PandoraPartyProject

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仕事の対価

「『分かっていますよね』」
 可憐な美貌に似合わぬやや低い声で念を押したドラマ・ゲツク(p3p000172)の視線の先には見知った男が立っていた。
「此方からすれば不本意極まりない『仕事』を果たしたのです。
 古の大魔道――腐っても、クソ野郎でも名にしおう『鴉殿』なのです。
 誓って、約束は果たして貰いますよ」
 とても友好的とは言えないドラマの剣呑な視線を意にも介さず、新調した肉体を試すように首をコキコキと動かした黒衣の魔術師は「分かってるって」と安請け合いをした。
 この男――パウル・エーリヒ・ヨアヒム・フォン・アーベントロートはアーベントロートの前当主にして全当主である。先のParadise Lost事件で一敗地に塗れ、肉体を失ったがイレギュラーズに情報提供なる交換条件を出す事で肉体を取り戻さんとしていた……要するに今だけ協力関係の敵のようなものである。
「でも、結構楽しくありませんでした?」
「話がややこしくなるので黙っていて下さい」
 人差し指を唇に当てて小首を傾げたマリエッタ・エーレイン(p3p010534)の言葉をドラマはピシャリと遮った。
 かねてから「パウルが結構お気に入り」と公言するマリエッタの男の趣味の悪さは筋金入りだ。
 無論、それを指弾するドラマの男の趣味の悪さも特筆すべきものなのだが、それはこの際は置いておく。
「大丈夫ですよ、ドラマさん! 相手はパウルさんですから。
 門と鍵……でしたっけ。時を凍結させた空間収納具の一種といった所でしょうか。
 それにしても、幻想(アイオン)の紋章入りの特別製でしたよね。
 散々私達を使い走りにして、ちょっと人間らしい、可愛い所も見せちゃったりして!
 この上、大した返礼も出来ないなんてパウルさんはそんな恥ずかしい事しませんよ!」
「……君ねェ」
 にこやかに朗らかに。マリエッタの天然の毒気は嗜虐的な彼女の性質を良く表している。
 ドラマにせよ、マリエッタにせよ――パウルからすれば若年ながらに見所のある『魔術師』だ。
 功利を追求し、己が目的の為に世界を侵すのがその性なれば。
 多かれ少なかれ鴉は目をかけて期待した相手につまらない小細工をする心算は余り無かった。
(……ま、僕に損がある訳でなし。あの女に立てる義理がある訳でなし。
 というか、そもそも僕は僕の幻想に手を出していいなんて言ってないんだぜ、ルクレツィア!)
 底抜けに無能で何処かアイオンに似た係累の顔を思い出す。
 善意で物事を進める気はないし、病み上がりで矢面に立ってやる気もないがイレギュラーズを使うのは実に合理的なやり方であろう。
「……で、何が要求だっけ?」
「まずは事件の情報ですね! パウルさんは何かを御存知だとか」
「知ってるよ。全貌は兎も角、黒幕からやり口までね。
 まぁ、結論から言えば君達の仲間が感じた『冠位の気配』は正解だ。
 今回の事件で裏で糸を引いてるのはルクレツィアって女だカラ。まぁ、要するに『冠位色欲』ってワケ」
「――――」
 水を向けたマリエッタにあっさりと答えたパウルにドラマは息を呑んだ。
 薄々気付いていたとはいえ、改めて冠位の言葉を聞くと事実が重い。
 これまでの薄氷の戦いの悉くを知る彼女はその意味を良く理解している。
「――とは言え」
「……言え?」
「ルクレツィアって女は他の冠位と比べてもとびきり性格が悪いんだよねェ。
 極力自分の手を汚さない。面白がって事件を繰って、最少の干渉で最悪の結果を作るゲイムを気取る。
 どぶ川みたいな臭いのする女なんだよ。ちなみに僕はあいつが大嫌いだ」
「同族嫌悪ですか?」
 ドラマの冷淡なツッコミをパウルはスルーする。
「まぁ、嘘吐きサーカスなんかを思い出せば分かるだロウ?
