シナリオ詳細
<Phantom Night2018>ローリンナイト
オープニング
●ここは港町ローリンローリン
その片隅にある孤児院では、鍵の壊れた小部屋で少年が膝を抱えてしくしく泣いていた。
「うう、俺が狼男なのはきっと天罰なんだそうなんだ、ううううう……」
狼男と言っても耳としっぽが生えているだけなのだが、本人的には大ダメージだ。
自分が狼型のスライムと化して孤児院のみんなを魔物に変えてしまったのはつい先日の話。
そのまま魔物の肥やしになり、死ぬのを待つばかりだったところをイレギュラーズに助けられた。のはいいが、一連の事件はベネラーを深い後悔の海へ投げ込んでいた。いっそ錬達のしきたりにならって腹でも切りたい気分だ。
「いつまでべそべそしてるんだよベネラー。前向いていこーぜ」
「そうだよー、もう収穫祭だよ。魔法の夜だよ? 魔女が笑う頃だよ、元気だしなよ」
いばりんぼうのユリックと、おちょうしもののザスがベネラーをのぞきこむ。
ユリックはキョンシーの姿。ベネラーは頭からネジが生えていた。どうやら人造人間らしい。ふたりとも魔法の夜を存分に楽しむ気だ。つい先日スライムに飲まれて死にかけたとは思えないたくましさ。まったく男子三日会わざれば刮目して見よ、だ。
「ちょっとだんしー、あんまりベネラーを泣かしちゃダメよ。シスターに怒られるわよ」
「泣かしてねーし、むしろその逆だし」
ユリックが振り返った先にはみえっぱりのミョールが立っていた。ちょっと尖った犬歯に、黒いマントがよく似合っている。彼女は吸血鬼らしい。傍らには白い包帯でぐるぐる巻きのリリコがいる。こっちはミイラに変わってしまったようだ。イレギュラーズがいるところではまあまあしゃべれるようになったが、普段はとことん無口なので、ミイラはある意味ぴったりと言えた。
「元気を出しなさいベネラー。私はわかっているわ。私達みんなを守るために自分から部屋へ閉じこもっていたのよね」
やわらかい声がベネラーの肩をたたいた。
あ、シスター、とミョールがつぶやく。女手一つでこの孤児院をきりもりしているみんなの母、イザベラだ。
「ボタンをかけちがえちゃっただけだよ。ベネラーが孤児院へ入ったのはわりと最近で、私達の中では新参者だったし。まだ慣れてなかったのよね」
そう言ったのはさみしがりやのセレーデ。練達でいう東洋風の龍の角としっぽが生えている。
「でも次があったら私達に相談してほしいでち」
最年少の幼女、泣き虫のチナナが頼ってくれといわんばかりに胸を張る。収穫祭の魔法にかけられた彼女は人魚の姿。見えない器に入った水と遊んでいる。
「そうだね。つまづきそうな時はボクたちのことを思い出してほしいな」
あまえんぼうのロロフォイがつぶらな瞳でいう。角の折れたつば広帽に、長くひきずるローブ。ホウキに腰掛けふよふよ浮かんでいる。一般にそれは魔女と呼ぶのだが、彼的にはどうでも良いらしい。
「……みんな」
ベネラーの頬をあたたかい涙が一筋ながれた。あんなことがあったのに、誰一人自分を責めず、それどころか受け入れてくれて……、感謝と感激のあまり彼は振り返り。
――パァン!
破裂する勢いで鼻血を吹いて倒れた。
「あ、ベネラーはシスターのこの格好見るのは初めてだっけ」
「おどろくよねー、たしかにねー」
ザスとミョールがそう言い合う。
みんなの視線の先にはシスターイザベラ……が変じたサキュバスがいた。
●ここは港町ローリンローリン?
孤児院を窓から飛び出したサキュバスがふわり、空へ浮かび上がる。
「さあみんな。魔法のかかった私達の町へイレギュラーズを案内しましょう。……ある人へは初めましてを言いに……ある人へは元気そうな顔を見に、そして何よりも、私達を助けてくれたお礼に」
幻想の小さな町、そこはおとぎ話の言い伝えによって収穫祭の間は終わらない夜になる。
夜! 誰もが平等に昏きに抱かれる時間。
さあ万物の興奮さながらユキヒョウの毛皮めいてきりりきりりと遊ばすものぞ。懊悩も今夜ばかりはその身を引いて千百の影と形をまかない注ぎ入れる。ここは港町ローリンローリン誰ものぞかぬ小箱、足音と気配は心騒がす美酒。受け入れろ、魔法の夜。猫のひげ、鳥の舌、ミツバチのささやき、黄金の果実。
からのバケツ鳴らせ、太鼓をたたけ、歌え踊れ笛を吹けよ。とうとうと流れ落ちる月の光に自らの見慣れた影を流し、新たな姿を手に入れよ。バイオリンの音はどこまでも君たちを祝福する。さあ、ことほがれるのは誰だ。風を揺らし風に揺られる木の葉のような汝か、潔癖の貝のごときしろがねの妖精たるあなたか。
壊れたオルゴールも今夜だけはあの時のメロディーを奏でる。秘密の呪文を探せ、走り回ってつかみとれ、そら呪文は逃げていく。つかんだ手にはすてきなロリポップキャンディ。くるりくるりと三回回せば夜空の雲すらかき混ぜる。綿菓子の雲を口へ運べ。甘い甘いつかのまに酔いしれろ。
獏が飛ぶ夜空、こうもりのつらなる枝、闇夜に飛び跳ねるウサギ。イースターにはまだ早い。両耳ひっつかんで奇術師の帽子へほうり込め。今夜は影の晩餐会。叫べ、音高く、天まで惑わせ、地も笑わせよ。最初で最古の真新しさ、ぴかぴかの金貨みたいな合言葉。トリックオアトリート!
