シナリオ詳細
<グラオ・クローネ2018>君よ、愛する者のために死ねるか
オープニング
●グラオ・クローネのおとぎ話
『グラオ・クローネ』は混沌に伝わる御伽噺の一つ。
今の幻想種さえ知らない――もっと、もっと古い言い伝え。
深緑の大樹ファルカウと共に生きたと言われる『最初の少女』の物語。
彼女は気付いた時には一人きりでした。
身寄りもなく、どうしてそうなったかの記憶もなく。
しかし彼女にはミッションが存在したのです。
愛する大樹を守り抜く。彼女は大樹を愛していました。
過程は知りません。理由も知りません。そこには『大樹を愛している』という結果のみがありました。しかし、そんな事は些細な事です。
彼女には、大樹への無限の愛があり、そして大樹を守るための力があったのですから。
「グアーッ!!」
悲鳴をあげて、男が倒れました。
末端の兵士です。先日、幼なじみと婚約を交わし、この戦いが終ったら小さな式を挙げる予定でした。
男を貫いたのは、12.7mmに加工されたチョコレート弾で、それは彼らの前方……深緑の大樹ファルカウの前に掘られた塹壕より撃たれたものでした。
「クソッ! マキシ! マキシ!」
同僚の男が、神への悪態をつきながら、倒れた男、マキシへと駆け寄ります。
「くそっ、血が! 衛生兵!」
同僚の男が叫ぶのを、別の男が制止しました。
「ダメだ! 捨て置け! そいつはもう死んでいる!」
「死んでるだと!? マキシなんだぞ! 婚約してたんだ! 帰って式を挙げるって!」
「知ってる! だがもう無理だ! 塹壕に下がれ! 撃たれあぶっ!」
同僚の男の目の前で、話していた男の頭がはじけたトマトみたいになりました。男の顔は、返り血で真っ赤に染まります。
「ああ、クソッ! 深緑の魔女め!」
男は悲鳴に近い声をあげながら、慌てて塹壕に駆け込みました。
控えめに言って、辺りは地獄でした。多くの兵士が傷つき、死んでいました。
既に死んでいるものと、これから死ぬもの。この戦場には、その二種類の兵士しか存在しないのです。
第8次ファルカウ奪還作戦は、いつも通りに失敗に終わりそうでした。
そう、第8次。8度目の、戦争。聖地ファルカウに、いつしか現れた緑髪の少女。巧みなトラップと正確無比にして非道の狙撃能力を武器に、彼女はたった一人ファルカウの前に立ち続けました。
過去も経歴も不明。確実な事は一つだけ。奴を殺さねば、ファルカウの奪還はなりません。
幾度もなく立ち上がり、幾度もなく兵士たちを皆殺しにするその少女を、人々は恐怖と、少しの尊敬の念を込め、『深緑の魔女』と呼びました。
魔女が使うは、ファルカウよりもたらされた恵み。黒くて甘い、死の弾丸(チョコレート)です。
ファルカウより無限供給される弾薬と、魔女の狙撃能力は、相性ピッタリ、ベストマッチ。
次々と兵士を血の海に沈めていきます。
やがて、第8次ファルカウ奪還作戦も、終わりに近づこうとしていました。
もちろん、魔女の勝利です。魔女は、夕焼けに染まる真っ赤な丘――もちろん、夕焼けだけではなく、夥しいまでの血が、丘を真っ赤に染める絵の具です――を見下ろしながら、生存者がいないかを、目で追います。
一人、生存者がいました。先ほどの、マキシの同僚です。
男は、魔女を睨みつけながら、言いました。
「化け物め。人の心が分からないんだ。マキシには、愛する人が居たんだぞ。それを奪って、満足か」
魔女は無感情な瞳で言います。
「お互い様だわ。ええ、お互い様」
魔女はそういうと、ハンドガンのスライドをひいて、一発、男の眉間を狙って、引き金を引きました。パン、という、あまりにも渇いた、軽い銃声が響いて、男が動かなくなります。
「大丈夫。みんな死んだわ」
魔女――いえ、その瞳は、無邪気な少女のものでした――が言いました。
「私は、私が誰なのかわからない。私が何なのかわからない。私が生きているのか、死んでいるのかさえも。でも、いいの。私には、あなたがいる。ファルカウ、あなたが私を受け入れてくれたその時から、私はあなたを愛しているの」
そう言うと、少女はファルカウの幹を優しく抱きしめ、その表皮に口づけをしました。
それを合図にしたように、ファルカウは淡く輝くと、少女の目の前に、ひとつの食べ物を生み出します。
甘く、カロリーも高く、栄養価も高い、抜群の携帯食……チョコレートです。
「ありがとう、ファルカウ。私たち、ずっと一緒よ」
嬉しそうに、少女はチョコレートを口に含みました。
不格好で甘くない灰色の銃弾(グラオ・クローネ)は見よう見まねのお菓子の形。
深緑の奥深くに伝わる秘伝の味とは違うでしょうが、現代のチョコレートはそれを模したものとされています。
●グラオ・クローネ祭
「大切なヒトは、そこに居て当たり前じゃない、と。つまりは大切なヒトを守るため、ボクたちは闘わなければならない。オープンコンバット。っていう風習ですね」
『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)が、感心する様に言った。
いや、なんか違くねぇ? とイレギュラーズたちが首をかしげるが、ユリーカは意に介さず。
「このおとぎ話が元となって、今日のグラオ・クローネ祭が始まったと言われているのです。お祭りは、灰色の銃弾(グラオ・クローネ)に見立てたチョコレートを、ファルカウ陣営と奪還軍陣営に分かれて投げ合うのです。その時の掛け声は、「愛する者を奪う鬼どもめ! この場から出ていけ!」なのです」
ははぁん、これは、どっかの世界のなんかの行事と混ざってあらぬ方向に進化しちゃったパターンだな?
「以前は双方全滅するまでチョコを投げ合っていたのですが、最近は色々と過激になり過ぎているため上からお触れが出まして。程々に投げ合った後、皆でチョコレートを食べるお祭りになっているのです。やっぱりラブ&ピースがいいのですね!」
ユリーカはにっこりと笑った。
「最近はお仕事も増えてきていますし、ここは息抜きに、皆で参加してくると良いのです!」
果たして息抜きになるのだろうか。まぁ、それはそれで気分転換にはなるだろう。
イレギュラーズたちはうなづくと、早速予定を確認しだした。
- <グラオ・クローネ2018>君よ、愛する者のために死ねるか完了
- GM名洗井落雲
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2018年02月28日 21時40分
- 参加人数99/∞人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 99 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(99人)
リプレイ
●チョコレート職人の朝は早い。
最近はいいカカオがとれない、と愚痴を言ったかどうかは知らないが、チョコレート職人の朝は早い。何せ、祭りの前はもちろん、祭りの最中にもチョコレートを増産しなければならないからだ。
何の祭りかって?
皆ご存じ、グラオ・クローネ(チョコレート大戦争)だよ!
「ねりねり。ねりねり」
パティ・クロムウェルは、湯せんでチョコレートを溶かしていた。朝から。ずっと。
客の足は途絶えない。この場合の客は祭り本番の参加者ではなく、同業のチョコレート職人である。
チョコレートを一から作る者もいたが、既製品を溶かして形を整える者も多い。そんなわけで、パティはずっとチョコレートをねりねりしている。
「……これは拷問や刑罰に使えるのでは」
ぼそり、とパティが呟いた。眠い。単調で、退屈な作業だ。しかも朝から。眠い。寝そう。
「延々とチョコを練り溶かすのだ。休むことは許さぬぞ……いや、冷静に考えてみたら、これただの労務ですね……社会奉仕と大して変わりない……」
ねりねり。ねりねり。あくびを噛み殺しつつ、パティがチョコをとかす。溶かし終えたチョコは、他の職人たちへと配るのだ……。
「……ぷはぁっ!!」
と、そのチョコレートがたっぷりと入ったボウルから、何かが飛び出してきた。
「うおわっ!? 何事です!?」
パティが驚きの声をあげる。目の前ではチョコレートの塊が浮遊している。なんだこれは、もしかしてチョコレートの精か。無意識にねりねりしていた手が魔法陣かなにかを描いてしまい、チョコレートの中から何かを召喚してしまったか?
「もう、ひどいよ! リリーごとねりねりしないで!」
と、チョコレートの塊が喋った。いや、よく見たら、それはチョコレートの塊ではない。チョコレートの塗れになったリトル・リリーである。いや、チョコレートに塗れているので実質チョコレートの塊ではあるのだが。
「リリーがおてつだいするよ、っていっても、おへんじしてくれないし! ちかよってみたらいっしょにねりねりされちゃうし! ちょこれーとだらけだよぉ!」
どうやら、パティもかなりぼーっといていたらしい。気づかず、近づいてきたリリーをねりねりしてしまったようだ。
「おっ、喋るチョコレートかい? 珍しいな」
と、通りすがりの男が、リリーを掴んだ。喋るチョコレートか。珍しいな。その程度で済んでしまうのが混沌の恐ろしい所である。
「あ、いえ、それは」
パティが訂正する間もなく、
「いいねぇ、コイツをいただいていくよ。これは投げ甲斐がありそうだ!」
男はリリーを掴んで持って行ってしまった。
「はーなーしーてー! リリーはちょこれーとじゃないよー!」
リリーの悲鳴が、遠くへ去って行く。パティは内心、謝罪の言葉を浮かべていた。
「……?」
そんな様子を遠くから眺めながら、幽邏はチョコレートづくりに精を出していた。
喋るチョコレート。どうやって作ったのだろう。少しそんな事を考えながら、銃弾型、手りゅう弾型と、チョコレートを作っていく。
手先が器用なのだろう、出来栄えは素晴らしいの一言に尽きる。
「……ノックス、どう?」
傍らの鷲、ノックスに尋ねる。ノックスはひと鳴きして、翼を広げた。褒めたのだろうか。その意志は幽邏にしかわからないのかもしれない。兎に角、幽邏は、ノックスへ頷いた。
そして、再び、チョコレートを作り始めたのである。
少々不幸な事件が起きてしまったが、まぁ祭りにちょっとしたアクシデントはつきものである。問題ない。リリーちゃんはこの後無事解放されました。
「さて、こんなもんかね」
作り上げた大量のチョコレートを前に、銀城 黒羽がひとりごちた。
黒羽が作り上げたのは、星型や球形の、投げやすさを求めた形状のチョコレートだ。当たってもいたくないように、と、中は空洞にしてある。
「んー、なんか上手くいかないなー」
声の方を、振り向く。そこでは、ルーニカ・サタナエルが、チョコレートを前に小首をかしげていた。
「よう、どうかしたか?」
黒羽が声をかけると、
「お。いや、剣型のチョコレートを作ろうと思ったんだけど、なんか上手くいかなくて」
ルーニカが、にっ、と笑いながら答える。
どうやら、自身の剣から取ったらしい型にチョコレートを流し込む物の、どうもしっくりこないらしい。
「んー……流石にデカすぎるんじゃないか?」
そう言う黒羽へ、
「かなぁ? でも、出来れば再現目指したいよね。職人気質、みたいな」
ルーニカが答える。
「ハッハッハ! 皆さン! どうさレまシたカ!」
と、陽気な声をかけてきたのは、上半身裸でエプロンを纏った、自称愉快な死の商人ルックのクレイスである。クレイスは事情を知るや、自らの作り上げたチョコレートを取り出した。
「大きサはきっと関係ありまセん! ワタシのマッチョ・チョコレート、略してマッチョコには、表面にも中にもナッツぎっしリ、くわえて元気の出る白い粉が入っテまス!」
それはまずいのではないだろうか。二人の視線に気づいたのか、
「……あ。大丈夫ですヨ! 怪しいモノじゃあリませン!! プロテインでス。プロテイン。つまり、何かを混ぜテ、強度を上げル。そウすれば、きっと大きナ剣でもうマく作れるハずですヨ!」
「あー、なるほどな。なんか混ぜてみるか?」
クレイスの言葉に頷き、黒羽が言う。ルーニカは、
「そうだね! じゃあ、まずはナッツから試してみようか!」
と、ナッツを取りに行くのである。
「ハッハッハ! ハッピーマッスル! じゃない、ハッピーグラオ・クローネ! みなサンの素敵なチョコを期待してマすヨ!」
クレイスは楽しげに笑うのであった。
さて、陽は少し進み。いよいよ、祭りの本番が始まろうとしていたのである。
●叩きつけろ、チョコレート!
