シナリオ詳細
<グラオ・クローネ2018>魔導図書館のグラオ・クローネ
オープニング
●魔導図書館のグラオ・クローネ
『グラオ・クローネ』は混沌に伝わる御伽噺の一つ。
今の幻想種さえ知らない――もっと、もっと古い言い伝え。
幻想はバルツァーレク領のはずれに古い図書館がある。名をディオーネ図書館。
一説には、混沌に存在する数多の曰く付き魔導書を集めた図書館と言われ、貴族ですらそう簡単には入館できないという。
しかし、そんな魔導図書館は一年に一度、誰にでもその門戸を開く日があるという。それがグラオ・クローネ、その日である。
長い黒髪を靡かせた大人びたエプロン姿の少女が、金髪ツインテールの少女に声をかける。
「エリィ、空気の入れ換えはすんだかしら?」
「うん! もう十分なほどお日様と緑の息吹で満たされてるよ!」
エリィと呼ばれた金髪の少女はにこりと微笑んだ。
「リィラ、埃は落とせたかしら?」
「ええ、こちらももう終わります、クレア」
リィラと呼ばれた茶色いボブカットの少女が、黒髪の少女に返事をする。
「よかった、間に合いそうね。利用者の方々に配る『灰色の王冠』も準備は大丈夫だし……うん、時間通りに開館できそうね」
クレアは満足げに一つ頷くと、その広々とした空間を見渡した。
三階建ての建物に、隙間なく詰められた本の数々。書棚を埋めるその本はそれぞれが素敵な魔法を宿している。
それはグラオ・クローネの一日だけ見れる奇蹟。利用する方々が良い一日を過ごせるように、とクレア、エリィ、リィラの三人は今日のために準備を続けてきた。
「さあ、もうすぐ開館よ。準備は良いかしら?」
「うん!」「ええ」
三人の若い魔導司書は持ち場へとつく。
グラオ・クローネ――今日という素敵な一日を演出するために。
●
「魔導図書館をご存じですか?」
グラオ・クローネが近づいてきたある日のこと、特異運命座標(イレギュラーズ)にそう話しかけてきたのは情報屋の『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)だ。
ユリーカによれば、普段は閉館されて誰も入館することのできないその図書館はグラオ・クローネの日だけ、誰にでもその門戸を開くという。
「なんでもその図書館にある本を開くと本の内容やイメージに沿った幻影を見る事ができるのだそうです。その幻影は二人で本を開けば二人一緒に見る事もできるのだとか。
言い伝えによれば、幻影の中で、二人で愛を誓い合えばその愛は永遠のものとなるということなのです」
まあ言い伝えは眉唾ですけれど、とユリーカは付け加える。
「もちろん一人で参加しても、二人以上で参加しても良いそうなのですよ。一人なら図書館を管理している司書の方が一緒に幻影を見てくれるという話もあるのです」
共に幸せな幻影に包まれながら愛や友情を語らうもよし、一人で本のイメージに微睡むも良し、なんなら司書を口説いても良いというわけだ。
「入館に必要なものはなにもないのです。手ぶらで言っていつでも帰ってこれるのです。バルツァーレク領のはずれなのでちょっと遠いかもですが、グラオ・クローネの当日にちょっと行ってみるのも良いのではないかと思うのですよ」
ユリーカの提案にイレギュラーズは一つ頷く。
魔導書が見せる幻影もさることながら、歴史的に古く閉鎖された図書館の中を見る事ができる又とない日だ。
そこで従事する司書というのも気になるかも知れない。
もし予定が空いているならば、行ってみてもよいかもしれないと考えた。
「あ、言い伝えには続きがあったのです。幻影から目覚めたら互いにチョコレイトを食べさせ合うのが慣わしだそうですよ。チョコレイトはもらえるそうですが、自分で持って行くのがよいかもなのです」
それだけ言うと、今の話をまた別のイレギュラーズへとするためにユリーカはその場を離れていった。
残されたイレギュラーズは考える。さて、グラオ・クローネの当日、どう過ごそうか――。
――可能性(パンドラ)はその手の中に。
選択は全て、『特異運命座標』に委ねられた。
- <グラオ・クローネ2018>魔導図書館のグラオ・クローネ完了
- GM名澤見夜行
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2018年03月02日 21時15分
- 参加人数50/50人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 50 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(50人)
リプレイ
●開館
幻想はバルツァーレク領のはずれに古い図書館に大勢の人が集まった。
今日と言う日、グラオ・クローネのその日のみ開かれるディオーネ図書館を楽しみに、これだけの人間が集まったのだ。
窓から外を覗き込んだエリィが笑う。凄い人だね、と。
微笑みながら頷くクレア。
少しばかりの緊張を持ちながら最後の準備を終えたのはリィラだ。
「それでは、開館としましょう」
クレアが二人に声をかける。エリィとリィラは頷き返すと持ち場へとついた。
――グラオ・クローネ。その一日だけ開かれる扉。
沢山の利用者が立ち並ぶその扉を開け放ち、クレアは溌剌とした声で人々を迎入れた。
「ようこそ、ディオーネ図書館へ」
一日だけの奇蹟が、いま始まる――。
●014
手近な書棚に目を通しながら、収められている魔導書の背表紙に触れていく。
ここでしか読むことの出来ないような曰く付きの魔導書の数々。禁書指定になるような書物も、今日は解禁されているのだろうか。
とある書庫を管理する一族の一人である『夢見る幻想』ドラマ・ゲツク(p3p000172) は、新たな知との出会いに高揚していた。そしてまずは、目当ての本を求めて入り口で案内を続けるクレアへと訊ねた。
「こちらに幻想の歴史についての本はありますか?」
「幻想の歴史ですか。ええ、それでしたら……」
案内を受けいくつかのめぼしい魔導書を選び取る。
歴史や成り立ちを調べる事は、ここで仕事をしていく上できっと勉強になるだろう。
「では、さっそく……」
ギフト『インソムニア』。睡眠に対する耐性を発揮するギフトがあれば、一日本を読み続ける事は容易だ。
「朝から晩まで、開館から閉館まで……出来ればこの図書館の本を読みつくすまで、楽しませて貰いましょう!」
そうしてゲツクは本のページを捲るのだった。
「おお、儚く可憐なお嬢さん。わしはギルバート。君の瞳に一目惚れじゃ。此処で逢ったのも何かの縁、いや『ですてぃにー』。二人にとって一生の思い出になる本の旅に行こうではないか」
