PandoraPartyProject

シナリオ詳細

SPLASH SUMMER!

完了

参加者 : 25 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●まだまださまー
 覇竜大陸は大きな戦いを終えた。
 人々の心に刻まれた爪痕は大きく、竜も人も、たくさん思うことがあったことだろう。
「はぁ……やっと肩の荷がおりたかの……」
 その戦後処理とも言うべきあれやこれやに追われていた小児が如き亜竜種――瑛・天籟(p3n000247)の肩が、見目からは想像できないような大きな音を立てた。ペイト内ではそれなりに立場のある身のため、こういった時に奔走せねばならなくなるのが彼の悲しいところである。
「じゃがこれで、昼寝をしたりチビたちと遊んでやれるわい」
 肩と首とを振ってゴキゴキ鳴らし、ごろんと転がるのは勝手知ったるペイト里長の家――の居間。今日はもう転がったまま動きたくないし、里長の娘の塙・埜智に怒られたって転がったまま煎餅をバリバリ食べて食べくずを零しても知らんぷりしていたい。今日くらいは怠惰に過ごしていたって赦される、絶対にそう!
「老師~~~~~!!」
 此処に居るんだろ、わかってるぞ。と響く若者たちの声。
 確認するまでもない、【お外同好会】の面々だ。
 ペイト住まいの翠・明霞が数日前に埜智へと尋ねてみたところ、埜智が「数日経てばお暇になるはずです」と言ったせいだ。
「なぁなぁ老師」
「いやじゃ~~~~」
「老師、私たちまだ何も言ってないよ?」
「いやじゃ~~~~」
 柊・弥土何と白・雪花の声に、天籟は耳を塞いだ。
「ど~~~~~せ、主等のことじゃ。遊びたいとかぬかすんじゃろ」
 わしは久方ぶりの休暇なんじゃぞ? 貴重な休暇なんじゃぞ?
 ジタバタと空中で形振り構わず暴れる天籟は、この中で一等子どもに見える。
「……ほら、言ったじゃない。無理だって」
「雪玲……。皆、あまり老師を困らせたらダメだよ」
 いつもツンとしている朱・雪玲の声がどこか寂しげで、奏・詩華の声も沈んでいる。
「……うう」
「老師……雪玲ちゃんね、楽しみにしてたんだよ」
「そうなんだよ、老師。雪玲が俺たち全員分の水着を作ってくれたんだ」
「ううううううう」
「でも老師は疲れてるだろうし、無理は言えないねぇ」
 残念だけど、この水着は来年でも着られるだろうし。
 何故だか今日に限って物分りの良い子どもたちに、天籟の罪悪感は大いに刺激された。
「わ、わしが冷たい大人のようではないか……。
 わかった。わかったわかったわかった! いつつぼし島で遊びたいんじゃな?」
 連れて行ってやろうと天籟が渋々頷いて、雪花と弥土何はわーいっとバンザイをした。
 また慌ただしくはなりそうだが、まだ暑いし水遊びも良いだろう。そういえば水着はあっただろうかと思い至り、「当日までに必要なものや、遊びたい相手に声をかけておくんじゃぞ~」と言い置いて、天籟はその場を後にした。
「ね。ほら言ったでしょ? 老師は泣き落としの方が聞くんだから」
「雪玲の言った通りだったね」

 ――――
 ――

 そうしていつつぼし島へ遊びに行く当日を迎えた訳、なのだが。
「老師、遊びに行くのならわたくしも」
 ちゃっかりとおニューの可愛い水着を用意した埜智。
「おう! 遊びに行くと聞いてな!」
 何故だかちゃっかりと混ざってる鳳・天雷が笑顔で手を挙げて。
「浮遊島ですか? 小生も参ります」
 明霞が話したのだろう。劉・飛龍が何か強敵に会えるでしょうかとワクワク。
「な、なんでじゃ? なんでこんなに増えとるんじゃ?」
「……思っていたより大所帯だね。本当にアタシもお邪魔しちゃってよかったのかな」
「………………っ」
 サマーァ・アル・アラク(p3n000320)が少し心配する傍らでは劉・雨泽(p3n000218)が自由な亜竜種たちに振り回されている天籟を見て腹を抱えていた。……何故ならいつも天籟に振り回されるのは雨泽だからだ。いい気味である。
「ひいふうみい……まあ、集まってしまったものは仕方がない。
 良いか皆の者。危険な行いはしないように。行って元気に帰ってくるまでが水遊びじゃぞ!」
「「「「「 は~~~~~い! 」」」」」
 良いお返事で宜しい!
 だがそれが返事だけでないことを、天籟は祈るしか無い。

(な、なんでじゃ~~~~~!?)
 だというのに、人生というものは上手くいかないことの連続である。
「邪魔をする」
 突然現れた貴人が涼し気な表情でそう言って、天籟はひっくり返しそうになった。
(来るのは構わない――が、何で今日に限って来たんじゃ!?)
 そうは言いたいが、相手は竜種。見た目よりもかなり大人な天籟は口には出さなかった。
 既に顔を合わせたことのある竜種、メファイル・ハマイイム。彼女はどうやらいつつぼし島に居ると聞いた上級精霊ペリ・ハマイイムの姿を見に来たのだと要件を告げた。ならば彼女の行き先は『泉』であろう。
「わし等は子どもたちと洞窟に居る。邪魔はせぬゆえ、ゆるりとして行かれよ」
 天籟は最上級の礼とともにそう告げて、泉へと飛び立っていった竜を見送った。

GMコメント

 ごきげんよう、壱花です。
 まだ暑いので、水遊びにいきましょう!
 ラストサマーなので、めいっぱい遊ばないと!

●シナリオについて
 大きな戦いの後処理に追われていた天籟が忙しくなくなったので!
 まだまだはっぴーさまー! 遊びましょう!

●フィールド:浮遊島『いつつぼし島』
 霊嶺リーベルタース付近の浮遊島のひとつ。訪れるにはリトルワイバーンを利用するか飛行スキルが必要です。(希望者には里からリトルワイバーンを貸し出されます。)
 丘のような大地に洞窟や泉、朽ちた遺跡のようなもの等があります。土肌ではなく、広範囲に草が生えています。森のようにはなってはいませんが、少しだけ木もあるようです。

●同行者について
 同行者が居る場合は一行目に、迷子防止の魔法の言葉【団体名(+人数の数字)】or【名前+ID】の記載をお願いします。その際、特別な呼び方や関係等がありましたら二行目以降に記載がありますととても嬉しいです。

●NPC
 とても多いです……!
 気になる人だけチェックしてください!

・瑛・天籟(p3n000247)
 亜竜集落ペイトで里長を始めとした民等の武術師範、そして里長の護衛をしているちびっこ亜竜種。
 基本的に亜竜種のほとんどの人を子供か孫くらいに思っているので、お目付け役です。里の人からは老師と呼ばれることが多いようです。(老師=中国語で先生)(※ペイト出身の人や亜竜集落の人は既知として接してくれて大丈夫です)
 あっちこっちフラフラしているので【1~4】どこにでも居ます。肉・酒好き。

・劉・雨泽(p3n000218)
 ローレットの情報屋兼冒険者。
 覇竜で涼めると聞いて遊びに来ました! だって最近天義が忙しいんだもん。
 【3・4】に居ます。肉・酒好き。

・サマーァ・アル・アラク (p3n000320)
 新米イレギュラーズ。覇竜初めてー!
 可愛い水着で来ています。
 【3・4】に居ます。お肉食べたーい! あそびたーい!