「さあさあ皆様交戦です! 交戦なのですよ!」
気象衛星 ひまわり 30XXがの声が高らかに響いた。周囲では、一心不乱に人々がチョコレートを投げ合っている。
「あちらにおわしますは魔女陣営の方々でございます。一方こちらは奪還陣営ですね? そう! ならば起源を辿るとこちらに大義が存在するのです!」
ひまわりが楽し気に言った。大義がどっちにあるのかはよくわからないが、古来より、とにかく大義など、主張した者が勝ちである。
「祭り? 形式ばかり? だからどうしたなのです! 一度切られた火蓋は決して納まることはないのです! 武器(チョコ)を手に取れ! 立ち向かえ! 反逆せよ! 徹底的に魔女共を蹂躙してみせるのです! いけー! やれー! ぶっころせー!」
扇動する、扇動する。兎に角めっちゃくちゃいい笑顔で、人々の戦意を煽り立てる。曰く、「安全地帯から、人を煽るだけとか最高なのです」。酷い、良識とかそういうものは、元の世界に置いてきたのか。
とは言え、いつまでもそんな所業が続くわけではない。扇動するためにはそれなりに目立つ必要があるわけで、そして戦場で目立つという事はそれだけで致命的な行為である。
「何がファルカウを愛している、ですか! いいですか、愛の大きさもこちらが上! であれば我らは――ぶぎゃっ」
その口に、チョコレートの矢が突き刺さる。そのままこてん、と倒れ、アジテーターが沈黙する。
「異界のことわざにあるそうだ。たしか――雉も鳴かずば撃たれまい」
ふむ、と頷き、ハクウが遠目で戦果を確認する。
自慢の翼で空飛び、建物の屋上から、これまた自慢の弓で狙撃を行う。
もちろん、一か所にとどまるような愚は犯さない。適宜狙撃位置を変える。
「合言葉はオニよ立ち去れ、だったか? 何か微妙に違う気もするが」
ぼやきながら、しゅぱっ、とチョコレートの矢を放つ。ヒット。奪還陣営の男がチョコレートに塗れる。ハクウはそれを見て満足げに頷く。
「愛する者、か。私に愛する者はいない。だが、今は魔女として、ファルカウを愛する者として戦おう」
再び矢をつがえ――その顔が、驚愕に彩られた。
眼前に迫る、数多のチョコレート。ハクウはたまらず飛びずさった。
「ふふ……砲台……そう、私は砲台になるのだ……」
ジト目でハクウを見つめつつ、ものすごい勢いでチョコを投げまくるのは、メルト・ノーグマンだ。その機関銃めいた連投に、ハクウはたまらずその場に釘づけにされてしまう。その場を動く事すら難しい。
やがて、別方向からの一団によるチョコレート射撃が始まった。こうなってはもはや逃げられない。救援を待つしかないが、この状況ではそれも難しいだろう。
「私が……狩られるとはな……」
自嘲気味に笑いつつ、ハクウはやがてその無残な(チョコレート塗れの)姿をさらすこととなった。
ちなみに、攻撃全振りで投げることに特化しすぎたメルトは、ほどなくしてチョコ塗れになって地に倒れ伏した。
「ふははは。奪還軍、何するものぞー」
割とノリノリでチョコを投擲するのは、レイヴン・ミスト・ポルードイだ。
「わーわー! チョコだー! すごーい! ナーちゃん、これぜんぶなげていいのー!?」
と、足元に大量のチョコを並べ、目を輝かせるナーガに、
「そう! どんどん投げて、悪い奪還軍をやっつけるのだー!」
レイヴンが言う。ナーガは嬉しそうに頷くと、それはもうとんでもない勢いでチョコレートを投擲し始めた。
「あははは! たのしー! ナーちゃん、わるいやつをやっつけるよー!」
ナーガの腕力は相当のもので、直撃した奪還軍たちが次々と倒れていく。歩く戦車砲。そう言ったイメージである。
とは言え、ナーガも攻撃力全振り。防御面を一切考えないその戦闘スタイルでは、的となってしまうのも仕方ない。攻撃が集中し、数多のチョコレートがナーガへと殺到する――。
「危ない!」
だが、レイヴンがナーガを庇った。何発もの銃弾(チョコレート)を受け、(チョコレートの)血しぶきがレイヴンを染め上げる。
「大丈夫……だったかい?」
いい笑顔でレイヴンが決めるのへ、
「レイヴンくん……」
ナーガがきょとんとした顔をした。どうしてレイヴンは、こんな事をしたんだろう。どうしてチョコレート塗れになったのだろう。わざわざ。
そうか、なるほど。ナーガの思考回路は、こう結論付けた。
「チョコレートはなげていい! レイヴンくんは、チョコレートになって、なげてほしかったんだね! いいよ、ナーちゃんなげてあげる!」
「ちがーーーーーうッ!!!」
レイヴンの悲鳴が響く。
そしてレイヴンは飛んだ。
「何か悲鳴が聞こえたような……?」
路地を行く伊吹 樹理が、ふと呟いた。
とは言え、悲鳴と笑い声は絶えないのがこのお祭りだ。ほら、今も、耳を澄ませなくても誰かの悲鳴が聞こえる。
「悲鳴と笑いは祭りの華でありますな! 祭りと言うよりもはや戦争に近いのでありますが」
と、言うのはクロウディア・アリッサムである。
「ああ、でも、こういう感じのお祭り、元居た世界でも見た事あるよ。そのお祭りはトマトだったけど」
樹理が言いながら、路地の先を索敵する。敵はいない。「クリア」と呟き、2人は路地を駆け抜けた。
「もうじき敵の陣地でありますよ! 警戒を!」
クロウディアが言う。と、同時に、路地の先からばらばらと、魔女陣営の兵士たちが躍り出た。同時に、一斉に射撃を開始する。
「敵であります! えーい、愛する者を奪う鬼どもめ! この場から出ていけ! でありましたか!?」
応戦するクロウディアと樹理。だが、敵の数が多すぎた。何人かの敵兵士を倒すことに成功したものの、次第に追い詰められていく。そして。
「あうっ!」
クロウディアの胸に、鮮血(チョコレート)が迸った。その場に倒れ伏すクロウディア。
「クロウディア君!」
叫び、樹理が駆ける。クロウディアを引きずり、遮蔽物の裏へと隠れた。
「大丈夫、傷は浅い……気をしっかり持って……!」
傷口(チョコレート)を抑えながら、樹理が言う。だが、本当は分かっていた。その傷はあまりにも深すぎる(チョコレートが服の奥まで染みついている)。
「ふふ……わかるであります……私はもうダメだと……私も……兵士でありますから……」
諦めたような笑顔を浮かべるクロウディア。樹理は首を振った。
「ダメだ! 絶対に、君を助ける……!」
「ありがとう……でも、私ももう……ふふ、これが死でありますか……ああ……なんて……甘美な…………ええ、実に……甘いです。うむ、美味なのであります」
ぺろり、と、手についたチョコレートをクロウディアがなめた。
「あ、ほんとだ。美味しい」
樹理も手についたチョコレートをなめた。
さてさて、こちらでは、両軍のにらみ合いが続いていた。
魔女陣営、先頭に立つのは、
「さあ、この悪の秘密結社『XXX』総統・ダークネスクイーン! 逃げも隠れもせぬ!」
べちっ、べちっ、とチョコレートを受けつつ、胸を張って名乗りを上げるダークネス クイーン。
相対する奪還陣営、こちらの先頭に立つのは、
「ぶはははッ、奪還だ! 挑戦者たる我が軍こそが前(みらい)に進むに相応しい!