図書館内で案内を続けるリィラを見つけたギルバート・クロロック(p3p000415) 。突然の告白にしかしリィラの表情は変わらない。
跪き、リィラの手を取ろうとするギルバート。狙うは甲への口付けだが、スルリとリィラに躱されてしまった。
「ギルバートのじーさん、相変わらずわけーなー。躱されてるけど」
「むむむ、なかなかお堅いのう」
「……それで、何かお探しですか?」
リィラが小首を傾げて訊ねると、『自称・旅人』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)が答えた。
「では、ここ。ディオーネ図書館の成り立ちについての本をお願いするのですよ」
「成り立ちですか……あったと思います。こちらです」
誘導するリィラの後を追うヘイゼル、ギルバート、『野良犬』ヘレンローザ(p3p002372)、 『シーナ』7号 C型(p3p004475)の四名。彼らは梟の瞳と呼ばれる魔術結社に属するものと思われた。魔術的遺物や秘術への探究心は高い。
「そうじゃここに伝わる強力な魔導書なんかはあるのですかのう?」
ギルバートがリィラに訊ねる。
「……書庫の方に、数キロメートルに渡って光の柱が敵群を飲み込み消滅させるような力を持つ物もあったと思います。ですが書庫は入出禁止ですので目に触れる事はないかと思います」
「ふむぅ……そいつは残念じゃのう」
「なら罠とか隠蔽の本はー?」ヘレンローザが訊ねる。
「……水たまりに偽装したスライムが相手を飲み込むとか、そう言った物であればあったと記憶していますが……読みますか?」
「そんじゃあとで持ってきて貰おうかなー」
「はい。……ではこちらが成り立ちの本になります」
書棚から一冊の本が渡される。受け取った四人は、閲覧室で本を開いた。
「本から幻影か、興味深い技術だな。一応データに記録しておくか……? 森羅万象の魔術にも何か応用出来る事があるかもしれん」
7号C型が記録を開始しながら、幻影は始まった。
――それはある魔女の記憶。
古今東西ありとあらゆる魔導書を集め利用した魔女は、人里離れたその地に図書館を建て、自らの死の直前、ある悪戯をしかけた。
――こんな危険な本達を野放しにはできないが、封印するのも可哀想だ。
そうしてかけられた悪戯は一年に一度の奇蹟を起こす。
魔女――否、魔導司書ディオーネの記憶はそうして終わった。
「――ディオーネ、魔導書をもちいて戦う魔女の残した悪戯、か」
「ふぅむ、なかなか興味深いのう」
「と、まあ考察する前に、今日はグラオ・クローネ。日頃お世話になっている皆々様にチョコを用意してきたのですよ。チョコを作るなどブルジョワなことは初めてですし不器用ですので、形は悪いかもしれませんがどうぞお受け取り下さいです」
ヘイゼルが皆に手作りのチョコを渡すと、ギルバートは梟のチョコ、ヘレンローザは安い一口チョコ、7号C型は剣と盾のチョコをそれぞれ交換しあった。
口に放りこめばほろ苦い甘みが広がっていく。
「さて、まだまだ時間はあります。もっともっと見て廻りましょうか」
そうして梟の瞳の面々は、新たな本へと手を伸ばした。
そんな梟の瞳の面々と同じように、ここディオーネ図書館の成り立ちや歴史に興味をもつものがいた。『常若なる器』ネスト・フェステル(p3p002748)だ。
グラオ・クローネの日にのみ開かれる門戸。その理由を知りたかった。
「なにか、アルバムなり、創設者の手記なり、またはパンフレットなりはないだろうか?」
「そうですね……成り立ちではなく、図書館として機能するようになってからの記録であれば、あったと思います」
クレアは少し悩んだのち、有る一冊に目星をつける。
「では、それをお願いしようかな」「ええ、少々お待ち下さい」
程なくして一冊の本が手渡された。
どこか手作りを思わせる装丁は華美な装飾もなく魔導書としての魅力は少ない。だが、クレアは「これも魔導書なんです。すごいですよね」と微笑んだ。
クレアにお礼を伝えてネストは閲覧室で読書を始める。ページを開くと幻影が現れた。
――それはディオーネの弟子の管理記録。
ディオーネの死後、触れてはならないと言われた魔導書を管理する日々。弟子の一人がグラオ・クローネのある日、ついに我慢できず魔導書を開いてしまう。
呪いにでもかかるかと思われたそれは、しかし幻影を生み出すだけにすぎなかった。
それから数年の後、ディオーネの残した悪戯が暴かれると同時に、ディオーネ図書館はグラオ・クローネのその日のみ門戸が開かれるようになったという。
「後に残された人達のことを考えると……大変だっただろうな」
幻影を見終えたネストは、ディオーネという魔女の悪戯に呆れる。
「さて、まだまだ時間はあるか、少し図書館の中を探索してみるか?」
と、そこで本の横に『灰色の王冠』――チョコが置かれているのに気づいた。
幻影を見ている最中、クレアが置いていったものだろう。
一つ口にいれると、じわりと溶けていく甘さ。おいしい。
本を返却台へと戻したネストは、そうして図書館探索へと足を向けるのだった。
ディオーネ図書館二階。その書棚の一角で、ある二人が一つの禍々しいオーラを発する本を前に立ち止まっていた。
「いっしょに、みる?」金髪の少女―― 『妖精騎士』セティア・レイス(p3p002263)が声をかける。
「はい! 拙者も、なんだかその本が気になります!」
譲ろうかと思案していたけれど、やっぱり気になって。同じく金髪編み髪の少女――『ロリ宇宙警察忍者巡査下忍』夢見 ルル家(p3p000016)はセティアと共にその本を見ようと声をあげた。
「拙者! 夢見ルル家です! よろしくお願いします!」
元気いっぱいに自己紹介。
「わたしはセティア、よろしくね」
ドキドキしながら邪悪な気がする本へと視線を向ける。
(勇者で聖剣騎士だから、地元の人達みたいに、馬にのって口でブンブン言いながらパラリラしたり、跳ねてみろやとかいって、弱そうな人からおやつ代もらったりとかしない)
そう言う人達は苦手だと、セティアは思う。けれどちょっぴりワルしてみたい時もあるのだ。だから選んだ、この本を。
二人で椅子に腰掛け本を開く。
――それは世界を燃やしつくした者の話。
世界が燃えていく。
城も、街も、孤児院も、図書館も――人も、動物も、何もかも。
全てが灰へと変わっていく。
なんて無惨な光景なのだろう。二人は幻影の中呆然とした気持ちになる。
しかし。
ふと二人は気づく、手にした炎の塊に。
そう、燃やしたのは二人。
世界全てを燃やし、灰へと還したのは他ならぬ自分達なのだと気づいた。
あぁ、こんなに酷く悲惨な光景なのにどこか心が惹かれる。ルル家は胸を押さえる。
(それに……『私』は、これを、知っている……?)
