PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<ジーニアス・ゲイム>イーグルハート

完了

参加者 : 69 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 収穫祭を終えた十一月の終わり。
 真冬の祭りシャイネン・ナハトを控えた幻想の空気は、晴れ渡った晩秋の空と比して随分暗い。
 その訳は――

 西方のラサから落ち延びた後、『盗賊王』キング・スコルピオが、『新生砂蠍』と呼ばれる一大勢力を率い、幻想南部に浸食してから幾許かの時が流れていた。
 対するローレットの対応により、幻想は彼等の野望をかなりの局面で挫く事には成功したが、少なくない街や拠点が『新生砂蠍』の手に落ちたのもまた事実だった。
 陥落せしめた拠点を橋頭堡に王都メフ・メフィートを狙う砂蠍に対して、幻想貴族軍もそうはさせじと考えたのだが。
 最悪のタイミングで北部戦線の名称ザーバ――鉄帝国の軍勢もまた動き出そうとしていたのだった。
 越冬を控える鉄帝国首都スチールグラード近郊に位置するという食糧庫が焼かれた事を発端として、備えの食料を害するという最悪の凶行を果たした下手人はついに挙がらず。鉄帝国と幻想は、ついに激突することとなる。
 かような事情も相まって、幻想貴族軍が手薄とならざるを得ない南部戦線『砂蠍軍』を撃滅するのは、ローレットを置いて他にないのであろう。

 さて。こちらはそんな南部戦線の北側。
 王都を臨む山間に、かつて『アルテア・フォート』と呼ばれた大きな廃砦がある。
 古い時代に戦で使用されたという逸話があるが。王都近くという『ある意味で物騒な立地』から門閥貴族達の押し付け合いの末、近年ついに廃棄されたのだった。
 軍事拠点というものは、維持にも取り壊しにも金がかかるということで、これまたいい加減に放置されていた。
 そんな厄介者の廃砦に、これまた厄介者が住み着いたというから頭の痛い問題だ。

 砦に住み着いた者達を盗賊団『イーグルハート』と呼ぶ。
 その経緯を簡単に説明するならば。まず彼等は南部の町ペイヴロードの奪取をしくじった。突如出現した魔種とイレギュラーズとの板挟みとなり、撤退を余儀なくされたのである。
 だが手ぶらで盗賊王の元に帰る訳にもいかない彼等は、この無人砦の占拠に至った。
 幻想にとっては不要な廃砦(ゴミ)だが、攻める側としては実に都合がよかった。正に要。王都の首元を突きつける刃となった訳である。

 ――砦の奥で肘をついた少女が座っている。背もたれの高さと幾許かの飾りが座す者の位を示しているが。いかにも砦の主が座すに相応しい質実剛健な作りだ。
 少女は西方の民が着るような刺繍を帯びた赤い服を纏い、獅子尾剣を帯びていた。片目を隠すように切った白い長髪が美しい。
 だが果たして『ソレ』を少女と呼んで良いものだろうか。
 放つ気配は異様。邪悪と怒り。なによりまるで――の化身とすら思える空気が漂っている。

 足音一つなく。灯りから延びる大きな影が石畳を滑る。
「ミリアム……客人だ」
 影の主。大男ザムダが口を開いた。盗賊達の副官である。
「ああ」
 応じた少女が立ち上がる。
「誰一人、生かして帰すな」
 それが盗賊王の望みだと加えて、ミリアムは席を立った。
 頷く盗賊達には、風体の違う者がかなり混じっている。
 彼女等の中心となっている集団は、彼女と郷里を共にする一族達だ。
 かつて西方を荒らした盗賊達であり、盗賊王の軍勢では古参の部類に入る。
「ハッ」
 そして今、鼻を鳴らした女は幻想を拠点としていた盗賊である。部下も合わせて盗賊王に帰順し、このたび彼女の旗下に加わった者達だ。
 それから隅に控えるのは老人に子供達。これこそが正に盗賊団『イーグルハート』が抱える事情である。部族間の闘争に敗れ盗賊や暗殺といった汚れ家業に身をやつした彼等には、養わなければならないお荷物が存在するという訳だ。
 とにもかくにも、これが彼等の総戦力なのである。

(どうしたもんかね)
 新入りの幻想盗賊レイムが腕を組む。実戦経験豊富な者達だけならばともかく、子供や老人まで合わせれば烏合の衆にも見える。
 とはいえ背に腹は代えられない。盗賊王の信用を勝ち得る為に、後がないのは彼女もまた同じだった。
「アタシらも出るよ」
 レイムは咥えていた野鳥の骨を投げ捨てる。臭みを消す西方風の味付けは悪くなかった。
 あんなガキや年寄り連中でも狩や食事の用意程度はこなせるらしい。近隣の村からの収奪物と合わせれば今の所どうにか食っていくことは出来たが。冬までが勝負所となるだろうか。
「へい、親分!」
 しかし何の因果か知らないが、主力を北部に集中している貴族軍は大した事がなかろう。だが同行しているらしいローレットは別だ。同行どころかむしろ本命、極めて厄介な敵となるだろう。
 どう戦うか。砦自体は堅牢で強固。それにかなりデカい。とにかくこの戦いを凌ぎきり、野戦に出た他の盗賊達と合流すれば、次の一手で王都攻略も見えてくるのだが。さて。
 盗賊達にとってはまさに正念場なのであった。

 こうして多様な思惑は交差しながらも、同じ方向に収束して往く。
 誰も彼もがジーニアス・ゲイムの餌食であるとでも言うのだろうか。それとも――


「それで。じいさんはどう攻める?」
 大きな天幕の中で、イレギュラーズの一人が口火を切った。
 腕を組む面々の眼下には幻想の地図、そして隅に『砦』と殴り書いただけの羊皮紙がある。
「誰に向かって口を聞いておる」
 ひときわ豪奢な衣服を纏った老人――ローディル・H・デコレミーラ男爵が片眉を釣り上げた。
 男爵は無作法を責めた訳ではない。戦の心得には多少の自負があると言いたかったのだろう。
 確かに今回の進軍と伴う兵站、戦闘前に指揮官が担う役割全てを滞りなく済ませたのは男爵の手腕であった。
 フィッツバルディ派ながら北部戦線から外された老男爵ではある。理由は単に年齢を慮っての人事であったのかもしれない。このじいさんが居てくれたことは不幸中の幸いではあったのだ。

 だが話が遅々として進まないのは、単純にこの砦を攻めるにあたっての兵力不足にあった。
 常識的な兵力の必要量を防衛戦力の三倍程度と見積もるのであれば、とてもではない。寡兵に過ぎる。これがまさに北部と南部、幻想が強いられている二正面作戦の弊害であった。
 貴族軍は大部分を鉄帝国との戦いに送らねばならない。ギルド条約に縛られた『中立たるローレット』はこともあろうかそれぞれの戦場で、砂蠍と戦い、鉄帝国と戦い。更には鉄帝国からの依頼を受け幻想とも戦わねばならない。そんな度し難い状況なのである。
 話をこの戦場に戻そう。盗賊達とこちら側で彼我を隔てるような、なにかとびきりの情報でもあれば別ではあるのだが、それも当然不足している。そもそも砦の内部構造からして不明であった。
 だからイレギュラーズとて男爵を責めているつもりもない。単に男爵の口から何か解法が現れないかと期待したのである。

「火でもつける?」
 呟いた『冒険者』アルテナ・フォルテ(p3n000007)の言葉はかなり物騒だが。
「馬鹿を言え小娘。山がハゲてしまうわ」
 男爵は即座に、つるりとした自身の額にぴしゃりと手をあて却下した。口調は真剣そのもので、ただの癖か自虐的なユーモアセンスか判断しかねる所だが。
 それはさておき、こんな季節に山火事にでもなって山が丸裸になれば、麓の農村が翌年の土砂災害や水害に見舞われかねない。
「村は。民は国の原資ぞ」
 そう述べた男爵。言い方というものはあろうが、言い分自体は分からないでもない。為政者の心得というものだ。

 分からない砦の構造に悩んでいても埒が明かない。ならば別の視点から考えるべきだ。幸い今まで集めた情報から敵の構成は割れている。
「子供や年寄りが居るのか」
 イレギュラーズの一人が顔を曇らせる。
「戦とは時にそういうものだ」
「斬れって言いたいの?」
 男爵の言葉に眉をひそめたアルテナの口調は少々非難がましいが。
 そもそも彼等は逆賊の徒である。そして仮に戦後処理として受け入れた所で、互いの恨みや憎しみが消えるものでもない。
 そして今後発生するかもしれない、そういった者達を受け入れる、受け入れないという話にも繋がりかねない。
 更には逃がした所で冬の寒さで野垂れ死にするか、あるいは。
「犠牲となるのはワシでも貴様でもない。民だ」
 再び盗賊として村を襲う危険も大きい。頭の痛い問題だ。

