PandoraPartyProject

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三度目の嵐

「……ふぅ」
 ガブリエル・ロウ・バルツァーレクは一つ嘆息して執務室の天井を見上げていた。
 根を詰め過ぎた仕事は勤勉で粘り強い彼の全身にも色濃い疲労を残している。
 さもありなん。病み上がりのレイガルテに無理をさせる訳にもいかず、リーゼロッテにその適性があろう筈も無く。『双竜宝冠』事件の後始末は文字通り壮絶を極めたからだ。
(期せずしてレイガルテ公が如何に偉大な人物かを理解させられてしまいましたね……)
 ガブリエルは『代打』のポジションで見た光景に思わず苦笑せずにはいられなかった。
「未熟者が」と叱咤するレイガルテを頭の中に思い描き「ごもっともです」と頷かずにはいられない。
 彼とて幻想のバランサーなる仕事は十分に果たしてきた心算ではあったが『背負う』仕事は余りに重い。
(しかし、陛下もあのご様子ならば……ええ、踏ん張り所なのでしょう)
 ガブリエルの見る国や世界の光景はこの数年ですっかり別の物になってしまった。
 幻想国内は以前に比べれば驚く程安定している。『Paradise Lost』『双竜宝冠』二つの大事件は政情に大きな爪痕を残していたが、結果的に貴族達と統治のバランスは改善の方向を示している。強すぎた有力者の既得権と貴族主義が薄れた事により、そしてフォルデルマンが一定の王威を示した事により、幾分か幻想の方針が民の方を向き始めているからだった。
(それもこれも、特異運命座標のお陰でしょうね)
 政治に問題を感じながらも長らく一歩を踏み出す事も出来なかった自分も今、奮闘している。出来ている。
 頑なだったリーゼロッテの心の氷を溶かし、レイガルテにさえ実力を認められ、王さえも動かした彼等はどうしようもない位に特別だ。ガブリエルは彼等と彼等の在り様に感謝せずにはいられなかったが……
(――いえ、それだけではありませんね)
 ……『客観』を意識した自身の思考に一つ小さく首を振る。
 高級材の執務机の一番上の引き出しの鍵を開け、そこから小箱を取り出した。
 掌の上に置いた小さな箱をそっと開けば、そこには大粒の宝石のあしらわれた見事な指輪が輝いている。
「……こんな華美なものを好む方かどうかは、分からないのですが」
 芸術や美術品を好む『遊楽伯爵』としては譲れない部分であった。
「……………頃合いでしょう。運命がもし、交わるとするのならば」
 口に出したのは自分を奮い立たせる為である。
 ずっと心に温めてきたこと。
『特異運命座標には感謝してもし切れない程の感謝があるが、ガブリエルが特にそれを感じるのは最初から一人である』。
 彼が脳裏に描くのは快活で凛々しく、時に酷く女性らしい――リア・クォーツ(p3p004937)の姿だった。
 彼女は美しい。身体的な特徴に非ず――いや、それも美しいのだが――心根こそが美しい。
「……」
 ガブリエルは知っている。
 彼女が過去の傷に他人を疎んだ自分を引き上げてくれた事を知っている。
 彼女が問題を抱え、誰より傷付き、しかしその姿を見せまいとする事を知っている。
(甘やかし上手の甘え下手なんて。
 ……貴方は何時だって無邪気な無意識なのでしょうが。
 年上の男としては、余り認められるものではないのですよ、リアさん)
 だから、ガブリエルは決めたのだ。
『あの時』以来、そして『あの時』踏み込めなかった一歩を踏み出す事を決めたのだ。
 上手くやれるかは分からない。しかし幻想の貴公子として、今度は彼女を守り、支えると――

 ――しかし、そんな挑戦的で野心的で甘やかな夢想は突然起きた『騒ぎ』によって中断される。

「……!?」
 幻想の実力者、三大貴族の一角であるガブリエルの下に招かれざる客が現れる事等普通は無い。
 故に、執務室の扉を開けて堂々と侵入した青衣と槍の老人の姿に目を見開かずには居られない。
「夜分に御免仕る。此方風月というが、そんな事はどうでも宜しい。
『遊楽伯爵』ガブリエル殿、ちと所用がある故、此方にご同行を願おうか」
「……お断りします、と言ったら?」
 机の下に隠した剣に手を伸ばし、ガブリエルは薄く笑った。
(嗚呼、こんな時さえ――)
 以前ならば戦おうという心算も起きなかっただろうに。
 ガブリエルは直感してしまったのだ。この男は先の事件に関わっていると方向のあった男なれば。
 魔種か何かの差し金で動いている可能性が高いのだと。
『ならばその悪心の切っ先は自分ではなくリアに向いているのだろうと』!
「無論、無理にでも。生憎と手加減は母の胎に置いて産まれた武骨故。多少手荒になるが許されよ」
 余りに些細なもうひと騒ぎが起きて、赤い絨毯の上に特別製の指輪が転がり落ちた。
 名工の手で作られた逸品は悲しい程に冷たく輝き。
 これより始まる『きっと救いのない物語』を照らしている――


 ※ガブリエル・ロウ・バルツァーレク伯爵に何かが起きたようです……
 ※遂行者との戦いが続いています――

 ※シーズンテーマノベル『蒼雪の舞う空へ』が開催されました。
 ※プーレルジールの諸氏族連合軍が、魔王軍主力部隊と激突を始めました。
 ※イレギュラーズは『魔王城サハイェル』攻略戦にて、敵特記戦力を撃破してください。


 ※ハロウィン2023の入賞が発表されています!

これまでの天義編プーレルジール(境界編)終焉の兆し(??編)

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