＜伝承の旅路＞終焉へ向かい歩むのなら

オープニング

●魔王城への道
　四天王。その名前は中々に忘れ難いものだろう。
　あの独立島アーカーシュの……エピトゥシ城でのことを忘れた者は居ないだろうから。
　『獣王』ル＝アディン。
　『闇の申し子』ヴェルギュラ。
　『骸騎将』ダルギーズ。
　『魂の監視者』セァハ。
　彼等四天王のコピーを倒した戦いは、中々に強烈なものだった。魔王の残した爪痕とて、忘れられるものではない。
　この異世界においても、それは存在する。
　しかしながら四天王を始めとした存在は『終焉獣』が寄生している。
　それぞれの名は混沌でも耳にした事があるが、大きく違っている存在でもあったのだ。
　つまり、登場人物は混沌と同等ではあるが、その出自や存在そのものは大きく異なっているのである。
　例えば――『魔王』は旅人ではなく、四天王達それぞれも寄生型終焉獣であるという。
　彼等の目的は混沌へと渡ること。そして、終焉獣である以上はこの世界を踏み台に混沌へと至り更なる滅びを齎すことであるという。
　混沌側からの『何らかのアプローチ』によって極めて深刻な事態へと至った可能性が高いのだろう。そうでなければ、彼等が『無辜なる混沌』を把握していることやローレットを認知している訳がないのだ。
　ならば――だれが。その答えに至ることは先ずは必須だ。
　相手がこの世界が滅ぼすことによって混沌世界に更なる危機を齎そうとしている可能性がある。
この地の滅びを退ける事こそが混沌を守る手立てともなろう。
　プーレルジールに生きるゼロ・クール達にも歪な気配が満ち始めた。『寄生終焉獣』がその肢体に張り付き始め、コアへの侵蝕を行わんとし始めたのだ。
　その侵蝕よりゼロ・クールを救う手立てとして『奇跡を起こす手助け』を行なうと名乗った謎の少女・ステラ。
　彼女の力を借りれば僅かな奇跡を持って、ゼロ・クールの命を救うことの出来る可能性は高まった。
　しかし、防戦一方では進歩はなく、耐え忍ぶだけでは時間が過ぎていく。
「勇者っていうのは冒険に出るらしいよ」とある青年が言った。彼の名前はアイオン。混沌世界では幻想王国の建国王にして『勇者王』と呼ばれた人物だ。
　プーレルジールでは彼は勇者とは呼ばれない只の冒険者だが、イレギュラーズの介入によって彼は確かに勇者となる道を辿っていたのだろう。
「冒険の先は決まって魔王の場所だという。そういうものなんだって。イレギュラーズは、滅びを退けたい。それから、俺は君達と冒険の旅をしたい。なら答えは決まっているだろう？」
　この地に満ちた滅びの気配を退け、魔王城サハイェルへと至らなければならない。
　それが、為すべきことであるというのならば……！

●サンゴからの依頼
　魔王を倒し、『レガド・イルシオン』の建国の祖となった男『アイオン』とその仲間達が『勇者』と呼ばれることのなかった『IFの物語』。
　そして、そんな世界のプリエの回廊（ギャルリ・ド・プリエ）の１つの店……「青の珊瑚礁」で、1人の魔法使いの少女が集まった面々の前に立っていた。
「会うのは４回目だけど。皆慣れてきたって顔してる。心の整理がついたのかな？　ならよかった」
　その少女はもう死んだはずの少女……「覇竜侵食」事件で出会った少女、サンゴによく似ていた。
　しかし、あの狂気は感じない……よく似ているだけの別人であるのは確かだろう。
「私はサンゴ。この『青い珊瑚礁』の職人。今日、貴方たちに頼みたい仕事っていうのは他でもない」
「サハイェル砂漠……ですね？」
「そう、もっと言えば沈島地帯と呼ばれている場所。貴方たちが向かう『プレ・サハイェル』と呼ばれる場所に到るまでの地帯」
　『おいしいで満たされて』ニル（p3p009185）の言葉を、サンゴが補足する。
　そう、『プレ・サハイェル』。混沌世界では影の領域と呼ばれる場所だが……そこに到るまでにはサハイェル砂漠、そして沈島地帯を抜ける必要がある。
　それは砂漠地帯から続く影の領域側への道だ。砂漠地帯が西に進む毎に徐々に昏く変化していくという。
　沈島地帯はその名の通り浮遊島であったサハイェルが『落ちた』結果出来た澱みの領域だ。
　古代遺跡や無数の浮遊石が中途半端な高さに浮き上がっているという。
　地の下には『影海』と呼ばれる真っ黒な海が存在しているが……そもそも、これは水ではなく滅びのアークそのものだ。遠巻きにしか見ていないプーレルジールの人々はそう名付けたという、そんな経緯がある。
　崩れ落ちた遺跡や黒き霧の気配、影海が存在した最奥に魔王城が見える、そんな場所……なのだが。
　その途中には四天王と、その配下が立ち塞がっている。
「行くという話は聞いた。だから、貴方たちの育てたレクラを連れて行ってあげてほしい」
　レクラ・エイワース。ここまで一緒にいたレクラであれば、きっと力になれる。
　サンゴはそう言って、静かに微笑む。
「大変な道程だとは思うけど……それでも、きっと何処かに辿り着く。頑張ってきて」
　それは彼女であって彼女ではない、もう会えない「サンゴ」を思い起こすような……そんな、笑みだった。

