PandoraPartyProject

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計算外の奇跡

 ――どうなっている?

『彼』はプーレルジールで生じている異変について今まで楽観していた。
 異変とは主に二つ。内の一つがイレギュラーズ達の到達だ。
 世界を救う可能性――パンドラを宿した彼らが『果ての迷宮ルート』でこの世界に辿り着いたのは想定外だった。しかしプーレルジールは元から滅びがあちらこちらに蔓延っており……今更ざんげ側の存在が到達しえた所で大勢に影響はなし、と考えていたのである。
 だが。イレギュラーズの存在と活動の影響は彼の意図を遥かに超えていた。
 ――それがもう一つの異変。ステラなる者の出現。
 元々は『大いなる者』の一端末に過ぎなかった存在がイレギュラーズの『可能性』を得た事によって変質した。更には『エイドス』などという……訳の分からない、新たなる希望を紡ぎ出す代物まで零すだなんて。第一の異変が第二に繋がり、ソレによって終焉獣に寄生されたゼロ・クールが――あぁ。齎された奇跡によって治癒された個体も出たと聞く。
 『それはまずい』
 もしもこれから更に救われる数が増えるというのなら尚にまずい。
 彼にとって非常に……非ッッッ常に都合が悪かった。
 折角長年にわたって色々『仕込んで』いたというのに、まるでチェスの盤面をいきなりひっくり返された気分である。或いは、勝手にドミノを倒されたと言った方が正確だろうか。一体なんの為にあれやそれやと手を加えていたのだ……
 本来の歴史であれば存在していた勇者のメンバー達の集結も。あちらこちらの希望も。あの可愛らしい程に無駄無味無臭な優しさを見せる魔王君も。なにもかもに小石を投じて『滅び』を蓄えさせていたというのに。
 それとなく魔王君にはステラを狙うように誘導する情報を零した、が。
 イレギュラーズが傍にいる状態でなんとかなるかどうか。
 この段階で己が介入するのはあまり好ましい事ではない。
 クソ。今からでもイレギュラーズは全員帰ってくれないか。
 『この世界の意味』に気付くな。
 ああ、クソ。クソ――だがしかし。
「フフフ。そうだ。そうさ。そう言う事が出来るから君達は素晴らしい……♪」
 その男は笑う。嗤う。哂う。
 酷く鬱陶しそうに。
 深く喜ぶように。
 あぁ冠位七罪を何体も倒して来たイレギュラーズの可能性を侮りすぎていたか。
 全く滑稽だ。忘れるんじゃないよイレギュラーズという存在を、その価値を。
 そうだ、だってなぜならば。
 『己』だって――
「――辛気臭い場所ね。こんな所にずっといるの?」
 と、その時だった。彼に言の葉が投げかけられようか。
 それは彼の知り合い――名をイラスという女性であった。まぁ知り合いと言っても仲が良いという訳ではない……なんなら顔を合わせたのも数度のみだ。が、彼はイラスの事を気に入っていた。その身に宿る『執念』に。それが故に彼女の大望に少し前、手を貸してやった程だ――と、更には。
「やぁ無事此処に着いたんだね、ヴィッターもようこそ♪
 驚いたよ、この前の件は失敗したと聞いていたからさ……♪」
「どうも。こっちも驚いた所だよ――こんな場所に僕達を引っ張ってこれるなんて。一体どのような手段か技術かを用いればそんな事が?」
「企業秘密さ♪ まぁ気にする事はない。それよりも僕の力をまた借りたいのなら構わないけれど……ちょっとこっちも事情が変わって来てね。まず僕の方を手伝ってくれないかな……?」
 同様に、イラスの傍にいたのはヴィッター・ハルトマンなる男だ。
 ヴィッターもまたその身の内にある執念を抱きし男。
 ある種、イラスと似ている者と言えようか……ともあれ。
「まぁ力を借りたならこっちも返すべきよね。何をすれば?」
「今この地には『死せる星のエイドス』というゴミが出回ってる。
 破壊してくれ。それから終焉獣をあちこちに蔓延らせてほしい――
 いずれ来たるプーレルジールの終焉の前に、可能な限り滅びを植え付けておくんだ♪」
「構わないが、それに一体何の意味が?」
「――『神の法則』を破壊する為にさ」
 彼は語る。このプーレルジールには可能性があるのだと。
 そもそも旅人が勝手に召喚され、そして帰れぬのはそういう神の法則があるからだ。
 世界を救うまでは帰さぬと――いや世界を救えば帰れるという保証もないが――
 しかし。なぜ勝手気ままに呼びつけ抱きしめ帰さぬ神などに従わねばならないのか。
 君達は『そう』思った事はないかい?
「……まぁ、何でも良いけれど。このプーレルジールであれやそれやをした所で、そんな事が出来るの?」
「出来る。
 ――いや、その一助程度かもしれないけど、ね♪ だが一歩にはなるだろう♪
 そもそもだ。プーレルジールに迫っている『滅び』とは具体的になんだと思う?」
「魔王とやらの存在では? あちこちに恐怖を振りまいてるんでしょ?」
「ぶぶー。ざんねーん、ちがいまーす♪」
 どこから取り出したのか大きな×印の描かれたスケッチブックを彼は取り出そうか。
 声も鬱陶しい。心の背筋をわざわざ撫でてくるような、絶妙に人を小馬鹿にする言の葉だ――苛つくイラスであるが反応したらそれこそこの男は尚に楽しみそうであるから放っておいた。然らば……
「魔王君の存在が全く違う、とは言わないけどね♪
 ヒントを挙げよう♪ ――混沌世界は他世界を呑み喰らう程に強い場所だという事だ。
 じゃあ。『この世界は例外』だと思うかい?」
「――まさか」
「魔王君が本懐を遂げようが遂げまいが変わりはしないよ。『そう言う事』だ」
 『彼』は告げる。この世界には目下の所、明確なる滅びが迫っている、と。
 それは魔王ではない。いや魔王という存在が滅びを躍進させているのは間違いないが。
 根本的な原因は魔王以外にも存在しているのだ。
 もっと。どうしようもない滅びもまた存在している。
 ソレに気付いているのが何人程いるのかは分からないが。
「まぁ心中御免な魔王君辺りは気付いてるだろうね――さて。何はともかく頼んだよ。
 僕もちょっとゼロ・グレイグヤードで準備しておかなくちゃ……♪」
「ちょっと待ちなさい」
「ん?」
「改めて聞いておくわ――貴方は『誰』?」
 イラスは、男の名を知らぬ。
 名乗りはするのだが明らかに偽名ばかりを名乗って、自らの本質を見せようとはしない男なのだ。先日もイレギュラーズ達の目の前に姿を現わした時に名乗ったのも、戯れしか感じえなかった。
 一時は。滅びのアーク側に属する魔種ではないかとも思ったが。
 しかしこの男からは滅びのアークの要素を感じない。
 少なくともアークの使徒――魔種ではなさそうだ。
 では。
 お前は、誰だ?

「僕は君達の――『■■』さ♪」

 せせら笑う様な声の狭間に隠れた一声が――全てを現わしている気がした。

 ※プーレルジールで暗躍する動きがあるようです――
 双竜宝冠事件が劇的に進展しています!


 ※プーレルジールで奇跡の可能性を引き上げるためのクエストが発生しました!

これまでの天義編プーレルジール(境界編)終焉の兆し(??編)

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