シナリオ詳細
【Autumn color】白銀葭の迷宮森林
オープニング
●白銀に光る迷宮へ
『親愛なる外の友人たちへ。
この時期になると、私たちの集落の白銀霞が、とても綺麗に輝きます。
よろしければ、遊びににいらしてみませんか』
秋もいよいよ深まろうかというある日、ローレットに一通の頼りが届いた。
深緑や迷宮森林についてはまだ明かされていない点も多いが、その一角に、不思議な白銀霞(パンパスグラス)の群生地があるとか。届いた書状は、近くで暮らす幻想種から差し出されたものだった。
一般的な白銀霞の特徴としては、天使の羽根を思わせる白い穂と、その背の高さが挙げられる。深緑内のある区域ではその特徴が輪をかけて濃くなり、豊かに実って垂れた穂が頭上高くにアーチを描き、迷宮めいたトンネルを形づくる。
それに加えて、この区域の白銀霞は他にない特殊な性質を持つ。迷宮の魔力の影響か、この時期の夕暮れ時には穂の部分がぼんやりと光を帯び、ほんのりと温かい光の粒を散らせるのだ。
付近の集落に住む幻想種たちは今の時期、白銀霞が輝く頃、それに合わせて何らかの銀色を纏う習慣がある。集落へのドレスコードは彼らと同じく、銀色の何かを身に着けること。
白銀霞以外にも緑の恵みが豊かな場所で、採れたての野菜やハーブ、それらを利用して作られる料理や飲み物も、また格別だとか。肉や油が好きな者には少々物足りないかも知れないが、たまには身体を労わってみるのも、きっと悪くはないだろう。
謎と不思議に満ちた緑の世界が、少しずつ、少しずつ開かれていく。
さて、どんな銀色を身に着けていこうか?
- 【Autumn color】白銀葭の迷宮森林完了
- GM名白夜ゆう
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2019年10月29日 23時05分
- 参加人数28/30人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 28 人
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参加者一覧(28人)
リプレイ
●輝きだす白銀の世界
世界が夕に染まり、迷宮の白銀霞がぼんやりと光を帯び始める頃。その様子をクロバが独り、展望台から眺めていた。
虚ろなる左手と、光で満たされる風景を交互に見つめる。今も昔も戦って、戦って、幾つかこの手で殺して。これで良かったのだろうかと「あっちの妹」に問いかけてみても返事は無い。
最近は独りになる事が少なくなったが、しばらく一緒に居ない「アイツ」は元気にしているか。そして――「彼女」は今、何をしているのだろうか。
考えても考えても答えは無く、泥沼に沈むかのよう。そんな時はこう考える。
「……明日は何を作ろうか」
振りでもいい。戦わず穏やかに生きられるなら、それは救いとなるだろうから。
「幻想種(わたし)といっしょにいたら、ラノールも、へんなやつだって言われちゃうのかな」
砂漠に伝わる悲しい恋物語が、どうしても自分たちと重なる。
不安げに呟くエーリカに、砂漠の傭兵(ラノール)は笑いかけながら答えた。
「……もしそうと言われたら、君と共にある事が幸せだったと証明してみせるさ。……私の一生をかけてでも」
それ、とエーリカの真上の穂を揺らせば、柔らかな光の粒がエーリカに降り注ぐ。
「わ……!」
雪が頬に落ちたように柔らかく。雪と違って温かい。光にそうっと指先を伸ばせば、触れる前に融け消える。
それとと同時に、華奢な身体がふわり宙に舞う。自分を抱き上げた腕に慌てて縋り、振り向けば、何よりも大切な笑顔。
目が合って、お互い笑い合う。
「……あぁ、今日もまた、君の事が好きになってしまった」
常に戦いの中に在るラノールにとっては、少女と過ごす日常が、こんな瞬間が愛おしい。エーリカも、それは同じ。
「うん……わたしも。ラノールがすき、だいすき」
あの頃のわたしはもう居ない。もし闇に落ちても、いつだってこんな風に、あなたが掬い上げてくれるから。わたしはわたしのままで、胸を張っていられるんだ。
