PandoraPartyProject

PandoraPartyProject

協調

 捜査の基本は現場百篇であると云う。
 それはつまり、一度検分した現場であっても繰り返し調べる事で得られるものがあるという事である。
「……マリオ・クルーズは裏切るような人間ではない。
 少なくとも彼はミロシュ様に絶対的に忠実な腹心だった。
 貴殿等の言うリュクレース公女暗殺事件の経緯がミロシュ様と同じだったとは到底思えない」
 ヴェルグリーズ(p3p008566)と共に幾度目かの事件の捜査に乗り出したコルビク家の家宰ラウル・バイヤールは静かに言った。
『頭に血が上っている状態では見えなかったものが、別の角度を持てば零れ落ちてくるかも知れない』。
 ……それはあくまで仮定の話だ。気の遠くなるような徒労の数々を積み重ねた上での話である。
 リュクレース事件の共有や、冠位魔種の影――何よりあの鴉殿(パウル)から二人の魔術師達の得た『言質と情報』。
 それら新しい情報はラウルに一定の結論を与えたようだった。
「……となると、やはり犯人は複数居る……?」
「少なくとも実行犯は間違いない」
 リュクレース事件の下手人は『狂った家人』である。
 何かに恐慌し、発狂状態で事件を引き起こした彼がミロシュ暗殺を行ったと考える方が難しい。
 元より問題はミロシュ暗殺とリュクレース事件の下手人を『狂わせたであろう何か』が等しいかどうかの方になる。
「話じゃルクレツィアという女は自分の手を汚すようなタイプではないようだけど」
「……それは同感だ。仮にその『冠位』が直接的手段を好むのなら、リュクレース様の護衛の数ではものの足しにもならなかっただろう。
 私は貴殿等のような戦闘経験はない。『冠位』の脅威を正しく知っている訳では無いが、少なくともそう承知している」
 怒りを押し殺す事で持ち前の聡明さを発揮し始めたラウルにヴェルグリーズは頷いた。
 元々このラウルは市井の出であり、ミロシュにその優秀さを買われて取り立てられた男なのだ。
『ミロシュが殺されてさえいなければ、探偵役を勤めてもおかしくない位の頭の回転の速さを持っている』。
「となると……『犯人』はミロシュ様の事件では直接的武力に訴え、リュクレース様の事件では搦め手を使った」
 ヴェルグリーズの言葉にラウルは頷いた。
「それは何故か、と考えれば多少は犯人像も見えてくるだろう」
「犯人はミロシュ様とその私兵――マリオ・クルーズ殿等が相手ならば武力で足りたが」
「リュクレース様の元に駆け付けたイレギュラーズやサリュー一派が相手では到底足りなかった。
 仮に事件を繰る犯人が同一だとするのなら、そう考えるのが自然ではないか?」
 ヴェルグリーズの言葉を継いだラウルは「故に直接の犯人は冠位ではない。冠位はどんな個よりも強力だからだ」と言葉を結ぶ。
「となると……」
 ヴェルグリーズは腹芸や捜査が必ずしも得意ではない一本気な男だが、この時ばかりは閃いた。
『それ』に思い当たったのは彼が剣だからだろう。戦い慣れた、十分な経験を積んだ戦士だったからに違いない。
「あの夜に現れたという冠位の気配は、梅泉殿や時雨殿。
『現場』にどうしようもないレベルの護衛を引き剥がす為の示威だった――」
 ラウルもこの結論に異論は無いらしく「考えられる」と同意した。
 成る程、『最少の干渉に留めたがる、直接手を出すのを嫌う女』だと言うのなら。
 自分の存在感を匂わせる事で場を動かす手口は悪くないと考えてもおかしくはない。
『彼女』がそこに居て、自身の気配を伝えるだけでその目的を達成したのなら――右往左往する現場にさぞ大笑をした事だろう。
「リュクレース様の護衛が発狂したタイミングは余りにも都合が良すぎた。
 冠位の気配が引き金を引いた可能性は無いとは言えないが、それでは冠位が直接手を下したに等しい。
 なら、あの事件のトリガーは……」
「『冠位以外の何者かが護衛の精神に何かの干渉をしたと考えられる』」
 再び自身の言葉を継いだラウルの言葉にヴェルグリーズは唸っていた。
 ヴェルグリーズも中々いい考察を見せていたが、彼に引っ張られた所は否めない。
「……『暗夜騎兵』の動きも幾分か助かった。
 今この情勢で『コルビク家のラウル』が王都、ミロシュ様の邸宅を調査等した日には何が起きるとも限らなかったからな」
 イーリン・ジョーンズ(p3p000854)率いる『暗夜騎兵』は王都で強い牽制を見せていた。
 連動する格好で諜報機関として本格的な動きを見せ始めた薔薇十字機関と合わせて、彼等の動きは過激な武闘派の動きを一時的とはいえ一定に抑え込んでいる。
 何せ、アーベントロートに尻尾を掴まれればお終いなのだ。
 少なくともフィッツバルディ派は長年の政敵として相対したアーベントロートが今回、かなり融和的に動いている事実をまるで知らない。
「……感謝している」
 ラウルはぽつりと小声を零した。
「私は、絶対に許せないだけなのだ。あのミロシュ様を害した不届き者だけは……」
 ローレットとコルビク家、アーベントロートの新旧当主。
 利害、或いは相応の信頼関係で多くの勢力が結びついた結果は推論交じりとは言え、事件の外郭を動かし始めていた――
 
 双竜宝冠事件が進展しています!
 豊穣で動きがあるようです!


 ※プーレルジールで奇跡の可能性を引き上げるためのクエストが発生しました!

これまでの天義編プーレルジール(境界編)終焉の兆し(??編)

トピックス

PAGETOPPAGEBOTTOM