・メファイル・ハマイイム
 竜種。将星種(レグルス)級、本性は30m程の美しい水竜ですが女人の姿を取っています。
 苗字等はなく上記の名前でひとつの名前です。省略は勝手に愛称をつけることなり、機嫌を損ないます。
 人間の味方ではありませんが、敵でもありません。人間はか弱く、脆い存在なのであまり触れたくありません。……力加減が苦手です。
 【2】に居ます。

・ペリ・ハマイイム
 いつつぼし島の泉の祠に住まう上級精霊。人語を解し、姿を見せ、意思疎通が可能です。
 メファイル・ハマイイムの割れた爪――に宿る水の気から生まれた精霊です。浮遊島が浮遊する以前の遥か昔に当時の亜竜種たちに祠を建てられ、以来そこに在りました。彼女も人の文化に疎いです。
 メファイル・ハマイイムのことを母と呼びます。また、名前もこれでひとつの名前です。
 【2】に居ます。

・朱・雪玲
 亜竜集落フリアノン出身の少女。服作りが好きで、服飾関連への興味が強いです。珍しい外の装い等が気になっています。
 外の文化を知らない彼女たちは知らない言葉ですが、所謂ツンデレ。素直になれませんが、いつも幼馴染たちのことを考えています。今回は人型です。
 【3・4】に居ます。

・奏・詩華
 亜竜集落フリアノン出身の少女。大人しめな文学少女で眼鏡っ子。
 冒険譚やお城の恋愛物語、その他諸々創作からレシピ本、ビジネス書まで……とにかくなんでも本なら大好き! 知らない物語のお話や、本の話をすると喜びます。
 【3・4】に居ます。

・柊・弥土何
 亜竜集落ウェスタ出身の少年。夢はこの手で世界地図を完成すること。
 まだまだ島の地図は完璧ではないけれど、地図が埋まる度に嬉しそうにしています。
 【1・3・4】に居ます。

・白・雪花
 亜竜集落フリアノン出身の亜竜種。夢は冒険者になること。
 皆と一緒に元気に冒険を楽しみます。
 【1・3・4】に居ます。

・翠・明霞
 亜竜集落ペイト出身の亜竜種。外の環境、特に戦う術について強い興味を持っています。
 皆の姉貴分。割と何でも出来るし、必要なら意見もくれます。
 【1・3・4】に居ます。

・塙・埜智
 亜竜集落ペイト出身の亜竜種。里長の娘であり、次期里長の妹です。
 里長の護衛をしたりもする天籟とは親戚にも似た親しい関係です。
 ペイトの女性らしく、押しが強いです。笑顔の。
 【3・4】に居ます。

・鳳・天雷
 フリアノン近くの集落に棲んでいる放浪癖のある亜竜種。
 派手好き・新しいもの好きな男性。性格も名前も似ている天籟とは好き飲み友。
 【1・3・4】に居ます。1なら香草探し等に付き合ってくれます。

・劉・飛龍
 亜竜集落ペイト出身の亜竜種。強い敵と戦うことを好みます。
 理性の防波堤であるメガネを外させてはいけません。
 【1・3・4】に居ます。どちらかというと1で動くのが好きかもしれません。

●EXプレイング
 開放してあります。文字数が欲しい時に活用ください。
 関係者さんは覇竜の関係者さんでしたら。
 可能な範囲でお応えします。

●ご注意
 公序良俗に反する事、他の人への迷惑&妨害行為、未成年の飲酒は厳禁です。年齢不明の方は自己申告でお願いします。

 以下、選択肢です。


《S1:行動場所》
 select 1
 以下の選択肢の中から行動する場所を選択して下さい。
 時間帯はすべて『昼間』です。

【1】冒険
 浮遊島をウロウロ出来ます。
 珍しい草を探したり、ビッグホーンと戦ったりと体を動かせます。
 行き先は『【1】草原』の形で記載してください。

 『草原』…風の気持ち良い風光明媚な草原です。
      ビッグホーンを焼いて食べたら美味しかったです。
   モンスター:ビッグホーン(食べれる)、ドラビット(食べれる)

 『湿地』…島の外れの方にあります。泥芋等があるかも?
   モンスター:クレイスライム

【2】語らい
 精霊ペリ・ハマイイムの元へ竜種メファイル・ハマイイムが訪っています。
 お話が出来ますし、泉を汚さないのなら軽食等を持ち込んでピクニックのように過ごすことが可能です。

【3】水遊び
 洞窟の奥にある地底湖で水遊びが出来ます。
 水晶のキラメキと澄んだ水がとても綺麗で、潜ってもキラキラと輝いた世界が広がっています。
 水鉄砲やボールや浮き輪等は、必要な場合は持ち込みましょう。

【4】BBQ
 たっぷり遊んで遊び疲れたり、食べるの大好き! な人にはBBQを。
 一般的な食材からビッグホーンの肉や洞窟内で取れる鉱石蟹など。
 じゅうじゅう焼いて美味しく食べれます!
 飲み物も好みで各種。


《S2:交流》
 select 2
 誰かと・ひとりっきりの描写等も可能です。
 同行している弊NPCは話しかけると反応しますが、他の人の行動によっては添った行動を取ることが難しい場合もあります。(【4】が優先されます。)
 いかなる場合でもNPCが動くと文字数が吸われます。

【1】ソロ
 ひとりでゆっくりと楽しみたい。

【2】ペアorグループ
 ふたりっきりやお友達と。
 【名前+ID】or【グループ名】をプレイング頭に。
 一方通行の場合は適用されません。お忘れずに。

【3】マルチ
 特定の同行者がおらず、全ての選択肢が一緒で絡めそうな場合、参加者さんと交流。(ソロ仕様なひとり完結型プレイングは難しい場合が多いです。)

【4】NPCと交流
 おすすめはしませんが、同行NPCとすごく交流したい方向け。
 なるべくふたりきりの描写を心がけますが、他の方の選択によってはふたりきりが難しい場合もあります。
 交流したいNPCは頭文字で指定してください。
 ひとりなら【N雨】【Nメ】、複数なら【N雨・サ】等でも通じます。

  • SPLASH SUMMER!完了
  • 覇竜で水遊び!
  • GM名壱花
  • 種別長編
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2023年09月21日 22時05分
  • 参加人数25/25人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 25 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(25人)

オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
鏡花の矛
ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
チック・シュテル(p3p000932)
赤翡翠
リリー・シャルラハ(p3p000955)
自在の名手
バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)
老練老獪
ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)
優穏の聲
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
ベルディグリの傍ら
赤羽・大地(p3p004151)
彼岸と此岸の魔術師
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
シラス(p3p004421)
超える者
メイメイ・ルー(p3p004460)
祈りの守護者
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
冬越 弾正(p3p007105)
終音
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
耀 澄恋(p3p009412)
六道の底からあなたを想う
メリッサ エンフィールド(p3p010291)
純真無垢
綾辻・愛奈(p3p010320)
綺羅星の守護者
ユーフォニー(p3p010323)
竜域の娘
フーガ・リリオ(p3p010595)
青薔薇救護隊
佐倉・望乃(p3p010720)
貴方を護る紅薔薇
レイア・マルガレーテ・シビック(p3p010786)
青薔薇救護隊
トール=アシェンプテル(p3p010816)
ココロズ・プリンス