「しあわせ……だね」
「……ああ」
周囲に舞い散る白銀の光より、もっと温かい光が此処にある。
「幻想的な、迷路ですね」
和装の雪之丞と、千早を身に着けた汰磨羈も、白銀霞の中を行く。
「ほぅ、これが白銀霞……どれどれ」
早速モフってみる。モフモフ。
「……モフい。流石、天使の羽根と形容するだけある」
そしてモフれば光を散らす。温かい光が、雪之丞に降り注いだ。
「不思議な光です。熱は無いのに、温かい」
「うむ……良い。ところで雪之丞。思ったのだが、これを布団の材料にしたら……究極の布団になるのでは?」
確かにふかふかで温かそうだが、雪之丞にその発想は無く。
「汰磨羈様は本当に、ブレないお方ですね」
いつでもマイペース。それが彼女の良い所だ。
「しかし、これを布団に。とは、良いかもしれません」
「私の尻尾に勝るとも劣らぬモフさ。ああ、このモフモフに埋もれて眠りたい……」
希望が叶う場所はあるだろうかと真面目に探す雪之丞の横で、にへらー、と、怠惰な妄想に汰磨羈の頬が緩み、自慢の尾がゆらゆら揺れる。間近で揺れる別のモフモフに雪之丞が目移りすると、汰磨羈はそれに気づいて誘った。
「なぁなぁ。私の尻尾とモフ比べしてみるか?」
「……モフ比べ、ですか。甲乙付けがたいかもしれませんよ?」
誘いに乗って、尻尾をモフってみる。ふわふわ。そして、汰磨羈の千早も白銀霞のような銀光を発する。
「こ、これは……甲乙付け難い、です」
モフモフ、なんと恐ろしい誘惑か。こうして二人は心ゆくまで、二つのモフを堪能したのであった。
「わぁ……! これが白銀霞……凄いですね! 僕やネーヴェさんより、ずっと大きいです!」
シャルティエが背伸びして穂に触れてみれば、蛍のような光がふわりと舞った。ネーヴェがそれを目で追い、触れようと手を伸ばした瞬間、指先に微かな温もりを残し散ってしまう。しかし、光は絶えず降り注いで舞い踊る。
「追いかけっこ、しませんか」
ネーヴェがぴょん、と跳ね、シャルティエを誘った。
「いいですね! こんな場所で追いかけっこなんて……また違った楽しさがありそうです」
「ふふ、兎は、逃げるもの……そして、易々とは捕まらないもの、ですよ」
それでは参りましょう、と、小さな兎は小さな騎士に背を向け駆け出す。二人とも背は高くなく、白銀霞に紛れれば分かり難くなる。しかし、ネーヴェが跳ねる度に白銀霞が光を散らし、通った後には白銀霞の光が尾を引くので、すぐにそれと分かる。
ネーヴェの移動するスピードは速く身のこなしは捕えがたいが、シャルティエとて常に鍛えている身。そして何より、彼は男だ。その意地にかけて。
「……負けませんよっ!」
シャルティエの視線が、白銀霞の中揺れる兎耳を捉えた。間違いない、彼女はそこだ。白銀の光と揺れる兎耳を追って、まっしぐらに駆け出す。何処に居ても彼女を見失わないように、しっかりと彼女を守れるように。
夢か現か。淡い銀の光の中を、ゼファーとアリスが並んで歩く。
基本は独り、風のように吹き行くゼファーだが、こんな良い景色を独りで……というのは余りにも勿体ない。
あたたかいところね、とアリスが呟く。
「ええ。白銀霞のおかげね」
背の高いゼファーに対して、アリスとの身長差は頭ひとつ分。
「嗚呼、此処で迷子になったら見つけるのに苦労しそうね」
「まあ。わたし、そんな風に居なくなったりしないわ。……それとも、好奇心で姿を消す様な子がお好み?」
「はいはい。そんな子じゃないって、分かってますってば」
悪戯心も無くは無いが、それ以上に見つけて貰えなかったら怖い――というのは、ゼファーには内緒だ。
アリスがぴたりと歩を止める。どうしたのかとゼファーが振り返る。
光る穂の遥か先には眩い夕暮れ。その空はとろりとした、極上の蜂蜜のようで。通行証に使った銀の匙で、舞い散る光を夕空ごと掬おうとするアリスの姿がそこに在った。
「美味しそうで……本当に食べれそうな、気がしたの」
「なるほど……それじゃあ私も」
