問題。ちまきを噛み締め、ごくりと飲み込むと――
「……サクラちゃん、なんだか失礼なこと考えてない?」
 じぃ、とスティアが物凄い目でこちらを見つめていた。
「な、何も失礼な事なんて考えてないよ!」
「んー、嘘ついてないー?」
 必死の思いで、サクラが今日もスティアちゃんと食事出来て幸せだなー、と白々しくスープを口に運べば――
「えへ、ならいいや! あとで白玉ぜんざいも食べよーっと」
 あっさり信じたスティアに、サクラは胸を撫で下ろすのだった。

 余談として。
 そういえば、と店員に尋ねた特製スープの中身が『フカヒレ』だったと知った時の二人の顔は――それはそれは、凄いものだった。

成否

成功


第1章 第9節

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽

(――ふむ)
 束の間の休息にと街へ足を踏み入れ、訪れたその店は、『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)ラダにとって中々『当たり』で。
(なるほどオリエンタル、海洋風だな)
 海洋からは程遠い熱砂の国で生まれ育った彼女は、どういうわけかこの手の装いを好んでおり。クローゼットに思いを馳せれば、海洋の浅瀬のごときエメラルドグリーンのシャツ、靴と揃いの黒の水着、白のワンピースはシフォンのスカートと重ね、トランク片手に小旅行にも出かけていたのも記憶の片隅に。
ならば今回は赤か金か、膝丈の二着を手に取り――
「実際着てみてから決めるか!」
 折角こんなにも種類があるのだから、迷うのも楽しいはず。そうしてひとまず、赤いそれに着替え――鏡越しに見た、己の脚に目を留める。
(……最初にこの手の服を見たのは、仕事先でだったな)
 幾度となく銃口を向けた、毒の華のような女。敵ながら、脚の美しさには惚れ惚れしたもので――もう会うことはないが、張り合おうという気には到底なれないなと頷いて。
 しばらくの後着替えた赤いドレスで街へと繰り出す前に、ふと店主にお勧めの店を問うてみる。
「そうだねぇ、やっぱり小籠包……あ、お嬢さん珍味は好きかい?」
 物によるな、と返してみれば、店主はにい、と笑ってみせる。
「蠍の素揚げさ、中々イケるんだよ」
「それは……やめておくよ」

 ――食べたら毒にやられそうな蠍なんて、もうこりごりだからね。

成否

成功


第1章 第10節

秋月 誠吾(p3p007127)
虹を心にかけて
ソフィリア・ラングレイ(p3p007527)
地上に虹をかけて

(あー、元の世界の台湾がこんな感じだったか……?)
 紅提灯を見上げ、記憶の端を掘り起こすのは紺色のチャイナ服を着た『虹を心にかけて』秋月 誠吾(p3p007127)。突然召喚されてからというものの、出会うのは物語の中で読んだような景色ばかりで。この場所は、確かに異世界であれど、そう違和感は――あった。
 こんなに静かに考え事が出来るなど、おかしい。
 最近はゆっくり考え事をする暇もないほどに、賑やかな声に悩まされていたはずで――
「あ」
「誠吾さーん! 置いていかないでください!」
 ぱたぱたと小走りで人の間を縫って駆け寄る『地上に虹をかけて』ソフィリア・ラングレイ(p3p007527)の姿と声に、違和感の正体に合点がいく。紅白の愛らしいシルエットのチャイナドレスに身を包んだ彼女は、髪飾りの花を二つ揺らし大げさに肩で息をし、不満を訴えたかと思えばぱぁ、と明るい顔で通り過ぎた場所を示す。
「あそこ、お店の前で何か作ってるのです!」
 なんなのでしょう、きっと美味しい料理に違いないのです――顎に手をやりうんうん唸る姿は、至極真剣で。
「はーーー……」
 一瞬、ほんの一瞬だけであるが――連れが迷子になったかと心配したものの、蓋を開けてみれば食い気のあまり立ち止まっただけの事実に、深く、ゆっくりと息を吐き出す誠吾の気も知らず、目の前のソフィリアは首を傾げるばかり。
「誠吾さん、どうしたのです?」
「あの、な。折角可愛い格好してるんだから『どうですか?』って聞いてくるとかな。
そーゆーのはないのかお前」
 こんなことを男に説明させるな、と喉元まで出かかった言葉は寸での所で飲み込んで。そう訴えれば、おぉ、と納得の声が返ってくる。
「んー…どうですか?」
 くるり、一周すればスカートはふわりと広がり――ソフィリア渾身の『可愛い』ポーズでどやぁ、と誠吾にアピールを。そのポーズは誠吾から見れば『何とかライダーの変身』のようにも見えて微笑ましい、のだが。いかんせん、どうにもこれは本気で可愛いと思った自分もいて。
「はいはい可愛い可愛い。……ああ、あそこで作ってるのは小籠包か」
「ぶー、自分で聞いておいて適当なのです! ……小籠包?」
 誤魔化すように茶化して感想を述べた誠吾に不満は述べるものの、結局すぐに食い気が勝ってしまうのがソフィリアというもので。あっさりと不満を忘れたソフィリアは、もう食べ物センサーまっしぐら。
「引き肉を包んだ蒸し物だな。奢ってやるから、火傷しないように気をつけろよ?」
「美味しそうなのです! わーい、ありがとうなのです!」
 誠吾さん優しいのです、と笑うソフィリアの頭を乱雑に撫で――今度は勝手に離れないようにと、手を引いて歩く。