「だがな」
 しばしの沈黙の後、男爵が再び口を開く。
「貴様等の力を借りる以上、互いの信頼という物は重要。
 この場合、貴様等を一方的に高く評価しているのはワシであるからして」
 外堀から埋めるような物言いに、未だ真意は伝わってこないが。
「ならば貴様等の為、幾許かの蓄えを。身を切る覚悟がない訳でもないとだけ言っておこう」
 迂遠な言い草ではあるが。ここで男爵はようやくカードを切った。
 生かしたいのであれば不問とする。後の問題は引き受けると。男爵は言外にそう述べたのだった。
「ワシも老いたのであろうな……甘くなったものだ」

 アルテナの表情が俄に明るくなり――
「えっと、その」
 なぜか口ごもる彼女だったが、手にとったのは羽根ペンであった。
 砦と書かれただけの羊皮紙に、アルテナは簡素な地図を描いていく。
「外は見た通りで、中はこうなっていると思うんだけど」
「なるほど」
 見る限り無難な作りだ。おそらく当たらずとも遠からずといった所だろう。
「へえ。やるじゃん」
「……うん」
 もしも後でこっそりと彼女に聞いたイレギュラーズが居るならば、きっと彼女は答えづらそうに教えてくれるのだろう。

 ――――小さな頃にね。あの廃墟で冒険ごっこをしたことがあるの。

 これで地形。部隊構成は割れた。ひとまずこれを仮定に進めるほかない。
「カタパルトや重バリスタぐらい欲しい所だな」
 言った所で栓は無い。
 破城槌だってなければ、砦の門とて朽ちている。それにおそらく敵は石や油を使った防衛すらできまい。
 おおまかな作戦は突っ込んで殴る。それだけだ。
 とはいえこちらが寡兵である以上は普通の戦争のようには進まないだろう。この戦場ではイレギュラーズの存在こそが鍵なのだ。
「仔細は任せよう。それを運否天賦と思わん程度には、ワシは貴様等を買っておる」
 こうして作戦会議が進展してきた頃。
「男爵! イレギュラーズの皆さん!」
 戻ってきた斥候が叫んだ。

「どうした騒々しい」
「砦に!」
 上擦った声は悲鳴に近い。
 斥候は肩で息したまま、震える膝に両手を置いてたっぷりと三度呼吸した。
 それから彼は生唾を飲んで蒼白な顔をあげる。

「――魔種が!」

 一同に戦慄が走った。

 なに脅威の一つや二つ、増えた所でなんだというのか。
 ならばイレギュラーズのたるやを見せつけてやるまでだ。


 このどうしようもない世界に生を受け。
 彼女は全ての理不尽に抗って生きてきた。

 ――――それでいいのか。

 ただ生きる為に奪い、殺してきた。
 名も顔も知らぬ遠い祖先が戦に負けてから、その業を背負い続けてきた。
 血まみれの悪党の手で、一族の子供達を抱きしめる事さえ出来なかった。
 やがて彼等も西方の薬『赤い悪魔の実』を噛みながら、修練を重ねて盗賊や暗殺者となるのだろう。

 ――――本当にそれでいいのか。

 生まれながらの負け犬だった彼女にとって、盗賊王の存在は大きな希望そのものだった。
 彼等と共に勝利と居場所を得る為に戦うのは、これまでの盗賊家業とはまるで違う高揚があった。
 仮にその果てにイレギュラーズと剣を交えて戦場に散るのであれば、それも本望だと思っていた。

 ――――そうだろう。

 だがその夢も、ただ一体の魔種と相対した時から狂ってしまったのだろう。
 抗いがたい、怖気を誘うばかりの色欲の化身(デモニア)に彼女は背を向けた。
 逃げ出した。

 許せるのか――否!

「ミリアム……お前……」
 老婆の声に彼女は久方ぶりに微笑んだ。
「私が、怖いか?」
 立ち上がったミリアムは、身にまとう衣を鬱陶しそうに引きはがす。
「いいや。あたしたちゃ、どこまでもお前さんについていくよ」
 一糸纏わぬ美しい肢体を、あるはずのない風が、その力が色彩さえ纏い撫でている。
「そうか」
 答えた彼女は獅子尾剣を抜き放ち、鞘を捨てた。
 風に髪がなびき、失った筈の右目には、憤怒に彩られた深紅の瞳が輝いている。
 原罪から逃げた結果、別のソレに飲まれたのであれば笑う他ないが。それでも色欲などよりは、よほど性に合っている。

 ミリアム――『魔種イーグルハート』は石壁を蹴りつけ、その身を空に預けた。

 風の翼を羽ばたかせ。
 自由を勝ち得る為に。

GMコメント

 pipiです。
 砦攻めです。

 とかなんとか言うと、まるで砦が攻め側に聞こえますが、攻めるのは皆さんです。つまり百合ですね。
 じゃないか。ええと。
 こちらのシナリオは砂蠍と魔種を相手とした大規模戦闘です。
 兵力の数が足りないのであれば、質で勝負してやりましょう。
 文長いですが、要はどーんと攻めるだけです。

 最大100人までの参加制限がありますので、お気を付けくださいませ。

●決戦シナリオの注意
 当シナリオは『決戦シナリオ』です。
 他『<ジーニアス・ゲイム>あの蠍座のように』『<ジーニアス・ゲイム>Prison=Hugin』『<ジーニアス・ゲイム>イーグルハート』『<ジーニアス・ゲイム>Defend orders the Luxion』『<ジーニアス・ゲイム>南方海域解放戦線』『<ジーニアス・ゲイム>紅蓮の巨人』にはどれか一つしか参加できません。ご注意ください。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 不明点はありますが、だいたい合っていると思われます。

●プレイング書式
【グループor同行者ID】
【1】
パンドラ使用有・無
本文

 上記の形式でお書きください。

例:
アルテナ・フォルテ(p3n000007)
【4】

かっこよく戦うぞ!

●目的
 おおざっぱには砦の奪還、制圧です。
 こんな所を拠点にされたんじゃ、たまったもんじゃありません。
 細かくは以下。

・魔種イーグルハートの討伐
 成功条件です。必ず殺して下さい。

・盗賊共の撃退。
 成功条件です。生死逃亡不問ではありますが、全員が極刑必至の犯罪者集団です。
 ※:ただし後述する子供や老人は甘く扱っても構わないとのこと。

●戦場
 山間の廃砦でした。
 石造りで強固。かなり大きいです。

 皆さんは後述する【1】~【5】の好きな場所に参戦出来ます。

●外部【1】
 砦に向かって中央に幅7メートル程の石階段。
 階段の左右に張り出した場所があります。
 階段は長く大きく、いくつもの踊り場があります。

 階段や踊り場を囲むように、子供の背丈程の石壁が巡らせてあります。
 石壁には狭間(小窓や、あのジグザグの矢避け)があり、攻めるのは難しく、守りは固いです。
 まずはここを突破する必要があります。
 危険な任務となるでしょう。

 この戦場では『内部【2】』や『小塔【3】』の敵から狙撃等を受けることがあります。
 やろうと思えば狙撃し返せないこともないですが、向こうに狭間がある分、命中は不利となります。

『魔種』イーグルハート(Round 1)
 ミリアムと呼ばれていた盗賊の頭目ですが、憤怒の魔種となってしまいました。
 風の翼と衣を纏った美しい少女のような姿をしています。
 グリフォンの意匠がついた綺麗なシャムシールを装備しています。

 HP、反応が極端に高く、他のステータスも万遍なく高いです。
 どういうわけか今の所、原罪の呼び声や狂気伝播による支配を行うつもりはないようです。

 この『外部【1】』で最も人数(イレギュラーズ&騎士連合軍)が多い場所に、突然降ってきます。
 ある程度HPを減らすと、突如離脱します。

・ダウンフォール:物特レ:1T目に一度だけ使用、上空から突如降ってきて周囲直径10メートルに大ダメージ。
・斬撃乱舞:神至列:出血、流血、ダメージ大
・フライフリー(P):長距離高速飛行移動。マークブロックされない。

『イーグルレフトウィング』ジャムルード
 この盗賊団の幹部。強いです。
 両手にサブマシンガンを装備。
 ファンブル値を犠牲に基礎性能を高めているタイプ。
 遠距離範囲攻撃、近距離の扇形掃射を持ちます。
・毒無効(P)
 階段の上で遠距離攻撃で戦います。狭間に対するこちらからの命中は不利になります。
 近寄った場合は接近戦を仕掛けてきます。

