PandoraPartyProject
Omnia vincit Amor.
![](https://img.rev1.reversion.jp/illust/scenario/scenario_bustup/89913/94cbfd54b262bae21ddeb6947d370996.png)
「人間と言うのは度し難い存在でね、どうなったっていとしいひとには生きていて欲しいものなのさ。
未練がましくって、盲目で、莫迦な方が丁度良い。そうであればひとは余分な事なんてなんら考えずに生きていけるのだから。
だからね、ぼくは盲目で莫迦な犬のように振舞って、あの人の寵愛を求め続けたんだ」
そう語った『魔種』アタナシアはこれまで敵対していたとは思えぬほどに朗らかに微笑んでいた。
まるで友人ぶった口ぶりと武装を解除した彼女の纏う雰囲気は『硝子の棺』に冠位色欲ルクレツィアを入れて連れ歩いているとは思えぬもので。
「やっぱりその棺、狭くないです? 死が二人を別つことないように二人で入りたいですよね?」
「硝子の棺(ベッド)で眠るぼくとルクレツィアさまが美しすぎて卒倒してしまうよ、ルル家ちゃん」
夢見 ルル家(p3p000016)の表情は雄弁だ。何を言って居るのだか、と呆れた空気を醸し出す。
アタナシアという魔種は独善的で、魔種らしい魔種であるともヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)は認識していた。
『冠位色欲』ルクレツィア――彼女の振る舞いはエゴの塊であり、我儘で、面倒くさい『女の子』として君臨していた――の強烈な信者である。そう言葉にすればよくある事ではあるが、アタナシアはその信仰理由が恋情というのが救えやしない。色欲らしいと言えばそうだが、らしすぎるのも問題だ。
どの様な言葉をヨゾラが尽くそうとも「ルクレツィアさまがそう言った」の一言で彼女は全てを一蹴するのだろう。
それはイレギュラーズ誰に対してもだ。ただ、僅かな隙があるとするならば、彼女は色欲だ。腐っても『色欲』の分類は正常だったのだ。
アタナシアという魔種は絶対的な自己愛(ナルシズム)を抱いている。己に向けられる罵倒は照れ隠し、己へと向けた殺意は愛の裏返しとして認識している。
彼女はそれを浮気とは言葉にせずに「ぼくの様に美しくも素晴らしい存在に愛されることを喜ぶべきだ」とさえも口に乗せるのだ。
「……それにしたって、実に愉快な『性格』をしているのだね」
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)はそんなアタナシアに肩を竦めた。マリアベルの配下に当たる軍勢を影の城で撃破する際にそうした性質を利用したのは確かな事。
アタナシアが敵に回れば2:1の布陣となる。マリアベルとアタナシアは敵同士ではあるが、イレギュラーズもまた然り。斃しやすい方を選ぶのは当たり前のことだった。
――ぼくはね、ただ、マリアベルを殺せばそれで良いんだ
女は雄弁だ。それ故に目的意識がはっきりしていたのは利用しやすいとも言えた。
マリアベルの元に無事にアタナシアを『送り届ける』為に一先ずは休戦協定を結ぶ事を選んだのだ。
(しっかし、うまく行くモンだな――『……邪魔をしてくれるな、イレギュラーズ』か。
それだけこの女の愛情というのは深く、純愛と呼ぶに相応しかったって事か? 魔種の感情は一概には語れないが……)
バクルド・アルティア・ホルスウィング(p3p001219)はじらりとアタナシアを見た。彼女は嘘が下手だ。何故か。自分が正しく自分を愛しているからだ。
バクルドの視線にだって「ぼくの魅力に気付いてしまったのかい」だなんて楽しげな言葉を弾ませるのだ。
「それにしたって、きみがぼくをあの女の元へ行くことを許すとは思って居なかったよ、マリカ。
きみはぼくが嫌いだろう。ツレない態度と、自己嫌悪と同族嫌悪の合わせ技。まあ、ぼくは美しいから唯一無二なのだろうけど」
「……どうしたって似ているとは認めないでしょう?」
マリカ・ハウ(p3p009233)は片眉を釣り上げてからアタナシアを見た。
銀の髪、エメラルドの瞳、騎士を気取った服装に美しく微笑んだ青年を思わせた『美女』
それが『享楽』のアタナシアだ。その名前が不滅を意味し、アーティやアーシャと柔らかな声音で呼ばれること望む盲目な女。
彼女の死体繰りと罪悪感のなさ、楽しげな姿は如何したってマリカの心を刺激した、けれど。
「いいわ。今はね」
「今は?」