グラオ・クローネ! グラオ・クローネ!(掛け声)」
と、叫ぶゴリョウ・クートンだ。バリスティック・シールド型チョコで君達の攻撃は防ぐぞ、と言った感じで盾でチョコを受け止めてはいるのだが、偶に後ろからの誤射を受けたりしている。まぁ、誤射に関してはダークネス クイーンも受けているのだが。
「さあ行け、やれ行け、どんと行け! 敵の攻撃は俺が防ぐぜ! 撃て撃て撃てーっ!」
「このダークネス クイーン、逃げも隠れもせぬ! さあ、悪の秘密結社『XXX』の戦士たちよ! 奴らにチョコレートを浴びせてやるのだ!」
両軍、共に士気高く、壮絶な撃ち合いが始まる。
最も被害が多かったのは、当然のごとく最前線で突っ立っていた二人である。当然のことながら、激しい敵の集中砲火を受けた。ついでに、うっかり誤射もされた。
「ええい、痛っ! ダークネスクイーンは逃げたり媚びへつらったり後悔したりせぬ! ……あ痛っ! 後ろ! よく狙え! 痛たっ!」
「痛ぇ! 甘ぇ! そして地味に美味ぇ! だがこの俺は最後までお前達を守……だから誤射は止めろ誤射は!!」
さて、そんなこんなで十数分ほどたった後には、最前線には、見事なチョコレートのオブジェが誕生していた。
「……ふっ……見事だ……このダークネスクイーンを……よくぞここまで……」
「ぶははっ、俺はここまでだ……後は任せ……ぐぼはぁッ」
それぞれ末期の言葉をつぶやきながら、見事な立往生を見せるのであった。
イシュトカ=オリフィチエは、戦場のど真ん中で立ち尽くしていた。
べちっ。べちっ。
チョコレートが身体にぶつかる。
べちっ。べちっ。
毛並みがチョコレートの香りに染まる。
「……成程ね。私は「グラオ・クローネ」を、見誤っていたというわけだ」
ゆらり。と。
イシュトカが、身震いをした。
「二つの陣営に分かれてすることといえば、大食いか味の比べ合いぐらいのものだと高を括っていた。鬨の声だけを歌とする種族、獣の血で描く戦化粧を唯一の芸術とするような種族も知らないわけではないというのに」
イシュトカの、毛が逆立つ。それは、憤怒か、敵意か、或いは殺意か。いずれにせよ、それまでのどこか温和な雰囲気はすでになく。
その時、イシュトカは一匹の獣であった。
「良いだろう。……ファルカウ。私に武器を。最も冷たく、蠱惑的で、容赦の無い、夜の女王の匕首のように黒い得物を」
イシュトカは吠えた。
復讐の獣が野に放たれた瞬間であった。
●チョコレート職人の昼も早い。
さて、祭りも中盤と言った所であるが、そこで大盛況なのは、やはりチョコレートを配布するファルカウ組である。
何せ祭りの主役はなんといってもチョコレート。チョコレートがなければ始まらないし、チョコレートの消費速度はそれこそ生半可なものではない。
また、祭りの性質上、『武器として有用なものほど需要が高い』。
そんなわけで、チョコレート市場は、さながら武器展示会場と化していった。
「死の商人なら誰にでも使える武器を安価に、大量生産するべきとは思いませんか。強力なチョコレート兵器は戦果を期待できる一方、使用に工夫が必要だったり、大型化してしまい、力自慢しか使えない代物になってしまいます。つまり、老若男女問わず、誰でも使える。これが重要です」
アルプス・ローダーが言った。傍らに佇むアバターの少女は、なんかレースクイーンみたいな恰好をして、商品をアピールしている。
「いいですか。誰でも使える。簡易な兵器。これの目指すところの究極は、老若男女、全ての兵士化です。つまり、全ての人間が顧客となり、全ての人間が争いに興じる。そこにマーケットが生まれる。新たなる商品の販路となる」
危険な事をとつとつと語りながらアルプスが作るのは、ビスケット生地を節分の豆サイズに小さく丸めて、チョコでコーティングしたものだ。言い方は怖いが、当たっても痛くなく、誰でも楽しめるように、という思いで作っ、
「僕が作るのは、どんな時にも使えて、前線の兵士にもサブウェポンとして愛用され、後方支援の方も常に携行できる武器として、子供やミニマムな種族の方も持てる――例えるならそう、現代のアサルトライフルです」
やっぱり物騒だった。
「この先に向かうのか。ならばこれは餞別だ。存分に暴れてくるといい。大樹の祝福があらんことを」
と、言いながら、ネスト・フェステルがスリングショット用のチョコを配って回る。アイシングされたチョコは、溶けにくく、持ちやすく、扱いやすい。
「これであの子のハートも一殺! さあさあ、持ってけ恋泥棒!」
Masha・Merkulovは手裏剣型のチョコレートを配り歩く。
「おや、奇遇じゃの。おめぇさんも手裏剣なのかね」
と、言うは、世界樹である。
「おお、おめぇさんのその丸っこいのも良いな。うむうむ」
ネストの弾丸チョコを見て、そう漏らした。
「やっぱり投げると言えば手裏剣でござる! ハートも一撃必殺! 拙者、我ながらうまい物を作ったと自負しているでござるよ!」
Mashaが得意げに言うのへ、
「そうだな。このサイズなら食べやすい。祭りにはちょうどいいだろう」
ネストが言う。
そんな二人の言葉に、世界樹はうんうんと頷くと、
「バランスよく投げ易いだけでなく、薄く作るからこそ大量生産が容易。そちらの弾丸も小さく丸く、同じく大量生産が可能。いやぁ、よいのぉ! これなら多くの人間にチョコがいきわたり、争いがより激しくなると言うものじゃわい!」
「……え?」
ネストが口を開けた。
「いや、俺は別に戦争の激化を狙ったわけでは……」
と、弁解するのへ、
「いやいや、皆まで言うな。おめぇさんも悪じゃな!」
と、ケタケタと笑う世界樹であった。
……まぁ、結果は一緒なので、動機が違っても、いいのかもしれない。
事実、三人が作ったチョコレートは、多くの者に使われ、その真価を発揮したのだ。
「すごい、すごい! これ、どうやって作ったの!?」
スティア・エイル・ヴァークライトは、アイリス・ジギタリス・アストランティアにぐぐっ、と詰め寄った。
アイリスが作った【13mm炸裂徹鋼弾チョコ】がお気に召したらしい。
「何で爆発するの? 私も爆発するチョコレートを作ってみたかったんだけど、うまくいかないんだよね」
「いえ、私のチョコレートも、厳密には爆発しているわけではないのですが……」
アイリスが困ったように言った。
アイリスのチョコレートは、着弾時に中のソースが飛び散るように設計されている。それが爆発を思わせるのだが、実際に爆発させているわけではないようだ。
「え、そうなんだ……うーん……」
笑いをとるためのチョコレートを作りたい。その為に、勝手に爆発するチョコレートを作ろうとしていたスティアのチョコづくりは、少々難航していた。試作品を作り、実際そこそこのウケは取れていたようだが、まだまだ足りない。
がっかりしたようなスティアに、アイリスはふぅ、と息をつくと、
「……では、一緒に、作り方を少し考えてみましょうか」
と、言ったのだ。
「ほ、ほんとに!? やった、ありがと!」
アイリスに抱き着かん勢いで喜ぶスティアの姿に、アイリスは思わず苦笑するのだった。
「みんな、凄いのね」
感心した様子で、ヴィエラ・オルスタンツが呟いた。各所で取引される、多種多様な武器……じゃない、チョコレート。ヴィオラ自身も色々な物を作ってみたが、自分の発想とはまた異なる外見やギミックを持ったチョコレートは、とても興味深い。
「やぁ、チョコレートか? 色々あるぞ」
と、ヴィエラに声をかけたのは、イース・ライブスシェードだ。イースの作ったチョコレートを見てみると、チョコの中に、常温では液状のチョコを詰めた手りゅう弾風のもの、矢じり部分が破裂するような矢のチョコ、踏むと中身が飛びでる地雷のようなもの……。
「これは……ぶつかると割れて、中身が出てくるのね。凄い。私、精々鎧の隙間に入る様な、細長いチョコレートを考えるのが精いっぱいだったわ」
祭りに鎧を着こんでくる相手を想定した当たり、中々いい発想力と確かな予測をお持ちのようだが、ヴィエラはそう言った。
「はは、どうも。まぁ、武器の方はこれくらいにして、後は最後、皆で食べるチョコレートでも作ろうと思うんだけどな」
イースが言う。祭りの最後には、皆でチョコレートを食べる、と言う企画がされている。
「まあ、素敵ね。良かったら、私にも手伝わせて?」
ヴィエラの言葉に、
「お、それは有難いね」
と、イースは笑う。
「あ……でも、その前に」
ヴィエラが、苦笑しながら言った。
「よかったら、その、イースさんが作ったチョコレート、ひとつ味見させてもらえないかしら。だって、とってもおいしそうなんですもの」
その言葉に、イースは笑うのだった。
「今日は楽しい~ぐらお・くろーね~」
やぁ皆こんにちは。威降お兄さんだよ。
本日はグラオ・クローネ。心に秘めた想いを表現する準備は出来ているかな?
俺はまだここに来て日が浅いからそういう人には巡り会えていないけれど、皆が今日という日を素敵に過ごせるように頑張るつもりさ!
そう輝く笑顔を見せていた風巻・威降お兄さんであったが、現実は過酷だった。
響く悲鳴と怒号。飛び交うチョコ。「もっと投げやすい形にしろ」「もっと強力なチョコを」「もっと」「もっと」と、まるでゾンビのように群がる客たち。
人とは、慣れる生き物である。それは精神の均衡を保つための当然の反応だ。
お兄さんは、慣れてしまった。
しょうがないよね、人間なんだから。
「やあ、いい型、出来てるよ……帰る時は裏道を使うんだよ。襲撃されちゃうからね」
暗い笑顔で、お兄さんが笑う。そこには、かつてのお兄さんの姿はない。そう、お兄さんはもう死の商人になってしまったのだ……。
「こんにちは。チョコレートを下さらない?」
と、ロスヴァイセが声をかける。
「ああ、いいよ。どんなのをお望みかな……? 君なら、この投げナイフの型の……」
「ああ、違うわ、湯せんされたチョコレートの方」
その言葉に、お兄さんは営業スマイル(邪)をやめた。
「なるほど、同業者だね……君はどんなのを作っているのかな?」
うーん、とロスヴァイセは口元に手をやり、
「基本的な奴よ。投げナイフ、手榴弾、棒状手榴弾、ソフトボール、円盤型……」
「ふふ、オーソドックス故に需要は高い奴だね……」
おにいさんは、湯せんされたチョコレートを袋に詰めて、手渡した。
「さぁ、持っていくといい……最近はチョコレート強盗も多いからね……気をつけるんだよ……」
自分で言っておいてなんだが、チョコレート強盗とは何なのだろう。まぁ、雰囲気があるからいいかもしれない、とお兄さんは思った。
「ありがと」
ロスヴァイセは礼を言うと、自身の工房へと引き換えしていく。
――ふふ。さあ戦いなさい。特定の投擲に特化した私のチョコレートたち。この形状は雰囲気出てるはずよ……。
お兄さんと同種の暗い笑みを浮かべつつ、死の商人は往来を行くのであった。
「お祭り騒ぎ、ワクワクするねっ!」
と、たのし気に言うのは、ノースポールだ。
「そうだね。死の商人。昔を思い出して心躍るよ」