『部下』
・幻想盗賊(長弓)×12遠距離型
・幻想盗賊(短弓)×12遠距離型
 弓兵達は狭間から射かけてきます。狭間に対するこちらからの命中は不利になります。

『イーグルライトウィング』ファハンブール
 この盗賊団の幹部。曲刀使い。強いです。
 ファンブル値を犠牲に基礎性能を高めているタイプ。
 至近~中距離が得手。単体攻撃、貫攻撃を持ちます。
・毒無効(P)
 階段の中央で部下と共に接近戦をしかけてきます。

『部下』
・砂蠍盗賊(曲刀)×12(毒無効)バランス型
・砂蠍盗賊(蛮刀)×12(毒無効)攻撃型
・幻想盗賊(短剣)×12俊敏型

●内部【2】
 二階建てで大小さまざまな部屋がありますが、ここでの地形はフレーバーなので気にせず戦って下さい。上でアルテナが言った通りという体です。
 正攻法で行くならば。ある程度『外部【1】』が片付いたら、次にここを制圧する必要があります。
 ただし『外部【1】』の状況によっては、ここの敵が外に出てくる可能性も考えられます。戦争は流動的なのです。
 ここは『外部【1】』や『屋上【4】』程の危険はないかもしれませんが、重要な任務です。
 むずかしい選択を迫られる場所でもあります。

『イーグルクロウ』ザムダ
 この盗賊団のNo.2。かなり強いです。
 両手にジャマダハルを装備した大男。高耐久、高攻撃力。
 すべて至近単体攻撃ですが、良燃費技、大威力技、防無技、必殺と揃えています。
・毒無効(P)

『部下』
・砂蠍盗賊(曲刀)×6(毒無効)
・砂蠍盗賊(蛮刀)×6(毒無効)
・砂蠍盗賊(短剣)×6(毒無効)

『ソードカレス』レイム・マーティン
 幻想盗賊の頭。中距離の一撃離脱戦法を好む女盗賊です。

『部下』
・幻想盗賊(手斧)×6攻撃型
・幻想盗賊(短剣)×6俊敏型
・幻想盗賊(ボウガン)×6遠距離型

『子供や老人達』20名程
 盗賊団イーグルハートの守るべき者達。
 二階に居り、弓等で外を攻撃しています。
 クソ弱いです。あろうことか! 果敢に攻撃してきます。
 どうするにせよ制圧自体は必要となるでしょう。

●小塔【3】
 見張りと援護射撃用の塔です。
 ここの狙撃手達を倒すまでの間『外部【1】』に対して、ここから狙撃が行われます。
 正攻法で行くならば。ここまでたどり着くには、ある程度『外部【1】』に加え『内部【2】』までどうにかする必要がありますが。出来る限り早くどうにかしたい場所でもあります。
 壁の内側をぐるぐると這う狭い石階段を登りながら、降りてくる敵と次々に戦う必要があります。
 2人並んで立つことは出来ません。
 塔の外側や、内側の真ん中の空間を飛行は可能ですが、相応のデメリットは考えられます。
 ここも『外部【1】』や『屋上【4】』程の危険はないかもしれませんが、重要な任務です。

『イーグルアイ』ティファラ(毒無効)
 小塔の上に居ます。
 超遠距離攻撃を主体としています。攻撃力と命中が非常に高いです。

『部下』
・砂蠍盗賊(狙撃銃)×6(毒無効)超遠距離型

『イーグルフェザー.1』ワイサル(毒無効)
 小塔の上に居ます。
 二丁拳銃のオールレンジアサシン。そこそこ強いです。

『イーグルフェザー.2』スライマン(毒無効)
 短剣アサシン。そこそこ強いです。
 部下と共に階段を守っています。

『イーグルフェザー.3』ハシム(毒無効)
 短剣アサシン。そこそこ強いです。
 部下と共に階段を守っています。

『部下』
・砂蠍盗賊(短剣)×6(毒無効)俊敏型
・砂蠍盗賊(短弓)×6(毒無効)遠距離型

●屋上【4】
 早くても『外部【1】』で魔種イーグルハートが一度離脱してから戦闘可能です。
 魔種が作る決死の闘技場内での戦闘となります。
 おそらく最も危険が大きな場所です。

 ブレイドケイジの発動は、戦意あるものが全員入り戦闘開始するまで待ってくれるつもりです。
 きっと彼女はそういう戦いを望んでいるのでしょう。
 不意打ちした場合、どうなるかわかりません。

『魔種』イーグルハート(Round 2)
 HP、反応が極端に高く、他のステータスも万遍なく高いです。
 今度は逃げも隠れもしません。死ぬまで戦います。

・斬撃乱舞:神至列:出血、流血、ダメージ大
・押し付ける:物至単、ブレイドケイジの近くで使用。ダメージ小。小?
・エアリアルクライ:神中扇:飛、ダメージ
・サフォケイト:神中範:災厄、窒息、苦鳴、懊悩、ダメージ
・ブレイドケイジ:自身が今居る場所を中心に斬風の檻とし、外側から内側、内側から外側の攻撃やスキルを遮断します。大きさは直径40m高さ20m程の円柱状。内外の通過時に極大ダメージを受け、特殊抵抗失敗でBS流血し内側に10m弾き飛ばされます。
・フライフリー(P):長距離高速飛行移動。マークブロックされない。
・EXA50(P):EXAが50です。

『ウィンドエレメンタル』×?
 戦闘終了まで、風の魔力でたまに数体ずつ湧きます。
 魔種に従うように行動します。
 強くはありませんが注意して下さい。
・エアスラッシュ:神中単
・低空浮遊(P)

●後方支援【5】
 後方の自軍本陣。ローディル男爵の司令部(大きな天幕)と、他いくらかの天幕があります。
 上のほうで皆さんが男爵と一緒に作戦会議してた所。
 もちろん皆さんは作戦会議等で出入り自由です。

 ローディル・H・デコレミーラ男爵:おじいちゃん。指揮官としてはそこそこですが、個人の武力はからっきし。
 男爵の従者:二名(槍斧で武装):皆さん程の実力はありません。

 作戦が機能している限りは安全な場所の筈です。
 負傷した兵士やイレギュラーズ達の回復や手当等を行いましょう。

 ここでの活躍は重傷率や死亡率の低下に強く貢献します。

●友軍
 イレギュラーズを強く信頼しており、足並みを合わせて戦おうとします。
 皆さん同様の情報は得ており、ある程度無難に行動しますが、具体的な指示を与えても構いません。
 騎士隊長は皆さんと同じぐらいの実力。
 他は弱くはありませんが、皆さん程の実力はありません。

 騎士隊長:×1(軍馬、剣盾で武装、高攻撃、高防御)
 騎士:×4(軍馬、槍、剣盾で武装、高攻撃、高防御)
 重装槍兵:×12(槍、大盾で武装、高防御)
 軽装剣兵:×12(長剣、小盾で武装、バランス)
 軽装弓兵:×12(弓、小剣、小盾で武装、遠距離)
 衛生兵:×6(回復と、その手の非戦スキル)

●同行NPC
『冒険者』アルテナ・フォルテ(p3n000007)
 皆さんと同じぐらいの実力。
 両面型。格闘、魔力撃、マジックミサイル、ライトヒールを活性化しています。
 皆さんの仲間なので、皆さんに混ざって無難に行動します。
 具体的な指示を与えても構いません。
 絡んで頂いた程度にしか描写はされません。

 以上。ご参加をお待ちしております。

  • <ジーニアス・ゲイム>イーグルハートLv:8以上完了
  • GM名pipi
  • 種別決戦
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2018年12月14日 21時55分
  • 参加人数69/100人
  • 相談7日
  • 参加費50RC

参加者 : 69 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(69人)