こんなにも酷く悲惨な光景を、どこか懐かしく……感じているような……。
「ふんぐるい……むぐるうなふ……くとぅるう……るるいえ……うがふなぐる……ふたぐん……」
幻影が終わる。
ハッと気づけばそこはディオーネ図書館の中。
セティアは本の横に置かれた『灰色の王冠』を手に取り口に放り込んだ。
「まじでぱねく、てんあげな幻影」
吹き抜けの高い天井を見上げながら呟いた言葉は、静寂湛える図書館に吸い込まれていった。
「どんな世界が待ってるのかなー? ドキドキワクワクするよ!」
『輝きのシリウス・グリーン』シエラ バレスティ(p3p000604)はソワソワと待ちきれない様子で本を待つ。
エリィへとお願いした番号は153。イチゴが食べたかったからと言うわけではないが、なんとなく気に入った番号だ。
「お待たせしました! いくつか持ってきましたよ!」
五冊ほどの本をテーブルの上に置いたエリィは一冊の本を手渡してきた。
「でも、こんな難しそうな本読むなんてすごいですね。エリィにはちんぷんかんぷんだよ」
「え、難しい本なの?」
「しょくぎょーりんりとか言うらしいよ?」
むむむ、と喉をならすシエラは、しかしせっかく用意してくれた好意を無駄にはできないと、エリィを誘う。
「あなたと一緒にこの本の世界を見てみてみたい!」
「それじゃ一緒に見てみましょう! めくるめく幻影をご覧あれ!」
――それはあるイチゴ大福職人の倫理観のお話。
イチゴに魅入られイチゴ大福を届ける事に邁進した男の話。
自らに課せられている責任とはイチゴ大福を全ての人に届けるものだと男は言う。故に、その責任を果たすため自らを律し規範を示していく。
小難しい話の中に、たしかなイチゴ大福への愛を感じる、そんな幻影だった。
幻影が終わる。
「これって……」
「ふふふ、しょくぎょーりんりって難しい話だけれど、イチゴが絡めば少しは楽しめると思ったの! どう楽しめたかな?」
エリィは悪戯顔でシエラに訊ねる。
「とっても……イチゴ食べたい」
「今はチョコで我慢してね!」
笑いながら『灰色の王冠』を手渡すエリィ。
ストロベリーなチョコを想像しながら、シエラはチョコを口に運ぶのだった。おいしい。
「いっぱいの本なのですっ、凄いのですっ!」
『神秘を恋う波』ルアミィ・フアネーレ(p3p000321)は図書館の蔵書に目を輝かせながら、神秘に関する本を探して書棚を巡る。
クレアが案内してくれた書棚はこの辺りだ。背表紙からはどのような本かはわからないため、何冊か手に取って開いてみる。
――それはある隠者が経験した神秘的合一の経験。
自己の最内奥において『自己』が破られる体験は、ルアミィに新たな悟りを開かせるに至るだろうか――。
幻影が終わればぼーっとしている自分に気づく。神秘的な体験を直接経験することで、感覚が麻痺したように感じた。
「こ、これは凄いのです」
圧倒的な体験に、ルアミィは興奮が止まらない。早速次の本へと手をかけた。
そうして時間の許す限り、ルアミィは神秘的体験や神秘の発現、神秘秘術などを幻影として見て経験することにした。
その場には三人が揃っていた。
司書達の案内でそれぞれ集まった三人――『魔動機仕掛けの好奇心』チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)、『金髪ヤンキーテクノマンサー』栗梅・鴇(p3p004654)、 『人 工 無 能』Q.U.U.A.(p3p001425)はそれぞれ本を手にしていた。
どうやら同じ分類の本を手にしたようだった。せっかくなのでと、三人揃って本を読む事にしたのだった。
「としょかん! 本がいっぱい!∑(・Д・・) よーし、きゅーあちゃんいっぱい勉強してかしこくなっちゃうよー!(@o@/」
「マジ、スマホやパソコンに関する本まであるなんてな……っべぇわマジ」
「それじゃちょっと見てみようか」
チャロロの言葉を合図に三人が本を開く。
――それは精密に作られた機械達の幻想。
「おおっ、マジ、スマホだ。あぁこの操作感、これこれ!」
「すごい、こんな精密な機械の数々の知識があるなんて……部品とかどうやって作っているのだろう」
鴇とチャロロが驚きと共に感動の声をあげる。
次々と変わっていく機械の幻影を眺めながら、しばしの時を過ごす三人。
そして。
「……むずかしい!よくわかんない!(x_x)」
Q.U.U.A.が音をあげた。
「あぁ……パソコンとスマホが消えていく……くぅ、ぜってぇ使えるようにするからなぁ!」
それは鴇の夢であり目標だ。
「ふふふ、素晴らしい光景だったね。知的好奇心がすごく刺激されたよ」
チャロロはご機嫌なまま、次の本を探そうと席を立とうとした。
そこでQ.U.U.A.が声をあげる。
「よし! 勉強やめ! あそぼう!(`・ω・´) エリィちゃん! 派手でたのしい、ゲームみたいな本ってないかなー!(>ヮ<)」
通りかかったエリィに声をかけるQ.U.U.A.。
「ゲーム? うーん合ったかなぁ?」
「ゲームブックっていうのかな? できればたいせんとか、きょうりょくプレイができそうなの!」
「あっ、それなら……」
と、目星がついたのかトテトテと歩いて探しにいくエリィ。
「えぇ……マジでそんなのもあるの」
「いやぁ実にすごいね」
「二人もやるよね? やるよね? いっしょにあそぼう!\(≧▽≦)/」
元気に両手を広げるQ.U.U.A.に苦笑を漏らしながら、チャロロと鴇は仕方が無いなというように、Q.U.U.A.に付き合うのだった。
●666
その本を開いた時、幻影だと言うのに、どこからか音が聞こえてくるようで、『白き旅人』Lumilia=Sherwood(p3p000381)は全ての音を拾うように、呼吸すら止めてしまうように、耳を澄ませてその音を聞いていた。
「……懐かしさと……これは……悲しさ? あの方が……生を終えたときですら、こんな気持にはならなかったのに。……涙なんて枯れたものだと思っていたのに。こんなに、会いたく…思うなんて」
頬を伝う涙を拭う事なく、ただ幻影とともに揺れ聞く。
――それは遠い世界の民謡。
アイルランドと呼ばれた国に伝わる伝統音楽。
Lumiliaは思う。きっとこの幻想――世界――にはこの音楽の源泉たるものはないのだと。けれどそれを識る事ができたのだと思う。
幻影が消える。
読み終えた本のページを閉じると、Lumiliaは涙を拭い、次なる音楽を求めて、本へと手を伸ばした。
三人が集まり顔を見合わせる。
分類番号666。或る世界では悪魔の数字と言われるその数字。
リィラが手にしたいくつかの本を『屍の死霊魔術師』ジーク・N・ナヴラス(p3p000582)、『希望の結晶』ケント(p3p000618)、『銀血』白銀 雪(p3p004124)に渡す。
「さて、一体なにがでてくるかな?」ジークが期待を込めて二人を見る。
「恐ろしい数字ということだけど、どうだろうね」
ケントが手にした本の裏表紙を眺める。
「本に……悪い物はないと思う」
長い銀髪を揺らしながら雪が言った。
「では、確認してみようか」
ジークの合図で、三人は一斉に本を開いた。
――それは海洋生物の一生。
「ほう、これは……」
「――魚だ」
「……綺麗」
広がる三つの幻影は、それぞれの魚の一生を映し出す。
それは人の手により管理された一生。養殖の記録だ。
卵からふ化した稚魚たちが、懸命に海を泳ぐ。そして与えられるエサへと群がり、徐々に成魚へと成長していった。
広がる海のパノラマ。大規模養殖の一部始終を三人は体験する。
そうして幻影は途切れた。
「――まさか魚の養殖とはな」
ジークが喉の奥でくくく、と笑った。
「この世界の出来事なんだろうか? 不思議な体験だった」
「……でもとても綺麗だった。素敵な本だ」
三者三様の意見を持ちながら、三人は今見た幻影を追想する。