と、たのし気に言うのは、ルチアーノ・グレコである。ちょっと二人で、楽しみの質が違うかもしれないが、そこはそれ。さて、とルチアーノは呟くと、
「チョコ型の兵器か。じゃあダミー用のミルクカカオと、爆破用の火薬……火薬は駄目?」
ダメです。
「なら即効性のある致死毒を……」
ダメです。
「ええっこれも駄目なの?」
「なんか、ルークが作ろうとしてるの、なかなかに物騒だね? でもちゃんと食べられるやつじゃないとダメだよ?」
ノースポールが言う。ふむ、とルチアーノは唸ると、
「解ったよ、普通にチョコを作るんだね。じゃあ僕の大好きなシマエナガのチョコを作」
「投げるのなら、こぶし大のトリュフがいいかな? ココアパウダーがいい感じに目潰しになるかも!」
無邪気にそういうノースポール。ルチアーノはすこし、目を丸くすると、
「パウダーで目つぶしだって? 割と実用性があるし結構えげつないね……」
「えへへ。こういうのは全力で楽しまないと!」
と、ノースポールは笑うのである。
さて、ほどなくして、2人のチョコレートが出来上がる。
「わっ、シマエナガ!? 可愛いね♪」
ルチアーノが作ったのは、宣言通りのシマエナガ。どれも可愛らしく作り上げられていて、これは投げるのもためらわれるだろう。
「これを武器にはできないな。全部ポーにあげるよ……貰ってくれる?」
ルチアーノが言うのへ、
「これ、貰っていいの? とっても嬉しいよ、ありがとうっ! えへへ、こんなに素敵なチョコ、食べられないよ……!」
飛び切りの笑顔で、ノースポールが言った。
「そうだ、私の作ったトリュフ、食べてみて? はい、あーん!」
と、トリュフを一つまみ。ルチアーノの口元へと運ぶ。
「ふぇ? あーん? …………ま、まぁ……悪くない味、なんじゃない?」
もごもごと、チョコを溶かしつつ、ルチアーノが言った。
赤くなった顔を、帽子で隠しながら。
よかった……邪悪な死の商人たちだけでなく、こんな初々しいカップルもいたんだ……。
「チョコレートつくるよー!」
と、オカカは元気よく宣言しました。
でも、オカカの手は小さくて、大きなチョコレートを作るのは些か難しいのです。
それでも、オカカは一生懸命、チョコレートを作りました。
小さくてまん丸いチョコレート。それをたくさん、たくさん作って、籠に入れます。
「チョコレートできたよー!」
よくできましたね、オカカ。じゃあ、次はそれを、皆に配りましょう。
「ねーねーコレ、ボクががんばって作ったんだよ! みてみて、じしんさくなんだよ! え……、ちがうよ! これは、チョコレート! チョコレートなの! うん」
ここまでにしておこう。
●愛する者たちよ、死ぬがよい。
宴もたけなわ、ヒートアップ。
グラオ・クローネ祭は空前絶後の大フィーバーの様相を呈していた。
とにかくチョコレートが飛ぶ。チョコレートが舞う。チョコレートが破裂する。
今年はイレギュラーズ達も本格参戦したせいか、両陣営ともに士気が高い。
そこかしこで衝突が発生し、銃弾(チョコレート)が飛び交い、人々が倒れて行った。
「ハッハー! 銃弾ならファルカウの武器商人たちから大量に集めてあるんだ、ゴキゲンだぜ!」
パーセル・ポストマンがノリノリでチョコレートを大量に投擲する。足元に転がるのは、大量のチョコレート(弾薬)だ。戦いは数だよ、と昔偉い人が言ったらしいが、確かに弾の数は多いに越したことはない。
「全くもう。そうやって調子に乗っているとすぐ足元を掬われるわよ? 弾だって無限にはないのだから、狙うなら冷静に確実によ」
と、エリニュスは狙い定めた一投で、敵兵士を狙い撃つ。
2人の戦い方は対照的である。例えるなら、弾幕係とスナイパー、と言った所か。相性はいい。良いのだが。
「エリーの姐さんもチマチマ撃ってねえでババーッと制圧しちまおうぜ! どうせ奪還軍はこの弾幕で反撃すらできねえんだしよ! ……って、あれ、姐さん、ここに置いてあったチョコレートは?」
パーセルが尋ねる。
「……さっきマスターが撃ったのが最後の一つよ。言わんこっちゃないわね」
そう。弾幕はいい。良いのだが。
いくら何でもなげ過ぎた。
エリュニスは天を仰ぐ。
「おいおい、冗談にしちゃ笑えね――うぉお敵が撃ち返してきた!? 弾切れを悟って反撃に入ったな!?」
そう、これを好機と見た敵兵士たちが、一斉に反撃を開始したのである。徐々に距離を詰められる。このままでは待っているのは、確実な死だ。
「くそっ、どうするエリーの姐さん!」
慌てて尋ねるパーセルへ、
「……戦場で弾切れを起こした兵士の末路なんて、決まっているでしょう?」
すぱーん。と。投てきされたチョコレートが、エリュニスに直撃。
そのままぱたりと倒れた。
「姐さーーーーーん! 畜生、俺たちゃここまでってことか……」
兵士たちの包囲は狭まっていく。パーセルの命が尽きるのも、もはや時間の問題であった……。
「さて、真面目に遊びますか」
よし、と気合の声ひとつ。フロウ・リバーが単独で街をかけた。
路地から路地へ、障害物から障害物へ。身のこなしを最大限に生かし、ヒットアンドアウェイで敵を屠る。
と。そんなフロウの前に、突如人影が現れた。思わずチョコを投げようとするフロウへ、
「まってまって、味方味方! 私も魔女陣営!」
と、慌てて手を振ったのは、六車・焔珠だ。忍び足や気配遮断を駆使し、同様に遊撃手をやっていたらしい。
「そうでしたか。危うく誤射してしまう所でした」
ほっと胸をなでおろすフロウ。
「あはは、同じ立場だったら私もそうしてたかも」
そう言って笑う焔珠だが、既にその服にはチョコレートがこびりついている。何発か貰ったようだが、それすらも楽しんでいるようだ。
本気ではあるが、これは遊び。だから、精一杯、全力で楽しむ。それはフロウも同じだったので、焔珠の笑顔には、好感を覚える。
「グラオ・クローネといえば大切な人を大事にしましょうというお話! 時には戦わなければ守れないものもある! 来い、奪還軍どもめ!」
と、近くから声が響く。どうやら最前線でチョコを投げ合っている、アレクシア・アトリー・アバークロンビーのようだ。
「あ、でもちょっと手加減して……うひゃぁ! 結構チョコが飛んでくるのって怖い!!」
と、勇ましいセリフはどこへやら、一瞬にして逃げ腰になる。
「あら、味方がピンチみたい」
焔珠が笑う。
「なら、助けに行きましょうか」
フロウもくすりと笑った。
「平和に行こう平和に! 話し合いで解決できるはzふげっ?! …………もうやけだ!絶対に許さないからなー! くそー!」
どうやら直撃暖を食らったらしいアレクシアが、自棄になってチョコレートを投げまくっているのが見える。
そんなアレクシアの元へ2人は駆け寄ると、
「大丈夫? 援護するよ」
「まずは顔を拭いてください。真っ黒ですよ」
と、言いながら、援護射撃を開始する。
「ふ、2人とも~!」
何やら感激したような様子のアレクシアが、ぐい、と袖で顔をぬぐった。
「これなら百人力! さぁ、全力でやり返すよ!」
アレクシアの号令一下、三人の反撃が始まる。
「アリスゥゥゥゥゥウウウ!!!」
戦場に、Pandora Puppet Paradoxの叫びがこだまする。大量のチョコを抱えたPandoraは、どたどたと走りながら敵陣へとツッコミ、そのボディを利用してチョコを爆散。
いわゆる自爆攻撃を仕掛けた。
「うわー! なんだこいつ!」
「ヤベー奴だ!!!」
ヤベー奴だ!
しかし、この攻撃では、Pandoraの身もただでは済まない。体はチョコ塗れである。しかし、地面にうつ伏せに倒れるPandoraは、その手を、その指先を、前へ、前へと突き出した。倒れても前を指すその姿からは、生き続ける限り、決して歩みを止めるなと言うメッセージが感じ取れた。後なんかエンディングテーマが流れてきた。
「……おつかれ、さま。Pandora」
と、チョコをかじりつつやってきたのは、コゼットである。その身軽さと、マントを利用し、攻撃をよけながら前線へとチョコを届ける任務についたコゼットは、Pandoraをねぎらいつつ、新たなチョコを渡す。
「チョコだにぇ!」
ガバリ、とPandoraが立ち上がる。それを抱える。
「じゃあ、頑張っ、て」
コゼットがぐっ、と親指を立てるのへ、Pandoraが力強く頷く。
「アリスゥゥゥゥゥウウウ!!!」
戦場に、Pandora Puppet Paradoxの叫びがこだまする。大量のチョコを抱えたPandoraは、どたどたと走りながら敵陣へとつっこみ、そのボディを利用してチョコを爆散。
いわゆる自爆攻撃を仕掛けた。
「うわー! なんだこいつ!」
「ヤベー奴だ!!!」
ヤベー奴だ!
「深緑の魔女……ファルカウと共にあろうとした気持ち、少しわかります」
リディア・ヴァイス・フォーマルハウトは、そうした観点から、魔女陣営に与したリディアは、ブローディアの作成した陣地から、チョコを投げていた。
ブローディア、と言うよりサラなのであるが、そのサラに守られつつ、リディアはチョコレートを投げる。
サラも守り、投げ返し、跳んできたチョコを食べたり、弾薬のチョコを食べたりしている。
「なんともにぎわしい祭だな。おっと……サラよ。そんなことをしているとチョコレート塗れになってしまうのではないか?」
ブローディアの言葉に、サラは小首をかしげる。すでにチョコレート塗れだが、どこか楽しそうな表情を浮かべるサラへ、
「……いや、いい。どうやらそれを楽しんでいるようだしな」
と、言うブローディアの声には、何処か喜びの色があったかもしれない。
「わわ、サラさん、チョコ塗れです……」
そんなブローディアとサラを見ながら、リディアが慌てた様子で言った。
「うう、これは大変そうです……そう言えば、チョコ塗れになった後の処理ってどうするんでしょう? 自分で身体についたチョコを舐めて食べる? 届かないところは……他の人に舐めて食べてもらったりするのかしら……?」
と、つつ。と。リディアの鼻から、赤い液体が垂れてくる。
「あれ、どうしてでしょう、鼻血が……」
慌てるリディアに、
「む、チョコの食べ過ぎか? サラ、拭いてやってくれ」
と、ブローディアが言うと、サラが優しく、リディアの鼻血を拭きとってあげるのだった。
「これがバレンタインって奴なのか! すげーな!」
と、たのしげに笑うのはランディス・キャトス。
「ラン君作戦はないかしら!」
と、これまた楽し気に言うのが、トリーネ=セイントバードである。
「おう! いい事思いついた! まずな、トリトリにチョコを塗る!」
「ほうほう、私の翼にチョコを塗って。他の箇所にもチョコを……甘い匂いでいっぱいだわ! わくわく」
と、ランディスがトリーネに、チョコレートを塗りたくる。瞬く間に、トリーネがニワトリからチョコレートの塊にクラスチェンジ。
「そして持ち上げる!」
「そして私を持ち上げて!」
チョコ塗れになっているのに、何か妙に楽しそうなトリーネである。祭りでテンションが上がっているのだろうか。
と言うか、大体オチが読めてきましたね?