- <Phantom Night2018>ローリンナイト完了
- GM名赤白みどり
- 種別イベント
- 難易度VERYEASY
- 冒険終了日時2018年11月14日 22時30分
- 参加人数50/50人
- 相談7日
- 参加費50RC
参加者 : 50 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(50人)
リプレイ
パァン!
メカ子ロリババアのメアがクラッカーを鳴らすと同時に、幻の手からザスのミニチュアが現れた。幻はお菓子と一緒にザスの手へミニチュアを握らせる。
「全員生きていてくれて本当に良かった!」
感極まって声を上げる幻。
「ええ、本当に!」
同じ思いでいるのはアニーもだった。
「助けに駆けつけたイレギュラーズの方々、とても強かったでしょう? みんな優しくて尊敬する御方なんですよ。ねぇ、みんなもあの方々のように……」
言いかけてアニーは思いとどまった。
(大丈夫、この子達ならきっと自分で見つけていける……)
そう思いながらザスの頬をなで抱き上げた。桃色の漢服に天女の羽衣。彼女はザスとともにふわりと空に浮かんだ。
(今日は子どもたちの笑顔が一段と輝かしく見えます……お祭りだから?)
幻は他の子ども達へも次々に、真心込めてお菓子とミニチュアをあげる。
「さあ、今日の挨拶は?」
「トリックオアトリート!」
幻の渡したミニチュアは奇術で作り出したもの。月が隠れれば消えてしまう。でも消えた後には一枚のカードが残った。
『いつでも、ぼくやイレギュラーズがとなりにいるよ。だから、いつでもあそびにおいで』
「ペンギンの鳴き声ってどんなだろうやっぱペッパップ?」
実際に歌って踊れちゃいそうなペンギンに変じて屋台を楽しむのはセララ。ペンギンの頭を模した帽子に長くたっぷりとした翼のような袖。サスペンダーで吊るしたかぼちゃぱんつから飛び出たしっぽがキュートだ。
「わあ、ボクが守ったパームワインが屋台で売られてるよ。嬉しいなあ。ひとつちょーだーい」
「お嬢ちゃんが買うのはまず偽造文書かもなあ」
「くそー、ペンギンじゃなく大人に仮装しておけば良かったよ」
それならと隣の屋台で独り占め用メロンを買ったセララ。
「うわー、あまーい!月泥棒だけじゃなくボクのハートも泥棒されちゃうよ。おいしー!」
「ハッピーハロウィーン! みんな久しぶり! 無事でよかった!」
そういうムスティスラーフはまさしく今夜にふさわしい異形の姿。どこから見てもムスティスロリババア。ロロフォイがわあいと飛びついたのを皮切りに子どもたちが背中に乗ろうとする。
「僕に乗るのは順番にね! 腰が! 死んじゃうから!」
「「はーい」」
そこへ突然影がさした。赤く燃える鱗。きらめくグリーンアイ。破滅の象徴にして破壊の化身。炎のドラゴンが上空から舞い降りてきた。お供にちびスライムや子ロリババア、野ロリババアなる亜種までひきつれている。
「我が名は真火竜ボルカニックドラゴン、汝らに望む物を屋台より一つ与えよう。但し、一つだけだ。良く考え、選ぶが良い。対価はいらぬ。只楽しめ。シスターより許可を得ているが故」
重々しい声が脳内へ直接響く。
「思い悩みあろうとも、今は楽しむが良い」
その言葉にわぁいと喜ぶ子どもたちを眺め、ムスティスラーフは目を細めた。
(この世界は危険がいっぱいだからね……。できる範囲で力になってあげよう。みんなが幸せになれますように)
「ハッピーハロウィン、ミョールちゃんリリコちゃん! みんな仮装気合はいってるね!」
「あら、ミルキィさんじゃないの、こんばんは」
「……こんばんは」
「シスターの誕生パーティーでケーキを作ったのは楽しかったね! 今日はトリートを配りに来たんだ。お菓子の魔女の面目躍如ってやつだよ」
そう言うと彼女は全身にお菓子が散りばめられた魔女衣装のスカートを持ち上げた。キャンディがばらばらと降ってくる。
「うふふ、そうかしら。今日はトリックの日でもあるのよ」
「……うん」
二人がかりでくすぐられたミルキィ。くすぐり返しているうちに追いかけっこになった。
「はぐぅ……!」
蛍光グリーンのジュースを飲んだ美弥妃は可憐にぶっ倒れた。
「アロエとしいたけを煎じてモロヘイヤで溶いたような味がするデスぅ……」
「……美弥妃さん。だいじょうぶ?」
「あ、リリコちゃん。トリックオアトリート!」
「……ごめんなさい。お菓子はみんなからのプレゼントだからあげられないの」
「ならイタズラデスぅ」
立ち上がって土を払った美弥妃はにっこり笑ってみせた。いっしょに髪の毛にちらばっている目玉がぱちりとウィンク。今日の彼女はメデューサだ。
「ワタシの気が済むまでおててつないで歩きマショウねぇ」
クリスティアンは優しく微笑みかけた。
「やぁ、可愛らしいヴァンパイアのお嬢さん! 良ければご一緒してくれるかい」
お嬢さん扱いされたミョールはよろしくてよと、手を出す。その手を取るクリスティアンも吸血鬼の服装だ。こうもりのようなぼろぼろのマントにフリルネクタイ、黄金の冠と鋭く尖った犬歯。
「おや見てごらん、イレギュラーズも屋台を出しているよ。羊さんが作るコットンキャンディに……赤鬼製の鬼まんじゅう? ふふ、どれも楽しそうだね」
「あたし、まんじゅう屋にいってみたいわ。鬼なんて初めて見るもの」
「では決まりだ」
ふたりが人混みをかき分けた先には。
「ぶはははっ、らっしゃい! 赤鬼ゴリョウの鬼まんじゅう屋だ!」
店には先客がいた。セレーデとチナナ、そしてヨダカ。
「秋の風がほんのり冷たくなってきたけど……やっぱりお酒の力ってすごいねェ……甘くて美味しいし、ついでに暖かい気がするし」
