シナリオ詳細
没落貴族と降臨祭
オープニング
●
それは聖教国ネメシスにおいては重要なイベントであった。
一説によれば、神はどこかより降り立つものなのだという。暦と云うものは、神が世界を伝承録に示すために――以下略、つまるところ現代日本で言う『正月』を天義では『降臨祭』と称し、その期間を祝日としているのだそうだ。
「明けましておめでとう」
それは万国共通だ。
リンツァトルテ・コンフィズリー。天義の『元・名門貴族』が一角のコンフィズリー家の現・当主。
――コンフィズリー家に関しては様々な憶測が飛び交う所だが、
彼はあくまで『コンフィズリー家の血筋』であり『前当主クラフティ・コンフィズリーが断罪された』ことであり『クラフティ卿の息子』であるだけだ。彼は敬虔なる神の使徒であり、聖騎士団の一員であり、正義の徒として活躍していることは確かである――
ローレットに関しては好意的である彼は、正義に関しては視野狭窄の気はあるが接してみれば好青年と言った様子だ。
穏やかな笑みを浮かべる彼の傍らで「明けましておめでとうだ!」と瞳を輝かすはイル・フロッタ。天義の聖騎士団を目指す『正義』に関しては未だまだ未熟な見習い騎士だ。
「折角の降臨祭だ。ローレットの皆と楽しむのはどうかと思ってな!
私が! 先輩に! お願いして! 皆を呼んでみたのだ! うむ、遊ぼう!」
きらきらと瞳を輝かせるイル。天義という国民性からは掛け離れ、遊びに誘う様子などは普通に愛らしい少女だ。
「失礼、やはり客人(ローレット)の相手は彼女には荷が重かったようだ」
「リ、リンツァトルテ先輩……」
イルとぴしゃりと叱る声にイルが肩を落とす。白き都が造花や生花問わず様々な花で飾りつけられる街の様子をローレットの皆と楽しみたかったというイルは降臨祭を大層気に入っていた。
「私は降臨祭や祭りの時期は正義たらんとする騎士ではなく……その、だな」
どこか声を潜める様にイルはリンツァトルテに聞こえぬ様に小さく言った。
「普通の女の子として――遊べる気がするんだ」
彼女は何処か恥ずかしそうに頬を掻いた。憧れの先輩に彼女が抱く気持ちはどの様なものであるかは分からないが少女は『少女らしい感性』で動いているのだろう。
「客人からするとこの都は居心地が悪いかもしれない。だが、降臨祭の時は無礼講だ。是非、楽しんでいってくれ」
「よければ、私と共に見て回らないか? 祭りの露店もあるが、飾られた花も綺麗なんだ」
シャイネン・ナハトの頃のイルミネーションとはまた違う穏やかな花の風景。
是非、共に楽しまないかと微笑んだイルはローレットと、特異運命座標と仲良くなりたいのだとリンツァトルテの袖を引いた。
- 没落貴族と降臨祭完了
- GM名夏あかね
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2019年01月18日 23時00分
- 参加人数40/∞人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 40 人
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参加者一覧(40人)
リプレイ
●
天義に来るのは初めてだとシャルレィスは周囲を見回した。
ローレットでも噂に聞くイルの姿を見つければ、シャルレィスは緊張した様に「イルさん?」と首を傾ぐ。
「初めまして! そしてあけましておめでとう! 私はシャルレィス・スクァリオ。ローレットの冒険者だよ」