次はどの本を読もうか。そんな話を交えながら。
三人が話している横で『黒のミスティリオン』アリシス・シーアルジア(p3p000397)もまた分類番号666の書棚を見て廻っていた。
「図書館という形式は普遍的なようですが……様相は、世界の在り様に応じるのですね」
神秘を蒐集する組織は知らなくもない。けれど、アリシスの知るそれは研究用か封印用。図書館として公開できるような形になっているのは、見た事がない、とアリシスは思う。
どこまでも特異なこの図書館で、どの本を手に取るか。
それはちょっとした悪戯心だった。
しかし、どうやらこの数字、先客が居たようだ。話の内容からどういった本なのかが分かる。
さて、どうしたものかと視線を揺り動かしていると、ひどく惹かれる本が目に付いた。分類番号は同じく666。さてこの本はどんな幻影を魅せてくれるのだろうか。アリシスは心を決めると、その本を手にとり、仲間達の元に戻った。
「成程、立派な物だ。これだけの蔵書はなかなかお目にはかかれまい」
アリシス、『侵食魔剣』フィーリエ・アルトランド(p3p000693)と共に図書館を訪れた『堕ちた光』アレフ(p3p000794)は、その蔵書に目を輝かせる。
時間が許されるならばいつまでも調べていたいが――生憎時間には限りが有る。
さてどこから手をつけようか、本へを視線を注ぐアレフを見てフィーリエが笑った。
「アレフは本当に知識に対して貪欲ね」
そういうフィーリエも本を決めたようだ。手にした本を持ち閲覧室へと足を向けた。
「私は私で暫く楽しんでおくから。ごゆっくりどうぞ、お二人さん」
フィーリエは本を楽しむならば一人で、と決めていた。
「どの本を開いてみるか……物は試しに一つ、どの様な物があるか開かせて貰おう」
そんなフィーリエを気にする事なく、アレフとアリシスは本を開いた。
アレフが開いた本の幻影――それはある畜産経営者の記憶。
食卓から消える牛乳を取り戻す。その為に自分に何ができるか。ただひたすらに牛乳とともに生き抜いた者の物語が幻影として現れた。
「ふむ興味深い……ミルクの話とはな」
普段の食卓に、普遍的に並ぶ一飲料物に人生をかけた男の物語は、アレフの好奇心を刺激した。
幻影を眺めるアレフの横で、アリシスもまた幻影を眺めていた。
――それは、大海を生きる巨大生物の一生。
「これは……クジラ?」
この世界ではないことはすぐにわかった。どのような世界なのかは不明だが、その世界ではクジラを人が養殖していた。
見た事もないエサを大量に使い養殖する様はまさに圧巻の一言。
普通に考えれば、エサの自給だけで破綻しかねないクジラの養殖を、なぜこの世界では実現できているのか。
幻影からはそこまで読み取ることはできなかったが、ただわかるのはこの世ならざる技術が使われているのは間違いなかった。
二人が幻影に没頭している頃、フィーリエは一人閲覧室で本を開いていた。
――それは或る図書館の存在を示唆する内容だった。
ディオーネ図書館と同種の、力ある魔導書を収集する図書館。
その光景は神の書籍館というべきか。書棚は宙に浮き、天井はなく、天を覆い尽くすほどの本が立ち並ぶ。
一人の老人と、一人の少女が管理するその図書館は、異界図書館と名付けるに相応しい光景を、フィーリエの眼に焼き付けるのだった。
――暫しの後。
幻影を楽しんだフィーリエはアレフ、アリシスの元に戻る。
二人はどんな本に出会えただろう。フィーリエは自身が見た本の内容を話しながら雑談へと入る。
そのタイミングを見計らってアレフは二人にチョコを渡した。
「今日はそういう日なのだそうだからな、郷に入っては郷に従えだ」
一瞬驚くフィーリエは、しかしすぐに察し自分からもチョコを配る。
「日頃の感謝を込めて、貴方達に。私からもプレゼントよ」
「グラオ・クローネ、馴染みが無くもないですね。ふふ、たまには良いでしょう」
アリシスもまた同様に。
三人は揃ってチョコを口に放り込みながら、しばし読書の感想を述べ合うのだった。
「これはまた、面白そうな図書館ですね」
そう零しながら適当な本を見繕った『メガネ小僧』メド・ロウワン(p3p000178)は本を開いた。
――それは異界の言葉の翻訳辞典
たこの足を持つ生物が幻影として生まれ、話しかけてくる。
異界の言葉と同時に翻訳された言葉が文字として浮かび上がる。
二カ国語字幕放送というべきか。文字の洪水がメドを襲った。
「ふう……」
未知の文字の羅列にすこし頭を痛めながら、メドは本を読み終え閉じた。
そこにリィラが通りかかる。メドはリィラに話しかけた。
「こんにちは。何かお勧めの本はありますか?」
「……お勧めですか。グラオ・クローネですし、それに関する本はどうでしょうか」
「では、それをお願いします」
手渡された本を開く。
グラオ・クローネの御伽噺は聞いた事があったが、幻影として見るとまるでその場に居る登場人物のように感じる事ができた。
少しの興奮を覚えながら、物語を読み終えたメドは、リィラにお礼を言う。
「このような素晴らしい場所を提供していただけましたし、よけば何かお手伝いさせてください」
これに対してはリィラは丁重にお断りをいれた。
「利用者様のお手を煩わせる事はございません。どうかごゆるりと本の世界をお楽しみください」
「そうですか、ではそうさせて頂きます」
リィラから手渡された『灰色の王冠』を口に入れながら、メドは次なる本を探しに書棚へと向かった。
「うわぁ……すごい本……!」
「はえー。すっごい。ここまで立派なものも久々だ」
目をキラキラと輝かせながら『駆け出し冒険者』シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)は手を合わせた。傍にいた『魔王勇者』ルーニカ・サタナエル(p3p004713)もまた、その設えの豪華さに目を丸くしていた。
シャルレィスはこんなすごい図書館にくるのは初めての事だ。沢山の本に囲まれてドキドキワクワクする。
(私が本が好きっていうと意外に思われたりすることも多いんだけど、そもそも冒険者になりたいって思ったのもいっぱい読んだ冒険物語に憧れたからだしね)
冒険者に憧れて家を飛び出した少女は、昔夢中だった冒険譚のような物語を求めていた。
「どんな幻影が見られるんだろうなぁ……すっごく楽しみ♪」
ルーニカもまた、普段お目にかかれないものがあるんじゃないかと、期待していた。
シャルレィスはそばにいたクレアに声をかける。
「司書のお姉さん、お勧めの冒険物語ありますか?」
「あ、それなら魔王とか勇者の話がいいなぁ」
シャルレィスの問いかけに重ねるようにルーニカが言う。
「冒険物語……勇者や魔王といったものですね。はい御座いますよ」
「やった。じゃぁそれをお願いします」
お待ち下さいと本を取りにいったクレアが戻ってくるのは、すぐのことだった。
手渡された本を受け取りながら、クレアも一緒に見ないかと誘い、三人で本の扉を開いた。
――それは天才の勇者と努力家の魔王の物語。
神に選ばれし勇者は天賦の才を持って魔物を打ち払う。一方、魔王に担ぎ上げられてしまった少年は魔王たる才能がなかった。
けれど仲間の為、一族、国の為にと努力を重ね、何度も何度も勇者に敗れながら立ち上がり、ついに最後の決戦で勇者を討ち倒すに至った。
世界は魔王に支配されてしまったけれど、人との共存を目指す魔王は、そこからまた努力を積み重ねていく。
それはそんな物語だった。
クレアが言う。
「私はこの物語が好きなんです。魔王は人間の敵なのにどこか人間くさくて、一生懸命努力して、最後はその努力が報われる。憎たらしい勇者に勝った時は本当に痛快でした」
「わかりますわかります、ほんっと勇者むかつくやつでした!」
「努力する魔王か……他人事とは思えず、思わず感情移入してしまったな」