心を持った少女人形と共に、ひと匙、ふた匙。一緒になって光を掬えば、彼女の気持ちに近づけるだろうか。
ふと目が合う。幻想を受けて煌めくアリスの瞳が、ゼファーにはどんな輝石より美しく見えて。
あまい光を背負ったゼファーは、アリスには女神のように見えて。
彼女たちの想いを後押しする様に一陣、風が吹き抜け、ぶわりと光が舞った。
「すごいすごいっ! 光ってるー!」
シエルが白銀霞の中を、くるくる回りながら駆けていく。その後ろには展望台。向こうから見えるだろうかと、ぶんぶん手を振ってみる。背の高い白銀霞の中とあっては、小柄なシエルは埋もれてしまうだろうか――というか既に埋もれ気味、迷子になりかけている。
「て、展望台は見えるし! あれを目印にすれば、迷わないよね!」
再び気を取り直して意気揚々、もっふもっふと道を往く。一歩進めば、白銀霞の光がぶわっと散る。身に着けていた銀のブレスレットが、白銀霞の光を受けてキラリと煌めいた。
●銀色を見下ろして
「美咲さん、こっちこっちー! あ、あそこ誰かがもふもふしたのかな! 光の粉がふわっとしたよ! すっごくいい景色!」
「はーい、急ぐことないよー。景色は逃げないからね」
展望台をぱたぱたと駆け上がったヒィロに、美咲が続く。
「こーんな不思議で素敵な景色を見られて、ボク超ラッキー!」
ありがとー! と、ゴロゴロ喉を鳴らすように甘えるヒィロの頭を、美咲がそっと撫でた。
「こちらこそ。話を持ってきてくれたのは、君なんだからね」
……さて。景色と食事、旅は両方味わってこそ。注文していたハーブティーとケーキが届く。
オレンジピールを使ったパウンドケーキはしっとりとして、甘さの中にも柑橘の爽やかさがある。ハーブティーの方はカモミールを中心にレモンバーベナなどをブレンドし、癖を減らして飲み易く。
「んー、これは美味しいっ!」
早速、ケーキがごっそり減っている。
「なるほど、爽やか系の組み合わせか」
美咲が頷く。黄色と橙の品々は、どこか目の前の元気な少女を髣髴とさせる。
「ハーブもいい感じだねっ! これで身体にもいいって、最高かな! 何かこう、心まで綺麗になれちゃったかも」
えへっ、とヒィロが微笑む。
「健全な肉体に健全な精神が宿れば理想だが、それは難しい……なんて言葉があるけど」
案外簡単なのかもね? と、ケーキを幸せそうに頬張るヒィロを見て、美咲も釣られて微笑んだ。
「……食べ足りなかったら、私の分もどうぞ?」
救急箱(メイドのたしなみ)から取り出した銀のピンセットを通行証に、シルフィナは展望台へと昇った。カフェで購入したハーブティーはミントをベースとしたブレンドで、家事に戦闘、あれこれと気を回すメイドのリフレッシュに丁度良い。自分でも美味しく淹れられるが、誰かに淹れて貰うお茶もまた良し。
「綺麗ですね……ずっと眺めて居られます」
見下ろす群生地のそこかしこからは光が舞って、誰かが遊んでいるのが分かる。そんな様子を、展望台からのんびりと眺めて過ごしたのだった。
「私は葡萄ジュースっ! ジェラルドさんは何買ったの?」
「俺はハーブティーを買ったよ。こう見えて自分でも淹れるんで、味にはうるさいんだ」
深緑の力とやらを見せて貰おうと、冷めないうちに一口。ハイビスカスやレモングラスを中心とした、疲労に良く効く配合だ。医者の不養生という言葉があるが、そうならないよう気遣っての事か。上手く混ぜないと、酸味で飲みづらい素材だが……
「……あらやだ! 思ったより美味しいじゃない!」
「!?」
割合が絶妙で、酸味を爽やか程度に抑えてあるのだ。師が残した癖が、つい出てしまう。
「へえー、ジェラルドさんって時々喋り方、可愛くなるんだね」
「いや……うん、そんな気を使ってくれなくて良いんだ」
ジェラルドは落胆しつつ笑って、格子に身を預ける。
「気遣ってるとかじゃないよー。普段の喋り方も格好良いけど、さっきのもむしろ生き生きしてて良いと思う!」
真っ直ぐな少女の言葉に、嘘偽りは一切無い。
「って、あそこ!」
見下ろす白銀霞が揺れ、そこから光が舞い上がる。
「おや、あれは……綺麗だな」