そうのたまうヨダカのまわりには空になった酒瓶を何本も持った式神がいた。
「嗚呼、邪魔してるかい? ごめんねェ。それと、トリックオアトリート!」
「ほいさあ! トリート一丁! 鬼まんじゅう食っていけやあ!」
輪をかけて豪快な赤鬼に変じた店主は、ぼってりした腹を突き出す。その腹をもちもちしてほっこりするセレーデとぺしぺし叩いてご機嫌のチナナ。
「うちの鬼まんじゅうは鉄帝産の『鉄帝さつまいも』がゴロゴロしてるぞ。腹にたまるし、暖かいし、何よりシンプルに甘くて美味いぞ!」
ゴリョウが蒸籠を開く。霧のように湯気が広がり、なんとも食欲を誘う甘い香りがあたりへ漂う。
その香りを肴に、ヨダカがまた新しいパームワインへ手を付けた。うらやましげにじったり見つめているのはヨルムンガンド。
「ハロウィンは最高なのに……私は大人なのに……。やっぱりパームワインは飲んじゃダメと言われてしまった……」
「げんきだしてヨルムンガンドさん。あといままでなまえまちがえてごめんね」
「ありがとうセレーデ! 私の気持ちをわかってくれるのは君だけだ!」
ひしっと少女に抱きつくボブの魔女。パンプキン色のリボンをちりばめたミニドレス。魔女風帽子を貫いて天を衝くいかめしい角。
「急な仕事の依頼を見た時は肝が冷えたぞ……、でも私の仲間たちが無事に助け出せてよかった! それに、セレーデは龍なんだな。……立派な角でカッコいいぞぉ……私の仲間だな!」
ヨルムンガンドは挨拶するようにセレーデと角を合わせた。セレーデがうれしげに笑う。
「とうさまがれんだつのひとだからかも」
楽しげに親のことを語るセレーデの姿に、ミョールは拳を握りしめて瞳を伏せた。そのわずかな変化を敏感に見てとったクリスティアンが彼女の顔を覗きこむ。
「お嬢さん、悲しみと向き合うには力がいるよ。さあ、まずはおなかをいっぱいにしよう!」
「ええ、そうね。あたしに食べさせてくれてもよくってよ」
「そいつは願ってもないトリートだ」
「おぅ! 食ってくかい? 遠慮すんな! 美味くて腹いっぱいになっても、この町にはまだまだ楽しいことがあるぜ!」
「ヴァンパイアの仮装、似合ってるぞリゲル」
「そういうポテトも魔女の格好がとてもキュートだ。抱きしめたいくらいにかわいらしいよ! ジャガイモの花のコサージュに緑のドレスがよく似合ってるぞ!」
おや? と、ポテトは内心小首をかしげた。そういう甘いセリフを素で言う人だったっけ。などと思っていると、孤児院の子どもたちとばったり出くわした。
「ヴァンパイアだぞ! がおー!」
笑顔で子どもたちと追いかけっこをする恋人を見て、納得。孤児院のみんなの帰還がうれしすぎてテンションが振り切れているのだ。そう思っていたらふいに手を引かれた。持っていたバスケットを奪われる。半ば抱きしめられる格好のまま、ポテトはリゲルの声を聞いた。
「今日のためにたくさんお菓子を用意してきたんだ! ハッピーハロウィン! 合言葉は?」
「「トリックオアトリート!」」
「イエス! よくできました!」
ポテトの手作り南瓜クッキーが配られていく。ああ、ふたつは残しておいてほしい、私とリゲルのふたつだけは。だがバスケットは空になってしまった。
「おや、どうしたんだポテト、しょんぼりして」
「なんでもないんだ。クッキーもいいが屋台もいいぞ。イシュトカがわたあめ屋をやっているらしいから一緒に行こう」
「あのイシュトカがどんな姿になっているんだろう。楽しみだな」
ついた場所には、もっこもこの羊がいた。手足が短くてまるっこくてふわふわ、甘い匂いのする羊だ。子どもたちはわたあめ屋につくなり、割り箸片手にイシュトカへ殺到した。
「痛い! 地味に痛い! やめたまえ、私をむしって食べようとするのはやめたまえ! わたがしメーカーはあっちだ!」
「えっ、こっちじゃないの!?」
「でもいい匂いがするぜ!?」
ミョールとユリックが驚愕の声を上げ、子どもたちはいったんイシュトカから離れた。
「あららあ~、妙なことになってるわねぇ。このへべれけナースが治療しちゃおうかしらぁ」
そう言いながら現れたのはゾンビナース姿のアーリアだ。胸元にぱっくりあいたハートの形の穴から谷間がのぞいている。全身に飛び散るピンクがかった血がパンキッシュで愛らしい。
彼女はロロフォイをひょいと抱き上げると、わたがしメーカーの前へ進んだ。
「これはねぇ、思いを込めれば甘くて素敵な魔法の雲ができるの」
わたあめ機の中でくるくると割り箸の先を回転させれば、ピンク色の雲が絡まる。
「あ、アーリアさん、こんなところに!」
そこへやってきたのはリアだった。人魚の仮装でひとりぴょんぴょん飛び跳ねて移動していたものだから、汗だくだくだ。
「ちょっとアーリアさん、笑ってないで助けてくださいよ! ここに来るまで大変だったんですから」
「あらぁ~貴重な体験ができたじゃないのぉ~」
「あー酔ってるなこれ。さっきとはまた髪の色が変わってるじゃないですかあー」
「あらばれちゃったうふふふ」
そうこうしているうちにわたあめ第一号が出来上がった。ちょっといびつだが、大きくてまあるい桃色の雲だ。目の色を変えてむしゃぶりついたロロフォイをアーリアがいとしそうに見つめる。
リアが顔を寄せていった。
「どうロロフォイ。アーリアさんの魔法の雲は美味しいでしょ。……ねえ、一口だけ、あたしにも頂戴? だめ?」
「どうぞー」
ロロフォイはにぱっと笑い、リアへ割り箸を渡した。ちょっとべたべたするそれを受け取ってぱくり。幸せが口の中へ広がっていった。
さらにそこへ……。
「メイメイちゃん、そのお菓子のスカート素敵や。きっとおちびちゃんたちも喜ぶわ」