魔王であり勇者でもあるルーニカは興奮冷めやらぬというように手をぐっと握った。
「では、これを」
クレアは微笑みながら『灰色の王冠』を二人に渡す。
「じゃあ私も!」
シャルレィスは街で買ってきた猫型のチョコをお礼にと返す。
「はい、ありがとうございます。あとで頂きますね」
クレアは礼を述べてその場をあとにした。
残されたシャルレィスとルーニカは、今一度幻影を思い出しながら、『灰色の王冠』の味を確かめ、その甘さに顔を綻ばせた。
●210
一人図書館を見て廻っていた『反骨の刃』シェンシー・ディファイス(p3p000556)は、特にこれ、といったものは考えていなかった。
図書館内部を観察しながら、書棚を巡り、目に付いた装丁の本を一冊取り出す。
青い表紙に草木の装飾が見事なその本を、開いた。
――それはある民族の戦士の物語。
危険蔓延る森の中を戦士が走る。それは狩猟民族としての本能。
今日一日を食いつなぐために、他の生物の命を刈り取る戦士は、深い森を駆け抜け獲物を狙う。
手にした自前の槍は鋭く強固。
反撃にでる獲物を前に一歩も引かず戦い抜いた戦士は、大地と空に感謝を繰り返した。
繰り返される毎日を、戦士は戦い抜くのだった。
「ふーん、かっこいいね」
表情をかえることなく、呟き漏れる感想は心からのものだろう。
シェンシーは浮かび上がる幻影を自分なりに楽しみながら、次の本へと手を伸ばしていった。
閲覧室で一人で腰掛ける『夢に一途な』フロウ・リバー(p3p000709)は、エリィより手渡された本をゆっくりと開いた。
「素晴らしいですね」
映し出される幻影は期待を大きく越える物だった。
どのようにしてこのような幻影を生み出しているのか。その仕組みが気になってはいたが、物語もまた夢中になれるようなものだった。
――それは或る不死の魔法使いの物語。
天涯孤独の身である老齢の魔法使いは、或る日不死の呪いを受けてしまう。
隠者として人知れず死ぬ予定だった魔法使いの予定は狂い、その後の人生は一変していく。
ある時は人を助け、ある時は国を、そしてついには世界の窮地に立ち向かう。
力も、体力もない、ただ死ねない老人は、持ちうる知識を総動員し立ち向かっていった。
それは、そんな物語。
「……なるほど……」
フロウは老人のその旅路の先にどんな結末を、ただ静かに受け入れる。
持参したチョコレートを口へと放りこむと、本を静かに閉じた。
本の感想は自分の胸の中に。巡り会えた物語に感謝をしながら、今しばらくその余韻に浸るのだった。
「今日はよろしくお願いします」
『逝人丸』陣真慈 識(p3p002691)はクレアへと頭を下げる。こちらこそ、とクレアも微笑みながら頭を下げた。
どこか姉に似た雰囲気を持つクレアに一礼した識は、書棚へと目を向けた。
「幻をみれる本か、すごくいい」
ワクワクしながら、本へと手を伸ばす。番号は546番。本能と直感で選らんだ緋色の背表紙は何かの図鑑のようだった。
閲覧室に行き、マフラーを外してから着席して一息。少し緊張していた。
本を開く。
――それは電気で動く鉄道の一覧だった。
一目で分かる異世界の技術。
大勢の人間を乗せ運ぶ大型の乗り物。鉄のレールの上を走る、走る。
その種類は何百にも及ぶ。資材を運ぶ物もあれば、超高速で走るものもある。種類は多用だ。
いくつもの乗り物の幻影を見終えると、ふぅと一息ついた。
「なんか……夢を見てたみたいだ」
そういえば、と。チョコを食べるのだっけ。
「……あ、ここ飲食いいのかな?」
誰に言うまでもなく呟いた言葉は、しかしクレアの耳にはいる。
「大丈夫ですよ。よかったらこちらも食べて下さいね」
そう言って『灰色の王冠』を手渡してくる。
識はクレアにお礼を述べる。
「あの、本よかったです。月並みな感想でスイマセン。また、来てもいいですか? ほかの本も見てみたいです」
「ふふふ、一年後になってしまいますが、ぜひ。今日もまだ時間はありますから気になった本は見ていってくださいね」
微笑みながら立ち去るクレアにもう一度お礼を言うと、識は次はどの本を読もうか、と席を立ち書棚へと目を向けた。
「……歴史ですか」
『アニキ!』サンディ・カルタ(p3p000438)と『暇人』銀城 黒羽(p3p000505)、そして『医者見習い』クリストファー・フランム(p3p002949)はリィラに幻想の歴史の本を訊ね聞いていた。
「そう、できたら一緒に見てもらって解説つきで」
「簡単な成り立ちや、世代交代の様子なんかを教えてくれると助かる」
「面白い歴史の本なんかでも良いですよ」
「かしこまりました。少々お待ち下さい」
そう言ってリィラはしばらく姿を消すと、数冊の本を持って戻ってきた。
サンディと黒羽とクリストファーそしてリィラの四人は幻影に身を委ねる。
「幻想は無辜なる混沌でも最も長い伝統を誇る大国です」
移り変わる幻影を見ながら、リィラが解説を加えてくれる。
――それは伝説的勇者の物語。
「勇者がこの国を建てた理由は定かではありませんが、生涯をかけて踏破を目指したという『果ての迷宮』が理由の一つではないかと言われています」
数百年の時を経て、今だ未踏破の迷宮。
王都『メフ・メフィート』の中心部に存在する迷宮へと挑む姿が幻影として映し出された。
それから時代は移り変わっていく。
様々な国難や時勢の変化を乗り越えながら、移り変わっていく幻想。
その時々にリィラ個人の感想を交えながら解説が続いた。
最後に、北方のゼシュテル鉄帝国から侵攻とギルドローレットについて触れたところで、幻影は途切れた。
「……お疲れ様でした。こちらの本はこれでお終いですね」
「勇者は果ての迷宮を踏破したかっただろうな。うまくやれば行けたんじゃないか?」
「どうでしょうね……。それに踏破されていたら、この国のあり方も変わっていたかもしれません」
歴史について話すリィラは、どこか楽しげで、サンディはそれだけで誘って良かったと顔を綻ばせた。
「……よろしければこちらをどうぞ」
リィラが『灰色の王冠』を三人に渡す。
「読み終えたらチョコを食べさせるのが習わしだっけ?」
クリストファーの言葉にリィラがコクリと頷いた。
サンディと黒羽は有り難く頂戴すると、口へと放りこんだ。
「優しい甘いの。どうぞ」
クリストファーはお礼にと、リィラに用意していたチョコを渡した。「ありがとうございます」と、リィラはお礼を重ねて、ポケットへとしまい込んだ。後で食べるということだった。
チョコを食べながら黒羽がリィラへと語りかける。
「あーそのなんだ。ちょっと小耳に挟んだが背丈を気にしてるとかなんとか。別に気にしねぇでも良いと思うがなぁ、背丈じゃ人間図れねぇよ」
「あ……。ありがとうございます」
リィラの表情は変わる事はなかったが、その声はどこか嬉しそうに三人には聞こえるのだった。
「この図書館で最も読まれる本……ですか?」
『終ワリノ刻ヲ看取ル現象』エンアート・データ(p3p000771)は丁寧に、物腰が柔らかそうな口調と仕草で、クレアへと訊ねた。
それはこの図書館で最も読まれる本の上位三タイトルと簡単な内容だ。
「そうですね……ここはグラオ・クローネの日にしか開館しない場所ですから、訪れる利用者様も皆グラオ・クローネに関する本を選ぶ傾向が強いですね」
「ではそれを見せて頂きましょうか」
「ええ、ではお待ち下さいね」
クレアは足早にその場を去ると、すぐに本を手に戻ってきた。
――それはグラオ・クローネの御伽噺。
すでに聞きかじっているグラオ・クローネの物語が幻影と共に流れていく。
しかし、その間もエンアートは本の世界に浸ることはなく、内容をただただ確認し思考していた。
この世界に関わる情報はないものか。注視し、慎重に視線を巡らせる。
よく読まれる理由はクレアが言った通りなのだろう。
