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シナリオ詳細

<Phantom Night2019>豊穣祭と蜜蝋の部屋

完了

参加者 : 36 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ――Trick or Treat?

 混沌世界では毎年10月31日に豊穣を祝い、子供達の成長を願う収穫祭か開催されます。古い、古い御伽噺(フェアリーテイル)の通り、10月31日の夜から、11月3日一杯までの凡そ三日間の間は世界にとっておきの魔法が掛かるというのです!
 リンツァトルテ・コンフィズリーの傍らで、手製の南瓜の被り物を手にしていたイル・フロッタは胸を躍らせる。
 天義の再建の傍ら、こうしたイベントに国家を挙げて参加した方が国民にとってもよいだろうという王の計らいにイルは心の底から喜んでいたのだ。
「先輩、先輩! 『豊穣祭』ではなりたい姿になれるんですよね?
 先輩は何になりたいですか? ロバ? 羊? それとも、牛ですか?」
「……お前のチョイスは何なんだ」
 リンツァトルテの呆れた声音にイルがきょとりとして返す。彼女自身がなりたい憧れは隣にいる『先輩』ではあるのだが、それはさておいても、こうしたイベントを楽しめるというのが嬉しくてたまらないと言った調子だ。
「そういえば、大聖堂でも菓子を配ってるらしいですね。あとそれから――」
「ああ。『蜜蝋の部屋』か」
 天義にある御伽噺のひとつなのだそうだが、大聖堂の地下には蜜蝋揺らめく秘密のホールがあるのだそうだ。
 国家的にも『お堅いイメージ』が強い事から長くの間使用されていなかったようだが、国家事業としてファントムナイトを楽しもうというのだから本年度は解放されている。
 蜜蝋の部屋ではケータリングサービスで食事をとることもでき、『姿を変えた天義の騎士』達が菓子を配り歩いているのだそうだ。
 ファントムナイトの何が楽しいって――?
 ああ、それは『誰だか分からない』事が楽しいのだとイルは嬉しそうに笑みを浮かべる。

 大々的に招待状をばら撒いたこともあり、特異運命座標も来てくれるだろうとイルは心躍らせる。残念ながら、重役ともなれば国家再建に注力し、此度の祭りには参加していないようだが……。
「先輩! さあ、何処から行きましょう? お菓子を貰いに行きますか? それとも?」
「……少し深呼吸」
「はい!」
「一先ずは巡回を兼ねる」
「……はい」
 さあ、あなたも天義で豊穣祭を楽しみませんか――?

GMコメント

 ハッピーハロウィン! 夏あかねです。

●豊穣祭
 プレイング1行目に仮装をお書きください。SDの指定でもOKです。
 ハロウィンを今年は天義で過ごしませんか? 国民のケアを兼ねての国家的イベントです。
 まだまだ瓦礫が多く傷ましい国内ではありますが、整頓されそれなりに美しく整えられているようです。
 また、子供達や国民らにお菓子を配り歩くことや国民たちの露店へ顔を出す事も可能です。

【1】蜜蝋の部屋
 大聖堂の地下にあるという秘密の場所。こちらは『仮装』が必須です。
 広めのホールであり、ケータリングサービスで食事や飲み物を無料で提供されています。
 また、トリックオアトリートと言えば騎士たちよりお菓子の配布もあるようです。
 ダンスなども出来ます。蜜蝋が揺らめく少し不思議な雰囲気です。

【2】大聖堂前
 大聖堂前には様々な露店が立ち並びます。古物や天義ゆかりのものも多いですが、収穫した野菜なども販売されています。また、縁日の様な雰囲気で食事も多くみられるようです。
 天義の国民性が出ているのか花飾りや聖書、教本の露店も多数あります。
 子供達が走り回り、此方ではトリックオアトリートと声をかけられるかもしれませんね。

