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シナリオ詳細

<Despair Blue>休息の島へようこそ!

完了

参加者 : 30 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●休息の島へようこそ……?
「ボクだ」
「ボクだね」
「……いやいや待って頭が追いつかない。誰アンタら」
 我か、とセルフツッコミして頭を抱える『Blue Rose』シャルル(p3n000032)。その両脇から同じ顔をした少女──シャルルが覗き込む。
「ちょっと大丈夫?」
「……大丈夫じゃなさそうだけど」
「……アンタらのせいで全然大丈夫じゃない」
 眉間を揉むシャルル。そう、これが『本物の』シャルルである。両脇の2人は偽物だ。
 どうしてこうなったか──それは少々時を遡ることになる。

●航海の途中
 『絶望の海』へと進出した海洋とイレギュラーズ。未知の広がる海域に体調を崩すものや、神経をすり減らすものも決して少なくない。どこだったか、いつだったか、なんだか凄く臭かった気もする。
 そんな折、イレギュラーズの前を行く船から連絡が来た。『島がある』と。
「安全なのか?」
 イレギュラーズの乗る船を操る操舵士は訝しげだったが、先鋒の船からは特段危険な何かは見つからないとのことだった。
 操舵士はイレギュラーズたちを振り返った。海に慣れている者、慣れていない者様々な集団だ。海洋軍以上に疲弊している者も見受けられる。
「……上陸してみよう。可能なら他の船へも連絡を」
 こうして一同は、そして連絡を受けた者たちは見つかった島へと進路を変えたのだった。

●休息の島へようこそ!
「……びっくりするほど普通というか、何というか」
 船のタラップを降りたシャルルは瞳を眇めた。
 砂浜。そして草むら。森。最も島自体はそこまで大きくなく、森というよりは林というか、木々くらいの規模である。当然無人島だが、動物なども見当たらないようだった。
 これを嵐の前の静けさと取るか、それとも安全地帯と取るか。
「船からあまり離れないでくれ。何かあった時に置いていくことになるからな」
 操舵士の言葉に頷き、シャルルは視線を巡らせる。しかしいくら見渡してもあるのは海と植物ばかりだった。
 ──と、思っていたのだが。
「……ん? 何アレ」
 シャルルが目を凝らした先にあるのは砂浜に、いや至る所に落ちている何か。近づくとそれはぶよぶよとした半液体のようだった。
「それは触らない方が良いんじゃ──」
 言いかける操舵士。シャルルもその言葉には完全同意で体を引こうとしたのだが、ひと足遅かった。
「……っっ!?!?!?」
 足に巻きつくぬめった感覚。思わず息を飲んだシャルルを余所に、巻きついたその半液体はすぐさま動き出す。
 体積を膨らませ、2つに分裂して──人の形へ。シャルルを頭のてっぺんからつま先まで、それこそ服のシワに至るまで再現したシャルル(偽物)たちは、目を開くと互いを見て、シャルル(本物)を見た。

「ボクだ」
「ボクだね」

 こうして、冒頭に戻る。


「……ええと。アンタたちは、自分のことをどう認識してんの?」
 まずはそこからだ、とシャルル(本物)は問う。罷り間違って入れ替わられるなどあってはならない。危険生物でないとは言い切れないのだから。
 警戒するシャルル(本物)と仲間たちに、シャルル(偽物)たちはゆっくり瞬き1つ。
「……いや、何って」
「アンタのコピーだよ」
「心配しなくても──」
「──この島からは出られないから大丈夫」
 双子かのように息ピッタリな2人。いや自分な時点でだいぶ奇妙ではあるが。
 聞けば、彼らはそういった生命体なのだそうだ。何かと接触することで形をコピーすることができる。しかし海を渡ることは出来ず、渡ろうとしても潮風で死んでしまうのだと。この島は奇跡的に潮風が弱いらしい。
「ガワしか真似られないから、戦ったらすぐ負けるよ」
「こんな生き物だけど死にたくはないから、優しくしてね」
 ね? と首を傾げるシャルル(偽物)たち。シャルル(本物)が勢いよく振り返り、帰りたいと目で訴える。
 だがしかし──タイミング悪くと言うべきか。連絡を受けた他の船も到着してしまった。この中で、たった1人のために船を動かすということは出来ないのである。