「は、はい……ありがとうございますっ、蜻蛉さんも……とってもすてきで、ドキドキします……!」
蜻蛉と呼ばれた女はダークナースの衣装だ。編み上げストッキングをとめるガーターベルトが色っぽい。椿の花のような眼帯に、青く輝く聴診器。巨大な注射器を持っている。もう片方のメイメイはかわいらしさを押し出した魔女の姿。スカートへはクッキーやチョコ、飴玉などたくさんのお菓子が縫い付けられている。魔女といえばつば広帽。パンプキンの意匠をつけ、羊の角には蝙蝠の飾りを。大人の色気といたいけな愛らしさ。両方揃ったコンビだ。
「ミョールちゃんとリリコちゃん見っけ、ふふ。可愛らしい吸血鬼さんと、あらまぁこっちはミイラさんやの。そや……悪戯しに行く前に、腹ごしらえせん? 色々あって迷うけど……まずはイシュトカのわたがしを食べてみようか」
それにしてもどっちがわたがしだかわかれへんと、蜻蛉はくすくす笑った。尊敬するイシュトカのかわいらしい姿が意外だったのか、メイメイは目を丸くしている。
「なにも、かも……どれも……魔法の夜は、すごいです、ね。イシュトカさま、ちょっとだけ、もふもふしてもいい……です、か?」
「かまわないよ。君なら毛をむしることもないだろうしね」
「ではさっそく……おお……おおお……。これは、癖になりま、す……おおおおお……」
「よ、よしたまえ、そのマッサージのような触り方は。なんだかこっちも気持ちよくなって……ね、眠くなってきた。店を開けているのに商人が眠るわけにはいかないっ!」
「蜻蛉さま……いっしょにもふり……ましょう」
「綿菓子はええのん?」
「今しかできない……貴重なもふもふです!」
「そないに言うならもふもふしてみよか。お、おおお……」
「やめたまえ! やめたまえレディたち! 眠くない、私は眠くないぞ!」
そんな彼らを横目で見ながら、ポテトとリゲルは月泥棒のメロンを食べていた。
「半分こしようか」
メロンをすくった匙を差し出せば、リゲルは笑顔でパクついた。
「ポテトもあーん」
食べさせ、食べられ、夜は更けていく。
「今日の私はクロバではなく魔法少女、告死天使(アズライール)クロハネ。という設定でよろしく」
黒いドレスアーマーに真っ赤なマフラー。薔薇とリボンをあしらった黒い鎌。長い髪はポニーテールにされ、漆黒のリボンで結われている。
「了解しましたの」
エリーナはクロバことクロハネへ敬礼を返す。
そんな彼女もやっぱり魔法少女。瞳と同じ爽やかな青に染められた出で立ち。蝶をあしらったステッキと髪留め、リボンたっぷりのフリフリドレス。ロングの白手袋が上品だ。
「まさかハロウィンの魔法で私と同じ魔法少女になるとは予想外です。しかも性格まで変わってますし」
「ちょっとした割り切り方よ」
二人は孤児院の子どもたちが全員元気と知り、クロハネは内心胸をなでおろしていた。
「こんばんはー! 魔法少女のエリーナですよ!」
「告死天使クロハネよ。覚えなくていいわ、よろしく」
「セレーデさんはいらっしゃいますか?」
エリーナが呼ぶと空色のエプロンを着た少女が前へ出た。
「はい、わたしです」
「その後、後遺症などはありませんか?」
「いいえなにも。げんきそのものです」
「そう、助けた死神さんもそれを聞いたら安心すると思うわ。きっとね」
「ええ、クロバさんも気にかけてましたし、セレーデさんが元気だと知れば喜ぶでしょう」
あくまでクロハネ設定でいく二人だった。
誰もいない場所を探して、鳴とシオンは近くの浜辺へ出た。
ふたりとも蠱惑的なサキュバス姿だ。シオンは長い銀髪に暗い青紫のこうもり羽。編み上げのレオタードの下へ目をやれば黄金のアンクレットが輝く。鳴はふくふくとしたボディラインが印象的な赤紫色のこうもり羽。片足だけのダイヤ柄タイツが印象的だ。
「鳴ー……! 一緒に月泥棒のメロン食べよー……! 大玉貰ってきたから……!」
「うん、食べる食べる! お空のお月さまに負けないくらいきれいなお月さまなの、シオンさんっ」
「甘い香りがするね……! どんな味かなー……? なんだか食べちゃうのがもったいない……!」
「じゃあ鳴が食べちゃおっと、えいっ」
ぷすりとメロンへ刺される匙。こぼさないよう慎重に口の中へ。
「あっま~~~~い! シオンさんにも食べさせてあげる! はい、あ~ん」
「え、そんないきなり……心の準備が……、でも魔法の夜だし、いいよね……!」
口内でじゅわっと広がるメロンの甘み。それ以上に甘く見える鳴の姿。
「鳴の尻尾とか髪とかもとっても綺麗……!」
「本当? うれしいっ! 触ってもいいよ」
「鳴ー……!」
「シオンさんっ!」
名前を呼べば、もうそれだけで通じ合う思い。あははとふたりで笑いあって、笑顔はじける夜。
「リリコさんこんばんは。同じ仮装だなんてうれしい偶然ですね」
「……うん」
包帯で真っ白になったリリコが、こくんとうなずく。マナの姿はホワイトボンテージだ。白い包帯の合間からのぞく素肌が悩ましい。その姿でふわふわ浮かぶカボチャの使い魔へ座っている。
「私の仮装はマミーなんですよ。ミイラとマミーは呼び方が違うだけで同じものですよ。難しい言い方だと枯骸というそうです」
その隣へロロフォイを連れたヨハンがちょこんと座った。ヨハンが言う。
「この機会にリリコちゃんとロロフォイくんも仲を深められたら良いんじゃないでしょーか?」
「たしかにあんまり話したことがないかも」と、ロロフォイ。
「でしょでしょ?」
「……私が話しかけられないとしゃべらないから……ごめんね」
「いやいや、謝らなくていいんですよ」と、ヨハン。
練達製とおぼしきメカニックな耳と尻尾をちかちかさせる。彼の姿はロロフォイと同じく魔女だ。編み上げのラインがきわどいミニドレスに、つま先が上へ跳ねたブーティ。短かった髪も今はロングに。