「全力跳躍からの『チョコッコストライク』! トリーネを防御が固い陣に向けて超★全力投げだぁっ!」
「そう、私を投げ……こけえええぇぇ!!?」
鳥が飛んでいく。
飛ばない鳥が。
飛ばないはずの鳥が。
今日は、空を飛んだのだ。
べちゃっ、とトリーネが着地……と言うか、落下する。
「うわー! なんだこの鳥!!」
流石に困惑する敵軍参加者たち。
「こけぇぇぇぇっ!」
ぱかーん、とコーティングされたチョコレートを吹き飛ばしながら、トリーネが羽ばたいた。
「私を投げるなんて不届き者にはお仕置きよ! 裏切りのにわとりよー!」
叫ぶや否や、トリーネは、ランディスに向けて、チョコレートを投げまくる。
「うわっ、あはは、ごめん、ごめんって!!」
チョコレートをその身に受けつつ、逃げ惑うランディスである。
「まったく、皆すっかりチョコ塗れだね」
そう言ったのは、メートヒェン・メヒャーニクだ。
「このままにしておくわけにもいかないね。ここは皆でお風呂に入ろうじゃないか」
「そうね、毛並みが傷んだら大変! メーちゃん洗って洗って!」
トリーネがパタパタと跳ねるのへ、
「任せてくれたまえ。特にランディス殿は放っておくと適当に済ませてしまうから、トリーネ殿とまとめて私が洗ってあげるから覚悟するように、大丈夫だよ私は気にしないから」
その言葉に、ランディスがびくり、と体を震わせた。
「ふ、風呂!? い、いいよ、川で洗ってくるから!」
「この時期に川に入ったら風邪を引いてしまう、そんなことはさせられないよ」
メートヒェンが笑顔で、ランディスににじり寄る。じり。じり。距離を詰められたランディスは、
「だ、大丈夫だから! 川に行ってくる!!!」
と叫ぶや、その場から逃げ出してしまったのだ。
「何で逃げるの!? 風邪なんて引かせないわ! メーちゃん、協力して捕まえるのよ!」
「了解。トリーネ殿、挟み撃ちにするよ」
と、2人もその後を追いかけるのだった。
かくして、速めに祭りを切り上げた三人の、新しい競技がスタートしたのである。
●宿命の対決っぽい宿命
おお、ファルカウよ。あなたをめぐる争いは、多数の者を引き裂いた。
愛する者を。愛する者を引き裂いた。死と言う別れで引き裂いた。
だが、おお、ファルカウよ。敵味方と言う線で、あなたはまだ、人を分かつのか。
「うう……催し物と言えど、人に何かをぶつけるっていうのは、ためらいが……」
と、シャロン=セルシウスが、手元のチョコレートを見つめながら、呟く。
知人に誘われて参加したわけではあるが、性分から、どうにも誰かに対してモノをぶつける、という事が出来そうにない。……はて、知人と言えば。
「って、あれ、ミス・鼎……どこに」
と、きょろきょろとあたりを見まわすのへ、
「やあ、こっちだよ」
と、声をかけるのは、恋歌 鼎だ。
「え、えぇ!? どうしてそっち側にいるんだい!?」
そう、鼎がいるのは、奪還軍陣営。魔女陣営のシャロンとは、敵対するポジションだ。
「びっくりしたかい? 人に投げるの苦手なのだろう? ほら、私なら気心がしれてる分投げやすくないかな」
くすりと笑う鼎。
「いや、なんだか逆に申し訳ないって言うか……いや、覚悟して来たわけだけど、それでも、その」
しどろもどろになりながら答えるシャロンに、鼎は一歩一歩、近づいていく。
「ホントに人に投げるのが苦手だね? いや、別に恥じることはないよ。そこが君の良いところだからね? ……さて、もう君の目の前だ。どうする、降参するかい?」
くすりと笑い、鼎がシャロンへ、顔を近づける。
慌てて言葉も出せず、口をパクパクとさせるだけのシャロンへ、
「……えい」
と、鼎は、シャロンの口へチョコレートを入れた。
「おや、目を白黒させてどうしたのかな? 別に口に投げてはいけないというルールはなかったと思うのだけど」
目を細めて笑う鼎。シャロンは、
「……僕の負けです……」
と、思わず降参の言葉を口にするのであった。
「やあやあ吾輩こそボルカノ=マルゴフッ」
と、名乗りをあげようとしていたボルカノ=マルゴットに、大量のチョコレートが着弾する。
「はっはっは、隙あり、だよ」
と、笑うのは、ムスティスラーフ・バイルシュタインだ。ギフトの力でチョコレートを中空に踊らせ、放つ姿はまさに魔女の陣営にふさわしい。
ボルカノは顔を振るい、チョコレートをこすると、
「むっちゃん殿ではないか! お覚悟ー! 吾輩のチョコ塗れにしてから後でぺろぺろしてしまうのである!」
と、嬉し気にチョコを投擲し始めた。
「それはこちらのセリフだよ、濡れ濡れにしてあげる~」
ムスティスラーフも、言葉通り反撃に出る。
とは言え、お互い、じゃれ合う様に、チョコレートを投げ合う程度だ。お互いのチョコレートはあえてよけずに、受けた。ムスティスラーフ曰く愛の証らしいし、終わった後に色々楽しめる。色々ってなんだって? 聞くな、このゲームは全年齢対象だ。
さてさて、2人の笑い声がはしばし響いた。楽し気に、お互い童心に帰ったように、チョコレートを投げ合う。しばしして、2人はすっかりチョコレート塗れになっていた。
「吾輩すっごいたのしい! 馬鹿騒ぎ大好き!! もっともっと遊びたいであるなー!」
満面の笑顔で、ボルカノが言う。そんなボルカノを、ムスティスラーフはいとおし気に、見ながら、
「お祭りの後はもっと楽しいことがあるよ。うーん、全身チョコ塗れでおいしそう」
と、これまた楽し気な笑顔で言うのだった。
もっと楽しいことってなんだって? 聞くな、このゲームは全年齢対象だ。
「ここで会ったが百年目。なんかそんな勢いで覚悟して貰う……!」
仙狸厄狩 汰磨羈が言った。同時に、自身の身体能力、スキル全てを駆使し、一気に駆け抜ける。
「ふふん……覚悟するのはそっちだよ……!」
迎え撃つのは竜胆・シオンである。ガチで投げ合う時が来た。無駄に洗練された無駄のない(チョコレートを投げ合うのには)無駄な超戦闘機動。
汰磨羈が手始めに、チョコを投げた。高速で迫りくるそれをすんで回避したシオンは、そのままサイドにステップ。一瞬先までシオンがいた所に、チョコが着弾した。時間差の二投目である。
シオンはチョコが着弾したのを横目で確認しつつ、チョコを投擲した。汰磨羈も横に飛んで回避すると、【壁に着地】。そのまま壁を走り抜ける。汰磨羈の軌跡を追う様に、シオンのなげたチョコが着弾していく。
壁の端まで走った汰磨羈は跳躍。勢いをつけたまま、シオンに迫る。シオンはあえて、汰磨羈に向かって飛んだ。
「とった――ッ!」
「まだまだぁ!」
汰磨羈の投げたチョコを、シオンがチョコレートで迎撃する。同時に二人は交差。振り返りながらチョコを投擲。これも相殺。
「反応速度で負けてるのにちょこざいなー……!」
「反応の早さでは負けても、敏捷性では負けんよ!」
シオンが歯噛みするのへ、汰磨羈が答える。
永遠に続くかと思われた二人の時間。二人の戦い。だが、それは唐突に終わりを告げることになる。
2人は飛んだ、同時に。そしてチョコレートを手にした。シオンは、
「チョコレートを手にした俺に敵はないー……ふははー…………たまきはチョコまみれとなぐー、すやりすやり」
寝た。
シオンは突然寝た。
「ああッ! ギフトッ!」
汰磨羈が驚き、体勢を崩す。その先にはチョコレートの山があり。
無残にも――古典的な漫画的オノマトペを用いるなら、「どんがらがっしゃん」と言う音をたてて、チョコレートの山に突っ込んだ。
「う、うう……ふ。驕る汰磨羈は久しからず、という事か――」
シリアスな顔をして、チョコの中身沈んでいく汰磨羈。諸行無常の響きがあったりなかったりした。
戦場で出会う者たちもいる。
戦場で生まれる宿命もある。
この二人がそうだ。
方や、魔を狩る聖剣使い。
方や、魔と融合せし魔剣使い。
この戦場でまみえるまで、この二人が出会ったかどうかはわからぬ。
この戦場でまみえるより前、この二人がどういう関係であったかはわからぬ。
だが、出会ってしまった。二人は此処で、出会ってしまったのだ。
なれば起きる事はただ一つ。
「ハハハハハッ! オラァッ!! くたばりやがれェェェェェッ!!!」
ハロルドが叫び、剣を振り下ろした。剣――まぁ、チョコレートの剣なのだが。
「ズィーガー、防ぐわよ!」
「良いだろう」
琴葉・結が、魔剣ズィーガー(これはチョコレートではない)で、その斬撃を受け止めた。甲高い音をたて、魔剣とチョコ剣が切り結ぶ。一合。二合。チョコ剣と魔剣が拮抗している件については、混沌肯定的なサムシングで、これがイベシナだからという事でご了承願いたい。
「やるじゃねぇか、魔剣使い! だがなぁ!」
渾身の一撃を、ハロルドが振り下ろす。
「大上段! 見え見えよ!」
すくいあげるように振るわれたズィーガーが、チョコ剣を受け止める。そのままの勢いを以て、チョコ剣は破断。真ん中から断ち折られる――。
「馬鹿やろう! 罠だ!」
ズィーガーが叫んだ。ハロルドの手は、既に折られたチョコ剣など握ってはいない。背中に仕込んだ二本目のチョコ剣に手を伸ばし、引き抜く勢いで、剣を振り抜く。
「――ッ!」
結が声にならない悲鳴をあげて、体をひねった。直撃は避けた。だが、斬撃は深く(服にチョコが染み込むくらいに)結を切り裂く。
バランスを崩し、結が転倒する。が、呻きながらもすぐに体を起こし、後方へ跳躍。剣を構え、ハロルドに相対した。
「――ハ。並の相手だったら、今のでおだぶつだ。やるじゃねぇか、魔剣の魔女よ」
ハロルドが笑うのへ、
「お褒めの言葉ありがと、奪還軍の聖剣使いさん」
ニヤリと笑い、結が言った。斬られた腹部に手をやる。大丈夫。傷は浅い。出チョコもほとんどない。ペロリ、と手についた血(チョコ)をなめた。甘い。あ、結構おいしいコレ。
「でも、私もやられっぱなしと言うわけにはいかないの。もう少し付き合ってもらうわよ、ズィーガー」
「は……こうなりゃ一蓮托生だ。ケリをつけるぜ」
ズィーガーが答える。
ハロルドが、構えた。
結が、構えた。
風が、吹き抜けた。
ひゅう、と、2人は呼吸を――あ、ごめん、これ何のシナリオだっけ。あ、イベシナ。グラオ・クローネの。純戦闘じゃない。はい、すみません、今回はここまでで。
さてさて、チョコの魔力は、かつての仲間たちさえですら分断してしまうのか。
【聖剣騎士団】のメンバーもまた、二つの陣営に分かれ、チョコレートを投げ合う、チョコでチョコを洗う死闘を繰り広げていたのである。
「聖剣騎士団団長セララ! 世界を救うため、チョコを導く者なり!」
魔女陣営にて騎士団を率いるのは、セララ。
「いくぞぉー、野郎どもー。敵本陣を守備するはウチの団長様だー我々の成長した姿を見て頂くんだぁー」
ぼへーっとした声で、奪還軍陣営にて騎士団を率いるのは、マリナである。マリナは、日頃の鍛錬により成長した自分達の姿を見てもらいたいと、
「嘘でーす……本当は慌てる団長の顔が見たいのごぜーまーす」
嘘だった。
「全力でいくぞぉー、おー」
マリナの声に、奪還軍の騎士団員たちが声をあげる。
「みんなやっちゃえー!」
その挑戦に応じるように、セララが魔女軍の騎士たちの号令をかけた。
「さあ、行きますよ! 魔女軍の皆さん、チョコレートを存分に味わってください!」
アイリスが言って、チョコレートを投擲し始める。
「フッ……俺のChocolateEyeを披露するときが来たようだ」
そう言ってアイリスの前に立ちはだかったのは、フィンスター・ナハトである。
「俺のギフトはチョコのオーラを感じ取れ……」
「……えっと、違いますよね?」
と、ツッコミを入れるアイリスへ、
「ふふっ、よく気付いた」
と、カッコいいポーズを決めながら、返すのであった。
「団長、申し訳ないですけれど戦争ですからね、覚悟してくださいよ!」
雨宮 利香も、全力でチョコレートを投擲し始めた。全力で放たれる、その威力は高く、瞬く間に戦場はチョコレートへと染め上げられる。
「フ、見事。その投球、GORILLAの如し」
利香の攻撃を受け、それでもなお不敵に笑うのは、ローラント・ガリラベルクである。
「いや、女の子にゴリラっぽい、って誉め言葉じゃないですからね?」
利香が思わず抗議するのへ、
「失礼。私もGORILLAであるがゆえに」
ウホウホ、とローラントが笑った。
「さて、ではこちらも本気で行こう。我が名はローラント・ガリラベルク! 愛しき大樹を守護せし者なり!」
ローラントが名乗りをあげた。咆哮。思わず関係のない人たちも身をすくませてしまうような大音声だ。
「ろーらんとさん、ツインゴリラ作戦でいきます、うほうほ」
と、セティアがローラントへ告げた。
「よいだろう。ウホウホ」
ローラントが頷き、ツインゴリラ作戦の構えをとる。
説明しよう。ツインゴリラ作戦とは、バナナを構えてチョコレートを受けることにより、チョコバナナになる凄い作戦であるよ!