サポートNPC一覧(3人)

劉・雨泽(p3n000218)
浮草
瑛・天籟(p3n000247)
綵雲児
サマーァ・アル・アラク(p3n000320)
くれなゐに恋して

リプレイ

●いつつぼし島の冒険
 高く空へ浮かぶ浮遊島には、心地よい風が吹いている。
 けれども小さな『自在の名手』リリー・シャルラハ(p3p000955)には結構な強さの時もあるから、うーんっと伸びをしていたリリーは慌ててワイバーンの『リョク』へとしがみついた。
「リョクは大きくて頼りになるねっ」
 何と! リョクはリリーの10倍なのだ! 頭を小さな手でよしよしと撫でてあげれば、機嫌良さげにリョクはグルルと喉を鳴らした。
 そんなふたりは今、空の上に居る。額に手を当てて、よく見える目とよく聞こえる耳で索敵。狙いはビッグホーンというお肉が美味しいモンスターで、リョクとふたりで狩りをしてBBQ組がもっと楽しめるようにするのだとはりきっていた。
「あっ、あの子孤立してるね。リョクはいいよって言うまで待っていてねっ」
 リョクの役目は戦闘ではなく、小さなリリーのかわりに荷物持ち。リョクはリリーの言いつけを守ってくれるしっかりさんだ。……何故だかリリーの言う事しか聞いてくれないみたいだが、そんなところもちょっと可愛い。
 大きく頷いたリョクの頭をひと撫でし、リリーはリョクの頭からピョンっと飛び降りた。
「それじゃあ行ってくるね!」
 届く距離まで真っ直ぐ降りたら――そこからは狩りの時間。
 皆が美味しいお肉で笑顔になってくれるようにと願い、リリーは狩りに勤しむのだった。
「……狩りに使うにはその弓矢はゴツすぎやしねぇか?」
「そうですか?」
 では試し打ちをしてみましょう。
 ――ズガン!
「中々良いと思いますが」
「おいおいおいおい」
 事もなげにそう言って眼鏡の位置を正す劉・飛龍に、『あの子の生きる未来』バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)は思わず肩を落とした。
(あのちびっこ老師め、あいつの目付けを俺にぶん投げやがって)
 頼れるのはぬしだけなんじゃ~、頼む~、任せたぞ~~~~~!
 ぴゅるるるるっと飛んでいったあの小さい姿を思い出してクッと内心で唇を噛む思いだが……仕方がない。何せ今日の面子の中で飛龍との一番の付き合いがあるのは己なのだから。
 しかし、しかしだ。木を貫く威力の弓を狩りに使うのを許可なんて出来ない。覇竜のモンスターは強いから然程心配するようなことにはなら無いだろうが、食べる肉へのダメージは少ないほうがいい。
 それなら、とバクルドは考えた。
「競争といかねえか?」
「競争、ですか?」
「どっちがより多く質のいい獲物が取れるか、で競うんだ」
「なるほど」
 スッとバトルジャンキーの手が眼鏡へと伸びたから、バクルドは「質がいい獲物って言ったろ!」と慌てて彼を制止した。勿論、生態系を壊すような狩りもいけない。食べられる分だけを程々に、だ。
「BBQをするなら、ハーブは絶対必要よね?」
 久しぶりに会えた天雷と言葉を交わして笑顔の『ベルディグリの傍ら』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)もまた、鳳・天雷と瑛・天籟と草原へと向かった。そうしてまずは香草を探しましょう! と言ったのだが。
「宴会じゃろ? 肉が主役ではないか?」
「んむ、わしもそう思う」
 亜竜種ふたりはこの調子。
「ふふーん、香りの力って凄いのよ。お酒も食べ物も、どんなにいい食材を使っていても、香りが悪いとそれだけで味が落ちちゃうんだから」
 したり顔で指を振り振り。香りを侮ってもらっては困るのだ。
「わしは苦い臭いは好かんがのう。お、あれは煙草の香り付けにもなるやつじゃ」
「えっ、どれどれ」
「これじゃな」
「雷のも使っておったよな」
 天雷が摘んでくれた香草を鼻に寄せれば、見目は随分と違うのにレモンバームに似た香りがした。
「これは食べても大丈夫なのかしら?」
「うむ。毒性はない」
「疲れも少し取れる気がするのう」
 ジルーシャはふたりの年齢は知らないが、見目は若いのに随分と会話が爺臭い。
 これも食べれる。こっちも大丈夫。そんな話をしながらブチブチと草を引っこ抜くふたりは繊細な性質でもないようだ。
「ああちょっと……! 香りが混ざるじゃない!」
「いかんのか?」
「絶対に駄目って訳ではないけれど……」
「それなら良いのではないのか?」
「のう?」
「ブチブチ千切って籠に入れないで!」
「面倒じゃ~」
「じゃな」
 後からBBQ会場へと訪れたジルーシャは、老龍ふたりに振り回され、とても草臥れた様子だったようだ。

●清廉なる水の在処
『あら』
「む」
 祠を有した泉に『優しき水竜を想う』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)と『優穏の聲』ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)が到着すると、先に顔を合わせていたふたり分の視線が見上げてきた。精霊の方はにこやかにひらりと手を振って、水竜の方は気配には気付いていたことを知らせるために。
「お母様、ペリ・ハマイイム、久しぶりね。あ、私のことは気にしないでお話していて」
「私のことも気にしないで欲しい。ふたりに食べてもらいたいものがあってな」
 ふたりは精霊と水竜へ挨拶をすると、オデットは祠を綺麗にしに、ゲオルグは簡易キッチンを取り出し料理を始めた。
 ――のだが。
「それは何だ」
『今、ポンって出ましたよね?』
 小型カプセルから突然現れたキッチンに、ハマイイムのふたりは興味津々。
 練達の謎技術のため、ゲオルグも仕組みは解らない。
「スイーツを作るので待っていて欲しい」
『スイーツ……甘いものですね。母様、待ちましょう』
 水竜が静かに顎を引いて同意を示すと、ふたりは元の場所で浮かんだままゼリー等を作り始めたゲオルグを物珍しげに眺めている。
『人の子は不思議ですね、母様』
 言葉を交わさずとも眼前で見れば精霊がどのような存在かを悟った水竜は特段言葉を返さない。元が寡黙な性質故、口を挟まぬのが彼女の聞く姿勢と肯定だ。そのため精霊の声のみがオデットとゲオルグには聞こえていた。
『母様、あの人の子等が此処を綺麗にしてくれたのです』
 祠を磨くオデットの頬を、下級の水精霊たちが楽しげに撫でていく。
『私も何百年か眠っていたのですが、久方ぶりに目覚めることが叶いました』
 ゲオルグが直した箱に在る水色の宝石の欠片のようなもの。それは遠い昔、浮遊島がまだ大地だった頃に割れたメファイル・ハマイイムの爪の欠片だ。
「どうぞ。ゼリーだ」
『まあ。母様見て、夜空のよう』
「見目だけではなく、味の方も期待してもらいたい」
「ふむ。……オデット」
「! なぁに、お母様」
「此処へ」
 祠はもう十分綺麗だから側に座りなさいと言われているのだと気づき、オデットは素早くふたりの側へと腰掛けた。精霊と水竜は浮かんでいるがゲオルグは敷物を敷いて、冷やしているジェラートの様子を見に行った。
「私、今日も林檎ジュースを持ってきたの。はい、お母様」
「……吾はもう壊さぬ」
「ええ、知っているわ。ペリ・ハマイイムが飲みやすいように実演したの」
 星空ゼリーと林檎ジュース。涼し気な甘味にハマイイムのふたりは楽しげだ。
「ジェラートも出来ていた。色によって種類が違うから、好みの味があれば教えて欲しい」
 スイーツを振る舞ったゲオルグはジークとにゃんたまたちを自由に遊ばせ、ゲオルグもスイーツに舌鼓を打っていれば、穏やかな時はあっという間に流れていった。
 皆と帰らねばならない時間が近付いていく毎にオデットの口数は少なくなり――
「……あの、お母様」
「何だ」
 常ならばオデットからはポンポンと言葉が出てくるのに、メファイル・ハマイイムが問うても言葉が返ってこない。
「……怪我でも」
「あの! 抱きしめても、いい……ですか?」
 触れるだけでもいい。許しが欲しい。
 ぎゅっと思いを込めて顔を上げた表情は真剣で、震える声は尻すぼみだ。
「許す」
 触れる許可を欲したオデットに、メファイル・ハマイイムが緩やかに腕を広げた。ペリ・ハマイイムがあらと微笑んで、ジークを撫でていたゲオルグが穏やかに口の端を上げて見守る中――オデットはジンと胸が震えて泣きたくなるような気持ちでその腕の中へと飛び込んだ。
「見守ってくれて、こんな私の行いに目を瞑ってくれて、ありがとう」
「……逆縁は大罪ぞ」
 努々忘れるな。
 その言葉は優しくも不器用な水竜が、幸せと健康を願う言葉であった。