【3】大聖堂/その他
 大聖堂で祈りを捧げる事が出来ます。また、その他、天義でしたいことがあればこちらに。
 今日という日は無礼講であるのか酒場なども活発に経営されているようです。何せ仮装で誰だかわかりませんからね。

●リンツァトルテ・コンフィズリー
 コンフィズリー家現当主。聖騎士団の一員。
 正義たらんとする為、視野狭窄の気が強いようですが彼自身は正義という言葉が絡まないならば見目麗しい好青年という事が出来るでしょう。ローレットに好意的です。案内をと頼まれれば承ります。
 ちなみに仮装は典型的なドラキュラ風。イルには「ふつうだ!」と驚かれていました。

●イル・フロッタ
 父は旅人。母は天義の貴族ないたって普通の少女。
 ローレットには好意的であり、皆さんと会うのを何時も楽しみにしています。
 リンツァトルテ先輩に仄かな憧れを抱いています。先輩大好き。
 仮装は今よりもっと華麗な騎士!(をイメージしたらしいですが南瓜が邪魔しました)

●NPC
 天義に関しては
 ・リンツァトルテ・コンフィズリー
 ・イル・フロッタ
 は確実にホストです。その他のNPCや関係者は『会えるかは分かりませんが試してみて』下さい。天義なのです。
 また、ステータスシートのあるローレット所属のNPCに関しましては『ざんげ』以外はお名前をお呼びいただけましたらお邪魔致します。(※他GM担当NPCに関しましてもOKです。ローレットの所属NPCに限ります)

 どうぞ、よろしくお願いいたします。

  • <Phantom Night2019>豊穣祭と蜜蝋の部屋完了
  • GM名夏あかね
  • 種別イベント
  • 難易度VERYEASY
  • 冒険終了日時2019年11月13日 22時45分
  • 参加人数36/100人
  • 相談7日
  • 参加費50RC

参加者 : 36 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(36人)

グレイシア=オルトバーン(p3p000111)
勇者と生きる魔王
ルアナ・テルフォード(p3p000291)
魔王と生きる勇者
ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)
蒼銀一閃
アラン・アークライト(p3p000365)
太陽の勇者
リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)
無敵鉄板暴牛
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
ヨハナ・ゲールマン・ハラタ(p3p000638)
自称未来人
夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
フルール プリュニエ(p3p002501)
夢語る李花
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)
アネモネの花束
ミディーセラ・ドナム・ゾーンブルク(p3p003593)
キールで乾杯
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
津久見・弥恵(p3p005208)
薔薇の舞踏
ガーベラ・キルロード(p3p006172)
noblesse oblige
エル・ウッドランド(p3p006713)
閃きの料理人
プラック・クラケーン(p3p006804)
昔日の青年
イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)
キラキラを守って
彼岸会 空観(p3p007169)
ディアナ・クラッセン(p3p007179)
お父様には内緒
カイト・C・ロストレイン(p3p007200)
天空の騎士
ミリヤム・ドリーミング(p3p007247)
アイドルでばかりはいられない
メルトリリス(p3p007295)
神殺しの聖女
シグレ・セージ(p3p007306)
ジェーン・ドゥ・サーティン(p3p007476)
一肌脱いだ
マナ・板野・ナイチチガール(p3p007516)
まな板最強説
香宮夜 凪(p3p007556)
メンヘラクソ女
ロべリア・ハンニバル(p3p007793)
悪意の華