「われこそはしんりょくのまじょべぶっ」
バナナを構え、名乗りをあげようとしたところを狙われるセティア。でもチョコバナナは出来たので良いよね。いいか。美味しい。チョコバナナ美味しい。
「セティアちゃん、大丈夫かい?」
チョコ塗れになりつつも、たのしそうなセティアの様子に、笑みを浮かべなら、ライセルが言った。
「ん、だいじょうぶ。おいしい」
と、チョコバナナを食べ始めるセティアであった。
「よし、ここは俺たちで守りきろう。それ、いくぞー!」
ライセルがチョコを投擲し始める。女の子には優しく。男には全力で。
ライセルのチョコが、奪還陣営に雨あられのごとく降り注ぐ。
「何するものぞ、奪還軍! その程度で私のチョコレート二刀流を崩せると思ったのなら、このチョコレートより甘すぎるモノよ!」
と、チョコレートを二刀流に、竜胆が言った。竜胆のチョコレートがうなりをあげて、奪還軍陣営を切り崩していく。
「……しかし、なんか元の伝承とだいぶ違うお祭りの様な……まぁ、いいか。お祭りは、楽しまなきゃね!」
笑顔でチョコレートを撃ち込む竜胆である。
「おりゃーーー!! 黒濁の舞ーーー!!!!」
と、どろどろに溶かしたぬる~いチョコレートをボウルからまき散らしつつ、反撃に転じたのはシエラ バレスティだ。広範囲にチョコをばら撒くこの攻撃はまさに無敵。素敵。最強。
ただし欠点がございまして。
「あ、弾切れ! ちょっと今作り直すから待っててね! えーと、この秘蔵のヌルエキスを入れて……」
製造とリロードに、大変時間がかかるのでございます。勿論その間は無防備ですから、
「キャー!! 今作り途中だから投げちゃだめ! あうち!!」
と、シエラに攻撃が集中したのである。
「むぅ、流石に防御が厚い」
ジーク・N・ナヴラスが、敵陣を眺めながら言う。敵の弾幕はすさまじく、戦況は一進一退の状況だ。
「そうだな、私が援護しよう。リゲル君、突撃は任せた」
「任せてくれ、騎士の名に懸けて、突破して見せるとも!」
と、リゲル=アークライトはチョコを構え、
「リゲル=アークライト! 駆ける!」
と、叫ぶや否や、チョコを両手に走り出した。べちゃっ。べちゃっ。当然のことながら、リゲルに攻撃が集中する。べちゃっ。べちゃっ。リゲルがチョコレート塗れになる。倒れそう。倒れる。倒れた。
「うーん、やはりだめだったか」
実に軽いノリで言い放つジークである。
だが、リゲルは立ち上がった。いや、もはやチョコレートの塊となったそれは、リゲルではない。
「チョコレート魔神だぞ~!」
チョコレートを滴らせながら、戦場を徘徊するチョコレート魔神。魔神が魔女陣営へと突撃、自らの身体を以て、辺りにチョコレートをまき散らす。
「むぅ、アレも一種のアンデッドと言える……か……?」
思わず首をかしげるジークであった。
「なんという事ですか、あのチョコレート魔神を何とかしなければ、こちらの損害は拡大するばかりです!」
と、ヘイゼル・ゴルトブーツがチョコを両手に立ち上がった。
「前回の雪合戦で学習しました! 遠距離ではあたらない! つまりは接近戦こそ大正解! いきますよー!」
チョコを両手に抱えつつ、ヘイゼルが走った。べちゃ。べちゃ。ヘイゼルに攻撃が集中する。べちゃ。べちゃ。ヘイゼルがチョコレート塗れになる。倒れそう。倒れる。倒れた。
「チョコレート魔神ですよー!」
魔神、増えた。
「むう、厄介だな」
物陰に隠れ、角待襲撃をしていた7号 C型が、前線へと躍り出る。
「魔神……ここで倒しておかねば、また新たな犠牲者が出かねない。……犠牲となるのは、俺一人で十分だ」
そう言うや、7号 C型はチョコレートを抱え、
「仲間の為、君達には此処で俺と共にチョコに沈んで貰おうか」
一気に魔力を放出。チョコ魔神に肉薄する。
「さらばだ……友よ……団長を……頼む……」
そして、閃光(チョコ)が迸った。すべてを、全てを、チョコが飲み込んでいく。
「7号―!」
誰かの声が聞こえた。チョコがあたりに散らばり、全ての者がそこに倒れ伏していた。
「わわ、なんだかすごいことになってきてます」
物陰から顔を出した、ティミ・リリナールが、声をあげた。
「えっと、皆さん、ご無事ですか……わきゃっ」
足元のチョコレートに足をとられ、転んでしまうティミである。
そして、騎士団のメンバーは、先ほどのチョコ攻撃を受けてなお、全滅はしていなかったのだ。ティミへと、チョコレートの嵐が襲い掛かる。おお、なんという事だ、ティミは此処でやられてしまうのか!?
「あぶないっ!」
と、飛び出したのは、シフォリィ・シリア・アルテロンドだった。ティミを庇い、チョコ塗れになったシフォリィは、がくり、とその場に倒れ込んだ。
「し、シフォリィさん……!」
ティミがシフォリィを抱き寄せる。
シフォリィは弱々しく微笑んで、
「ふふ……ご無事で……」
と、喘ぐように言った。
「シフォリィさん……こんなに……チョコが!」
泣きそうな顔で、ティミが言う。
「どうやら……私はここまでみたいです……愛する人……はまあ、最初からいませんでしたけど……最後に貴方を護れて……良かった……貴方の愛する人を……どうか……取り戻して……」
がくり。そう言うと、ティミの腕の中で、シフォリィは力尽きた。
「シフォリィさん……! シフォリィさぁん!」
ティミの慟哭が響く……。
結論から言うと、皆チョコレートに染まった。
果たしてどちらが勝ったのか、よくわからないけれど、まぁ、勝ち負けなどどうでもいい。
ただ、大切な仲間たちと遊べた。それが、皆にとって、一番の思い出なのだ。
騎士団員たちは一足先に休憩をとって、皆でチョコレートを食べることにした。
アレだけ投げたけど、食べるとなればやはり別格と言うか別腹と言うか。
皆にこにこと談笑しながら、チョコレートを食べていた。
「いやー、チョコセララになっちゃったよ!」
と、チョコレート塗れのセララが言うのへ、
「チョコ濡れになった皆さん……美味しそうです」
と、ハートマークなどを浮かべつつ言うのは、ユーリエ・シュトラールである。
「皆さん、ぺろぺろさせていただけませんか!」
などと言うユーリエへ、
「ダメだよ、ユーリエ。チョコが食べたいなら、あっちに食べる用のチョコがあるから!」
と、些かずれた回答をするセララであった。
「はぁい、団長……」
残念そうに言いつつ、自分の指についたチョコレートをなめとるユーリエであった。
●倒すべき敵は
上空を、何かが飛ぶ。
ああ、あれは爆撃機だ。
空から爆弾を、地に落とすのだ。
「えい」
と、爆弾風チョコを空から落とすのは、白銀 雪である。上空には恵禍や棗 士郎もおり、奪還軍陣営に向けての空爆を行っていた。
「いやぁ、まさかおあつらえ向きに爆弾風チョコがあるなんてねー」
恵禍が呟く。眼下に流れる景色は、チョコレートの色に染まり、悲鳴と怒号が響く。
「ここなら安全に攻撃できる」
雪の言葉に、
「まったくだ! 単にチョコを食いに来ただけのワシに散々チョコをぶつけおって! ここからなら手出しは出来まい、魔術師の恐ろしさを思い知るが良い!」
と、若干チョコで汚れた顔を怒りと愉悦に彩り、ガンガンに爆弾風チョコを投下していく士郎であった。
「しかし……本当に、おあつらえ向きと言うか。まるで誰かが意図的にこういう状況を作るためにチョコを製造しているというか……」
恵禍が首を傾げた。
確かに、どこか妙な気がする。何かこう……裏でこの戦争の絵図を書いている存在がいる様な。
そんな予感。
「……気のせいじゃない?」
雪が言うのへ、
「なんでもいいだろう、ここで奴らをチョコ塗れにできればな」
士郎が同意する。
「ふははははは! 滅びろ地を這う愚民共! バスケットよりぶちまけられた天より降り注ぐチョコが全てを滅ぼす!」
高台からチョコをまき散らし、巡離 リンネが絶叫する。
「お前も! お前も! お前も! チョコを浴びて死ね!」
「あァ、もう! このままじゃ埒が明かないよォ!」
塹壕から顔を覗かせながら、ヨダカ=アドリが叫んだ。すでに弾薬も尽きかけている。空からは大量の爆弾がふってくるし、戦況はかなりよろしくない。
ヨダカは塹壕から顔を出して、マシンガンからチョコ銃弾を乱射する。が、すぐにひっこめた。リンネの爆撃が近くまで降ってきたのだ。
「まずはあの高台の奴を何とかしないとな」
シルヴィア・テスタメントがチョコ銃弾をうちながら、言った。
その言葉に頷いたのは、ヘルマンだ。ヘルマンは立ち上がり、高台のリンネに向かって狙いを定めた。
「よぉーーーし! なら行くぜ、俺の超完璧なるフォームから放たれる剛速球ぶべらッ!」
――皆が騒いで燥いでコレでもかと言うぐらいに楽しんでいる。
――元となった血生臭いおとぎ話なんてまるで無かったかのように。
――銃弾型のお菓子を見ていると、するはずのない硝煙の匂いすらする気がする。
――弾を先程店先で売っていた専用の銃型玩具に装填して構えてみると、まるで本物の様に重厚な重みすら感じるのはきっと錯覚だろう。
――平和だ。とても。だからこれは、きっと、素敵なおとぎ話――
モノローグ付きで倒れていくヘルマンの名を、
「ヘルマーーーン!!!!」
佐山・勇司が叫んだ。
「畜生、やられた! 皆、明日の予定だってあったんだ。それなのに、こんな……こんなチョコ塗れになっちまって……。こんなの人のやり方じゃねーよ!」
勇司は泣いた。男泣きであった。
「チックショウ! このままじゃジリ貧……ああ? 待てよ?」
シルヴィアが言った。
「どうしたの?」
尋ねるヨダカへ、
「……あぁ、このままじゃァ、全滅だな。アタシら(奪還陣営)だけじゃない。多分、全員が全滅だ」
呟いて、シルヴィアが凶悪な笑い顔を浮かべた。
「いや、何、この状況で笑ってる奴らがいるっての、しゃくだろう? アタシら(戦争屋)は間違いなく全滅する。でも只じゃぁ済まさない。アンタら、耳を貸しな」
と、シルヴィアが、勇司とヨダカへ向かって、何事かをつぶやいた。
「それって……!」
ヨダカが目を輝かせた。
「おお、良いと思うぜ!」
勇司が頷いた。
「よし。となりゃあ休戦だ。……まぁ、相手が話聞いてくれるか分かんないけどよ。とりあえず、白旗からふってみるか」
●襲撃、そして黙示の時
「はははは! 散々稼がせてもらったぞ、さらばじゃ!」
チョコの弾雨の中を、アレーティアが駆け抜ける。
アレーティアは、チョコレート商人である。
チョコレートに回復薬を混ぜ、「なるべく戦いが長引くように」チョコをさばきつづけてきた。
もちろん、お祭りなので何か金銭が発生して稼げたわけではないのだが、それはそれ。気分の問題である。
話を戻そう。
詰まる所、戦争の大元は、武器供給商人にあったのだ!