グラオ・クローネのその日だけ開く図書館で、グラオ・クローネの物語を追想する。これ以上無い組み合わせだ。
ただそれだけではないのかもしれない。
移り変わる幻影を眺めながら、エンアートはさらに深く考察の旅へとでるのだった。
「……珍しい本が……沢山あるって……聞いたから……来てみたけど……。……ふむ……本当に……見たことない本が……いっぱいだね……さて……どれから……読んでみようかな……?」
「どんな本なんだろうね? 中身がわからない、というのも中々面白いじゃないか」
『青混じる白狼』グレイル・テンペスタ(p3p001964)と『灰燼』グレイ=アッシュ(p3p000901)がそれぞれ本を持ちながら閲覧室へと足を運ぶ。
気になった物を手に取り、中身を楽しみにする様は福引きなどに通じるものがある。
二人はそれぞれ椅子に腰掛け本を開いた。
グレイルの本――それはある乾燥地帯に繁栄した都市の物語。
グレイの本――それはある男が生涯をかけて書き上げた全集の一遍。
二人はその本にどんな感想を持つだろうか――どのような感想であれ、きっとすぐに次の本を読みたくなるに違いはなかった。
流れゆく幻影を眺める二人の手元に、そっと『灰色の王冠』が置かれた。
溢れんばかりの本を前に 『孤兎』コゼット(p3p002755)は悩んでいた。
あんまり本を読んだ事がないコゼットは好奇心からこの場所を訪れていたのだ。
「本いっぱい、だね、なに読めばいいか、わからない、から、とりあえず、近くの本、見てみよう、かな」
緑の背表紙の本を手にとり、閲覧室へと向かう。
閲覧室では皆一様に本へと視線を注いでいる。
「本広げてる人たち、みんな、幻想、みてるんだ、楽しそう。あたしも、いいの、見れたら、いいな」
着席して、本を開く。視界いっぱいに幻影が広がった。
――それは、ある神殿の建築構造のお話。
難しい話が多かったけれど、何もないところから複雑な一つの建物が作られていく様は見ていて楽しかった。
コゼットは今しばらくの間、難しい話を読みながら幻影の建築物を見学することにした。
――それはある泉に生まれた妖精の物語。
リジア(p3p002864)は幻影を見せる本というのに、心当たりがあった。たしか3D眼鏡という道具を使って見る本だ。存在を知っているだけで、触れた事はなかった。同じような物だと思って本を開き幻影を見た時に、その実像感に感嘆の溜息を漏らした。
これほどまでにリアルな幻影は他では見られないだろう。物語への没入感が圧巻の一言だ。
物語は泉に生まれた妖精が、生きるために人の生気を分け与えて貰うために、あの手この手を駆使するお話だった。
「……うーん……いまいち?」
リジアは首を傾げる。物語としてはヤマもオチもないものだったために、そう言った感想がでても仕方ないだろうと思われた。
リジアは気を取り直し、手にしたチョコを司書達に渡しながら、別の本を探しに行く事にするのだった。
●442
「わあ……!」
『ヒトデ少女』メリル・S・アステロイデア(p3p002220)は図書館内を見渡し声をあげた。
何処を向いても本、本、本。すごい! と大はしゃぎ。通りかかったエリィに「しーっ」と促される。
「……はっ。図書館内は静かにだよね。小声ではしゃぐよー」
声量を下げたメリルの横で、『空想JK』縹 漣(p3p004715)が目を潤ませて身悶えていた。
(なんなんこの図書館、めっちゃ素敵っちゃけど! この建物デザインした人天才なん!?)
感性にドンピシャ来てしまった漣はゴロゴロと転げ回る。そんな漣をエリィが止めるまでそう時間はかからなかった。
――で。
自己紹介を終えた面々は連れだって図書館内を歩いていた。
「んー、何を読もうかなー」
「ウチ、妖精とかドラゴンなんかが分かる図鑑がいい! 一緒にエリィちゃん描きたい! 大丈夫怖くないよ」
「あはは、漣さんは面白いね。図鑑ならここにあるよ! メリルさんはどうしますか?」
「幸運がありそうな777の本にしようかな? エリィさんも好きなんだっけ?」
「うんー、人形劇好きなの! っと……」
そこで書棚をウロウロとしている一人の少女を見つける。
エリィが声をかけると、少女――『blue Moon』セレネ(p3p002267)は答えた。
「それは、星座の……満点の星空が見られたらいいなと思って。きっと、素敵だと思うのです」
「それなら4門だね。ぐるっと回って反対方向。緋色のベルベットの厚みのある背表紙で……よかったら一緒に行きませんか?」
「うんうん、一緒に行きましょう」
「わ、良いのですか? 嬉しいです!」
そうしてエリィを中心にメリル、漣、セレネの三人は読みたい本を手にとって閲覧室へと辿り着く。
本を開けば、四人の瞳に飛び込む幻影達。
人形の勇者の冒険譚は、しかし出てくる魔物達がどれもリアルな造詣で、そのアンバランスさに笑みが溢れる。
「めっちゃ凄いなぁ。マジ神書!」
「あっ、勇者がドラゴンを倒しましたよ。かっこいい」
幻影が移り変わる。
戦いが終わったあとは、静かな夜の天体が映し出される。
満天の夜空は静かに時を刻む。古の勇者達もこの星空を見ていたのだろうか。
「エリィさん、あの星座は何でしょう? あ、流れ星です!」
「幻影でも願い事叶うかもね!」
「次見つけたらお願いしてみましょう」
ゆっくりと進む時の中、今しばらく四人は満天の星空にその身を委ね、微睡むのだった。
煌びやかな設えの会場で、『ノーブルブラッドトリニティ』シルヴィア・C・クルテル(p3p003562)は幻影と共に舞い踊る。
――それは絢爛豪華な舞踏会の物語。
代わる代わる、相手を代えて、クルクルと舞踏会に華を添える。
「ふふふ、楽しいですわね」
いつしか幻影の中心はシルヴィアに変わり、王子を思わせる男性とのカップルとなる。
楽しい楽しい舞踏会。いつまでも続いて欲しいと願いながら、けれど時間は過ぎていって――。
物語は終わりを告げる。同時に幻影も途切れた。
「ふう……」
一息ついて、夢見心地の心に息を吹き込む。
「こちらをどうぞ」
クレアが『灰色の王冠』を差し出す。
「では、こちらと……紅茶もどうぞ」
シルヴィア持参したホワイトチョコと紅茶をクレアと交換し合う。
口の中で溶けるチョコの甘さを感じながら、覚めやらない心もそのままに、次の本へと手を伸ばした。
『うそつき妖精』エルディン(p3p004179)はホラ話のネタを探してこのディオーネ図書館を訪れていた。
初めて訪れる場所だ。その光景も良い刺激になるかと思っていた。
「司書さん、俺は617番の本で」
エルディンに言われて、すぐにクレアが目当ての本を数冊もってきた。
受け取り、さっそく開く。
――それはある作物の物語。
工芸作物と呼ばれる長い工程を経て別の形へと姿を変える。
それは繊維だったり、油、糖、ゴム、香辛……。
様々な作物が手間暇をかけて変化し人の役に立つ。
その光景は人工的な手段よりも、むしろ雄大な自然のすごさを垣間見せるものだった。
「くっ……いけねぇいけねぇ」
エルディンはその光景に当てられて、大粒の涙を零す。
涙もろくなっているのは理解していたが、何が引き金になるかわかったものじゃない。本を閉じ声を押し殺そうと努力する。
「どうかなさいましたか?」気づいたクレアが声をかける。
「なに、昔危険な船旅で死に別れたクルーを思い出しただけさ」
それは嘘の返事だ。そのことを本を持ってきたクレアはわかっていた。
けれど、追求することはなく、静かに『灰色の王冠』を差し出し、その場を後にする。
後に残されたエルディンはチョコのほろ苦い甘みを感じながら、今しばらく涙を抑えるように空を仰ぐのだった。
幻想海賊団の四名は、嵐に飲まれていた。
――それはある海賊団の物語。