GMコメント

●休んでね。
 危なくない島が発見されました。住むことはどう見ても出来ませんが、不思議生物がいる他に脅威は無いようです。この海域は風が弱いです。
 のんびり過ごす他、自分の偽物とも過ごせます。

●不思議生物『トラン』
 仮の名前です。普段は黒っぽくぶよぶよしたスライムのようです。触れた他生命体になりきることができます。1体で2人に変化します。服は脱げません。
 ガワだけなので弱いです。優しくしてね。
 塩が苦手らしく、海の上は死の危険を感じるそうです。持ち帰り厳禁。
 自らを他者のコピーと自認しています。口調や一人称などはコピーしています。自分たちと島のことはまあまあ喋りますが、その他は無知です。外の世界を知らないので。

●NPC
 シャルルのみ登場可能です。すでに偽シャルルが2人います。精神ダメージを負っているので優しくしてあげて……。

●ご挨拶
 愁と申します。
 果たして休息になるのか。賑やかではありそうですね。
 ご縁がございましたら、よろしくお願い致します。

  • <Despair Blue>休息の島へようこそ!完了
  • GM名
  • 種別イベント
  • 難易度VERYEASY
  • 冒険終了日時2020年02月13日 22時10分
  • 参加人数30/30人
  • 相談7日
  • 参加費50RC

参加者 : 30 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(30人)

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)
波濤の盾
十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
防戦巧者
シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)
私のイノリ
シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)
蒼銀一閃
デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)
共にあれ
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
清水 洸汰(p3p000845)
理想のにーちゃん
チック・シュテル(p3p000932)
赤翡翠
アリス(p3p002021)
オーラムレジーナ
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
ディバイン・シールド
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
ミディーセラ・ドナム・ゾーンブルク(p3p003593)
キールで乾杯
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
メイメイ・ルー(p3p004460)
祈りと誓いと
Tricky・Stars(p3p004734)
二人一役
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
御天道・タント(p3p006204)
きらめけ!ぼくらの
プラック・クラケーン(p3p006804)
昔日の青年
庚(p3p007370)
宙狐
カンベエ(p3p007540)
大号令に続きし者
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
黒影 鬼灯(p3p007949)
やさしき愛妻家

リプレイ

●トランという生き物
(絶望の青にはこの島のような場所もあるのですね)
 ヘイゼルの興味を引くものは2つ。この島と、謎生物トラン。今は2人の偽ヘイゼルとなっている。
「普段の自分では見えない場所も見れるので新鮮ですね」
 2人の周りをくるくると回る本物ヘイゼル。気になるのは体に掘られたタトゥー、もとい軍用魔紋。背中側はなかなか確認しづらいのである。
「ですので拝見させて頂きたいのですが」
 ヘイゼルの言葉に偽2人がどことなく引いている──が、ヘイゼルの好奇心を前としては、逃げの1手となり得なかった。
「うわ、ホントにそっくりさんが2人……すごく変な気分」
「並んで同じ動きをしていただくと、特殊な映像のようですね」
 複雑そうな蛍と、同じ舞の動きをしてもらう珠緒。蛍は偽物たちへ『眼鏡をはずすな』と厳命して珠緒たちを振り返る。
 好きな人が3人もいる。自分の偽物は気味が悪いが、これは至福であった。至福ついでに皆でにこってしてほしい。
「にこっと……はい」
 偽物たちと素早く打ち合わせ、少しずつ違う笑みを浮かべる珠緒たち。

 ほたるに こうかは ばつぐんだ!