「ローレットの!」
嬉しそうに微笑んだイルにシャルレィスは良ければ花のアーチを案内してくれないかな? と首を傾ぐ。
勿論だと彼女を手招いて、どこか幼さを感じさせる笑みでイルは「どーだっ」と言わんばかりに両手を開いた。
「お花の雨が降ってる! ここがお気に入りなんだ?」
「ああ、私のこの国が一番美しいと思う瞬間なんだ」
美しい花が、正義を。罪を。忘れさせてくれるような――そんな、場所だから。
「アリシスの国にはこういった行事は存在していたのか?」
「新年を祝う祝祭と宗教が密接に関わる地域と文化は、確かに存在していましたが……」
神は存在していない。そう思えば聖職に携わってきたアリシスにとってアレフの言葉は返答に悩むものだ。
舞う花を視線で追いかける彼に「――神に、聞き届けてほしい願い……ですか」と呟いて、アリシスは目を伏せる。
こういった話は場所にとって大きく違う。神に願いを託すというのは神が実在していたかそう信じて居るものにしかない発想だろう。「私の神と彼らの敬愛する神はまた別物だろうが、気紛れにでもその思いを本当に聞き届けているのなら、悪い事ではないとは思う。
最も、私はもう神に聞き届けて貰いたい思いはない。アリシスは……一つくらいはあったりするのか?」
天使然とした彼に。アリシスは嘗て、と唇を震わせた。
「昔は……そう。あったかもしれません。あったのでしょう。ですが、今はもうありません」
ただ、雪融けの如く。穏やかな調子のスティアは「イルさん? 私の事わかる?」とにんまりと笑みを浮かべる。
「……?」
「えっ、が、ががーん! 忘れられてる!?」
「嘘だ、憶えているよ」
けらけらと笑ったイルにスティアは頬を膨らませた。周囲をぐるりと回った二人にとって、交える会話は何時だって可愛らしいものだ。
「私は花が降り注ぐように美しいかったあそこが気にいったかな! 綺麗な景色を見ていると心が落ち着いて安らげるよね」
「ああ、でも、あのアーチがならぶところもよくないだろうか?」
景色を見回して、ふと、スティアはこの場所を知っているのだろうかと小さく瞬く。
そんな気もするけれど――けれど、分からないと首を振って。
「わぁ……っ、お花のシャワーね! ふふ、とっても綺麗。素敵だわ♪」
降り注ぐ花の下、リヴィエラは腕を広げてくるくると舞い踊る。楽しくなって翼を羽搏かせ謳うリヴィエラは天義の『神様』に捧げるように声をも躍らせた。
――あけましておめでとう お隣さん。あけましておめでとう 仲良しさん
あけましておめでとう 大切なあなた。今年も変わらず いいえ去年よりもっと 幸せが降り注ぎますように――
喧騒がする。は、と顔を上げてリヴィエラが慌てた様にぺこりと、聞いてくれてありがとうとお礼を一つ。
「ああ、綺麗だね……」
花振る景色は何処までも美しくて。自然会話で花々と会話しながらウィリアムは楽し気なイルの横顔を見遣る。
追い討ちばかりであまりフォローできていないかと、心配げに眺める彼にイルはきょとんと瞬いた。
「ん?」
「こうしていると正に花の都って感じだね。見違えるや」
花ならばウィリアムの故郷も負けてられない。けれど自然と人工ではその意味合いも大きく違う。
「今日は良いものが見れたよ。ありがとう、イル」
また、と差し伸べた手に、イルは嬉しそうにへにゃりと笑った。
「あけましておめでとう~! イルさんはここが好きなんだよね? じゃあ一緒にいこ!