シルヴィア・テスタメント(p3p000058)
Jaeger Maid
明野 愛紗(p3p000143)
シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
マグナ=レッドシザーズ(p3p000240)
緋色の鉄槌
ヴェノム・カーネイジ(p3p000285)
大悪食
シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)
蒼銀一閃
レッド(p3p000395)
赤々靴
ルーティエ・ルリム(p3p000467)
ブルーヘイズ
銀城 黒羽(p3p000505)
シエラ・バレスティ(p3p000604)
バレスティ流剣士
グドルフ・ボイデル(p3p000694)
オルクス・アケディア(p3p000744)
宿主
コル・メランコリア(p3p000765)
宿主
ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)
黄昏夢廸
コラバポス 夏子(p3p000808)
八百屋の息子
アーラ・イリュティム(p3p000847)
宿主
伏見 行人(p3p000858)
北辰の道標
シキ(p3p001037)
藍玉雫の守り刀
ヴィンス=マウ=マークス(p3p001058)
冒険者
武器商人(p3p001107)
闇之雲
イシュトカ=オリフィチエ(p3p001275)
世界の広さを識る者
サングィス・スペルヴィア(p3p001291)
宿主
ゲンリー(p3p001310)
鋼鉄の谷の
コルヌ・イーラ(p3p001330)
宿主
カウダ・インヴィディア(p3p001332)
宿主
レーグラ・ルクセリア(p3p001357)
宿主
ブラキウム・アワリティア(p3p001442)
宿主
ストマクス・グラ(p3p001455)
宿主
シクリッド・プレコ(p3p001510)
海往く幻捜種
リリー・プリムローズ(p3p001773)
筋肉信仰者
エリザベス=桔梗院=ラブクラフト(p3p001774)
特異運命座標
クレメンティーナ=ニキートヴナ=スィビーリヴァ(p3p001800)
お気に召すまま
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
カノープス(p3p001898)
黒鉄の意志
ティミ・リリナール(p3p002042)
フェアリーミード
セレネ(p3p002267)
Blue Moon
マテリア・ライク・クリスタル(p3p002592)
水晶の様な物体
紫・陽花(p3p002749)
Hydrangea
ライセル(p3p002845)
Dáinsleif
リディア・ヴァイス・フォーマルハウト(p3p003581)
深緑魔法少女
棗 士郎(p3p003637)
 
秋空 輪廻(p3p004212)
かっこ(´・ω・`)いい
ハロルド(p3p004465)
ウィツィロの守護者
悪鬼・鈴鹿(p3p004538)
ぱんつコレクター
シエラ・クリスフォード(p3p004649)
守護者の末裔
オーガスト・ステラ・シャーリー(p3p004716)
石柱の魔女
風巻・威降(p3p004719)
気は心、優しさは風
最上・C・狐耶(p3p004837)
狐狸霧中
ロクスレイ(p3p004875)
特異運命座標
ヨランダ・ゴールドバーグ(p3p004918)
不良聖女
ココル・コロ(p3p004963)
希望の花
シロ(p3p005011)
ふわふわ?ふわふわ!
猟兵(p3p005103)
砂駆く巨星
宮峰 死聖(p3p005112)
同人勇者
不動・醒鳴(p3p005513)
特異運命座標
グレン・ロジャース(p3p005709)
理想の求心者
アニーヤ・マルコフスカヤ(p3p006056)
鋼鉄の村娘
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
クライム(p3p006190)
御天道・タント(p3p006204)
きらめけ!ぼくらの
リリアーヌ・リヴェラ(p3p006284)
勝利の足音
二次 元(p3p006297)
特異運命座標
酒々井 千歳(p3p006382)
行く先知らず
水瀬 冬佳(p3p006383)
水天の巫女
木津田・由奈(p3p006406)
闇妹
エメ(p3p006486)
カモミールの猫
宮里・聖奈(p3p006739)
パンツハンターの血を継ぐ者
シュテルン(p3p006791)
ブルースターは枯れ果てて
衝羽根・朝姫(p3p006821)
美少女系陰陽師(男)

サポートNPC一覧(1人)

アルテナ・フォルテ(p3n000007)
冒険者

リプレイ

●Eagle fly free.1
 日に日に鋭さを増す大気が誰かの頬を撫でた。

「構えッ!」
 漂う砂ぼこりの中で。陽光に煌く盾に映り込むのは蒼穹。数えれば十余り。
 廃砦とは言え、かつて難攻不落を謳われたアルテア・フォートを攻略するには、あまりに心許ない数であった。
「進めーッ!」
 巨岩を背負うようにそびえ立つ巨大な砦、その威容を前にして百を僅かに上回る軍勢がじりじりと進撃を開始した。
 急ごしらえの木柵に生えた矢の数が、徐々に徐々に増えて行く。
(良かったです)
 内心独り言ちた女性が居る。
 これがなければあるいは、既に幾人かの兵は倒れていたかもしれない。アニーヤの功績だ。
 北の小さな農村に生れ落ちて予言の勇者。そこからまさか砦攻めに参戦することになるとは、などは思ってもみなかったものだ。

 廃砦に巣食う盗賊は百人を超えると予想される。
 砦の規模と比較すればずいぶんと少人数だが、王都近くのこの場所を万が一にもここを占拠されててはたまったものではない。
 イレギュラーズにとっても、そして盗賊達にとっても、この戦場は負けられないのである。

 幅広い階段。その段上に現れたのはいかにも盗賊然とした男達。そして西方小部族風の、旅人的な表現を用いるのであれば中央アジア風の民族衣装を纏った一団であった。
 最下の石畳に立ち、睨むのは骨兜を戴いた精悍な――美女である。
「誰も行かんのか。ならば」
 指先から展開される多層の魔法陣に光が収束し、リリーは不敵に笑った。
「我が直々に道を拓いてやろうではないか!」
 鮮血のように赤い魔力が迸り、壇上から駆け降りつつあった数名の族共を貫いた。
 穀物を詰め込んだズタ袋のように。一人の男が階段を転げ落ち動かなくなった。

 数瞬の静寂。
「ビビるんじゃねえ! 行け!」
「進め! 進め!!」
 盗賊が、騎士達が、各々怒声を張り上げる。
 激突が始まった。

「全力で行くぜぇ!!」
 石段を蹴りつけ、マグナが左腕、その肘を振り絞る。
「チィッ!」
 二本の曲刀を交差させ、腰を落とす盗賊に向けて突き出された巨大なシザーが甲高い音を立てて刃に激突した。
「へっ! それだけかよ!」
 吠える盗賊に、だがマグナは獰猛な笑みを向けた。
「だったら――」
 赤色の魔力が燃え上がり――
「――良かったのにな!」
 炸裂する波動は槍が如く。賊の胸に爆炎の如き鮮血を染める。
 イレギュラーズ達の進撃は止められないと。
 そう思われた矢先。一人の兵士が叫ぶ。
 誰かが上を見上げる。

「私が、相手をしよう」
 空から降り注ぐ、怖気を催す女の声。
 この寡戦に加えて戦況の展望を絶望的なものとしている元凶。魔種の声だ。
「来るよ!」
「果たしてみせる。その為に来たのだから――!」
 黒鉄の意志。カノープスの呼応にアイアスを構えたココルの愛らしい表情が引き締まり――

 突然の衝撃。

 上空から降り注いだ斬風の嵐が、戦場の中央に密集していた一団を襲う。
 旋風。怒涛。
 砂煙が舞い上がり、視界が覆い隠された。
 盗賊達が一斉に歓声を上げる。
 あたかも歩兵を襲う榴弾のように無慈悲な破壊に、立っている者など到底居よう筈もなく。

 舞い降りた勝者。憤怒の魔種イーグルハートは――
「カ、ハッ!」
 ――おびただしい血液を吐き出した。

「やられるだけだと思ったかい?」
 全身を真っ赤に染めたライセルが不敵に呟く。
 抉れた大地の中心に立つイーグルハートに突き立つのは数本の刃であった。
 彼等【守護盾】の面々はこの事態を事前に予測。急降下する敵の速度、重さ。桁違いの破壊力に晒されながら、その力が生み出す反動を利用したという訳だ。
 誰しも傷は浅くない。だが未だ一人とて可能性の箱をこじ開けるには至らない。
 歓声の主は瞬く間の内に、盗賊達から騎士団へと移っていた。
「我が名は『イーグルハート』ミリアム・アルマファル。貴様等の墓標を刻む者だ」
 魔種が問う。
「名は……?」
 必勝の一撃を打ち破った者達の名を聞かずにはいられなかった。
「……カノープスだ」
 軋む黒鉄。鉄塊の城。巨大な盾を地に穿つ。
「ライセルだよ」
「私は、ココル・コロ! 特異運命座標の盾となり、希望の花を咲かせる者!」
「さあ、来い!」
「私を落とせるか勝負なのです!」
「いいだろう」
 魔種が剣を構える。
 戦場は再び怒涛の渦に包み込まれた。

