PandoraPartyProject

シナリオ詳細

誠実なる白

完了

参加者 : 29 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●妖精伝承
 フェアリーテイルという言葉がある。妖精伝承とも呼ばれるそれは、ハーモニアの住まう深緑にてぽつぽつと耳にすることだろう。

 例えば、いつの間にか壊れた靴が直っていたとか。
 例えば、顔に落書きをされたとか。
 例えば、人間と歌い踊って交流したとか。

「本当に妖精なんているんだね。……いや、精霊もいるんだからいておかしくはないんだけれど」
 こんにちは、と机の上に乗った小人へ挨拶する『Blue Rose』シャルル(p3n000032)。小人は差し出された人差し指を握り返すと、一見恐ろしくも見える顔に笑みを浮かべてみせた。
 彼らは正確に言えば『精霊種』であるらしいが、その存在はこの混沌ではなく妖精郷《アルヴィオン》からやってきている。常に春だというその郷はどこにあるのかわからないが、この小人は混沌の気候が少し肌寒いようだった。
「寒いよね、わかるわかる」
 マフラーを巻いてやったシャルルは「それで?」とこの家に住まう里長の方を振り返った。幻想種である女性は若く見えるが、ずっと年齢を重ねているのだという。
「この小人たちと、交流をして頂きたいのです」
 この里にもフェアリーテイルは伝わっており、数百年に一度は彼らのような存在と交流を図っていたのだという。しかし最近の治安を鑑みて、何かがあった時のためにイレギュラーズたちにも同席していてほしいというのが主だった内容だ。
 しかしただいるだけというのも面白くはあるまい。妖精たちと交流もすれば少しでも有意義な時間になるだろうと言うことである。
「ええと……具体的にはどんなことを?」
「妖精伝承の通りに交流するのであれば、妖精の前で花占いをして頂くことになりますね」
 里長が持ってきたのは草の繊維で編まれた布に、何かの色素でも用いて文字を書いたもの。どうやらフェアリーテイルの内容らしい。独自の言葉で書いてあるようでシャルルには読めなかったが、代わりにと里長が声に出して読み上げる。
「……なるほど。妖精は人間の話を聞きたくて、しかも妖精の前で花占いをしたら願いが叶った人が多い、と」
 はい、と里長が頷く。花占いというのは妖精への話題提起で、願いが叶いやすくなるというのは妖精のお礼みたいなものかもしれない。
 振り返れば、マフラーに包まった小人が「何か話してくれるのか」と言わんばかりにシャルルをガン見している。なるほどこういうことか。
「……ボクだけだと何かあった時が大変だろうし、もう少しイレギュラーズを連れてこようか」
「お願いします。けれど、あまり多すぎると妖精たちが驚いてしまいますので」
 臆病な子たちなのだという言葉に頷き、シャルルはローレットへ一時帰還したのだった。

GMコメント

●すること
 妖精たちと話し、花占いをする

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●【会話】
 妖精たちとお話しします。彼らは混沌でのお話が大好きです。
 自分の冒険譚、元の世界の話、普段はどんなことをしている……恋バナなども喜ばれるかもしれませんね。
 今日はこんなことを占いたいと言うと話に食いついてきます。

●【花占】
 花占いをします。自分の願いに対して『叶う』か『叶わない』かを花弁を1枚抜くごとに唱え、最後の1枚が結果となるやつです。
 こちらでは妖精との対話ではなく、自らの願いに対しての心情や結果に対して描写します。

●ロケーション
 花畑です。マーガレットの花が咲き乱れ、日なたは暖かいでしょう。穏やかな気候で、モンスターとかは出ません。
 ちらほら幻想種と小人が交流する様子が見られます。

●妖精
 30cm程度の姿をした小人。顔に皺の寄ったおじさんの姿をしていますが、話してみればそんなに怖くないはずです。
 その風体とは裏腹に憶病ですが、人間の話には大変興味があります。寒いのはちょっと苦手みたいです。

●注意事項
 本シナリオはイベントシナリオです。軽めの描写となりますこと、全員の描写をお約束できない事をご了承ください。
 アドリブの可否に関して、プレイングにアドリブ不可と明記がなければアドリブが入るものと思ってください。
 同行者、あるいはグループタグは忘れずにお願い致します。

●ご挨拶
 愁と申します。
 今回は花占いで交流を図る場へ皆さんをご招待。有事の際には対処して頂くようなOPですが、そもそも有事とか起こらないです。イベシナですし。
 今回は妖精と話すか、花占いをするかはっきり分けることを特にお勧めします。注意事項にも記載した通り軽めの描写となりますので、どちらも書いてある場合は片方のみしか描写しない可能性が高いです。
 ご縁がございましたら、よろしくお願い致します。

