PandoraPartyProject

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『観測者』の欠片

「――『ステラ』?」
 玉座に腰掛けていた男は聞き慣れぬ響きだと眉を寄せた。
 長く伸ばされた銀の髪をちょんと摘まみ上げ、編み込みを作っていた少女は「そうそう、まおー様♡」と満面の笑みを見せた。
「知らない? ステラ。知らないってまおー様ったらざぁこ♡ ざぁこ♡ 情弱♡」
「すまない。だが、教えてくれるだろう? ヴェルギュラ
「アタシに教えを乞うとか~~~まおー様のプライドひくひく♡ でも、いーよ♡」
 高い位置で結われたツインテールに薄着に羽織ったパーカー。腰に揺らいだ翼を見るに『魔王』に軽口を叩ける娘ではない筈だ。
 だが、『まおー様』と呼ばれていた男は――プーレルジールを滅びに導く存在であるイルドゼギアは気にする素振りもない。
 くすくすと笑っている少女の名前はヴェルギュラ。『闇の申し子』を二つ名に持つ四天王の一人である。
「ヴェルギュラ」
「あ♡ ル=アディンが渋い顔した♡」
「……魔王様、一発ぐらい殴っても宜しいのですよ」
 構わないと首を振ったイルドゼギアに頬を膨らませたのは『獣王』ル=アディンであった。
 リーンファルのニックネームを持つゼロ・クールの娘はラミアを思わせる下半身を有していた。矢張り此方も四天王と言うには似使わぬ姿をしており、混沌世界での前知識として認識されていた四天王とは乖離している。
 そもそも、呼び名こそ四天王の一人だがニックネームを有し、四天王の『在り方』がへばり付く形で存在して居るのだろう。
 寄生型終焉獣。恐らくは性質を受け継いだ彼女達はイルドゼギアを支える為に存在して居る機構のようなものだ。
 世界を滅びに導き、勇者と魔王が引き合うような――
「その……お話は、おわりましたか……? 『マスター』」
 恐る恐る徒問い掛けたのはメル・ティルのニックネームを持つ戦士型のゼロ・クールであった。
 ふんわりと揺らいだ桃色の髪にぼんやりとした灰色の瞳のゼロ・クールはどこか緊張した様子でイルドゼギアに声を掛ける。
「ステラの話を、なさると聞いていたので……」
「すまない。ダルギーズ。僕がステラを把握していなかったんだ」
「いえ、『マスター』はこの城に居られるべき存在です。外のことはぼくたちが……」
 おどおどとするメル・ティルにも四天王が『張り付いている』。その身には『骸騎将』ダルギーズが宿されており、アンデッドを操る術に長けている。
 イルドゼギアにとってメル・ティルやリーンファルはありがたい存在だ。
 ゼロ・クールである以上、プーレルジール――いや、ギャルリ・ド・プリエにも詳しいのだから。
「それでも、ご承知置き頂かねばならない存在であることは確かです。イルドゼギア様。
 特に、『ステラ』は異邦の者……我らが悲願たる『混沌』からの渡り人との接触を果たしてしまっておりますもの」
 冷たく囁いた娘、クラウディウス氏族の一人であるサーシャは眉を顰めた。
 幻想王国の祖たるアイオン。彼等が国を興した平原近くに存在した豪族クラウディウス氏族は現在の幻想貴族の大元とも言われている。
 その一人がイルドゼギアの傍にいる。しかも四天王の一人『魂の監視者』セァハとして。
「……改めて説明頂いても? 構わないかな」
「ええ、構いません。ヴェルギュラ、ダルギーズ」
 頷く二人に視線を送ってからセァハは一度後方へと下がった。
 地に描かれた魔術が造り上げた幻影式。思い描く者をその地に投影することが可能だという術式を操るダルギーズはヴェルギュラを見る。
「『ステラ』」
 造り上げられたのは美しい金の髪を有する幼い少女だった。
 星の煌めきを閉じ込めた瞳に、神秘的な雰囲気を宿す娘は常人とはまた違う気配を宿している。
 それもそのはずだ。彼女は人間ではない。広義に言えば精霊と同等だろうが、逆に『言わなければ』別個の存在とも言える。
「彼女が? 随分と幼い」