 危うく天国を目にするところだった蛍は、どうにか現実へ戻ってくるとトランたちへ『この場を一休みの場とさせてもらえないか掛け合った。
「今後訪れる方が増えるにしても、危害を加えないような注意は徹底したいですね」
 やはりそういう危惧はしているらしい。珠緒は当然だと頷いた。うまく『双方よし』な形にしたいものだが、どうだろうか。
 蛍はそういえばと頤に手を当てる。ここには彼らしかいないようだが、食事などはどうしているのだろう。
「貴方達、どうやってここで暮らしてるの?」
 この島だけでなく、この生き物も謎ばかり。まずはそこから共生の道を探す必要がありそうだ。
「ホントにボクそっくり!」
 偽物をしげしげと眺めるヒィロの傍ら、まだスライム状のトランを美咲は観察する。瞳こそないが、漆黒の玉虫色といい勝負。まさか──。
「ってうはーー!」
 3人のヒィロに抱きつかれ、もふもふに沈んだ美咲。
 もふもふとても気持ちいい。危険はなさそうだし、警戒はしなくても良さそうだもふもふ。もふもふ。
 思考がもふもふに埋め尽くされ陥落した美咲。そんな彼女へヒィロは『本物のボクはどれでしょークイズ』しようと言って反対側を向かせた。
 3人で顔を付き合わせてこそこそこそ。いいよ、と言われて振り向いた美咲の前には三者三様のヒィロがいた。当たり前だがわからない。

 ウィンクしてサムズアップするヒィロか。
 両手を合わせて目を輝かせるヒィロか。
 ニコニコダブルピースするヒィロか。

(……見定めてみようか)
 彼女の瞳が色彩を変える──その瞬間、持ち上がった手が本物のヒィロを指差した。
「えぇっ、なんでわかっちゃったの!?」
 目を丸くするヒィロ。擬態自体は完璧だったが、反応までは擬態できていなかったと告げると、彼女は納得したように頷く。
「あー、初めて見たらビックリしちゃうもんね」
 こればっかりは本物の特権、ということだ。
(私も、真似っこされるの、かな……)
 恐る恐るトランへ触れるメイメイは、むくむくと膨れて自らの形をとったトランに目を丸くする。まるで鏡に写したかのようだ。
「わ、わ……すごい」
「皆さんが……いなくなると、」
「わたしたちも、元通り……ですけれど」
 今だけ、トランは『誰か』になれる。逆に言えば誰かになるのはこれっきりかもしれない。
 そこに少しの寂しさを感じながら、メイメイは島の散策へと2人を誘った。
(お友達に、なれたら嬉しいな、なんて)

「俺がいっぱいいるな? 飛べるのか?」
 カイトの言葉に首を振る偽物たち。彼の体に染み付いた潮の香りは問題ないらしい。ならばとカイトは鷹の姿になり、2人を空へ誘う。
「元の姿の方が小さいんじゃないか?」
「……い、いやなんか羽毛に絡まったら飛びにくそうでな?」
 さもありなん、偽物たちはそのままの姿で変わりばんこにカイトの背へ。飛びながらカイトが地上を見下ろすと、水浴びに良さそうな池や止まるのに丁度良い大きな木が見えた。
「俺がいっぱい……すげーな。色々と圧巻だぜ」
 プラックたちは互いをしげしげと見る。鼻はもう少し高かったような。髭ももうちょい太かったような。本当に丸コピなのだろうか?
「……まぁ、良いか。折角だし遊ぼうぜ!」
 短い期間でも、ともに遊べば友達だ。そのためにも限られた時間でとにかく沢山遊ばねば!
 自分の真似をして海がダメでは話にならないのでは──そう思うエイヴァンは、しかし折角だからと偽エイヴァンたちと輪になって座る。島に長居するわけでもないから、彼らの生態的な話を聞いてみようか。
「記憶とかのコピーもできないのか?」
 その結果によりどうこうするわけではなかったが、彼らは首を横に振った。記憶はあくまで自分のものらしい。
「ならこう、理想の体型に変身することとかはできないのか?」
 偽者の姿を見ると思うのだ。……やっぱり地味に脂肪がついてきたな、と。
「ドキッ! 妾だらけの大サッカー大会の開幕なのじゃ!」
 なのじゃなのじゃと盛り上がる大量のデイジーたち。本当にサッカーができそうであるが──1人足りない。見渡せば見るからに疲労の濃い表情をしたシャルルがいる。
「シャルル、妾たちと一緒に遊ぶのじゃー」
 手を繋いで輪になって。そうして呼びかけると楽しそうな気配に乗じてか、偽物シャルルが1人釣れる。
「うむ、お主でも良いぞ。サッカー大会の開始なのじゃ!」
 彼らを見送ったシャルルは肩をぽん、と叩かれた。
「ホンモノは随分とヘコんでやがるな。まー元気出せって。分身したみたいで面白いだろ?」
 ほら、とサンディが後方を顎で示す。そこには2人のサンディがいるが──本物のようなスマートさはコピーされなかったらしい。
 ちなみに彼らの能力を聞いた時点で、サンディは王都で出た自身の偽物という線を疑った。だが彼らは島から出られないし、他のトランで出たという話も特に聞かなかったようだった。
「おーい! とりあえず一緒に身体動かそうぜ!」
 彼らへさらに声をかけたの洸汰。その後ろにも偽物たちがくっついている。最初は皆が三つ子だったのかと驚いたものだが、面白い生き物のせいだと知った洸汰は遊び相手を集めているのだった。
「野球しよう! ルールとかはオレがちゃんと教えるからさ!」
 こんな状況──いいや。いつだって、楽しまなきゃ損なのだ。
「審判はメガぴょんたにお願いするぜ!
 さあ! 遊ぶ人、この指とーまれ!」