このように戦いを長引かせ、利益をむさぼる。現実はこれほど単純に商人が悪いという事はないのだが、これは世界をミニマムに、かつ戦争のみに特化したお祭りである。なれば、一番得をするのは供給側であろうと言うもの。ちなみに、この物語はフィクションであるので、現実に当てはめてあんまり真に受けないで欲しい。
とにかく、参加者たちはそのことに気付いた。いや、最初からうすうす気づいていたのかもしれない。結果、魔女陣営、奪還陣営が手に手を取り合い、チョコレート商人たちを襲撃したのである。
チョコレート広場もまた、戦場となった。
応戦する商人。逃げる商人。もうとっくの昔に帰っていて特に被害がない商人など、様々な商人がいた。君の商人キャラは、応戦しててもいいし、とっくの昔に帰っていてもいい。
そして、商人たちよりたちの悪い、破滅願望者たちが、実は存在したのである。
「ふ……気づかれてしまったようだな。我々の存在に。しかし、既に遅い」
魔女・奪還連合軍と応戦しながら言うのは、リュスラス・O・リエルヴァである。リュスラスは奪還軍陣営に潜入し、武器をさばき、戦局をいじり、戦闘を長引かせようと暗躍していたのだ。
そして、そう言った存在は、魔女陣営にも存在した。
「己たち傭兵に戦う意味など要らず。ただ戦場があればそれでいい」
グランディス=ベルヴィント。そして、
「まぁ、実際一切合切全滅した方が面白いからね。私だってそれは、面白い方につくさ」
アリスター=F=ナーサシスだ。
そして、裏から手を引いていたものは、もちろん、この三人だけではない。
組織の名は【黙示】。ただ戦争のために戦争をおこし、ただ滅びの為に滅びをもたらす。
最悪の愉快犯。最悪の平等者。
「所で、依頼主の例のブツは完成しそうなのか?」
グランディスが尋ねるのに、
「いや、もう少し時間がかかりそうだ」
と、リュスラスが答える。
「となると、時間稼ぎが必要か……」
グランディスが呟いて、立ち上がった。体中には、炸薬チョコが巻き付けられていた。
「逝くのかい?」
アリスターが尋ねるのへ、
「傭兵の死に場所など、戦場にしかない。たとえどのような形であろうとも、戦争が終れば、そこは己の死に場所ではない」
グランディスはそう言って、駆けだした。
数秒後、爆発音が響く。悲鳴。煙。チョコ。様々なものが飛び交った。
「おやすみ、傭兵」
アリスターが呟いた。
「歴史の天秤は多少揺れてこそ安定するもの」
暁蕾がうそぶく。暁蕾もまた、黙示のメンバーであった。段階的に強力な武器を、あえて劣勢な陣営に流し、そのパワーバランスを保ち続けていた。それは、大いなる終わりを迎えるための時間稼ぎの為だ。
「いたぞ!」
声が響き、連合軍の兵士たちがなだれ込んでくる。
「あら。思ったより遅かったのね」
暁蕾が薄く笑った。
「人の運命を弄ぶ灰色の魔女め!」
兵士がチョコを突きつけた。暁蕾はチョコを突きつけられているというのに、その瞳には恐怖の色はない。
むしろ愉悦があった。
何故なら、兵士が使っているそのチョコこそ、暁蕾が作り上げた最高傑作なのだから。
チョコ声が鳴り響き暁蕾の身体にチョコが突き刺さる。激しいチョコしぶきをあげながら、暁蕾は倒れた。その瞳は、どこか遠い何かを見ていた。
「勢力や勝敗などどうでも良い、全て滅びるべきなのだ……私も含めて」
ラルフ・ザン・ネセサリーが言った。商人でありながら、商品を卸さなかった商人。ひたすらに何かを作り続けた者。それが、ラルフだった。
ラルフは仲間たちに戦闘の長期化を指示し、自身は最悪のチョコレート兵器、アポカリプスの製造に腐心していた。
それは、全てを滅ぼすため。
ただ、それだけの為に、ラルフは多くのチョコを流し続けてきたのだ。
「主様……間もなく完成するのですねぇ」
ハイネ・フラウナハが、うっとりとした様子で、アポカリプスを見つめる。
ハイネはラルフのそば仕えとして、様々チョコ事に手を染めてきた。長く、険しい道のりだった。そして、その努力が今、結実しようとしていた。
「ここだ!」
男たちの声が響いた。連合軍の兵士が、ここを嗅ぎ付けてやってきたらしい。
「いたぞ! 撃て撃て撃て!」
連合軍の兵士が叫び、一斉にチョコをチョコ撃する。が。
「が……あ、主……様……?」
ハイネが、驚愕に目を見開いた。
ラルフはハイネを盾にし、己の身を守ったのだ。ハイネが地に倒れ伏す。チョコレートが地面に広がった。
「くそ、リロードだ! 早く!」
兵士が慌ててチョコをリロードするが、
「いや。もう遅い」
ラルフが言った。
「世界よ、グラオ・クローネの祝福あれ!」
ラルフが、叫んだ。
遅かった。
すべては、遅かったのだ。
アポカリプスは起動し。
その日、
世界は。
びゅうびゅうと、風が吹いていた。
甘い匂いが、身体にへばりついた。
べたり。青い髪に、チョコレートがへばりつく。それを口元に運んだ。
ショゴス・カレン・グラトニーは、荒涼とした街を歩いていた。
すべてがチョコレートに彩られていた。動くものは何もない。
ただ甘い匂いだけが、世界を支配していた。
「嗚呼、甘い。吐き気がするほどに」
愚痴のような言葉。だが、それとは裏腹に、ショゴスはチョコレートを食らい続けた。
ふと、ショゴスの目の前に、動くものが現れた。
ふらふらと。ふらふらと歩くその姿。
Svipulは、彷徨い続けていた。かつてあった戦闘の中を。かつてあった人の営みの中を。そして今は、誰も動かない荒野の中を。
Svipulと、ショゴスの目が合った。
会話はない。何かを通じ合った様子もない。
ただ、お互い、口へチョコレートを運んだ。
『…………甘い』
異口同音、2人が呟く。
そのまま、2人は歩き出した。すれ違う。目を合わせる事もない。
2人は、そのまますれ違って、別々の方向へと歩き出した。
ただ、チョコレートを食べながら。
何もない、誰もいない場所で。
ただ独り。
チョコレートを。
●チョコレート・パーティ!
「熾烈な戦いの決着は着いたかい? それじゃあ仲良くお食事タイムだね!」
と、隠れていた物陰から、空飛ぶ杖に腰かけて現れたのは、グレイ=アッシュだ。
そう、ここからは、素敵な素敵な時間。
恋人たちもそうでない人も、愛する者がいるのなら、全てに等しく訪れる、チョコレートを食べる甘い時間。
「いやぁ、この時を待ってたんだ。僕の大好きな甘いチョコレートにタダでありつけるのだから、こんな素晴らしいイベントはない。……それで、チョコレートはどこで頂けるのかな?」
と、チョコレートを配布スペースを探し、グレイはふよふよと飛んでいった。
「いやー、グラオ・クローネは強敵でしたね。まるで数百行分の戦いを駆け抜けたような気分なのですよ」
と、美音部 絵里が言った。僕もそう思います。所で一体何行あるんでしょうね。数えてみてくれませんか。
「いやいや、わたしは絶対いやです」
絵里が首を振った。
「きっとイベントCGもたくさん集まったことでしょう。よきかなよきかな」
どんなイベントCGが発生するのか、僕も楽しみです。皆さんの自慢のイベントCG、楽しみにしています。
「まったくまったく。こんな風に異世界でも皆と一緒に楽しく過ごせるって良いですよね? こんな嬉しいことはないのですよー。あー、幸せだなー」
絵里が笑った。その視線の先には誰もいない。果たして、誰と話していたのか。誰と会話していたのか。それは、絵里にしかわからないだろう。
とは言え、何が居てもおかしくないのかもしれない。今日は楽しいグラオ・クローネ祭。皆でチョコレートを食べる、素敵なイベントなのだから!