参加者 : 8 人

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参加者一覧（8人）

リプレイ

●沈島地帯へ
「滅びのアークそのものが海になっている、か」
　足場を踏み外さないようにしながら、『蛇喰らい』バクルド・アルティア・ホルスウィング（p3p001219）はそう呟く。
「実体化してることにすら驚きが隠せんというのにその上海と形容するまで広大たぁ、正しく滅びが目に見えてるってこったな。どう考えても触れたらやばいやつだろうから落ちないよう気をつけんとな。とはいえ避けては通れん。なら突き進むまでだな」
　そう、そればかりは気をつけなければならない。
「数と地の利は向こうにあるか。だが、それで竦むような我々ではない。やるからには、完膚なきまでに攻略してみせるさ」
　『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈（p3p002831）もそう言う通り、此処は完全に敵地だ。
　影海の中に浮かぶ目標の古代遺跡は影海の中でも一番手前にあるだけに、最初の障害とも言えるが……それはそれとしても影海の中に浮かんでいるのだ。辿り着く前に落ちたというのは笑い話にもならない。
「プーレルジールの魔王軍本拠地、サハイェル……沈島地帯って言うぐらいだから攻め入るのは大変そうな場所だ。この作戦を成功させて、魔王討伐の足がかりに出来ればいいよね……！」
　『漂流者』アルム・カンフローレル（p3p007874）の言う通り、本拠地に攻め込むには改めて準備せねばならないだろう。これはそのための一歩であるのは間違いない。
「滅びのアークの海を越えて魔王城へと至る冒険か。確かにこれは勇者の冒険としてはふさわしいものだね。とはいえ、辿り着いておしまいというわけにもいかないようだ……四天王の配下だろうか？　何が相手だろうと油断は禁物、気を引き締めて挑もうか」
「プーレルジール……魔王の部下たち。この世界がかなしいことになるの、ニルはいやです。だから、がんばります。それにレクラ様が一緒なの、ニルは心強いです」
「は、こちらこそ戦力に不足がないことを素晴らしく思います」
　『約束の瓊剣』ヴェルグリーズ（p3p008566）と『おいしいで満たされて』ニル（p3p009185）に、『ゼロ・クール『A-00ア号』』レクラ・エイワースもそう頷く。
　ここまでの冒険で成長してきたレクラも、ある程度戦えるようになってきた。
　共に戦うことが出来るのは素晴らしいことだ。ニルは一抹の不安も抱いてはいたが、そうならないことを祈るばかりだ。
　ひとまずは２羽のファミリアーで敵と味方の位置を確認していくことで、不意打ちを防げるようにしていた。
（どこから狙っているかをできるだけ早めに気がつけたらいいのですけど）
　気づいたことは声を上げて味方にすぐに伝えることで、色々と役にたてるはずだ。
「浮遊した島が落ちてしまった地域での戦闘ですか……障害物も多そうですしこちらの視界はあまり良くなさそうではありますね……敵の数も多いと聞きましたし……さっさと撃破して祝杯でも挙げましょうか！」
「終焉へ向かい歩む。例えそうだとしても、それをはい。そうですか。と受け入れたくない。精一杯抗ってやんよ。だから、その為の一歩。さーがんばろー！　レクラはんもね。一緒に無理せん程度にがんばろ。おー」
「おー」
　『心よ、友に届いているか』水天宮 妙見子（p3p010644）と『晶竜封殺』火野・彩陽（p3p010663）にもレクラは頷くが……実際、此処での戦いはその抗うための戦いの第一歩だ。
　だからこそ、目の前に見えてきた古代遺跡の要塞を前にアルムは声をあげる。
「そもそものこの古代遺跡も興味深い……どんな文明が使っていた遺跡なんだろう？　気になるなぁ」
　大きな……というわけではないが、かつては立派だったのだろう面影が残っている要塞だ。
　アルムたちがいる広場には何もないが……これはもしかして片づけられているのだろうか？
　そうアルムが考えたとき、要塞から髑髏たちが姿を現す。入り口に、窓に……どうやらモンスターのようだ……！
「……って、わぁ、髑髏の魔物！？　こ、怖っ……！」
「数……多いね……頑張って減らそう……」
　『玉響』レイン・レイン（p3p010586）もそう声をあげるが、この要塞はやはり相手の完全な制圧下にあるようだ。
「ぬはははは！　此処を通すと思うか!?　者ども、やってしまえ！」
「カタカタカタ……」
　この要塞を守る首魁、『髑髏騎士』ザザンテの命令に従い、窓に並んだ髑髏弓兵が一斉に矢を番える。さあ、戦いが今始まろうとしている……！