「あつーい!」
「だから気をつけろって言っただろうが……」
「酷いです! 鬼! 悪魔ー!」

 ――二人が肉汁の熱さに大騒ぎするのは、この少し後の出来事。

成否

成功


第1章 第11節

ミディーセラ・ドナム・ゾーンブルク(p3p003593)
キールで乾杯

(これが『おりえんたる』……)
きょろきょろと辺りを見回す『キールで乾杯』ミディーセラ・ドナム・ゾーンブルク(p3p003593)。
(わたしもそれなりに永く生きてきましたけれど――不思議な雰囲気ですわね)
 それなりに――というには永過ぎる時を生きるミディーセラにとっても、紅色の光で溢れる光景は新鮮なもので。混沌の何処でもないこの景色、夜がとても似合う街はただ気の向くまま歩くだけでも楽しめる。背面ではふわふわと大きな尻尾が揺れており、ご機嫌な様子が見てとれた。
(丁度いい服があって助かりました……尻尾が入らなかったら、困りましたもの)
 流石の観光地、貸衣装屋にはミディーセラのような尻尾にも不便の無い型も取り揃えていて。ぴんと来た真白なアオザイを選び、散策へと繰り出したのだった。
「さて、えぇと……こちらに行ってみましょうか」
 通りに着けば、土産物が並ぶ方へ――待ち人はきっと、土産話だけでは拗ねてしまうから。そうして一軒一軒、じっくり品定めをすれば、通りの端、老婆が営む店で運命の出会い。
「まぁ、これは……かわいらしい」
 二つ並んだ人形は、少し奇妙で、よく言えば愛嬌がある。ドレスの切れ端で作られた服を着たそれを買い、袋を手に賑わう通りで提灯を見上げ――こうして旅行してみるのもいいと思いつく。
(今度、誘ってみようかしら)
 土産話とこの人形と。その後に旅行へと誘ってみれば――どんな顔をするかしら?

成否

成功


第1章 第12節

竜胆・シオン(p3p000103)
木の上の白烏
クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者
アベリア・クォーツ・バルツァーレク(p3p004937)
願いの先
アオイ=アークライト(p3p005658)
機工技師