●The outer edge.1
 魔種を囲み苛烈な攻撃を続けるイレギュラーズ達だが、課題は山積みだ。

 一つ。戦場に振り続ける敵の矢雨をどうにかしなければならない。
 ここまでは木柵により被害を低減することが出来たが、階段での戦闘へと本格的に移行すれば有効利用は難しくなる。
 二つ。敵を突破し、砦内部に浸透しなければならない。
「行こうか。軍師どの。さあ並んだ」
「ふむ……頃合いか」
 前者の課題に対して、いくらかの兵を集めてきたヴィンス。答えて顎を撫でた元には策がある。
 持ち前の戦略眼、統率力。情報収集、状況分析。気流の観測――すべては整った。
「こ、腰が……」
 重役出陣の悲鳴はご愛敬。一同は魔種との苛烈な戦場を避け、階段の前で小さな陣をくみ上げた。
「突撃!」
 槍を構え、階段の中ほどまで一気に駆け上がる兵達。
「怯むんじゃねえ、撃て撃て撃て!」
 後退しながらも応戦する盗賊達だが、兵達の様子に思わず身構える。
「投擲、始め!」
 煙を吹く煙幕、発煙筒の数々が砦の外壁へ向かって一斉に投げつけられた。
「あ、あんだ!? おい! 何がおきてやがる!」
 さしもの盗賊達も仲間を誤射する訳にはいかない。にわかに矢と銃弾の雨が止んだ。

 寡兵には寡兵の戦い方というものがある。
 後は眼前の魔種を追い払い、第二の課題に取り掛かるまでだ。

「ボク自身はキミに何の感情も無い。しかし、放置する訳にもいかないのだろう」
「ほう」
「キミが破壊を行うと言うのならば、ボクはキミから全ての権限を剥奪しよう」
「ならば止めてみせろ」
 宙を揺蕩う結晶体――マテリアが義体を構築、展開する。
 義体。愛らしい少女の指し示す先。顕現せしめたのは大いなる熱砂の悪意――精霊を媒体に放たれた封印の術式が魔種を打つ。
「相手が蠍だろうが魔種だろうが関係ねえ」
 兵を薙ぎ払ったマグナも、次の標的に魔種を選んだ。
 技を放てず剣のみで応戦するイーグルハートの眼前で。
「どうした、こいよ」
 醒鳴が憎悪を焚きつける。
 一分でもいい。立ち続ける。決死の覚悟と共に連撃を繰り出し。
「行くよ!」
 舞うように駆けるエメが、手にする茨の槍を加速させる。
 魔種討伐に集う仲間達と共に、【守護盾】の面々も再び。次は攻撃手として挑む。

 一方で戦場の最前。いずれも『宿主』たる【怠惰嫉妬色欲】の三人は銘々の想いを抱えていた。
「……寝心地悪そうですね」
 門は無く。手入れされぬまま、所々が欠けた城壁へ向けて。
『生活拠点の為に取ったわけではないと思うが?』
 ひどく眠そうに。率直かつ欲望に忠実な感想を述べたアケディアに返すのは『オルクス』。
「放棄するならしっかり壊せばいいのにぃ」
『……』
 溜息を漏らすルクセリアの正論。生々しい金の問題というのはどこであれ付きまとうのであろう。
「……ぁ……」
『あれには気を付けねぇとなあ』
 インヴィディアの意を汲み取った『カウダ』の言う通り、塔と砦の外壁は封じても、駆け抜けるべき階段の左右にある狭間は健在だ。
 三者三様に各々が責務を果たす為。
 叩きつけられた青の魔力、その一撃に狭間の向こうで悲鳴があがる。
「道を拓きます」
 煙幕部隊に加勢したリリアーヌ、そして主力の騎士達。切り込み部隊の到着に兵士達の士気が燃え上がる。
 駆けだすリリアーヌの怜悧な瞳に映りこむ盗賊が一人。迫る剣から身を翻し、後頭部を巻き込むように蹴りを見舞う。肘を引き――姿勢を崩した盗賊へ怒涛の連撃が炸裂した。

 飛び交う刃と銃弾の中で。
 鋼の暴風を掻い潜り、アニーヤは引き金を引き絞る。
 若輩の自認。責任の重み。抱く彼女の弾丸は今まさに盗賊の一人を打ち倒した。

「ええい、埒が明かねえ!」
「行くぜ兄弟!」
 不甲斐ない部下たちを押しのけるように、二人の幹部ファハンブールとジャムルードが躍り出る。
「ああ、先日はどうも」
 のんびりと。まるで世間話のように狐耶。
「てめえはあん時の!」
「今度は容赦しません、きっちり決着と行きましょうね、ええ」
「望む所だ!」
 敵は乗った。決着? もちろん嘘である。
 狐の得手は煙に巻く事、騙す事。
 煙に巻いたのはヴィンスと元。それとドワーフ(ゲンリー)の技術な訳ですが。ええ。次はやってやろう。
 ともかく後方の魔種は目立つが、それ以外の戦力にも油断はできない以上、こうした役柄はどうしても必要になる。
「クソ! ジャムだ!」
 賊は叫び、狐は踊る。
 ひとまずジャムルードに絞り、その射撃する余裕を潰しきってやろう。ここからが彼女の本領発揮だ。

●Eagle fly free.2
 迫り来る斬撃。
「負けないんだから!」
 だが少女は精一杯の力で押し返す。拠り所たる大切な少女。そして現段階の要であろう最大火力の保持者に、指一本たりとも触れさせる心算はなかった。
 眼前の魔種には焦りの色が見える。放つ一撃一撃の威力自体は大層なものだが、立て続けに放たれるマテリアの封印が魔種が誇る技の力、特に広域に及ぶ能力を相当に削ぎ落していた。
「やっちゃえ! クリスちゃん!」
「これが……バレスティさんとの愛の力です!!」
 二人の『シエラ』運命を分かつ二人の少女。
「切り裂け!」

 ランティリット――起動。

 静謐に彩られた無数の斬糸が美しい直線を描きながらイーグルハートの身に迫る。
 あたかも優し気に。風がそっと肌を撫でるように。
 絶大な威力を誇る破壊の力は音もなく、魔種の身をずたずたに斬り刻む。

「グ……クッ」
 魔種の苦悶と共に。憤怒の波動、その狂気が戦場に満ちかけた刹那。
 イーグルハートは自身の顔を手で覆い、一気に空へと舞い上がる。

「そうまでして、守りたいんだね」
 陽花が呟く。
 おそらく魔種は盗賊達への狂気伝播を厭うたのであろう。
 だがそんな不自然が続く筈はない。明日か。今日か。あるいは五分後か。必ずや破綻する。
 脅威が迫るならば、陽花は誓う――護るだけだ。
 そう誓いながら、陽花は一輪の花を両掌に包み込む。舞い散る美しい花びら、その癒しの力がイレギュラーズの傷を撫で、癒して行く。

 続く攻防の中で幾ばくかの時間が流れたが。魔種が退いた事は戦況に大きな変化をもたらした。
「辻ヒールいかぁーっすかー?」
 戦場後方に馬車を待機させた問答無用の美女。
「辻ヒールー。いかーーっすかー?」
 場違いな露天商ではない。ちょっぴり残念感の漂う所もあるエリザベスだが、その着眼点には定評がある。
 無論この戦場でも彼女は確かな貢献を重ね続けていた。最後方の本陣に下がる程でもない仲間達の応急処置を行っているのである。前線に近い分だけ己が身のリスクはあるが、補給を終えた者を即時投入出来るリターンも大きい。
「……慌ただしいですね」
 魔奏のマーチを弾き終えて、そう述べたアケディアの言う通り。温存されていた部隊が砦入口へ向かい突撃を開始した。
 本来であれば脅威となっているであろう敵の狙撃は、煙幕によって遮られておりまともに機能出来ていない。故に万全に近い戦力が次の戦場へ投入出来るという訳である。

 二刀を手に威降が道を切り開く中。
「日陰者の集まりのくせに――くだらねー夢見て熱くなれて羨ましいもんだ」
 毒づいたルーティエの言葉は、この後に控えた一つの問題の暗示しているようで――

「さあ。行けよ」
「ありがと!」
 大盾を構えたグレンに守られるように、アルテナやエメといった第一陣の継続戦闘組。
「前に来たことあるの?」
「小さな頃に、冒険ごっこをしたことがあるの」
 そして第二陣。第三陣。第四陣のイレギュラーズ達の突入に成功した。
「さあて」
 グレンにはもう一仕事残されている。煙幕の向こうから狭間の向こうから覗く幾対もの瞳。武器を構えた敵の子供達だ。
「ガキ共に人殺しなんてさせる訳にもいかねえしな」
 次に守らなければならないのは仲間、そして己が自身なのである。

●Core battle.1
「何人残った?」
「十一、かな」
「ステラ……背中は任せたぞ」
「さあクライムさん、存分にやっちゃってください!
 数名の兵士とイレギュラーズ達が賊共と対峙していた。
 眼前の敵は十五余り。全体では、おそらく三倍は居よう。