  • 誠実なる白完了
  • GM名
  • 種別イベント
  • 難易度VERYEASY
  • 冒険終了日時2020年03月15日 22時05分
  • 参加人数29/30人
  • 相談7日
  • 参加費50RC

参加者 : 29 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(29人)

クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者
ヨタカ・アストラルノヴァ(p3p000155)
楔断ちし者
ドラマ・ゲツク(p3p000172)
蒼剣の弟子
ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)
虹色
チック・シュテル(p3p000932)
赤翡翠
古木・文(p3p001262)
文具屋
アリス(p3p002021)
オーラムレジーナ
フルール プリュニエ(p3p002501)
夢語る李花
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
ラクリマ・イース(p3p004247)
白き歌
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
大樹の精霊
Tricky・Stars(p3p004734)
二人一役
天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
ペッカート・D・パッツィーア(p3p005201)
極夜
ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)
奈落の虹
アルメリア・イーグルトン(p3p006810)
緑雷の魔女
イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)
キラキラを守って
ペルレ=ガリュー(p3p007180)
旋律を集めて
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
惑(p3p007702)
かげらう
夏川・初季(p3p007835)
星さがし
ネイアラ・セレナータ(p3p007915)
ベリーダンサー
角灯(p3p008045)
ぐるぐるしてる
長月・イナリ(p3p008096)
狐です
築柴 雨月(p3p008143)
夜の涙
メーコ・メープル(p3p008206)
ふわふわめぇめぇ

リプレイ

●YES or NO?
 色々力説してみるけれど、つまるところ言いたいのは──。
「珠緒さん、花占いしましょ!」
 占いは想いの火種を燃え上がらせる儀式らしい蛍に、珠緒は勿論と頷いて花を取る。蛍の願いはこの恋において、更に1歩を踏み出す勇気を持てるかと言うことで。
 叶うのなら、素直な想いを今以上に珠緒へ預けたい。
 叶わないのなら、叶うように心と想いを強く深く育てていきたい、と。
「珠緒もお手伝いしたくはあるのですが、じっくりお待ちすべきかとも思えます」
 自分へ向けられるものだから、という理由もあるし──何よりどちらになっても珠緒としては嬉しいから。
「では珠緒は……ずっと先のことを占ってみましょう」
 世界を救った、その先。蛍を育てた人々へお礼を言いに彼女の世界へ向かえるかどうか。
 珠緒が元居た世界では『桜咲』の使命を終えている。だから、行くのなら蛍の世界が良いのだ。
 もちろん世界救済は前提だ。そうでなければ共にあれないのだから。
 さあ、彼女らの願う結果はどうなるか。
 妖精へ自己紹介した雨月は、立派な医者になれるだろうかと花へ手を伸ばす。
「俺、イレギュラーズになったばかりで、不安になっちゃったんだ」
 妖精が興味深げに彼を見上げ、雨月は苦笑を浮かべた。
 イレギュラーズは強くて、真っ直ぐな意思を持っている者が多い。周りがしっかりしていればいるほど、自分に自信をなくしてしまって。
「……ダメだね、ウジウジしてちゃ」
 ぷちり。花弁で占いながら雨月は呟く。抱くべきは希望ではなく決意。
 いつか絶対、患者さんの支えになれる医者になってみせるのだ。
(俺の願い事……小さなものを合わせると沢山あるのですが)
 ラクリマは花を手に取り妖精を見下ろす。彼らはラクリマがどんな願いを口にするのかと待っているようだ。
「……これから自分が何を目指し、どう進んでいくのか見えるようになってほしいという事でしょうか」
 未来を後回しにしている自覚はある。今がただただ、精一杯で。
 目標が見つかったら。少しでも決まったら。そうすれば少しは将来というものも見えてくるのだろうか。
(混沌にも花占いが……しかも妖精の前で行う、なんて素敵な文化があるんですね)
 より良い魔女に近づけるかと花弁を抜いていく初季。叶うと結果で出れば、例え己の鍛錬次第だとわかっていても嬉しくなる。
「妖精のいる国で占いに興じるなんて、まるで物語の魔女のようですね」
 どんな物語なのだろう、と興味を持つ妖精たちへ微笑みかけ、初季はその口を開く。
 ──ああ、まるで夢みたい。
 その一方で。
「花占い? 俺は別に占うことなんてないんだけどなぁ」
「右に同じく」
 代わり番こに告げる虚と稔に妖精はショック顔。それに今度は2人が──実質1人だけれど──慌てる。悲しい顔をさせたかった訳ではないのだ。
「あ、ごめん! うそうそ! 恋愛運とか超気になる!」
 そう告げた虚が花を手に持つ。その運勢は──何故なのか、何度試しても良くならなかった。