●SPLASH SUMMER!
 水遊びに行くにはまず、必要なものがある。
 水着! 乾いたタオル! 帰りの着替え! 水分補給用のドリンク!
 それから。
「俺達が本気を出して遊ぶと景観を破壊してしまう危険があるのでは?」
「いい歳こいた大人が水浴びでキャッキャウフフしたら洞窟を破壊してしまうかもしれない? 安心してくれアーマデル、こんな事もあろうかと保護結界はバッチリだ!」
「成程保護結界……流石弾正ぬかりないな、準備は万端だ」
 大人たちはちょっぴり心配してしまいがちだから、子ども心も必要なのかも知れない。キリッとして見せた『黒響族ヘッド』冬越 弾正(p3p007105)に、『灰想繰切』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)もコクリと頷いた。
「アーマデルに貰った大切なKURNUGIA-P508。コレが本領発揮する時がついにきたか」
 そう、あと忘れてはいけないのが記憶媒体。この思い出を見返すためにも必要なものだ。弾正が撫で回すそれは、8ミリビデオカメラ。つまり水中撮影は出来ないが、低画質ながらも水辺での記録は残せることだろう。
「アーマデル、さあ存分に楽しんでくれ!」
 水をすくって飛沫を辺りへ散らすアーマデル。
 何やら夏の風物詩と練達で言われる有名な歌い手のようなポーズを決めるアーマデル。
 どの姿を撮っても弾正は「いいぞアーマデル!」と心のなかでガッツポーズだ。
「……弾正、一人ではしゃげるほど俺は幼くはないぞ」
 水資源が乏しい故郷をもつアーマデルとて、一人ではしゃぐには限度がある。一緒に遊ばないのかと送る視線に、弾正がぐうと唸った。
「俺が本気ではしゃぐと」
「破壊されるのか?」
「ある意味正解だ。数日後に節々の痛みが俺を襲うのだ」
 全く理解が追いついていないアーマデルが敵襲か? と首を傾げている。きっと彼にも解る日かその内来ることだろう。翌日に訪れなかったが故に負う深いダメージもあるということを……。
 けれどもアーマデルが求めるのならば、撮影はやめだ。海のように際限なく広い訳では無い地底湖で竜宮イルカが泳ぎ回っては他の人の迷惑になるから呼ばず、ビデオカメラを置いて弾正も水へと入った。
 ふたりで泳げば、いつの間にか仲間たちの声から離れた場所へ。
「……水辺の夏の大半を弾正と共に過ごした事になるんだな」
「また、こうして共に夏を過ごせて嬉しい」
「これからも共に過ごしてくれるか?」
 夏と言わず秋も、冬も、越えた春も、ずっと。
 応じる弾正の声は、愛しているよと告げていた。
「たまにはこういう時間もね」
 地底湖の、ともに来た仲間たちからなるたけ離れた岩場にて。『女装バレは死活問題』トール=アシェンプテル(p3p010816)はそっと足をつけた透明な水をパシャリとやった。
 今日のトールの水着は二段フリルとショートパンツ。いくら女性らしい衣装を着ようとも、臍が見えれば男女の違いは解る。そうして男であることがバレれば――トールにギフトの呪いが降りかかる。
「卑屈になってるわけじゃないけど……素でいられるって気楽だなぁ」
 だから今日はこうして、ひとり静かに楽しむのだ。
「まるでガラスの靴にドレスだ」
 洞窟の壁や水中で煌めく水晶は元の世界を思い出す。
 女王の命令で女装させられていたトールは美しさを競うコンテストにまで参加させられていた。
 ドレス、ティアラ、オペラグローブ、ガラスの靴。それらを纏うトールは本物のシンデレラ(プリンセス)のようだった。
(女装はしたくない。でも、するしかない)
 そのはず、なのに。
 何故だろう。あの時のドレスをもう一度着たいと考えてしまうのは。
 シンデレラの称号とともに授与された輝剣を眺める時間が増えたのは。
「輝剣も僕も、傷だらけのボロボロだ……シンデレラの名も今となっては埃まみれ。笑われちゃうな」
 小さく溢れた声を拾う者は側にはいない。
「よぉし、いくぞ。そぉれ!」
「あっあっ、来ました来ました。ええっと……はい! 上がりました!」
「ありがとう、望乃さん!」
 軽めに軽めにと意識した『君を護る黄金百合』フーガ・リリオ(p3p010595)が当たっても痛くないようにと空気で膨らませた練達製のビニールボールをゴールへと放れば、落ちてくる場所をウロウロと彷徨った『貴方を護る紅薔薇』佐倉・望乃(p3p010720)がキャッチをし、『バカンスお嬢様』レイア・マルガレーテ・シビック(p3p010786)にパスをした。
 水遊びをする他の仲間たちの迷惑とならないように離れた三人は楽しげに水球遊びへ興じていた。海のように広く場所を使える訳ではないから、ゴールはすぐそこ。3人だから1対2。男性のフーガ対望乃レイアペアがちょうどいいだろう。
「やった、入りましたわ!」
「やりましたね、レイアさん!」
 わーいっと喜ぶ望乃とレイアはハイタッチ。
 フーガはふたりとも上手だねと笑いながら、少し休憩しようかと水につけて冷やしておいた飲み物を取りに行く。
「おふたりさん、休憩も大事だよ」
「わかりましたわ」
「はーい、フーガ」
 パレオは水へ浸かる前に脱ぐものだ。ふたりが水から上がるとフーガには目の毒になるからそっとさり気なく視線を外し、リンゴジュースを手渡した。
「ふう。楽しいので忘れがちですが、思いっきり遊ぶと疲れますね」
 程よく冷えた甘さが喉を滑り落ちていくのが心地よい。溢れた吐息に存外に体は疲れている事を知ったレイアは、しっかりと休憩の声掛けをしてくれたフーガに感謝をした。
「でもまだこれからですよ、レイアさん。ね、フーガ」
「そうだな。水球ももっとしてもいいし……こういうのもある」
「まあ、水鉄砲?」
 水を弾とするそれは当たっても委託はないし、水着姿の3人は大いに濡れても大丈夫。
「せっかくなのでびしょ濡れになった人の負けにしませんか?」
「賛成……といきたいが、おいらたちもう濡れちまってるぜ?」
 先に水球をしているから、三人とも既に髪まで濡れていて判定し辛い。
「でしたら浅瀬で、パレオやパーカーの濡れ具合を判定にいたしません?」
 どのみち深く水に浸かってしまっては機動力が落ちるから水鉄砲向きとは言えない。そしてフーガはパーカー、レイアと望乃は水球前にパレオを脱いでいるからちょうどいい。
「いい案だな」
「けどもうちょっと」
「そうですわね」
 ひんやりとしたジュースを堪能し、もう少し休憩だ。