「まあ、因果だねぇ」
 シルヴィアの銃弾が盗賊を追い詰め、石畳に火戦を描く。
 今ここが最前線。
 命を焼く程の想いはない。だがこれ以上住みにくくなるのは彼女としても避けたい所なのである。
「ギアアァァアッ!」
 奇声を上げ曲刀を滅茶苦茶に振り回しながら突進してくるのは賊の一匹。その重い一撃を剣で受け流し。シャルレイスは流麗な剣捌きで胴を薙ぐ。
「青の剣士――貴様がシャルレイスか」
 拳刃を携えた巨漢の男が歩み出る。副官のザムダであろう。
「はっはーっ!」
 目深なフード。影のように――ロクスレイ。
「貴様、どこに!」
 四方八方から打ち込まれる転移舞砲がザムダの巨体に血花を咲かせる。
「ふふ……魔女のお姉さんに着いてきて!」
「たのんます! あねさん!」
 数名の兵士達と共に、彼女はザムダを包囲する。
「そうまでして、幻想に。この国に尽くすのか……」
 吐き捨てるザムダに。
「私達にも守るべきものがあります」
 対峙するのは、その腰程の背丈の少女。
「ここは……絶対に譲れないのです!」
 セレネの身体に叩きつけられる巨大な暴力。けれど彼女はさざ波を――小さな爪牙を突き立てる。己が身を砕く破壊の力を利用して、彼女はザムダの胸を一文字に引き裂いた。
「そう。其処に想いがあるというなら私達も同じこと。負けられんのさ……!」
 その対面。クライムの二刀が唸りを上げてザムダの巨体。天を。地を。砕き穿つ。
 一手。また一手。血飛沫と共に激闘は続く。
 砂蠍の軍勢は、決して弱兵ではない。
 ここで。窮地であるこの場を守るか。それとも作戦の遂行を優先するか、シャルレイスは選択に迫られる。
「行けよ。こっちは派手に暴れるだけだ」
 仲間の言葉に彼女はその場を離れる決断を下した。

 ――助けられる命は、助けたいんだ!

 青き鼓動を胸に抱き彼女は二階への階段を駆け上る。
 その階下の先では――

「もたもたしてんじゃないよ!」
 小塔を目指す面々の前に立ちふさがったのは幻想盗賊の頭レイムとその部下達であった。
「ったく、迷惑な連中ね」
 呆れるようにイーラが呟き。
『人間がそもそも面倒なのだろう』
 呪具コルヌの応答は身も蓋もない正論ではあるが。
「ソードカレスが相手って訳ね」
 徒手のまま。否――傲慢の血潮を体中にめぐらせて。スペルヴィアが両腕を広げる。
「何のつもりだい。いきなり降参かい?」
 剣を抜き迫るレイムへ向けて。
「さぁ、契約を果たしなさい」
『――承知した』
「まさか、アンタ『宿主』の」
 言い終える前に、レイムの生命エネルギーが逆転し、身体をその内側から破壊する。
「舐めるんじゃないよ!」
 喀血しながらレイムが吠え。盗賊達が襲い来る。
「付き合わないといけないよねぇ」
『誰かがせねばならないことだろう?』
 頷いたアワリティアは、仲間達に塔へ向かうよう促す。
 突入した仲間の数は多いが、それぞれの部隊が各々の戦場を目指す以上。避けられぬ役目というものもあった。
 残ったのは【傲慢憤怒強欲】の僅か三名だ。

 塔へたどり着いたのは十名弱。
「チマチマ狙撃たあ、鬱陶しい連中だぜ」
 そう言いながらも不敵な高揚を滲ませるグドルフ。その隆々たる体躯にイシュトカは聖なる息吹を感じさせる祝福――浄化の鎧を施す。
 山賊と魔神。異色のコンビを先頭として。
「私が殿を務めます」
 剣を抜き放ち、シフォリィが己に課した義務を告げる。
「頼んだぜ! てめえら、ついて来な! 奴らを全員ブチのめすぜえッ!」
 物見塔の吹き抜け、その最上部を見据え、グドルフは咆哮し一気に駆け上がり始めた。
 縦列進軍を余儀なくされる螺旋階段で、イレギュラーズに向けて弾丸と矢が降り注ぐ中。
 賊の一人を階下へ突き落したグドルフの前に、敵幹部の一人スライマンが立ちふさがる。
「いいぜ、来な!」

 一名の賊を伴い、敵幹部ハシムが真上から現れる。狙うはグドルフの背後。
「シロもみんなのためにがんばるよ!」
 だが素早い身のこなしでハシムの短剣をさばいたのは、ふわりとした小さな少女だった。

 敵狙撃手の中で最も腕が良いのはイーグルアイを名乗る最上部の幹部であろう。
 塔を登る面々に降り注ぐ銃弾は強烈である。
 だが逆の見方をするのであれば、これは朗報でもある。
 外部への狙撃は未だ機能出来ていないということでもあり。

●Eagle fly free.3
 傾きが見えた陽光の下。砦の際上部。
 浅からぬ傷を受け、髪を振り乱し。頭を押さえる少女が居る。
「ああ。見えるか?」
 山の下。森を隔てた向こう側。遠く指さす先に小さく霞むのは幻想の王都であろう。
「ええ」
 ヴァレーリアが答える。
「かのメフ・メフィートは。遠目でさえあれば、なんと美しい都だろう」
 そう述べた少女は再び苦悶に顔を歪ませる。
「こんな形で再会するなんて」
 残念ですわと、ヴァレーリヤ。
「貴女とはいつか、分かり合える気がしていたのだけれど……」
「同感だが、遅くもないと思うが」
 魔種イーグルハートが顔をあげる。今は、苦悶の表情は見て取れない。
 本当に――その答えも含め残念だと。ヴァレーリヤは美しい戦棍を握りしめた。
「はははっ! テメェが魔種になるとはな!」
「似合うだろ?」
「そこまでして守りたかったのなら――」
 階下で未だ激闘を続ける者達を想い、クレメンティーナが零し。
「いや、野暮やね」
 こうも不可逆にこじれてしまった以上、出来る事は一つしかなかった。

「二階の人達は出来る限り助けることになってるっすよ」
「貴様等の言葉だ。信じよう」
 レッドの言葉に魔種は場違いな程、柔和に微笑んだ。
「……感謝する」
 かすれた声音。だから。ここからはイレギュラーズとデモニアとの、純然たる戦いだ。
「この戦いを我等が王、そして『あの方』に捧げる」
 剣を掲げ。
「殺してやるぞ、イレギュラーズッ!」
 構えた。
「面白れぇ! 今度こそ決着付けようじゃねぇか!」
 ハロルドの宣言と共に、二十名を超えるイレギュラーズが魔種の周囲を取り囲み、じりじりとその間合いを詰める中。砦全体を微かに振動させる程の禍々しい魔力が満ちた。
 渦巻く風が戦場の内外を隔てる脱出不可能な死の檻を形作る。
 この戦いはどちらかが死ぬまで終わらない。
「ヒヒ」
 皮肉気に笑ったのは武器商人。
 憤怒。それに囚われてしまえば何処にも行けはしない。
「檻の中の鷲とは――哀しきものだ」
 舞台は整った。
「まとめてお相手しよう――『勇者』達よ」
 他意など無かろうが、些か皮肉に過ぎる。聖剣を構えたハロルドが凄絶な笑みを浮かべ。
「正々堂々、大いに結構」
 ひょうひょうと述べた行人が飛翔の斬撃を放つ。
「はぁぁ……」
 大きく息を吐いた愛紗が太古の魔術兵装を構えた。怖い。怖いものは怖い。だが。皆の為、己が出来ることをせねばならないと決意している。
 人間のソレを完全に逸脱したデモニアの剣圧を、それでもハロルドは辛うじてしのぎ切る。
 こんな戦いを、かつて彼は幾度潜り抜けた事だろう。

 かくして――

●The home
「始まった……みたい」
『そのようだな』
 大気が震え、砦の最上部に風の檻が形成されたらしい。おそらく最後の戦いが始まりつつあるのだろう。
「家が……なくなるのは、困る……あと、王様……」
『家とかの御仁を並べるのはどうかと思うがな』
 メランコリアとコルのやり取りはのんびりと見えて、状況事態は辛らつだ。
「困ったものですよねぇ……」
 馬車を降りたグラが、イリュテイムと共に負傷者を清潔な布の上に寝かせる。
『やるしかないのだがな』
 イリュテイムが施す癒しの光が負傷者を暖かく包み込んだ。
『一端の聖職者のように見えるな、我が契約者殿よ』

