PandoraPartyProject

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『魔王座』III

「……こ、こうなったら正面からまっすぐぶっ飛ばす! しかない……にゃ!?」
 腕をぶした祝音・猫乃見・来探(p3p009413)が残った力を振り絞って世界の切れ目、次元の歪みに叩きつける。
 それは直接的な行動であり、多くを難しく考えるそれではなかったがイノリは一先ずそれを止めなかった。
「実に分かり易い。叶わば『これ』が一番というものだッ!」
「そういうのなら得意なんだよね!」
 ならばと三鬼 昴(p3p010722)が腕を振るい、サクラ(p3p005004)の刃が空間を走り抜けた。
 実体にあらぬ『それ』を捉える事は常人の技量には叶わない離れ業であろうが、幾多の奇跡を重ね、在り得ざるものを、理不尽そのものを砕いてきた彼等には関係がない事である。
 彼等だけではない。この場に在る者達はめいめいに工夫を凝らし、力を尽くし。
 不可能にしか思えない目の前の壁に挑みかかる。蹂躙せんとする絶望を笑い飛ばし、凄烈に美しく『足掻いて』いた。
 一方で。
「……しかし、これでは届かない。そんな魔術師の『見立て』は正解でしょうか?」
 限界へと歩を進める終焉のカウント・ダウンに抗う仲間達の一方でイノリに再び水を向けたアリシス・シーアルジア(p3p000397)の言葉は冷静なままだった。
「正確な答えを返す事は難しい。だから僕は君の推論を完璧に肯定する事は難しい」
「言葉遊びは結構です」
 美人の硬質な言葉がピシャリと彼を戒めた。
「じゃあ。『僕の見立て』を言うのなら。君達は神意――或る種の奇跡をその身に帯びている。
 一見して無駄に見える祝音君の行動も、昴君の猛撃も、サクラ君の聖刀の軌跡も、だ。
 恐らくは少しずつ、ほんの僅かずつにでも終焉に続く門を削り取っては、いる」
「ただ」とイノリは続けた。
「これは他ならぬ僕の言える事じゃあないが。君達は傷み過ぎている。あまりにも時間を使い過ぎている。
 例えば、この影の領域での決戦無く――混沌が力を合わせたのならば、門を閉じる時間はあったのかも知れない。
 そこにはまともな勝算があったのかも知れない。まぁ、それがクソ爺の希望的観測、都合の良い計算だった事は間違いない。
 だけど、現実に君達は死闘を潜り抜け半死半生の死に体だ。未だにそんなに意気軒昂に立っていられるのが信じられない位にね。
 その運命の炎も、壁を撃ち抜く力も弱々しく揺らめいている。だから」
「まぁ、間に合わないだろう」とイノリは皮肉に言った。
「そうですか」
 そう返したアリシスにイノリは逆に問い返した。
「だが、驚いたな」
「……何がでしょうか」
「君は終わる場所を探しているタイプに見えていた。少し、マリアベルに似ていてね。
 ……詳しい事情は知らないけど、先程も彼女とやり合っていたようだし。
 その癖、どうも来る終焉に残念そうな顔をするから。どうしてかと思ってね」
「そんな事」
 アリシスはその先を答えなかった。