降臨祭ってとっても綺麗だね! えへへ~僕お花大好き!」
嬉しそうに微笑んでカシミアと共に歩き出したイル。こんなにお花が綺麗だからとお華を飾ろうと手首や髪に飾られた花と同じ様に花飾りを選ぶカシミアがにんまりと笑みを浮かべる。
「あっイルさんも、僕の咲かせたお花で飾ってあげるっ! せっかくの降臨祭だし、楽しもう!」
「えっ……」
「そうだなぁ……髪飾りみたいにとかにどうかな? 絶対似合うと思うし、女の子っぽくなれると思うし!」
女の子っぽい――と、その言葉にイルの頬がかあと紅くなる。なれるだろうかと囁いて。
カシミアは「なれるよ!」とにんまりと笑みを浮かべた。
正義を謳うこの国に、ボクなんかが来ちゃいけないって、ほんとうは、わかってるんです。
けど……だからこそ、意味があるような、気がして……――
呟きながらも閠は周囲を見回した。ごめんなさい、と書き添えた福寿草。薄っすらと思い出せる血濡れの惨劇が真実であり自身の罪であると朧気に――それでも『実感して』――理解しているゆえに彼は宣告する。
「誰かに裁かれて、楽になろうとは、思いません。
許されなくても、理解されなくても、ボクがしたことは、ボクが背負って生きます。忘れません……だから、ごめんなさい」
自ら潰した咽喉に触れて、外套を深く被り、ゆっくりとその場を後にして。
「明けましておめでとう、だ。よう、若人。献花台まで案内して貰えねぇか」
目深に被ったフード。レイチェルはリンツァトルテに声をかけ、ゆっくりと進み出す。
献花台に備えた月下美人。懺悔の言葉を書き込んでふと、レイチェルはリンツァトルテの手に握られた花を確かめ笑う。
「ロベリアか。ロベリア自体は悪い意味の花だな。だが、ロベリア・カーディナリスって花の意味を知ってるか?」
「……さあ?」
青年の黒い瞳が揺らいでいる。レイチェルは「卓越、優秀さだ」と静かに呟いた。
捧げるオリーブ。民草の平和を、そして我が身の知恵を願いながらコーデリアは善き日になる様にと祈る。
「リンツァトルテさん」
一度はお話してみたかったというコーデリアに恭しく頭を下げたリンツァトルテはよくぞいらっしゃったと柔らかに告げる。
「何を願われたのでしょう?ロベリアの花とはまた、その花言葉を考えると捧げるには少し変わった選択か、とも思えますが……」
「平和、だろうか」
ふむとコーデリアは瞬く。この時期の白き都は平和がある。民の心の余裕さえ感じ取れる。
コーデリアを見返してリンツァトルテは「俺がしていい祈りなんて、あるのかわからないが」と何処か困った様に笑った。
「うむ、妾はデイジー・クラークじゃ。お主はイルと言うのかの、よろしく頼むのじゃ……楽にすると良いのじゃ」
何所か壮大なる気配を感じさせるデイジーに緊張した調子のイルが恥ずかしそうに頬を掻く。
ふと、イルの手元を見遣ったデイジーは「イルはシラユリを供えるのかの?」と首を傾ぐ。
「賢い妾は知っておるのじゃ、花には花言葉というそれを象徴する意味があるととあるウォーカーより教わったのじゃ」
その手に持った『デイジー』。彼女の名と同じその花を見遣りイルは「私も知っているぞ」と胸を張る。
「花言葉は美人、だな!」
「妾に相応しいだろう?」
楽し気に笑うイルはふと、傍らのコロナを見遣る。追憶の華――ハルジオンを手にしたコロナが目を伏せる。
(今年も正しくあれますように、そして――
貴方を忘れるわけではありませんが、そろそろ私も、新たな愛を見つけてもよろしいでしょうか?)
コロナの祈りは只、只、静かに。ふと、顔を上げてコロナは「イル様」とその気配を感じ取る。
「今年は迷いの晴れる年になると、いいですね」
「ああ、ああ……」
きっと、晴れるだろうと願う様にイルは笑みを溢して。
イル先輩と呼ぶヴェノムの声に、イルは緩やかに頭を下げた。
「この間、依頼であったっすけど。僕なりに心配もしてはいるんすよ。天義なんて国だと生き辛いとは思うすけど」
「……ん、まあ」
ぎこちないイルにヴェノムは「『正義』を為すというのは拘るべき処で拘らなければならない処なんだろうなぁ」と返す。
