PandoraPartyProject

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崩れる事なき道

 ある物語では神の領域に手を伸ばすが為に人が塔を組み立てたという逸話がある。
 実に荒唐無稽な話ではあるが、手を伸ばさねば何も得られぬのだから人はそれでもと足掻くものであろう。
「……へえ」
 冷めた視線を送ったのは預言者と称された男だった。ツロ。そう名乗る冠位傲慢ルスト・シファーの最側近である。
 椅子に深く腰掛け足を組んだ彼は『懇意にした娘』にとって到底信じられぬ『顔』をしていた。
 その表情一つを見るだけで遂行者アドレは酷く恐ろしい物を見た気になるのだ。
 俯いて「申し訳ございません」とやっとのことで言葉を紡ぐ。
「謝罪が聞きたいわけではないが。
 他の誰でもない、君の事だろう? アドレ。アドラステイア」
「……はい」
「ルオはくたばり、ブーケは傷物、挙げ句の果てに茄子子は『失敗した』と来た。何か成果を上げたかい?」
「……いいえ」
「何の成果もなく良くも顔を出せたな。『傲慢』にも程がある。
 己ならば許されるという馬鹿らしい自認と、好機は廻るはずだという的外れな自信があるからだろう」
 アドレはぶるぶると身を震わせながら俯いた。セレナ・夜月(p3p010688)がルオを此処で殺すと、そこまでの決断をするとは想定していなかったのだ。
「意味もなく呼び出したのならば帰る」
「機嫌が悪い君を見るのが趣味なんだ、マスティマ
 相手が『預言者』でなければ直ぐにでもその首を刎ねたと言わんばかりにマスティマが「何だと」と悍ましい声を発した。イレギュラーズを塵芥も残らず滅すると心に決めたマスティマを嘲り笑うだけの余裕が彼に存在して居るというのか。
 天之空・ミーナ(p3p005003)の事を思いだしただけでマスティマは苛立ちを更に滲ませた。
 ――その仮面の亀裂は以前よりも遥かに深く、刻まれている。
 戦いの最中には一度完全に割れた程だ。
 彼の感情が高ぶれば、またすぐにでもその仮面の下が晒されるだろう――
 闇のような靄と、聖痕だけが刻まれたマスティマの深奥が。
「成果物があると言えば、君か」
「勿論だとも。……おや? カロルの姿が見えないが……『庭園』か?」
 堂々と姿を見せる遂行者サマエルの背後にはセレスタン・オリオールの姿が見えた。
 ネーヴェ(p3p007199)の勇気と決意は確かであった。サマエルは彼女の瞳を思い出してからにんまりと微笑んだ。
 ツロは滅多なことでは姿を見せず、常に彼の言葉を届けるのは『シヴュラの託宣(神託の乙女)』ことカロル・ルゥーロルゥーの仕事であった筈だが――
「接待でね」
「……ああ、茶会か」
 サマエルは「あれは良いティータイムだった。美味しいお茶を飲めて楽しかった」と和やかに微笑む。
「茶会と言えば、君たちは来ていなかったか。グラキエス、それからパーセヴァル
「対話する相手は数多くいるからね。特に彼女は良かったな。ヴァレーリヤ……。対話の意義を感じられたよ」
 ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)の名を上げて聖騎士グラキエスは涼しげに微笑み、パーセヴァルと呼ばれた騎士は無言の儘で佇んでいる。
 パーセヴァルがこの地に顔を見せたのはあくまでもツロが呼び出したのが『聖痕を有する遂行者』であったからだ。
 彼はレプロブス=レヴニールと共に行動していたがこの場に顔を出す権利を有していなかった。
 それでも、ジルーシャ・グレイ(p3p002246)の言葉を受けて一瞬でも認識した彼女は――ティナリス、娘は。
「……」
「……君達の成果は? まあ、パーセヴァルには大して答えては貰えないだろうが」
「実に良い対話を行なわせて貰ったとは思って居るよ。ただ、『仲間』を喪うのは怖いけれどね」
 目を伏せるグラキエスに「お綺麗事ばかりだ」とツロは頷いて、ふと――「テレサは?」
「知らん。お気に入りの小娘の相手でもして居るんだろう」
 さも興味も無さそうに呟いたマスティマにツロは「へえ」と唇を吊り上げた。
 彼女のお気に入りと言えば――そうだ、佐藤 美咲(p3p009818)か。
 遂行者テレサ=レジア・ローザリアの精神性をツロは大して理解していない。理解などしてやる義理もないと考えて居る。
「結果として、君達は惨めにも敗北したと言うわけだ」
 ツロの視線を受けてアドレは縮こまった。
「それで?」
「カロルが此処に居たならばブラック企業とか言っていそ――」
「シッ」
 サマエルの口を押さえたアドレはツロの顔色をうかがってから青褪めた。
「テレサとカロルを待とうか。
 鼠たちはこの内部に入り込んだ。『あの方』の領域にまで踏込むのも時間の問題だ」
 苛立ったように椅子をトントンと叩いたツロにアドレは「申し訳ありません」と頭を下げた。
「……『あの方』の領域での迎撃を行ないましょう。罪深き者達を乗せる方舟は何処にも存在していません。
 偽の歴史は濁流に呑まれ、全てが消え去るべきです。我らはその為に正しい歴史を追い求めて遣ってきたのですから」
 アドレはゆっくりと顔を上げてから、唇を震わせた。
「この失敗も、全て『偽りの歴史』の中での話し。我らには成功しか有り得ませんでしょう、ツロ様」
「……勿論。我々に間違いなどないからね」
 男は小さく笑ってから立ち上がる。空間が歪み『奥』へと踏込んで行く男の背を見送ってからアドレは「しんど……」と呟いたのであった。

 ※『テュリム大神殿』での作戦の大部分が終了しました――


 ※プーレルジールでアイオンキャンプ&マナセの小旅行が行なわれているようです……?
 双竜宝冠事件が劇的に進展しています!


 ※プーレルジールで奇跡の可能性を引き上げるためのクエストが発生しました!

これまでの天義編プーレルジール(境界編)終焉の兆し(??編)

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