●鏡を見るような
(海洋は今……大変な事になってる、けど)
 それを微塵も感じさせない島から、チックは『自分と同じ人物』へ視線を移す。トランと呼んだ方が良いだろうか──いいや、でも、今は『おれ』だから。
「今日は……お弁当を持ってきた、から。……『おれ達』にも、分けて……あげるね」
 弁当を分け合って、それから翼へ触れさせる。きっと彼らが飛行種の翼に触るなど、滅多にない事だろうから。
(……ねぇ、××××。……××××は、おれに……触れている時。どんな……思いだったの、かな)
 他人の手を感じながら、チックはそっと目を伏せた。
「どこからどう見ても私だな、うむ」
 ぐるぐる見て回り、さわさわ触り。満足した汰磨羈。一体どこに隠し持っていたのか、ばさりと布団を広げる。
「私の外見を真似するのなら、いっそ行動も真似して貰うぞ」
 日当たりの良い場所に置いて、トラン共々布団の中へ。十分な広さの布団が日差しで温まって──やべぇぬくい。3人分の体温もあって超ぬくい。
 さしたる時間もなく3人は夢の中へ旅立った。
「戦うのは……いやか、そーか。私の分身なのに」
 戦闘民族の出なのになぁ、とシキは呟く。同じ姿形だというのに変な気分だ。
 なら島の探検でもしようか、と3人は島をぶらりぶらり。程なくして高所になる木の実を見つけた。
 さて、どうしようか?
 大丈夫。だって3人もいるんだから。
「ふふ、こーゆーところは3人いてよかったかもねぇ、ありがとうだよ」
 3人で協力して木の実を得たシキたち。木の実は半分こ……ではなく『さんぶんこ』にしよう。
 自分が増えても仕方ないが、嫁が増えたら自分得である──そのことに気づいた鬼灯は迷いなくトランへ触れた。当然の如く嫁には触れさせない。
『まあ! 私のお顔と同じだわ! ねぇ、私と遊んでくださる?』
 嫁が鬼灯の手元から偽物の嫁へ手を伸ばす。偽鬼灯たちは若干引き気味だが、それよりも嫁だ。
 嫁たちが無邪気に戯れる様は最高である。愛らしいなんて言葉じゃ足りない。
 けれどやっぱり──。
「……俺の嫁殿が世界で1番だな」
 鬼灯の呟きに嫁はぱっちりとした目を彼へ向け、嬉しそうにくすくすと笑った。
 砂浜をぴょんぴょんと飛び跳ねて先行するアリス。その後ろをついて行きながらゼファーが声をかける。
「蜂蜜ちゃん、変なものにうっかり触っちゃダメよ」
 ──ぐにっ。
 即座にフラグを回収した、と言うべきか。アリスの足元から膨れ上がったそれはアリスになって。

「ゼファー」
「わたし」
「「「増えちゃった」」」

 トランを回避し、その光景を見てしまったゼファーはあららと目を瞬かせた。
「……此れはどうしたもんかしらねえ」
 動くのは危険だとその辺りの岩に座り、いつもの癖で膝をポンポン。3つの頭がゼファーの膝へやってくる。
 アリスはといえば、同じ顔に昔のことを思いだ──
「ちょっと」
「「あなた」」
「「「邪魔よ」」」
 ──すけれど、浸っている場合ではなかった。
 仲良くしましょうねと頭を撫でるアリスの『風』は、ほんのちょっぴりニンマリ。そんな彼女にアリスは小さく口を尖らせた。
「ねえあなた、本物が何れだか分かってる?」
 そうよそうよと次々に口を尖らせる偽物。けれどゼファーは勿論と言って本物の頭を撫でた。
「あなたの他に、あなたは居ないって知ってるもの」
 ──だから、すぐに分かっちゃうわ?