イルの先輩――リンツァトルテも気になるが、とりあえず今日はのんびりと過ごすとしよう。
「その花は?」
「嗚呼、これっすか。ツルバギアっす」
手をひらりと振ったヴェノム。その花言葉は小さな背信――この国の正義に踏み躙られた弱者の為に。少しの嫌味を込めて。
●
「マリー見てみて! 名前の通りの綺麗な白い街。丁度お祭りもやってるみたい!」
此度は花の都。ハイデマリーにとっては『天義の嘘くささ』はさておいて綺麗だと感じ取る。
それはセララも同じなのだろう。何時も通りならばグルメを楽しむであろう相棒は今日はショッピングにやる気を見せている。
「セララ?」
「ほら、これ! マリーにぴったり!」
綺麗だね、と微笑むセララ。「そんなの似合わないよ」と恥ずかし気に頬を染めたハイデマリーにセララはご満悦。
「んー、これでよし。いい感じに似合ってるよ。可愛い! この調子でマリーをオシャレさせよう。次はお洋服だー!」
「えっ、セ、セララ!? かわいい服って私には似合わないよ!?」
うう、とうなりながら、さあ、次はどんな可愛いを探そうか。
「『神は降り立つもの』かあ。信じる教えが違えば、神の在り方もまた違うのですわねー。
そしてこれは、主が降り立つ場所を少しでも美しくせんとした人々の心遣いといったところかしら」
周囲をきょろりと見回したヴァレーリヤ。珍しい酒や食べ物は余りないのかしらと彼女はどこか眉を顰める。
お祭りと言えばぱぁっとどんちゃん騒ぐものなのだが、どうやら天義は穏やかなお祭りばかりだ。
「あのー、すみませーん! この辺りで美味しいものを食べられるお店って無いかしら? できれば、懐にも優しいと嬉しいですわっ!」
見かけられたらいい。シュテルンは黒いローブを羽織りながらレオパルの姿を探す。
話さなくていい、『かみさま』だから――見かけられるだけで、見るだけで、いい。
足早に、聖堂へと進んでいく。ローブを脱いで『お父様』に見つからぬようにと目を伏せて。
(天義……こう言う場は、少し、緊張……『お父様』……居ませんように……。
こんな、思いしても……シュテ、天義、嫌い、なれない。 生まれた場所……だから、かな?)
ふと、顔を上げたところには献花に来ているレオパルの姿がある。は、と息を飲みシュテルンは笑みを溢した。
カスミ草を献花して。たくさんの『出来る』と『がんばる』をする事を祈り、シュテルンは「よおし」と意気込んだ。
――思いを込めるとして、何を選ぶか。
イリスは悩まし気に鼻を選ぶ。名前は思い出させない。紫の――秋の花。記憶を辿り、これかと手を取ってイリスはゆっくりと花弁へと言葉を書き入れる。
『魔法少女に安息あれ』と書き入れて献花台に捧げれば。大それた願いでないとしても――届くように、と。
絵青でいられることが一番だと知っているように目を伏せて。
「拙者、天義の都は初めてでして!」
にんまりと笑ったルル家はリンツァトルテの案内を受けながら、ふと、彼が周囲から向けられる奇異の眼差しに気付く。
(コンフィズリー家の不正義……)
ルル家の脳裏に過るリンツァトルテの生家の話。それは彼も同じなのだろう。
「いや、失礼。客人にとっても気分が悪いだろう,なんせ『罪人』の子だ」
自嘲するように――そして恥じるように笑ったリンツァトルテへとルル家が首を振る。
「罪は遺伝しませぬ。家を捨て、個人になったのであったならば後ろ指を刺される事も……今よりは少なかったでしょう。
それでもなおコンフィズリー家を継ぐのであればその罪も継ぐ事になります。
それでも家を継ぎ、父祖の汚名を晴らそうというその志は立派なものだと思いますよ!」
ぱちり、と瞬くリンツァトルテへと「こうして知り合えたのも縁です。拙者、お困りの際はお力添え致します故!」と小さな背丈でぴょんと跳ねたルル家は「なでなでのがいいですか?」と冗談めかして笑った。
「初めまして。私はヴィルヘルミナ……イル、と呼んでも良いかな? 私の事は好きに呼んでくれ。
新年に天義に来たのは初めてでね。作法を教えて欲しいんだが良いかな?」