『(自称)海の男』エリック=マグナム(p3p000516)、『迷い込んだ狼と時計』ウェール=ナイトボート(p3p000561)、『空歌う笛の音』アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)、『自称聖獣のアザラシと犬獣人』レーゲン・グリュック・フルフトバー(p3p001744)の四名は幻影を覗き込むと同時に、海賊の一員としてその船に乗船していた。
皆一様に、海賊帽とアイパッチをつけ、レーゲンに至っては世話役のグリュックが片手にフックをつけ、レーゲンはバンダナを巻いた子分スタイルだ。
流れる幻影に身を任せるままに進んでみれば、嵐に巻き込まれ船に大波がぶつかり、何もかもを飲み込もうとしていく。
「おめぇら、耐えろよ!」
「乗り越えられたらプディングを作ろう。どうだ、耐えるしかなくなっただろう?」
エリックとウェールが仲間達を励ますように声を上げる。アクセルとレーゲンが頷き返した。
「オイラ達の力見せてあげるよ!」
「嵐なんか乗り越えるキュ。目指すは宝の島なんだキュ」
そうして嵐に吹き飛ばされそうになりながら、水を汲み出し耐え凌いでいると、不意に嵐が止み凪となる。
食糧不足に水不足。度重なる困難の果てに、空に虹が架かった。
「見るっキュ! 島があるっキュ!」
見張り台で陸地を探していたレーゲンが声をあげた。
そうして、最後の力を振り絞り、陸地へと辿り着いた四名は島の遺跡の中に眠る金銀財宝を前に、祝杯を挙げた。
興奮と多幸感が消えないままに、静かに幻影が消えていく。
「最高の物語だったな」
「嵐に飲まれた時はヒヤリとしたけど、しっかり財宝を手に入れられたな」
「それじゃこの気持ちが消えないうちに」
「乾杯するキュ!」
マシュマロ入りのホットチョコレートとジョッキのココアを用意した面々が、杯を高らかに掲げる。
図書館内だ、大騒ぎはできない。けれど、たしかに喜びは分かち合えるのだ。
「乾杯」
口に広がるチョコの甘みを感じながら、四人は次はどの物語に没入しようか、そんな話を広げていった。
閲覧室で、『流浪楽師』アイリス(p3p004232)は一人メモを取りながら幻影に身を任せていた。
開いている本は、グラオ・クローネの御伽噺。
――それは深緑の大樹ファルカウと共に生きたと言われる『最初の少女』の物語。
呪い――肉体の不自由と、五感の不自由を持つ孤独の少女は、それでも大樹を愛する。
大樹は願う。少女を幾重にも縛る呪いに、僅かばかりの光を届けるように。
呪いは解ける事はなかったけれど、僅かに緩んだ制約によって少女は同胞を得る事となった。
大樹と共に過ごし、自然への感謝の気持ちを贈った少女は、何時しか一人ではなくなったのだった。
幻影をみながら、アイリスは新曲のヒントになりそうな物をメモしていく。
少女の想い、大樹の想い。僅かばかりの奇蹟が起こした幸せの形。
幻影を見終えたアイリスが「ふう……」と息を漏らす。
そこにクレアが『灰色の王冠』をさしだした。
「ありがとう。ではこちらも」
アイリスも作って持ち込んだ『灰色の王冠』を差し出す。クスりと微笑み合ったクレアは言葉無くその場を立ち去った。
チョコを口に入れる。少女が感じた微かな味は、どんなだっただろうか。
今しばらく思考の海に揺蕩いながら、アイリスは口の中に広がる甘みを楽しんだ。
真白き紳士なうさぎさん、『形代兎』ラパン=ラ=ピット(p3p004304)は我が子を見守るようにドキドキハラハラとしていた。
――それは一人の少女が困難に立ち向かっていく物語。
孤児院にいた少女が少しの幸運と大きな努力で、大成する物語は、子供ならず大人ものめり込む面白さだった。
ラパンは気づけば自身も物語に参加しているような錯覚に陥り、少女を時に応援し、時に叱咤し、共に成長していく。
そうして少女が大成し幸せな結末に向かうと、心から感動し拍手を送った。
今はもう会う事のできない、僕のお嬢さん。
こんな風に幸せになってほしいと、ラパンは思った。
幻影が終わると共に本を閉じる。
この素晴らしい出会いをくれた司書の娘達にお礼をしようと思った。
「ありがとう。君達が良い仕事をしてくれたから、良い日と、良い物語を楽しむ事ができたのだよ」
……少しは紳士っぽいだろうか?
手渡すチョコを受け取る司書達は微笑みお礼を返す。
心からのお礼、受け取ってもらえたのなら嬉しいな。
ラパンは返却台に本を返すと、次の本を求めて書棚へと向かう。
人を癒やし楽しませる素敵な幻影。
――僕もいつか誰かに見せてあげたいのだよ!
ラパンの長い耳が楽しげに揺れた。
「なるほど、幻影を見せる本ですか」
『ewige Liebe』XIII(p3p002594)は石動 グヴァラ 凱(p3p001051)と共に図書館を歩いていた。
以前ならばそういった話題は一笑に付していただろう。しかし今のXIIIは、その幻影をある種の「啓示」として受け取る事が出来るかもしれないと考えていた。
この世界に来て、様々な人と語り合い、多少は変化してきた……ということなのかもしれない。
「幻影の中で多幸感を味わえるものらしい。が……何だ、電子ドラッグの類か?」
凱は多少の警戒心を覗かせながらXIIIと共に二冊の本を選び取る。
悪戯顔で微笑むXIII。その手の本につけられた数字は013と130。ともにXIIIの名を冠する分類記号だ。
(番号は彼女の名からか……運命というものは時に妙な偶然を起こすが。さて、今回は)
二人は本を開いた。
――それは図書館を管理する者の思想、否、それだけに留まらない。思想は哲学へと変わり――。
不意に、凱は幻の中で幻を見る。
麦畑を掻き分け走る。見上げた薄闇の空へ伸ばした手は……今と重なり空を握った。
嗚呼……当然か、全ては過ぎ去った。
……然らばせめて彼女が観る何かが、幸多き事を祈るとするか。
「石動さん……石動さん」
肩を揺らされ凱は気づく。幻影は消えていた。
「ぼけっと、してしまった、ようだな……すまない」
「いえ、良いですよ。何か見えましたか?」
XIIIの言葉に「いや……」と頭を振った。XIIIもそれ以上は聞かなかった。
本の傍に置かれる『灰色の王冠』に目が行く。幻影を観た後はチョコを食べる決まりだったか。
「頂きましょう」
「ああ、そうだな」
二人は『灰色の王冠』を口に入れる。ほろ苦い甘みが広がっていく。
今しばらくの間、二人はそうして口の中のチョコを溶かす事に時間を使うのだった。
『暴牛のモルグス』Morgux(p3p004514)は立ち並ぶ本を前に考えていた。
(魔導書か。俺が思い描いているイメージでも良いが……いつも見てる風景だ。それだと今更感があるな)
そうしてしばらく頭を悩ませた上で、「……まぁ、適当に選んでみるか」とその本を手に取った。
953。自身の年齢の下三桁。
本を開くと、幻影へと没入していく。
――それはある男の復讐劇。
無実の罪を着せられた男が、その後名を変え自分を陥れた者達に復讐していく。
自ら殺すことはしない復讐劇だったが、罪を暴き相手を陥れる手法にMorguxも引き込まれていく。
血が騒ぐという程ではなかったが、心が躍ったのは間違いなかった。
読み終え幻影が消えると、顔には出さないように興奮を抑えていく。
本の傍に置かれた『灰色の王冠』を一つ口へ放り込むと、バリバリと咀嚼した。
こんな物語が見れるのであれば、次も期待してしまうだろう。
Morguxは本を返却台に戻すと、次を求めて書棚を彷徨うのだった。
「やぁ、雨宿りしに来たよ」
空は高く晴れているのに、傘をくるくる楽しそうに回すのは『キミの飼い猫』コノイト(p3p004730)だ。
出迎えたクレアに愛嬌のある顔で笑いかけると、図書館の中へと足を踏み入れた。
「ふーんいろいろあるんだね」
本を読むのは気が向いたときだけれども、コノイトは目に付いた本を手に取り閲覧室に向かった。
開くとすぐに幻影が現れる。
――それは異国の言語教室。