 来てすぐ帰るのも、と島の探索をしていたベーク。その後ろをベークたちがついていく。どれが本物かは匂いですぐわかるだろう。
「あ、ここで1周ですね」
 当然ながら時間が余った。泳いで帰るには危険な海、ベークは皆が帰るまで休もうと座って──偽物もそれに倣う。
 ずっと無視していたが、ここまで引っ付いているのなら質問してみようか。この島や、彼らに関して。
 交互に答える彼らは、見かけと口調はベークと瓜二つ。
(僕ってこんな感じなんですか)
 何とも言えない気持ちとともに、ベークは偽物たちの話に耳を傾けていた。
「俺は美しい」
「ああ、そうとも。この世界……俺以上に美しいものは存在しない!」
「当然さ!」
 お互いに何やら意気投合した稔。が、次の瞬間1人が虚へ変化し他2人を海へ投げ込む。
「恥ずかしいことしてんじゃねぇよ!」
 稔が3人集まって気持ち悪い会話を繰り広げる光景。悪夢だ。休息地だなんて言えない。
「一人で怒鳴っているお前も充分恥ずかしい奴だぞ」
「うるっせぇバーカ!!」
 1人2役で会話を繰り広げる彼らへ、海から這い上がったトランが──ぴとり。
 手鏡の前でキメ顔を作った偽物に史之はげんなりしていた。そんな彼をよそに偽者たちは『誰が女王陛下の役に立てるか』というどう考えても答えが1択しかない議題に入る。
 この結論は当然──。
「俺が一等賞だって」
「俺を置いて他にないよ」
「バカジャネーノ、本物の俺に決まってるだろ」
 グッと握り拳作って語り始める史之。
 熟女の色気を島から出たこともないニワカへわかってたまるか。でも語らずにはいられない、だってマジに命かけて推しているのだ!!
「わたくしがおりますわーー!?」
「すごいすごい……って、私のコピーまでー!?」
 高笑いの三重奏に驚くタントと、自分もかと目を丸くするシャルレィス。でもこの状況──本物当てクイズとか、楽しそうじゃない?
 するならもっと増やしましょうと2人はトランに触れ、増える増える。思い思いにポーズを取るが──。
「そこ、きらめきが違う! そっちは高笑いに溢れる自信が違う!
 ……そこだぁ!」
 ビシビシと当てていくシャルレィス。当てられた本物のタントはまあまあと煌めく表情をさらに煌めかせた。
 こうなれば負けていられない。そんなタントの前に様々なポージングのシャルレィスが立ちはだかった。
「そこ! ポーズに恥じらいがございますわ!
 そちらは! 瞬発力がございませんわ!」
 偽物はすぐバレる。が、肝心の本物のが見つからない。小さく唸ったタントはハッと思わぬ方向を見た。
「分かりましたわ……この中に正解はいらっしゃいません!
 本物シャルレィス様が隠れるとしましたら! そこですわー!」
 バレたことに目を丸くさせるシャルレィス。相棒だからと胸を張るタントの言葉はむず痒くて、けれど嬉しいもので。
「……えへへ、うん! 相棒! だもんね!」
 ゴリョウが3人に増えた事態に、しかしノリアは本物が1番だと再認識することとなる。
 だって。いとしのゴリョウさんは。なよっとしていませんもの!
 本物の背中にくっついてゴリョウを堪能するノリアの視界に、自分の姿がチラリ。
「ああっ!? 偽物のわたしまで、ゴリョウさんの腕にぶら下がってますの……!」
「ぶははっ、ノリアーず全員来ちまったか!」
 笑うゴリョウとは反対に、ノリアは2人を引き剥がすべくポコポコと喧嘩をし始める。怪我をしない程度だが、それでも喧嘩は良くないもの。
 けれどこれではゴリョウが困ってしまう──なんて言うのは建前。偽物をゴリョウが好きになったら自分が困ってしまうのだ。
 そんな姿にゴリョウは自らの偽物たちを呼び、下拵えの手伝いをさせる。塩抜きは珍しいが、全く料理を作れないわけではない。ここは美味しい料理で仲裁させようではないか。
 あっという間に無塩カレーと混沌米、さっぱりとしたサラダをこしらえたゴリョウたち。振り返ると──それよりも早くノリアたちが和解していた。
「食う前に仲直りしたか! ノリアらしいな!」
「はい。ちゃんとごめんなさいを、しましたの」
 仲直りをしたから、最後は一緒に食事しよう。他の皆も一緒にどうぞ!