「さーて」
 未だ砦の内外で激闘は続いている筈だ。
「アタシももういっちょ行くかねぇ?」
 その言葉だけは年齢相応だが。チョイワル聖職者のセクシーなお姉さんそのものなヨランダの弁にも疲れは見えている。
 肩に突き立つ矢を引き抜き、鎧を脱がせた。
 荒い息使いの騎士ではあったが、かなりの軽傷だ。
「おいおい、たかだか擦り傷でぴーぴー言うんじゃないよ」
「面目ない」
 支援を続けるリディア。士郎によって入念に準備された無尽蔵の魔力があれば作戦に支障こそないものの、この場の全員にかなりの疲労が溜まっている。
「やれやれ」
 溜息をついた士郎とて、先ほどまで最前線の後方で支援の魔術を行使し続けていたのである。

 リディア達イレギュラーズの想定を下回る少ない兵力の中、ほとんどの人員が前線に出てしまっている以上、こうなることは目に目ていた。
 とはいえそもそも砦攻めには最低敵の三倍。出来れば六倍程度の兵力を用意したかったのだ。それが不可能であった以上、どのみち寡兵には変わらない。それも理解出来る以上、言っても栓は無いのだが……
 なにはともあれかなりの重労働なのだ。

「やるものだな」
 険しい表情を崩さぬ老司令官。ローディル男爵の言葉は意外な物ではあった。
「そう……?」
 訥々と答えるメランコリアにリディアも同意する。
「どだい勝てるはずのない戦いを、貴様等は覆そうとしておる」
 聞けば笑ってしまうような老男爵の言葉。
 だが。胸を張れとなど。冗談ではないが。

●Eagle fly free.4
 砦最上での戦い。
 イレギュラーズ達はハロルドを中心に、檻の中心点でデモニアを囲んでいる。
 吹き飛ばされ、檻に叩きつけられる人数を低減するという壮絶な作戦だ。
 一人一人にとっては命を賭した博打に等しいが、現実問題としてそうする他なかった。
 覚悟と、力と。最前線に立ち続けたハロルドとてもう後はない。

「むつかし、お仕事……シュテ、がんばるっ!」
 支え続けているのはシュテルンにティミ。
「ははっ、効かねぇなぁ」
 いくら倒れようとも、彼女等を守るのは黒羽の決意。
 相手のことは報告書でしか知らぬ。だが、彼はその全てを受け止めきるつもりで居た。
 なんであれ最後には救われて欲しいと願うから。
「ははっ、効かねぇなぁ」
 荒れ狂う暴力を一身に浴びる不死身とも思える男だが、稼げる時間は無尽蔵たりえない。
「無事でよかったッス」
 愛紗の癒しがハロルドを包み込み。
 口元の血を指で払ったハロルドは再び剣を構えた。

「お願い!」
 細剣に魔力を籠め、打ち放ったアルテナの声に。

 ――前進せよ。恐れるなかれ。主は汝らを守り給わん。

「どっせえーーい!!!」
 ヴァレーリヤの戦棍が唸りを上げ魔種を打ち付ける。
「シュテ、皆の、サポート、いっぱい、がんば、る!」
 そんな彼女達の背を支える仲間が居る。
 ここへ至る前。誰かに。アカ(血)は苦手だとシュテルンは言っていた。皮肉にも彼女こそ、そんなアカの広がりを止めることが出来る星頌の姫なれば。
 囁きの歌声。導かれる光は仲間達を癒し、奮い立たせる。

「やれやれ……これはとんだ大物だ」
 呆れたように呟く死聖が車椅子――と呼ぶには少々複雑すぎる事情があるのだが――を駆る。
「ハハッ……」
 その通りだと、朝姫も乾いた笑みを零した。
 とはいえ陰陽師の一人として見逃せる状況ではない。
「行くよ! 由奈ちゃん!」
「フフフ……」
 呼ばれた由奈ちゃん。
「また女。死聖お兄ちゃんの前にまた女が現れた……」
 ちょっと瞳のハイライトが消えているのでは。
「そんな恰好でお兄ちゃんを誘惑する気なんでしょう!!」
 えぇ……まあ、たしかに、裸っちゃ裸だけど。あの魔種。
 手にもったのは場違いにも見えるアップルパイだが。その実こいつは極悪兵器である。
「許さない……魔種だか何だか知らないけど…私のお兄ちゃんを害する気なら……死んじゃえ」
「いやいやアレはまずいでしょ」
 とは聖奈の声。
 無論彼女の述べるまずいのは由奈じゃなくて魔種である(念のため)。
「何なのですか、あの化物…聖奈の世界でもそう見かけませんでしたよ?
 ……ったく、あんな化物になってなきゃ、パンツの一つ挨拶代わりにハントしたかったのに!」
 おまえもか。じゃなくて。いやでもこの魔種ノーパンなんじゃ。とかそういう問題でもないか。ええと。
「しゃあないので、必死に生き残りますよ! 皆さん!」
「君の様に美しい女の子に銃は向けたくない」
 だけど。死聖の声音は硬質な決意を帯びて。Z.A.P――あまりに巨大な光子銃を構えた。
「愛する人に牙を剥くなら、引き金を引く指の力は抜けない……ごめんね」
 風すら焼き切る冷厳の光熱が魔種を焼く。

 交戦開始から、僅かばかりの時間が経過している。
 あたりに沸きつつある風の精霊達を撃破せねばならないのだが。
 位置取りを得手とする死聖にはおあつらえ向きだと思えた。

「駒は……そこか」
 涼やかな声音で白銀の爪が宙を斬る。駆ける衝撃が風精の一体を捉え打ち砕いた。
 ランドウェラの危惧通り、魔種への対応を主軸としたいのは山々ではあるのだが、こうして突如湧き出る邪精霊に増えられても厄介だ。

「こんな所で倒れては駄目ですよ、私を……私を守ると約束したんですから!」
 ティミの癒しがシキを包み込む。
「……はい、約束……です」
 淡い残光。一閃。魔種の背を駆け抜ける刃。
「僕は……キミの、守り刀です」
 神刀――禍津式――が折れようはずもなく。

 魔種が放つ剣撃と暴風を浴び続けるイレギュラーズだが、未だ一人たりとも倒れてはいなかった。
「退く訳には行かぬ!」
 それは咲耶等のような位置取りの巧みさ。そして連携の功であろう。
 風精に叩きつけた衝術は敵を吹き飛ばし。斬風の檻に切り刻ませることに成功していた。賭けのようなものではあったが、結果として極めて有効な戦術だ。
 こうして余計な邪魔者がもたらす被害の蓄積は、ランドウェラ、咲耶や死聖等により可能な限りの低減が出来ている筈だ。

「帰ったら……晩酌に付き合って、輪廻姉様」
 火炎を噴き上げる二刀でデモニアを切り裂き。
「――まぁ、晩酌には付き合ってあげるわ、好きになさい」
 身体を切り刻み続ける風の中で、鈴鹿は誓った。
「悪いけど、これ以上――この子はやらせないわ」
 倒れても、倒れても。その闘気が破られぬ限り、仲間を守護する輪廻は立ち上がり続ける。

●Core battle.2
 或いは飛行や跳躍等を駆使すれば敵を分断、挟撃出来たやもしれぬが。ない袖は振れぬ。
「上等だ!」
 結局のところ、策は強硬突破しかない。
 それに。
「櫻火真陰流が一刀、酒々井 千歳……行くよ?」
「……正念場の状況のようですし、出来る限りの事はしましょう」
 冬佳の呪符――魔性惨華が花開き、細い光がワイサルの身体を縦横無尽に駆け巡る。
「グアッ!」
 片膝をついた男の胸元へ千歳が放つ飛翔の斬撃が深紅の徒花を咲かせた。
 思うように戦えるフィールドではない。だがやりようはある。
 世界を渡り――この規模の戦いに身を投じるのは実に久方ぶりではあるが、やることに違いなどありはしない。

 太ももに突き立つ矢を引き抜いたグドルフが渾身の力でぶちかます。
 盗賊が血反吐をまき散らし落下した。落ちれば間違いなくタダでは済まないが――

「オーーッホッホッホ!」

  \きらめけ!/

  \ぼくらの!/

\\\タント様!///

「このタント様に任せなさいッ!」
 陽光の煌き。眩い\\\タント様!///の輝きが数多の傷を負うグドルフの背を支えている。

「狭い所でゾロゾロしてンじゃねェぞ! さっさと退きやがれェ!」
 シロと共に敵を囲む形で大戦斧を振るう猟兵が、その圧倒的な破壊を叩きつけ。
「がんばる。がんばるから――ッ!」
 シロの蹴撃に、また一人盗賊が落下した。

 着々と進撃を続けるイレギュラーズに対して、最上部に陣取る敵達にはそろそろ後がない。
 羽の異名を名乗る三人の幹部の攻撃が、戦闘のグドルフに集中し続けている。
 その時、血走った目のスライマンがグドルフの襟首を掴んだ。
「貴様は、貴様だけでも、道ずれに!」
 上段から振り下ろされた片手斧に肩を砕かれ、盗賊はそれでも腕を巻き付けるようにして放さない。
「俺様は強ぇ!」
 降って湧いた力比べに山賊は歯を剥き出しにして笑う。
「勝つんだよ! 俺様はッ!!」
 渾身の力で盗賊を引きはがしたグドルフは、そのまま相手を階下へと投げ飛ばす。それがスライマンの最後だった。