こく、と頷くイルはヴェルヘルミナと呼び捨て華を選ぶのだと案内を始める。
「作法のお礼に、そうだな……私は今日は剣を持っていない。詰まる所、普通の人という訳でね。おねえさんと遊ばないかな?」
「嗚呼、是非。あそんでくれ」
嬉しいと笑ったイルは少女らしい。彼女に笑みを浮かべてヴェルヘルミナが選んだのはスミレ。
願い事は自分の正しいと誇れる何かを一滴でも手に入れられるように――抱負は、来年の自分が省みて失望されないような一年を。
そして、祈る葉県が必要とされぬ泰平。目標は戸惑わぬ勇気を。
そして――踏み出すべき時に、踏み出さなければならなかったときに、踏み出さなかった懺悔を口にして。
トリテレイアの花はあるかな、と踏み入れてアレクシアは声を震わせた。抱負と懺悔があるのだと目を伏せて。
「今年の抱負は、もっと、多くの人を助けられるように――守れるように力をつけること。
去年一年で本当に色々あって、私はまだ未熟で、何もかも足りてないんだって……痛感した。
勿論ね、去年も頑張って強くなろうとしたんだ。でも、それ以上。もっと」
アレクシアは笑みを溢す。それは豊富で、それから懺悔だ。
もっと強ければ護れた。もっと頑張れたら救えた。そう思う事もあった。失った命は罪の証だ。
「だから、私は、前を向いて……頑張らなきゃいけないんだ」
──降臨祭。懐かしい響きだ。幼い頃、妹と親友のリゴールと共に、色めく街を巡った事を思い出す。
二度とこの国には戻らないと思っていたが、これも仕事だ。
そう、心に刻む様にグドルフは決めて貧民街へと向かう。孤児院という名の廃教会はすでにその姿を消していて。
只、その場所に立っているグドルフの背に、一歩ずつ近づく足音がする。
振り仰げば、グドルフは声に出さぬように「リゴール」とその名を呼んだ。上級聖職者の衣服を纏った懐かしい顔。
「……グドルフ?」
全てを捨てて逃げた自分とは対照的な聖職者となった彼。呼ばれた名にそ知らぬふりをして「誰だい?」とぎこちなく笑う。
「おれぁただの通りすがりよ」
そう呟いてて、また、逃げたのだ。
何故ここに来たのだろうか。この国が嫌いなのにとランドウェラは何処かぎこちなく周囲を見回した。
信仰や正義やら、それに塗り固められたこの世界。イルを見遣りはランドウェラ左手をひらりと振った。
「イル」
「?」
きょとん、と瞬いて。彼女は半分は旅人の血が流れているのだという。だからこそ、他愛もない会話がしたかった。
興味本位だが、それでもいい――ただの、雑談を交えて。きっと、彼女と話せるのはこういう時だけだから。
生まれも育ちも聖都。だからこそ真新しさはないけれど、イレギュラーズとしての活動で少し懐かしいとサクラは周囲を見回した。
同じ天義の騎士見習い。イルに興味があるとサクラは「初めまして」とにんまり笑う。
「私は天義の騎士見習いで、イレギュラーズのサクラ・ロウライトだよ」
「騎士見習い……いっしょ、だな」
どこか幼い口調で瞳を輝かせるイルにサクラはうんうんと大きく頷く。
「ところで―――……!」
ぐい、と顔を近づけて、囁くようにサクラはイルの耳元へと顔をよせる。
「ところでイルちゃんって、リンツァトルテ様の事好きなの?」
「えっ」
かあ、とイルの頬に紅が登っていく。いや、だとか、その、だとか、何度も繰り返された後、イルはサクラの袖をきゅ、と握った。
「あの……憧れ、なんだ」
愛い愛いとサクラがにんまりと笑みを浮かべる。「まだ、わからない」と囁くイルにサクラはうんうんと頷いた。
「そういえばイルちゃんって歳いくつ? 私は16だよ」
「14に、なった」
恥ずかし気に視線を揺らしたイルにサクラは「じゃあ私がお姉さんだね」とくすくすと小さく笑って。
花のアーチを潜りながら珠緒はイルに「おすすめはこちらですか?」と柔らかに笑みを浮かべる。
お気に入りの場所は花に彩られ、美しく普段の白き荘厳さとは掛け離れたファンシーさがあるのだという。
彩に溢れた一日が、珠緒にとってもとても素晴らしいもので。