「そ、の……俺の番……大切な人について占いたくって……」
 本人には内緒で来たヨタカ。だって、占う内容を知られたら恥ずかしい。嗚呼、などと思えば頬が熱くなってから。
 愛をヨタカに教え、与えてくれた人。小鳥は小鳥だと可愛がってくれる人。
(結果がどうなるか……少し恐いけど……良い結果なら……順調よく歩めばいい。
 悪い結果なら……どうすればよくなるか考えればいいだけだ……)
 全ては彼と──この世界で一緒に歩いていくために。
 願いごと、とドラマは目を伏せる。
(この世界の、この世界以外も含めた叡智を収集したい。深緑の外の世界に旅に出た私の、私だけの物語を書きたい)
 それがドラマの願ってきたこと『だった』。
 けれど今はどうか。脳裏に、明確にここに居ない「誰か」の顔が思い浮かぶのは。この、想いは。
 ──花占いに託して良い願いなのだろうか。
(私には、分からない)
 そんなドラマの葛藤とは裏腹に、彼女の指は花弁を抜いていた。
「ワタシがこの先も1人だったとしても、幸せな歌を歌っていられるでしょうか〜?」
 演奏を日常とするペルレにとって、それはとても大切なこと。
 花と妖精に興奮しまくりだったペルレは、花を摘もうとして悲しげな顔をする。妖精たちが育てたであろう花を摘んでしまったら、悲しいし痛い気持ちになるかも。とてもとても好みな風景だから尚更。
 けれど大丈夫だと頷く妖精たちを見て花占いを終えたペルレは、お礼にと自身の村に伝わる歌を聞かせたのだった。
 自己紹介をして指を差し出したチックは、握り返されて小さく笑みを浮かべる。
 妖精と会話をするなんて、まるで絵本の登場人物になったよう。
「おれは……舞台で、歌を……奏でたんだ」
 幻想で手伝ったサーカスでは空中ブランコや動物たちのショー。ドキドキすることがいっぱいで。そんな中でチックは暖かな旋律を歌ったのだ。
「良ければ……その時の、曲。聞いて……ほしい」
 チックは妖精たちの反応を見て、すぅと息を吸い込んだ。
「ねぇねぇ、ミーナおねーさん。花で占うって素敵ね」
「私もただの人間だった頃は、たまにはいいものだと思っていたさ」
 フルールの言葉に花へ視線を落とすミーナ。今となっては残酷なものだと感じてしまうけれど、隣の彼女はそうでもないようだ。
「ミーナおねーさんはどんな願いを持っているの? 願いって夢のようなものでしょう?」
「それを現実にする事ができるかどうかが、違いだけどな」
 ミーナは口にすべきでないと自らの願いを語らない。けれどフルールは聞いてほしいのだと言うように自らのそれを口に出した。
「私の願いはね、『誰もが争いをやめる世の中になって欲しい』よ。……それとね。愛されたい」
 愛してくれるのなら、何者だって構わない。フルールはその相手に全てを捧げるだろうと予感していた。
 だって、愛に飢えているの。
「さぁ、この願いは叶うのかしら、それとも叶わないのかしら?」
 占ってみましょうと花弁を抜き出したフルールを視界に入れ、ミーナは心の内で呟く。
(お前の願いは。少し違う形かもしれないが、私が叶える)
 ──私は、愛されたいと願う者に愛を与える死神なのだから。