ジェラルドは深緑育ちだが、この集落の事は初めて知った。子供が楽しく遊んでいるのか。郷愁に浸る。
「シャルレィスも混ざって来ていいぞ?」
大人の余裕と言わんばかりに、からかうように笑ってみせる。
「そ、そんな子供じゃないよ!?」
でもちょっと混ざりたい。数刻後、白銀霞が元気よく光を散らす様子がよく見えた。
ジルーシャが歩く度にちりん、と涼やかな音が鳴る。
「んーっ、このケーキ、すっごくおいしい♪」
秋色の花を飾ったシフォンケーキは、中にも花を練り込んでいる。
一緒に頼んだハーブティーは、彼をイメージしてブレンドしたもの。ポットには紫色をしたエキナセアの花が浮かび、ローズヒップとシナモンが少し甘酸っぱい。
「お肌にすっごく効きそうだわ♪ 後で作り方、教えてくれるかしら?」
喜んで、と幻想種が答えた。
ここは深緑、「あちら側」に近く、ポットの後ろから食べたそうに覗いている精霊たちの姿が見える。
「フフ、仕方ないわねぇ」
仲良く分けるのよ、と、小さく切り分けたケーキを差し出した。
「サイズさんとお出かけなんて初めてだなぁ。なんだかとってもワクワクしちゃうっ!」
「ふふ。俺も、友達とご飯を食べに来るなんて初めてだ」
ラナーダとサイズも連れ立って展望台のカフェを訪れたが、そこでラナーダが「あ!」と声を上げる。通行証の銀色を忘れていたのだ。
「……ね、ねえサイズさん。もし、銀色の何かを余分に持ってたら、ひとつ貸してくれると嬉しいな」
「ああ。こんな事もあろうかと……」
サイズお手製の銀のブローチをひとつ、ラナーダへ。揃いのブローチを身に着けて、テーブルへ着いた。
全てを信じられなかったあの世界では在り得なかった日常に、サイズの口元が思わず綻ぶ。自分と一緒で良かったのかと不安げなラナーダも、杞憂だったかと息をついた。
「せっかくの休日だ。たくさん楽しもう。……よし。早速食事といこうか」
料理が次々と運ばれてくる。野菜と花がふんだんに、いかにも健康的だ。
「ふむ、美容に健康……ラナーダはいつも食い物じゃないものを食べてるからな……こういう日くらい、沢山美味しいものくえよ?」
「うん! これでくーるびゅーてにも磨きがかかるね!」
「くーる……ね」
「え、そこ笑うとこ!?」
テーブル一杯の料理を、サイズの本体が丁寧に切って取り分ける。
そしてここだけの話。ラナーダも銀色を持ってきてはいたが、折角なら友達と一緒がいい、と。
彼女が持参した銀のバッジは、ポケットの中に隠したままにしておいた。
●濃紺の夜に白銀のひかり
月明かりが降り注ぐ頃になれば、白銀霞の光も際立つ。その中にあっても、月光を受けて銀色に輝くルーキスの長い髪は、ひときわ煌びやかだ。リラックスしていないと発動しないギフトだが、傍らに居るのは恋人のルナールで――つまり「そういう事」だ。
「結構冷えてきた。季節の切り替えはあっという間だね」
ルーキスは銀のストールを巻き、ルナールは彼女から受け取った銀の髪留めを身に着けて歩く。
「あっという間に冬毛に変わるな。暑いよりは寒い方が得意だから、大丈夫だぞ」
手近な白銀霞へと、二人は戯れに手を伸ばし触れてみる。
「おー柔らかーい、楽しーい」
「うーん? ルーキスの羽の方が柔らかいと思うんだがー?」
「そうなのかー、私の羽根に触るのってこんな感じなのか」
そんな事を語らいながら白銀霞の中を進めば、ひときわ密集している場所に出る。ルーキスの姿が無い。ルナールは少し焦ったが、目印の羽根に気づく。隠れんぼかと、わざと見つからない振りをして。ルーキスが隠れている場所の間近で「うーん、見つからないなあ」と聞こえよがしに言う。
「……お疲れー、あはは」
仕掛け人が、やがて痺れを切らして白銀霞の間からひょっこり顔を出す。そこから少し強引に引っ張り出し、ぎゅっと抱きしめる。
「ちょっとびっくりしたよ……全く」
傍に居ないのは駄目だ、とむくれて見せる。その後は二度と離れないように、しっかりと手を繋いで歩いた。
「僕よりもずっと大きいなんて、この世界にはいつも驚かされるね」
