PandoraPartyProject

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『普通』の夜

 聖なる都に、平穏が訪れた。冠位傲慢は霧散し――そして、平穏がやってきたのだ。
 祝勝会の準備が滞りなく行なわれている様子をカロル・ルゥーロルゥー(p3n000336)は眺めて居た。
「凄いのね」
「何が?」
 呟くカロルにスティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)は不思議そうに問い掛けた。
 寒そうだからと遂行者の衣服ではなく防寒具を買って「着せ替え人形だよ」と笑いかけた。カロルは「初めてだわ」と喜んでいた事がスティアにとっては印象的だ。
(……普通の女の子なら、こうやってお洒落もするし、食べ歩きもしたり。
 そうやって過ごしているはずだけど、ルルちゃんはお洒落をしたことがないと言ってた。
 聖女と呼ばれてからずっと祈りだけの日々。清貧こそが素晴らしいと褒め称えられ、須く清くある事が求められる。
 うん、それは私もよく知ってる天義だ)
 こんな風に、物珍しそうに外を見詰めるのも。
 お洒落をして出掛けるのを喜ぶのだって、屹度『コレまでの天義』では無かったことなのだ。
 旧時代の聖職者の在り方を彼女はしている。それはそうなのだろう、彼女の元となった聖女は天義建国にも携わっていた。
 その記憶を有した別人、それが遂行者のカロルだ。そして、その遂行者がただの少女となって、今は『友人』である。
「ねえ、前にね、天義の聖女はスティアがなるって言ったでしょう。
 そしたら、私の代わりに引き受けてくれるんだなあって思ってたんだけど」
「うん」
「それ止めようかなあって」
「……えっ?」
 ぱちくりと瞬いたスティアにカロルは白い息を吐きだしてから、可笑しそうに笑った。
「私も聖女で良いわ。まあ、元聖女様なのは変わらないけど、そうであった事は止めない。
 そしたら、お揃いね。ほら……私は『竜の心臓』で生きているわ。
 当たり前のことだけれど、普通とは言い難い。どうやってこの後は、命を繋いでいくのかも分らないわ。
 だから、加老だってゆっくりかも知れないでしょう。そう言うときに『私聖女だから、そういうあれなの』って言おうかなあって」
「あはは、うん。良いと思うよ。でも、普通の女の子になりたかったんでしょ?」
「勿論よ。普通が良いわ。でも、それで良いのよ。ゆっくり、普通を探していくだけ」
 カロルは一歩踏み出してから手を差し出した。
「この国は変わったのね。何も知らないことばかりだった。遂行者として見ていた景色とはまるで違う。
 だから見てみたくなったわ。ねえ、スティア。貴女の覚悟は綺麗だった。貴女は屹度これから、もっと凄く強くなる。
 サクラも同じよ。あの人は騎士で、あなたは聖女。それから……ううん、一人一人ちゃんと向き合って話さないとね」
 ゴリラの物真似も見なくてはならないの、とカロルは笑った。
 深々と降る雪は何もかもを隠してしまう。シャイネンナハトの平穏な一日、穏やかなその時を楽しむようにカロルは一歩踏み出した。
「こうやって、雪がルスト様の痕跡を消していくのね。
 ううん、違うか。神の国でのこと何て、外の人は何も解らない。帳が消え去れば、何事も無かったように平穏が来る。
 茄子子の恋バナも聞きたいし、ルル家の好きな人のところも行かなくちゃ。それに――それに、もう話せないのよね。
 何だか、それだけ私がずっと覚えていなくっちゃ。覚えるって大事でしょう?
 うんと長生きする幻想種さん」
「ふふ、どうしたの。ルルちゃん」
「――私は歴史から消された聖女だからね!」
 胸を張ってからカロルは楽しげに笑った。
「だから、今度はこんな事も在ったけど凄かったのよって言ってあげようと思うの。それが、私の続けていく未来そのものだわ!」
 その背中を見詰めていたスティアはふと、問うた。
「ルルちゃんは、遂行者だったでしょう?」
「ええ。そうよ、それが如何したの?」
「これから、ずっと平和かな……」
 カロルは何処か困ったような顔をしてから「分らない」と言った。
「ただ、コレだけは分るわ。何があったって、一緒に護りましょうね。
 私、聖女だったけど、この国を護れなかったの。この国に殺されてしまったから。
 ……そうじゃないなら、おまえとなら、護れる気がするし。あーと、私、別にもう、ルスト様の部下でもないから滅びとかどうでも良いし?」
 くすくすと笑ってからカロルは手を差し伸べた。
「おまえは稀代の聖女になれるわ。『元』聖女が悪戯してあげる。
 ――おまえの指輪に、祈りを込めてやる。後一度だけよ。壊れちゃうかも知れないから。何かあれば、頼りなさい。
 この子は屹度、お前に応えてくれる。ロウライトはね、壊れてしまったからどうしようもないのだけれど」
 そう言ってからカロルは微笑んだ。
「行きましょ、料理がなくなっちゃう」
 ――願わくば、少しだけでもこの平穏を謳歌できるように。

 主は真実、正しい存在である。わたしたちが罪を犯したとき、主は必ず見て居る。
 救済の光は天より雪ぎ、全てをきよめてくださることだろう。
 疑うことは、罪である。すなわち、疑わず願うことこそがわたしたちに与えられた使命である。
 願いなさい。祈りなさい。わたしたちの未来を開く光の再来を待ちなさい。
 それは波となり、全てを覆い尽くす。
 わたしたちがあるがままに生きて行く為に、主は全てを導いて下さるのだ。

                   ――――聖ロマスの書 『天による叫び』

 ※『煉獄篇第一冠傲慢』ルスト・シファーを撃破し、イレギュラーズが勝利を収めました――!
 ※天義では祝勝会が行なわれています。
 ※『プルートの黄金劇場』事件が終幕したようです……!


 ※神の王国に対する攻撃が始まりました!!

これまでの天義編プーレルジール(境界編)終焉の兆し(??編)

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