「ああっ、なんてことでしょう。かわゆいカノエがひぃ、ふぅ、みぃ……3カノエもいましてはこれは可愛さが飽和したり対消滅したりで危険が危なくてデンジャーでございます!」
 テンションが上がったあまり文がおかしくなっているが庚の抱く溢れんばかりの自己愛を思えば仕方のないこと。ガワだけだとしても庚は大変愛らしく凛としているのだから。
 ニセ庚の間に入れば両手に花ならぬ両手に庚。ぴんと立った耳から足先、毛の1本に至るまで庚を魅了してやまないのだ。
 手を繋いで散策していたミディーセラとアーリアはトランに鉢合わせる。
「こういうのって毒を持ってるかもしれないから気を付けて……ってあー!!」
 時すでに遅し。
 ねちょっとトランにひっつかれたミディーセラへアーリアが悲鳴をあげる。彼が死んでしまったらどうしよう──なんて焦るも、増えたミディーセラに目を丸くした。
「まあ、まあ……ずいぶんとふしぎないきものですこと」
 しげしげと偽物を眺めるミディーセラ。練達とかで製造されていそうな物体だ、なんて思いつつ彼らの視線を追うと、アーリアが頬を赤らめている。
 彼女からすれば『大好きな人が沢山』と言うだけなのだが……まあ、面白くはない。
(わたしはわたし以外はいらないですし、なによりアーリアさんの隣にいるのは──)
 そんな彼にぱちぱちと目を瞬かせ、アーリアは本物をぐっと引き寄せた。レトロな箒を振りかざすと、偽物たちがひょんと尻尾をなびかせ逃げていく。
 彼らに目も負けず、アーリアはミディーセラの体へ触れて無事を確認した。
「みでぃーくんは大好きだけれど、1人しかいらないわぁ……!」
 最後にぎゅうっと抱きしめられるミディーセラ。その表情が綻んだのは、想像に難くないだろう。
 誰も来ないような場所へ向かったカンベエは、どかりと腰を下ろして偽物たちにも促した。
「発声出来るなら都合が良い。召喚されてからというもの、素で話すのことがなかった」
 いつもと変わった雰囲気も、トランからしてみれば驚くことではないのだろう。食料を分け合い、トランたちから話を聞くカンベエは不意に口を開く。
「わしを……見たことはあるか?」
 答えがわかっていても、この絶望の青にあっては聞かずにいられない。おそらくこの先に──自らのルーツがあるのだから。
「こんなおっさんの姿になって楽しいかは知らんが、好きにすりゃぁいい」
 そう告げてごろりと寝転んだ十夜は小さく目を伏せる。
 あの時聞いた『原罪の呼び声』が、まだ耳にこびりついているような気がする。振り払えたものの、停滞していた時間に体がまだ付いてきていなかった。
 ──けれどもまあ、ほぼ死に体だ。
 ──ならばこれまで通り、適当にやり過ごしたって。
 その思考は視界に入った偽物に、その首についた痣に断たれる。
 逃げないと、向き合うと、決めたじゃないか、と。
「……ありがとよ。お前さんのおかげで、思い出せた」
 小さく息をつく十夜。その指は確かめるかのように、自らの首元へ触れた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした、イレギュラーズ。
 休息になった方も、そうでない方も、次の依頼へ備えましょう。

 またのご縁がございましたら、よろしくお願い致します。

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