リプレイ


 蜜蝋の香りが漂う聖堂の地下。シャルレィスは猫の耳をぴこりと揺らして「やっほー!」とイルへと手を振った。
「久しぶり、イルちゃん! あ、わかるかな? 私、シャルレィスだよ!」
「シャルレィスさん! トリックオアトリートだぞ!」
 にまりと笑ったイルにシャルレィスはやっぱり憧れの騎士になったんだね、と顔を上げて――カボチャが目に入りきょとりとした。
 そういう所もイルらしいとからからと笑う。そうだ、とイルの手を引きホールを進むシャルレィスは「折角だからリンツァトルテさんの所に行かない?」と悪戯めかして声かけた。
「ファントムナイトの夜だもん、トリックオアトリートってやらなくちゃ!
 あ、でも……トリックオアトリート……じゃなくて、トリックオアダンス! とかどう?」
「ダッ――」
「私は踊れないけど、折角こんな場所だしイルちゃんが踊る所見てみたいな! リンツァトルテさんならきっとダンスもバッチリだよね!」
 シャルレィスのその言葉にイルの頬に赤みが増した。
「フッ、遂にあたしの時代が来たのですぅ! こんな商売の機会を見過ごす手はないのですよォ!」
 堕天使を模した仮想に身を包んだロベリアはお祭りこそ商売の機会であるとにんまりと笑みを浮かべる。
「国が違えど「民」が困窮してる姿を見るのは貴族として辛いもの……ですのでキルロード農園で採れた野菜を格安でご提供ですわ!」
「無料提供なんてしちゃ駄目ですよ。経済回んなくなるんですよォ、ガーベラお嬢様」
 まあ、と口元を押さえたガーベラ。仮面をつけた農家スタイルは普段の彼女に仮面を携えただけで知る人が見えれば「キルロードのお嬢様だ」と分かることだろう。
「ウチもう帰っていいッスか? 駄目? そんなー」
「そこのまな板駄猫この期に及んでサボろうって? やはり胸が無い猫は所詮駄猫って事ですねェ……」
 ぼそり、と呟くロベリアにマナは精一杯の誘惑をして見せると猫又の尾を揺らす。いつか『ひんぬー』とか『まな板』と馬鹿にした奴を叩きのめしてやると気合は十分だ。
「オーホッホッホ! 民の皆様、今ならお野菜が特別価格でご提供ですわ! 買ってくれた人には野菜クッキーも配りますわ!」
 ガーベラの心根の優しさから野菜クッキーは無料提供だと可愛いオバケたちへと配りながらキルロード農園出張所、本日も営業頑張ります。
 紅の薔薇にそれに映える真紅のドレスを纏ってフルールは今日は吸血鬼だ。
「はっぴーはろうぃん。今日はフルールと『お揃い』だね」
「ふふ、お揃いね、お揃い♪ 綺麗ですね♪ この場所は素敵ね、蜜蝋がいっぱい。食事にします? ダンスにします? まずはお食事かしら?」
 嬉しそうにドレスを揺らすフルールに凪はダンスの前に一度腹ごしらえしようとテーブルへと向かう。
「あらあら、薙ぎおねーさん。怪我をしてしまわれたの? もう、自分で怪我をするなんて駄目ですよ?」
 ぱくり、と口に運ばれた指にくすぐったくて凪は小さく笑う。可愛い吸血鬼様に、少し血を捧げてみようかと「お好きなだけどうぞ」と彼女を指先に招いた。
「天義の豊穣祭……この国も傷ついたっスからその傷を癒す為にもこのイベントは不可欠! つまり癒しと新鮮な刺激が必要! 屋台という形だけど復活っスよ! 『ヤム茶』を!」
 天義の希望――ミリヤムがそう宣言すればジェーンは「お手伝いしちゃう♪」と楽し気にたわわな胸を揺らす。インキュバス姿のセクシーアイドル・ジェーンちゃんの隣では中華によく合うキョンシー姿のミリヤムがせっせと餃子を売り込んでいる。
「あらあら、お兄さん……ジェーンちゃんのお胸ばっかり見てどうしたの☆ 仕方ないなぁ?」
「……って、ジェーンさん!? 何脱ごうとしてんの!? 衛生的にも天義的にもアウトっスよ!」
 慌て止められたことにジェーンが「えー?」と首を傾げる。非常に疲労はいっぱいだが、『ヤム』の為にも『ミリヤ』は頑張るのだと決意を固めて。
「Trick or Treat?」
 子供達を真似てディアナはセージに悪戯を仕掛ける。そう言われればセージはくすりと笑いディアナの指先を掬い上げた。
「生憎品切れでな。イタズラしてくれていいぞ?」
 しまった、という顔を見せたディアナにセージが小さく笑えば、ディアナの『可愛い仕返し』は壁にぎゅ、と押し付ける様にして抱き締める事か。
「驚いた? べつに何も考えてないわけじゃないんだか――」
 ああ、どうしようと顔を赤らめたディアナが可愛くて、その唇にキャンディーを押し付けて『続きは帰ったらな」とセージは囁いた。