「すごーーーい! こんな世界もあるのね!」
 大胆にサイドと胸元が開いた藍色のチャイナドレスを纏い、『旋律を知る者』リア・クォーツ(p3p004937)は爛々と眼を輝かせる。話題のデザイナーが仕立てたその服は、平時であれば一瞬躊躇われるその露出でも、傍を歩くのが気心知れた面々であればひとつまみの羞恥心もすぐに消える。
(全く、うちのシスターと来たら……)
『真実穿つ銀弾』クロバ=ザ=ホロウメア(p3p000145)は、前を行くリアの姿に溜息をひとつ。兄貴分たるクロバは、頭を抱える外ない。
 それにしても、宣伝だからと普段の黒衣から黒と赤のチャイナ服に着替えてみれば――この軽さは落ち着かず、同じく何とも言い難い表情をする『機工技師』アオイ=アークライト(p3p005658)と目が合う。爽やかな青に、白の歯車が描かれたアオザイを着た彼は――何故か髪が腰下まで伸びていた。
「宣伝のためとかでこんな……アオザイ? を着せられるなんてな」
 遠い目をしたアオイが、店員の女性達に似合うからと女性物を着させられ――必死の抵抗の後、せめてと頼まれたウィッグを断れなかったのは先刻の事で。
「アオイ、チャイナドレスで歩けばよかったのにー……」
 淡いグリーンに小花の散るチャイナドレス(!)を着た『木の上の白烏』竜胆・シオン(p3p000103)の不満気な声に、アオイは冗談よせと力なく返す。
 バルツァーレク領の森の湖畔。静かに――時に子供達の声で騒がしいその修道院で育ったリアとそこに集うクロバ、アオイ、シオンの四人は、ひと時の休息を楽しんでいた。
「オリエンタル、中華ってやつか……ほらアオイ、飯でも食って元気出せ」
「ああ、まあなんか食べて気分を変えるか」
「レシピどんなん使ってんのかも気になるし、食いがてら見てみたいしな」
 クロバの慰めにアオイが気を取り直せば、鼻先をくすぐる香りに食欲もそそられる。
「沢山のご飯なお店がいっぱい……海洋っぽい……? そんなことない……?」
 ゆったりと話すシオンは、ふわぁ、と欠伸をする。
「この服はそれなりに涼しいし……後でどこかお昼寝できそうな場所とかないかな……」
 シオンにクロバとアオイがハーネスでも探すか、と思った瞬間――前を歩くリアがくるりと踵を返し、仁王立ちで人差し指をつきつける。
「ほら、アオイ! 兄上殿! もたもたしてんなよ、さっさと行くぞ!」
 それだけ言ってリアはまた前を向き、大股で歩を進め――
「シオーン! 寝ぼけてんじゃねーぞ!」
 半分夢の中のシオンに向き直り、思い切り声を張ると再び踵を返す。
「ってわかった、わかったからあんまり急かすな!」
「って急ぎ過ぎだって! はぐれちまうだろー! 食い物は逃げないぞーー!」
 一瞬の圧倒のち我に返ったクロバとアオイの声は空しく、リアの姿は消える。
「……? リアどこ行ったのー、早い……」
 寝ぼけ眼のシオンがアオイを饅頭と見間違え噛み付くのを横目に、クロバは最早頭痛すら憶え――妹分が転ばず、食べ過ぎて服がはち切れることのないよう願うしかなかった。

「……はぁ」
 駆け出したリアは、段々とその速度を落とし――ぴたりと立ち止まると、己の手首を顔に近付ける。深く鼻で息をすれば、汗に混じって淡い桜の香りが仄かにするだけ。
(……香水、ちょっと強いの付けてきたから潮の香り、しないよね)
 リアの身を蝕む、アルバニアの呪い――廃滅病。ミロワールの迷宮で受けたそれは、日に日に彼女を深く冷たい絶望の青へと誘っていた。幾度かの『救済』はあれど、あくまでそれは進行を抑えるだけのもので。
「……結局、あたしも女々しいものなのね」
 強がってみせても、胸の内には目を背け難い不安があって――今の自分はどんな旋律を奏でているのだろうかと思うと、こめかみが痛んだ。