「うわぁ! 洞窟の奥にこんなきれいな地底湖があったんですね!」
「すごーい、きれー!」
 洞窟の壁も、地底湖の底も、水晶で煌めいている。
 負けないくらい瞳をキラキラと輝かせた『純真無垢』メリッサ エンフィールド(p3p010291)はついさっき「アタシ泳げるかなぁ」とうーんっとちょっぴり悩んでいたサマーァ・アル・アラクへ声を掛けたばかりだが、地底湖を見たふたりの表情はずうっと友達だったかのように似ていた。
「行きましょう、サマーァちゃん」
「うん!」
 水に乏しいラサ生まれのラサ育ち。浅いところででパシャパシャするくらいを考えていると道中語ったサマーァへ、それでは勿体ないですとメリッサはサンセット・ラヴをあげた。夏の味の甘いジュースは、飲めば水中行動ができる優れもの!
 わーいっと元気にふたりはキラキラの地底湖へと駆け――
「待って!」
 ――静止が掛かった。
「水に入る前は準備運動だよ!」
 基本中の基本! しかも初心者なら絶対に守るべし!
 鋭い声に足を止めたふたりがそろりと振り返れば、そこには仁王立ちの『蒼穹の魔女』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)。
「あ、そうですよね、準備運動が必要ですね」
「準備運動ってどういうのがいいのかな」
「それじゃあ私の真似をして。皆で準備運動をしようか!」
 はーいっと素直な声が重なって、アレクシアお姉さんと一緒に準備運動。……実は泳ぎはそこまで得意ではないアレクシアは、こうして皆が安全に遊べるように見守ってくれているのだ。
「よし、遊びに行っていいよ! でも無理はしないようにね?」
「はーい!」
 元気に駆けていく背中を見送って、ふうと息を吐く。
「ひゃ!」
 ――と、頬に唐突にペタンと冷たいものが当たったものだから、アレクシアは飛び上がった。
「……明霞君」
「お疲れ。アンタにも休憩は必要でしょ?」
 お外同好会の皆の頼れる姉御、翠・明霞。アレクシアの頬に冷えたドリンクを当てて、にんまりと笑っていた。
「明霞君、元気にしていた?」
「勿論、元気に体を動かしていたさ」
 明霞の視線を追えば、イレギュラーズたちと遊んでいる他のお外同好会の子等がいた。覇竜で起きた変事には多くの亜竜種等の手の届かぬ範囲のことだ。何かあったら連絡してねと告げ、アレクシアは水遊びに興じる皆を見守った。
「埜智様は本を読んで過ごすことが多いとのことでしたが……水泳のご経験はありますか?」
 そう問うた『どこか似ている』澄恋(p3p009412)へ塙・埜智は残念ながらと首を振った。
「わたくしがウェスタの出でしたら別でしたが」
 か弱い乙女仲間と澄恋が一方的に思っている埜智は見るからに繊細そうだ。里を抜け出してウェスタへ遊びに行ったりもしなかったのだろう。
 だからこそ今日、埜智は天籟へとついてきた。水遊びをする気満々で、ちゃんと水着も用意したのだ。足がつくくらいの場所でのんびり過ごしたり『びぃちばれぇ』なるものをしたいと思っていた埜智だが、どうやら澄恋が手を取って教えてくれるらしい。なれば「ご教授よろしくお願いします」と甘えてしまうのが埜智と言う娘である。
「埜智様、お上手ですね」
 澄恋の言葉にプハッと埜智が顔を上げた。
「澄恋さんの教え方がお上手だからです」
 バタ足も、息継ぎの仕方も、確りと抑えるべき場所を抑えていた。豊穣の者――特に女子は海女でもなければ泳げないため、澄恋もイレギュラーズになってから特訓をしたのだろうか。
「もう手を離しても大丈夫そうですね」
「あっ、澄恋さん、まだっ」
 すっと離れていく手に埜智が慌てるも、羽のある埜智は危なくなれば飛び上がることも出来る。
 水中で瞳と瞳が合って、水晶を指さしあったのなら。
 ふたりは飽きるまでキラキラと輝く水中の世界を堪能するのだった。
 キラキラと輝くのは、水底だけではない。
「末永く幸せにビームですわよ!」
 レイアの手元からビューっと発射された水が、キラキラと輝いた。
「目が、目がぁああああっ!」
「ほーっほほほ! 先手必勝ですの!」
 顔面に水を浴びた望乃は本当は全然痛くないけど大げさなリアクションを返し、レイアも悪役令嬢っぽくノリノリ。そんなふたりを見て笑うフーガもまた、普段扱う銃とは軽さも危険度も違う水鉄砲へと弾(水)を込める。
「望乃の仇だ、おりゃ~!」
「やられたらやり返します!」
「なっ!? 2対1とは卑怯ですわよ!?」
「……っと見せかけて……えいっ! ふははははー、皆で仲良くびしょ濡れになるのですよー!」
「わっ、冷たっ! 望乃がおいらを騙すなんて!」
「ふふふ、フーガは私の旦那様なので、レイアさんよりももっと私が濡らします!」
 バシャバシャと駆け回る三人と、わあわあと楽しげに響く声。
 三人の夏も、まだまだ終わらない。