 ヨシュアは「兄さん?」と首を傾げた――が、カイトは「え? マッドサイエンティストな俺を見た? まさか!」とからから笑い人を待たせているとダッシュした。ファントムナイトを楽しんでいるだなんて弟に知られるわけにはいかないとカイトが行先にはリースリット。
「おかえりなさい、カイトさん。弟……確かヨシュアさんと仰いましたっけ。
 たまの帰郷なのですし、家族とちゃんと会えたようでよかったです」
 柔らかに告げたリースリットにカイトは笑みを浮かべる。さて、今日はどうしようかと彼女を伺えばリースリットは悩まし気に「こうした機会は初めてでして」と小さく返した。
「よろしければ、カイトさんの知っている所を私にも教えてください」
「初めて? そっか、それはいい話を聞いた。じゃあ昔世話になったところとか案内しようか」
 人混みが凄いから。そんなふうに『理由』をつけて、一気にその手を引っ張る。「あ」と呟くリースリットは彼の顔を覗き込んでからそっと、その手を握り返した。
「ふふ、カイトさんが案内してくださるなら何処にだって行けそうです」
 まるでいつもとは『反転』したかのような衣装に身を包んだポテトとリゲル。
 普段と違った艶ある装いにドキドキすると手の甲にキスを一つ落とせばポテトの頬が赤らんだ。
 普段と違う――なんて言葉、ポテトだってそう思えば心が跳ねるのだから。
「リンツァ、イル! 案内を頼めるかい? 俺が誰だか解るかな?」
 ちら、とイルがリゲルを見遣ってからポテトの「私は分かるだろう?」という言葉に頷き彼女に耳を寄せる。
「先輩をリンツァって呼び捨てにするのはリゲルさんしかいないんだぞ」
 これはイルが一枚上手だっただろうか。その言葉にポテトが笑みを漏らしリゲルの負けだな、と肩を竦める。
「ええ……リンツァはドラキュラか、俺も去年は同じ仮装だったんだ。奇遇だな」
「無難に見えるだろうか……こういった事はあまり慣れなくてな」
 照れた様なリンツァトルテにリゲルが小さく笑う。こうして天義で楽しめる思ってはいなかったとポテトが告げたそれにイルがこくこくと大きく頷く。
「来年もその先もずっと……祭を盛り上げるべく頑張っていこうな。リンツァ達にもお菓子をプレゼントだ!」
 手渡された菓子にイルが瞳を輝かせ、リンツァトルテは「有難う」とイルの頭を下げさせながら笑った。