「――なぁアオイ、シオン」
 どうせその辺の屋台で見つかるだろうと男三人並んで歩く中、口火を切ったのはクロバだった。
「俺ら、よくわからない集まりだけどさ。それでも家族……みたいなものだよな」
 全てを語らずとも、その言葉の意味するところはひとつ。
 前を行くリアは、努めて明るく振る舞っていた。けれど、その身にかかる呪いが怖いはずないと、全員解り切っていることで。
「――あぁ、家族みたいなものだろ。だからこそ、絶対に助けるんだ」
 もう大事なものが、場所が崩れていくのは嫌だから。かつての後悔と無念を胸に、アオイも深く頷く。
「ん……リアも相当無理してるっぽいし、シスターと院の子供達の為にも……」
 シオンの脳裏に浮かぶのは、優しく、それでいてとんでもなく怖いシスターと、彼女を慕う子供達。その笑顔の為にも、リアを失うわけにはいかない。そして、何よりも――
「それに、俺だってリアにはいなくなってほしくないし……頑張らないと」
 ぎゅっと拳を握るシオンの目は、穏やかながらも確かに決意の炎が燃えていて。
「だから、あいつを呪いから解き放つぞ、必ず。隠れて辛そうな顔をされるのもあの妹分には似合わねぇさ」
 クロバの言葉に、アオイとシオンも顔を見合わせ――誰からともなく、拳を突き合わせる。
「…なんか、湿っぽくなっちゃったな」
 今日、今この瞬間だけはこの時間を楽しみたい。アオイが願えば、よく見知った後ろ姿が目に留まり――
「クロバ、リア捕まえてきてー……俺お腹空いたし休みたいから、アオイ食べる……」
「だーやめろ! 俺じゃなくて白玉ぜんざいを食え!」

(――あ) 
 聴き馴染みのある声と、うるさくも心地いい旋律がリアに届く。
(ま、とりあえず今はこの人達と、沢山遊んでおかないと、ね)
 諦めなんてしない。けれど、今この瞬間下を向いていたらきっと後悔する。だから、今は。
「遅い! ほら、次あっち見てみましょうよ! 行くぞ、お前たち~!」
 振り向いたリアは悪戯気に笑うと、三人の後ろに回り、その背中を押していった――

成否

成功


第1章 第13節

リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
ミエル・プラリネ(p3p007431)
新たなるレシピを求めて

 深紅老街の夜、盛りの頃。二人の女は、男達の目線を次々と奪っていた。
「こんなにステキな服を着せて貰えるなんて嬉しいっ」
 頭上に燈る紅色よりずっと燃える、情欲が籠った男達の視線。
 それに気付かない『特異運命座標』ミエル・プラリネ(p3p007431)は無邪気に笑う。白銀の髪を一つに纏めたシニヨンヘアは、彼女の青いうなじを晒し――解けた一筋の白銀が、同じく真白なチャイナドレスに落ちる。着心地を確かめるよう身体を捻り、柔らかな身体の曲線を見せれば――えへ、とミエルは頬を綻ばせる。
「何だか新鮮な気分ですぅ……それに、利香様もとってもお似合いですよぉ」
「まあ、特注ですもの。その気になればだれでも魅了してやるわ」
 この街の男達全員ね、と『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)は賛美に唇を三日月に吊り上げる。細めた瞳に、黒い眼球に満月のごとき黄金が浮かび。
 それは、彼女に『ヒト』でないものの血が混じる証。傍らのミエルも同じで――二人の夢魔は、戯れにこの街を訪れていたのだった。
「もう、あんまりはしゃいじゃ駄目よ? はぐれても探してあげないから」
 金の瞳を輝かせ辺りを見渡すミエルに、利香は呆れたように――それでいてどこか楽しげに言い放つ。
 ただ会話をしているだけだというのに、利香の身体からは甘やかな瘴気が零れて。彼女の豊かな肢体を惜しげもなく晒す深紅のドレスは、彼女の為に仕立てられたもので――自身の身体と、それを輝かせるドレスには誇りがあった。
「利香様、どうしましょう! わたし、気になるもの一杯!」
「はいはい、好きなもの食べちゃいなさい? 夜はまだ長いんだから」
「はぁい、何食べようかなぁ……あっ! カラフルな白玉ぜんざい……あれがいいですぅ!」
 利香の言う通り、夜はまだまだ盛りの頃。
「ん〜!美味しいっ! やっぱり甘味は最高ですぅ!」
 抹茶と餡の白玉ぜんざいを頬張ったミエルは、艶やかな夢魔でありながら愛らしい少女の様相で。
「利香様も一口如何ですかぁ?」
 と尋ねてみれば――利香の姿は隣の店に。
「あら、随分といい匂いのモノ売ってんじゃない♪」
 利香は蒸し器の前に腰掛けた無骨な男をじぃ、と見つめ――所在なく目を逸らされれば、その手応えにごくりと唾を嚥下する。
「いひひ、私にはその小籠包くれないかしら、ねえ、後でサービスしてあげるカラ♪」
 生憎と食べるには歳の行き過ぎた男は、趣味ではないにせよ――囁いてみる価値はあるもので。やる、と差し出されたその小龍包を、利香は男の目の前で、長い舌を見せつけて迎え入れる。
「んっ、ジューシーでおいしいわね……ん、う……いひひ♪」
 御馳走様、と舌なめずりをし、ミエルにもお裾分けをと思う、のだが。
「……はぇー……」
 ミエルはどうやら、話しかけるタイミングを逃したまま利香の様子に見とれていたようで。
 スプーン片手に、あんぐりと口を開け硬直したままだった――