●終焉に抗え
「そんじゃ、どんどん攻撃ー！」
　ジャミル・タクティールを放つ彩陽は暗視に超視力、広域俯瞰に超聴力を使用して敵の位置を把握しようとしていた。
　相手が室内なのである程度効果は限定的だが、それでも幾つかの効果を組み合わせることである程度の推測は出来ていた。
　接敵されたら無理だという自覚があるからこそ、その辺りの把握は重要だ。
（気がついたら敵と接敵しないように気を付けよ）
　幸いにも彩陽はその攻撃射程もあり突出するタイプではない。
　敵の攻撃を受ける盾役にして抑え役は妙見子だ。
　ザザンテはまだ見つかっていないが、射程内の髑髏戦士団に水天宮・九尾式を使っている。
「このまま、出来るだけ足止めをしつつアタッカーが戦いやすいように場を整えます。敵の数が多いですし厳しい戦いになりそうですからね……！　って、あっ」
「ワハハハハ！　このまま押し込め！　一気に決めるぞ！」
「す、凄い馬鹿！　自分から出て来ましたよ!?　アレは任せておいてください！　戦士団の方は頼みましたね！」
　何はともあれ、ザザンテが出てきたのであれば非常に話は楽だ。
　妙見子はザザンテをマークし続けるつもりだったからだ。そのための自己回復手段もバッチリだ。
（妙見子が倒れたらまずいですからね！　ヒーラーさんの回復も活用しつつ戦いませんとガス欠が怖いですから！）
　そう、敵は多いから消耗も考えて戦わなければならない。
（敵の数が多いから……乱戦になるかも知れないし……全体の動きを把握するのに広域俯瞰を……途中で影とか……で見えなくなると困るから……発光……）
　しっかりと場を整えていくレインも、妙見子たち前衛を巻き込まないような戦法をとっていた。
　まず狙うべくは髑髏戦士たち。ワールドエンド・ルナティックからの糸切傀儡で攻撃していくが、それも少しでも髑髏戦士たちの数を減らすためだ。
（戦士団の数を早く減らしたい…骸骨戦士団を転ばせたら……骨がバラバラになって……立て直すのにもっと時間がかかるといいんだけど……そこまで出来なくても……動きに制限を少しでも与えられたらいい……）
　まあ、そこまでうまくはいかないかもしれないが、妨害をすることには意味があるとレインは知っている。
「骨がカラカラ動いてんじゃねえよ、とっとと砕けて土に還んな」
　バクルドのマグネブラストからのラフィング・ピリオドも炸裂し、戦いは激化していく。
　汰磨羈も髑髏戦士団の殲滅を優先して行動しているが、重視するのは連携だ。
「それそれ、側面がお留守だぞ！」
　味方の動きに合わせ、敵陣の横へ回り込み、側面から削り倒していく形で攻めるのが汰磨羈の基本戦術だ。
　二階から射る弓兵を超遠射程内に捕捉出来るよう、それ以外の髑髏騎士団を建物側へふっ飛ばし続けて纏めつつ移動する汰磨羈のグラビティ・ゲートの効果を加えた殲光砲魔神は、その素晴らしい威力で髑髏戦士を吹っ飛ばしていく。
「レクラ様……がんばりましょうね！　これまで教わってきたこと。まもること、戦うこと……力を合わせること。今回も同じ、なのです」
「了解しました」
　ニルにレクラも頷き剣を振るうが、ニルはケイオスタイドとアンジュ・デシュでできるだけたくさん巻き込むようにしていく。
骸骨戦士は数が多いからニルはまとめてえいってするのです
「レクラ様は一度にたくさんに攻撃するのはできなくてもガッてするのは得意だと思うから、そのままニルが攻撃したものに、攻撃を重ねてもらえたらうれしいです。ニルも、他の人の攻撃したものに、攻撃を重ねていきます。ひとつひとつ、確実に倒すのです」
　ニルの指示にレクラは素直に頷く。しかし……そこでニルは気付く。何処かから飛んでくる、カニのような姿の敵に。
「星界獣……！　カニさんみたいだけど、動き方がカニさんではない……？　いえ、空を飛んでるのでそもそもカニさんではないですけど」
「ついに来たか……！」
　ジャミル・タクティールで髑髏戦士団を相手にしていたヴェルグリーズは、意識誘導で妙見子と共に抑えていけるようにしようとする。今回のメインタンクは妙見子だ……協力は必要不可欠だ。