「孤児でも楽しい思い出を作る権利はありますからねっ! みんなで仲良く暮らせば、それが大事な思い出に変わるんです」
そうだねとリリコとロロフォイはうなずいた。手始めに握手をしてみる。
「……ふふ。変な感じ」
「ボクも」
はにかむ二人に、ヨハンとマナも微笑んだ。
「こんばんは、私たちのこと、覚えてるかな?」
「はーい! 輪投げのお姉さんとお兄さんだよ! 今日はかわいい魔物が一杯だね!」
孤児院の子供たちの前で、ノースポールとルチアーノが手をつないだまま万歳する。
ふたりはデザイン違いのウサ耳衣装。ノースポールはカボチャパンツにソックスガーター。ルチアーノはオーソドックスにベストとスラックス、それからミニハット。二人とも植物を思わせるエメラルドグリーンを基調に、胸元へはそろって南瓜色のリボン。手持ちのカップとポットを打ち合わせれば、ちん、と硬く澄んだ音がする。
「それにしてもみんな凝った仮装だね。それとも魔法なのかな、セレーデちゃんは龍なんてすごいね? 迫力があってカッコイイよ」
空色のエプロンの少女がありがとうと答える。
「はいっ! 合言葉の時間だよ」
「「トリックオアトリート!」」
「よくできました~。私からは手作り南瓜クッキー」
「僕からは南瓜マフィン。なんとバッヂのおまけつき!」
みんなで楽しい時間を過ごした後、ルチアーノとノースポールは子供たちが勧める屋台へ行くことにした。
「それにしても……ウサミミ衣装はちょっと照れるな」
「そうかな? とっても似合っているよ」
「うん、ありがとう。僕もポーとおそろいなら悪くはないね」
ノースポールは頬を赤くした。
貴方もなの?
そうアマリリスはつぶやいた。
貴方も、子供を助けられるのに、私は子供を殺してばかり……。
……旅人は、この世界の秩序をひっくり返す存在のよう、それとも、自分の倫理がおかしいのか。
(いいえ、疑っては駄目よ。国の方針はいつだって正義だわ、異端の子は殺す、当たり前じゃない)
内心を振り払うように顔をあげると、待ち合わせ相手が立っていた。ロリ巨乳の女の子になって。
「しかし何故、姫なんだ?」
「いや、俺も知りてえわクソが!? ……ええい、四月一日のみならず、ここでも女になっちまうなんてな俺……」
お互い頭を抱える。今日の姿は魔法のせい。黒いドレスに身を包み、大きな瞳をくりくりさせて見上げてくるのがアランだと誰が気づくだろう。
悩んでいるのがバカバカしくなって、アマリリスはふっと笑った。
「アマリリス?」
「考えても仕方のないことに時間を費やすより、お姫様をエスコートすべきだよとね。姫、転んだら裾が汚れます。どうぞ、お手を」
「王子気取りしてんじゃねぇバーカ! ……ええい、しかしこのクソ靴が歩きづらいのは確かだ。俺が転んだらお前死亡な」
今宵のアマリリスは白のタキシードに緋色のマント。桃色の髪をポニーテールにした凛々しい姿。見た人は皆、彼女を王子と呼ぶだろう。
看板には大きく『アレクシアとアリスのお店』
アリスが目を閉じて深呼吸する。不安な気持ちもあるけれどワクワクするようなこの感じ。
(お店を出してる人達っていつもこんな気持ちなのかな。ともかくお店に来てくれた人たちを少しでも笑顔にできたら大成功っ!)
この日のために衣装にも工夫をこらした二人。
アリスは紫の花をベースにした魔女の姿。スリットの入ったタイトスカート、ベルトに装着した試験管にはいわくあやしげな赤い液体。大きなつば広帽と長いマントの裏地には夜空が閉じ込められている。
アレクシアは練達にいそうな幽霊姿。片目を隠して天冠をかぶり、死に装束を着用。ハロウィンの魔法を使ってちゃんと足元を消し、人魂も飛ばす念の入れよう。ふわりふわりと舞いながら、陽気かつ丁寧に「いらっしゃいませ~!」
さっそく子どもが近づいてきた。おちょうしもののザスだ。
「いっぱい杖があるね」
「いらっしゃいお客さん。こっちは鍵開けの魔法、これは透明人間になる魔法、そっちは光を放つ魔法、それからこいつは擦り傷を治す魔法だよ!」
「じゃあ透明人間になれるのをください!」
「言っておくけれど、いたずらはメッだからね?」
「はいっ」
ザスは返事だけは元気よくした。
アンジェリーナは夜気を味わうように深く息を吸い込んだ。
良くも悪くも目立つメイド服も、今夜ばかりは景色へ溶け込んでいる。
「さてさて、今夜の私は手作りのお菓子を配る素敵なメイドのお姉さん。だから……」
アンジェリーナは鋭くふりむき、誰もいない空間を指先でピンと弾いた。
「いてっ!」
尻餅をつく音がした。透明人間の魔法が解けたザスがおでこと尻の両方をさすっていた。
「ふふ、私にいたずらしようなんてまだまだ早いですからね♪」
トリックアンドトリートと、書いたクッキーをザスへ差し出し、アンジェリーナは極上の笑みを見せた。
「お祭りだと言うのにいつもどおりの格好じゃのうアマルナ」
「ちゃうわルア! 包帯がいつもよりちょっと高品質じゃぞ!」
「違いがわからん」
アマルナの説明を一刀両断するルア。今日はつば広帽子に長いローブをまとった黒魔女の姿で参戦だ。まずは腹ごしらえしてからとルアが夜店をのぞいていると。
「……な、なんじゃこの蛍光グリーンのジュースは。見るからに怪しいのぅ。爽やかそうなのは良いのじゃが。アマルナー」
「ほいきた」
「――うむ、アマルナよ、汝、喉が渇いておるじゃろう。このさわやかミント味っぽいモノを飲むと良い」
「おお、ちょうど飲み物がほしいところだったのじゃ。ルアチャンありがとうの、美味しくいただくのじゃ」
なんの躊躇もなくジュースへ口をつけるアマルナ。