「ふふ、皆様、お疲れ様でした。疲労には甘いものを。お配りいたしますよ」
と、オフェリアがチョコレートを配って回る。多くの人達の笑顔で、そこはあふれていた。今日は楽しいグラオ・クローネ祭だ。愛する人と共に過ごし、愛する人と共にチョコレートを食べる。なんて幸せで素敵な日なのだろう。
「しかし、これも、義理チョコと言う形になるのでしょうか……? まあ本命の相手はおりませんが……」
オフェリアが首を傾げた。今しばらくは、色恋沙汰には無縁であるだろうな、とオフェリアは思った。オフェリアの『大切な人』は、まだ見つかっていないのだ。
「凄いお祭りでしたね。見ているこちらも心がホットチョコになるような、そんなお祭りでした」
と、たのしげに語るのは、アニー・メルヴィルだ。アニーも早速、チョコレートの食べ歩きを始めた。まずはホットチョコで、喉を湿らせる。
お次はドライフルーツの詰まったチョコレートだ。クッキーもあるし、チョコケーキもある。およそチョコと名がつけば何でもあるのがこのお祭りのだいご味だろう。
次から次へと食べたくなって、困ってしまう。
「でも……これでは食べ過ぎてしまいますね……明日からダイエット、しないといけません……」
幸せな悩みを抱えながら、アニーは甘い香りの中に誘われていくのだ。
「いやー、しっかし派手なお祭りやったなぁ。あっちこっちチョコ塗れやわ」
と、笑いながら言うのは、美面・水城だ。長月・秋葉と共に参加した水城は、チョコレートを堪能しつつ、投げ合いの終わった街を見て回っていたりする。
「確かに……チョコがあちこちに散乱してるわね……」
秋葉が言う。それから秋葉は意を決したように頷くと、
「一応、二人でもチョコを作ったけど……はい、私からのチョコレート受け取って貰える?」
と、チョコレートを差し出した。
「あ、ありがとー。えへへ、うれしいわー」
笑う水城に、
「お返しは期待してもいいのかしら?」
悪戯っぽく、秋葉は笑った。水城そんな秋葉へ、笑顔で頷くのだった。
「ししるいるいってちょっと可愛いと思うんですよね。るいるい」
と、可愛らしくるいるい、と言ってみたのは、叶羽・塁だ。
「いや、あれは死屍累々と言うか……」
九条 侠が首をかしげるのへ、
「ししるいるい……? どういう意味、ですか……? あと、食べ物を投げてあそんではいけないような……」
セレン・ハーツクライが尋ねる。
「食べ物で遊んではいけませんが、お祭りのときは神様も許してくれるんですよ。そうそう、私もチョコレートを作ってきました。皆さんでお召し上がりください」
塁が言うのへ、
「おお、待ってましたのです! 早速いただきましょう!」
夢見 ルル家が飛びつき、
「おお、これがチョコレートか。面白い物じゃのう」
と、土岐・蛇紋天が言う。
「ああ、素敵です! 全部食べていいのですか! 三日三晩、ギフトの力を使ってお祈りした甲斐があったというか! 甘いものを沢山食べたいって願ったんです! もしかしたら神様も、お怒りかもしれませんけどけど!」
と、嬉し気に飛びついたのはアマリリスだ。
「ふふ。どうですか、お味の方は?」
と、尋ねる塁に、
「んー? 78点でありますかね!」
「78点じゃな。チョコ初めて食べたのじゃが、なんとなく78点じゃ」
と、ルル家と蛇紋天が言った。
「いや……十分うまいと思うぜ……?」
「あまくておいしい、です……。でも、食べ過ぎないようにしないと……」
侠とセレンが言った。
とは言え、どうやら塁は、狙って78点くらいのチョコレートを作ったらしいのだが。
さて、その後は、皆で食べ歩きを開始した。ルル家が片っ端からチョコレートを食べていくのを、侠が流石に心配する。アマリリスがどのチョコを食べようか本気で悩み、セレンもチョコレートに舌鼓をうった。
「そうそう、お返しであります!」
と、ルル家が、自作のチョコを取りだして、塁に手渡した。
「少々炭っぽい感じの味と硬さと匂いと見た目になってますが、炭だと思って食べればさほど問題はないかと思います!」
「お、なら私の作ったチョコも食べてどうぞ。お鍋の中に入れて溶かして固めたら完全にお鍋に引っ付いたのじゃ。でもチョコはチョコだから間違いなく美味いぞこれ」
と、鍋ごと差し出す蛇紋天である。
塁は苦笑すると、
「そ、そうですね……後でいただきます……」
とだけ答えるのであった。
さて、ここは街はずれ。街中の喧騒から外れ、聖樹と呼ばれる木の下で、2人の男女が落ちあっていた。
メテオラ・ビバーチェ・ルナライトと、神巫 聖夜だ。
「ふふ……お待ちしておりました、メテオラ様……」
どこか妖艶な雰囲気を漂わせつつ、聖夜が言った。
「ああ、待たせてごめん。その、それより」
「ふふ、それより、なんです?」
聖夜の言葉に、メテオラは目をそらした。
いつもの服装と違い、黒地の巫女服を着た聖夜の姿は、とても艶やかであり、大きく開いた胸元から除く双丘に、否応なしに視線が吸い込まれる。
「……気になります?」
囁くように、聖夜が言った。
「でも、ダメ、ですよ? 今日は、こっちです」
と、聖夜はメテオラに渡すために用意したハート型のチョコレートを、口にくわえて、差し出したのだ。
「え、ええっ!? ちょ、あのっ!?」
メテオラが慌てふためく。それを楽し気に聖夜は見ていた。
意を決したメテオラが、口元のチョコレートに手を伸ばそうとしたとき、
「あんっ」
と、聖夜はつやっぽい声をあげ、口にしたチョコレートを胸元に落としてしまったのである。
もちろんわざとだ。あざとい。
「ああ……大変、ですね。拾って、くれます?」
と、胸を強調し、メテオラに差し出す。ここまで来たらもう、我慢の限界だろう。何の我慢の限界かは言わないで置くし、ここから先の描写は残念ながらできない。このゲームは全年齢対象なのだ。ご了承ください。
「チョコ食べ放題と聞いて飛んできたぞ!」
と、やってきたのは安藤 ツバメだ。本当は投げ合いの方にも参加したかったのだが、出遅れてしまったちょっとしょんぼり。とは言え、チョコ食べ放題はまだまだこれからだ。
「すごい、チョコって、こんなにも種類があるんだねぇ」
しみじみと呟くツバメに、
「そう、チョコレートとは奥深い物なのじゃ!」
と、声をかけたのは、一条院・綺亜羅である。
「へえ、詳しいのかい?」
尋ねるツバメに、
「この綺亜羅、生来甘いものに目が無し! まぁ、貧乏国ゆえ、ロクに食べたことはないのだがそれはそれ。知識は豊富なのじゃ!」
胸を張る綺亜羅に、
「へぇ、じゃあ色々教えてよ。一緒に食べながらさ」
と、ツバメが提案する。
「おまかせあれ! では、早速参ろう!」
と、綺亜羅はうなづき、ツバメと共にチョコレートを食べに行くのであった。
●
グラオ・クローネのおとぎ話。続きがあるって知ってるかい?
最後の最後、全部がなくなってしまうかもしれない。そんなときにね、ファルカウは、最後の力を振り絞ったんだそうだ。
その力で、ファルカウは自身と、魔女と、死んでしまった人達、その愛する人達、全ての魂を、楽園へと連れて行ってあげたんだって。
その楽園で、皆は、いつまでもいつまで、本当に仲よく、幸せに、暮らしたんだって。
だから、このお祭りも、最後は皆、笑顔で、幸せに過ごすようになったのさ。
ハッピー・グラオ・クローネ!
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
ご参加ありがとうございました。
このお祭りが、皆様の良き思い出の一つになっていただければ、幸いです。
GMコメント
お世話になっております。洗井落雲です。
君は愛の為に死ねるか。
ちなみに、おとぎ話によると、最終的には戦略兵器を用いた奪還軍の攻撃により、魔女は死に、ファルカウは消滅し、奪還軍も全滅し、ファルカウ周辺は不毛の地となり、向こう100年ぺんぺん草一本生えないような場所になったそうです。
過ぎたるは猶及ばざるが如し。
●成功条件
グラオ・クローネ祭を目いっぱい楽しむ。
●情報確度
A。予定外の事態が起こりようもありません。
●行動について
主に、以下の3つについての描写を予定しています。
【1】ファルカウ
あなたは武器を配給する死の商人。
具体的に言うと、チョコレートを作る係です。
真面目に投げやすいチョコレートを作ってもいいですし、自分のプレゼント用のチョコレートを作っても構いません。
【2】祭り本番
a.魔女陣営
b.奪還軍陣営
それぞれの陣営に所属し、チョコを投げ合ってください。特殊な混沌肯定的なパワーで、チョコレートが当たっても、ちょっとチョコレート塗れになる位で済みます。水風船がぶつかって、破裂して水浸しになる。そんな感じのイメージです。戦場となるのは、いつもの街中。路地や建物、あらゆるものを駆使し、相手をチョコで染め上げましょう。
なお、特に勝敗はありません。チョコを投げるバカ騒ぎ。それがこの祭りのだいご味なのです。
【3】チョコを食べる。
祭り本番が終った後は、皆でチョコレートを食べましょう。先ほどの戦いの遺恨は忘れて、平和に食べるのがポイント。
チョコレートと名のつくものは大体あります。持ち込みも大歓迎です。
以上の三つから、特に描写をされたい! と思うシーンを選び、プレイングに数字を記入してください。ただし、【2】に参加した場合は、陣営も選択してください(【2a】【2b】と言った標記でお願いします)
数字を選択しなくても構いませんが、描写が簡潔になる可能性があります。
●書式について
以下の書式通りにプレイングを書いていただけると、スムーズに処理できます。
守られていない場合、一緒に参加したはずの相手と合流できなかったり、描写されたいシーンに登場できなかったりなどする可能性がございますので、何卒ご協力をお願い致します。
1行目:【行動選択】(1~3(2のみ、【2a】or【2b】で記入する)より、1つを選択)
重要です。登場するシーンが決まります。
2行目:同行者のフルネーム(ID)、または【グループ名】 ※単独参加者は不要。
重要です。もしあなたが友達同士で参加したい、という場合には、こちらの記入が必須です。
3行目以降:自由なプレイング
重要です。あなたが何をしたいのか、思い切り記入してください。
●その他の注意事項
・ユリーカ・ユリカ、新緑の魔女、ファルカウ、マキシ、マキシの同僚、マキシの同僚の同僚はリプレイには登場しませんので、ご注意ください。
・もしも「完全に単独での描写」をお望みの場合は、プレイングにご記入ください。(そう言ったプレイングがない場合、他のキャラクターさんとの掛け合いが発生する場合もあります)
・イベントシナリオは、参加者全員の描写を必ずしも約束するものではありません。
以上となります。
それでは、皆様のご参加お待ちしております。
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