「わぁ! みんな素敵な水着だね!」
「そうだろ? 全部雪玲が作ってくれたんだぜ」
 柊・弥土何の声に朱・雪玲がふんっと顔を逸らすが、人型を取っている彼女の耳が赤くなっていることを『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)は見逃さない。この混沌に来てから様々な水着を見てきた焔でも素敵だと思えるということは、それだけ雪玲が皆のことを思って考えた証でもある。
「雪玲ちゃん、凄いなぁ」
「別に……すごくないわよ」
「凄いよ!」
「……来年はアナタのも考えてあげてもいいわよ」
「ほんと? それじゃあ後からボクのこれまでの水着も見てね! 持ってきたから!」
「えーい、詩華ちゃん!」
「わっ! それじゃ……雪玲にえいっ」
「っ! やったわね!」
 水を掛けられた雪玲がブンと尾を振って、全員はずぶ濡れ。けれどもそれも楽しくて、焔もお外同好会の子等も楽しげに笑った。
「そういえば、みんなは泳げるのかな?」
 水掛けからボール遊びへと変わった頃、焔がそう問うた。焔はと言うと、今年25m泳げるようになったところだ。
「俺と雪花は泳げるな。あと明霞も」
 ウェスタ出身の弥土何の元へ元気に遊びに行く者たちは。
 雪玲と奏・詩華は泳げないようだが、老師が浮き輪を用意してくれたと浮き輪を指さした。覇竜は何が起きるかわからないから、保護者は安全確保が第一だ。初心者が無理せんようにと渡されたようだ。
「それじゃあ皆でプカプカしようよ! 潜りたくなったら泳ぎ方も教えてあげる!」
 焔の提案にお外同好会の子たちは揃って頷くと、アレクシアからあまり遠くに行ったらダメだよーと声が投げかけられて。はーいと良い子の挨拶を返してう器具を手に取った。
(わぁ……! 思った通りすごくきれいな景色です)
 水中へとサマーァとともに潜ったメリッサは、美しい景色に瞳を輝かせた。
 傍らで褐色のサマーァの手が『見て』と水晶を指さして、水に髪を遊ばせながら彼女を見て、こくりと頷き返す。
 ――きれい。
 そう思う気持ちが今、寸分違わず重なっている。
 サマーァの指が、違う場所を指した。
(あ。カニ?)
 地底湖へと至る前までにも見かけた鉱石を背負った蟹が、湖のそこでもえっちらおっちらと動いていて、それが何だかとても愛らしい。
 水中行動で呼吸が出来るふたりはくすくすと笑い合い、美しい水中世界を堪能したのだった。

●心もお腹もいっぱいに!
「それじゃあ、やるか!」
 洞窟内を下へ下へと降った地底湖の在る広い場所で、『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)は腕を捲くった。調理場がゴリョウの戦場。それは野外であろうと変わらない。
 持ち込んだ機材を並べて火を焚けば、煙は高くて暗い天井へと吸い込まれていく。どこかに外へ通じる穴がいくつもあるのだろう。
「ただいま。血抜きは済ませてある。解体も俺が引き受けよう」
「おお、助かる」
 とうもろこしや南瓜と言った重い食材を切っていた頃。早々に食材――ビッグホーン狩りに出ていた『竜剣』シラス(p3p004421)が、彼の体よりも倍以上もあるビッグホーンを担いで戻ってきた。すぐに作業に取り掛かったシラスの手元は的確で、ゴリョウは安心して彼に任せ、彼が切り分けた肉を頂戴していく。
「この部位は串焼きにするか」
「串焼き、ですか? ニルでもお手伝い、できますか?」
「それじゃあ、刺して行ってくれるか?」
 大きさを揃えて切って野菜と肉、そして串の一番上には重い食材を刺してストッパーにすることを伝えれば、『おいしいで満たされて』ニル(p3p009185)はバランスを考えながらもせっせと刺していく。
「串に刺すの、果物とかはどうですか?」
「刺して焼くのはおすすめできねぇな」
 どうしてですかと問うニルに、ゴリョウはチーズフォンデュの準備をしながら「焼くとやわらかくなるからだ」と教えてやる。串だと柔らかくなった果物が落ちてしまうから、焼くならアルミか何かを用意した方がいい。と言いながらも、焼かずに刺した果物が食べられるようにチョコフォンデュも後から用意するかと心の隅に留め置いた。
「めぇ……いいにおいです」
 串に刺したお肉の脂が火に落ちて、ぱちぱちじゅうじゅういい香り。水に足を浸してパチャパチャとやっていた『ちいさな決意』メイメイ・ルー(p3p004460)は良い香りがしだすとすぐに吸い寄せられるようにフラフラーっとやって来てしまった。
「メイメイ様、焼きたて、ありますよ」
 一番最初に焼いた串をどうぞとニルに渡される。いいのですかと問いながらもお腹は正直で、メイメイは串へかぶりついた。
「どうだ?」
「おいしい、です!」
 瞳を輝かせながらメイメイが即答すれば、ゴリョウもシラスも歯を見せて笑った。
 食べる頭数は沢山だから、お手伝いは大いに越したことはない。串をひとつ食べたのなら、メイメイもしっかりお手伝い。
「蟹、蟹も焼きましょう……!」
「ニルはカニ焼きをマスターしています」
 鉱石蟹の調理方法にはコツが必要だ。天籟から教えてもらったやり方で処理をすれば、美味しく普通の蟹のような味わいを楽しめる。
「よっし、どんどん焼こうぜ」
 解体を終えたシラスは、焼き担当。肉を編みへと次々と並べていきながらも、自分も熱々の肉を食べている。
「すっげー、いい匂い!」
「お、弥土何」
 来たかと笑って弥土何に皿を持たせると、その皿を肉でいっぱいにしてやった。
「たくさん食えよ、弥土何。デカくなれねえぞ」
「食う食う!」
「……弥土何は野菜も食べたほうがいいと思うけど」
「っと、焼きそばもあるから、野菜が苦手でもこっちなら食べやすいぞ!」
「焼きそば!」
 雪玲に睨まれた弥土何は肉の皿を雪玲に手渡し、焼きそばも貰ってくる! と駆けていった。
「沢山楽しんだ後のBBQ……これ絶対とっても美味しいやつだー!」
 たっぷり水遊びも堪能した『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)も参戦だ。
 何か手伝おうかと声をかける前に食べ頃の肉が皿に山と積まれていく。焼きすぎない内に誰かの皿に移動させるのが一番だし、空いた端から肉を焼かねばならないのだ。
「んーーーー、おいしいーーーー!!」
「ヨゾラはお酒?」
「あ、僕は暖かい飲み物もいいなぁ」
 ゴリョウへビール、シラスへノンアルコールドリンクを届けた雨泽が、じゃあお茶かなといれに行って戻ってくる。片手に持っているトウモロコシは自分用だろう。
「ありがとー!」
「どういたしまして。……ねえゴリョウ、トウモロコシって野菜かな」
「副食の場合は野菜で、主食の場合は穀物だな」
「なるほど。今日は副食だから野菜だ」
「劉さんは野菜苦手なんだね」
「別に苦手じゃないよ?」
「そうなの?」
「うん。好きに食べていいのなら肉を選ぶだけ。野菜の分もお肉を食べたいんだ」
「お肉がすごく好きなんだね」
「君たちからしたら普通にあるものだろうけど、豊穣育ちだと『新しい食べ物』だからね」
 豊穣での肉と言えば、基本的には魚のことだ。野鳥や猪等、山で獲れた肉も口にするが、京育ちの雨泽にとって肉は魚肉であった。それが、イレギュラーズたちが豊穣へやってきたことにより牛や豚を食べる機会が出来たのである。……が、農耕の友である牛を食べることは野蛮とされているため、歳を経ている者は口にしないかもしれない。
「焼肉……BBQ……本当に良い文化だよ」
 羊肉もいつか食べてみたいなぁと零した雨泽に、少し離れた場所でメイメイがめぇ……と鳴いていた。
「もつとかもまだ口にしたことないのか?」
 会話を耳にし、ゴリョウが尋ねた。モツ鍋が食べられるようになるのは練達の人たちが言うところの『戦後』だ。いつぞやの冬の屋台でも店は見たけどまだ食べたことがないと首を振った雨泽に、ゴリョウはふむと顎を撫でていた。
(皆いい食べっぷりだな……)
 イレギュラーズには食欲大爆発集団という側面もある。……という偏見を抱いている『彼岸と此岸の魔術師』赤羽・大地(p3p004151)は、『もしも』が起きないようにひとり心構えていた。勿論もしもなんて起こりはしないのだろうが、それでも案じてしまう性分なのだろう。
「大地、ボサッとしてんじゃねェ! 大事に大事に育てた肉が食べ頃だゾ!」
 じいっと皆を見ていると、半身である赤羽が大地の口を借りてそう言った。
「ん。ああ」
(肉を焼くことを『育てる』って言い回しすんの、初めて聞いたな……)
 生返事を返し、せっせと手を動かして皿へと肉を載せていく。大地よりも肉を好む赤羽は大事に焼い――育てた肉を早く味わいたいらしい。
「あっつ」
「でも美味ェ!」
 はふはふ食べる肉は、なんて美味しいのだろう!
「チック、いい匂いがする」
「もう少しで出来る、するから……待ってね」
「うん」
 下拵えや準備は先に済ませているけれど、焼き網が空いたら焼く物が多く、『雨を識る』チック・シュテル(p3p000932)は『お手伝い』を続けていた。
 鮭に似た魚とじゃがいもとキノコのホイル焼き。そこから香るバターの香りに、雨泽が釣られたようだ。
「チックは食べてる?」
「うん、おれも食べる……してる。ばっちり、大丈夫」
 チックもゴリョウも、焼き加減を見ながら合間にしっかりと食べている。
 けれども雨泽は少し不満そうに「ふーん」と口にして離れると、大きなウインナーや焼かれた蟹が乗った皿を持ってきた。
「雨泽?」
「一番美味しいものを食べられる特等席なのに、君は他の人に譲るでしょ?」
 だから持ってきたと皿を置いて、火だけじゃなく僕とも遊んでねと笑って雨泽は離れていった。