「野暮な質問をいたします。ご気分を害されましたら、申し訳ありません。
――降臨祭により、花で彩られる『範囲』は、如何程でしょう?」
は、としたようにイルは珠緒を見遣りどこか悲し気に目を細める。
「ただ、この豊かさが、より広まったならば。どれだけ素晴らしかろう、と、そんな、夢をみたのです」
「ああ、私も――そうなれば……そうであれば、と思うよ」
――一人でここに来るのは怖かったから、ついてきてほしい所があるの。
そう告げたアーリアに頷いてミディーセラはゆっくりと進む。
(……アーリアさんのかみさまは、どんな形をしているのかしら)
進みゆくアーリアが献花台に置いたのはカンパニュラ。彼女の髪に似た綺麗な色をしていて。
ごめんなさいの文字を刻めば、アーラは声を震わせる。
「お母さん、お父さん。一人で逃げて、お墓も作ってあげられなくて、ごめんなさい」
目を閉じて、懺悔を呟いて。この国の神様に言うのは間違いかしらとアーリアは流れる涙を隠す様に俯いた。
彼女の寝言にも混じった両親の話。ゆっくりと手を握れば「ごめんね、付き合わせて」と彼女は何処か『不細工』に笑った。
「いいえ、ずっとここに居たら冷え切ってしまいますわ」
ただの何時も通り。ミディーセラはアーリアの手を引いてふと顔を上げる。
いつの日か、彼女を見送るのだろうか。遠い遠い何時かの日。それは嫌だ、と振り返れば柔らかな彼女の笑顔。
(お母さんが、お父さんと一緒にいたいと思ったように。私も、一緒にいたい人に出会ってしまったの)
まだ、一緒に居たいのだと、痛いほどに思うから。
「花の都での懺悔なんて少々勿体無いですが、きっちりとけじめをつけましょう」
コルクは顔を上げる。クロッカスを手に祈りを捧げると目を伏せた。
「願い事。私は弱いのでしょう。強欲だって、わかっていますけれどね。
抱負。日光を浴びれないのは、辛いですから。祈り。………貴女は、混沌にまだいるのでしょう?
目標。私の友を癒すために……懺悔。混沌へ来るときに、貴女の作った物語は、消えました。私も、仲間たちも
私は私の物語を、忘れて――」
作者の作った『私』。紛い物の自分。ああ、はして。私は――
●
「サントノーレ・パンデピス殿。お元気ですか? また無茶はしておりませんか? 心配です」
「かわいこちゃんの心配なら100万力――っと」
ふと、見かけた探偵に視線を送れば探偵は騎士の姿を見つけ全力でダッシュしている。どうやら、無茶している様だ。
イルは何時もの事だと憤慨していた事を思い出しアマリリスは小さく笑みを溢した。
「さー天義観光ですね、リゲル!
自分らが隅々まで案内しますね! 任せください! 天義内など庭のようなものですから!」
ならば、何故地図を手にして、何故それを逆さに持っているのか。
よろしく頼むと口にしてハロルドは「地図がさかさまだぞ……」と呆れたようにアマリリスに注意する。
少し不安にはなるがリゲルが共に居るなら、一応は安心しても良いのだろうか……?
案内してもらえるならと足を踏み入れた義弘は来れもいい機会だろうとローレットの仲間が案内してくれる花の都を楽しんだ。
国外に居れば、ローレットに舞い込む依頼が天義という国を表しているようで。義弘が苦い顔をする。
それはハロルドも同じであろうか。彼が考える聖なる都とこの天義では大きく違う。
(……天義、か。この世界に来る前、『聖都』の神殿騎士団に所属していた頃を思い出す。
まぁ『聖都』と天義とでは国民性がまったく違うようだがな……)
祭りではあまりその国民性を知ることができないだろうかと義弘が周囲を見回せば、柔らかなリゲルの笑みをぶつかった。
「飲酒は程々、タバコは遠慮して……まあ石を投げられないように気を付けるかな」
「はは、そこまではしないさ。白亜の都に美しき花々。眩しいほどに美しいだろう?」
幻想やローレットに馴染めばこの都もどこか圧倒されるものになるとリゲルは柔らかに告げた。
「白い都なぁ、ここまで真っ白だと些か眩し過ぎる気がしそうなもんだけど慣れるもんなのか? まぁ、花の飾りとは良く合ってるとは思うけどさ」