●Conversation
 ちゃんと喋れるだろうか、と心配していた角灯は妖精を見て目をまん丸くした。
「小さいおじさん、だ!」
 心配の種はどこかへ逃げてしまったようで、角灯は拾われっこなことや母が優しくて厳しいこと、元の世界のことなどを話し始める。なんだ、話のネタなんていくらでもあるじゃないか。
 妖精も聞き上手。相槌がどんどん話を広げるから──ついつい、沢山話してしまうのだ。
「僕は色んな文房具を売る仕事をしているよ」
 文の文房具という言葉に興味を持った妖精たち。彼らは字を書かないのかもしれない。ただの物でさえも、彼らにとっては珍しいということか。
(可愛いな)
 敬意よりもそんな印象が来てしまって。文はニコニコしながら不思議なガラスペンの話やインクの調合の話を彼らへ聞かせた。
 一方のヴァイスも日常のことを妖精へ話す。庭の植物の手入れをして、10日に1度ほどローレットから依頼を受けて。
「妖精さんたちの日常はどうなのかしら」
 聞いてみたいわ、と手を合わせるヴァイス。妖精たちの話してくれる内容は、似ているものもあれば全く異なる習慣もあるようだ。
「……そういえば、占いができるのだったかしら」
 ヴァイスがふと思い出せば、妖精が花を1輪持ってくる。それを受け取って、ヴァイスはそっと目を伏せた。
(……友達に、ちゃんと想いを伝えれたらいいのだけれどね)
 自身の友情運は、如何程か。
「イレギュラーズになる前はボク、スラム街で生活してたんだ」
 生きるのに厳しい場所だよ、とヒィロは妖精たちへ教える。いつもお腹がぺこぺこで、同じ風景に独りきり。味のあるものを食べられるだけで嬉しかった、そんな日々だ。
(昔の生活の事、たまに教えてくれるよね)
 美咲はヒィロの話を聞きながら思う。今とは随分違う生活で、ここまで来るのには彼女の勇気ある1歩があったのだろうと。運も彼女に味方しただろうが、それだけでは到底来られない場所まで彼女は来ているのだと。
「だからね、美咲さんと一緒にこうして色んな風景見て回って、美味しいものいーっぱい食べて、美咲さんの温もりを感じていられる今の幸せが、この先もずっとずーっと続いてほしいの! 占えるかな?」
 もちろんと頷く妖精。ヒィロと美咲が揃っている時点で不安視しようもないのだが、より確かなものが欲しいのだ。
 美咲が妖精に声をかけると、不思議そうに彼らが彼女を向く。
「私はね、自分の幸せを皆に広げていこうって子が幸せを掴めないなんて、あっちゃいけないと思うの」
 ヒィロはかつての自身のような姿を見捨てたくないと深緑でも鉄帝でも奮闘していた。だから尚更、願う。彼女が幸せであれと。
 妖精は美咲の言葉に応えるように、怖い顔へにっこりと笑顔を浮かべた。
 花畑で輪になり座ったイーハトーヴとシャルル、妖精。イーハトーヴは戦いの勉強中なのだと告げる。
 また戦うなんて思いもしなかった。そう苦笑した彼は、けれど頑張りたいという思いを伝えたいと言うように真剣な瞳で妖精を見た。
「シャルル嬢にはね、この世界のきらきらをいっぱい見せてもらったんだ」
「見つけたのはイーハトーヴ自身だよ」
 何もしていないと言う彼女。けれど、彼の『慈しむ気持ち』を変ではないと言ってくれたのは彼女だ。それに──。
「君の抱負が、花火作りの日に俺の背中を押してくれたんだよ」
 キョトンと目を瞬かせるシャルル。イーハトーヴは「ありがとう」と小さく笑いながら告げて。
 ──ねえ、次はシャルル嬢のお話も聞きたいな。

 惑が探偵の助手をしているのだと告げると、飴を抱えた妖精たちは不思議そうに首を傾げた。
「依頼された事を調査する仕事なんよ」
 とは言ってもお茶汲みや調査の手伝い程度だが、と苦笑する惑。けれど普段はすぐ揶揄ってくる先生が仕事で真面目な顔をしている姿はとても好きだ。
「頼りになるし好きやねん。あっ、も、勿論友達としてな!? ほんまに!」
 慌てた惑はすっかり占う内容を忘れてしまって。代わりに妖精と差し入れの内容を考えることとなった。
「冒険譚か……冒険譚……」
 イナリは必死に考える。期待の眼差しが痛いのだが、あいにく彼女の冒険譚はこれからと言っても過言でない。そちらは上手く誤魔化して、稲荷は早々に話題を切り替えることとした。
「妖精さん達ってお米食べるのかしら? 食べるなら、私、こんな事が出来るのよ!」
 意識を集中させると彼女の周囲にむくむくと植物が育ち始める。驚く妖精たちを飲み込んで、それは黄金色の稲となった。
「あれはアルティオ=エルムから夢の都へ徒歩で砂漠を越えていた時のこと──」
 ワクワクとした表情で周りに寄ってくる妖精たちを見ながらネイアラは語り始める。
 移動の最中に突如現れたサンドワーム。その頃ローレットはなく、旅人たちも己のことで手一杯。赤の他人を手助けするような者は稀だった頃。あわやなところをネイアラは女傭兵に助けられたのだ。
 これまでお酌と舞いで各地を転々と渡り歩き、他者と一夜を共にしたネイアラの千夜一夜物語。それはとても、とても、昔の話。
 挨拶をしたウィリアムはその唇から冒険譚を紡ぎ始める。
 深緑を出て見たものは砂の大地、海という名の大きな大きな水たまりなどの様々な国。けれど最も印象深いものはと言えば、
「スイカだよね」
 スイカと言えばアレである。緑に縞模様で。割ると甘い果肉があるやつ。
「ちょっとした山みたいなスイカなんだ。割ろうとすると蔓を器用に動かして抵抗してきてね」
 そんなものがあるのかと驚く妖精にウィリアムはにっこり笑ってみせた。
「いい思い出だよ。美味しかったです」