 時計兎の耳をぴょこりと揺らしてルアナはお菓子を貰わなくっちゃと『赤の女王に叱られない様に急ぐ時計兎』の様に走り回る。
「珍しいのはわかるが、そう走り回るものでは無い」
「あっ、オレンジジュース欲しい! もうちょっとで全員からもら――ぁぁぁぁぁ!!」
 慌て床にとばらまいた菓子にルアナが悲し気にぺしゃりと耳を落とす。同じ時計兎の耳を揺らしてグレイシアは肩を竦めた。「欲張って無理に抱えるからだ……お菓子を入れる袋でも貰おうか」と言葉は厳しくも、優しく彼女へと対応し付ける。
 おじさま、やさしいと耳をぺしゃりとしたままのルアナは何かを思い出したようにハッと顔を上げた。
「おじさま! とりっくおあとりーと!」
「……悪戯されては適わんな」
 小さな焼き菓子が入った袋をルアナに手渡せば、先程よりも嬉しそうに笑みを溢す。誰に貰ったよりもあなたからのお菓子が一番うれしいのだ。
 光の海を堪能するように幻はしゃらりと髪飾りを揺らす。キセルを手にした幻は「それにしても、ジェイク様の小さくなったお姿は懐かしいですね」と小さく笑った。
「たまには童心に戻るってのも悪くねえだろ?」
「ええ。素敵です――それに、いいえ、何も」
 今は恋人として隣に立てていると淡く笑う幻の横顔を見遣ってジェイクは蜜蝋のきらめきが彼女の色香を際立たせるようで見惚れるとその白い指先を掬った。
「綺麗だよ幻。今宵の幻を俺だけのものにしたい」
 幼いオオカミ少年に手を取られダンスホールへ踊りだす。普段と違うその視線、体に胸の奥で心の臓はどくりと音を立てた。
「ふふ。今日はおばけ仲間だね、リュカシス。
 俺ね、お菓子と一緒に渡すのに小さなぬいぐるみも作ってきたんだ。喜んでくれたら嬉しいな」
 イーハトーヴの隣で靴をぴこぴこと鳴らしてリュカシスは大きなおばけと小さなおばけだと柔らかに笑う。光ったり踊ったり、楽しいなあとリズムに乗せればイーハトーヴが小さな子供に「こんにちは」と声かける。
「やあ、お菓子は好きかな? 弾けるキャンディに、アップルパイもあるよ
 あとは……ぬいぐるみ(このこ)が、君とお友達になりたいって」
 イーハトーヴの言葉に合わせてリュカシスがぬいぐるみに声を与える。
『ナカヨシニ、ナリタイ!』『アマイオカシ、ダイスキ!』
 素敵な夜にイーハトーヴは小さく笑って小さなおばけさんにもとお菓子を差し出した。