「皆ー、追加のお肉だよーっ」
 ワイバーンがビッグホーンを運んできた。……洞窟内は飛べなくて、てちてちと頑張って歩いてくれたから、リリーがよしよしと頭を撫でている。
「血抜きはしてある。焼いてくれ」
 飛龍と狩りに出ていたバクルドも洞窟と外とを往復し、運んできている。労働の後は冷たいビール。コレに限る。
 たくさんの追加のお肉が来たから、ヨゾラは追加の狩猟に出なくても大丈夫そうだと焼きそばを食んだ。
「わしの分の肉と酒はあるかの~……は~、腹ぺこじゃ~」
 草原へ出ていた天籟も、ジルーシャと天雷とともに帰ってきた。
「天籟さん、こっちこっち」
 一緒にお酒を飲みましょうと笑顔で『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)が手を振ると、今までのフラフラ飛びは何だったのかというくらいの素早さで飛んでいった。
「かーーーーっ、冷えた酒! 実に美味い!」
「ふふっ、天籟さまも引率、お疲れ様です」
 地底湖までお外同好会の皆の様子を見届けてから草原へと行った天籟は、かなり動き回っている。彼の労を労ってメイメイが良い感じに焼けた肉を持っていった。
「天籟さん、乾杯しましょ!」
「ああしまったわしとしたことが! 冷たい酒につられてひとりで呑んでしまった……! すまぬ!」
「いいのよ、お疲れだもの。はい、どうぞ」
「すまぬの~」
 アーリアと乾杯。
「ほれ、嬢ちゃんも」
「はい、乾杯、です」
 メイメイは果実水で乾杯。
「あー、老師がデレデレしてるー!」
「しとらんわい!」
 のんびりと息をつく間も束の間。天籟が帰ってきたと知ったお外同好会の子たちがワッと集まってきてにぎやかになってしまった。
「こーら、ちゃんと好き嫌いしないで食べる!」
「ち、違う。これはシラスがいっぱい食えって」
「でも弥土何は野菜を避けていましたよ。さり気なく雪花のお皿に載せたりとかして」
 しっかりと見ていた詩華の告げ口に、雪花が「えっ、そうなの!?」と弥土何を見た。
「ろ、老師だって肉ばっかだろ!?」
「わしは大人じゃもん」
 それにこれはメイメイが持ってきてくれた肉である。
「弥土何、野菜も食べないと大きくなれないのよ」
「しゅ、雪玲まで」
 老師みたいにと雪玲が付け足せば、弥土何の視線がちらりと天籟へと向かい……彼は無言で玉ねぎを食べた。
「な、なんじゃぁ、その哀れみの目は……! わしじゃってなぁ、本気を出せばすごいんじゃぞ!」
「はい、センセ。ほらぁ、呑んで呑んで」
「うっうっ、すまんのぅ」
 元気なお外同好会の子たちは笑いながら離れていった。
「よぅ、食ってるか?」
 焼くのはそろそろ一段落。あとは手が空いている者が焼くだろうと離れたシラスは、次は甘いものを食べる? なんて相談している弥土何たちへと近寄った。
「そういや集落では肉はどうしてるんだ、誰か狩に出てるのか?」
 甘いものを食べようか、なんて話していても、追加の肉が来ればそれを食べる。沢山水遊びをした成長期で食べざかりのお腹はブラックホールだ。
「はい。大人が狩りをします」
 応えるのは頭脳担当の詩華。集落によって違うが、明霞辺りはそのハントにイレギュラーズたちを誘ったりもし、ペイトゴボーとロリポリワームの鍋を食べた者たちもいる。
「お肉があまりそうだったら持ち帰っても大丈夫かな?」
 チーズフォンデュの用意をしてやりながら亜竜種たちの肉事情に耳を澄ませていたゴリョウへ、そう尋ねてきたのはヨゾラだ。帰宅してから友人たちとBBQを楽しみたいらしい。
「うーん、まあ新鮮だから大丈夫そう……ではあるか?」
 どうだろうかとゴリョウに話を振られ、天籟もうーんっと首を傾げる。
「季節的にやめておいたほうがよいかもしれんのぅ。火を入れた物を持っていった方がよいじゃろうな」
 洞窟内はひんやりと涼しいが、外はまだまだ暑い。その暑い中をポータルまで移動して、ホームとしている国のポータルまで飛び、更にその後の家までの移動を考えると……傷んでしまうかもしれない、という見解だ。
「土産用も用意するか?」
 温めるだけで美味しくまた食べられるようにしておいてくれるとゴリョウが言うので、ヨゾラはそれに甘えることにした。