成否

成功


第1章 第14節

寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)
秋縛

「じゃじゃーん。ね、見て見てしーちゃん、かわいいでしょ?」
「あーうん似合って……え?」
『大号令の体現者』秋宮・史之(p3p002233)は、椅子に座りぼんやりと辺りを見渡する。深い緑に花模様の入った上着に白のパンツ、頭に帽子を頭に乗せこの街らしく着飾った彼は――幼馴染の衣装選びで待たされ早数十分。ようやく決まったらしい声に、史之は同意の言葉を雑に紡ぎながら顔を上げ――目を丸くする。
「なんでそれにしたのカンちゃん……」
 試着室から出た『今は休ませて』冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)は、赤地に小花が散るそれはもう短い丈のドレスに、フリルのあしらわれたエプロンを合わせた愛らしい『少女』の姿で。史之の心のパンドラが、ぱりんと割れる音がする。
「なんでジト目なのしーちゃん、お店の人が僕に似合うのを選んでくれたんだよ?」
 すっごく時間はかかったけどね、と一回転すれば――ああ、サイドのスリットは危険水域。
「似合ってるよ! 似合ってるけどさあ……どーかと思う」
「えー、僕はかみさまだよ? どっちだって似合うでしょ?」
 確かに睦月に似合っているのも確かで――それでもやはり「かわいい」とは手放しに褒められず。
「俺は年下は論外だからね、カンちゃん」
 なけなしの抵抗をする外ない史之だが、主導権は睦月の方で――二人、街の散策へと繰り出した。

「ふふ、小さい頃を思い出すよ」
 混沌に来るずっと前、まだ幼い頃――こうして祭りに行ったのは遠い記憶。
「はぐれないように、しーちゃんが手を繋いで歩いてくれたね……ねえねえ、手、つないで?」
 楽しげにねだり、手を差し伸べる睦月は史之の記憶の中の幼き表情と変わらないまま。
「……手は繋がないよ」
「えー、なんでいやがるの?」
 むぅ、と頬を膨らませる睦月に「もうひとりで歩けるだろ」と目を逸らし史之が答える。
「俺の好みは年上なの」
 ああ、この場所を、華やかな衣装を着て愛しき麗しの彼女と歩ければ――