「妙見子殿！」
「勿論です！」
　この辺りは事前の打ち合わせもあり阿吽の呼吸だ。
「ぬぉ！？　飛んでるがありゃカニか？　食えそうに……いや腹壊すか？」
　バクルドが優先度を変えつつそう呟いているが、星界獣は食材としてはあまり適していなさそうだ。たぶん、その辺のカニを適当に獲ってきた方がマシだろう。さておいて。
　バブルビームを放つ星界獣を見て、汰磨羈は不適に微笑む。
「いいだろう。ビーム勝負といこうか！」
　ビーム勝負で負けるつもりはない。殲光砲魔神でまとめて吹っ飛ばしてしまえばいいのだから。
「敵の数が減ってきても、星界獣が増援でくるのか……！　……か、カニ？　いやいや、見た目がカニっぽいからといっても油断せず！　皆を回復させていこう……！」
　アルムのコーパス・C・キャロルが仲間を回復させていくが、星界獣は中々の力を持っている。油断するわけにはいかない。
「とにかく敵の量が多い上に、この状況……！　タンク役が頑張ってくれたとしても皆少しずつ傷を負いそうだよね……！」
　だからこそアルムの立ち回りが重要になる。仲間を支える最終防衛線であることをアルムはしっかりと理解して戦場を把握し続ける。
　しかし逆に言えば、各自が自分の役割をしっかり果たしていれば問題はないということだ。
　ヴェルグリーズの斬影千手が星界獣にトドメを刺せば、バクルドもザザンテに最後の一撃を放つ。
「ご自慢の髑髏共もよく分からんカニももういない、後は大人しく墓の下で眠りな」
　三光梅舟からのブルーフェイクIIIがザザンテにトドメを刺せば……要塞で動くものはバクルドたち以外には居なくなる。
「首を晒しておけば何かしらの威嚇になるんじゃないかと思ったがそもそも髑髏の見分けなんてつけれんな」
　髑髏を並べるだけだと首狩り族っぽいしな……などとバクルドは呟くが、実際そんな感じに見えてしまうかもしれない。
「あの、途中から乱入してきた空飛ぶカニは何だったんだ？　前に進むわ、ビームは撃つわ。何かの予兆なのだろうか……」
　場合によっては、どこから出現したのかを探る必要があるかもしれないな？　と。汰磨羈はそう呟く。
　星界獣。どうやらあそこからまだ成長の余地があるように見受けられたが、一体何だったのか……汰磨羈たちを優先して攻撃しているようにも見えた。
「橋頭堡として使うなら、通路の整備や物資の保管場所の確保をしておくと良いかな？　補給拠点にもなるようにさ。レクラ君も手伝ってくれるかい？」
「はい」
　アルムに連れられて行くレクラを見ながら、ニルは思う。
（寄生型終焉獣が現れるようなことがなくてよかったです。壊すしかなかったゼロ・クールのみなさま……ニルは、かなしくて、くるしかったから。ニルはレクラ様にこわれてほしくはないから）
　ニルの近くでは、レインが何かを察したかのように静かにしている。なんとなく、ニルの考えを察したのかもしれない。しかし何も言わないのが正しい。そう思ったのだ。
「謎は多いですが……ひとまずの祝杯は上げられそうですね」
　妙見子に彩陽も「せやな！」と笑顔で頷く。そう、謎は多い。星界獣のことも含め……この世界の謎が完璧に解けたわけではない。
　しかしそれでも、この戦いには勝利できた。ヴェルグリーズもレクラに何事もなかったことを安心しながらも、それで完全に安心ではないこと……そして、この先に待つだろうことに思いをはせる。
「きっと何処かに辿り着く、そうサンゴ殿は言っていたけれど……実際に何処に辿り着いて何が俺達を待っているのか。全てはその時になってみないとわからない、かな」
　そう、謎は多い。けれど、きっと何処かに辿り着く。そのときに明かされた真実は全てを語るのだろう。
　それが光り輝くものであることを……今は、信じるだけだ。

成否

成功

ＭＶＰ

状態異常

なし

あとがき

作戦勝ちです。実力で負けてないんだから作戦で勝てばもう快勝ですよね！
ご参加ありがとうございました！