 要するにルクレツィアはああいう手口を好む。だからまぁ、直接対決にはならないだろうケド。
 アレはヒトを唆すのが中々上手い女だカラ、状況はその分厄介だろうねェ」
 唆す。
 ならば、やはり犯人は何処かに居るという事だろうか――
(……クソ野郎ですね、つくづく!)
 ドラマは舌を打ち、悪態を隠していない。
 パウルは全面的に信用出来るような男ではない。聞いた所ではぐらかすだろうが、恐らく彼はもう少し知っていて――それを素直に言う気がないだけなのだ。
「例えば、そう。ルクレツィアさんの権能とかご存知だったりはしませんか?」
 マリエッタの問いにパウルは口角を持ち上げた。
「当然、僕に知らない事なんて殆ど無いガ。君達との契約で提供するべきは『事件の情報』だロウ?
 黒幕の能力についての解説は聞いていないな。もし欲しいなら契約を巻き直してくれないとね!」
「意地悪ですね!」
「……さっきの君のお返しだが?」
 マリエッタはぺろりと小さく舌を出す。
「事件に『冠位』が関わっている事は私達も察していました。そのクソ女の人となりについての情報は新しく頂きましたが、冠位魔種がどぶ川なんていうのは分かり切った話です。
 それだけでは我々の仕事の対価としては甘いと言わざるを得ないのでは?」
「そらきた、ごうつくばり。まぁ、魔術師としては悪くない。却って好感が持てるというものだがね!」
 ドラマの言葉を想定していたのかパウルはケラケラと笑い声を上げていた。
「まぁ、主張は分からないでもない。だから今回だけ、僕は追加で一つずつサービスしてやろう。
 ドラマ君はアベルト君の呪いを解いて欲しいんだロウ? まぁ、それは構わないサ。
『場が荒れるまで』は予定通りだが、それは僕が遊ぶ予定だったカラだ。ルクレツィアは予定外だカラね」
 パウルはパチンと指を鳴らす。
「ちょっと……」
「終わったよ? 後でお坊ちゃんに連絡をしてみるといい。
 ……それで、後は。マリエッタ君か。
 うーん、まぁ、君は……そうだな。要らないものがちょっとだけ見えるようにでもしてやるカ」
「!?」
 独白めいたパウルの指が不意にマリエッタの額を叩いた。
「『ああ、そういう』」
「まあね。それが望みだロウ?」
 彼はそれ以上何をどうしたとは言わなかったが、マリエッタの口角は彼女らしからぬ風に歪んでいる。
「後は……スティア君だっけ。
 あの、頑丈な子も散々釘を刺していたっけ。『今回は何もするな』と。
 いいだロウ。僕は今回君達を邪魔しない。
 いや、病み上がりだしね。大いなる中立を気取ってやロウじゃないカ!
 尤も、この状態でもローレットを壊滅する位は出来なくはないと思うケドね!」
 マリエッタはこの大言に「わあ!」と顔を綻ばせ、ドラマは「やってみやがれ」という言葉を何とか努力で呑み込んだ。
 どぶ川と大差無いゴミ漁りの鴉なんて何れは駆除してやろうというものだ。
 だが、人生は忍耐の連続である。同時進行は合理的ではない。
「まぁ、兎に角そういう事だ。君達の仕事に一応は感謝してるんだぜ。
 あの状態じゃあ物理的に干渉出来なかったし……
 軽く何十年は掛かるかって思ってたからねェ……」
 しみじみと言ったパウルを見るに、この男でもアレは些か堪えていたらしい。
「……ああ、勿体ない」
 ドラマは溜息を吐いた。この男を何十年も見ないで済むチャンスだったのに。
「そうですよ! パウルさんみたいな面白い人が何十年も退場何て勿体な――」
「――マリエッタさん。やっぱり、ちょっと黙って貰っていて良いでしょうか?」
 
 双竜宝冠事件が進展しています!
 豊穣で動きがあるようです!


 ※プーレルジールで奇跡の可能性を引き上げるためのクエストが発生しました!

これまでの天義編プーレルジール(境界編)終焉の兆し(??編)

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