周囲を見回したアオイは天義をこうして観光する機会はなかなかなかったからと物珍しそうに瞬いた。
露店に並ぶは花飾りや神具、聖書に教本。流石は天義だとアオイが頬を掻く。
「いやあ、私、このように正式な形で天義を訪れるのは初めてなものですから。
とりあえず天義に関係ありそうなものを手元から集めてみたのですがね」
アオイが「露店ってこんなだっけか」と呟く言葉に寛治は「このようなものでしょう」と頷く。
「それは……?」
「ああ。このハイパーメカニカル子ロリババアプロダクトモデルは、何か仕入れ物があったときの運搬用ですからお気になさらず」
ぱちりと瞬いてポテトは「天義ってこんな感じなんだな……?」と首を傾ぐ。アオイが不思議がったのと同様にポテトも不思議なのだろう。
「お国柄か……あ、でもこの花飾りは可愛いな。ノーラのお土産にもよさそうだし、ポーにも似合いそうだ。
アオ……ううん、葵子にも似合いそうだ。リゲルも似合うかもしれないな?」
くすくすと笑うポテトにリゲルは頬を掻く。「祈りを捧げるものや学ぶものも多いが、花飾りだととっつきやすいな?」と瞬いて。
観光って大丈夫なのかと頬を掻くアランは楽し気な様子の仲間達を見遣る。
流石は宗教国家。街道はきれいに舗装されているが十字架や教本がずらりと並び、神へと祈りを捧げる人々も多い。
「土産に一個買おうかね。こう、敵が来た時に教えを説けるように。本の角でな」
め、と叱りつける様なアマリリスにティアが不思議そうにぱちぱちと瞬いた。
「天義の観光は初めてだね。綺麗だね」
『花の都だけあって花が多いな』
アクセサリーを見かけ、十字架もいいけど、とティアは悩まし気に口許に手をやる。
「お花の種とかないかな?」
『育てるつもりか?』
「うん、折角だし……お、ブルーデイジーと白薔薇だ」
手に取って、ティアは「アマリリス」と彼女を呼んだ。今日のお礼と花束を差し出せば、アマリリスがきょとんと瞬く。
「わ、ティアさま、花束くださるんですか!? 普通なら騎士が淑女に送るのに……いえ! 感謝申し上げます!」
彼女の様子にシュバルツは逆十字のペンダントを仕舞い込み、リゲルがいるから安心だな、と小さく頷いた。
白亜の年に並ぶ花々は美しい。教本や聖書の一冊や二冊なら適当に手にするのもいいだろうとシュバルツが手に取れば、傍らの行人がノートを鞄に仕舞い込んだ。
「なんだそれ?」
「……あぁ、これかい? これはネメシスに初めて訪れたときに購入したノートでね。丁度使い勝手がいいんだ」
いろんなメモ代わりにと告げる彼。茶々を入れ乍ら小さく笑った行人は「へたくそな絵なんかもあるんだけど」と肩を竦める。
「へたくそな絵? それも楽しいですよね」
にんまりと笑ったノースポールはポテトの選んだ花飾りを髪に飾って「どうでしょうか?」とにんまり笑う。
降臨祭を楽しみたいというのはこの国を存分に楽しみ続けるという事だ。
今日という日を象徴するような白い花。リボンに刺繍された聖なるかな、その言葉を見遣りながらノースポールは号泣するアマリリスをにきょとりと瞬く。
「皆さまいらっしゃいませ、うっうっ、ゆ、夢にまでみた光景
天義にイレギュラーズの皆さまが……うっ……もうこれ以上の幸せは致死量です神さまー!!!!!」
うるせぇクソピンクと毒づくアランにアマリリスが「もー!」と拗ねた様にその瞳をキッとさせる。
「そんなに仲間に祖国を紹介できるのが誇らしくて、嬉しいことなのかね……俺は嫌だけどな。元の世界なんて、ロクでもねぇよ」
その呟きは誰にも聞こえない。ふと、騒がしい様子にイルが不思議そうにしているのが見える。
「リンツァトルテとイルはお招き有難う。それとあけましておめでとう。
花で飾られたいつもと違う天義は華やかで綺麗だな。
あ、先ほど見た露天には花飾りも売っていたが、イルにも似合うと思うぞ。なんなら一緒に見に行かないか?」
「え……」
いいか、とリンツァトルテを見遣るイル。行って来いという様な仕草を見せた彼にイルの瞳がきらりと輝いた。