「ユーフォニー、食べてる?」
「はい、頂いています!」
 ドラネコをたくさん連れてきているユーフォニーは、自然と皆から離れた場所ですごしていた。
「玉ねぎとかも大丈夫なんだっけ?」
「はい。ドラネコさんたちは普通の猫と違うので、大丈夫です」
 離れた場所にいるから、サマーァが野菜がたくさんの皿と肉が山盛りの皿、それから焼きそばの皿とチーズがいっぱいの皿を盆に載せて運んできたのだ。
「いっぱい居るね。いつも一緒なの?」
「……家族なんです」
「そっか」
 来た時は13匹と大所帯で居たが、お腹を膨らませて遊びに行ったのか、今は足元に5匹。ミーフィア、クローディア、ハーミア、シルフィア、フリージアの5匹が美味しそうにお肉をもぐもぐ、口元をペロペロとしており、見つめるユーフォニーの瞳がとても優しげでサマーァは微笑んだ。
「あ、黒い子だ。この子はなんていう子?」
「ハーちゃん……ハーミアです。良ければ抱っこしてみます?」
「うん! アタシ、猫って好き!」
 翼が生えてる子は初めてだけれどねと笑って、サマーァがハーミアを抱き上げた。
「皆、覇竜で出会った子なんです」
「あ、そっか。猫じゃないんだ」
「そうですね、ドラネコという亜竜です」
「よかったら覇竜のお話聞かせてくれない? アタシ、覇竜は初めてなんだ」
「何から話しましょうか……覇竜は面白くて美味しい食材がたくさんあるんですよ」
「今日のお肉も覇竜のお肉だもんね」
 今日のお肉はブラッドホーンという牛のような亜竜の肉だ。
 他にも顔面にぶつかってくるスイカとか、戦いを繰り広げるミントとニンジンとか、魚と一緒に泳ぐマンゴーとか、空飛ぶお寿司とかがあるのだと話せば、サマーァは興味深そうに聞いていた。
「深緑でも豚が空飛んでたもんね」
「そ、そうですね……」
 あれは少し違うのだが……というのも少女の夢を壊す気がして頷いて。
 サマーァが甘い香りに惹かれるまで、ふたりは覇竜の話に花を咲かせていた。
「ああなんて……よいお肉でしょうか……」
 ゴリョウの近くで『航空猟兵』綾辻・愛奈(p3p010320)は幸せそうに頬に手を当てた。こんなに幸せそうな顔で食べてもらっては料理人冥利に尽きるというものだろう。
「うん、やっぱり赤ですね」
 美味しいお肉には赤ワイン。もしかしたら無いかも? と持参して良かったと、しみじみ思う。
「ゴリョウさんもどうぞ」
 皆のために美味しいものの調理に忙しいゴリョウのグラスにもワインを注いで、美味しいお肉と野菜、ソースもなんて美味しいのだろうと幸せに包まれていれば頭もふわふわと幸せ一色。
「む。それは酒か? 美味そうじゃの」
「天籟さん、あれはきっと赤ワインよぉ」
「あら、飲んでますね? 一献ご一緒しても?」
「一献と言わず、ずっと居って良いぞ~!」
「そうねぇ~! 呑みましょ呑みましょ!」
 肉で腹を満たして席を移動すれば、酒飲みたちに遭遇した。天籟もアーリアも飲める人間が増えるのは大歓迎と愛奈を迎え入れ、愛奈もワインを振る舞い大いに笑い、過ごした。普段の愛奈なら難しいことも酒の力を借りればこんなにも大胆になれる。
(人間、どこでどうなるかなんてわかりませんね、おじいちゃん)
 楽しいお酒を呑みながら、愛奈は亡き祖父を思った。

「雨泽」
「チック、お手伝いはもういいの?」
「うん。これ、ね……おれが作ったスモア」
「わ、やった。練達の雑誌で見て、食べてみたかったんだよね」
 大きめのビスケットで挟んだ方を雨泽へと渡す。
 齧るために指でギュッと挟めば焼いてマシュマロと熱で溶けたチョコレートがとろりと蕩けてくる。雨泽が「熱っ」と慌てながらも頬張るのを見てチックは小さく笑い、自身も息を吹きかけてからスモアを食んだ。
「美味しい」
「ね」
「このお菓子を食べるの……初めて」
「僕もだよ」
 雨泽と初めてが重なることが少ないから、チックは緩やかに笑みを浮かべてスモアへと視線を落とした。いっしょはうれしい。
「……そいえば。この島に来るのも……初めて、だったっけ」
「そうだよ。でもチックが教えてくれるんでしょ?」
 さも当然のような顔をして雨泽が言うからチックは瞳を瞬かせ、それから笑みを浮かべて大きく頷いた。教えて貰うことの方が多いと感じていたから、彼に教えられるのが嬉しくて。
「……めぇ、どうしましょう」
 一方メイメイは酷く悩んでいた。いちごシロップのかき氷を食べるか、スモアを食べるか――ではない。両方食べることは彼女の中では既に決まっているから、どちらを先に食べるか、だ。
「すもあ。ニルは、すもあがきになります」
「アタシもー!」
「めぇ」
「メイメイも食べるの? いっしょに食べよー」
「みんなで食べましょう」
 雨泽がリクエストしたからゴリョウが材料を揃えてくれたスモア。
(ゴリョウ様は『おいしい』が作れて、雨泽様は『おいしい』を知っていて、ほんとうにほんとうにすごいです)
 クラッカーのサクッとした食感。その先にあるとろりとしたマシュマロ。普通のマシュマロは弾力があるのに、それがこんなに柔らかくなるなんて不思議だ。
「すっごくおいしー!」
「はふ、はふ……本当に美味しいです、ね」
「アタシおかわりしちゃおうかなー!」
 メイメイもサマーァも『おいしい』の笑顔を浮かべていて、ニルもとても嬉しくなった。
「な、なんですかそれは? マシュマロを……まさか」
 酒盛りから抜け出した愛奈の鼻孔をも、甘い香りがくすぐった。
「あ、愛奈も食べる?」
「はいどうぞ、愛奈さま」
「これが噂に聞くスモアとかいう……! なんて贅沢……! 特別感……!」
 さくっと食めばとろりと甘さが広がって、焼いたマシュマロとチョコレートのコンボが脳を幸せにしてくれる。
「最高です、ゴリョウさん!」
「おう、そう思うならたくさん食べてくんな!」
 軽快に笑ったゴリョウは今、かき氷を作成していた。
「ん! 脂物の後のかき氷って美味いナ!」
「そうだな。さっぱりする」
 やっぱり医療スタッフとしての出番が無かった大地は、ゴリョウが手ずから削ってくれたかき氷を口にした。カンナで削る姿は勇ましく、見ても涼しく、食べても涼しい。しかも各種果物シロップはゴリョウ謹製とくれば美味しくないわけがない。
(来年の夏もこうやってみなさまと遊んだりできますように)
 きんと冷たい氷が、ニルの喉を滑り落ちていく。
 美味しいとはしゃぐたくさんの笑顔があるここは、とてもよいところだ。
「この島で皆が初めて過ごす夏が過ぎれば、秋が来て、冬が来て、春が来て、また夏が来て。そうしてずっと巡る季節を、あの子達が楽しんでいけたら素敵ね」
 かき氷にはしゃぐ皆を見ながら、アーリアは天籟の手元へと酒を注いだ。大人なふたりの手元のかき氷は、シロップではなくお酒だ。
「そうじゃの。まあわしも過労で倒れない限りは元気じゃしの」
「あら大変」
「じゃから、また気軽に顔を見せにきておくれ」
 冬も、春も、またみなで遊べばいい。
 来年もまた、いつつぼし島で。
 未来が続く限り、ずっとずっとこの笑顔を、ともに。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 来年もその先も、ずっとずっとその先までも。
 はっぴーさまー!

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