「なぁに大丈夫じゃよ。きっと体に良いヤツじゃ。もりもりと元気になって、HPが二桁になるやも……アマルナ? アマルナァー!」
みるみるうちに顔色が青へ染まるアマルナ。しかし。
「まずぅい、もう一杯! 言わねばならぬ気がした! このジュースを制さずしてこの祭りは制せぬ! このアマルナのハートがそう言っている!」
「……そうか。次に倒れたら担架呼ぶから、ほどほどにな」
夜風が心地よい。白いレースに包まれた黄金の花。ウェディングドレスを着たコロナは、サキュバスへ変わったシスターイザベラを眺めた。普段は閉じられた瞳も、真実ではない姿を取る夜ばかりは開いてみている。
「素敵な夜ですね、トリックオアトリート、というのが習わしだとか?」
「ええ、そうです。言われたからには私もお菓子をあげなくては」
イザベラは艶然と微笑み、たっぷりとした胸の谷間から一口大のチョコレートをとりだした。これも夜の魔法の効果だろう。お礼にとコロナが自分のパームワインを勧めると、シスターは一口すすってうれしげに笑った。
「もっと飲みたいですわね。今日ばかりは皆の母という顔も聖職者としての建前も脱ぎ捨てて酔いつぶれてしまいたい」
「願う姿になれる夜、その時なった姿こそが、踏み切れないけどしたい願いの象徴、なのかもしれませんね?」
しみじみと告げるコロナ。
やってきたコーデリアがイザベラの姿に目を丸くする。何を言っても野暮な気がして咳払いでごまかした。
「こんばんはシスター。その後如何ですか?」
「ご心配ありがとうございます。おかげさまで全員夜の町を走り回っております。喧嘩も目に見えて減りましたのよ」
「ああ、それは何よりです。では私は飛び跳ねる子供の影を捕まえる旅にでましょう」
「ローリンローリンの夜は深く長いです。お気をつけて」
「ありがとう、シスター。あなたも闇夜に呑まれぬように。苦しい事件の後ではありますが、楽しい思い出で前を向けるようになるといいですね」
その苦しい事件の張本人は。
「あの」
「……」
「その」
「……」
「さっきからなんで僕ばっかりもふもふするの」
「なぜなら今宵の私はもふもふを守護し愛でる天使であるから」
「そうですよ! 今年は狼さんがキてますよ! 毎度おなじみパチワチョコもついてきます!」
リカナの姿はまさに大天使。白いドレスに白金のヴェール、黄金の錫杖をしゃらりと鳴らし、オリーブの髪飾りをアクセントにベネラーをもふりにもふっている。対して葵は入魂の狼のキグルミ。ポシェットには山盛りのお菓子。カボチャを思わせるかわいい風船を片手にベネラーの毛づくろいをするのに忙しい。
「ふふふ、狼男の子どもをもふり放題なんて今日はいい日ね。忘れられない日にしてあげるわ。貴方が変身したのはもふもふなのだと、愛でられる存在なのだと教えてあげる」
「狼はねー、かっこいいんですよー。ほら私の姿を見てもそう思うでしょう?」
二人のもふもふテクはすばらしく、ベネラーは眠気に引きずり込まれそうになって、はっと我に返った。
「ご、ごめんなさい!」
そう言って二人から逃げ出したベネラーは屋台の通りへ迷い込んだ。
黒いジャケットの下にカボチャ色のベストを着た執事姿の人狼が紅茶とクッキーを売っている。
「……紅茶でございます、ご主人様……なんてね……。おひとつ……いかがですか?」
「この声、グレイルさん? えっと、僕です。ベネラーです。絵本をありがとうございました」
「ベネラーさん……」
声は通じていたのだ。その事実がグレイルの胸に迫る。ほろりとこぼれそうになった涙を手の甲で拭った。
「なんでもないよ……ちょっと目にゴミが……入っただけ……。改めて……グレイルです……よろしくね……君は……狼男かな……?」
「みたいです。あの日のことを思い出してちょっと憂鬱になっちゃいます……」
「よく……似合ってると……思うよ……」
「ありがとうグレイルさん。よかったら、また孤児院へ遊びに来てくださいね」
「うん……楽しみに……してるよ」
「よっ、そこのぼっちゃん、ひとつどうだい?」
「……これは?」
「炎金魚のカンテラだよ」
そう言ってカンテラ売の男は水槽から金魚をすくい上げカンテラのなかへ。とたんに金魚のしっぽが炎に変わり、煌々と輝きだした。なるほど、これなら夜道でも迷わない。
「――そう。……ひとつ」
カンテラを揺らしながら歩いていると泣き声が聞こえてきた。顔を向け、泣いている幼女チナナのそばに立った。人魚の姿をしているから同胞だろうか。残念ながらお菓子は持ってない。代わりに、はめた手袋をするりと外す。
「……見てて」
大地に咲かせた霜の花。今日だけの魔法、内緒だよ、そうジャックはかすかに笑った。
リリコは気づいた。暗がりに潜む存在に。うごうごと動く雲のような不定形な『モノ』。いくつもの目玉がそれぞれの景色を写している。リリコはそれに近づき、影を踏んだ。
――とぷん。
崖から海へ落ちたようにリリコの体は落ちていった。その首筋をつかまれ、一気に地上へ引き上げられる。目の前に立っていたのは武器商人だった。
「やあすまない。いい夜だから羽根を伸ばしすぎたようだ。形が崩れていたりしないだろうね」
「……不思議なものをたくさん見たわ」
「忘れてしまうんだよ。それが一番だ。さあ、お行き、暗闇へ寄らないよう、特にチナナには、よくよく聞かせておくれ」
ノイズがかかった、男とも女ともつかぬ声、幼子の無邪気な笑い声がリリコの背中を打った。精一杯駆けて脇腹が痛くなった頃、足を止める。気がつくと宝石のようなレモンタルトが彼女のバッグに忍ばされていた。
長い髪、ハートを秘めた瞳。つば広帽には星を模したブローチ。杖には月を掲げ、堂々たるドレス姿。
「こういうお祭り気分は悪くないもんだよね」