次々と浮かび上がる異国の言葉は、この世界のものではないのだろう。見慣れない文字の羅列を目で追い楽しむ。
けれど淡々と進む幻影に次第に飽きが来て、コノイトは突然本を閉じた。
「きゃ……」
丁度『灰色の王冠』を置きに来たクレアは思わず小さな悲鳴を上げる。
それを見たコノイトは、これ幸いとばかりにクレアにおねだりをした。
「ああそこのおねえさん、俺に食べさせてくれない? はいっあーん」
傍若無人に振る舞うコノイトに驚きながらも、そこはこの図書館に長く居る司書だからかクスりと微笑むと丁寧に対応する。
「それでは失礼しますね」
口の中でチョコが溶けていく。広がる甘みを感じながら、まるで悪びれない様子でクレアへとお礼を返した。
「ありがとっ! まぁでも、俺チョコレイト持ってきてないんだ。だからお礼はまた今度ね!」
「ええ、お待ちしていますね」
そういうとクレアは去って行く。
去りゆくクレアの長い黒髪を目で追いながら、コノイトはこの後はどうしようかと、ほんの少しの思考へと入っていった。
――それは静謐湛える砂漠の夜に響いた星の子守歌。
生み出された幻影を前に『砂の仔』ジュア(p3p000024)は耳を澄ます。
しんと黒く静まる砂漠の夜は昼間の熱を奪い去り冷たく暗い。
そんな砂漠に建つ白い宮殿の一室。
窓から零れる蒼白の月光に照らされながら、桃色の瞳を持つ人形が星の子守歌を歌う――金色の時計が、時を知らせるまで。
くるりくるり、人形が舞う。
幻想的な人形の舞は月明かりを反射する。人形を包み込む白いワンピースがふわりと靡いた。
人形の声に合わせて、ジュアは小さくハミング。今はいない、家族が口ずさんでいたものと同じ唄。
(記憶の中の音が聞こえるのだろうか)
小さな疑問は唄に乗せ溶け消える。
どこか感じる懐かしさに身を委ね、そしてジュアはいつの間にか夢の中へと落ちていった……。
――。
――――。
「ん……」
「気づかれましたか?」
眠気眼で見上げれば、クレアが優しく微笑んでいた。
「ジュア、寝ちゃっていたのか」
「はい、よくお眠りになられていました」
窓を見れば夕陽が差し込んでいた。随分と寝ていたようだ。
「イイ夢、見た気がするよ」
「ふふふ、それは良かったですね」
席を立つジュアに『灰色の王冠』を手渡すクレアは、もうじき閉館時間だと告げ、ゆったりと去って行った。
残されたジュアは手にしたチョコを口へと放り込む。もぐもぐと咀嚼。
「あまくて、おいしい」
ぽつりと呟いた感想は吹き抜けの天井へと消えていった――。
●そしてディオーネ図書館は閉館する
「お気をつけてお帰り下さい」
最後の利用者がディオーネ図書館から退館する。
クレア、エリィ、リィラが下げた頭を上げると、静かにその重い扉を閉じていった。
次に開くのはまた一年後。来年もきっと多くの利用者が来てくれるだろうと三人は思った。
――それはともかく。
「疲れたよ~~」
「エリィもリィラもお疲れ様。二人とも大人気でしたね」
「……そんな、クレアこそ」
「ふふふ、それじゃ最後のご褒美タイムにしましょうか」
時計の針は今日が終わりを告げるにはまだ早い。
司書の三人はお気に入りの本を用意する。
「「「グラオ・クローネに祝福を――」」」
三人の呟きはまるで図書館全体を包み込むように波及し広がる。
開いた本から広がる幻影は図書館いっぱいに広がった。
――ディオーネ図書館。
曰く付きの魔導書から誰かの日記まで。ありとあらゆる本が集う場所。
創始者の悪戯は、今日と言う日を目一杯楽しむために用意された物なのだと三人は笑った。
ハッピー・グラオ・クローネ。
淡い幻影が、静謐の図書館で静かに揺れ動いていた――。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
ご参加いただきありがとうございました。
無辜なる混沌ならではの何でもありな図書館でしたが楽しんで頂けたのであれば幸いです。
司書三人娘はバランス良く人気が分かれましたが、僅差でリィラが一番でした。
GMコメント
こんにちは。澤見夜行(さわみ・やこう)です。
バレンタインの季節ですね!
皆様の素敵で幸せな一幕になるよう物語を綴りたいと思います。
●ディオーネ図書館について
バルツァーレク領のはずれに位置する古いがとても大きな図書館です。
魔導書を収集、保管する図書館で、通常入館することはできません。
ですがグラオ・クローネの一日のみ門戸が開かれます。
中は少々古びた木製の書棚が並びますが、吹き抜け三階建ての内部は圧巻の一言です。この日のために溜め込まれた蔵書が所狭しと並んでいます。
その特性から開架書庫となりますが、本の貸し出しはしてませんのでご注意を。持ち出しは必ず司書三人娘に見つかります。ぷんすこ怒られます。
本は書棚の前で見るか、一階の閲覧室をご利用下さい。席は十二分に用意されております。
なおこの図書館で使用されている分類記号は幻想独自のもので幻想十進分類法と呼ばれています。
●司書三人娘
『クレア』
今年の司書責任者。長い黒髪がトレードマーク。落ち着いた物腰で柔らかな微笑みを湛えています。
誰とでも気さくに話すことができるものの、少し型にはまったしゃべりで距離感を感じます。
好きな分類記号は913。文学をこよなく愛する文学少女。
『エリィ』
元気いっぱい、まだまだ子供のようなあどけなさの抜けない金髪ツインテール少女。
大人びたクレア達と比べれば子供だが、子供らしい素直さや天真爛漫な性格は好意的に見られる事が多い。
だれとでもすぐに打ち解けられる元気娘。
好きな分類記号は777。人形劇を愛する元気少女。
『リィラ』
寡黙な茶色いボブカットの少女。表情の変化が少なく喜怒哀楽の表現が薄い。
本人は感情豊かだと思っているようだが、表にでてこない。
三人の中で一番背が高く、平均より少し高いので気にしている。
人と接するのは苦手だが、与えられた役割は黙々とこなすタイプ。
好きな分類記号は210。歴史を愛する無口な少女。
司書三人娘は皆様が円滑に本を選ぶことができるようにサポート致します。
また、一人で参加された方達に接点をもたせたり、希望があれば一緒に幻影を見てくれたりしてくれます。
必要あればお声掛けください。
●出来る事
基本は図書館内で本の幻影を見る事になります。
一人で参加される方も、二人以上で参加される方も以下のシチュエーションを選択してください。
【1】本を指定して参加
どのようなイメージの本かを指定頂ければ司書がそれに見合った本を用意してくれます。
本から広がる幻影が固まっている方(プレイングに記載できる方)はこちらをお選び下さい。
【2】分類記号を指定して参加
本のイメージがない方は000~999までの数値を選択することで司書がその分類記号にあった本を選んでくれます。
どのような場面になるかは開いてみてからのお楽しみですが、悪い事にはならないはずです。
とりあえず適当な本を選んでみる、目に付いた本を選ぶ等もこちらになりますのでご注意下さい。
●その他
・同行者がいる場合、【プレイング冒頭】にID+お名前か、グループ名の記載をして頂く事で迷子防止に繋がります。
・単独参加の場合、他の方との掛け合いが発生する場合があります。
完全単独での描写をご希望の方はプレイングに明記をお願い致します。
・司書娘との描写が希望の方も、その旨、明記をお願いします。
・描写は可能な限り致します。但し白紙やオープニングに沿わないプレイング、他の参加者に迷惑をかけたり不快にさせる行動等、問題がある場合は描写致しません。
・参加人数に上限があります。ご一緒に参加される場合等、お気をつけ下さい。
皆様の素晴らしいプレイングをお待ちしています。
宜しくお願いいたします。
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