 ――魔女(あのおんな)が開け損ねた穴をこんな場所で達成させてなるものか――

(嗚呼、これがバグ・ホールで無かったのなら)
 反吐が出る位嫌いな女ではあったけれど、その道のりには『あのお方』の意思が、或いは亡骸が横たわっているのだ。
 偶発等認めてやるものか。神ならぬ、運命ならぬ、人が選び取らなかったこの終焉を偶発等に届かせてやるものか。
「やっぱり似てるな」
 ふ、と笑ったイノリが視線を向けたのはルカにだった。
「どうしたよ、お義兄さん」
「いや? それにしても君は随分面白い運命を背負っているんだな、と思ってね。
 どういう過程でそれを手にしたのかは知らないが。クソ爺が君にどんな配役を求めたのかは分からないが。
 少なくともあの生き汚さはこんな絶対絶命にも最後の可能性を点さずには居られないらしい」
 ルカの背負った『想奏のアーク(さや)』にはまだ抜かぬ『開闢のパンドラ(けん)』が刺さったままだった。
 このとんでもないなまくらはとても戦いに使えたものでは無かった。
『原罪』の魔種はおろか、その辺りの雑兵すらも打ち倒す事も出来ないのだろうけれど。
「……一応、聞いとくけどよ。お義兄さん」
「うん?」
「アンタは、もう――一先ずは俺達に『賭けた』って事でいいんだよな?」
 イノリは複雑な顔をしたが、小さく頭を振った後「ああ」と応じた。
「ならきっと――これがクソ爺を出し抜く最後の機会だ! 力貸しやがれ!」
 声を上げたルカが運命を斬り伏せ、捻じ曲げる――開闢のパンドラを一息に抜き放った。
 それは未だ、何の力も有しないなまくらに違いなかったけれど、それは『使い手が真に舞台に上がるに相応しい資格を持ち得たその時に、総ゆる困難に風穴を穿ち得る神器』である。
 そしてそれを納めてきた想奏のアークもまた、『来る時までパンドラの力を封じ、想いと力を集積する力を持つ鞘の形をした聖櫃』であった。
 二つにして一つ、一揃えにして完全。開闢が解き放たれた時こそ、運命を試す時ならば――抜いた、ならぬ抜けたこの瞬間こそ、混沌が魔王座に対抗し得る最後の機会であるに違いない!
「『貸し』は高くつくぜ」
 嘯いたイノリが残された片手を閉じると握り潰された何かが黒い奔流を撒き散らした。
『空繰パンドラ』と対を為すもの、『滅びのアーク』が想奏のアークを通じ、開闢のパンドラへの流れ込む。
 輝ける黄金の運命と、真逆に淀む漆黒の破滅の双方を帯びた神器は形容し難きまだらの輝きで拡大し、勢力を増す終焉の門にその刀身の威圧を示していた。
 イレギュラーズが滅びのアークを帯びている。
 それは本来、絶対に在り得ない光景であり。在り得てはいけない『例外』だったに違いない。

 おおおおおおおおお……!

 次元の割れ目のその先から怨嗟の如き声が響く。
 自由を、顕現を、限りない破壊を阻み得るそれに対して怒りの声を上げているようであった。
「ハッピーエンドが大好きなんて、初心な事は言わないけど。
『やられっ放し』って性に合わないじゃない」
「しっかり、頑張って……!」
 皮肉めいたマリカ・ハウ(p3p009233)の言葉。
 対称的に性善の生きる者、『原罪』にも『黒聖女』にも変わらぬ優心を以って分かり合う事に努めたシキ・ナイトアッシュ(p3p000229)が心からのエールを送る。
「見せ場だな。しっかりやり切れ」
「しっかりと見届けます。いえ、共に戦いましょう」
 幾つもの戦場を供にしたベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)の言葉は、その傍らのリュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)の言葉は友人への信頼に満ちていた。
「ブン殴って――思い知らせてやれ。理不尽な運命を、人任せな神様を!」
 紅花 牡丹(p3p010983)の声を背に受け、
「うおおおおおおおおおお――!」
 獣のように咆哮したルカが重い、重いその剣を大きく振りかぶり――終焉の運命に振り下ろす!
 だが、その終焉の門より。想像もしなかった圧力が噴出したのもほぼ同時の出来事だった。
 開闢のパンドラにだけ反応したそれは『防衛本能』だったに違いない。
 迸る死の風は、顕現せんとする魔王座の欠片である。意志だけで世界を侵す最凶最悪の災厄の吐息である。
 それはほんの微弱な怒りの発露であったに過ぎないのに、悲しいかな。
「……なっ……!」

 ――ヒトの形をした彼という生命を破壊するには余りに呆気無く、十分過ぎた。



 <終焉のクロニクル>Pandora Party Projectが終結しました!


 ※幻想各地にダンジョンが発見されたようです。


 これはそう、全て終わりから始まる物語――

 Re:version第二作『Lost Arcadia』、開幕!

これまでの天義編プーレルジール(境界編)Bad End 8(終焉編)

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