杖は腰へ刺し、自由になった両手で炎金魚のカンテラとパームワインの実を持ち、アオイは町を闊歩する。まるで夜の女王。
「さぁ、Trick or Treat?」
カンテラを突きつけ、笑みをひとつ。
ふるまわれたマフィンに笑みが深くなる。ありがとうと言い交わして次の獲物を探す。猫のように抜け目なく。
「Trick or Treat? ……お菓子がないなら仕方ないよね?」
得意の魔法が閃光を放つ。相手が目をくらませている間に、その手へお手製カップケーキを握らせた。
「ふふ、こういうイタズラも悪くないよね」
月下、浜辺で男はひとり静かに酒を飲み下す。お祭りムードにそぐわぬ、薄汚れたいつもの服装。
「グドルフのおっちゃん!」
キョンシーに変化したユリックが飛び跳ねてくる。
「一緒に祭りへ行こうぜ!」
「収穫祭か。やれやれ、おれぁ下らねえ祭りなんざ、とっくに卒業したのよ」
月を眺める男の横顔は少年の知らないものだった。
男がなりたい姿など元よりない。だから彼に魔法は掛からないのだ。今の姿こそが、彼が目指した理想の姿なのだから――。少年は知るよしもない。ただ彼が急に遠い存在になった気がして、ユリックは視線を落とした。
「おっちゃん、来てくれてありがとうな」
そう言って踵を返すと、ぽんと頭に何かをのっけられた。手にしてみればキャンディの首飾り。
「ゲハハッ! この大山賊グドルフさまからモノを奪うたあ、将来デケエ器になるぜ? なあ――」
首飾りをつけたユリックは、静かに微笑むことを覚えた。
●パレードandトリート
カンテラの中で炎金魚がゆらめいた。映し出された影が歌うように揺れる。
ぎしりとひしめく魑魅魍魎。夜を越えていかんと集まった者たち。
すらりとした美女へ変化したルフトは、利き手を空へ掲げた。魔力の微粒子が彼に集まり、利き手へ集まっていく。ルフトの上に魔力の球体ができた。それが放電を始めたところで、ルフトは天へ向けて球体を解き放った。ライトニングの強烈な閃光があたりを照らし出す。
「さあパレードの始まりだ!」
「「いえーい!!」」
ルフトの合図でこの夜だけのパレードが、待ってましたと動き出す。
「合言葉はパレードandトリート、見物、飛び込み、大歓迎だ」
ルフトはスカートの先が翻るのが楽しくて、何度もターンした。うきうきした気分で叫ぶ。
「前の人せーの!」
\パレードandトリート/
「後ろの人せーの!」
\パレードandトリート/
「みんなでせーの!!」
\ パ レ ー ド a n d ト リ ー ト /
「孤児院の皆も無事でよかった、ぜひとも楽しんでいってくれ」
パレードへ参加した子どもたちは元気よく、あるいはおもはゆそうにルフトの言葉へありがとうと答えた。
そこへ走り込んできたロク。炎金魚のカンテラをおつきのロバへもたせ、自分は見物客へ愛想を振りまく。コヨーテのロクは今宵猫の姿。愛嬌のあるまるまるとしたラインに王様カボチャの冠と立派なマント。そのあざといくらいの愛らしさに見物客もメロメロだ。
「おいでおいで、パレードandトリートだよ!」
何かの頭骨がついた魔法の骨を振ればぽんぽんと現れる猫型クッキー。徹夜して作っただけあってその味は折り紙付きだ。
彼女のあとをぞろぞろついていくのはロリババア、メカ子ロリババア、空飛ぶエンジェルイワシ。頭も内臓もないけれど元気に走り回るチキン。
だが誰もひるまない。驚かない。なにせいまはパレード。どんな格好が居ようとスルーできてしまう魔法の時間だ。
その後の方を歩くのはミーナ。サキュバスらしいビッグなあれこれを血まみれ包帯メイドの仮装へ押し込めて、いざパレードに赴かん。おともはパカダクラ型のロボット、ロボ砂駆。お供の背中には当然たくさんのお菓子。
「さあさあ皆様ご照覧あれ。子供も大人も男も女も分け隔てなく、皆様一緒に踊りましょう!」
普段使わぬ敬語などつかいながら、楽しげに人差し指をタクト代わりに振る。
そんな彼女がルフトを見かけ、くふふと笑いながらこう告げる。
「あらあら魅力的な女性になりまして。でも残念ですわね。魔法は一時的なもの。……ふふ、あの方には及ばないのですよ」
「心しておく」
パレードの機運はあがるいっぽう。何事かと、窓を開けた人の前に、コゼットがお菓子を差し出す。時計うさぎに変じた彼女は、赤を基調にした黒の燕尾服。大きな懐中時計に、カボチャをあしらったシルクハット。ペットのココゼットはアリスの衣装。
「パレードandトリート、ほら、言ってみて」
「ああ、そういう催しなんだね。とてもすてきだ。パレードandトリート!」
「飛び込み、参加、常時、募集中」
コゼットはぴょんぴょん飛び跳ねながら、向かいの家の屋上へのぼった。
「パレードandトリート、ほら眺めてないで一緒に行こう。きょうはお祭りだよ、時間なんて気にしないで、いっしょに、めいっぱい楽しもう、よ」
いつもはおろしている髪をアップにして、ヒィロはルフトのところへ。
「ルフトさん来たよー! え、この綺麗なお姉様が!? ……意外とありかも」
「皆で楽しみ、楽しませられるなら。このルフト、女体化も辞さん」
「あ、中身はいつもどおりだ」
「その子達は?」
あかじみた服を着たこどもたちがヒィロに連れられてやってきた。物珍しそうにきょときょとと周りを見ている。
「スラム街に居た子どもたちを誘ったんだ。スラムに居たからこういうとこの辛さも空虚さもわかるし……。せっかくの魔法の夜だもん、一緒に楽しも!」
スラム街の子どもたちは孤児院のこどもたちとすぐに慣れたようだった。
「よかった。僕の姿は風の神様。この袋から吹く風で辛さも寂しさも全部吹き飛ばしちゃうんだよ! そぉれ!