「あ、ねえ射的だ!」
 駆け出す睦月に、これ持っててと荷物を持たされた史之。横でその勝負を見守ろうとし――むせる。
「これって当たってもなかなか落ちないんだよね……よし」
 鉄砲を片手に、的により近くと身体を乗り出した睦月は完全に自分の服装を忘れていて、短いスカートは赤信号。
「やめなさい。今すぐ」
「えー、待って、わ! 外れた……」
 遊びを咎められたと思い込んでいるのか、睦月は聞く耳を持たず――史之は溜息をつき、睦月の後ろへと周り鉄壁の構え。
「あー、全部外れ! ちぇー……どうしたのしーちゃん、怖い顔して」
 人の気も知らないこの幼馴染に、説教するのは後にして――ひとまず一度、腰を落ち着けようか。
ぐい、と睦月の手を引き史之は歩き出す。
「ほら行くよ」
「あいた、ひっぱらないで」
(――あ、手)
 結局こうして今も繋いでしまった手は、仕方ないから――少しだけ、引いていてあげよう。

成否

成功


第1章 第15節

ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)
黄昏夢廸
コレット・ロンバルド(p3p001192)
破竜巨神

「……」
黒地に赤い彼岸花が描かれた装いで歩く『黄昏夢廸』ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)は、手の中のカップに目を落とす。たぴおかドリンクなるこれは、未知の食感。
(餅を飲み物に入れるなんて不思――)
「えっこれ餅じゃないの!?」
「………え、これ餅じゃないのか?」
 衝撃の声を上げた眼前の少年の手には、自身と同じカップがあって――思わず漏れた言葉に、気恥ずかしく足取りを速める。
(まさか餅ではないとは……)
 衝撃を引きずりながら歩く彼の目に留まったのは、子供たちがしゃがんで集まる一件の屋台。覗き込むと、小さなプールに赤や黒の金魚が泳ぐ。
「金魚すくい、か。懐かしいな……」
 本当は経験もないけれど、そういう事を言ってみたくなる時もあるもので。店主に一回、と告げ受け取ったポイを左手で握り、いざ目標五匹。
 しかしポイを金魚の下に滑らせてもするりと逃げられ――衝撃で少し穴が開く始末。
(金魚すくい、っていうには分かるんだ。けど、けどさ!?)
 すぐ破れたポイに文句を言いながら、隅で動かない黒い金魚に狙いをつけ。
「よ、っと!」
 ちゃぷん、水面に浮かべて用意した容器に飛び込む黒い影は――結局、ランドウェラの唯一の収穫だった。
「全く、お前は鈍くさかったのかな」
 ビニール袋に入った金魚に嘆いてみれば、どこか愛着も湧いて来て。
 金魚はたぴおかを食べるのだろうか、そう思案していると――
「泥棒ー!」
 叫び声が、耳に入った。

 遡ること少し前。
 混雑を物ともせず、コレット・ロンバルド(p3p001192)は観光を楽しんでいる。何故なら、彼女は至って普通の少女に見えて――身長三メートルを超す『破壊神』なのだから、人混みなど何のその。
(私に似合うサイズ、よくあったわね……)
 深い――周囲の人々が目のやり場に困るスリットから伸びる脚。
 貸衣装屋に声を掛けられた時は、まさか自分に合うサイズはないと思ったが――返って来たのは「うちの店を舐めるんじゃないよ」という店主の誇らしい顔。あっという間に華やかな赤いチャイナドレスと、サイドで作った二つのシニヨンヘアの愛らしい姿に。
「さて、折角だからこの街ならではの物を沢山買うとしましょう」
 高身長の彼女には見えにくいこの人混み+露点という状況も、身に着いた捜索能力と優れた目効きにかかれば、心躍る宝探しにしかすぎず。
 翡翠の髪飾りに、魔除けらしい何かの木札に、美顔パックにと買いこみ――
「これ、頂けないかしら?」
 しゃがみ込み、目に留まった鳳凰の置物を買った時。

「泥棒ー!」

 慌てた声が目に入り、振り向けば何やら覆面の男が走ってくるではないか。
(――目障りね)

 瞬間、コレットは立ち上がり助走を付け――彼女にとっては至って普通の、しかし恐ろしい威力の飛び蹴りを喰らわせる。

 その様子を見ていたランドウェラは、後にこう語る。
 ――あの日僕は、赤い流星を見た、と。

成否

成功

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