それなりの背丈があるクリスティアンから見ても、迷宮の白銀霞は見上げるようで。頭上に手を翳してみても、まだ余裕がある。
「おっと……」
顔がくすぐったい。穂が当たったのかと、そっと頬と穂に触れてみる。触れた穂からはふわり、と光の粒が舞った。
「これは……とても、綺麗だね……」
彼の居た世界、小さな王国には無かった植物だが、何故か懐かしい。
王国に居る家族は元気だろうか。空高く舞い上がる光に、よろしく伝えてと願いを込めた。
普段はマニッシュな装いの幻だが、今日の装いは打って変わって、フェミニンな白銀のワンピース。集落へのドレスコードだが、恋人は気に入ってくれるだろうか。
「……」
いつもと違う恋人の姿に、ジェイクは思わず息を呑む。その指先は深い青に銀のラメ、夜空を閉じ込めたようなマニキュアで彩られ、細部まで自分の為に装ってくれたのかと思うと――嬉しさが隠せない。
ジェイクは幻の手を引き、白銀霞が密集する場所へと誘った。外界から隠れて、白銀の光の中ふたりきり。そのままそっと、幻の髪に口づける。
「俺は幻の綺麗な髪が好きだ。初めて出会った時、こんなに美しいものを見た事が無いと思った」
ジェイクの想いが伝われば、幻の心はふわり、夢心地。彼曰く、キスには色々な意味があるとか。
「髪へのキスは、思い慕う事。そして……」
幻の柔らかい頬へ唇を落とし、耳元でその意味を囁く。
「これは、親愛の証」
幻の胸が高鳴り、頬が、身体全体が熱くなる。続けて、首筋への噛むようなキス。
「これは執着。……幻を、誰にも渡したくない」
狼であるジェイクらしい、と幻は思う。その気持ちは、自分も同じだ。
「はい……もっと、僕の心を貴方の元に縛ってしまって欲しい」
だから、もっと僕に。キスを教えて下さい――
幻の想いに答えるように、ジェイクは彼女を抱き寄せた。少し冷え込んできたが、白銀の光とお互いの体温が心地よい。そしてそっと、唇を重ねて。
「このキスの意味は……愛情だ」
「ふわふわ、きらきらなのです……」
遠目には輝く野原、近くでは頭上の白銀霞を見上げれば、星を集めたドームのよう。
「ええ。こうして近くで見ると、本っ当にキラキラなのね」
珠緒と蛍、親友同士で共に見上げる。白銀の輝きは、蛍が持つロケットの光に劣らない。
「珠緒さん、見て見て! こう、穂を優しくもふもふすると……」
光の粉がふわっと舞い散り、二人を優しく包んだ。
「おぉぅ……何やら、不思議な感覚です……やわらかくて、あたたかい」
頭上の穂へ目を向け、何だろうと考えてみても分からない。その間にも光は絶えず、頭上からも降り注いでくる。
「ね、珠緒さんも一緒にもふもふしましょ! ほら!」
「はい……やってみましょう。もふもふ……もふもふ……」
珠緒が背伸びして穂に触れれば、同じように光の粒が降って彼女を照らした。
「あっ……」
光を浴びた珠緒の姿があまりにも綺麗で、蛍は、その頬に手を伸ばさずに居られなくて。
どうしました? と、珠緒が首を傾げるが、もう少しだけ見ていたい。
「……ね、少しだけこのままでいさせて……?」
「そのまま、ですか? ……では、そのように……」
しばし、緩やかな時が流れて。
「この場所でしたら、ゆったりとした歌と踊りも、合いそうです。ご一緒に、いかがでしょう」
「ええ、いいわね」
珠緒がゆるりと歌い舞う。それに合わせて、蛍も一緒に舞ってみる。
秋の思い出は、お互いの笑顔と共に。
「手を繋ぎませんこと?」
ヴァレーリヤが照れた表情で、タントに手を差し出す。タントの方からその表情を窺い知る事は出来ない。どうしたのかと、首を傾げながら。
「ええ、ありがとうございますわ。レルーシュカ」
二人きりの時だけの特別な呼び方で微笑んで、差し出された手を取った。
「……その、はぐれて迷ってしまってはいけないでしょう? 貴女、意外と怖がりですもの」
「あら、貴女と一緒なら大丈夫ですわよ? 貴女が隠れて脅かしたりしない限りは!」
タントがくすっと微笑む。こちらも、普段はそう見られない表情だ。
手を繋いで歩いていくと、白銀霞の穂がアーチを形作り、ひときわ鮮やかに輝く場所に出た。