「プーレルジールでは目覚めたばかりだからでしょう。
 問題は、彼女の在り方が『反転』していること。……本来は滅びへ導くはずの者が救いを求めている事です」
 渋い表情を見せたル=アディンにイルドゼギアは「ふむ」と呟いた。
 ステラという娘は自らを観測者の端末であると語った。
 本来の彼女は世界を見詰めている存在だった。滅びの星が瞬いたならば世界は飲まれて消えていくはずである。
 滅ぶが為に生者のエネルギーを身の内に蓄え、終わりへと備える存在。『星界獣』を操る端末機構。
 ただし――『星界獣』には致命的な欠点があった。
 エネルギーを蓄えた際にプーレルジールには存在し得ない『可能性(パンドラ)』を摂取してしまった。それが端末であるステラの在り方まで変えたのだ。
「これが『死せる星エイドス』と『願う星のアレーティア』……の『欠片』です」
「欠片?」
「その……手に入らなくて、使用後とか、落ちていたものを拾ってきただけで……」
 申し訳なさそうに呟くダルギーズにイルドゼギアは「いや、攻めては居ないよ。欠片だけでも凶悪な力だと思えるからね」と首を振った。
 凶悪――即ち、滅びの陣営である彼から見てステラの力は『邪魔者』なのだ。
 どうにも救いの力を増強させ、効力を発揮させようとする代物だ。
 例えば、混沌では簡単に消え失せてしまう程度の終焉獣がこの地では凶悪なモンスターとして蔓延れる程度の『救い』しかないプーレルジールで『可能性の奇跡』を呼び出せてしまうほどの。
「邪魔者、というだけではないのだろう」
「ええ。彼女は『端末』。つまり、本体は別個に存在しておりそれから派遣された存在だという事。
 平坦に言えば彼女は世界を渡ってやってきた存在です。それを此方も利用できる可能性がある――と。
 ……渡った後、彼女がどうなるかは『此方』としてはどうでも良いでしょう?」
 真っ向から見詰めるル=アディンにイルドゼギアは「勿論。それで、渡れるという確証は?」と囁いた。
「ちょっとした筋から……野蛮な事にばかりうつつを抜かしている存在からですけれど」
「あ~♡ 脳味噌筋肉オバケのことだ♡ 信じたの?」
「彼からだけならば信用していませんが、一人、実に胡散臭い方からも聞きましたもの」
 ヴェルギュラは「ふうん?」と呟いてから「どうする? まおー様」と囁いた。
 魔王イルドゼギアの目的はこの滅び行くプーレルジールを『滅ぼして』から混沌世界に渡ることだ。
 理由など単純明快だ。そも、この世界を滅ぼすのは『運命』によるもので、抗えぬ宿命だ。だが、その世界と心中しろとは誰も言っていない。
 残念ながらイルドゼギアはプーレルジールから出る事が出来なかった。そして、こうも考える。それは混沌世界から出る事の出来ないイレギュラーズと同等の条件が課されていると。
 もしも、プーレルジールが滅びたならば、次に行ける先は無辜なる混沌しかない。無辜なる混沌が彼をこのプーレルジールに押し止めていると推測されるからだ。
「つまり……混沌世界に渡航する手立てになりましょう?」
 セァハは囁いた。
 ステラは『端末』、つまり、本体の近くに戻る事の出来る『渡航権限』を有した世界機構――のようなものだ。
 ならば、彼女を拐かしその力を受け渡すことが出来たら魔王軍が無辜なる混沌へ移行できる可能性も高くなる。
「……手に入れれば良いのだろう」
 イルドゼギアはそう言った。
 魔王という存在は、尊大に振る舞い部下へと悪事を唆す存在であるべきだ。
 そう宿命付けられた存在であるとでも言うように男は言った。

「『ステラ』という娘を捕まえて、魔王城へまで連れてくるが良い。我がしもべ達よ――」

 
 ※プーレルジールで魔王軍に動きがあるようです……?
 双竜宝冠事件が劇的に進展しています!


 ※プーレルジールで奇跡の可能性を引き上げるためのクエストが発生しました!

これまでの天義編プーレルジール(境界編)終焉の兆し(??編)

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