バフーと吹き出された風を浴び、こどもたちはきゃっきゃと喜んだ。
「どんなに辛くても、きっと明日は明日の風が吹くよ!」
「いい言葉ですね。心に刻んでおきます」
そう応じたのはユーリエ。ミリタリーゴシックの上にからカボチャの紋章が入った腕章。そろいの生地を使った軍帽をかぶっている。彼女はファミリアの蝙蝠といっしょに月泥棒のメロンを食べていた。
「舌でつぶれる柔らかさ。そして甘い芳香とそれに見合った味。気に入りましたっ」
お祭りの間しか食べられないなんて残念なことと、彼女はほうとため息をつく。そして視線の先に孤児院のこどもたちを見つけた。
「こんばんは、いい夜ですね。今だけはどれだけ夜更かししてもかまいませんのよ。なにせ朝日が昇らないのですから」
子どもたちへ苺飴を配りながら、ユーリエはウインクをした。
コゼットといっしょに暇そうにしている人へはもれなく声をかけてパレードへ引き込んでいく。
「飛び入り参加だ!」
赤い羽の生えた卵が頭から勢いよく飛んできて、落ちた。沈黙が周囲を支配する。なんだこの玉子。というか大丈夫なのか、中身は。白に緑の斑点が入った卵は、がばっと起き上がり高らかに叫んだ
「パレードandトリート!」
なんだ心配させやがって。びっくりしたぞこんちくしょう。などと言われながら片目の所にあいた穴へガスガスとお菓子がつめこまれる。卵の正体はカイト。この魔法の夜にちょっと先祖返りなどしてみたようだ。カイトも負けるものかとばかりに殻を割ってクチバシを突き出し、お菓子をねだる。一通りもぐもぐしたらひゅっとクチバシが折り畳まれ、割れていた殻がもとに戻る。
でも誰も細かいことは気にしない。だってハロウィンだもの。妖怪変化が道をゆくこのパレードで細かいことは気にしたら負け。ハロウィンパワーだと思っておこう。
細い足音がルフトへ近づいた。
「見慣れない方がいると思ったけれど、あなただったのね。ルフト。そういう姿も案外似合うものね」
「その生暖かい視線は、やめてくれないか」
「そんなことないわ、見守っているだけよ。たとえば今回のが癖になったらおもしろそうだ、とかね」
そう言ってミスティカはうっすらと微笑んだ。
普段から魔女の姿をしている彼女だから、いつもの姿でパレードへ参加している。黒に赤を足したゴシックなロリータ姿。小さな体躯を覆うような長いマント。当然のように、とんがり帽子。その姿はハロウィンへぴったりだった。孤児院の子どもたちへカボチャの手作りクッキーを渡すと、ありがとうお姉ちゃんと返事が返ってきた。年長さんからは神のご加護がありますように、とも。
「神? ご無沙汰して長いわね、ええでも今夜ばかりは彼の者も異形のひとつ。その祝福、ありがたく受け取るわ」
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
おつかれさまでした字数
PCのみなさんが字数
たいへん愛らしく字数
ときに凛々しく字数
ハロウィンの魔法の字数
とてもすてきで字数
書いていてたいへんたのしか字数
またのご利用を字数ー!!!
GMコメント
ようこそこんばんは、みどりです。
このリプレイでは確認できる限りハロウィン2018用画像を参照して描写します。字数? そんなものは知らねえ。運営さん見逃してくれねえかな……(無理)。
孤児院の子どもたちはそろって元気に夜の街を駆け回っています。
気が向いたら遊んであげてください。
院長イザベラ ふんわりさん サキュバス
12才男ベネラー 根暗 狼男
10才男ユリック いばりんぼう キョンシー
8才男ザス おちょうしもの フランケンシュタイン
8才女ミョール みえっぱり ヴァンパイア
10才女リリコ 無口 ミイラ
5才女セレーデ さびしがりや 龍
5才男ロロフォイ あまえんぼう 魔女?
3才女チナナ 泣き虫 人魚
>本題<
港町ローリンローリンの魔法の夜は屋台でいっぱい。
けれども、そう、あなたも自分のお店を開くことができるのです。
すてきな屋台がずらりと並ぶ景色を期待しています。
炎金魚のカンテラ
しっぽが炎になっている金魚をカンテラへちゃぷんといれます。ちゃぷんと。
闇夜の必需品です。
月泥棒のメロン
ほのかに光るお月様そっくりのメロンです。美味。
皮が柔らかいのでそのままスプーンでさくさくと召し上がれ。
ひとりじめ用の小玉からみんなで食べれる大玉までそろっています。
蛍光グリーンのジュース
味? 飲んでみるまで分かりません。
あなたのセキュリティクリアランスには開示されていないのです。
風船屋のペットショップ
風船から生まれた犬や猫やトカゲがおまちかね。
もちろん鳴くし動くのです。
パームワインの実
甘くて滋養あふれるヤシの木酒の入った実。穴を開けてストローで飲むのが通。
20歳未満&年齢Unknownはアウトー!
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