 きょろりと周囲を見回してスティアはサメのぬいぐるみを抱え叔母はいるだろうかと歩き出す。
「スティア?」
 手をぶんぶんと振ったイルが「鮫!」と愛らしいぬいぐるみに瞳を輝かしたのを受け、スティアはサメを抱えて「がぶがぶ」とイルに近づけて見せる。
「トリックオアトリート! お菓子くれないなら食べちゃうぞー! サメさんがー!」
「わ、わ、それは大変だ!」
 慌て菓子を差し出すイルに「いっぱいくれてもいいよ?」とスティアは首を傾げる。だめだめと首振るイルに小さく笑い「可愛い仮装だね!」と楽し気に声かけた。
「ややーっ! デビルヨハナマンですよーっ! サタデーのナイトにフィーバーな勢いで盛り上げちゃいますよっ!
 さぁっ! ヨハナが特選クラブミュージック盛り合わせなカセットを……しまったラジオがないっ! どこぞの騎士様がお菓子代わりに配ってませんかっ? トリックオアトリートっ!」
 ――勢いよくデビルヨハナマンは両手を上げた。プラックは「いやいやないっしょ!?」とぼけ倒すヨハナに一生懸命のツッコミを入れ続ける。
「こうしてダチと遊ぶのは久々すけど……やっぱ、楽しいもんすねー、ヨハナさんも楽しんでっと良いんすけど」
「やや、楽しくないと思いましたか!?」
 にやりと笑ったヨハナにプラックはお決まりの『トリックオアトリート』を口にした。
 黒いドレスを揺らしてヒィロは「わー!」と両手を広げる。対照的な赤の儀礼服の美咲、二人はこの国を賑わせた在る二人のコスチュームを仮装のテイストに盛り込んだのだろう。
「ねねね、美咲さんにとってこのお祭って、どんなの?
 ボクはねー、お腹ぺっこぺこだったスラム暮らしの、一年に一度のお楽しみ、だったんだ!」
「ヒィロ、そっか……」
 よくここまでまっすぐに育ったなあと感慨深くなる美咲は友達と一緒にお菓子を作る日なのだと告げた。
「危険だから外出は禁止されてたし外に行ける子が配ったり交換したりしてきて、種類が増えたお菓子を、みんなで食べたよ」
 ニコニコできちゃう素敵な日だと嬉しそうに笑みを溢したヒィロに美咲はその頭をぽんと撫でた。
「リンツ君はイルちゃんと一緒だし、先生が寂しくないかと思って!」
 尻尾をゆらゆらと揺らして焔は「寂しがってる先生のお相手も助手の役目! ……だよね?」とサントノーレを伺った。
「そりゃ有難い事で。助手と楽しい豊穣祭なんてしちゃ、後ろから刺されやしないかな?」
「ええ? 天義の案内だってお任せしてるよ!」
 にんまり笑った焔に執事めいた仮装をぴっしりと着こなしたサントノーレは仰せの通りにと小さく笑う。
 こうして国民たちが楽しむ様子を見れば、嬉しくなるなあと焔はくるりと振り返る。
「いっぱい犠牲も出ちゃったけど、今こんな風に皆が楽しめるのは、ボク達や先生、天義の皆が頑張ったからだもん! これを守る為にも、これからも頑張らないとね、先生!」
「助手はもっと広い世界も行くんだろ? なら、『先生』にもその情報くれるだけで満足さ」
 トリックオアトリートの代わりにと冗談めかしたサントノーレに焔は楽し気に笑って見せた。
「トリックオアトリート!! ……どうですか? この格好は? とある旅人さんに聞いて、結構怖い感じの姿になってみました」
 じゃじゃん、と黒いマントをはためかせたエルに南瓜の騎士イルは「わあ」と声を上げた。
「ふふ。パンプキンパイとかパンプキンサラダなどの南瓜料理を食べに行きましょう! ところで、何かおすすめは?」
「私のお勧めはローストポークだぞ! ごちそうなんだ」
 にんまりとしたイルの向こう側、舞姫弥恵は『悪い悪の組織エクリプス』の仮装に身を包みダンスを踊る。
 魅せるのは少し控えめ、けれど『ダンスの技術』で魅せられるのは人の常だ。