「今は、休戦、でしょう」
マリカがちらと見遣れば物部 支佐手(p3p009422)が緩やかに頷いた。
「主が為の仇討ちとならば、否定など必要ありゃあしません。わしとて主君が為ならば――おんしの為に刃を振るう事もやむを得ない。
忠義の為の仇討ちをどう止めようと言いましょうか。わしらと同じ目標があると言うならば」
「利用価値がある?」
「皆まで言いますまい?」
支佐手の軽い声音にアタナシアが「利用する価値があるほどにぼくを愛したといっても構わないけれど」とそっと支佐手へと近付いた。
そのおとがいに指先を添えようとするアタナシアに対して支佐手はぴくりとも動かない。
「凄いね、ぼくは魔種なのに。君を傷付けるとは一つたりとも誰も疑っちゃいないんだ」
「ええ、だって、無駄な戦いなど望まないでしょう? マリアベルだって貴女にとってはただの摘まみ食いなのですよ、アーティ?」
楚楚として雪村 沙月(p3p007273)は微笑んだ。己との二人のダンスはお預けだ。
ダンスホールになりもしない、こんな薄暗く鬱蒼とした場所で初めてのワルツを踊るなど願い下げではないか。荘厳優美な王城でドレスでも纏って、ワルツでも嗜んでいた方が一層に『思い出』にもなろうもの。
アタナシアは「踊ってくれるかい?」と支佐手から離れて沙月の手を取って傅いた。
「『全てが終わったならば』」
「ああ」
アタナシアがその手の甲に口付ける。ゆっくりと立ち上がってから「ぼくは恵まれていたようだね」と振り返った。
「……アーティ、あなたの『硝子の領域』はいつまで保ちますか?」
「保たなくともイレギュラーズと言う選ばれし人はあの女がぼくに裂く時間すらも奪うだろう」
チェレンチィ(p3p008318)は彼女から与えられる多分な称賛にも何とも言えぬ顔をした。
ああ、だって。彼女は征く事を決めたのだ。
――マリアベルという女の元に。最悪のパウンドケーキに災厄をデコレーションして、終末でラッピングした女の元へ。
「アーティ」
「きみの瞳は美しくてぼくだけを映していて欲しくなるけれど、それもお預けだろう」
「ええ。お預け、です」
彼女が魔種ではなかったならば、良い友人になれただろうか?
さて、それはどうかは分からない。少なくとも『嫌い』だと大喧嘩くらいは出来ただろうか。
星穹(p3p008330)は「アーティ」と呼んだ。彼女は己を「ぼくの盾」と呼び笑うのだ。
「星穹、きみだけを見ていれば良かっただろうね」
「ええ、それはいつだって叶わぬ夢なのでしょうけれど」
「そうかな。ぼくは誰よりも素晴らしい存在だけれども」
「よく言う」
星穹が揶揄うように笑えば、アタナシアは何かに気付いたように顔を上げた。
「アタナシア」
殺してやると、その名を呼んだのはあの日だった。――今は『戦友』のように、シラス(p3p004421)は呼び掛ける。
「次だ」
次に会ったならば殺してやると、この場の誰もが誓いのように、別れの挨拶のように告げた。
シラスという青年はよく理解している。
この女に、こんなに前のめりで盲目で、当たり前の様にルクレツィアの為ならば命だってかなぐり捨てられるような女に、未来(さき)なんてあるものか。
「次に会ったら、分かって居るな?」
「勿論。それまでに死なないでおくれよ、シラス」
「どっちの言葉だ、か――」
言い切る前に目の前から彼女の姿が消えていた。
彼女は向かうのだろう。マリアベル。その女を殺す為に。
――アーティ。アーティ。アタナシア。聞こえているでしょう。
ええ、ルクレツィアさま。ぼくの月、愛おしきあなた。慈愛の月、天上の調べ。
あなたの声音は甘露のよう。天上の囁きのよう。全ては雫となって落ちてくる。
あなたにとってとるにも足らない塵芥であったぼくの名を呼んでくれたその日から全てが始まったのです。
――アタナシア。分かっておりますわね?
莫迦な女と罵ってくれたって構わない。ええ、ええ、ルクレツィアさま。
ぼくはね、あなたの為ならば道化にだってなれてしまうのですから。
だから、待っていてください。「おまえは本当に駄目な子」と笑ってくださるのならば。
ぼくは何だって出来てしまうのだから。
※魔種アタナシアとの間に一時的な『休戦』が実現しました
※最終決戦が進行中です!
※各国首脳が集結し、一時的に因縁と思惑を捨て、ローレットと共に決戦に臨む事で一致しました!
※幻想各地にダンジョンが発見されたようです。
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