 イレギュラーズになっての経験はアレクシアの内に沢山あるけれど、妖精たちが喜びそうなのは。
「前ね、とある魔導書を回収してきてくれって依頼を受けたの!」
 古代遺跡にあるというそれは、奥へたどり着くまでそれはもう困難があった。……と切り出せば妖精たちが前のめりになってアレクシアの話に聞き入る。
 待ち受けるのは落石、落とし穴と言った様々な罠。最深部に着いた頃の件ではすっかり妖精たちが引き込まれてしまっていた。
「ぶっちゃけて言うと俺って前の世界に好きなコがいたんだよ?」
 その言葉にほほうと聞き入る妖精たち。ギザ歯を見せた素敵な笑顔でペッカートは身分差による悲恋を語って聞かせる。ペッカートの姿はこの花畑において違和感を、……(強めの圧を感じた)……感じない。
 長いとも短いとも言える話を中略して。
「──そこでこれ! 花占いだ」
 花を手に取るペッカート。この世界に召喚されてくれるのなら。その霊魂ごと自らのものにするのだ。
 結果は妖精にもわからない。叶うという結果を掴むべく、ペッカートは花弁を摘んだ。
 クロバが語るのは幻想のサーカス事件から天義の騒乱、深緑、鉄帝とイレギュラーズたちが関わってきた大きな出来事。そこへ自らの世界についても話していると、妖精たちが何か違う話題を望むかのようにウズウズしている。
 勿論、今の話も楽しいけれど。
「コイバナ聞かせろ? まったく……その手の話が好きなのは人も妖精も変わらないんだな」
 肩を竦めたクロバは知人夫婦の話をしようとするも、そうじゃないと首を振られ。自らの話だと気付いてクロバは後頭部を掻いた。
(適当に美化して物語立てて話してやるか)
 銀髪の姫と黒髪の死神の物語。タイトルは──。
(驚いたわ、これで妖精に会うのは……3度目だったかしら)
 アルメリアは不思議そうに首を傾げながら妖精を観察する。小柄で髭の生えた男──ドワーフのような感じだろうか。
「私は外の国で冒険してるけど、基本的にはこの国の住人だから、そんなに変わったことも話せないんだけど……」
 だからこそ逆に、妖精伝承を聞いたことがある。姿を現さず、ひっそり物々交換を行う妖精たちの話だ。
 ──けれど、何故最近は接触が多いのだろう?
「お話を聴いて下さる妖精さん、この指とーまれ」
 アリスの指にぴとぴと、とくっつく妖精の手。とっておきの話を教えてしまおうか。でも少し恥ずかしいかも──なんて。
「そう云えば、あなたと出逢ったのも春だったわ」
「あら、恋バナを披露しちゃう?」
 視線を交わす2人。俄かに盛り上がる観衆(妖精)。
 それではお静かに。ここから先はひとりの少女と人形の戀物語だ。
 2人が出会ったのは噴水の前。アリスが絡まれているのを見てゼファーが助けに入ったのだ。
「あの朱色の槍でぽかっとやってくれちゃって」
「それで手を引いて駆け出したのよね。笑えちゃうぐらい、嘘みたいに聞こえる話でしょうけど」
 全部本当のことなのだ。2年も前のことだから、互いに若かったと言うべきか。
「此れ、英雄譚だったかしら?」
 アリスが首を傾げるけれど、これはこれで妖精たちのお気に召したらしい。
「ねえ、花占いをするとき皆は見届けてくれるかしら?」
 問えば妖精たちが喜んでと両拳を握る。2年越しの想いに相応しい花を見繕ってもらって、結果は2人と妖精だけの秘密。
 擽ったく暖かな幸せの予感は、此処に。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 叶う、叶わない、叶う、叶わない──皆様の願いが叶うことをお祈りしております。

 またのご縁がございましたら、よろしくお願い致します。

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