「……わあ!」
「まあ! まあ! とっても綺麗ですわ!」
舞い落ちる光を捕まえようとヴァレーリヤは手を伸ばすが、風圧でふわりと避けられてしまう。
「うーん、難しいか。あんまりにも綺麗だったから、タントにプレゼントしたかったのだけど」
「あら! 綺麗な光なら、もうレルーシュカの掌の中にございますわよ?」
そう言って、タントがあわく光って見せる。いつもの眩い煌めきでなく、周囲を舞う白銀の光に少し似た、柔らかく温かい光を纏って。特別な人の手を、少し強く握る。
「……ふふ。こんな綺麗な光が掌の中にあるなら、満足しないと神様に怒られてしまいますわね?」
ヴァレーリヤも、目を合わせて微笑んで。大切な人と繋いだ手を、ぎゅっと握り返した。
本格的に冷え込む夜も、迷宮の白銀霞は絶えず輝く。柔らかな銀の光が、冒険者たちを優しく照らし続けていた。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
キャッキャからあまあままで、皆様のプレイング、とても楽しく拝見させていただきました。
全員描写しましたが、万一抜けがありましたらご連絡ください。
ご参加、誠にありがとうございました!
秋の思い出になりましたら、とても嬉しく思います。
GMコメント
素敵な企画にお邪魔させていただきます、白夜です。
リアル白銀霞とは調べものの最中に出会ったんですが、本当にでっかいんですよ!
そんな白銀霞が深緑パワーでキラキラ光る、白銀の秋をお届けします。
・・・・・・・
●目的
深緑の不思議な白銀霞(パンパスグラス)を見に行こう!
●ロケーション
深緑の迷宮森林内、特徴的な白銀霞が群生している区域です。
普段は外との接触を持ちたがらない幻想種が暮らしていますが、
(彼らの習慣に合わせて)銀色の何かを身に着けたローレットの皆さんは、
外の友人・客人として歓迎してくれます。
(服装や身に着けるアイテムに特別こだわりがある方は、プレイングにご記載ください)
時間帯は夕方~夜の間。白銀霞が輝きだす、ちょうど見ごろなタイミングです。
●迷宮の白銀霞について
OP文章の通り、巨大な、ススキに似た植物です。
迷宮内のものは特に背が高く、最低2m、大きくて3mを超えるものあります。
穂はふっさふさのもっふもふで、夕暮れ時になると、穂全体がぼんやりと発光して
触れるとほんのり温かい光を周囲に散らすのも特徴です。
●できること
【1】白銀霞の真っ只中で歩く・遊ぶ
間近で大きさを感じたり、穂を適度にもふもふ出来たり、
辺りに舞う魔力の光を直接触ったり、感じたりできます。
道は基本的にゆったり歩けますが、植物の背と密度がとても高いので、
場所によっては、迷子に気を付けた方が良いかも知れません。
(これを利用して、かくれんぼなども面白いかもです)
【2】展望台に登って眺める
大きな樹を利用して作った展望台から、白銀霞の群生地を広く見渡せます。
不思議な景色をお楽しみください。後述のカフェで買った飲み物や軽食は、
ここで楽しむ事も可能です。
【3】展望カフェで食べる
展望台内のカフェで飲んだり食べたりできます。眺めもそこそこ良いです。
野菜やお花を使ったオーガニックなケーキやゼリー、サラダにパン、
深緑産の果物やハーブを使ったドリンクをメインに、それっぽいものを頼めます。
ハーブティーはおまかせブレンドもしてくれます。
いずれも深緑パワー(?)で身体にとても良く、美容効果も抜群です。
【4】その他
このロケーションで出来そうな事があれば、ご自由にどうぞ!
※【2】と【3】は場所と出来ることがやや被っていますが、
メインになる行動に近い方をお選びいただくと、描写が良くなると思います。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
・・・・・・
生まれて初めてのイベシナになりますが、どうぞよろしくお願いします!
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