 跳躍。広がる青空と。
「譲る訳には参りませぬ故……」
「この地を、この戦いの勝利を譲ることはできません!」
 長銃を構えた『イーグルアイ』ティファラ、剣を正眼に構えたシフォリィの視線が交差する。
 互いにいかなる事情があろうとも。同情、共感さえ出来ようとも。

 白銀の魔力。その刃は回転する銃弾を横一文字に切り開き――

●the Usurper

 背負う物が。望む物がある。故に美しい。
 僕は美しいモノを。愛しいモノを。踏みにじらずにはいられない。

 愛すべき――『敵』。

 奪う。堕とす。踏みにじる。

              ――――――『簒奪者』ヴェノム・カーネイジ

 経過した時間は僅か数手。大きく見積もっても一分とあるまい。魔種との戦闘は未だせいぜいがそんな所だった。

 イレギュラーズ達の作戦は、今の所は功を奏している。
 問題は吹き飛ばしが僅かな時間に幾度も襲う時。対策不能の難題だ。
 二度目は叩きつけられ、誰しも四度は耐えられまい。
 未だその時は来ていない。だが遠くない事は誰しも理解出来る。そして何度も訪れる筈だ。
 特定方角が都度間引かれるであろうロシアンルーレット。
 予測された事実は、このデスマッチにタイムリミットが存在することを明確に告げていた。

 そしてついに。あるいはとうとう。
 三度の烈風が立て続けにイレギュラーズを襲った。
 魔種がヴェノムの頭を鷲掴みにしている。
 彼女の背を斬風の檻に叩きつけ、そのまま引き摺るように……飛んだ。

 強烈な風の魔力は人の身など、いともたやすく千切り、粉砕してしまうだろう。
 ヴェノムの足が、背が、腕が。胸元までもが檻に飲まれ――

 見えたものは。死。

 ――その時。檻の向こう側から生じたモノ。現れた、あるはずのない指先。
「その表情……最高っす」
 憎悪に見開かれる魔種の瞳。
 ヴェノムはその首を掴み、頭突きを見舞った。
 千切れ飛んだ筈の拳で殴った。
 粉々になった筈の足で蹴りつけた。

 吹き飛ぶ魔種の細い身体を、寸胴で小さな身体の――しかし逞しい腕が羽交い絞めにする。
「ぬわぁあああッ!!」
 千載一遇のチャンスを男は逃さない。
「うわっははは! 鋼の谷が最後のドワーフ、ゲンリーとは儂の事よ!」
 跳ねるように暴れる魔種が、老戦士の身を打ち切り刻んでゆく。

「儂ごとやれい、若造ども!」
 ドワーフは死を恐れない。ただ戦士でなくなることを恐れるのだ。
 吹きすさぶ血霧の中で岩妖精の声が轟いた。
「――勝ていッ!」

 剣が、術が。魔種の身を穿ち、刻んでゆく。
 殺すことは出来る。
 だがその前に。次の瞬間に。誰が倒れるのだろう。もしかしたら――その生命を焼き尽くすのだろう。
 誰の胸にも去来したであろう焦燥の中で。

 ただ一人。
 歓喜に打ち震える『簒奪者』は咆哮し、魔種に食らいつく。
 そこには最早、無理におどけた言葉などありはしない。

 ――その剣が欲しい。

 膨れ上がる触腕が刀身をかみ砕く。

 ――何よりお前が欲しい。

 腕を噛みちぎる。

 欲しくて欲しく。愛しくて愛しくて。だから喰う。
 吠える。脚を食いちぎる。

 ――『先』とか。如何でもいい。

 そこに居るのは、『人』ではなかった。

 今、届けばそれでいい。捨てて。捨てて。切り捨てて。残ったモノだけが本物だ。惜しむモノなど何もない。
 欲しい。欲しい。死んでも欲しい。

 ――誰にも渡さない――

 可能性の奇跡に身を委ね、一匹のマーギュストゥスが魔種の全てを喰らい蹂躙する。

 剣も。お前も。全て僕のモノだ。
 今際の刹那まで、憎悪に滾ったその全てを――喰うぜ。喰うよ。
 喰い殺す。

 フリークスが哄笑する。
 哂う。壊す。食う。叫ぶ。喰らう。嗤う。ねじ伏せる。噛み砕く。嚥下する。

「やれ……また死に損なってしまったわい」
 老兵のぼやきを一陣の風が連れ去って。


 飛び掛かる子供の短剣をかわす。
(余計なことを)
 ……海と笑顔が誰より似合う青年の表情を曇らせているのは、眼前の事態だ。
 この場にたどり着いたのはシクリッド、夏子、そしてシャルレイス。僅か三名。

 年寄りは担い手。
 子供は宝。
 なぜ、失わなければならないのか。

「抵抗したけど!」
 夏子が叫ぶ。振るう長槍の石突が少年のめり込み。
「ヤラれたから仕方ないんだよ、君たちはああ!」

 生々しい感触が手を、腕を伝い胸の中心に澱となって降り募る。
 幾度も、幾度も。襲い来る敵へ、その槍を、剣を、拳を振るい続けた。
 殺すのであれば、ずっとずっと簡単だ。だが彼は、彼等は。ただの一人も殺していない。

 目の前の事態を『なんとか出来る誰か』を目指して――今日『なんとか出来た誰か』になれたろうか。

 ――

 ――――

 皆の覚悟がなければ、この早さでの勝利は成立しなかった。
 すなわち。
 仲間を守れなければ無理だった。
 誰かの位置取りが悪ければあり得なかった。
 攻撃手全員の集中放火がなければ駄目だった。
 風精を素早く処理出来なければ論外だった。
 そして奇跡がなければ――
 だが彼等は成し遂げたのである。

 未だ戦闘中だったであろう戦力が、削り取られる筈であった戦力が、未だ激戦続く戦域に次々と投入されていく。
 倒し、殺し、逃がしながら。
 司令部の机上。
 盤上から最初に落ちたのはイーグルフェザーの二枚。次に本命イーグルハート。そしてイーグルアイ。イーグルウィングの二枚。
 新たな報告が上がるたびに、イレギュラーズと老男爵は砦の見取り予想図に並ぶ駒を除けて行く。
 取り逃しはイーグルクロウ、ソードカレス、イーグルフェザーの一枚か。

 天幕の前で縛られているのは捕虜達だ。老人は力なく嘆く。子供達の視線がセレネを突き刺している。
 一歩道を間違えていたら、己自身もあの中に居たのかもしれないと思う。
 自分の手で救えるなどとは思っていない。だが。
 恨まれてもいい。それでも生きて欲しいと、己自身の歳月を重ね合わせて。

 こうして戦いは終わりを告げた。
 勝利に湧く者達が居る。
 疲労にへたり込む者達が居る。
 捕虜達の命は保障されると言う。
 それはこの戦争の、些細すぎる救いでしかないのかもしれないが――

 沈みゆく夕日はそれぞれの想いを、ただ黄金の中に塗りつぶして行く。

「お休みなさいミリアム」
 組まれた手の内に、はじけ飛んだ残滓――金色の意匠を握り。
「どうか貴女の魂の行く先に主の慈悲と、貴女の祖先の導きがあらんことを――」

 クラースナヤ・ズヴェズダーの司祭は、一人静かな祈りを捧げ。

成否

成功

MVP

ヴェノム・カーネイジ(p3p000285)
大悪食

状態異常

銀城 黒羽(p3p000505)[重傷]
グドルフ・ボイデル(p3p000694)[重傷]
ゲンリー(p3p001310)[重傷]
鋼鉄の谷の
カノープス(p3p001898)[重傷]
黒鉄の意志
ライセル(p3p002845)[重傷]
Dáinsleif
風巻・威降(p3p004719)[重傷]
気は心、優しさは風
最上・C・狐耶(p3p004837)[重傷]
狐狸霧中
ココル・コロ(p3p004963)[重傷]
希望の花

あとがき

 大変お疲れ様でした。
 まずは絶望を勝利へ塗り替えた皆さんへ、心からの賛辞を贈ります。

 次にMVPについて。
 重すぎる代償と引き換えに、あり得ない筈だった戦果を勝ち得た方へ贈ります。

 それではまたのご参加をお待ちしております。pipiでした。


ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)が『イーグルハート』を取得しました!

PAGETOPPAGEBOTTOM