 お化けが来るぞ、そっちに行くぞ♪ 今日は何して何を見る♪
 今日は誰もかれもが奇妙な友達♪
 ディスイズハロウィン♪ ハロウィンハロウィンハロウィンウィン♪

 歌い踊った弥恵は辛い日が明け、新たな幸福が訪れる様に踊り続ける。


 無量はどちらかと言えば仏教徒ではあるが、信心深い訳でもないと額の瞳も痛むからとゆっくりと箸を歩む。百鬼夜行を思わせる魑魅魍魎の人々。
 死者が戻るという習わしに似た祭典あのだろうかと無量はゆっくりと聖堂の端に腰を下ろした。
「帰命無量寿如来……」
 今宵も死者を慰める――自身が葬った死者の行く先に倖あらんことを願いながら。
 ルリコマドリの小さな少年はスケッチブックを手にこそりと聖堂の中を往く。青い髪を揺らした天義の平民たるその姿を不思議がるものはいない。
(一度不正義として捕らえられた立場上、普段は堂々と入れないが姿を変えられる今なら気にせずゆっくりできるって訳だ)
 なりたいものとして想像つかず、つい、子供の頃の姿になったベルナルド。
 その背中に天義の異端審問官たるアネモネは「もし」と静かに声をかけた。
「……?」
「いいえ、知り合いに似ていたものですから。良き夜を」
 どこか、不思議がる様な――それでいて、酷く愛おし気な瞳を向けて来た彼女。
 ベルナルドはその視線を感じながらスケッチブックを手に聖堂の中を歩む。離れたところからアネモネの「夢を見ているみたいですわ」という呟きが一つ、聞こえた。
 絡新婦蜘蛛の仮装に身を包んで珠緒はグラスを揺らす。
「神秘的といいますか、妖しげといいますか。糸は血なので赤いですが、逆に合いそうな……」
「な、なかなかの雰囲気じゃない。この蜜蝋の部屋……」
 部屋の片隅から清姫が現れるのもと清姫の仮装に身を包む蛍に視線を送れば彼女も蜘蛛の巣が似合いそうと珠緒に笑みを返す。
「じゃ、そろそろダンスでもどう? ほら、今ならこうして蛇の尻尾で一本余分に珠緒さんを支えられるから、きっと普段よりも踊りやすく……踊りやすく……お、踊れるわよ?」
 ずるずると長い尾を纏わせる蛍に珠緒は「節足ですので簡単には転ばないのです」と返して見せる。
 上手に踊れるか、リードできるかと悩まし気な清姫に蜘蛛は「今日だけの特別ですね」と小さく微笑みを浮かべた。
 南瓜ぱんつにランタン揺らしたミディーセラの傍らで普段の色彩をその体に宿して尾を揺らしたアーリアは「変身しちゃったわねぇ」と小さく笑う。
「これはお酒の気配! 飲みたい! でも届かないし手が上手く使えないから取れないわよぉ。みでぃーくん、取ってー!」
 ぬいぐるみの様にもふもふとした尾を揺らし、ぴょんぴょんと跳ねるアーリアは普段は見下ろすミディーセラを見上げるその感覚が何所か不思議で仕方がない。
「まあ、まあ……小さくなってもしっかりアーリアさんですのね。あっもふ もふい……」
 お酒が欲しいというアーリアを抱きかかえ、どうやって飲むのかしらとミディーセラは首傾ぐ。
「まあ。いいことを思いつきました。どうですか、わたしの指から」
「ゆ、指から!?」
 ちろちろと指先をなめながら、嗚呼いつもよりアルコールが回ってしまいそうだとアーリアはその瞬間に酔い痴れた。
「よぅ、勇者になるための修行の方は最近はどうだ?」
 ひらりと手を振ったアランを見遣ってメルトリリスは悲し気な――悲痛ささえ感じさせる――表情を返す。
「あ、いえ、なんだか姉の聖女を継いでしまって……勇者は……その、……だめ、かも」
 アランの裾をぎゅ、と握りメルトリリスは姉と同じ様に『全てを丸めて呑み込んで』他人の幸せを願うと神に約束したのだと唇にゆっくりと音を乗せた。
「……その、もし宜しければ、その綺麗な首飾りが、欲しい」
「これはやれねェよボケ。大事なもんなんだよ」
 は、としたように欲張るのはいけないとメルトリリスが言葉を呑み込み、でも、とその瞳をうろつかせた。
「それがあれば、もし、わ、私が、原罪に飲まれても……見つけてくれるかなって、思って、お守りでほしくて。
 アラン、私が道を間違えたら――その時は、容赦無く、殺してね」
「ってか、アホなこと抜かしてんじゃねェよ。お前の姉と同じ道を進ませねぇように、道を間違えないように俺がいるんだろ。今度そんなこと言ったら殺すぞ」
 その前に殺されちゃうか、と冗談の様に美しく笑う聖女にアランの脳裏には何故だか彼女の姉の姿がちらついた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 トリックオアトリート!
 天義でのお祭り、お楽しみいただけましたでしょうか?
 懸命に復興するこの国も、頑張っておりますので、皆さまもまた、遊びに来てあげてくださいね。
 イルがとてもうれしそうにお菓子を抱え、皆さんの訪問を待っています。

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