「リンツァトルテ様、お目に掛れて光栄です。願わくば幻想……ローレットとも末永い善き交流を願っております」
「嗚呼、此方こそ。よろしく頼む御客人(ローレット)」
「花の都、華やかでとってもとっても素敵でした! また次の降臨祭も観に期待です。今度は恋人も一緒に!」
礼を言ったノースポールにリンツァトルテは「幸福あれ」と柔らかに呟く。
聖騎士はその様子を眺め、少女のようにはしゃぐイルはイレギュラーズの中へと歩み進んでいく。
寛治はくるりと振り仰ぐ。
「この本……というより裁判記録ですか。天義の法は門外漢ゆえその判断に口は出しませんが。
貴方はこれを、本当に真実とお思いで? 真相を究明し白日の下に照らすおつもりは無いのですか?」
「『本に書かれた事』を違うと口にしたならば、それこそコンフィズリー家は――……いや」
ふる、と首を振ったリンツァトルテが曖昧に、ただ、笑う。
聖なるかな。聖なるかな。
神に祈る様に目を伏せて、リンツァトルテは「善き日を」とだけ告げた。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れさまでした、イレギュラーズ!
降臨祭、楽しんでいただけましたでしょうか?
リンツァトルテとイルの二人とは皆様も関わる機会が多くなる子たちだと思います。
どうぞ、仲良くしてあげてくださいませ。
GMコメント
夏あかねです。良ければお正月を楽しみませんでしょうか?
●降臨祭
天義特有のお正月です。この時期は「降臨祭」と呼び、神へと祈りを捧げるそうです。
その意図は「神がこの時期になると降りて来て一年の抱負を聞いてくれる」というもの。その抱負や目標を叶えることこそが、国民にとっての重要な事であり、誓いです。
造花の花びらに願いを書き入れて献花台に備える風習があります。
【1】献花台へ
願い事、抱負、祈り、目標、そして『懺悔』を花弁に記載し、聖堂の献花台に備えます。
花は造花ですが、種類や色も豊富で、自身に合ったものをチョイスすることができます。
イルは毎年シラユリを選んでいます。リンツァトルテはロベリアを選んでいるようです。
【2】花の都を観光
この時ばかりは白き都も花を飾り『花の都』と呼ばれます。様々な露店も立ち並びますが、国民性が出るのか、花飾りや十字架、聖書や教本などが多くな立ち並びます。
縁日の露店というよりも古物展という方が正しいかもしれません。
【3】花のアーチ
花の都を飾ったアーチや、花降る景色を歩む事が出来ます。聖堂のほど近い場所であり、聖騎士団の騎士たちが作成した花のアーチや枝垂れる花が降り注ぐ美しい景色を楽しむ事が出来ます。風景を楽しむ事が出来るためイルはこの場所がお気に入りのようです。
●リンツァトルテ・コンフィズリー
コンフィズリー家現当主。聖騎士団の一員。
正義たらんとする為、視野狭窄の気が強いようですが彼自身は正義という言葉が絡まないならば見目麗しい好青年という事が出来るでしょう。ローレットにも好意的です。案内をと頼まれれば承ります。
●イル・フロッタ
父は旅人。母は天義の貴族。出自より母は背信者ではないかと疑惑をかけられたことから娘である自身が立派な騎士になる為と志しています。行き過ぎた断罪や殺人には忌避感が強く、いたって普通の少女と言えます。ローレットには好意的であり、皆さんと会うのを何時も楽しみにしています。是非遊んであげてくださいませ。
●NPC
天義に関しては
・リンツァトルテ・コンフィズリー
・イル・フロッタ
は確実にホストです。その他のNPCや関係者は『会えるかは分かりませんが試してみて』下さい。天義なのです。
また、ステータスシートのあるローレット所属のNPCに関しましては『ざんげ』以外はお名前をお呼びいただけましたらお邪魔致します。(※他GM担当NPCに関しましてもOKです。ローレットの所属NPCに限ります)
どうぞ、よろしくお願いいたします。
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